内閣法制局は、本来法制的な部分で内閣を直接補佐する機関として設置され明治憲法発布より早い。
法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べるという事務(いわゆる意見事務)、閣議に付される法律案、政令案及び条約案を審査するという事務(いわゆる審査事務)を主な業務としています(内閣法制局HP。なお、厳密には内閣法制局設置法第3条)。
通俗的な(あるいは護憲派的な)理解では、内閣法制局は行政府における「法の番人」であり、時の内閣が恣意的に憲法の運用を行わないようチェックする機関とされている。ゆえに護憲派といわれる方々の意見の中には、小沢氏の国会での官僚答弁禁止に対し反対意見が多いのは納得ができるのではあるが、現実には、政府・行政府内の憲法解釈について最終的な決定を行う権限を有するのは、あくまでも内閣ですが、その決定に際しては、法の専門家・プロフェッショナルとしての内閣法制局の意見が最大限尊重されるべきであるという慣行あるいは(実質的な意味での)憲法的慣習が成立していると見るべきでしょう。
内閣法制局長官の国会答弁も、このような文脈で捉えられるべきです。政党間の力と力がぶつかり合う国会審議の場において、内閣法制局長官が与党とも野党ともある程度の距離を置き、法の専門家・プロフェッショナルとして法制的な観点から客観的な見解を述べることは意義のあることであり、国会の側からそのような意見を求めることも、国会のひとつの見識として評価されるべきでしょう。しかし、本当にそうであった場合の話ではあるが。
内閣法制局長官 鳩山政権で役割変質か
2010.2.3 07:46
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100203/plc1002030747003-n1.htm
「法の番人」とも呼ばれた内閣法制局長官の役割が今年から変わった。鳩山政権が今国会から官僚答弁を原則禁止し、憲法解釈に関する答弁も政治家が行うことになったからだ。官房長官らによる答弁には稚拙さが目立つが、内閣法制局による憲法解釈の独占には批判も根強かった。首相でも容易に手を出せなかった「聖域」は、選挙で選ばれた政治家の手に渡りつつあるのか。(杉本康士)
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「法制局長官は法的見地から内閣に助言する立場だ。『法の番人』という認識は少し違う」。平野博文官房長官は1月14日の記者会見でこう力説した。
本来、政府の憲法解釈権は首相を長とする内閣が持っており、内閣法制局は法律問題に関する「意見を述べる」(設置法)役割が与えられているにすぎない。しかし、高度の専門性や歴代内閣の一貫性を重視する立場から、これまでは内閣法制局が事実上、有権解釈権を握ってきた。このため、国会審議では内閣法制局長官が憲法解釈答弁にあたってきた経緯がある。
一方、鳩山政権は官僚答弁を禁止する国会審議活性化関連法案を今国会に提出した。政府は法案成立を待たず、国会答弁ができる「政府特別補佐人」から内閣法制局長官を除外した。こうした動きには、各府省庁から「法制局の解釈は絵空事が多かった。憲法解釈は首相が総合判断する立場なんだから、現政権の判断は正しい」(外務省筋)と歓迎する見方も多い。
内閣法制局はこれまで、同盟国に対する攻撃を自国への攻撃とみなし反撃する集団的自衛権を「保有するが行使はできない」と矛盾した解釈を打ち出し、政府の政策判断を縛ってきた。とはいえ、憲法には集団的自衛権を禁止する明文規定はなく、日米安保条約や国連憲章51条では固有の権利として認められている。
政治家による憲法解釈が定着すれば、批判を受け続けた憲法解釈が見直される可能性も生まれる。だが、道のりは必ずしも平坦(へいたん)ではない。
1月21日の衆院予算委員会では、天皇陛下の国事行為と公的行為の違いを聞かれ、平野氏はメモの助けを受け取るまで「後刻答える」と立ち往生した。また、政府・民主党は永住外国人に地方参政権(選挙権)を付与する法案の提出を検討中だが、これに関しても「参政権付与は憲法違反との指摘が強いので、政権に都合のいい憲法解釈をするために法制局長官の答弁を禁止したのでは」(公明党関係者)との見方もある。
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■安倍元首相も説得に腐心
「ここはアンタッチャブル。近寄りがたいよね」
鳩山内閣発足直後、官僚出身のある副大臣は、東京・霞が関の合同庁舎4号館にある内閣法制局長官室の前でこうつぶやいた。
内閣法制局は各府省庁がまとめた法案を審査する役割も担う。憲法を含む他の法律と矛盾しないとお墨付きをもらわない限り、閣議決定までたどりつけない。
自衛隊の海外派遣に関する法律を担当したある官僚は、内閣法制局側の見解とことごとく意見がぶつかり、一時、出入り禁止を申し渡されたという。
内閣法制局の定員は77人。大半が全府省庁から出向してきた法律に詳しい官僚で、その頂点に立つのが内閣法制局長官だ。天皇陛下の認証が必要となる認証官ではないのに閣議に出席できるのは内閣法制局長官のみ。戦後5人の長官OBが最高裁判所判事を務めている。
安倍晋三元首相は集団的自衛権の行使を検討する懇談会を設置する際、宮崎礼壹長官(当時)を3回にわたり首相官邸で説得するなど、配慮に腐心した。集団的自衛権に関する政府解釈を見直したい安倍氏に対し、法制局側は長官以下幹部らの辞任もほのめかして抵抗したとされる。
【主張】通常国会召集 疑惑解明に国政調査権を
2010.1.18 03:01
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100118/stt1001180301000-n1.htm
平野博文官房長官は法改正を待たず、内閣法制局長官に答弁させない方針をとった。集団的自衛権の行使の問題など国益にかかわる政策の憲法判断を、内閣法制局に任せていたことを改めようというものだ。
日米同盟の強化につながる集団的自衛権の行使容認に向け、行使を阻んできた法制局長官答弁の枠を離れた議論を歓迎したい。
「通年国会」への転換が与党の改革案に入っていないのは不十分だ。会期を決めた後は、政策の中身より法案審議の日程闘争に重きが置かれる従来のやり方から、早急に脱しなければならない。
“法の番人”不在に 内閣法制局長官の答弁を禁止 通常国会冒頭から
2010.1.14 16:18
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100114/plc1001141618009-n1.htm
平野博文官房長官は14日の記者会見で、18日召集の通常国会から、内閣法制局長官には国会答弁をさせないことを明らかにした。官僚答弁を禁止する国会審議活性化関連法案の成立を待たずに、法制局長官を国会答弁ができる「政府特別補佐人」から除外する。憲法解釈に関する答弁は各閣僚が質問に応じて行う。
法制局長官は自民党政権下で憲法解釈権を事実上握り、「法の番人」と呼ばれたが、平野氏はこのような考え方を「法制局長官は法的見地から内閣に助言する立場だ。法の番人という認識は少し違う」と退けた。
政府が永住外国人に対する地方参政権(選挙権)付与法案を国会へ提出した場合、憲法論議は必至のため、法制局長官の答弁禁止は審議に影響を与えそうだ。
民主党国会改革の内部資料が判明 法制局から「憲法解釈権」剥奪
2009/12/10 01:46
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/334073/
民主党政治改革推進本部(本部長・小沢一郎幹事長)が作成した官僚答弁の禁止など国会改革の詳細を記した内部資料が9日、明らかになった。資料は国会法など国会審議活性化関連法案の骨子と想定問答集。想定問答集は、内閣法制局長官について「憲法解釈を確立する権限はない。その任にあるのは内閣だ」とし、自民党政権下で内閣法制局が事実上握ってきた「憲法解釈権」を認めない立場を強調している。
さらに「内閣の付属機関である内閣法制局長官が憲法解釈を含む政府統一見解を示してきたことが問題で、本来権限のある内閣が行えるよう整備するのが目的」と明記した。法制局長官の国会答弁を認めないことを通じ、憲法の解釈権は国会議員の閣僚が過半数を占める内閣が実際上も行使する方針を示したものだ。
ただし「憲法解釈の変更を目的にして、今回の改正があるわけではない」と、憲法9条の解釈変更への道を開くとして警戒する社民党への配慮も示した。
法案骨子は(1)国会で答弁する政府特別補佐人から法制局長官を除く(2)内閣府設置法と国家行政組織法を改正し副大臣、政務官の定数を増やす(3)衆参両院の規則を改正し政府参考人制度を廃止(4)国会の委員会に法制局長官を含む行政機関の職員や学識経験者、利害関係者からの意見聴取会を開く-の4点を挙げた。
民主党政治改革推進本部は9日の役員会で骨子案を大筋で了承した。来週にも与党幹事長会談を開き、合意を得たい考えだ。
与党3党 官僚答弁禁止の法改正で合意
2009.12.7 12:19
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091207/stt0912071119001-n1.htm
民主、社民、国民新党の与党3党は7日午前、国会内で幹事長・国対委員長会談を開き、官僚答弁を原則禁止する国会法改正など国会改革の進め方について、与党間で国会改革関連法案の法案策定作業に着手し、来年1月召集の通常国会冒頭で法案を提出することで合意した。平成21年度第2次補正予算案とともに成立を図る考えだ。
社民党はこれまで、内閣法制局長官の答弁制限によって「憲法解釈が変更されかねない」として慎重姿勢を取っていた。このため、民主党は「新たな場」を設けて官僚から意思表示をさせて議事録に残すなどの妥協案を提示。社民党はこの案を受け入れることを基本的に了承した。国民新党は改正に賛成している。国会改革については、民主党の小沢一郎幹事長が強い意欲を示してきた。
新政権、憲法どこへ 小沢幹事長「法の番人」封じ
朝日新聞(2009年11月3日)
日本国憲法が1946年に公布されてから、3日で63年。改憲問題をめぐる民主党の対応に注目が集まるなか、小沢一郎幹事長が唱える「官僚答弁の禁止」が論議に悪影響を及ぼしかねないと心配する人たちがいる。ただ、目の前の課題や党内事情もあって、新政権にとって改憲は「後回し」の状態だ。
「これは官僚批判の名を借りて、憲法の解釈を変えてしまおうという思惑では」
神戸学院大法科大学院の上脇博之教授(憲法学)は、ニュースで見かけた民主党の動きを気にかけている。
発端は先月7日の小沢一郎幹事長の記者会見。「法制局長官も官僚でしょ。官僚は(答弁に)入らない」と語り、国会法を改正して内閣法制局長官の国会答弁を封じる意向を示した。
内閣法制局は「法の番人」とも呼ばれる。法理を駆使して、ときの政府の意向をかなえる知恵袋の役を果たす一方で、例えば海外での武力行使をめぐって「憲法9条の下ではできない」との見解を守り続け、憲法解釈に一定の歯止めをかけてきた。
一方、小沢氏はかねて「国連決議があれば海外での武力行使も可能」と主張し、何度も法制局とぶつかってきた。新進党首だった97年には、日米ガイドラインの憲法解釈をめぐって橋本首相に代わって答弁した法制局長官を「僭越(せんえつ)だ」と国会で批判。03年には自由党首として「内閣法制局廃止法案」を提出した。
こうした過去の言動を見れば、憲法解釈も政治家が行うというのが、小沢氏の隠れた真意だと上脇教授は見る。
「もしそうなれば……」。ある元法制局幹部の頭によぎるのは、05年まで衆参両院で開かれていた憲法調査会の議論だ。「きめの粗い感情的な憲法論に終始し、国政が混乱する」と元幹部は懸念する。
「法制局なしでやってみたらお分かりになると突き放したいところですが、憲法上できないことを『できる』と政治家が言い張って、被害を受けるのは国民。その被害が、二度と回復できないものだったら、どうしますか」
04年までの2年間、長官をつとめた秋山収さん(68)は、小沢氏の狙いを「9条の解釈が気にくわないという、その一点でしょう」と言い切る。
内閣が変わるたびに、法制局は、長年積み重ねた国会答弁をもとに「戦争放棄」の9条や「政教分離」の20条など憲法の課題を新首相にレクチャーする。議員が提出する質問主意書の政府答弁にもすべて目を通す。
秋山さんは、そうした後ろ支えがなければ、政治家の「脱線答弁」が頻発し、それが定着してしまうという。国の基本的なあり方は、憲法改正という民意を問う手続きを経るべきだと秋山さんは考える。「その時々の多数政党の力で9条の解釈が揺れ動くのは憂慮すべき事態だ」