2009年7月20日月曜日

【衆議院選挙】 民主党・総選挙前

[Part1] 菅はロンドンへ飛んだ

6月6日。民主党代表代行の菅直人は、成田からロンドンへと旅立った。英国の議院内閣制の実態を調査するためだ。

厚相の経験もある菅は、日本の政治を「官僚主導」とみて、強い違和感を持ち続けてきた。

大臣の就任直後に、記者会見がある。多くの大臣は、政策に通じないまま、想定問答を手渡される。そこから、官僚によるコントロールは始まる。国会答弁も官僚頼みだ。


衆院議員会館から窓越しに見える国会議事堂。次の総選挙で、首班の座を得るのは、自民か、民主か。それとも……=中野正貴氏撮影
「主客が逆転しているんですよ」。役人が内閣を動かし、根本的な政治を担っている。政治家は役人に対する陳情活動を行っている――。それが菅の見る日本政治だ。

「議院内閣制」の本場、英国はそうではないはず。有力な与党の政治家は、内閣(政府)に入り、「オールスター」で官僚をコントロールする。政府以外に、与党幹部が政策に関与する「権力の二元体制」もない。政策立案機能は内閣に一元化されている。

民主党は数年前から、英国型モデルの勉強を重ねてきたが、幹部が本格調査するのは初めて。イギリスの仕組みを学んで、来るべき政権交代に備えたい。

そんな意味をこめた視察である。

*下っ端大臣の退屈な日々

「いやあ、ヒマだった。大臣のいすは、ビーチにある折りたたみ式の寝いすみたいだった」そう語るのは、61歳の下院議員(労働党)、クリス・マリンである。

99年から2年間、環境・交通・地域省(当時)の大臣の1人に任命された。閣僚である大臣のもとに、政策運営を補佐する閣外大臣が8人置かれている。マリンは、一番下っ端だった。

ある日、席に届けられた書類に、外し忘れた付箋(ふ・せん)が残っていた。「これは優先順位最下位の仕事。マリンに回して」

退屈と無意味な仕事の日々。英国で閣僚、閣外相などとして政府に入っている議員は計127人。下院(646人)からは労働党350人のうち97人にのぼる(5月末現在)。マリンも、閣外相を3回経験した。

「週末には選挙区に帰る議員たちが政府に入れば、現場感覚を政策に反映できる」と良い面を認める。「トップの大臣が優れていれば閣外相もやりがいのある仕事になる」。ただ「大臣にしてもらえるかも、との期待から議員たちが政府に忠実になる」という弊害もあるという。

首相も大臣になる議員を増やそうと頻繁に交代させる。その結果「官僚たちは、大臣と意見が違っても、次の交代を待てばいいとたかをくくる」。これでは肝心の官僚のコントロールもままならない。

[Part2] 先の先の話をしたってしょうがないじゃない

英国でも、「官僚主導」が問題視されたことがある。

「Yes Minister(はい、大臣)」という80年代のテレビのコメディーは、繰り返し再放送され、最近もDVDになった。

筋は毎回同じようなパターン。

大臣の指示を「おっしゃるとおりです」と迎合する官僚が、「ただ、ここは少し変えた方が」などと言葉巧みに誘導。結局、大臣を思い通りに操る。

4月3日。民主党本部を、駐日英国大使、デービッド・ウォレンが訪ね、菅に面会した。

英国を訪問するつもりだった菅は、ウォレンを質問攻めにした。

「官僚主導」の有無をたずねる菅に、ウォレンは、「『Yes Minister』という人気番組がある」ことに触れた。

ただ、ウォレンは、英国の官僚が政治家とのつきあいに一線を画していることも説明。たとえば外務官僚は、上司である外務大臣には頻繁に接触するが、日本のように入閣していない与党幹部や野党の有力政治家のところまで回ることは事実上禁じられている、と話した。

英国の「反省」

英政界はいま経費乱用問題で激しい批判にさらされ、試練に直面している。


ロンドン中心部、テムズ川河畔にあるウェストミンスター宮殿。英国議会の議事堂として使われている=土佐茂生撮影
議員や大臣が豪華テレビを購入したり、住宅手当をごまかしたり、と醜態をさらしている。

世論は、政治改革を迫り、政界からもさまざまな改革案が出ている。現在の完全小選挙区制を見直し、比例代表制選挙の導入を唱える大物閣僚もいる。

行政府(内閣)から立法府(議会)への権限移譲を進めるべきだとの議論もある。

背景には、イラク戦争もからむ。ブレア前政権は、世論の強い反対にもかかわらず戦争に突入した。開戦や海外派兵には議会の承認を必要とすべきだ、という意見も出ている。また、政府が国内の民意に従うより欧州連合(EU)の決定や、グローバル市場の要請に応えようとしている、との不満もある。

英サウサンプトン大学講師のアレクサンドラ・ケルソは「ここ30年ほど、政府に入る議員が多すぎるという批判が絶えない」という。「大臣」議員は当然ながら政府の方針に反対できないし、政府に説明責任を迫る委員会にも入れない。「政策を批判的にチェックするという議員の力が弱まる」というわけだ。

与党と政府が一体となった英国型の議院内閣制は、行政府と立法府が互いにチェックする「大統領制」より、むしろ強力で、時として「選ばれた独裁制(elective dictatorship)」に陥る。イラク戦争に突入したのもその一例だ。

英国に旅立つ直前の菅に、その点をどうみるか、たずねてみた。

「それは、政権交代をしたあとの応用問題だよ。先の先の話をしたってしょうがないじゃない」
と笑った。

[Part1] 厚労省とは「敵対」路線? 「歳出」官庁に照準

「ミスター年金」といえば、民主党衆院議員、長妻昭だ。
48歳。電機メーカー勤務や日経ビジネス記者などを経て政界入りした。
07年、年金記録の漏れや社会保険庁の不正を発掘した。民主党にとって、07年参院選の勝利の立役者といってもいい。

衆院予算委員会で、年金について質問する民主党の長妻昭政調会長代理=河合博司撮影
もし、次期総選挙で民主党が勝利を収め、民主党中心の政権になったら、長妻は厚生労働相になるのだろうか。「次の内閣」の年金担当相を務め、メディアで「候補」に名前が挙がることも少なくない
「『長妻大臣』だけは、やめてほしい」と天を仰ぐのは、厚労省の幹部だ。課長補佐や係長レベルの中堅職員も長妻の「行状」を口々に嘆く。
「回答に困るような微細な内容の質問主意書をごまんと出す」

「全国の社会保険事務所に問い合わせないとわからない数字や、作成に時間のかかる資料を『すぐに出せ』と強硬に求められ、肝心の年金記録の照合作業ができない」

「一度に複数の省庁の官僚が呼び出され、何時間も待たされる」
局長から係長まで、厚労省の官僚6人に、もし民主党政権になった場合にだれが「大臣」ならいいか、聞いてみた。
「長妻」票はゼロ。1位は「実務にたけている」「人を見て仕事をしてくれる」などの理由で3票を集めた仙谷由人だった。
長妻も負けてはいない。「政府与党は官僚を事務局として使う立場なのに、頼っているうちに母屋を取られてしまった」。自民党議員は、支持者の要望を官僚に陳情する「ロビイスト」になり下がっていると指摘する。
「脱官僚」政治は、民主党がイの一番に掲げている公約だ。政権を取ったときに備えて、対策も練ってはいる。政治主導で行政を進める手順や運営方法を示した「政権移行プラン」はその一つだ。
ただ、すべての省庁でいっぺんにできるとは限らない。プランづくりの中心である参院議員の松井孝治は「選挙で公約した政策を実現するため、改革の優先度が高い官庁を絞り込み、集中的に幹部の政治任用などを進めるのも手だ」と話す。

では、民主党がまず「標的」にするのはどの官庁か。
複数の民主党有力議員があげているのが、厚労省と国土交通省だ。
参院議員の大塚耕平はこれに農林水産省を加え「3省には共通項がある」と言う。
まず、削れる余地のある歳出額が多い。自民党の族議員との関係も強い。そして、技官のような専門職階があり、省内の縦割りが激しい――。
中でも、改革が必要な「筆頭格」と見られているのが厚労省・社会保険庁だ。

「たたくだけ」でいいか

2年前。長妻は、年金記録が保管してある東京都内の倉庫を視察した。そのとき、埋もれた書類の中に年金福祉施設などの建設を陳情に来た議員や秘書の名刺が束ねてあるファイルを発見した。「コピーの提出を」と迫る長妻に、社保庁側は「検討する」と言ったきり何も出してこないという。
長妻は、民主党が政権を取れば、官僚たちの「なめきった態度」も変わるはず、と意気込む。
ただ、民主党の幹部は「官僚をたたくだけの野党的な手法では、行政を回し切れなくなる」と予想する。
「長妻氏のようなタイプには内閣官房で行革に腕を振るってもらい、直接厚労省を仕切るのは、もう少しバランス型の人がいい」
長妻自身も「与党になれば、私もやり方を変える」と言う。
だが民主党は、これまで「官」との対決姿勢を推し進めてきた。政権を取ったからと、すぐに「協力」関係に変えていけるだろうか。

[Part2] 「財務省とは握る」 表向きは対立でも

民主党が政権を取った場合、官僚は、本気で協力するのだろうか。
しばらく前まで民主党内には、各省の幹部職員に政権への協力を約束する「 誓約書」を書かせるといった強硬論もあったのだが……。
「心配しなくていい」と話すのは、参院議員の鈴木寛だ。
鈴木は経済産業省の出身。党内で選挙のマニフェスト作りを担うメンバーの1人でもある。
鈴木は言う。「財務省と経済産業省は賢い。理にかなった改革であれば、彼らはちゃんと政治家についてくる」
会計課長、送り込み?
別の参院議員は「すべての省庁の会計課長を財務省から送り込む。その下に補佐役を設け、民間から公募した公認会計士をつける」という「秘策」を打ち上げる。 財務省は健全財政主義なのだから、歳出カットに協力してくれるはず、というのだ。
財務省は、「省庁の中の省庁」と言われ、予算と税制を握る官僚機構の中枢である。政治主導を確立するうえで、民主党が警戒すべき相手ではないのだろうか。
事実、民主党首脳は、「財務省叩き」を繰り返してきた。
代表の鳩山由紀夫は、幹事長時代に「財務省主導の政治を根底から変えていくためにはどうするのか、ということが求められている」(昨年7月の講演)と話した。


武藤敏郎日銀副総裁の総裁への昇格案が、民主などの反対多数で不同意とされた参院本会議。手前は民主党席=12日午前、国会内で、松沢竜一撮影
昨年春には、日銀総裁人事をめぐって政府と民主党が対立した。
当時の代表の小沢一郎は、福田内閣が出した元財務事務次官の武藤敏郎らの総裁案を「天下りは許さない」と拒否。「財務省と対峙する民主党」というイメージは定着した。
「本当は、小沢代表は、財務省を敵視するつもりはなかった」
そう明かすのは、民主党最高顧問の藤井裕久だ。
藤井は元大蔵官僚で、細川・羽田政権時代に蔵相を務めた。党内で、民主党政権になった場合、財務相の有力候補の1人との声もある。
藤井が昨年1月、小沢と話したときには、武藤・日銀総裁案を容認するムードだった。
小沢は藤井にこう語った。

「政権が取れるかもしれない。そのとき、財務省を敵に回すと何も動かなくなる」
別の民主党代表経験者も「民主党政権になったら、財務省とは協力関係を築いていく」と明かす。財務省の幹部と、定期的に会合を開いて情報収集をしている民主党幹部は少なくない。
当の財務省は、民主党と積極的に距離を縮めようとはしていない。
「国民福祉税のトラウマがあるからね」と幹部は話す。
93年に自民党が下野して細川政権が誕生したとき、大蔵事務次官(当時)の斎藤次郎は、連立与党の実権を握っていた小沢一郎と組んで「国民福祉税」構想をぶち上げた。
結局つぶれたが、大蔵官僚の「変わり身の早さ」は自民党に衝撃を与え、その恨みは、やがて大蔵省が分割される遠因にもなった。
民主党が政権を取っても、長期政権になるかどうかわからない。それなら、下手に組まないほうがよい、という計算が働く。
無駄な予算、削れる?

そもそも、「民主党は、本当に歳出をカットできるのか」と疑問を呈する向きもある。
財務省のある局長は、「与党の国会議員は地元の利益誘導に傾きがちだ。
民主党も、政権を取ったら自民党とさして変わらなくなるのでは」と予測する。
民主党の中央は、高速道路の新規建設には慎重だが、第二名神高速の予定地になっている地元の民主党は「推進派」だ。与党になったときに、地元の意思を無視し続けられるかどうか。
さらにシニカルな見方もある。
ある財務省職員は「財務省が健全財政主義だという前提が間違い」と内部批判する。
財務省が本気で歳出カットをする気がないから、国と自治体の借金が800兆円にも膨れあがった。時の政権と組み、特殊法人などへの「天下りの確保」とひきかえに、国民にわかりにくい特別会計も使って歳出を膨らませてきたのが財務省だ、というのだ。
だとすれば、民主党と財務省が「握った」としても、財政が健全化するとは限らない。

[Part1] 20兆円ひねり出しの難問 最後は「一度やらせてみて」

民主党の政策が信頼されていない理由は、財政政策がビルド(創設)ばかりで、スクラップ(破棄)が抽象的だからだ」
昨年7月。慶応大学准教授(当時)の土居丈朗は、「次の内閣」の財務相、中川正春に、そう迫っていた。
「言論NPO」が主催する討論会。「総選挙近し」のムードが漂っていた。中川は「本命は、特別会計と独立行政法人だと思っている」と答えたが、別の学者から「話がみえにくい」と反論された。

予算に含まれる無駄を徹底的に洗い出し、4年後には、毎年20兆円もの財源を生み出す。それを使って「子ども手当の創設」「主要先進国並みに医療費を大幅拡充」といった社会福祉政策の充実に振り向けていく――。これが民主党の戦略だ。
しかし、今の予算から本当に20兆円もの無駄をそぎ落とせるのか。財務相の与謝野馨が「おとぎ話」と切って捨てたのに象徴されるように、政府・与党は強く批判している。

しかし、民主党政調会長代理、福山哲郎はきっぱり反論する。
「根拠がある」と示したのが、昨年秋に財務省が出してきたという予算の新たな「区分表」だ。
「07年の参院選で野党が過半数を獲得したことで、役所からさまざまな資料が出るようになった。これもその一つ。民主党の政策を実現するための財源は、この数字をもとに積み上げている」

これまで政府が示してきた資料では、一般会計と特別会計を合算した約212兆円の歳出のうち、借金の返済に充てる国債費、社会保障関係費、地方交付税などの費目が8割を占める。いずれも義務的な色合いが濃く、削減は難しいように見える。
積立金の「先食い」か

だが、歳出の「性格」に応じて整理された区分表と照らし合わせると、官僚の天下り団体への補助金など、削減しやすい項目が紛れ込んでいることが分かる。これを足し上げると、見直しの対象になる額は約25兆円増え、67兆にもなるという。「その中で真剣に検討すれば、約10兆円の削減が見込める」というのが福山の説明だ。
さらに、特別会計の積立金20兆円と毎年3兆~6兆円ある剰余金から5兆~6兆円を調達。所得税の諸控除の見直しなどで税収も4兆~5兆円増えると見込めば、4年後には毎年約20兆円分の財源が確保できると話す。

だが、慶応大学の土居は「積立金は、将来必要な歳出に備えてプールしているもの。これを先食いするなら、国債を追加発行するのと同じだ。正しい財源確保とは言えない」という。
財務省の幹部も「天下り団体への補助金を削ると言うが、(文部科学省の官僚が天下りしているからと)国立大学への補助金も削るのか」と実現には冷ややかな視線を送る。
別の幹部は「いずれの補助金も政策目的をもっている。打ち切るのは政治判断だろうが、それなら、どの補助金を削るのか、はっきり示すべきだ」。具体的な削減項目を民主党が示さない限り、必要かどうかの議論にならないと突き放す。

ただ、民主党は「野党でいる限り、精緻な内容に踏み込むだけの情報を得られない」とのもどかしさも抱えている。
しつこく問う記者に、福山はうんざりした口調で言った。
「一度民主党に政権をとらせてください。やらせてみてから判断してください」

[Part2] 増税・社会保障でブレ 労組にも不満

民主党の政策は、党首が交代すると劇的に変わることがある。
年金財源をめぐる消費税論議はその典型だ。
民主党は「年金をだれでも確実にもらえるようにする」との理想を掲げ、公的年金の基礎(最低保障)部分を税で賄う方式を提案してきた。

07年7月参院選の民主党マニフェスト。主な公約の1つに「消費税は5%を当面維持し、全額を年金財源に」を掲げた
代表が菅直人の04年には、財源として「3%程度の年金目的消費税の創設」を掲げた。その方針は、代表を引き継いだ岡田克也、前原誠司も守ってきた。
ところが、小沢一郎になって突然、増税の主張は封印される。07年のマニフェストでは「現行の消費税の全税収をあてる。税金の無駄遣いをなくすことで、消費税率は据え置く」となった。

だが、現在の消費税収は約13兆円。現行の基礎年金給付費は約19兆円で、このままでは足りない。
07年7月の討論会で、小沢は、年収1200万円超の人は最低保障分をカットすることなどで対応可能と説明した。だが、どの時点の「年収」を使って試算したかなど詳細は明らかにされていない。

先月の代表選でも、民主党内での年金政策のブレを印象づける場面があった。
岡田は年金改革を公約のトップに掲げたが、説明文に「過去債務270兆円の切り離し」との言葉があった。党の公式見解にはない「新方針」だった。
最低保障部分は税で負担した上で、2階部分についても今と違う制度に移行する。その際、現行方式で約束した給付に足りないお金は新制度と切り離して対応する、という。
しかし、5日の会見で岡田は「党の中で議論してきたものではない」とあっさり引っ込めてしまった。

民主党を応援している労働組合からも、不満が出ている。
政府が提出したサラリーマンらの厚生年金と公務員が対象の共済年金を一元化する法案は、2年以上もたなざらしのままになっている。民主党が、自営業者らの国民年金の一元化も主張しているため、本格的な審議に入れないのだ。

与野党間で年金改革論議が進まない状況に、連合の幹部は言う。
「いきなり自営業者の年金も統合するのは無理。理想を示すのはいい。
ただ、民主党の政策には、どう実現するのかという具体的なステップが欠けがちなのではないか」

[Part3] 自民一辺倒から軌道修正 経済界、政権交代にらむ

自民党一辺倒だった経済界に、少し違う風が吹いている。
「民主党に政権担当能力はあるのでしょうか」
財界の論客として知られる武田薬品工業社長の長谷川閑史に、そう聞いてみた。
「社長を選ぶ前に『こんな欠点がある』と言ってみても仕方がない。いい経営ができるかどうかはやらせてみなければわからない」

5月13日の東京外国為替市場。
円相場は一時、1ドル=95円台まで上昇した。きっかけの一つになったのは、英BBCのインタビューに答えた民主党の「次の内閣」財務相、中川正春の発言だった。
「民主党が政権についたらドル建て米国債の購入を控える」。市場がドル不安に陥っていたからこその動きだったが、民主党の「次の内閣」財務相の発言が市場で材料視されることは、以前にはなかった。


経団連と民主党の討論会に出席した(右から)経団連の御手洗会長、民主党の鳩山代表、岡田幹事長=09年6月1日、東京都千代田区の経団連会館、遠藤真梨撮影
財界では数年前から、岡田克也、前原誠司などの政治家について、現実主義的な政策を掲げていると評価する声が高まっていた。
日本経団連で政治対策委員長を務める大橋光夫(昭和電工会長)は「中堅・若手の国会議員はもう、自民党も民主党もほとんど差はない」と話す。
その一方、先月まで代表を務めた小沢一郎に対する評価は分かれる。その調整能力に対する期待がある半面、経済界が主張してきた消費税増税は封印され、農家への戸別補償など地方の自民票を奪うための「ばらまき」的手法への嫌悪をあからさまに示す財界人もいる。

5月の代表選で小沢路線の継承とみられた鳩山由紀夫が選ばれると、財界の一部に落胆の声も上がった。
経団連のある幹部は「岡田さんだったら、自民・民主とも『等距離外交』で臨む可能性もあったのに」と漏らす。
それでも、岡田が幹事長に就任したことで、民主党の政策を見極めようとの空気が広がっている。岡田に対する期待は、岡田が消費税増税や規制緩和など財界の主張に近い政策を掲げてきたからだ。

だが、その岡田の「環境重視」政策が経済界の利益とぶつかることを懸念する声も小さくない。
6月1日。経団連と民主党の首脳がずらりと顔をそろえる討論会があった。各トップが出席するのは、3年ぶりのことだ。
岡田は、温室効果ガス削減の2020年までの中期目標を「90年比で25%削減」とすることを主張して、「これは別名、『岡田案』と呼ばれているようだ」と話した。
これに反論したのが、東京電力社長の清水正孝。経団連で環境政策を担当する副会長だ。
清水は「民主党の提案は多大な国民負担を伴う。納得いく説明をしてほしい」と語気を強めた。
経済界と民主党の間は、近づきつつ、緊張も生み出している。

[Part1] 米政権、一時は懸念 自立外交、同盟揺らぐ?
6月1日、東京・永田町、民主党本部。米国務省ナンバー2の副長官ジェームズ・スタインバーグは、民主党代表鳩山由紀夫と向き合っていた。有力シンクタンク、ブルッキングズの副所長などを経て政権入りした。5月の党代表交代後、鳩山と米政府高官との初の接触の場だった。

鳩山「日米ともに民主党政権で、核の廃絶、地球温暖化、国際的な金融の問題といった三つのビッグチャレンジ(重要課題)に互いに協力して取り組んでいきたい」「(北朝鮮問題で)追加の経済制裁を含めた国連決議がまとまることが重要だと考える。実効性を得る上で、中国との協力関係が重要だ」


国会内で、「核不拡散・軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の共同議長を務めるギャレス・エバンス元豪州外相と会談する民主党の岡田幹事長。鉢呂吉雄『次の内閣』外相、浅尾慶一郎『次の内閣』防衛相、民主党核軍縮促進議員連盟事務局長の平岡秀夫衆議院議員が同席した=2009年5月27日午前、池田伸壹撮影
スタインバーグ「今の発言で、北朝鮮は、日本で仮に政権交代があろうとも、日米の対応は不変だと認識するだろう」

米政府は小沢前代表時代、「民主党政権下の日米」がどうなるのか、明確な姿をつかみかねていた。

昨年12月、米国務省。米有力シンクタンクCSISに在籍していた前民主党参院議員、若林秀樹を米当局者らが囲んで、質問をぶつけた。

「小沢という人間がよくわからない」「今の『次の内閣』メンバーは政権を取ったら閣僚になるのか」

若林はこう答えた。
「小沢の考えは、党全体の安保政策ではない。『次の内閣』は小沢が党をまとめるための人選。実際の閣僚は別の人間になるだろう」

だが、その小沢は2月、「(米海軍)第7艦隊で米軍の極東におけるプレゼンスは十分だ」と発言。「小沢が首相になったら危ういという見方が広がった」(元米外交官)

小沢発言の直後、ブッシュ前政権の高官だった対日専門家、マイケル・グリーンは元代表の前原誠司と東京都内のホテルで朝食をとった。
前原は言い切った。「過度な対米依存からの自立という小沢発言の方向性は、ずれていない。ただ、党の政策ではないし、発言には時間軸、戦略環境、米国との信頼関係といったものがすっぽり抜け落ちている」

前原は4月に訪米した際、旧知のスタインバーグにも説明した。
1日の鳩山との会談後、スタインバーグは記者にこう語った。「民主党には古くからの友人がいて、密接に連絡を取り合っている。実に素晴らしい会談だった」

5月19日、上海。日中関係に詳しい上海国際問題研究院学術委員会副主任の呉寄南は、民主党代表選を詳細に読み解いて、記者に語った。
「鳩山代表は岡田克也に比べれば有権者の支持はやや低いかもしれないが、小沢グループや菅グループと近い。党内を安定的にまとめるには鳩山の就任がベストだった」

中国共産党で党外交を進める中央対外連絡部(中連部)が民主党に接触を始めたのは旧民主党が結成された96年にさかのぼる。当時、菅直人と共同代表を務めていた鳩山が訪中すると、政治局常務委員だった胡錦濤(現国家主席)ら次世代リーダーが迎えた。交流は途切れず、07年にはテーマ別に会合を開く政党間交流も始まった。
「米国との関係は、すでにできあがっている。今後、日本が戦略上、最も力を入れなければいけないのは、中国との関係だ」。鳩山は昨夏、党幹事長時代に日米安保の専門家が集まった会合に出席し、こう語って、関心を呼んだという。

小泉首相(当時)の靖国神社参拝に批判的だった民主党だが、親中一辺倒ではない。鳩山は、幹事長時代の07年、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世と会談。前原も今年2月、国会質問で中国と領有権を争う尖閣諸島の「防衛」に言及した。いずれも中国側は反発した。それでも中国は、民主党に「安心感」を抱いている、と呉は言う。
「アジア外交を重視する民主党は、小泉時代の対米一辺倒路線とは対照的だ。政権を取っても、中国はあまり心配する必要がない」

[Part2] 安保の振れ幅「30度」 「核の傘」半分離脱?

民主党が、政権をとった場合、外交・安全保障政策はどうなるのか。「日米関係を基本とするが、より世界各国との友好関係を大事にする」(「次の内閣」外相の鉢呂吉雄)というのが最大公約数だ。

冷戦時代とは異なり、いまの自公政権との振れる角度は「180度でなく30度ぐらい」と、「次の内閣」で防衛庁長官を経験した衆院議員の長島昭久は説明する。「基本政策を維持した上での修正」は主に次の点に集約される。

1)提案型、自立志向の日米同盟
2)アジア、周辺諸国との協調重視
3)環境、非核政策での積極姿勢
4)平和構築分野で自衛隊積極活用

1)でまず問われるのは、インド洋給油支援、海賊対策への対応だ。「両方やるといえば、米国は安心する。給油をやめるなら、対案で何を出せるか」(外務省幹部)。「次の内閣」防衛相の浅尾慶一郎、参院議員の犬塚直史らは、米国と協調しつつ、アフガニスタン、パキスタンでの新たな民生支援を模索する。


警護中の貨物船の様子を双眼鏡で確認する「さざなみ」の海上自衛隊員=2009年6月6日、アデン湾洋上、古谷祐伸撮影
米外交問題評議会上級研究員のシーラ・スミスは「オバマ政権は『米国が要請し、日本が応える』というような関係を求めていない。世界的規模の問題をともに解決することを求めている」と語る。民主党の「自立志向の同盟論」とも通じる。

「アキレス腱」になりかねないのが、沖縄の米軍普天間基地返還問題への対応だ。前原は、10年以上進展していない現行案に代わる「腹案がある」と話す。両政府の合意を覆すのは同盟では本来、タブーに近い。しかし、4月の訪米時に「代案」に言及すると、元米高官は否定せず、こう言ったという。「実現できるかどうかは、オバマ政権と日本の民主党政権の双方の足元がどこまで強いかによる」

2)を意識して、鳩山は代表就任後、初の外遊先に韓国を選んだ。出発前の4日、「大事なことは日本はアジアの一国であると、アジアのなかでもっと親しい協力ができる、そんなお互いの国同士でありたい」と語った。経済協力の強化を通じた「東アジア共同体」づくりを目指すという。

3)に力を入れるのは岡田だ。幹事長就任直後の5月、「核の先制使用と核廃絶は論理的に一貫しない」と述べた。米国の「核の傘」のうち、核攻撃を受けた場合の報復は認め、「傘」から「半分出るべきだ」と主張した。北朝鮮が2度目の核実験に踏み切るなか、総選挙のマニフェストに盛り込むかどうか、党内には異論もある。

4)について、鳩山は代表選の際、「国連が決めたものなら何でもやるわけではない」と述べ、小沢の国連至上主義から軌道修正を図っている。だが、党として「事前承認など国会の関与を強める」ことを条件に自衛隊の海外活用に積極的な姿勢は変わらないとみられる。
さらに、連立政権の相手として想定される社民党や国民新党との安保観の隔たりもある。溝が埋まらなければ、身動きがとれなくなる恐れも出てくる。

[Part3] 全特「今度はリベンジだ」民主、地方票に照準

「あらん限りの力をこの一戦に託し、政権交代のトンネル貫通の最後の発破を、今、ここに爆破させようではありませんか」
全国郵便局長会(全特)の会長(当時)、浦野修が訴えると、会場を揺るがすような拍手が起きた。5月17日、全国から1万人もの旧特定郵便局長やその関係者が、千葉市内のホールに集結していた。

地元に根ざす郵便局長の集まりである全特は、自民党の最強の「集票マシーン」として知られてきた。しかし4年前、当時の首相、小泉純一郎は、郵政民営化を訴えて選挙に踏み切り、自民党は300議席を獲得する。民営化に反対した全特の運命は、暗転したかにみえた。

「今回は、小泉選挙のリベンジだ」と燃える全特は、民主党候補約200人のために、すでに選挙の支援体制を整えつつある。全特が最も支援に力を入れる国民新党と、民主党が、昨年秋「民営化抜本見直し」で政策協定を結んだからだ。


全国郵便局長会通常総会であいさつする民主党の鳩山由紀夫代表=2009年5月17日、千葉市、川村直子撮影
「最低でも50万票は集められる」と全特幹部は自信を示す。身分が国家公務員から民間になり、堂々と政治活動できることで、さらに上積みされるとの見方もある。

全特大会の前日は、民主党代表選だった。就任したばかりの鳩山はさっそく大会に駆けつける。
「選挙に勝たせていただくためには、郵便局長さん方の多大なるご支援が不可欠です。お力をお貸し願いますように、心から、心からお願い申し上げます」

「(全特は)変わり身が早いね」。自民党元幹事長で、民営化に反対し続けた野中広務の口調には、皮肉もまじる。

しかし、全特専務理事の平勝典の民主党支持に迷いはない。
「このままでは、地方や農村が廃れてしまう。日本型システムを守らなければならない。今回の選挙が最後のチャンス」と訴える。

民主、「農村重視」へ

5月11日。民主党新顔の近藤和也は、能登半島の能登町にいた。
石川県旧鹿島町出身の35歳。京大卒で、野村証券の元営業マン。
小選挙区では自民党候補しか当選したことのない石川3区で、民主党初の議席獲得をめざしている。

あぜ道の先にある区長宅を、いきなり訪れる。
「農業のこともがんばります」。引き気味の区長の手を握って訴えた。
近藤は、民主党の農協出身の参院議員から、JAバンクのキャラクターである金魚の「ちょきんぎょ」のネクタイをして回れ、とまで言われていた。

都市部の選挙を勝ち抜き、政策通でスマート。しばらく前まで、民主党はそんな議員たちが仕切るイメージがあった。しかし、農村部が抱える議席は多く、都市部の支持だけでは政権は取れない。

小沢一郎が代表になった後、民主党ははっきりと「地方重視」を打ち出す。07年の参院選で、1兆円にものぼる農家への戸別所得補償を柱とする農業政策を、3大政策の一つとして「格上げ」し、地方の一人区の大勝に結びつけた。

5月15日。東京で開かれた農業についてのシンポジウム。
「これはひどいよね」と、民主党議員に食ってかかったのは、農水相の石破茂だった。
石破が持ち出したのは、07年参院選で民主党が配った農業政策のマンガ版マニフェストだった。「全ての販売農家の所得は補償され農業が続けられます」と聞こえのよいことしか書いていなかったというのだ。民主党の基本方針は農産物の関税引き下げを伴う「自由貿易協定(FTA)推進」だが、参院選では強く訴えなかった。

自民党も、大規模農家などへの補助は惜しまない。輸入米についても高関税維持の立場だ。
民主党との戦いは、「農村部へどれだけお金をつぎ込むか」という競争になりつつある。

大きな政府VS.大きな政府

「自民党から小泉色が消えたことで、経済政策の分野で、自民党と民主党との対立軸は、全く見えなくなった」
安倍、福田内閣で経済財政相を務めた大田弘子は、そう語る。
規制緩和などによって既得権を打破し経済成長をもたらそうという「成長重視派」は力を失い、自民も民主も「分配重視」。
「分配は政治の大切な役割だけれど、改革をせずに成長できるような日本経済ではないはずでは」と大田は思う。

海外の二大政党の国では、政府の介入を積極的にとらえる「大きな政府」派の政党と、民間活力を重視する「小さな政府」派の政党に色分けされることが多い。対立軸があることで、国民は、どちらかを「選択」できる。

その意味では、自民党と民主党との戦いは、いわば「大きな政府VS.大きな政府」という構図にもみえ、有権者には冷めた空気も漂う。自民と民主の政策に「大きな違いはない」と考える人は、朝日新聞の全国世論調査(2月~3月実施)で67%にのぼる。

「自民党政治の終わり」(ちくま新書)を著した政治学者、野中尚人は「民主主義の成熟のためには、官僚との関係や国会の仕組みなどの統治メカニズムだけでなく、経済政策についての対立軸が必要だ」と話す。

自民、民主の「対立軸」は今後、はっきりしてくるのか。政界再編によって「選択」しやすくなるのか。それとも、財政の破綻があらわになるなど、日本経済がさらに大きな危機に直面するまで、「対立軸」はみえてこないのだろうか。


政策立案 ハンディあり

現政権下では、成立する法律の大半は政府が提出する「閣法」だ。

各省庁の官僚が法案や予算案を立案し、与党議員への根回し、省庁間の意見調整、自治体や関係業界への説明などを行って、自民党の部会や政務調査会で説明する。部会は省庁別に設置されることが多いため、省庁との結びつきが強まり「族議員を生み出す温床」ともいわれる。

常設の最高意思決定機関である総務会を通ると、通常は所属議員に党の決定に従うことを義務づける党議拘束がかかり、法案が通る可能性が高まる。つまり、政府提出法案であっても、事前に自民党の承認を受けなければ、実質的には国会に提出できない。この暗黙のルールが「事前審査制」だ。

与党の幹事長ら実力者が、実質的に法案への影響力をもつことから、「政府・与党」の「二元体制」ともいえる。「官邸主導」を進めた小泉元首相は、この慣例を破ったことはあったが、廃止できなかった。

一方、野党経験しかない民主党は、党の約20人の政策調査会スタッフが、衆参両院の調査部門や法制局、国立国会図書館を使って法案をつくる。「霞が関の官僚をすべて使える自民党と比べると、うちは総勢でも200人くらい」(民主党職員)。逆に、官僚に頼らない法案作成能力が磨かれている、と民主党
幹部はいう。

党内の部門会議などで議論したあと、最終的に「次の内閣」(ネクストキャビネット)で重点政策や法案対応を決定する。

07年の参院選で民主党が参院の第1党になり、衆参の「ねじれ」が生じて以降は、官僚は民主党へも配慮するようになった。民主党の部門会議への出席者を課長級から審議官・局長クラスに格上げしたことなども、その一例だ。

官僚の統制 構想あれこれ

民主党は、 マニフェストなどを通じ、政権を取ったときの政策決定プロセスや官僚制度のイメージを示している。官僚組織は、内閣をサポートする専門家集団との位置づけだ。
これまで、以下のようなプランが出たことがある。
(1)各省庁の局長以上の人事については、新政権の基本方針に協力することを誓約させ、同意しない幹部は異動させる。
(2)官房副長官や首相補佐官、副大臣、政務官などを増員したり、大臣補佐官を新設したりして、現在70人前後いる閣内の「議員」を100人規模に増やす。
(3)予算編成は官邸主導で予算総額を決め、各省庁はその枠内で細目を決める。
(4)キャリア公務員制度は廃止し、多様な試験を実施。試験区分を超え、能力・実績に応じて処遇する。
正式なプランは、鳩山新体制下で総選挙前に決まるが、菅代表代行の私案では―。
(5)法案などを閣議決定する前に全省庁の事務次官が出席する「事務次官会議」に、2人の政務の官房副長官を常時出席させ、会議の結論を参考意見にとどめる。
現在は、官僚である事務担当の官房副長官をトップとして、霞が関の意思決定の場になっている現状を改める。
(6)各省庁に対する大臣の指導力を強めるため、大臣、副大臣、政務官の「政務3役会議」を開く。政治家が「チーム」を組んで、官僚をコントロールする狙い。大臣に、副大臣と政務官の人事権を持たせる。
(7)現在は与野党の幹事長、国対委員長、各委員会の理事など党の役員が中心になって国会運営にあたっているが、幹事長を無任所大臣として入閣させ、国会運営の指揮を任せる。

政策的には似通ってきている自民、民主。候補者の「出自」などに違いはあるのだろうか。
朝日新聞が全国の取材網を通じて確認している次期衆院総選挙の立候補予定者で、比較してみた。(年齢は2009年6月7日現在)

まず、「世襲」について。
国会議員だった親や親族と同じ選挙区から立候補したり、選挙区の一部が親や親族の選挙区と重なっていたりする候補者を、「世襲」と定義して調べた。
結果は、自民党は102人で、民主党が21人。自民が圧倒的に多かった(自民党内の「世襲制限」論議とからみ、注目を集めてきた小泉進次郎氏<神奈川11区>と、臼井正一氏<千葉1区>については、自民党の立候補予定者に入れてある) 。

平均年齢でみると、民主が48歳で自民よりも8歳若い。とくに、20歳代、30歳代、40歳代では、民主党が自民党よりも多く、逆に高年齢層では自民党が多い。

中央省庁の官僚経験者(日銀出身者を含む)をみると、自民党が59人で、30人の民主党のほぼ2倍。ただ、自民党の官僚経験者は当選12回の加藤紘一元幹事長(外務省出身)、野田毅元建設相(大蔵省出身)をはじめベテランが多い。
一方、新顔では、自民の官僚出身者は7人なのに対し、民主党は2倍近い13人いる。

図表は、03年から政治家へのアンケートを継続している「 朝日・東大共同調査」(※)をもとにまとめた。
それぞれの選挙で当選した自民・民主両党の国会議員を対象に、外交・安全保障の基本政策については「防衛力強化」「日米安保体制強化」「先制攻撃」などの5項目に対する姿勢をたずね、賛成を「タカ派」、反対を「ハト派」として意見の分布を見ている。
同様に、「終身雇用」「公共事業による雇用確保」「財政出動による景気対策」の3項目に対する賛否を問い、公共事業や財政出動を通じて都市から農村へ資源を分配し、社会・経済の平等を重視する「日本型経済システム」を維持するか、改革するかの軸を設けた。
平均値を中心にした楕円は、意見の散らばり具合を表している。両党の代表的な政治家の「立ち位置」(当選時)を07年の図の上に置いた。
例えば、麻生首相は平均的な自民党議員よりもタカ派で「日本型システム」維持を強く志向。民主党の岡田幹事長は、外交・安全保障では党内で平均的な位置にいるが、改革志向が強い。
選挙ごとに顔ぶれも人数も異なるが、3年の間に自民党は「日本型」の「維持」と「改革」の間で揺れ動いたことが読み取れる。
民主党は特に外交・安全保障の面で意見の幅が広い。横路孝弘衆院副議長のような旧社会党出身者と、旧民社党出身の川端達夫副代表や安保政策の論客とされる前原誠司元代表らとで隔たりが大きいからだ。
ただ全体として比較すると、04年の当選議員では両党が対立する構図が見えていたが、05、07年では重なり合う部分が出ている。

(※朝日新聞社と東京大学法学部の蒲島郁夫教授〈当時〉と谷口将紀准教授の研究室が実施
。谷口研究室の大川千寿助教と境家史郎客員准教授が分析を担当した)

(文中敬称略)

取材記者略歴

高橋万見子(たかはし・まみこ)
GLOBE副編集長

池田伸壹(いけだ・しんいち)
GLOBE記者

梶原みずほ(かじわら・みずほ)
GLOBE記者

築島稔(つきしま・みのる)
GLOBE記者

磯貝秀俊(いそがい・ひでとし)
政治グループ記者

星野眞三雄(ほしの・まさお)
経済グループ記者

坂尻顕吾(さかじり・けんご)
中国総局員

伊藤宏(いとう・ひろし)
アメリカ総局員

大野博人(おおの・ひろひと)
ヨーロッパ総局長

浜田陽太郎(はまだ・ようたろう)
GLOBE副編集長

石合力(いしあい・つとむ)
GLOBE副編集長

山脇岳志(やまわき・たけし)
GLOBE編集長代理



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