2009年10月30日金曜日

【沖縄基地問題】 辺野古案に大義はあるか(東京新聞)

「普天間移設 辺野古案に大義はあるか」
東京新聞10月30日の『特報』

 辺野古案に大義はあるか 混迷する米軍普天間飛行場移設問題。鳩山由紀夫首相は「最後の決断は私が下す」というが、実は普天間返還合意ができた一九九六年当時、米軍側はごく小さな代替施設を求めていたが、土建利権を求めた地元の要望で大規模滑走路計画に変更されたという証言がある。本当であれば、辺野古問題は外交問題である以前に、「ムダな公共事業」の問題となる。この計画に日本を守る大義はあるか。 (岩岡千景、出田阿生)


 研究成果をネット上で公開する、琉球大学の「学術リポジトリ」。この中に、「下河辺淳氏オーラルヒストリー(口述の史実記録)」と題された文献がある。元国土庁事務次官で長年、日本の国土政策に携わった下河辺淳氏(86)が二〇〇三年、早稲田大大学院の江上能義教授(政治学)に、九六年の沖縄・米軍普天間飛行場返還合意の背景などを語り残した記録だ。

下河辺淳氏オーラルヒストリー

 返還合意は九五年、沖縄で起きた米兵による少女暴行事件で、高揚した反基地世論を抑える米側からの提案とされてきた。だが下河辺氏の証言をたどると、普天間飛行場移設は
「軍事技術上の必要から」、事件以前に既定路線としてあった計画だったという。

 「近代化のために移転するということで、住民との関係で普天間を返してもらう運動に合意したなんていうことは一切ない」「(米兵が少女に)暴行したから、移転しますなんてことにはなんない」-。下河辺氏は、そう証言している。

 江上教授によると、米軍は既に六〇年代から、沖縄県内の複数の候補地を検討して飛行場の新設計画を立てていた。「米軍は市街地にあり、損傷もしている普天間の問題を意識していたのだろう。機動力があり、情報戦にも対応できる新たな飛行場を検討していた」と江上教授。

 この事実は沖縄の建築家、真喜志好一氏らによっても裏付けられているという。普天間返還合意の背景を調べる研究会を立ち上げた真喜志氏は、九七年に米国防総省がまとめた辺野古沖空港計画案に「滑走路の方位は六六年の計画に基づく」と記されているのを指摘。米軍がベトナム戦争中の六五年、新たな飛行場建設の適地を調査。辺野古沖海上はその時に既に候補に挙げられ、長年の計画だと明らかにした。

 さらに、下河辺証言によると、普天間に代わる飛行場に対し、米軍側が要求していたのは、面積は四分の一。滑走路も、ヘリコプターの発着に必要な四十メートルほどだったという。

 ただ江上教授は、「当時は反基地世論が強かった。その中で米軍はまず、機動力を上げるのに必要な最新鋭の垂直離陸機オスプレイ配置を確保する移設計画をつなぎ、タイミングを見て施設を拡大していくつもりだったのだろう」とみる。

 「そこに地元側の要望で軍民共用飛行場で千メートル規模の滑走路を造る、という流れになった。工事で地元に金を落とせ、という建設利権が背景にあるが、V字滑走路という計画が出てきた背景には米側の思惑も見え隠れし、最終的には米軍の手の上で踊らされている」

 外務省と防衛省は、証言の信ぴょう性を問う本紙の取材に対し、いずれも「答える立場にない」と回答した。     

 江上教授は、こうした構図を「要するに、自民党のバラマキ政治の産物。日本政府は建設業者に利益誘導し、資金をばらまいてきた。だが基地移設が宙に浮く中で、建設業者は相次いで倒産。名護市全体の地域経済は沈滞してしまった」と指摘。「土建業者優先で、生活再建を怠ってきたツケが今、出ている。一方で利益誘導に伴う圧力で、名護市は一般の人々は物が言えない、意見がすくい上げられない構図になってしまっている」と話す。
さらに、こう提言する。「生活再建のために基地を建設するやり方には限界がある。少女暴行事件はたびたび起き、沖縄だけが犠牲にされてきたという民衆感情も根強い。基地のない生活再建と、県外移設の議論が必要だ」

 ◆

 証言は、環境保全に取り組む人々にも複雑な思いを抱かせる。

 「当初の代替地案は小規模なヘリポートだったという証言は、今提案されている環境破壊をする大滑走路が不要ということを示している」と話すのは自然保護団体「ジュゴンネットワーク沖縄」の土田武信事務局長。

 「普天間飛行場はハーグ条約に反して米軍が戦後につくった基地。移設の前にまずは返還するべきだ」と指摘する。「県外だろうが海外だろうが、ダメなものはどこに持って行ってもダメ。この計画を撤回しなくては」

 また沖縄国際大の佐藤学教授(地方自治・米国政治)は「普天間返還の問題は、本来、米軍再編とは別に考えた方がいい。沖縄の人権と環境を守るため、すぐに閉鎖、返還するべきだ」と話す。

 「移設の本質は、民主党がやめると宣言した無駄な公共事業そのもの。小規模なヘリポート新設で十分だという当初案から、公共事業を受注したい地元業者の要望が後押しとなって、計画の規模が大きくなっていった」

 特別措置法で、公共工事に手厚い国の補助が出る沖縄。メガフロート(大きな艀(はしけ))や、くい打ちの上に滑走路を造成する案などが浮上しては消え、現在のV字滑走路案に落ち着いた。「軍民共用空港にし、十五年後に民間移譲」という稲嶺恵一前知事の提案も、本格的交渉に至らなかった。

 佐藤教授は「米軍にとり、普天間飛行場は代替地が必要なほど重要な基地ではない。そうでなければ、米軍が移設問題を十年以上ほったらかしておくわけがない」と指摘する。国際情勢は変わり、米中は急接近。尖閣諸島の領有権や北朝鮮のミサイル問題が残るが、「沖縄の海兵隊や飛行場新設とは関係ない」。

 佐藤教授は「日米安保の維持はしなければならないが、米軍も重要視していない飛行場を新設する必要はない。新政権は再交渉を始めるべきだ」と提言する。「フランスはイラク攻撃に反対したが、その後米仏関係は悪化していない。日本政府は何を怖がっているのか。対等な日米関係を築くためにも、米国の利益にすらならないような追従はするべきではない」

◆普天間移設問題の経緯
1995年9月 米兵による少女暴行事件
10月 抗議の県民総決起大会
96年4月 日米首脳会談 普天間返還で合意
97年1月 海上ヘリ基地、辺野古沖で日米基本合意
99年12月 名護市長、移設受け入れを発表。辺野古移設閣議決定
2002年12月 在日米軍再編協議始まる
04年9月 辺野古沖ボーリング調査開始 阻止行動激化
06年5月 在日米軍再編合意

<デスクメモ>
 外国では引退した老政治家が回顧録で“秘史”を暴露する。日本で珍しいのは、二世が後ろに控えているせいか。代わりに、「実は密約が…」などと漏らすのは官僚のトップであった事務次官ばかりだ。守秘義務から離れ、けた外れの退職金を得た彼らに後顧の憂いはない。どんどん暴露してほしい。 (充)


2009年10月28日水曜日

【メモ】 青い薔薇

最近多くの記事が配信をされ、消されていく。魚拓という方法もあるのだが、気がつくと消されている場合もある。
記事を長く残そうとする気が新聞社にはないようだ。


不可能覆し青いバラ 最先端バイオで実現、新たな一ページ

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20091028dde012040006000c.html

 この世に存在しなかった「青いバラ」が最先端のバイオ技術で開発され、来月3日から生花店に並ぶ。英語で「ブルー・ローズ」は「不可能」を意味する。自然界にない色だからこそ、人間は作りたがるのか。【鈴木梢】

 トラックの花売りが青いバラを荷台に積む。東京・銀座の夜の街角。真っ青なインクを吸わせた人工着色だが、仮初めの恋のイメージからか、酒場に欠かせないという。

 バラの品種がいくつあるのか、誰にも分からない。2万5000超とする専門書もあるが、世界で次々に新品種が誕生して把握しきれない。

 青いバラは、古くはギリシャ神話に登場する。「千一夜物語」では夢見る恋人の持つ花として用いられ、禁断のイメージを持つ。夢の花を現実に咲かせる試みは、1944年に青系品種「グレイパール」が発表されて熱を帯びた。戦後、青いバラの交配ブームがあり、「開発者のロマン」として全世界が挑んだ。青い色素がないバラは、赤い色素を極限まで薄めるしかない。そのため、どの花も藤色やラベンダー色と表現された。

 約30年前に確立した遺伝子操作技術が、新たな可能性を開いた。各国のベンチャー企業などは一獲千金のためこぞって開発競争に参入した。世界初の青いバラを誕生させたのはサントリーだ。90年から遺伝子組み換えの特許を多く有する豪企業と共同で開発してきた。パンジーの青い色素の遺伝子をバラに組み入れ、04年に開発に成功、5年かけて国の承認を得て販売にこぎつけた。

 サントリーはキクとカーネーションを青くする事業にも成功している。サントリー植物科学研究所の田中良和所長は「なぜかバラだけが騒がれる」と話す。田中所長は約20年研究を続けた原動力を、「だれもやれなかったことを成し遂げたい」という科学者の気概だという。首元で結んだ青い小バラ模様のネクタイが誇らしさを物語る。

秋はバラの季節でもある。千葉県佐倉市の「草ぶえの丘バラ園」は、現代バラの起源となる原種の保存に力を注ぐ。園内を歩くと品種改良の系譜が分かる。高貴な花とばかり思っていたが、一重咲きもある野生種の素朴さに驚かされた。現代のバラは人間が品種改良を繰り返し、洗練させたものだった。

 そもそも、花びらが色鮮やかなのは、花粉を運ぶ虫を引き寄せるためで、人間の観賞眼に応えるためではない。バラに青がないのは、「必要がない」からではないか--。

 「花が色素を作るのは、虫に見えやすくするため。鳥の目には赤がよく見える一方、ハチやハナアブには青や白が見えやすい。バラは虫にアピールするため、何らかの理由で白の色素を作るのに全力を尽くしたということでしょう」。バラ園を案内してくれた千葉県立中央博物館でバラ専門の上席研究員の御巫(みかなぎ)由紀さんが、滑らかに説明してくれた。

 バラと言えば深紅、という印象が付きまとう。だが、御巫さんは「本来、野生の赤いバラは多くはない。交通信号でも分かるように、人間は赤に反応しやすい。人間が育種して、赤いバラを集めた結果です。イネのように風が花粉を運ぶ風媒花や、虫媒花という言葉がありますが、バラは『人媒花』ともいわれる。人間はバラを求め、バラは人間を必要としてきた」という。

 確かに、バラと人間の付き合いは深く長い。栽培の始まりは紀元前とされ、古代エジプトの女王クレオパトラは寝室の床一面にバラを敷き詰めた逸話を残す。

 「羽衣」「万葉」など品種を集めた庭が見えた。「ミスター・ローズ」とたたえられた育種家、故・鈴木省三さんの作品という。バラを愛好した鳩山一郎元首相とも交友があり、元首相の妻の名にちなんで「薫子」という品種を生み出した。「青空」というほのかな紫色の品種は、鈴木さんも青いバラを狙っていたことを示している。

 青--。群青、エメラルドブルー、濃紺、淡い水色、と思い浮かぶ色は一様ではない。文星芸術大学の小町谷朝生教授(色彩学)は、江戸時代に藍(あい)染めの「ジャパン・ブルー」を世界で流行させた日本は、色の濃淡を味わう豊かな色彩文化があるという。さらに、「海に囲まれた島国の日本は海洋民族で、基底には水の文化がある」と青に親しむ地理的な条件を挙げ、「外国人の青い目に比べ、日本人の茶色の目は青に対して感度が高く、細かく識別できる」と感受性の強さを指摘する。

 サントリーは世界で初めて、青い色素デルフィニジンをバラに取り入れることに成功した。しかし見た目は、青みを帯びた薄紫色。花弁の青い色素は95%に達したが、含有率が高いから濃い青になるとは限らないのが生物の神秘だ。御巫さんは「自然界では絶対に起き得ないことを可能にし、どんなにほめても足りない。ただ、まだ美しさで評価できるレベルではない。青色色素が入った可能性を広げ、未来につなげてほしい」と期待を寄せる。

 一方、小町谷教授は異議を唱える。「白と黒ほどではないにしても、このバラと青はそれに匹敵するほど違う。海や空の青ができたら、素晴らしいでしょう」

 小町谷教授はさらに、人が赤いバラを集めてきた理由を時代と重ね合わせる。「我々は温血動物なので、血の赤を温かいと感じる。赤は太陽の光の領域で活動的、青は陰の領域で非生産的です。赤が注目されたのは18世紀からで、現代の都市生活は赤に傾いていった。人間だけ集めて社会という集団を作っているためで、この現象は先進国ほど顕著です」

「青いバラ」という本がある。ノンフィクションライターの最相葉月さんが世界の育種家の壮大なドラマを01年にまとめた。最相さんが取材を始めた97年、クローン羊のドリーや遺伝子組み換え食品が世間を騒がせており、「時代の転換期、青いバラは象徴的な存在だと思った」と振り返る。最相さんは今、発売を前に感慨を深める。「作り手にとっては、果てしない旅での大きな一歩です。受け止める側には、その時間と途方もなさを知っておいてほしい」

 加速度的に進む遺伝子研究。佐倉のバラ園を開いたバラ文化研究所の前原克彦理事長は「青いバラを作った技術に敬意を表しますが、神の領域を侵しているとは思う。医療分野と違い、バラは命にかかわるものではない。だからこそ普通の人間の感覚が問われるのではないか」。世に出る花の真価を問うのは、人間の美意識にほかならない。

 「バラ色の人生」。その色を「青」と連想する人はいないだろう。だからこそ人間は不可能に挑み、ロマンを追い求める。

 ◇理想はヒマラヤの青いケシ
 あなたは世界初の「青いバラ」を見て、どんな色を思い浮かべますか。バラにゆかりのある人たちは、「ヒマラヤの青いケシ」が理想と口をそろえる。「幻の花」とされ、花びらは透けるように薄く、澄み切ったブルーは海や空を思わせる。サントリーの「青いバラ」は薄青紫色。香りは花の女王らしく優雅で華やか、緑のすがすがしさが鼻腔(びこう)に残る。価格は1本2000~3000円。青を極める研究は続く。

【東京地検特捜部】 鳩山偽装献金

鳩山首相の偽装政治献金事件をどうみるか。関係者の討論の結果である。

A ≪鳩山総理の偽装献金事件とはどのような内容か≫

B 【報道されている偽装問題は次の2つである】

① 一つは資金管理団体「友愛政経懇話会」の05~08年分の収支報告書では、故人など約90人の名前を使った計約2177万円の虚偽記載の件である。これは今年の6月に鳩山議員は虚偽であったと認めている。

②もうひとつは、04~08年分の政治資金収支報告書に記載された計約1億7717万円に上る小口の匿名献金の大半が、鳩山家の資産管理会社「六幸商会」(東京都港区)の管理資金だったという虚偽記載の内容である。(10月25日朝日新聞朝刊)5万以下の献金が総額を記載すればよく、各人の寄付金額氏名などを記載しなくも良いので、その条文を使ったという報道である。

A ≪何故鳩山総理はそのような馬鹿なことをしたのか?故人を記載すれば、いずれその事実が明らかになるのに!≫

B そうですね。それが普通の感覚。総理の説明によると、上記①の事実は、秘書に預けていたカネを秘書が個人献金が少ないでの、あたかも個人献金が多数なされているかのごとく偽装したというのである。秘書が勝手に行ったので、その秘書を解雇したと公表した。

上記②の行為については鳩山総理の説明はない。しかし当然に予想された内容。故人の献金を偽装する位なら、氏名を記載しなくても良い5万円以下に偽装があるのは当然の話だろう。

しかしこのような処理は、政治的には、お粗末そのもの】

A ≪偽装行為が政治資金規正法のどの条文に違反するのか?≫

C 【上記①の件については、故人名義の寄付は本当は鳩山議員の寄付であるから法22条の6の「他人名義の寄付」に該当する。寄付した鳩山は、他人名義の寄付を自己の政治団体に寄付する故意を有すれば、法23条3項違反になる。総理の釈明通り、預けたカネを秘書が故人献金として処理したなら罪には問いにくい。しかし実際は釈明通りかどうかは疑問だ】

A ≪秘書はどのような罪に問われるか≫

C 【鳩山総理の記者会見のとおりとすれば、秘書は鳩山議員個人のカネであることを承知して、寄付を受けたのであるから法22条の6、第2項違反になる。その上、故人からあたかも寄付があったかのごとく、収支報告書に虚偽の記載をした罪=法12条に違反する法25条1項の虚偽記載罪(5年以下の禁固又は100万円以下の罰金)の罪に該当する。

A ≪鳩山家が5万以下の献金の大半を献金していた場合は鳩山家は罪に問われるか≫

C 【上記②の寄付の件は鳩山家の誰かが匿名献金をしていたとすれば、その寄付者は「匿名」であることを承知して寄付をしておれば、故意が存在し、その家族は法22条の6の「匿名献金」の罪になる。

普通は収支報告書に顕名か匿名かは会計責任者がその寄付者の意向を聞かずに匿名にすることはあり得ない。税金の控除は不要と言っておれば、一般的には会計責任者にお任せとなるから、故意を問うのは困難だ。鳩山家の家族が大金持だから、そのような寄付金控除などはさらさら考えていなかったと言われると、秘書との共謀の立証は困難。

A ≪年間1000万円を超える罪には家族は問われるのではないか≫

C 【家族が一人あたり、年間1000万円を超えて寄付しておれば法21条の3.3項 「個人のする政治活動に関する寄附で政党及び政治資金団体以外の者に対してされるものは、各年中において、1000万円を超えることができない」に違反する。

ただ、鳩山家全体で1000万円を超えていても、鳩山家族の個人、個人の寄付額が1人あたり1000万円以下ならこの条文に違反しない。

B ≪5年間で、1億7千7百万円であるから、1年間で約3500万円余。4人が寄付しておれば、法21条の3には違反しないことになるか≫

C 【その場合は1000万円を超える罪には問えない】

B ≪資産管理会社「六幸商会」が寄付した場合はどうか≫

C 【この管理会社が法人だとすれば、法人及びその代表者らも自然人と同じ条文の罪に違反するが、実際は家族より、もっと追及は難しくなるだろう】

A ≪これらの時効は何年か≫

C 【匿名寄付、第3者寄付の罪の時効は3年である。寄付したときが時効の起算点となる。よって、寄付日時は不明だが、今直ちに起訴すると仮定すれば2006年10月26日以前の寄付分は時効になっている。12条違反の虚偽記載罪の時効は5年だから、2005年3月に収支報告書を総務大臣に提出した以降の分は問えることになる】

B ≪一時新聞報道で、鳩山議員や鳩山一族の税金対策に悪用されているという疑いがあったが、これはどうか≫

D 【この点、各社からよく問い合わせもあったが、鳩山一族の税金の控除に使われている可能性は全くない。国会議員の主催する政治団体に寄付をすると、税の控除を受けることができる。税の控除をうけようとすれば、総務省か各地の選管が発行する「寄付金控除証明書」の交付を受けて税務署に申告しなければならない。ところが、第3者の「寄付金控除証明書」を貰っても、収支報告書に記載のある本人しか利用できない。「匿名」献金の場合はそもそも匿名だから、「寄付金控除証明書」は発行されない。よって、寄付金控除を悪用することは法律を知らない記者が書く記事】

A ≪実際この事件を東京地検は起訴するのか≫

C 【上記①の故人献金の件は総理、秘書が認めているが故に証拠がある。この事件だけなら、秘書が事実をみとめかつ反省もしているので、起訴猶予にし、鳩山総理を嫌疑不十分とする可能性がある。時の政権政党の総理自身を政治資金規正法違反で起訴して、辞任に追い込むことなることは検察も選択しないだろう。証拠の有無にかかわらずだ。

今回の虚偽記載の金額が2005年から2008年まで2177万円、2009年3月届け出分も含めるともっと増えても同じであろう。

しかし上記②の5万円以下の虚偽記載の分がどれだけ増えるかか不透明だが、これが相当な金額になれば秘書を略式起訴か在宅正式起訴かは問わず、起訴しないわけにはいかないのではないか。

もし秘書を起訴猶予にすると、時の総理大臣の元秘書だから、今度は時の権力に迎合したと検察が批判されるからだ】

D ≪鳩山の虚偽記載は小沢議員や二階議員のケースと違い、ダーテイな面が見えない。根本的に違うのでないか≫

C 【政治資金規正法は、一番重要な点はカネの「入」「出」の透明性の確保である。これが家族だから許すという論理は規正法の趣旨にはない。

しかし、家族が寄付し、利権と無関係だと、ダーテイな面がない。検察も起訴しにくい面はある。国民感情として家族間の寄付なら良いではないかと思い、それを許すという側面もある。

政治資金オンブズマンとしても告発しなかったのもこの点にあった。

同時に、総選挙という国民の「裁判」を受け、国民は鳩山の故人献金偽装を知りながら、鳩山総理を選んだ点は検察も考慮せざるを得ない。検察の判断や裁判官の判決より、より重い、いわば国民の「判決」があったからだ。

5万以下の件は総選挙当時には明らかでなかったが、これも寄付者が家族で利権が背後になければ多くの国民が改革に期待しこれを許すだろうね】

A ≪二階議員を告発した事件はどうなっているのか≫

C 【それが、今なお処分されない。一説によると鳩山と同時に処分するのでないかと言われている。

鳩山の秘書も起訴するから、二階の秘書も起訴する。鳩山の秘書も不起訴にするから、二階の秘書も不起訴にするというバランス論である。

これでやっかいな事件は検察批判にならずに終了できると。

二階議員の秘書を不起訴にし、鳩山議員の秘書を起訴するとなると、政権交代をして、鳩山総理に対して、改革を期待している多くの国民がいる中で、このような「不公平」な処分がでると、検察批判がでることは確実である】

A≪鳩山総理は秘書だけの処分で終わると、検察に証拠=弱みを握られ、強く検察官僚批判ができなくなる点を心配するが杞憂か??≫

C【検察はこの際、仮に鳩山総理や一族の者が関与していた可能性があってもあまり深く追求せず、秘書の弁明=鳩山総理のストーリー通り処分する可能性が高いのでないか。その心配は杞憂ではない】

D 【鳩山のカネ問題も重要だが、今一番重要なことは、民主党がマニフェストで国民に約束した企業・団体献金禁止法を通常国会に早急に提出することではないか。そうすれば、鳩山の秘書が起訴され、野党やマスコミが鳩山総理辞任を騒いでも、多くの国民は、鳩山辞めるな、コールが起こり、鳩山を支持することになるのでないか】

ABC共通 【政治とカネを追及してきた政治資金オンブズマンのメンバーでさえその意見には、賛同する。

企業団体献金禁止のチャンスはこの時期を除いてない。鳩山辞任で混乱するより、企業・団体献金禁止にピリオドを打つことこそ、鳩山総理に期待する内容であるからだ。

しかし鳩山総理が、企業団体献金禁止のマニフェストをうやむやにするなら、今度は鳩山政権は政治とカネに熱心な政党でないと批判活動を展開することになろう】

2009年10月27日火曜日

【鳩山内閣】 所信表明

所信表明演説全文

 あの暑い夏の総選挙の日から、すでに2か月がたとうとしています。また、私が内閣総理大臣の指名を受け、民主党、社会民主党、国民新党の3党連立政策合意の下に、新たな内閣を発足させてから、40日がたとうとしています。

 総選挙において、国民の皆さまは政権交代を選択されました。これは日本に民主主義が定着してから、実質的に初めてのことです。

 長年続いた政治家と官僚のもたれ合いの関係、しがらみや既得権益によって機能しなくなった政治、年金や医療への心配、そして将来への不安など、「今の日本の政治をなんとかしてくれないと困る」という国民の声が、この政権交代をもたらしたのだと私は認識しております。その意味において、あの夏の総選挙の勝利者は国民一人ひとりです。その、一人ひとりの強い意思と熱い期待に応えるべく、私たちは「今こそ日本の歴史を変える」との意気込みで、国政の変革に取り組んでまいります。

 この間、私たちは、新しい政権づくり、新しい政治の枠組みづくりに必死に取り組んでまいりました。その過程において、国民の皆さまの変革への期待を感ずる一方、「本当に変革なんてできるのだろうか」という疑いや、「政治なんて変わらない」「政治が変わっても、自分たちの生活は変わらない」というあきらめの感情が、いまだ強く国民の中にあることを痛感させられました。

 ここまでの政治不信、国民の間に広がるあきらめの感情の責任は、必ずしも従来の与党だけにあったとは思っておりません。野党であった私たち自身も、自らの責任を自覚しながら問題の解決に取り組まなければならないと考えております。

 ここに集まられた議員の皆さん。

 私たちが全力を振り絞ってお互いに闘ったあの暑い夏の日々を思い出してください。皆さんが、全国の町や村、街頭や路地裏、山や海、学校や病院で、国民の皆さまから直接聞いた声を思い出してください。

 議員の皆さん、皆さんが受け止めた、国民一人ひとりの願いを、互いにかみしめ、しっかりと、一緒に、実現していこうではありませんか。政党や政治家のためではなく、選挙のためでももちろんなく、真に国民のためになる議論を、力の限り、この国会でぶつけ合っていこうではありませんか。

 変革の本番はまさにこれからです。今日を、その新たな出発の日としようではありませんか。

 ◆戦後行政の大掃除◆

 私は、政治と行政に対する国民の信頼を回復するために、行政の無駄や因習を改め、まずは政治家が率先して汗をかくことが重要だと考えております。

 このために、鳩山内閣は、これまでの官僚依存の仕組みを排し、政治主導・国民主導の新しい政治へと百八十度転換させようとしています。各省庁における政策の決定は、官僚を介さず、大臣、副大臣、大臣政務官からなる「政務三役会議」が担うとともに、政府としての意思決定を内閣に一元化しました。また、事務次官等会議を廃止し、国民の審判を受けた政治家が自ら率先して政策の調整や決定を行うようにいたしました。重要な政策については、各閣僚委員会において徹底的に議論を重ねた上で結論を出すことにいたしました。

 この新たな体制の下、まず行うべきことは「戦後行政の大掃除」です。特に二つの面で、大きな変革を断行しなければなりません。

 ひとつめは「組織や事業の大掃除」です。

 私が主宰する行政刷新会議は、政府のすべての予算や事務・事業、さらには規制のあり方を見直していきます。税金の無駄遣いを徹底して排除するとともに、行政内部の密約や省庁間の覚書も世の中に明らかにしてまいります。すでに、本年度補正予算を見直した結果、約3兆円にも相当する不要不急の事業を停止させることができました。この3兆円は、国民の皆さまからお預かりした大事な予算として、国民の皆さまの生活を支援し、景気回復に役立つ使い途へと振り向けさせていただきます。今後も継続して、さらに徹底的に税金の無駄遣いを洗い出し、私たちから見て意味のわからない事業については、国民の皆さまに率直にその旨をお伝えすることによって、行政の奥深くまで入り込んだしがらみや既得権益を一掃してまいります。また、右肩上がりの成長期に作られた中央集権・護送船団方式の法制度を見直し、地域主権型の法制度へと抜本的に変えてまいります。加えて、国家公務員の天下りや渡りのあっせんについてもこれを全面的に禁止し、労働基本権のあり方を含めて、国家公務員制度の抜本的な改革を進めてまいります。

 情報面におきましても、行政情報の公開・提供を積極的に進め、国民と情報を共有するとともに、国民からの政策提案を募り、国民の参加によるオープンな政策決定を推進します。

 もうひとつの「大掃除」は、税金の使い途と予算の編成のあり方を徹底的に見直すことです。

 国民の利益の視点、さらには地球全体の利益の視点に立って、縦割り行政の垣根を排し、戦略的に税財政の骨格や経済運営の基本方針を立案していかなければなりません。私たちは、国民に見えるかたちで複数年度を視野に入れたトップダウン型の予算編成を行うとともに、個々の予算事業がどのような政策目標を掲げ、またそれがどのように達成されたのかが、納税者に十分に説明できるように事業を執行するよう、予算編成と執行のあり方を大きく改めてまいります。すでに、これまでは作ることを前提に考えられてきたダムや道路、空港や港などの大規模な公共事業について、国民にとって本当に必要なものかどうかを、もう一度見極めることからやり直すという発想に転換いたしました。今後もまた、私と菅副総理のもと、国家戦略室において財政のあり方を根本から見直し、「コンクリートから人へ」の理念に沿ったかたちで、硬直化した財政構造を転換してまいります。国民の暮らしを守るための財政のあるべき姿を明確にした上で、長く大きな視野に立った財政再建の道筋を検討してまいります。

 政治もまた、国民の信頼を取り戻さなければなりません。政治資金をめぐる国民の皆さまのご批判を真摯(しんし)に受け止め、政治家一人ひとりが襟を正し、透明性を確保することはもちろん、しがらみや既得権益といったものを根本から断ち切る政治を目指さなければなりません。私の政治資金の問題によって、政治への不信を持たれ、国民の皆さまにご迷惑をおかけしたことを、誠に申し訳なく思っております。今後、政治への信頼を取り戻せるよう、捜査に全面的に協力してまいります。

 ◆友愛政治の原点◆

 私もまた、この夏の選挙戦では、日本列島を北から南まで訪ね、多くの国民の皆さまの期待と悲痛な叫びを耳にしてきました。

 青森県に遊説に参った際、大勢の方々と握手させていただいた中で、私の手を離そうとしない、一人のおばあさんがいらっしゃいました。息子さんが職に就けず、自らのいのちを断つしか途がなかった、その哀しみを、そのおばあさんは私に対して切々と訴えられたのです。毎年3万人以上の方々のいのちが、絶望の中で断たれているのに、私も含め、政治にはその実感が乏しかったのではないか。おばあさんのその手の感触。その眼の中の悲しみ。私には忘れることができませんし、断じて忘れてはならない。社会の中に自らのささやかな「居場所」すら見つけることができず、いのちを断つ人が後を絶たない、しかも政治も行政もそのことに全く鈍感になっている、そのことの異常を正し、支え合いという日本の伝統を現代にふさわしいかたちで立て直すことが、私の第一の任務です。

 かつて、多くの政治家は、「政治は弱者のためにある」と断言してまいりました。大きな政府とか小さな政府とか申し上げるその前に、政治には弱い立場の人々、少数の人々の視点が尊重されなければならない。そのことだけは、私の友愛政治の原点として、ここに宣言させていただきます。

 今回の選挙の結果は、このような「もっとも大切なこと」をおろそかにし続けてきた政治と行政に対する痛烈な批判であり、私どもはその声に謙虚に耳を傾け、真摯に取り組まなければならないと、決意を新たにしております。

 ◆国民のいのちと生活を守る政治◆

 本当の意味での「国民主権」の国づくりをするために必要なのは、まず、何よりも、人のいのちを大切にし、国民の生活を守る政治です。

 かつて、高度経済成長の原動力となったのは、貧困から抜けだし、自らの生活や家族を守り、より安定した暮らしを実現したいという、国民の切実な思いでした。ところが、国民皆年金や国民皆保険の導入から約50年がたった今、生活の安心、そして将来への安心が再び大きく揺らいでいます。これを早急に正さなければなりません。

 年金については、今後2年間、「国家プロジェクト」として、年金記録問題について集中的な取り組みを行い、一日も早く国民の信頼を取り戻せるよう、最大限の努力を行ってまいります。そして、公平・透明で、かつ、将来にわたって安心できる新たな年金制度の創設に向けて、着実に取り組んでまいります。もとより、制度としての正確性を求めることは重要ですが、国民の生活様式の多様化に基づいた、柔軟性のある、ミスが起こってもそれを隠さずに改めていける、新しい時代の制度改革を目指します。

 医療、介護についても必死に取り組みます。新型インフルエンザ対策について万全の準備と対応を尽くすことはもちろん、財政のみの視点から医療費や介護費をひたすら抑制してきたこれまでの方針を転換し、質の高い医療・介護サービスを効率的かつ安定的に供給できる体制づくりに着手します。優れた人材を確保するとともに、地域医療や、救急、産科、小児科などの医療提供体制を再建していかなければなりません。高齢者の方々を年齢で差別する後期高齢者医療制度については、廃止に向けて新たな制度の検討を進めてまいります。

 子育てや教育は、もはや個人の問題ではなく、未来への投資として、社会全体が助け合い負担するという発想が必要です。人間らしい社会とは、本来、子どもやお年寄りなどの弱い立場の方々を社会全体で支え合うものであるはずです。子どもを産み育てることを経済的な理由であきらめることのない国、子育てや介護のために仕事をあきらめなくてもよい国、そして、すべての意志ある人が質の高い教育を受けられる国を目指していこうではありませんか。このために、財源をきちんと確保しながら、子ども手当の創設、高校の実質無償化、奨学金の大幅な拡充などを進めていきたいと思っております。

 さらに、生活保護の母子加算を年内に復活させるとともに、障害者自立支援法については早期の廃止に向け検討を進めます。また、職場や子育てなど、あらゆる面での男女共同参画を進め、すべての人々が偏見から解放され、分け隔てなく参加できる社会、先住民族であるアイヌの方々の歴史や文化を尊重するなど、多文化が共生し、誰もが尊厳をもって、生き生きと暮らせる社会を実現することが、私の進める友愛政治の目標となります。

◆人の笑顔がわが歓び◆

 先日、訪問させていただいたあるチョーク工場のお話を申し上げます。

 創業者である社長は、昭和34年の秋に、近所の養護学校の先生から頼まれて2人の卒業生を仮採用しました。毎日昼食のベルが鳴っても仕事をやめない2人に、女性工員たちは「彼女たちは私たちの娘みたいなもの。私たちが面倒みるから就職させてやってください」と懇願したそうです。そして、次の年も、また次の年も、養護学校からの採用が続きました。

 ある年、とある会でお寺のご住職が、その社長の隣に座られました。

 社長はご住職に質問しました。

 「文字も数も読めない子どもたちです。施設にいた方がきっと幸せなのに、なぜ満員電車に揺られながら毎日遅れもせずに来て、一生懸命働くのでしょう?」

 ご住職はこうおっしゃったそうです。

 「ものやお金があれば幸せだと思いますか」。続いて、「人間の究極の幸せは四つです。愛されること、ほめられること、役に立つこと、必要とされること。働くことによって愛以外の三つの幸せが得られるのです」

 「その愛も一生懸命働くことによって得られるものだと思う」、これは社長の実体験を踏まえた感想です。

 このチョーク工場は、従業員のうち7割が「障がい」という「試練」を与えられた、いわば「チャレンジド」の方々によって構成されていますが、粉の飛びにくい、いわゆるダストレスチョークでは、全国的に有名なリーディングカンパニーになっているそうです。障がいを持った方たちも、あるいは高齢者も、難病の患者さんも、人間は、人に評価され、感謝され、必要とされてこそ幸せを感じるということを、この逸話は物語っているのではないでしょうか。

 私が尊敬するアインシュタイン博士も、次のように述べています。

 「人は他人のために存在する。何よりもまず、その人の笑顔や喜びがそのまま自分の幸せである人たちのために。そして、共感という絆(きずな)で結ばれている無数にいる見知らぬ人たちのために」

 ◆地域の「絆」◆

 ここ10年余り、日本の地域は急速に疲弊しつつあります。経済的な意味での疲弊や格差の拡大だけでなく、これまで日本の社会を支えてきた地域の「絆」が、今やずたずたに切り裂かれつつあるのです。しかし、昔を懐かしんでいるだけでは地域社会を再生することはできません。

 かつての「誰もが誰もを知っている」という地縁・血縁型の地域共同体は、もはや失われつつあります。そこで、次に私たちが目指すべきは、単純に昔ながらの共同体に戻るのではない、新しい共同体のあり方です。スポーツや芸術文化活動、子育て、介護などのボランティア活動、環境保護運動、地域防災、そしてインターネットでのつながりなどを活用して、「誰かが誰かを知っている」という信頼の市民ネットワークを編みなおすことです。「あのおじいさんは、一見偏屈そうだけど、ボランティアになると笑顔が素敵なんだ」とか「あのブラジル人は、無口だけど、ホントはやさしくて子どもにサッカー教えるのもうまいんだよ」とかいった、それぞれの価値を共有することでつながっていく、新しい「絆」をつくりたいと考えています。

 幸い、現在、全国各地で、子育て、介護、教育、街づくりなど、自分たちに身近な問題をまずは自分たちの手で解決してみようという動きが、市民やNPOなどを中心に広がっています。子育ての不安を抱えて孤独になりがちな親たちを応援するために、地域で親子教室を開催し、本音で話せる「居場所」を提供している方々もいらっしゃいます。また、こうした活動を通じて支えられた親たちの中には、逆に、支援する側として活動に参加し、自らの経験を活かした新たな「出番」を見いだす方々もいらっしゃいます。

 ◆「新しい公共」◆

 働くこと、生活の糧を得ることは容易なことではありません。しかし、同時に、働くことによって人を支え、人の役に立つことは、人間にとって大きな喜びとなります。

 私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う「新しい公共」の概念です。「新しい公共」とは、人を支えるという役割を、「官」と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です。

 国民生活の現場において、実は政治の役割は、それほど大きくないのかもしれません。政治ができることは、市民の皆さんやNPOが活発な活動を始めたときに、それを邪魔するような余分な規制、役所の仕事と予算を増やすためだけの規制を取り払うことだけかもしれません。しかし、そうやって市民やNPOの活動を側面から支援していくことこそが、21世紀の政治の役割だと私は考えています。

 新たな国づくりは、決して誰かに与えられるものではありません。政治や行政が予算を増やしさえすれば、すべての問題が解決するというものでもありません。国民一人ひとりが「自立と共生」の理念を育み発展させてこそ、社会の「絆」を再生し、人と人との信頼関係を取り戻すことができるのです。

 私は、国、地方、そして国民が一体となり、すべての人々が互いの存在をかけがえのないものだと感じあえる日本を実現するために、また、一人ひとりが「居場所と出番」を見いだすことのできる「支え合って生きていく日本」を実現するために、その先頭に立って、全力で取り組んでまいります。

◆人間のための経済へ◆

 市場における自由な経済活動が、社会の活力を生み出し、国民生活を豊かにするのは自明のことです。しかし、市場にすべてを任せ、強い者だけが生き残ればよいという発想や、国民の暮らしを犠牲にしても、経済合理性を追求するという発想がもはや成り立たないことも明らかです。

 私は、「人間のための経済」への転換を提唱したいと思います。それは、経済合理性や経済成長率に偏った評価軸で経済をとらえるのをやめようということです。経済面での自由な競争は促しつつも、雇用や人材育成といった面でのセーフティーネットを整備し、食品の安全や治安の確保、消費者の視点を重視するといった、国民の暮らしの豊かさに力点を置いた経済、そして社会へ転換させなければなりません。

 ◆経済・雇用危機の克服と安定した経済成長◆

 先の金融・経済危機は、経済や雇用に深刻な影響を及ぼし、今なお予断を許さない状況にあります。私自身、全国各地で、地域の中小企業の方々とお会いし、地域経済の疲弊や経済危機の荒波の中で、歯を食いしばって必死に努力されている中小企業主の皆さんの生の声をお伺いしてまいりました。まさにこうした方々が日本経済の底力であり、その方々を応援するのが政治の責務にほかなりません。経済の動向を注意深く見守りつつ、雇用情勢の一層の悪化や消費の腰折れ、地域経済や中小企業の資金繰りの厳しさなどの課題に対応して、日本経済を自律的な民需による回復軌道に乗せるとともに、国際的な政策協調にも留意しつつ持続的な成長を確保することは、鳩山内閣の最も重要な課題となります。

 私たちは、今国会に、金融機関の中小企業への貸し渋り、貸しはがしを是正するための法案を提出いたします。また、政府が一丸となって雇用対策に取り組むため、先般、緊急雇用対策本部を立ち上げ、職を失い生活に困窮されている方々への支援、新卒・未就職の方々への対応、中小企業者への配慮、雇用創造への本格的な取り組みなど、細やかで機動的な緊急雇用対策を政府として決定したところです。このような時にこそ、地方公共団体や企業、労働組合、NPOの方々を含め、社会全体が、支え合いの精神で雇用確保に向けた努力を行っていくべきだと考えます。

 年金、医療、介護など社会保障制度への不信感からくる、将来への漠然とした不安をぬぐい去ると同時に、子ども手当の創設、ガソリン税の暫定税率の廃止、さらには高速道路の原則無料化など、家計を直接応援することによって、国民が安心して暮らせる「人間のための経済」への転換を図っていきます。そして物心両面から個人消費の拡大を目指してまいります。

 同時に、内需を中心とした安定的な成長を実現することが極めて重要となります。世界最高の低炭素型産業、「緑の産業」を成長の柱として育てあげ、国民生活のあらゆる場面における情報通信技術の利活用の促進や、先端分野における研究開発、人材育成の強化などにより、科学技術の力で世界をリードするとともに、今一度、規制のあり方を全面的に見直し、新たな需要サイクルを創出してまいります。また、公共事業依存型の産業構造を「コンクリートから人へ」という基本方針に基づき、転換してまいります。暮らしの安心を支える医療や介護、未来への投資である子育てや教育、地域を支える農業、林業、観光などの分野で、しっかりとした産業を育て、新しい雇用と需要を生み出してまいります。さらに、わが国の空港や港を、世界、そしてアジアの国際拠点とするため、羽田の24時間国際拠点空港化など、真に必要なインフラ整備を戦略的に進めるとともに、環境分野をはじめとする成長産業を通じて、アジアの成長を強力に後押しし、わが国を含めたアジア全体の活力ある発展を促してまいります。

 ◆「地域主権」改革の断行◆

 「人間のための経済」を実現するために、私は、地域のことは地域に住む住民が決める、活気に満ちた地域社会をつくるための「地域主権」改革を断行します。

 いかなる政策にどれだけの予算を投入し、どのような地域を目指すのか、これは、本来、地域の住民自身が考え、決めるべきことです。中央集権の金太郎あめのような国家をつくるのではなく、国の縛りを極力少なくすることによって、地域で頑張っておられる住民が主役となりうる、そんな新しい国づくりに向けて全力で取り組んでまいります。そのための第一歩として、地方の自主財源の充実、強化に努めます。

 国と地方の関係も変えなければなりません。国が地方に優越する上下関係から、対等の立場で対話していける新たなパートナーシップ関係への根本的な転換です。それと同時に、国と地方が対等に協議する場の法制化を実現しなければなりません。こうした改革の土台には、地域に住む住民の皆さんに、自らの暮らす町や村の未来に対する責任を持っていただくという、住民主体の新しい発想があります。

 同時に、活気に満ちた地域社会をつくるため、国が担うべき役割は率先して果たします。戸別所得補償制度の創設を含めて農林漁業を立て直し、活力ある農山漁村を再生するとともに、生活の利便性を確保し、地域社会を活性化するため、郵便局ネットワークを地域の拠点として位置付けるなど、郵政事業の抜本的な見直しに向けて取り組んでまいります。

日本は、経済だけでなく、環境、平和、文化、科学技術など、多くの面で経験と実力を兼ね備える国です。だからこそ、国連総会で申し上げたように、ほかでもない日本が、地球温暖化や核拡散問題、アフリカをはじめとする貧困の問題など、地球規模の課題の克服に向けて立ち上がり、東洋と西洋、先進国と途上国、多様な文明の間の「架け橋」とならなければなりません。こうした役割を積極的に果たしていくことこそ、すべての国民が日本人であることに希望と誇りを持てる国になり、そして、世界の「架け橋」として国際社会から信頼される国になる第一歩となるはずです。


 世界は、今、地球温暖化という、人類の生存にかかわる脅威に直面しています。本年12月のコペンハーゲンにおけるCOP15に向けて、地球温暖化という大きな脅威に対して立ち向かっていますが、このことは、決して生易しいことではありません。

 しかし、私は確信しております。資源小国・日本が、これまで石油危機や公害問題を乗り越える中で培ってきた技術にさらに磨きをかけ、世界の先頭に立って走ることで、必ずや解決に向けた道筋を切り拓くことができると。そして、同時にそれが、日本経済にとっての大きなチャンスであることも、過去の歴史が示しております。

 私は、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、2020年に、温室効果ガスを、1990年比で25%削減するとの目標を掲げ、国際交渉を主導してまいります。

 また、途上国支援のための「鳩山イニシアティブ」を実行することで、先進国と途上国との「架け橋」としての役割を積極的に果たし、世界規模での「環境と経済の両立」の実現、「低炭素型社会」への転換に貢献してまいります。そのため、地球と日本の環境を守り、未来の子どもたちに引き継いでいくための行動を、「チャレンジ25」と名付け、国民の皆さまと一緒に、私の政治的リーダーシップのもと、あらゆる政策を総動員し、推進してまいります。

 人類の生存の上で、核兵器の存在や核の拡散ほど深刻な問題はありません。私は、オバマ大統領が勇気を持って打ち出した「核のない世界」という提案に深く共感し、これを強く支持します。しかし、そのことは、米国のみが核廃絶に向けた責任を負うということではありません。むしろ、すべての国が責任を自覚し、行動を起こすことが求められているのです。唯一の被爆国として核廃絶を主張し、また、非核三原則を堅持してきた日本ほど、「核のない世界」の実現を説得力をもって世界に訴えることのできる国はありません。私は、世界の「架け橋」として、核軍縮や核不拡散に大きく貢献し、未来の子どもたちに「核のない世界」を残す重要な一歩を踏み出せるよう、不退転の決意で取り組みを進めてまいります。

 日本はまた、アジア太平洋地域に位置する海洋国家です。古来諸外国との交流や交易の中で、豊かな日本文化が育まれてまいりました。二度と再び日本を取り巻く海を「争いの海」にしてはいけません。友好と連帯の「実りの海」であり続けるための努力を続けることが大切です。このことは、日本のみならず、アジア太平洋地域、そして世界全体の利益だと考えます。その基盤となるのは、緊密かつ対等な日米同盟であります。ここで言う対等とは、日米両国の同盟関係が世界の平和と安全に果たせる役割や具体的な行動指針を、日本の側からも積極的に提言し、協力していけるような関係です。私は、日米の2国間関係はもとより、アジア太平洋地域の平和と繁栄、さらには、地球温暖化や「核のない世界」など、グローバルな課題の克服といった面でも、日本と米国とが連携し、協力し合う、重層的な日米同盟を深化させてまいります。また、こうした信頼関係の中で、両国間の懸案についても率直に話し合ってまいります。とりわけ、在日米軍再編につきましては、安全保障上の観点も踏まえつつ、過去の日米合意などの経緯も慎重に検証した上で、沖縄の方々が背負ってこられた負担、苦しみや悲しみに十分に思いをいたし、地元の皆さまの思いをしっかりと受け止めながら、真剣に取り組んでまいります。

 また、現在、国際社会全体が対処している最重要課題のひとつがアフガニスタン及びパキスタン支援の問題です。とりわけ、アフガニスタンは今、テロの脅威に対処しつつ、国家を再建し、社会の平和と安定を目指しています。日本としては、本当に必要とされている支援のあり方について検討の上、農業支援、元兵士に対する職業訓練、警察機能の強化等の日本の得意とする分野や方法で積極的な支援を行ってまいります。この関連では、インド洋における補給支援活動について、単純な延長は行わず、アフガニスタン支援の大きな文脈の中で、対処していく所存です。

 北朝鮮をめぐる問題に関しては、拉致、核、ミサイルといった諸懸案について包括的に解決し、その上で国交正常化を図るべく、関係国とも緊密に連携しつつ対処してまいります。核問題については、累次の国連安全保障理事会決議に基づく措置を厳格に履行しつつ、6者会合を通じて非核化を実現する努力を続けます。拉致問題については、考え得るあらゆる方策を使い、一日も早い解決を目指します。

 日露関係については、政治と経済を車の両輪として進めつつ、最大の懸案である北方領土問題を最終的に解決して平和条約を締結すべく精力的に取り組んでまいります。また、ロシアをアジア太平洋地域におけるパートナーと位置付けて協力関係を強化してまいります。

 先日来、私はアジア各国の首脳と率直かつ真摯な意見交換を重ねてまいりました。韓国、中国、さらには東南アジアなどの近隣諸国との関係については、多様な価値観を相互に尊重しつつ、共通する点や協力できる点を積極的に見いだしていくことで、真の信頼関係を築き、協力を進めてまいります。

 アジア太平洋地域は、その長い歴史の中で、地震や水害など多くの自然災害に悩まされ続けてまいりました。最近でもスマトラ沖の地震災害において、日本の国際緊急援助隊が諸外国の先陣を切って被災地に到着し、救助や医療に貢献しました。世界最先端レベルと言われる日本の防災技術や救援・復興についての知識・経験、さらには非常に活発な防災・災害対策ボランティアのネットワークを、この地域全体に役立てることが今後、より必要とされてくると思っております。

 東アジア地域は、保健衛生面でいまだに大きな課題を抱えるとともに、新型インフルエンザをはじめとした新たな感染症・疾病対策の充実が急務です。この分野でも、日本の医療技術や保健所を含めた社会システム全体の貢献など、日本が果たすべき役割は極めて重要です。

 文化面での協力、交流関係の強化も重要です。

 東アジアは、多様な文化が入り交じりながら、しかし、歴史的にも、文化的にも、共通点が多くあります。政治経済の分野で厳しい交渉をすることがあっても、またイデオロギーや政治体制の違いはあっても、民衆間で、相互の文化への理解や共感を深め合っていくことが、どれほど各国間の信頼関係の醸成につながっているか、あらためて申すまでもありません。

 今後、さらに国民の間での文化交流事業を活性化させ、特に次世代の若者が、国境を越えて教育・文化・ボランティアなどの面で交流を深めることは、東アジア地域の相互の信頼関係を深化させるためにも極めて有効なものと考えております。このため、留学生の受け入れと派遣を大幅に拡充し、域内の各国言語・文化の専門家を飛躍的に増加させること、そして、日中韓で大学どうしの単位の互換制度を拡充することなどにより、30年後の東アジアやアジア太平洋協力を支える人材の育成に、長期的な視野で取り組んでまいります。

 貿易や経済連携、経済協力や環境などの分野に加えて、以上申し述べましたとおり、「人間のための経済」の一環として、「いのちと文化」の領域での協力を充実させ、他の地域に開かれた、透明性の高い協力体としての東アジア共同体構想を推進してまいりたいと考えます。

地震列島、災害列島といわれる日本列島に私たちは暮らしています。大きな自然災害が日本を見舞うときのために万全の備えをするのが政治の第一の役割であります。

 また、同時に、その際、世界中の人々が、特にアジア近隣諸国の人々が、日本をなんとか救おう、日本に暮らす人々を助けよう、日本の文化を守ろうと、友愛の精神を持って日本に駆けつけてくれるような、そんな魅力にあふれる、諸国民から愛され、信頼される日本をつくりたい。これは私の偽らざる思いであります。

 日本は、140年前、明治維新という一大変革を成し遂げた国であります。現在、鳩山内閣が取り組んでいることは、言わば、「無血の平成維新」です。

 今日の維新は、官僚依存から、国民への大政奉還であり、中央集権から地域・現場主権へ、島国から開かれた海洋国家への、国のかたちの変革の試みです。

 新しい国づくりは、誰かに与えられるものではありません。現在の日本は、黒船という外圧もなければ、敗戦による焼け野原が眼前に広がるわけでもありません。そのような中で、変革を断行することは、先人の苦労に勝るとも劣らない大きな挑戦であります。

 つまずくこともあるでしょう。頭を打つこともあるやもしれません。しかし、後世の歴史家から「21世紀の最初の10年が過ぎようとしていたあの時期に、30年後、50年後の日本を見据えた改革が断行された」と評価されるような、強く大きな志を持った政権を目指したいと思っています。

 今なら間に合います。

 これまで量的な成長を追い求めてきた日本が、従来の発想のまま成熟から衰退への路をたどるのか、それとも、新たな志と構想力をもって、成熟の先の新たなる飛躍と充実の路を見いだしていくのか、今、その選択の岐路に立っているのです。

 私は、日本が正しい路を歩んでいけるよう、自らが先頭に立ち、国民の暮らしを守るための新たな政策を推し進めてまいります。

 私は、国民の積極的な政治や行政への参加を得て、国民とともに、本当の意味で歴史を変え、日本を飛躍へと導くために、全力を尽くしてまいります。

 国民の皆さま、議員の皆さま、私たちの変革の挑戦にお力をお貸しください。

 是非とも一緒に、新しい日本をつくっていこうではありませんか。

2009年10月18日日曜日

【配信記事】 報道・記事執筆の基本

1 <報道・記事執筆の基本>
2 正確さとスピード
3 誰のために書くのか
4 <見出し>
5 1. スナップ、見出しに使う記号
6 2.見出しの注意点
7 3.ニュースソースの表示方法
8 4.見出しの具体例
9 <記事本文(クオートなど)>
10 <引用文と意訳文>
11 <句読点と修飾語>
12 <接続詞、受身、繰り返し>
13 <用語ルール>
14 <マーケット記事について>
15 <記事の署名>
16 <インタビュー>
17 <調査記事のルール>
18 <スナップからUPDATEまで>

<報道・記事執筆の基本>

正確さとスピード

正確さをスピードのために犠牲にしてはならない。
もしロイターが正確な報道機関としての評価を失うことがあれば、全てを失うことになる。
記事の訂正に正直であるというロイターのポリシーは、正確さを期するという読者へのコミットメントである。
固有名詞や数字など典型的な訂正が出る場所を二重にチェックすること。記事は公平でバランスがとれているか、また記事の構成(書き方)も公平でバランスのとれたものになっているかを出稿する前に確認しなければならない。

記事の正確性とは、正しい事実をつかむことだけではなく、信頼できるソースによる事実の解説(意味付け)のバックアップが必要である。


誰のために書くのか

記事を実際に書くときはもちろん、取材のときも読者のことを考えなくてはならない。ロイターの読者とは、複数のメディアを使ってニュースをみている金融の専門家や、教育水準が高く、世界の情報や金融や政治に関心ある読者のことである。

スナップはターゲットとなる読者を念頭に配信するべきであるし、一部の記事は特定分野の読者向けだけに書かれるかもしれない。しかし、ロイターの記事は特定のマーケットや国を超えて読まれることがあると認識しなくてはならない。高いレベルの意味付けや背景を記事に入れることが必要になる場合がある。

読者が当該記事に関する話題に詳しいと想定して記事を書いてはならない。原則的にテクニカルな専門・業界用語は文中で説明することが必要である。

望ましい記事構成
I. 見出し:ニュースで最重要な情報、ソース
II. リード:全文の要約
III. サポート:リードを補完する詳細な情報
IV. クオート:ゴールデンクオートを追求。2行程度
V. コンテクスト:意味づけ(今後や他方面への影響、見通し、課題なども)
VI. バックグラウンド:追加的な情報

文章構成・各論

<見出し>

見出しは記事の内容全てを凝縮して伝える。最良の見出しを提供できれば、読者はその後記事を読む必要がないといっても過言ではない。32文字以内という制約の中で、要点を端的に表現するものでなければならないが、短ければ短いほど良いというものではなく、32文字を最大限に活用し、そのスペースに最大量の情報を盛り込む。


1. スナップ、見出しに使う記号
=  主語やニュースソースの明示  
─  ソースを2つ入れる場合(新聞の引用など)例:利上げする─FRB議長=新聞 「 」 抜き出して伝えることで意味付けを図るような場合カッコでくくる。製品名なども。( ) 統計のスナップで事前予想や過去の数字を入れる場合などに使う。 : 「こうみる」のほか、訂正、参照、ワッペンなどの場合のみ “ ”  原則として使わない。

2.見出しの注意点

見出しの数字は原則として半角、「GDP2次速報」や「M2+CD」といった数字も半角。但しG7など固有名詞は例外。見出しのアルファベットは全角。

長文は避ける。句点「、」を入れることで読みやすさを工夫する。「、」は一回のみの使用とする。

時期を明示している場合や将来に関することと明確にわかる場合には「へ」を付けない。

統計ニュースなどは数字を入れるのが基本。 例:×外国人保有比率が過去最高(半数なのか4分の一なのか程度がわからない)   ○外国人保有比率、最高の23.7%に

市場が注目している要人の発言はできるだけ正確に発言を伝えるようにする。ただし、わかりにくい言い回しや、言い換えたほうが発言趣旨を正しく使えることができる場合は記者が判断し言い換える。

感情的な表現や過剰な修飾語は使わない。 例:利益が劇的に上昇 「劇的」は感情移入が強すぎ、かつあいまいな表現。何を示すのか不明。劇的な上昇とはどのような上昇か、明確に示すことが必要。

主観的な形容詞は避ける。

利益など量は増加/減少、指数などは上昇/低下。   原則32文字(64バイト)以内、但しタグ([外為マーケットアイ]など)や固有名詞が長い場合は最大40文字(80バイト)までとする。


3.ニュースソースの表示方法

基本型 1)ニュースソースは必ず明示する。 2)ソースの位置は、情報源であれば見出しの末尾に置く。 例:経済は良好=官房長官 2)主語と情報源が同じ場合は見出しの冒頭におく。 例:トヨタ、設備投資を増額

ニュースソースもしくは主語はできるだけ、文頭に置く。特に本文やUPDATEの見出しではスナップの形にとらわれず、主語を冒頭におく構成を考える。

例:  ☓ 来年1月以降の国内線の運賃値上げを検討=原油高でJAL   ○ JAL、原油高受け来年1月以降の国内線運賃値上げ検討

企業の社長発言は、社長の発言=会社の計画というのが明らかなので「=社長」を除いてもよい。しかし「量的緩和解除を歓迎する=トヨタ社長」という場合は、社長の意見とも言えるので「トヨタ、量的緩和解除を歓迎」とするのは避ける。ケースごとに適切に判断する。

ニュースソースの表示として、「関係筋」「関係者」「市場関係者」は多用しない。特に「複数の市場関係者」という表現は大げさなので控えたい。複数のソースに確認することは原則として前提であり、あえて言う必要はない。

原則として「=」はソースを表示する。ただ、主語とソースが一致し、かつ複数の情報を見出しに盛り込む必要がある場合は、区切りとして=を使い、情報を加えることもできる。

ニュースソースについては、主語と同一の場合(企業の発表もの)、誰が(何が)ソースが明白な場合、常識的に判断できる場合は省略してよい。たとえば、官房長官の公式発表は政府の発表なので、その場合はソースを明示しなくてもいい。 例: ○ 首相、補正予算編成を指示 ☓ 補正予算編成を指示した─首相=官房長官

与党議員やぶら下がりでの発言はソースを入れる。 ○首相が補正予算編成を指示=公明党代表   同様に広報が発表した会社の正式コメントであり、=広報担当者とする必要はない。

テレビなど他のメディアのピックアップについては、発言がライブで放送されていれば見出しに出典を入れる必要はない。本文のなかではもちろん出典の言及は必要。ニュース番組などで生の発言ではなく、原稿で読み上げられた場合や、局の判断が含まれているような場合はソースを入れる。 翻訳物の場合、原文(速報含む)の見出しにTV、PAPERなどのソースがなければ翻訳記事の見出しには入れない。

[焦点]など分析記事や特集記事の場合はソースの表示に=をつかってはならない。

4.見出しの具体例

例えば、以下の例では主語がないため見出しだけでは理解不能。見出しを見ただけでも、その記事の内容・主旨がわかるように努める。

悪い見出し例:[焦点]外国人の買いで先物が午後急騰、景気底入れを確認         (どこの市場のこと?株?債券?)

ニュースソースと主語が一緒の場合は文の前に出すほうがすっきりする。特に企業ものでは、主語とソースが同一である場合がほとんどであり、主語は見出しの一番前にもってくるのが原則。

☓ 第3四半期ライセンス収入は予想上回る、通期予想も引き上げ=独BOBSAP ○ 独BOBSAPの第3四半期ライセンス収入は予想上回る、通期予想も引き上げ

ただし、そうでない場合もある。以下の場合では主語=ソースは後ろに持ってくるほうが望ましい事例。

☓ 財務相、為替介入を実施したと表明 ○ 為替介入を実施した=財務相

この場合ソースの明示よりも為替介入を実施したことが重要。見出しで何を前に出すかはケースバイケースで考えるべきである。原則はより重要な情報を前に持ってくるということ。

下の見出しは、文の主語ではないソースを前に持ってきた結果、意味が混乱したケース。「見通し示す」という述語を入れたため、冗長さも増した。   ☓ 訪朝した米州知事、北朝鮮が11月初めに6カ国協議に復帰との見通し示す ○ 北朝鮮、11月初めに6カ国協議に復帰の見通し=訪朝した米州知事

「・・・で」はなるだけ使わない。「で」を使うと、見出しの内容を理解するために再び文頭に戻らなくてはならない。できるだけ避けるべきである

☓ 振れないリーダーシップ、覚悟と決意もった人=首相後継像で自民幹事長 ○ 次期首相像、振れないリーダーシップや覚悟と決意もった人=自民幹事長   ただし、以下のような例では、「で」を使った方がわかりやすい。

○ 為替はファンダメンタルズを反映し安定的に推移することが望ましい=円安で財務相 ☓ 円安、為替はファンダメンタルズを反映し安定的に推移することが望ましい=財務相

大原則は、より重要な情報を前に持ってくること。

☓ 衆院特別委で政治改革法案が与党の賛成多数により可決、きょう衆院通過の見通し ○ 政治改革法案を与党の賛成多数で可決=衆院特別委 ○ 政治改革法案を衆院特別委で可決、きょう衆院通過の見通し

上記の場合、重要度は、政治改革法案(何が)→可決(どうした)→衆院特別委(どこで)→きょう衆院通過の見通し(今後は)→与党の賛成多数(その他の情報)の順になる。

スナップ(見出し)は正確さとスピード優先。早く出すべきなので、内容を必要最小限にとどめる。

衆院を解散=小泉首相

これ以上の情報は最初のスナップ見出しには必要ない。ただしUPDATEでは記事内容だけでなく、見出しにも情報を追加する。

例:UPDATE1: 首相が衆院を解散、総選挙の投開票は9月11日

分析や企画記事など長文の記事には小見出しを入れる。単語を入れるのではなく、その段落の要点を簡潔な見出しとして記す。

<前文(リード)>

前文には、記事の主要構成要素を全て盛り込むことが原則。見出しにした内容は必ず入れる。前文の長さは、記事の種類にもよるが、一行40文字で、3─5行程度が望ましい。長すぎる前文はニュースのポイントが不明確になる。言い換えれば、何が重要なニュースで、何を率先して伝えるべきかをしっかり決めた上で前文を書く。

前文に入れるべき要素とは「5W1H」。すなわち、

主語  (WHO) • 出来事 (WHAT) • 時間  (WHEN) • 場所  (WHERE) • 理由  (WHY)    • 方法・手段(HOW)

前文には、必ずそのニュースが重要性あるいは意味合いを示す表現を入れること。過去最大、戦後初、三年ぶり、など。そのためには当該ニュースに関連する過去の数字や動きなどをチェックしておくことが必要。ただし、経済指標や決算数字を羅列すると読みにくいので、これは避ける。

閣僚発言などを報じる場合は、前文に直接クオートを入れることも可能。これによって、それに続く本文で引用が重複することを避ける。特に、為替など金融市場に関する発言で、実際の言葉遣いが相場に影響を与える可能性がある場合は、前文に「 」で直接引用する。ただし、その場合は、発言の意味するところを簡潔に地の文で示す努力を怠ってはならない。UPDATEでは、そのダイレクトクオートが意味するところを地の文でできるだけ示す。

ニュース分析や企画記事などは、ニュースの第一報を繰り返すことはできるだけ避け、書くべき要点を前文でしっかりと表現する。文章も、読者がそれに続く本文を読みたくなるよう、冗長にせず、表現を練ること。


<記事本文(クオートなど)>

無意味なダイレクトクオート、5行以上もあるような「・・・」は避けて、「Golden Quote(最も価値のある言葉)」を引用する。コメントの引用は正確に行う。これは曲げられない原則だが、引用が長すぎると、記事は冗長になり、読者に与える印象は悪くなる。日銀総裁など市場に大きな影響を与え、その微妙なニュアンスまで伝えることが必要な人物の発言は別として、エコノミストやアナリストの引用は、簡潔に、重要な部分だけを取り出し、他は地の文で書いたほうが読みやすい。

*クオートの羅列は避ける 例:○○は「・・・・・・」と述べた。また××は「・・・・・・」と語った。一方△△は「・・・・・」との見方を示した。

これは読みにくい。この場合は、全体の状況、つまり意見がどのように分かれているか簡潔にまとめた上で、引用の数を最小限にとどめる、などの構成が必要。

引用すべき内容は、その人物の意見や判断を示す言葉であって、指標がどうだった、というような単なる事実関係は引用としては書かない。事実関係は地の文で、理由や裏側、判断や見通しの部分をクオートにするという原則を頭に入れる。しかし、事実関係であっても、その人物しか知りえない内容や一般には公表されていない事実であれば、クオートにいれてもかまわない。

長すぎるクオートは避ける(最大でも3行程度)

<引用文と意訳文>

一般的にいって情報源が事実関係について述べている場合には意訳文がふさわしく、情報源が理由を述べたり、感情を表していたり、判断を下しているような場合には引用文が適切である。
☓ 「選挙で勝利を収めた党の党首らを招集し、連立政権設立に向けての話し合いを月曜日にも始めたい」とABC党のウイニング党首は述べ、ABC党の圧勝は彼らが掲げる反移民政策が国民に指示されたことの証であるとした。

○ 「今回の圧勝は国民がわれわれの反移民政策を支持していることの証である」とABC党のウイニング党首は述べ、選挙で勝利を収めた党の党首らを招集し連立政権設立に向けての話し合いを月曜日にも始める意向を示した。


<句読点と修飾語>

必要のない句読点は、文章の意味を変えてしまう場合があるので、避けなければならない。

語句の列記や箇条書きには読点を打つ。   例:名誉も、地位も、家庭も捨てるつもりか。   例:日本は1)3カ月の参入延期、2)通信販売解禁、3)保険自由化の拡大──などの譲歩案を示した。

誤読、難読を避けるため読点を使う。   例:晴れた夜、空を仰ぐと・・・   例:衆議院農林水産委員、長谷川四郎氏は・・・(漢字やひらがなが続く場合)      例:☓ ECBは利下げ議論、必要ない=オランダ中銀総裁   例:○ ECB、利下げを議論する必要ない=オランダ中銀総裁

「」前の助詞や動詞の後    例:小泉首相は15日の閣議で「次回サミットは・・・」と述べ・・      =「閣議で」と「次回サミット」の間にテンは不要     ☓ 首相は、「・・・」と述べた。     ○ 首相は「・・・」と述べた。     ☓ 市場参加者によると、「相場は相当に強い」、という。     ○ 市場参加者によると「相場は相当に強い」という。     ☓ 市場参加者によると、相場は相当強い、という。 ○ 市場参加者によると、相場は相当強いという。

ひとつの文章で形容詞・節を2つ以上つけるときは、意味合いに注意する。

悪い例:白い夕日で染まる花 白い夕日なのか、白い花が夕日で染まっているのかわからない。 長い形容詞・節は先に持ってくるというのが原則 改善例:夕日で染まる白い花

「・・・したもの」という表現は原則使わない。他メディアでもほとんど死語。

「豪華なスペース」「やすらぎのある空間」など過剰な修飾語は使わない(特に新製品発表のような記事で)。どうしても必要と思われるような場合は、地の文ではなく「」に入れ、あくまでも当事者(企業など)が、そう主張していることをハッキリさせる。  

<接続詞、受身、繰り返し>

接続詞はできるだけ使わない。 使用禁止:「こうしたことから」「ここにきて」 使わない努力を:「そのうえで」「このため」「これについて」「これに関し」「このように」 最小限に:「また」「さらに」「ただ」「もっとも」

前置きと繰り返しに注意。 「・・・とするなか、」=背景説明が付くことで文章が長くなる 「・・・と述べた。・・・と述べた。・・・と述べた」=繰り返しは読みにくい。 「・・・という。・・・という。・・・という」=間接話法の多様は避ける。


受身的表現は避ける。客観性を担保しようとして受身表現を多用すると、文章が冗長になるだけでなく、文意が婉曲的、間接的になり、報道責任を回避している、あるいは記者が逃げ腰になっている、という悪いイメージにつながりかねない。

☓ 10月10・11日に行われた金融政策決定会合では・・・・ ○ 10月10・11日の金融政策決定会合では・・・・ ☓ 「・・・と強く懸念されていた」 ○ 「・・・との強い懸念が出ていた」   ☓ 「・・・との指摘が聞かれている」 ○ 「・・・との指摘があった」「・・・との指摘が出ていた」   ☓ 「・・・といった売り物も観測されたという」 ○ 「・・・といった売り物もあったという」   ☓ 「・・が強まる可能性が指摘されている」 ○ 「・・が強まるとの見方が出ている」   ☓ 「・・・との声が聞かれた」 ○ 「・・・との声が出ていた」「・・・との声があった」


<用語ルール>

時間・期間 • 年は西暦(2005年)、元号(昭和・平成)は使わない。 (ヒント)平成12年=2000年が基本。 平成年から12を引くと西暦になる。 例:平成17年=05年 昭和は25を足すと西暦になる。   例:昭和60年=1985年

決算の中間期は上期・下期。(注)共同ハンドブックでは上半期・下半期となっているが、上期・下期に統一する。(意味は同じで1文字分のスペースを節約)

四半期決算は「第1・四半期」と中黒「・」を入れて表示。ただし見出しでは字数節約のため「第1四半期」と中黒を除く。

前年の同じ期間と比較するときは「前年同期比(もしくは前年比)」、直前の期と比較するときは「前期比」。

時間の表現:原則記事中は、午前/午後で表示。30分は「半」。24時は午前零時、12時は午後零時。昼の12時00分は正午。マーケットアイや行事予定は24時間表記とする。

記事の文中では日付表記が原則。前日、前月などは使ってよい。「きょう」「あす」「先週」「先々週」などは使用禁止。先週末ではなく前週末とする。

見出しでは「きょう」と「あす」をできるだけ使用する。これらが使える場合、日付は使わない。しかし、「おととい」「あさって」「しあさって」は使用禁止。

見出しについて、日時を示す表現がある場合は未来形を示す「~へ」は使用しない。 例: 首相あす衆院解散 (衆院解散へ、とはしない)


増減の表現 • 量が変化するものは増減、比率が変化するものは上昇・低下。

数字の変化については、見出しは「+-」、本文中は「プラス・マイナスもしくは増減・上昇/低下」で表示。

マイナス記号「-」の見出しは全角ハイフン。本文中は減少/低下と表すが、1─3月期のような場合は、「よこ」と打って出る記号を使用。それ以外は文字化けするので注意。

その他の注意 • 送り仮名などは「共同記者ハンドブック」に準拠。   • 翻訳略語は()内に英語の翻訳略語を入れる。 例:「国内総生産(GDP)」、「政府短期証券(FB)」  例外:GDPデフレーター 国内総生産(GDP)デフレーター、とはしない。 • 「○ヶ月、○ヶ国」ではなく、「○カ月、○カ国」。「カ」はカタカナ大文字。 • 「“”」は使用不可。「」内にもうひとつ「」を使いたい場合は『』(二重カッコ)を使う。 • 空欄は原則記事内に使わない。「・」中黒を使用するようにする(例:HD・DVD)。ただし、「こうみる」の見出しで会社名と名前の間だけは空ける。また会社名で空欄がある場合はそのまま使用する。例:ジャパン インターナショナル  例:日銀こうみる:利上げ確実=ロイター証券 山田氏

「総理」ではなく「首相」。「財務大臣」ではなく「財務相」(他の閣僚も同じ)。

「イギリス」ではなく「英国」。

氏名の表記は、記事中で最初に言及する場合、日本人、外国人ともフルネーム表記を原則とし、二回目以降の言及は苗字だけとする。日本企業の外国人社長などの氏名も日本人名と同様にフルネーム表記とする。

例外として、市場リポートでの表記は日本人、外国人とも同様に苗字と肩書きのみでも可。外国人名は、特定できる立場、肩書きのある人で慣例としてフルネームにしてない人についても、苗字のみで可とする。(例:ブッシュ大統領、ブレア首相など。) ただし、外国人でも、中国、台湾、韓国人など氏名が漢字表記の場合はフルネーム表記とする。

アルファベット(GDPなど)は見出し、本文ともに全角。ただし、翻訳などで、読み方がわからない外国の人名や地名、社名を原文表記のまま使うは半角とする。全角表記はスペースをとるため。

「その上」ではなく「そのうえ」。「その中」ではなく「そのなか」。ただし「そのうえで」はできるだけ使わない。

為替の表示:「ドル/円」とすればドルが主語。ドルの対円レートになる。

経済指標などの表示:原則は、年・月→国→当該指標 例:5月の中国CPI、例:5月全国消費者物価指数・・=総務省

金利の変化の表示については、誤解を招かないような場合(FRBの利上げとか)には0.25%の引き上げとしてよい。ただし報道頻度が比較的少ない(政策)金利などについては0.25%ポイントもしくは25ベーシスポイントとする。

FRB:米連邦準備理事会(FRB)と表示。「制度」は入れない。FEDも使わない。

非上場企業の場合、原則として本社所在地を()のなかに入れる。 

「○名」ではなく「○人」。

銀行の融資先を数える表現などに使われる「…先」という言葉は、基本的に「…社」もしくは「…企業・機関」に言い換える。

大台乗せ、水準割れなどを書く場合は、数字を丸めないで正確に表現する。「49.9%」を「50%達成」、「9999億円」を「1兆円乗せ」などとしてはならない。   • 国債入札時における応札倍率:1)原則は小数点第3位を四捨五入し、小数点第2位までを表記、2)四捨五入によって1の位の数字が変わってしまう場合には、特例として大台が変わらない範囲まで小数点以下の数字を並べてもいい(大台が変わることで、イメージ上、誤解を受けやすくなる懸念があるため)。 例:4.9972ならば、4.997倍 例:4.9999972ならば、4.999997倍


<マーケット記事について>

マーケット記事は、市場参加者のプロフェッショナルなニーズに応える専門性を維持する一方で、当該市場以外の金融市場参加者や一般読者にとっても読みやすく、わかりやすくなるよう、できるだけ平易な文章と用語を使うよう心がける。

専門的な情報が盛り込まれた記事と、読みやすい平易な表現の記事は両立する。専門用語と業界用語は区別し、業界用語はできるだけ使わない。

オプション市場やスワップ市場、クレジット市場など専門性の強いマーケットのレポートにおいても、専門用語に枕詞やカッコを使って説明を付けたり、その言葉・文章が意味する相場の動向を付け加え、よりわかりやすくする。

コメントを直接引用する場合、そのままの表現でわかりにくい場合は、書き方を工夫し、必要に応じて説明を付ける。

言い換え事例 (以下は実際にあったケース) • 「ストップ・ハンティング」→「ストップロスをつけに行く動き」 • 「ユーロ/ドルが前日海外市場安値(1.2064ドル)を割り込む形でギブンされ」→「~を割り込む形で売り込まれ」 • 「ビッド地合い」→「買われやすい地合い」 • 「こうした動きが散見され」→「こうした動きが一部にみられ」 • 「1月31日エンドのXXで0.009%ヒゲ」(クレジット市場)→「1月31日期限のXXで0.009%台程度」。 • 「103.65円付近の安値を示現した」→「103.65円付近の安値を付けた」 • 「年越えについても、次第にプレミアムがはげ落ちていく」→「プレミアム分が縮小していく」 • 「イールドカーブは5─7年ゾーンでへこみ気味で推移」→「・・ゾーンでやや低下して推移」 • 「135円を割り込んで午後寄りした」→「午後の9月限は135円を割り込んで寄り付いた」 • 「ビッド水準から一段甘くなっている」、マーケットでよく出てくる用語「甘く」。その対象により、上昇を意味したり、拡大を意味したりする曖昧な表現なので、使用の際には注意する。 • 商い薄→薄商い • 「ヘッジ売りが踏まされた」→「ヘッジ売りをしていた向きの買い戻しを誘った」 • 「余資つぶしの・・・」→「余資運用の・・・」 • 「平準バイヤー」→「定期的に買いを入れる平準バイヤー」 • 「輪番オペ」→「国債買い切りオペ」


<記事の署名>

記事署名スタイル ※(ロイター日本語サービス 山田太郎 ロイターメッセージング:taro.yamada.reuters.com@reuters.net Eメール:taro.yamada@reuters.com 電話:03-5x73-3741)

上記のスタイルで冒頭の表と本文の間にバイラインを入れる。文末にも名前と連絡先をつける。「インタビュー」「BOJウォッチャー」「兜町ウォッチャー」「永田町ウォッチャー」「情報BOX」には冒頭のバイラインはなし。文末には名前と連絡先を入れる。

複数記者の合作の場合は、中心となる記者ひとりを上記のとおりとし、文末に名前と連絡先を入れる。企画に関与した記者名は取材協力あるいは編集協力として名前だけをつける。中心の記者が特定できない場合は、冒頭のバイラインはいれず、文末に名前を並べる。

翻訳記事は、従来どおり原文筆者と翻訳者(場合によっては編集者)の名前と連絡先を文末にいれる。

SLOTが署名するケース • 焦点、アングル、検証などのフィーチャー記事には、スロットの名前を入れる。 • スポット記事のUPDATEでも、記事に大きく編集を加えた場合は入れる。 • 市場レポートには原則入れないが、SLOTが大きく手を入れた場合は入れる。

例:※(ロイター日本語ニュース 山田太郎 編集協力:鈴木一郎 ロイターメッセージング:taro.yamada.reuters.com@reuters.net Eメール:taro.yamada@reuters.com 電話:03-5x73-3741 編集:田中誠)


<インタビュー>

質問は分の冒頭を一字空け、──を付けて書く。棒線は“ヨコ”と入力し変換、2つ続ける。最後はマル、改行して一段落空ける。答えは一字あけてカギカッコでくくる。 <例> ──量的緩和の解除時期は。 「わかりません」 ──量的緩和は効いたのか。 「市場の安定を図った効果はあった。お金が当座預金残高にジャブジャブになることで、デフォルトリスクは消滅し、金融システムへの不安を和らげる効果はあったのではないか」

<調査記事のルール>

回答数が10以下の場合は「POLL」(ロイター調査)は付けない。 • 回答数100以下の場合はパーセンテージを使わず、実数を書く。 • 100以上の場合はパーセンテージを優先する。実数は必要に応じて入れる。票には必ず実数を入れる。

補足ルール 1) 100以下の回答でも50以上であれば、まず実数を書き、その後にカッコでパーセンテージを入れる。 2)50未満は実数のみで、パーセンテージをいれない。

よくある質問 1、ロイター企業調査は回答数が質問によって50を割れる可能性もあるが、以下の場合どう対応するのか?

例: 回答企業80社のうち、42社がゼロ金利解除は年内にあると回答、38社が年内にはないと回答。解除が年内にあると答えた42社のうち、3社が6月中に、24社が7-9月に、15社が10-12月にあると予想した。

回答:このケースでは、全体の回答数が50を上回っており、日本語ニュースの補足ルールのうち、1)が適用される。以下は記事例。 

記事: ロイター企業調査によると、ゼロ金利解除について解答をよせた80社のうち、42社(52.5%)がゼロ金利は年内に解除されると予想、38社(47.5%)が年内解除はないと予想した。年内の解除を予想した42社のうち、3社が6月中、24社が7-9月期、15社が10-12月期の解除を予想した。 

2、回答数が100以下の調査で、かつ50以上の場合、速報では%は使えないのか?

 例: 有効回答数が合計65で、望ましい首相は誰かとの回答が以下の通りだった場合。安倍晋三氏45、福田康夫氏18、麻生太郎氏1、その他1

回答:日本語ニュースの補足ルールは記事本文に適用されるルールで、速報もしくは見出しでは、ロイタールールが適用される

 例: 安倍氏が65人中45人、福田氏が18人

 なお、回答数が50未満の場合は、本文も実数のみの表記となる。

3、GDPや短観等の最重要指標発表前は、新聞に先がけて民間調査機関の予測を数社程度でまとめるが、その場合[ロイター調査]や[指標予測](いずれも英語で[POLL])のワッペンをつけてよいのか。

回答:10以下であればロイタールールが適用され、[ロイター調査]や[指標予測](いすれも英語で[POLL])のワッペンをつけず、ストレートニュースの形式で記事化する。

4、外資系証券などのリポートによくあるケースですが、回答数が50未満の調査に対しても、ヘッドラインや本文で%表示が付いている調査リポートがほとんど。このケースでの記事のスタイルにもロイタールールを適用するべきか。

回答:ロイタールールは、ロイターの調査が対象となる。外資系のリポートを記事化する場合は、リポートに書いてある通りに記事化する。


<スナップからUPDATEまで>

スナップ 文字数は見出しと同じく原則32文字、最大40字。ソースは原則入れる(定例の会社発表など自明な場合は不要)。企業のスナップにはカンパニーIDを付ける。一回のスナップでチェーン化して打てるのは19本まで。

スナップの目的は読者に最重要な情報を入れた事実(FACT)をいち早く伝えること。そのニュースが1)市場を動かす、2)顧客の判断に影響を与える、3)国際的な関係に重要な意味がある──と記者が判断できるときスナップを打つ。重要な情報が複数ある場合はチェーン化して複数本スナップを打つ。

スナップはニュースジャッジメントの質が問われる。あとでなぜスナップを打ったかという理由が付けられないような事実・情報はスナップすべきではない。スラングやJARGON(業界用語など)は、それを使うことが意味のある場合を除いて使用してはならない(入れる場合はカッコにくくる)。

ニューズブレーク スナップを打った後は、速やかにニューズブレークを付けてスナップの情報を補完しなくてはならない。ニューズブレークはスピードが命。スナップを打ってから5分以内に付けるのが原則。最大でも10分以内には付けること。

スナップと同じストーリーナンバーを付けること(原則SLOTが行う)。メッセージタイプはS(Rだと上書きされスナップが消えてしまう)。企業ニュースはヘッダーにカンパニーIDを入れる。持ち株会社の傘下の企業などについては、記事検索できるよう親会社のリックを「隠れリック」として入れる。

市場に大きな影響のあるようなニュースはUPDATEでフォローする。ニュースが予期されていないような突発的な場合は2パラグラフ以内におさめる(早く出稿するということ)。非常に複雑なニュースでバックグラウンドの記述が必要であったり、重要なクオートがあったりする場合は3パラグラフになってもよい。可能であれば事前にバックグラウンドを準備しておいて、スナップギャップを短くすること。

ニュースの状況説明がニューズブレークの目的。5W1Hをおさえ、マーケットに大きく影響しそうな情報は全て入れる。重要な情報がニューズブレークに入れられていれば、チェーン化して打ったスナップの情報全てをニューズブレークに必ずしも入れなくてもよい。その際はUPDATEでフォローする。


UPDATE

見出しの冒頭にはUPDATE1: とつける(全て半角、:の後は半角スペース)。UPDATE1はニューズブレークから30分以内が原則。マーケットリポートでもファーストテイクから30分以上経過した場合はUPDATEにするのが基本。

内容には1)意味づけ2)クオート、フォワードルッキングな切り口などを盛り込む。UPDATE2以降は新たな情報を入れて更新する。

2009年10月7日水曜日

【八ッ場ダム関連】 メモ:雑感

 以前私は自分が発行するメールマガジンで姉歯事件を取り上げた際、建設省(現国交省)のキャリア官僚と喧嘩して仕事を失ったいきさつを書きましたが、そのときの仕事、実は八ッ場ダムに関連する仕事でした。

 ダムで水没することになる、観光業を営む住民の移転先として候補に上がっていたスキー場が、生活を支えるのに足る観光的ポテンシャルを持っているかどうかの調査だったのです。

 国交省の仕事であるにもかかわらず候補地が国有林の中にあったので、今いろいろ物議をかもしている林野庁傘下の特殊法人を経由して私の友人の元に仕事が来ました。

 つまりその仕事は国交省から特殊法人に出され、そこから友人の会社に丸投げされたわけです。

 友人を含んだ我々(実働は5人)は視察ということで日本全国のスキー場でスキーをし、温泉に入り、おいしい食事を楽しみ、それなりの報告書を作成して常識を上回る報酬(元請段階で数千万円)を手にしました。

 一言で言えば、文字通りおいしい仕事だったわけです。

 その仕事で調査をしている最中には、来年度は海外のスキー場の視察を申請しよう、という話で盛り上がり、特殊法人の幹部職員達はその際には俺達も一緒に行くと宣言していました。観光地の視察だからラスベガスも入れよう、などとまで話していたのです。

 もちろん特殊法人の面々は調査の仕事には一切かかわりません。

 翌年の仕事は前述の私の不始末で消えてしまったのですが、テーマが何であれしかるべきスジを介して申請すればそのまま通り、請求どおりの巨額な調査費が入る、という雰囲気でした。

 無駄をなくせば財源は出ると民主党が言うと、麻生元首相は「自民党も削れるところはとことんまで削った。無駄などない」と語っていましたが、それを聞くたびに笑っていました。これを無駄と言わずに何が無駄なのでしょう。

 国交省とすれば、ダム建設反対の住民運動などは痛くも痒くもありません。運動が盛り上がれば盛り上がるほど多くの住民対策費が入るのですから。

 ダムを完成させることより、国の金をより多く使うことを使命とする官僚にとって、57年という長きに渡って多額の予算を国の財布から引っぱり出し続けた八ッ場ダムはまさに金の卵を産むガチョウだったことでしょう。

 さて、移転先の可能性調査などというローカルな仕事(我々は移転先として問題はないと言う結論を出しましたが、立ち消えになりました。最初からその土地への移転希望者などなく、調査のためだけの調査だった可能性さえあります)に多額の予算を使った国交省が、さまざまな理由で直接であれ間接であれ住民に配った額がどれほどになるかは普通の感覚を持った人なら容易に類推ができます。

 それこそ折につけては手厚く扱ってきたことでしょう。その最後の厚遇がダムの竣工まで続くはずでした。

 一方、ダム建設中止に反対している住民の言いたいこと、今ひとつピンと来ないと思っているのは私だけでしょうか。先祖の墓まで移設したなどと語っていますが、それと完成させて欲しいという主張とはどうつながるのでしょう。道路も完成し、新しい家も作ることが出来て、しかもふるさとの自然が残るのならご先祖様も納得すると思うのですが。

 何度も足を運んだ吾妻渓谷はすばらしい景観を持っています。ふるさとではなくても残したいと思います。ましてそれがふるさとである人たちが、ダムの底に沈めてもらいたいなどと思うでしょうか。

 前原国交大臣の視察に際し、中止ありきの視察なら会う必要がない、と言って住民側は話し合いの場への出席を拒否しました。

 ダムの建設反対で使い続けてきた戦術でしょう。話し合いを拒否するたびに何らかの成果を勝ち取ってきた歴史があるのかもしれません。

 しかしそれは建設反対と言う立場で初めて意味を持ちます。建設中止に反対の立場で話し合いを拒否しても、話はぴたりと止まってしまい、何の進展も望めません。まして話し合いを拒否することによって建設が始まるはずがありません。

 止める立場で有効だった戦術が推進する立場では自らの首を絞めることになるのです。

 建設中止の立場にある住民が今やるべきことは、建設中止が前提であろうとなかろうと大臣を話し合いの場に引っ張り出し自分の主張をぶつけることではないでしょうか。

 そんな当たり前のことも分からなくなるくらい、これまで厚遇されてきたのではないか、と私は思ってしまいます。
 もちろん住民の方々を悪く言う気はありません。明らかに被害者だからです。

 先祖から受け継いできた土地で営んできた観光が、ダムの建設問題で揺れ動き、振り回されて観光どころではなくなり、気がつけば建設省の援助がなければ暮らしさえもおぼつかなくなるところまで追い込まれた結果が、ダム建設中止反対なのです。

 逆側から見れば、住民を脅し、賺(すか)し、追い詰めて生活そのものを破壊した後に援助の手を差し伸べ、援助なしでは生きて行けなくしたうえで掌中に抱き込もうとするのが彼らの手です。

 悪いのは反対運動でさえ予算獲得の材料にし、住民をもてあそんだ国交省の官僚とかつての長期政権です。

 友人に頼まれ軽い気持ちで手伝ってしまいましたが、八ッ場ダムの報道を見るにつけ、複雑な気持ちになります。  

2009年10月2日金曜日

【財政再建】 日経(見逃されている巨額の財源)

1 官から民への資金の流れは止められない

 現在、日本の家計部門のネットの金融資産は、ほぼ全てが国に吸い上げられています。それが政官の無駄な経費や、費用対効果の小さい公共事業などに使われてきた結果、過去長期にわたって国内総生産(GDP)や家計部門の金融資産が増えないことにつながりました。これに対し民間企業は、いかに効率的に資金を使うかというROE(自己資本利益率)など指標の良しあしで世界の投資家から評価を受けています。民間のお金を民間に回すことは、限られた資金を国全体で効率的に運用することになります。

 すなわち、家計部門の金融資産を官から民へ誘導することが、経済の活性化に大きな役割を果たすことは明らかです。

 ところで、約1400兆円の家計部門の金融資産のうち、公的部門が預かっているお金だけを取り出しても、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に約122兆円、ゆうちょ銀行(郵便貯金)に約180兆円、かんぽ生命は102兆円(出所:2009年日本郵政グループディスクロージャー誌)と、合計で約400兆円以上にのぼります。では400兆円をどう運用しているかを見ると、GPIFでは財政投融資を合わせて86兆円を国債をはじめとする国内債券、ゆうちょ銀行は162兆円を国債・地方債、かんぽ生命は74兆円を国債・地方債で運用しています。合計で80%以上に相当する約322兆円を国債・地方債で運用しているのです。さらに民間とはいえ公的色彩が強い企業年金にも100兆円預けていますが、これも50~60%が国債で運用されていると考えられます。こうした公的部門は、国民の金融資産を吸収して、国債・地方債を消化する機関になってしまった感があります。こうして資金を得た国が、先述のような非効率な運用を続けた結果がここ10年の低成長経済でした。

 いわゆる小泉改革には賛否両論があると思います。特に郵政民営化についての再検証は必要でしょうが、少なくとも民営化によって郵便貯金や簡易保険で集めたお金を民間に返すという視点に限っては、極めて正しいと考えてます。この流れを加速し、公的年金や企業年金の運用も民間企業への還元に回るようにすることこそ、今の日本に最も必要なことだと思います。民主党は政官のもたれ合いによる無駄を省くとの視点を持っているようですが、そうであれば、貴重な国民の金融資産が、国債・地方債を通して安易に無駄な支出に充当されないようにして、国の非効率な予算の膨張を止めることから始めるべきです。

民主党政権になった今こそ、金融経済対策と国民の生活再建のために直ちに見直されて良いものだと考えています。

 厚生労働省の09年度の公的年金の財政検証では、名目運用利回りの目標は4.1%となっています。その前提となる経済状況は物価上昇率1.0%、名目賃金上昇率2.5%となっており、それで現役時代の所得の50%を達成(所得代替率50%)するとしています。目先の経済状況はデフレを脱し切れていないため、これらの前提は保守的なものに見えますので、この経済環境なら4.1%の運用利回りを守る必要はないとの議論もあり得ますが、国債の大量発行が続き、長期的なインフレ懸念が強い中、長期的に見た場合、財政検証の数値が誤りだとは言えません。したがって4.1%という目標は最低限守るべき水準と考えられます。ちなみに前提条件はやや違いますが、日本と同様に成熟社会である欧米諸国でも名目運用利回りの目標値は日本よりはるかに高く設定しています。例えば米国は5.7%(07年信託基金報告書)、カナダは6.8%(04年第21回レポート)、英国では6.0%(00年国民保険基金長期財政見通し)です。日本は06年まで3.2%が目標で、現在は4.1%ですので、これらの諸国より相当に低い運用が許されてきたといえそうです。

 この目標利回りが長期的に達成できない場合、他の条件が一定ならば、当然所得代替率50%は維持できません。長期の話ですので、単年度でこの目標利回りを達成しなければならないということではありません。事実、公的年金の市場運用は07年度が約5兆8000億円、08年度が約9兆7000億円の巨額の赤字となり、今年度第1四半期は株式市場の上昇によって4兆5000億円の黒字に転じました。しかし、収益の絶対額だけではなく、この振れ幅(ボラティリティー)自体もコントロールしていかなければなりません。公的年金運用手法の改善は国民の老後の生活を考えた場合に、一刻を争う課題となっています。

(2)公的年金運用の状況

 現状、公的年金の運用比率は下記の通りです。

・国内債券 70.72%(市場運用51.10%+財投債19.62%)
・国内株式 11.28%
・外国債券  8.35%
・外国株式  8.76%
※09年度第1四半期運用状況より

 GPIFの資産規模は世界の年金基金の中でも圧倒的に大きいことから、マーケット規模の大きい国債での運用が多くなることはある程度自然であると思います。しかし、国債が大量に発行されている中、国債などの債券の価格も将来の(下落方向への)変動が懸念されており、その状況によっては他の運用にも制約をき来たすことになります。そもそも、低利回りの資産を長期に運用する状態が継続すれば、目標運用利回りとの比較で恒常的な逆ザヤになりかねません。

(3)公的年金の運用をPEファンドに向けることの意義

 公的部門が預かる家計部門の巨額の資金を国が吸い上げて非効率な支出に充当されていることがそもそもの構造的な問題です。その典型例が公的年金の運用状況だと考えます。 国内産業の視点に立つと、現状の公的年金の運用では肝心の国内企業に資金が回っていません。すなわち、国内株式での運用は全体のわずか11%程度に過ぎず、後は国と海外企業に資金を回しているのです。

 さらに国内企業にカネが回っている部分についても、年金には自ら企業価値を向上させる機能はないため、せっかくの資金に規律が効かない形になっています。これに対しPEファンドは「ハンズオン」と呼ばれる積極的な経営関与によって、企業価値向上、ひいては経済社会の効率化や活性化、イノベーション(技術革新)の創出といった効果をもたらすことが知られています。仮に年金資金がPEファンドに流入し、PEファンドが企業に投資する形態を取れば、規律が効いた形で企業の再生や価値向上を図り、結果的に日本経済全体に好影響が出てくるでしょう。

 米国においては、年金基金からPEファンドへの投資は極めて活発であり、PEファンドにとり最大の出資者層となっています。米国では1990年代以降のIT(情報技術)革命にPEファンドの一形態であるベンチャーキャピタル(VC)が大きな役割を果たしたことに疑問の余地はありません。米国ベンチャーキャピタル協会の資料によれば、08年時点で上場している企業のうち、過去にVCに支えられた企業から以下の事実が見受けられます。

・米国での雇用規模が延べ1100万人にのぼる
・総売り上げ規模は2.9兆ドルにおよぶ
・売り上げ総額は米GDPの21%に相当する
米国Private Equity Councilによれば、2000年代の産業再編を先導したPEファンドは、企業経営の効率化を達成しながらも全体として雇用を増加させています。つまり以下のようなことが言えます。

・10社のうち8社のPEポートフォリオ会社においてPE投資後に雇用が維持あるいは創出されている
・米国のPEファンドが取り組んだ大型案件において、米国内での雇用が02年から05年に掛けて13%伸びた。同時期の全ての米国大企業の雇用増加は3%程度であったことを勘案すると、PE傘下の大企業の雇用増加率は突出している
・投資時点から2年の間に、投資対象となったそれぞれの業界平均を6%上回る雇用創出実績を残している

 この10年の日本は、GDPも家計部門の金融資産もほとんど増えていません。国が家計部門の金融資産を吸い上げて非効率な支出に回してきたためです。この資金の一部でもPEファンドに回し、企業経営を効率化するとともに、雇用創出を伴う経済活性化に役立てることが非常に重要です。また、目先の経済環境に鑑みれば、PEファンドが経営不振企業の再生や再編を担っていくことこそ、何よりも必要な政策のはずです。

3 PEファンドへの投資は高リスク運用か

 ここまで読んで、公的年金の運用方針を改善し、PEファンドに資金を振り向けることの重要性はご理解いただけたものと思いますが、実現に向けては、まだ大きなハードルが残っています。それはPEファンドに対する誤解です。

 政官の両方に大きな誤解があると思うのは「国民の大事な資産をPEファンドのような高リスクの運用に回すなどとんでもない」「PEファンドなんて敵対的な連中やハゲタカであって、けしからん」といった類(たぐい)の議論です。後者の議論は種類の違う各種投資ファンドの混同によって生じているものです。残念ですが、連載第1回に戻って理解を得ていく必要がありそうです。

 ここでは「果たしてPEファンドへの投資は高リスクで低リターン、すなわち回避すべき運用方法なのかどうか」を検証します。

 当社では公的年金が運用対象としている4資産(国内債券・国内株式・海外債券・海外株式)について、その5年、10年の運用利回りとリスク(変動率=ボラティリティー)を分析し、それとPEファンド(バイアウトファンド)の運用利回り・リスクとを比較してみました。

 図1は株式についてです。日本株の場合、09年3月までの5年間・10年間の日経平均株価のリターン(株価上昇率と配当を合わせたトータルリターン)はいずれもマイナス5%程度と、非常に不振でした。また、米国株も日本円換算では5年保有でマイナス5%、10年保有でもマイナス2%と不振でした。すなわち「株式は長期保有すればリターンが上がる」というのは、日米両国で既に当てはまらなくなりつつあります。リスクも総じて20%以上と高く、割に合わない投資といっても過言ではありません。

日本国債の場合は過去5年、10年ともおおむね2%台、米国債(日本円換算)もともに5%前後のリターンとなっており、リスクも低いことが分かります。しかしGPIFのポートフォリオの大半を占める日本国債は、その運用目標利回りである4.1%を大きく下回っています。

米国のバイアウトファンドのパフォーマンスです。5年保有で14%、10年保有で12%と高いリターンを上げています。リスクも20%程度と小さくはありませんが、株式よりは低い傾向にあります。一般に日本でも当社を含め、ある程度投資実績のあるPEファンドのリターン目標は年率20%程度ですので、このデータは皮膚感覚に合っているように思います。

これらから言えるのはPEファンドへの投資を「高リスク投資だ」と決め付ける風潮は全くの誤りということです。

 なお、専門的になりますので簡潔に補足したい重要な点は、PEファンドとその他資産との相関の低さです。「相関」とは簡単に言えば「1つの資産への投資リターンに対し、もう1つの資産への投資リターンがどれだけ引きずられるか」という指標です。この数値が1であれば「完全に同じ動き」、0であれば「全く関係を受けない」ということですので、低ければ低いほど「リスク分散が効いている」ことになるのです。PEファンドの場合、株式との相関が0.5~0.6、債券とはほとんど相関関係がないとされています。これは同じオルタナティブ(代替資産)投資でも、ヘッジファンドと株式との相関が0.8と高いことと比べても、PEファンドの優位性を如実に示すものです。主要4資産にPEファンドを加えることで運用資産(ポートフォリオ)全体のリスクが大幅に低下する、すなわち「損益の振れが小さくなる」ことを意味しますので、国民の大事な資産を預かる機関こそ、運用リスク回避のためにPEファンドへの投資を行なうことが重要なのです。

4 終わりに

 以上のように、公的年金などによるPEファンドへの投資は家計部門の金融資産を安定的に増大させ、老後の心配を減らす上で避けては通れない重要な手法であるばかりでなく、企業経営・経済の活性化のためにも必要な社会インフラの整備とも位置付けられます。

 連載第23回でも書いたように、世界の主要な公的年金はその資産の10~15%程度をPEファンドに投資しています。典型例として、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は最近、PEファンドへの資産配分比率を14.3%に引き上げると発表ました。

 これにならい、仮に公的年金122兆円の14.3%が振り向けられれば、17兆5000億円がPEファンドを経由して企業に流入することになります。それも単なる受け身の株式投資と違い、企業経営に積極的に参画することで企業を活性化し、産業再編を推進し、新産業を育成するための資金流入で、経済の活性化や企業価値向上を通した株式市場の活性化に大いに役立つはずです。

 公的部門全体が預かる資産400兆円、これに企業年金を加えて約500兆円もの家計部門の資産の14.3%がPEファンドに流入すれば、70兆円以上もの生きた資金が企業に流入することになります。現在の日本の独立系PEファンドの資金規模が全体で2兆円にも満たないのと比べると、劇的な変化です。

 これは荒唐無稽(こうとうむけい)な話でしょうか。日本以外の主要各国のPEファンドへの年間資金流入額をGDP比で見ると以下のようになります。

・米国 3.5%
・英国 1.7%
・スウェーデン 1.3%  (2007年 IFSL Research)

 日本のGDPが約500兆円なので、仮に日本が米国並みの資金流入を目指すとすれば、年間16兆5000億円の資金流入が必要です。今から始めれば5年後には残高が70兆円になっても何ら不思議ではありません。「日本にはまだ実績を重ねたファンドが少ない」など、色々な反論はあるでしょうが、当社を含めある程度の実績がある独立系PEファンド運営チームは何社か存在します。できない理由を並べ立てる前に「まずはやってみる」という政治的な判断が必要だと思います。

 民主党政権になった今こそ、公的部門に滞留し、国が吸い上げて非効率な投資に充当してきた資金の一部を日本の独立系PEファンドへの投資に回し、経済を活性化することが期待されます(余談ながら、独立系ではなく、銀行・証券系のPEファンドは、国民の資産を預ける以上、利益相反の観点から極めて慎重に検討されるべきものだと考えます)。

 「公的年金やその他公的機関の運用資産配分を少し変えるだけで、国債発行も増税もなく、10兆円単位の経済政策の財源が出る」という事実に、もっと政治や国民の目が向けられていいはずだと筆者は思います。


安東泰志
http://bizplus.nikkei.co.jp/manda/ando.cfm?i=20090929mi000mi&p=1