2010年2月1日月曜日

【縄密約沖】 米軍再編

2010年02月01日21時19分
政治

「非核三原則」守り抜く覚悟 「核の傘」偏重の冷戦構造を見直せ 


  「世界の指導者に、ぜひ広島・長崎を訪れ核兵器の悲惨さを心に刻んでほしい。日本には核開発の潜在能力があるのに、なぜ非核の道を歩んだか。日本は核の攻撃を受けた唯一の国家だ。我々は核軍拡の連鎖を断ち切る道を選んだ。唯一の被爆国として果たすべき道義的な責任と信じたからだ。近隣国家が核開発を進めるたびに『日本の核保有』を疑う声が出るが、それは、我々の強い意志を知らないがゆえの話だ。日本が非核三原則を堅持することを改めて誓う」――鳩山由紀夫首相は国連安全保障理事会(2009・9・24)で力強く表明した。「日本は核廃絶の先頭に立たねばならない」と全世界に向けて宣言した姿勢を高く評価するが、従来の核政策を見直し、具体策を実行する覚悟が求められている。

 一方、オバマ米大統領が「プラハ演説」(09・4・5)で、核兵器を使用した道義的責任を米大統領として初めて言及、「核のない世界」を目指す姿勢を鮮明にしたことは、核の脅威から地球を救う強烈なメッセージだった。さらに米大統領自らが国連安保理首脳会議を主催したことは初めてで、核問題に絞った論議を深め、「核兵器のない世界に向けた条件構築を決意、▽核不拡散防止条約(NPT)非加盟国に加盟を要求、▽核実験全面禁止条約(CTBT)の早期批准に向け、署名、批准を要請、▽兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉促進を要請」などの決議を全会一致で採択した意義は大きい。オバマ大統領は同会合で、特に北朝鮮・イランに対し「安保理決議の順守」を求めており、核軍縮→核廃絶へのウネリを感じさせる国際会議だった。

 米国のブッシュ共和党政権からオバマ民主党政権へのチェンジ、自民党長期政権終焉と鳩山民主党政権誕生が、世界平和の架け橋、牽引車役を果たす両輪になることを期待する声は強い。

 今年は「日米安全保障条約改定」50周年の節目。国際環境の急激な変化を見据えた日米安保再構築の動きが年初から高まっており、「安保条約」と「非核三原則」についての考察を試みたい。

▽踏みにじられた、安保条約「極東条項」

 1999年の日米防衛協力指針(新ガイドライン)関連法成立によって「日米安保条約」は著しく変質し、自衛隊の行動範囲が拡大、日米軍事一体化を強化する方向へ舵を切った。さらに2001年の「9・11テロ」以降の国際的緊張に呼応し、小泉純一郎政権がイラク・サマワへの陸上自衛隊派遣のほか、クウエートへ空自輸送機、インド洋には海自の給油艦派遣に踏み込んだことは、日本の安保・防衛政策の大転換。日米安保条約に規定された「極東条項」(第六条=基地の供与)や事前協議(交換公文)から逸脱しているだけでなく、憲法に違反する暴挙だった。2006年5月、日米安全保障委員会で決まった「在日米軍再編最終報告」は、米国のトランスフォーメーション(米軍再編)に基づく新戦略に〝同盟国〟日本を引き込み、共通の戦略目標の下に日米軍事協力を推進しようとの意図が明らかだ。

▽「非核政策」を訴え、発言権を強めよ

 冒頭に紹介した鳩山首相の「非核三原則堅持」の理念に共感するが、「核の傘」に依存している現実との矛盾・混乱をどう打開するか、その道筋を鮮明にすることこそ政策転換の試金石となる。

「オバマ政権が核不拡散の強化を打ち出した今、日本でも、これまでより核に頼らないアジアの安全保障の議論がしやすくなった。広島、長崎というシンボルを訴えるだけでなく、具体的な政策に移すチャンスだ。北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議で重要なことは、米露中など核保有国中心の交渉に、日本が割り込むことだった。日本政府は、核保有国でないと核問題の交渉ができないとあきらめているが、それは間違いだ。日本が核兵器の主導権をとったらいい。核保有国が主導する核軍縮交渉には必ず限界がある。自分が減らしたくないのに、相手に減らせとは言えないから。互いに減らし合っていくためには、非核保有国が軍縮交渉で発言権を強めることが必要だ。被爆体験を持つ国として主張することに対し、他国が、『きれいごとを言いやがって』とは簡単に文句が言えないはずだ」と、藤原帰一・東大教授の指摘(『毎日』09・7・29朝刊)は、「外交観念変える好機」と捉えた、示唆に富む論稿と言えよう。政権交代を予見したような問題提起を真剣に受け止め、新外交戦略に臨むべきで、その要諦は「非核三原則」堅持に他ならない。

▽「密約文書」を隠匿していた佐藤栄作首相

 昨年6月以降、元外務省高官らの「核持ち込み密約」証言が相次いでいたが、故佐藤栄作首相邸から昨年暮、「核密約」を証明する日米覚書が見つかったことに大きな衝撃を受けた。『読売』09・12・22夕刊特ダネで、沖縄返還交渉に当たった故佐藤首相の私邸に隠されていたことを、佐藤氏の次男・信二氏(元通産相)がマスコミ各社に明らかにした。

 「一九六九年十一月二十一日発表のニクソン米大統領と日本の佐藤首相による共同声明に関する議事録」と題した最高機密文書の実物が〝発掘〟されたのだ。有事の際沖縄への核再持ち込みを裏付ける文書であり、岡田克也外相の下で「密約」検証作業に当たっている有識者委員会(座長・北岡伸一東大教授)はもちろん、「密約」の事実が国民に大きな波紋を巻き起こしている。

 もう一つの密約といわれる「沖縄返還交渉・密約文書開示訴訟」(東京地裁12・1)で、交渉当事者だった吉野文六・元外務省アメリカ局長が「沖縄返還に伴う米軍基地復元補償費を日本側が肩代わりする密約があった」と証言しており、隠し続けてきた「密約」のベールが次々剥がされている。

 ここで警戒しなければならないことは、「非核三原則」の一つ『持ち込ませず』の虚構が暴かれたことを逆手にとって、「非核二原則」または「二・五原則」への〝現実的修正〟をたくらむ超保守勢力の動きだ。「密約証言」が急に飛び出してきた時代背景が気がかりだが、その防波堤として鳩山首相の国連総会での、「非核三原則堅持」表明の意義は大きく、尊重しなければならない。

▽「核の傘」でなく、核兵器の国際管理を

 第二の重要課題として、「非核三原則」と「米国の核の傘」に頼る二律背反の実態を打開するために外交政策転換が肝要だ。20年前のソ連邦崩壊後、東西冷戦構造が劇的に変化してきた国際環境を冷静に分析して「核の傘」にすがる外交を見直し、新たな針路構築を急がなければならない。

 「米国は日本の核兵器を懸念し、日米安全保障の取引で、日本に攻撃能力を発展させないことを含めたのである。米国が日本を守る姿勢を示すことは、第一義的には米国の国益のためである。…では、米国の核の傘の下で安全か。これも万全ではない。核戦略の中で、核の傘は実は極めて危うい存在である。米国が日本に核を提供することによって、米国の都市が攻撃を受ける可能性がある場合、米国の核の傘は、ほぼ機能しない。日本が完全な核の傘の下にいないことを前提に安全保障政策を考えねばならない」――外務省国際情報局長などを歴任した評論家、孫崎享氏の著書「日米同盟の正体」(講談社現代新書)が指摘した『核の傘論』のほんの一部を引用したが、これこそ国益を賭してせめぎ合う外交の実態であろう。それだけに、「非核三原則」を国是とする日本の〝立ち位置〟は極めて難しい現状だが、日本の国益のために軌道修正することに躊躇してはならない。

 「米同時多発テロを経て核兵器の存在の相対化が進んでいるように思う。オバマ大統領のプラハ演説では、多元化・相対化が強く意識された。『全廃論』への道義的責任と、核兵器が存在する限り核抑止を維持すること、さらに核テロの脅威に対する関心、核関連技術の防止という目標が、複合的に追求されている。従来の軍縮派と抑止派による議論だけではなくて、第三の派として、世界の核兵器及び核関連物質の管理をどうするかという新しい柱が、明確に立ち上がろうとしている。核テロ、ずさんな核管理や核流出といった問題だ。それがより意識されるのが、三月(2010年)の核安全保障サミットだと思う」という神保謙・慶大准教授の指摘(『朝日』(09・7・17)は、現在の核状況を的確に捉えた分析である。

 現段階で核問題解決の処方箋を、誰も書くことはできないが、「核兵器は地球を破滅させる」との認識を共有できる国際的な枠組づくりを目指すべきで、日本が世界に示す旗印は、「平和憲法九条」と「非核三原則」であることを再確認しておきたい。      


2010年01月01日15時19分

一方的、感情的な本土メディアの「普天間」報道 「日米合意」の問題点を検証せよ 


  日米安全保障条約改定から50年、沖縄米軍・普天間基地移設と米海兵隊8千人のグアム移転計画の行方が、2010新春早々の外交課題として急浮上してきた。昨年〝チェンジ〟を合言葉に誕生した、日米「民主党政権」の〝手綱さばき〟が注目されているが、年末の日米交渉では解決への糸口も見出せないまま越年、鳩山由紀夫政権の力量が問われる厳しい政治状況である。この問題は1996年(橋本龍太郎政権)以来、もめ続けてきた〝沖縄のトゲ〟とも言われる難題中の難題。政権発足から4カ月にも満たない鳩山政権が苦悩するのは当たり前で、「急いては事を仕損じる」…慎重に対処してほしいと願うばかりだ。

▽「世界一危険な海兵隊基地」を13年も放置

 本論に入る前に、鳩山民主党政権誕生の跡を振り返っておきたい。4カ月前の昨年8月30日に行なわれた第45回衆議院選挙は、自民党による「55体制」を瓦解させる歴史的選挙だった。民主党が308議席(公示前は115)で圧勝、自民党は119議席(300)と予想外の大敗北。国民の多くが〝驕れる自民党〟に愛想を尽かし、政治変革を切望した結果である。

 「敵失(自民の失政)に助けられただけ」と冷笑する向きもあるが、民主国家における「民意の重さ」を正面から受け止め、従来の政治姿勢を徹底的に検証し、平和で住みやすい社会の構築を目指す民主党の理念が支持されたと受け取るのは当然なこと。鳩山首相の所信表明演説(10・26)にも共感できる点が多く、要は大胆な政策を早期に国民に提示し、実行に移すことだ。新政権約4カ月の流れを見て、紆余曲折の混乱が見受けられるものの、果断な政策実行を期待しているのが、大多数の「民意」と考えられる。

 そもそも、普天間飛行場代替地として「辺野古(名護市)への移設」を決めたのは1969年だったが、地元との調整が難航して10年間放置されていた。その後、2006年の「米軍再編協議」によって辺野古沖への移設修正案で決着するかに見えたが、新たな難題が浮上したまま3年間もたなざらし状態。96年以来13年もの歳月が流れ、「世界一危険な普天間飛行場」の地元・宜野湾市民の恐怖はいまなお続いている。

 東西冷戦終結(1989年)から20年、国際情勢の変貌は著しい。徐々にではあるが、軍事優先の時代から脱皮し、軍縮へ向かうウネリが高まってきている。米軍再編と普天間問題もまた、時代の流れに沿って検証作業を推進し、「基地・沖縄」の負担軽減に全力を尽くすことこそ日米両政府の政治責任である。

 まず「在日米軍再編『最終報告書』」(06・5・1)の「兵力削減とグアムへの移転」の項に「約8000人の第3海兵機動部隊の要員と、その家族約9000人は、部隊の一体性を維持するような形で2014年までに沖縄からグアムに移転する。移転する部隊は、第3海兵機動展開部隊の指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群司令部、第1海兵航空団司令部及び第12海兵連隊司令部を含む。……沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援及び基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成される」と明記されていることを確認しておく。

 米国側が国際環境の変化に即応するため、沖縄駐留米海兵隊の実戦部隊をグアムに移す新軍事再編計画にギアチェンジしたことは明らかだ。米軍側からすれば、軍事戦略上の変更に過ぎず、「沖縄基地を維持し続ける必要性が薄れた」と、ドライに判断した結果に違いない。

▽核心を衝いた「伊波・宜野湾市長文書」

 伊波洋一・宜野湾市長は11月26日、鳩山首相をはじめ与党国会議員に文書を提出して、基地撤去を訴えた。「普天間基地のグアム移転の可能性について」と題した克明な調査報告であり、実証的で実に優れた文書である。沖縄県紙を除いては、大多数の新聞が取り上げなかった(報じた新聞もベタ扱い)のは、メディア側の問題意識の欠如を物語るものだ。そこで、この文書が指摘していた一部をピックアップして、普天間移設のもつれた原因の一端を探ってみたい。

 伊波文書によると、グアム移転問題は05年10月の日米安保協議委員会(2プラス2)で提起され、翌06年5月の「再編実施のための日米ロードマップ」で合意したもので、概要は先に示した通りである。

 伊波市長はグアムなどの現地を見て回って「普天間基地撤去」を訴える傍ら、米公文書などをキメ細かく収集・分析に努めているだけに、説得力があり、実に参考になった。中でも「日米ロードマップ」が公表された直後の06年7月「米太平洋軍司令部は『グアム統合軍事開発計画』を策定し、同年9月にホームページに公開した。その中で『海兵隊航空部隊と伴に移転してくる最大67機の回転翼機と9機の特別作戦機CⅤ―22航空機用格納庫の建設、ヘリコプターのランプスペースと離着陸用パッドの建設』の記述。すなわち普天間飛行場の海兵隊ヘリ部隊はグアムに移転するとされた」と明記されていたことを初めて知った。

 「伊波文書」の末尾に衆院外務委員会(09・4・8)での証言も記録されている。「グアム調査(07・7)の際、グアム統合計画室とアンダーセン基地の二カ所の説明で、沖縄からの海兵隊のグアム移転は、米軍のアジアを含む軍事的抑止力の強化につながることも強調していました。……最新のものとしては08年9月15日に、下院軍事委に提出した、国防総省グアム軍事報告書があります」と具体的に証言し、「ロードマップでも、8千名の部隊は一体的にグアムに移転するとされていることから、私は、普天間基地の航空部隊は、KC130部隊関連を除いて、グアムに移転するものと考えてきました」と明快に述べている。

 米海兵隊司令官コンウェイ大将は上院軍事委(09・6・4)で「計画の要の一つである普天間代替施設は、完全な能力を備えた代替施設であるべきですが、沖縄では得られそうもありません。グアム移転は即応能力を備えて前方展開態勢を実現し、今後50年にわたって太平洋における米国の国益に貢献することになる」と明言したと、『週刊朝日』(09・12・11号)が報じていたが、米軍再編のシナリオを率直に示したものだ。

▽危機を増幅させる時代錯誤の新聞・テレビ

 以上、事実関係を考察した結果、「普天間基地の米海兵隊グアム移転」は米軍再編計画の一環と思えるが、「辺野古への移設ができなければ、日米同盟に重大な支障」と騒ぎ、世論を煽り過ぎた気がする。日米両政府の不手際が混乱を招いた主因だが、メディア側の過剰報道が危機を増幅させてしまった、と指摘せざるを得ない。

 13年間も問題を先送りしてきた日米両政府の責任は重大だ。前政権の〝負の遺産〟を引き継いだ鳩山、オバマ新政権が過去の取り決めを徹底検証し、手直しに努力することこそ、「日米同盟」深化につながる外交姿勢ではないか。ところが、沖縄県紙を除く本土の新聞・テレビは「伊波文書」どころか、十年余の交渉経過をきちんと総括せず、「辺野古移転を推進しないと、日米関係が悪化する」との大報道に走ったのは、さながら〝鳩山政権バッシング〟の様相だった。

 さらに、米紙の厳しい論調や知日派米国人のコメントに傾斜した報道も異常過ぎる。米国の一部の意見や国内保守派論客の見方を引用して「国益か、日米同盟か」と二者択一を迫り、「普天間問題にいらだつ米国…〝鳩山首相の先送り発言〟は無責任」など、一方的・感情的と思える報道は納得できない。

 前段で指摘したように、沖縄・米軍基地の今後について検討・見直し作業を日米両新政権が協議することは大事なはずなのに、目先の案件処理の不手際を追及するだけで、激動する国際情勢を分析して新聞社独自の主張を展開しないようでは、権力を監視するジャーナリズムの資格はなく、単なるリポーターと批判されても仕方あるまい。

 「冷戦思考と対米従属根性を引き摺ったままの日本の外交・防衛官僚は、米軍が削減・撤退すれば日米同盟が弱まるという時代錯誤の危機感に囚われて、むしろ『思いやり予算』や『辺野古に基地を作りますから』と言って、何とかして米軍を引き留めようとしている。…鳩山政権としては、あくまで海兵隊のグアムへの全面撤退を主張し、それが直ちに実現できない場合の『県外』もしくは『県内』移設の方策を見出すべきである」との指摘(高野孟ブログ09・12・4)に共感する。

 とにかく、鳩山政権は検証作業を急ぎ、対案を示して抜本的打開策を打ち出すべきである。