2011年6月16日木曜日

転載禁止の記事をあえて転載

日経BPnetで大前研一氏の「国民より米国を優先する政府・保安院の欺瞞」という記事が載せられている。

この記事は転載が禁止をされている。しかしあえて備忘録に残しておこうと思う。URLくを貼りつけただけではリンク先の記事を最後まで果たして読んで下さるか甚だ不安を感じたからである。

転載をすることが法に触れることは重々知っての行為であるし、訴える方がおったのなら処分も受けましょう。しかし、福島県の方がこの転載記事を読まれ少しでも今後リスクが軽減される行動に移ったのであれば本望だと自分は考える。



国民より米国を優先する政府・保安院の欺瞞

2011年06月14日
 
 計画的避難区域に指定された福島県の飯舘村で、5月31日時点で全村民6177人のうち23%にあたる1427人が区域内に残っていることがわかった。政府は5月末の避難完了を目標としていたが、避難先の確保が困難なこともあり、当初から「間に合わない」との異論も出ていた。

放射性テルルが検出されたことの意味

 その飯舘村の南に隣接する浪江町、さらにその南の大熊町。この二つの町で、福島第一原子力発電所の事故発生の翌12日午前8時半過ぎ、放射性ヨウ素や放射性セシウム、放射性テルルが検出されていたという。経済産業省原子力安全・保安院が6月3日になって公表した緊急モニタリング調査データから明らかになった。

 ここで問題なのは「放射性テルルが検出された」ということである。テルル132は代表的な核分裂生成物で、融点が450度、沸点が1390度であるから通常は固体である。固体が何キロも飛散することは考えにくいので、炉心溶融の結果出てきたと推測される。

 核燃料の主成分はウラン酸化物で、それが溶けるのは2800度である。この温度になるとテルルが酸化して二酸化テルルになっている可能性が高い。沸点は1390度だから炉心溶融した超高温の環境下では蒸発して飛び散る可能性が高い。最近検出されたストロンチウム、アメリシウム、キュリウムなども同様である。

国民に即座に知らせるべき事実だった

 そのような放射性物質が事故の翌朝に原発から10キロ近くも離れた場所で検出されたということは、私たち国民が知らされていたよりも早く炉心溶融は起きており、圧力容器や格納容器、建屋までもが損傷していたことになる。

 本連載でも私は「炉心溶融は間違いなく起っている」と述べてきたが、それは格納容器の圧力、黒煙、二本の水蒸気、水素爆発などの状況証拠を積み重ねて推論した結果である。外部に気体以外のテルルのような物質が飛散していれば、燃料が溶融していることは間違いない。

 炉心溶融ではなく被覆管が破損している程度ならヨウ素などの気体か、融点がほぼ常温であるセシウムが水と反応して外部に出てくることは考えられるが、テルルやストロンチウムは出てこない。つまりテルルが広範囲に散っていたということは、炉心溶融が起り、しかも圧力容器と格納容器がその密閉機能を失ってしまっていた、ということである。

 保安院は、3月12日の午前8時半には福島第一原発が深刻な事態になっていることを認識していたのだ。この事実は即座に国民に知らしめなくてはいけないものである。にもかかわらず保安院は3カ月近くも事実を隠し、しかも「発表するのを忘れていた。隠す意図はなかった。申し訳ない」の一言で済まそうとしている。言語道断というべきであろう。

米国に伝えていたと考えれば辻褄が合う

 あくまでも私の推測だが、保安院はテルル132が検出された事実を米国には伝えていた可能性がある。米国政府は3月16日、在日米国人に対して半径50マイル(約80キロメートル)圏内から避難するよう勧告し、大使館業務を大阪に移したとき、「ずいぶん大袈裟な反応だ」と感じた人も少なくなかったろう。しかし、それも正確な情報をいち早く保安院から得ていたと考えれば辻褄が合う。

 米国が独自調査でテルル132を検出していた可能性もなくはないが、「事故の翌朝8時半」というのはかなり早い段階のことであり、米軍とはいえ、そこまで迅速に行動できたかどうかは疑問が残る。したがって、やはり政府・保安院が米国に一早く知らせたと考えるのが自然だ。

 米国は事故の数日後から独自の無人機を福島第一原発上空に展開しており、その分析で水素爆発した2、3日後には炉心溶融を確信していたと思われる。しかし官邸がその事実を認めないので日本が事故を隠蔽しているということで、その後は独自の判断で行動することになったようだ。

 米軍の無人機は北朝鮮などの核実験などを検出するために開発されており、炉心溶融で検出される放射性同位体は核爆発とほぼ同じなので、むしろ「得意技」の範疇に入るに違いない。

まったく国民を馬鹿にした話だ

 保安院の西山英彦審議官は「発表しなかったことに特別な意図はなかった」と弁明しているが、本当は「意図があった」はずだ。あるいは米軍に証拠を突きつけられて、自分たちもそのくらいの証拠は持っている、と応じた可能性もある。

 私たち国民の健康を犠牲にしても、米国には本当のことを伝え、在日米軍をはじめ米国関係者に適切な対応をとってもらおうという「意図」があったのではないか。まったく国民を馬鹿にした話である。

 もし保安院を徹底的に追及して本音を引き出したら、きっと次のような回答が返ってくるだろう。

 「3月12日朝の段階で、炉心溶融していることは認識していた。圧力容器はもとより格納容器が破損し、放射性物質が漏れ出ていた」。しかし、「それを発表したら国民がパニックになると心配した」。つまり、「情報を出さなかったのは、パニック発生を防ぐための親心のようなものだ」。そして実際、「現場の努力で大事には至らずに3カ月が経過している。結果オーライではないか」。今回発表したのは、パニックを避けるためにむしろ良かったのではないか、という開き直りである。

 いささか意地悪すぎる見方なのかもしれないが、私は保安院の答弁を見てそう感じた。そうでなければ「特別な意図はなかった」などと、いかにも意図があった人にしか言えないセリフが出てくるわけがない。
どういう状態になったら自宅に戻れるか明らかにせよ

 私は3月27日に公開したYouTubeの動画で、「福島第一原発の1~3号機は炉心溶融している可能性が高い」と述べた。原子炉周辺からストロンチウムが検出されたことや、黒い煙が上がったことなどからそう判断したのだが、実は事態はもっと早く進行していたのである。

 幸いなことにその後の懸命な作業によって、米国の心配が今のところ杞憂に終わっている。同盟国に対して原発事故の正確な情報を伝え、しかるべきアクションを促すのは政府として当然のことである。だが、そこに「国民には知らせず、関係国だけに教える」というオプションがあっていいはずはない。政府はあまりにも国民をなめている。

 いま、福島第一原発周辺の放射能のレベルに関してもさまざまな情報が交錯している。「避難している人が戻っても問題ない」と考えられる情報もあれば、「とてもそれどころではない」というデータもある。政府のしかるべきポジションにある人がどのデータが正しいのか、どういう状態が整ったら避難している人は自宅に戻れるのか、を明らかにしなくてはいけない。

 同時に、ほぼ永久的に戻れない範囲はどのくらいと見込まれるのか(その地域から避難した人には移住を一刻も早く斡旋してあげなくてはならない)、などを明確にしなくてはならない。

残念ながら政府の発表は信用できない

 放射線レベルでも私は政府の発表を信用していない。福島第一原発の現場で働く人々の被爆に関しても、実態はもっとひどいものだと思っている。「もともと人が働けるような環境ではないところで働かざるを得ない」とうことで、線量計や被爆情報を操作していると考えるからである。海外が疑いの目で日本を見ているが、実は政府を信用しているのは日本人だけかもしれない。

 政府と保安院は事故発生から2カ月間、「炉心溶融はしていない」という態度で一貫していた。だから保安院の中村幸一郎審議官が3月12日に「1号機の炉心溶融が進んでいる可能性がある」と発表したとき(つまり技術系の彼はテルルのことを知っていた可能性が高い)、菅直人首相は即座に彼をクビにした(代わりにそのポストに就いたのが前出の西山氏である)。

 正しいことを述べた人を“更迭”し、政府の意をくんで「大本営発表」してくれる人を起用する。これは、はっきりいって異常なことだ。生命にかかわるかもしれない重要な情報を国民よりも米国に先に伝えるのは、さらに異常な事態である。原発事故をめぐる政府の対応には様々な批判があるが、この問題はとりわけ強く批判されなくてはならない。私たちは断固とした怒りの声を上げるべきではないか。

2011年6月12日日曜日

マイケル・シュナイダー氏のインタビュー記事

非常に興味深い内容であったので、備忘録に残しておきます。本来このように転載の了解を得ていない場合は、公開をせず「下書き保存」をして備忘録に残しておくのだが、少しでも多くの方の目に止まることを願ってあえて公開をしています。


尚、転載をしたことの責任は全て私にございます。

この備忘録の記事は http://genpatsu.wordpress.com/ より転載いたしました。

「マイケル・シュナイダー: “原子力にすでに未来はない」、仏メディアパール誌インタビュー記事全訳

出典:http://www.mediapart.fr/journal/international/310511/mycle-schneider-lenergie-nucleaire-na-plus-de-perspective

マイケル・シュナイダー:「原子力にすでに未来はない」

2011531日 ミシェル・ド・プラコンタル

福島の惨劇も、ドイツによる脱原子力の決断も、フランスの指導者たちの判断を揺るがすことはなかった。彼らにとって、「原子」の他に救いはない。では、原子力が我々にとって、必要不可欠なものであるどころか、打開策のない行き止まりであったとしたら? エネルギーの専門家であり、もうひとつのノーベル賞と言われ、環境保護や人権活動などに貢献した個人や団体に贈られるライト・ライブリフッド賞1997年の受賞者であるマイケル・シュナイダーが、30年の原子力産業分野での研究実績を元に語る。

記者:アンゲラ・メルケル独首相は、2022年までにドイツは原子力から脱却するとの決議を行いました。これは、エネルギー史においても大きな転換となる出来事に思えますが?

マイケル・シュナイダー:目覚ましい決断であったと思います。現ドイツ政権はドイツ国内の政界においても最も急進的な原発推進派とみられていただけに、ドイツでのこの度の出来事は、単なる政治の出来事ではなく、歴史の一つの転換であると言えるでしょう。アンゲラ・メルケルの選択は、エネルギー確保のための倫理委員会の報告書が述べているエネルギーの現状分析と、核を代替するための一貫性のあるエネルギー施策の提案に基づいています。

同報告書は、政府の要請に応じてまとめられたもので、元環境相であり、国連環境計画 (UNEP) 事務局長を務めたクラウス・テプファーがまとめたものです。テプファーの倫理委員会は、脱原発までの期間を10年と試算し、さらに短期間で実現することが望まし(!)とも述べています。

また、同報告書は、エネルギーのマネジメントにおいて、組織的かつ抜本的な改革が必要であるとしています。テプファー氏は、脱原発は「経済成長の原動力」になる可能性があるという興味深い見解を支持しています。2013年のドイツ総選挙においては、「脱原発を最も早く実現できるのは誰なのか?」ということが論点の一つになるのではないでしょうか。

記者ドイツのこのような決断がある種の目くらましであるとする見解もあります。結局のところ、脱原発といったところで、フランス産の核エネルギーに頼ることになるのではないか、また、そのことによりドイツの脱原発はフランスの脱原発を遅らせることになるのではないかという意見もありますが。

マイケル・シュナイダー:それは非常に面白い、しかしながら、誤った見解であると言えるでしょう。フランスはむしろここ数年、ドイツ電力の純輸入国でした。つまり、両国間の輸出入総額の収支においては、フランスのドイツからの電力の輸入額は、輸出額に上回っていたということです。2010年においては、フランスは、6.7テラワット(67億キロワット)の電力をドイツから輸入しており、これは、原子力発電所一つ分の生産量に該当する電力(!)です。ただし、フランスの輸入は、冬に集中しており、その電力もドイツの石炭火力発電所から供給されるものです。また、フランスの冬季における電力消費のピークは、96ギガワットを記録しているのに対して、フランスの人口を1600万人も上回るドイツの数字は80ギガワットにとどまっているのです!

ヨーロッパにおける電力の流通を左右するのは、あくまでも市場価格の論理であり、生産量の多い少ないではありません。現在の調査結果は、ドイツがフランス産の電力に依存しえないことを明らかにしています。であるならば、今回のドイツの決定がどのようにしてフランスの脱原発を遅らせるというのでしょうか?

「何一つ解決をみない福島の現状」

記者:現産業相のエリック・べッソンは、リベラシオン誌で「福島は結果的に原子力の安全性を底上げする」と宣言し、また、日本政府が「自国の原発を停止する意志を全く持っていなかった」と言及しています。彼が言うように福島原発事故はすでに決着を見たのでしょうか?

マイケル・シュナイダー:いいえ、この見解は現実と符合していません。25回の訪問を経て、わたしも日本をそれなりに知っているつもりですが、福島の惨劇を過小評価すべきではないと考えています。ある種の技術信仰と決定権を持つ集団による盲信が今回の一件の発端にあります。そして、状況は何一つとして解決をみていない。それどころか、日に日に悪化していると言えます。

事故から2カ月半が経とうとしていますが、放射性物質の放出は続いており、東京電力は未だに安全を確保するための一貫性のある戦略を持っておらず、また、日本の保健当局は日本国民を保護するための包括的な計画を何一つ実装していません!

原子炉とその燃料が如何なる状況にあるのか、信頼できる情報源が一つもないにもかかわらず、状況は何一つ安定していません。

525日付の報道発表によれば、東電は、原子力安全保安院の要請を受けて、線量計を社員各自に装備させたそうですが、それはつまり放射線の汚染が著しい区域で作業していたにもかかわらず、東電社員はこれまで同様の装備がされていなかったということを意味しています。これは信じがたいことです。

さらに恐ろしいことに、東電は、社員全員への装備が行きわたるまで、放射線の用量が介入地域毎に単一であるという論拠に基づいて、技術者一グループにつき、一台の線量計を配備するとしています。しかしながら、半日間、電離放射線下で働いた場合の放射線汚染容量には、数メートル単位での位置の差で10倍の差があることは周知の事実です。つまり、チェルノブイリの事故処理に従事した人々と同じように、今回も労働者たちは全く保護されていないのです。事故から2カ月経つ現在にいたっても、放射線防護の基本中の基本すら無視されています。

原子炉の状態を正常化する施策についても、非常に断片的なデータを根拠とする推論に留まっているのです。三つの原子炉においてメルトダウンが起こったことは確実だと言えますが、では具体的にどの程度の比率で燃料に損傷があったのか、ということは分かっていません。東電の分析は、不十分な数のデータや、センサーの破損により多くの場合が正確とはいえない実際の測定値から類推したシナリオを頼りとしているに過ぎません。これはただの切り張り作業です。おまけに、廃棄物や汚染水の管理に至っても同様の対応しか見せていません。

記者東電と日本政府は、もっと国際的な支援を呼び掛けるべきなのではないでしょうか?

日本国が問題を解決する能力がないことを2カ月に及びデモンストレーションしてきたわけですから、国際社会に課せられた責任は重いと思われます。現在、アメリカ、フランス、ドイツが、日本に援助を行っていますが、介入国間の協議は特に行われておらず、日本との二国間の援助に留まっていることも問題です。

マイケル・シュナイダー:日本との関係の深いアメリカに関しては、無人偵察機を配備しているため、他国に比べてより多くの情報を保有している可能性がありますが、特に福島近隣の米軍基地周りの状況把握など、彼らには彼ら固有の利害があります。

フランスはフランスで、アレバ社(訳注:フランスに本社を置く原子力産業複合企業)のビジネス上の利害関係を日本と持っている。こうしたように、結局のところ、一連の二国間援助の動きの狭間で東電は行ったり来たりしているに過ぎず、多国間で協調する形で包括的な施策は何一つ行われていないのです。これではうまくいきようがありません。

そして私には、数ある原子力大国が何故このような状況に甘んじているのかがわかりません。世界最高峰の専門家を集めて国際的なタスクフォースの類を編成するといったことがむしろ求められていると考えます。

チェルノブイリを上回る健康への被害

記者:日本国民の保護、そして福島原発外の環境への影響はチェルノブイリと比較してどうなっているのでしょうか?

マイケル・シュナイダー:チェルノブイリより良い状況だとは全く言えません。チェルノブイリでは起こって、福島では起こらなかったことが、二つの間に大きな差を作っていると言えます。たとえば、ウクライナで起こった十日間に及ぶ火災の原因となった大爆発は、汚染物質を標高三千メートルの高さにまで運び上げました。結果、チェルノブイリの一件で発生した汚染物質の約半分の量が、旧ソ連の三共和国(ウクライナ、ベラルーシ、ロシア)以外の地域まで飛散したということが現在わかっています。

逆に、福島の場合は、汚染物質は継続的に排出されつづけ、原発の周辺が主な汚染地域となりました。半径100キロから200キロ圏内が特に被害を受けた地域であり、数千キロ先まで被害が及んでいるわけではありません。

外国にとってはこれは幸い、しかしながら、日本にとっては最悪の事態であると言えるでしょう。そして現時点においては、汚染地域を地図上で特定することは非常に難しいのです。なぜならば、汚染が進むのに一定の規則性はなく、天候に左右されながら、地表上に染みのように広がっていくからです。

最も危険な地域を特定するには、非常に多くの計測を行う必要があります。日本ではガイガーカウンターは売り切れ状態になっています。この点においても、日本は今も散々な状況にいると言えるでしょう。

日本在住のアメリカ人による民間プロジェクトが日本で結成され、約四十程度の移動型の測定ラボが設置されようとしていますが、個人的にはこのような動きに賛同します。しかし既存の施設を活用して固定型のラボも同様に設置されるべきでしょう。

たとえば、食品会社の持つ研究所に放射能測定可能な分光器を配備することなどが考えられます。しかし、こうしたことは現状を反省し、国家レベルで一貫した協調的な施策として組織されなければなりません。特定の地域、例えば学校などの施設における住民が曝されている放射線量の計算も酷く混乱しています。

日本政府は、年間20ミリシーベルトの摂取を学童に認可していますが、これは、原発労働者の年間の摂取量に相当します。これは子供たちの危険を二十倍に倍増していることを意味するのです!

国民の背負うリスクを軽減するための本当の意味での施策はまだ存在しないのです。

このまま何も状況が変わらなければ、今後放射能の影響によるガン患者が何千人と生まれることは明白です。

記者:福島の地域住民の被害状況は、チェルノブイリ事故の後にベラルーシの人々がさらされた状況と同じくらい酷いものであると言っていいのでしょうか?

放射能の排出量が低いといっても、人口密度がより高い限られた面積の上に集中して散布されているわけですから、健康への影響という意味ではチェルノブイリを上回っていると私は考えます。このままでは大勢の人が見殺し状態になる可能性があります。

「原子力に未来はない」

記者:このような劇的状況にもかかわらず、日本は脱原発を宣言していませんが・・・。

マイケル・シュナイダー:事実を観察すれば、脱原発の方向に進んではいます。繰り返しますが、福島の傷跡は、たとえそれが外からはわからないものであったとしても、とても大きいものです。加えて日本は、この半世紀で初めて自民党ではなく民主党が与党につくという政治的にも特殊な状況に置かれています。そしてこの民主党は原子力推進派の政党ではなく、党員の多くが、たとえばフランスの社会党と比較してもそれを上回るほどの反原発の立場を取っています。重要な立場にある人間が原子力批判をするということもあり、またそれは決して孤立した意見ではありません。

確かに原子力推進派のロビー団体は日本において非常に大きな勢力を持ち、国自身も、電力の輸出国になるために一貫した転換を図ろうとしていました。

しかしながら、民主党は、この遺産を継承する必要はありません。それどころか、この動きに対し一定の距離を保つことに利益を見いだすはずです。

管直人首相は、福島の危機に対する管理能力から多くの批判を受けていますが、前任者たちの政治からの離脱という点において突破口を見いだせるかもしれません。面子を失うことが政治家にとって最も恐れられる国において、自民党に危機の責任を負いかぶせる形で、身の振り方を見出すのは、民主党にとっては魅力的な方法に思えることでしょう。

管の支持率は過去最低を記録しており、脱原発を宣言したところで失うものはもはや何もありません。実際に彼はそうしようとしていますね。具体的には、新規の原発を作らないことを先日宣言しました。

また、福島同様、沿岸に位置する浜岡原発の閉鎖を要請しました。浜岡には五つの原子炉がありますが、2009年には、新たな耐震基準に合わせた改修工事がコスト的に見合わないという理由からそのうちの二つを閉鎖しました。現在残る三つの原子炉も活動を停止しています。五番めの原子炉は2005年に完成したばかりでしたから、「ボロだったから停止した」というわけではありません。

合計すると日本にある54の原子炉のうち、現在半数近くが活動を停止しています。日本が過去の政治の遺産と完全に離別する日が訪れる可能性は極めて高いと思います。国内の政治の状況のみならず、国際的な世論もこの動きを後押しするでしょう。

記者:世界で最も多くの原発の稼働を誇るアメリカの状況はどうでしょうか?

マイケル・シュナイダー:オバマ政権は、原発の改修について好意的な宣言をしています。ただし実際には、原発の実権を握るのは、政府ではなく電力会社です。今日、電力会社は撤退の動きを始めています。中でも最大級の規模だった南テキサスの建設計画( South Texas Project」)は白紙となり、48100万ドルの投資は泡と消えました。

現在アメリカで唯一建設が続けられているのは、テネシーにあるワッツバー原発です。

これは1972年より開始された計画で、順当にいけば、来年からの稼働が予定されています。しかし、順調に活動を開始したとしても、それまでに40年の月日が掛けられているということは考察に値するでしょう・・・。アメリカの電力大手の一つであるExelonの代表であるジョン・ロウは、福島の事故より以前から、新しい原子炉の建設は経済的に何の意味もなさないことをすでに公言していました。

原子炉の新築コストは、2008年から2010年にかけて倍以上に跳ね上がっており、福島以降、さらに高騰することが予想されています。この技術に未来への展望はありません。アメリカは間違いなく、原子力ルネッサンス(訳注:サルコジ仏大統領がフランスの原子力産業を形容する際の表現)の国ではないでしょう。

原発の建設を続けるのは、中国やインドといった国のみでしょう。そして中国は、クリーンエネルギーの開発を原子力と同等、もしくは、それ以上に続けています。2010年には、380億ユーロの投資を行い、すでに世界を牽引する立場にあります。2010年末には、中国では風力発電による電力の生産が原発のそれを4.5倍上回ったとの数字も出ています。

記者:しかしながら、原子力は、そもそも地球温暖化による脅威への一つの解決策ではなかったでしょうか?

マイケル・シュナイダー:原子力産業に残された最後のセールストークは、温室効果ガスの排出量を軽減できるという点でした。地球温暖化のリスクを回避するという目的は別として、エネルギーというものはそもそも、安くつき、かつ生産基地の開発に時間がかからないことがよしとされているはずです。一方原発は、高くつく上に、建設にも時間がかかります。

「フランスは時代に乗り遅れようとしている」

記者:ではどのようなエネルギーに我々は賭けるべきなのでしょう?

マイケル・シュナイダー:再生可能エネルギー以外にないでしょう!そして、何よりも、エネルギー産業の効率化も欠かせません。

たとえば、カリフォルニアのように、いくつかのアメリカの州ではすでに進んだ施策が取られています。少なくとも、現在転換期を迎えようとしているドイツよりははるかに進んでいるのです。

ドイツでは2007年までは、風力と太陽光によって生産された新たな電力は、全体の消費電力の上昇分を補う役割しか果たせていませんでした。しかしながら、ドイツ人は太陽光発電による電力料金の低下については楽観的な見解を見せており、2015年までには「グリッド・パリティ」、つまり再生可能エネルギーによる発電コストが既存の商用電力の価格と同等かそれ以下になる分岐点を迎えるとしています。

アメリカには、すでにそのような状況を迎えた自治体も存在しています。

しかしアメリカが最も進んでいるのは電力網の構築においてでしょう。電力の未来はエネルギー源の選択の問題を除くと、そのネットワークをどのように構築するかにかかってきます。

限られた生産者が消費者への電力の供給を担う現行のシステムは時代遅れと言えるでしょう。供給者が需要者になるという新たなパラダイムに転換すべきです。

将来、各世帯に太陽光もしくは風力による発電装置が配置されれば、無数の供給者が出現することになります。例えば、冷蔵庫が電力網の構成要素になる、ということでもいいのかもしれません。

記者:どういうことですか?

マイケル・シュナイダー:つまり、電力消費がピークを迎える1,2時間の間、その機能を失うことなく電源をオフにするためのチップを、各世帯の冷蔵庫に内蔵することができるのです。これが「スマートグリッド(訳注:アメリカで考案された新しい電力網。

発電設備から末端の電力機器までをデジタル・コンピュータ内蔵の高機能な電力制御装置同士をネットワークで結び合わせて、従来型の中央制御式コントロール手法だけでは達成できない自律分散的な制御方式も取り入れながら、電力網内での需給バランスの最適化調整と事故や過負荷などに対する頑健さを高め、それらに要するコストを最小に抑えることを目的としている)」という発想です。

インテリジェントなネットワークが世帯毎の電力の消費を調整し、電力消費グラフを平坦化する、つまり急激な電力消費の変動を和らげるのです。もしくは、ある時間帯を避けて稼働する洗濯機なども考えられます。換言すると、定められた時間割にのみ稼働するサービスを使うことによって効率的に電力を使用できるようになりますが、それが嫌だという人はより高い電気代を払って、好きなように電力を使えばいいのです。

電子機器を活用することによって、電力供給者を素早く切り替えることができます。たとえば、アメリカのメーカーであるワールプールは2015年以降、「スマート・グリッド互換」の商品のみを生産することを発表しました。後は「インテリジェント」な電力メーターさえあれば実用化できるでしょう。ヨーロッパにはこのメーターの生産ノウハウはありますが、実用化するための法規がありません。対照的に、アメリカでは非常に速く事態が進展しています。

ル・モンド紙(2010812日付)の発表によれば、キャップジェミニ(訳注:情報サービス・コンサル ティングファーム)代表のコレット・レヴィネールは、電力産業の発展の鍵となるのは、「電力網のインテリジェント・ネットワークへの転換である」としています。この問題をおざなりにしたならば、ヨーロッパは近い将来アメリカに大きな後れを取ることになるでしょう。

記者EPR(訳注:European Pressurized Reactor、あらため、Evolutionary Power Reactor の略。第三世代の原子炉開発プロジェクトの総称で、フランスのアレバ社によって1990年代~2000年代にかけて推進された。なおアレバ社によるフィンランドのEPR建設は予算オーバーと建設の遅滞によって問題となっている。)や第四世代原子炉などはまだ先の話ですね!

マイケル・シュナイダー:私は原子力産業を三十年にわたり研究してきましたが、ほとんど自閉的とも言えるような、自己中心的な態度をこの産業は取ってきました。この業界ではいつも同じ人物同士で会議が開催され、堂々巡りを続けているのです。

アンリ・プログリオがル・モンド紙のインタビューで、日本の原発が地震によく耐え、事故が原子力産業の今後に何ら影響を与えなかったと発言しているのは、無責任である以前に、現実を否定している以外の何物でもありません。

フランスの原子力産業に関わる官僚たちに、はたして新聞を読んでいるのか、と問いたくなります。世界第五位の経済大国がエネルギー問題に関しては、1970年代のレベルに止まっていることは大問題でしょう。

原子力が重く、堅く、中央集権的なものの象徴であるのに対して、現在のキーワードは「軽やかさ」と、「柔軟性」と、「地方分権」といった言葉です。フランスは時代の波に取り残されつつあるのです。オバマは20102月のスピーチで、クリーン・エネルギーを制する国家が21世紀を制すると宣言しました。このままではフランスは分が悪いでしょうね