2009年8月11日火曜日

【原子力発電】 原発ルネサンス

原発ルネサンスで拡大狙う東芝、日立、三菱重工への懸念
http://diamond.jp/series/closeup/09_08_15_001/

世界的な原子力発電回帰を受け、メーカー間の受注競争が本格化している。だが、早期立ち上がりが期待された米国市場拡大の遅れが懸念されるほか、欧州の原子力大手、仏アレバが海外案件の失敗で収益を悪化させるなど、リスクも顕在化してきた。東芝、日立製作所、三菱重工業の日系メーカーも、決して例外ではない。
 世界的原子炉メーカー、仏アレバの資本引受先が、原子力発電関係者のあいだで話題となっている。
 2008年度、同社原子炉部門の業績は、売上高30.4億ユーロに対して▲6.9億ユーロと3期連続の営業赤字に沈んだ。

 6月末に、アレバは構造改革の実施を表明した。年度内に最大15%まで、戦略的パートナーから出資を仰ぐという。約20億ユーロを調達する見込みだ。出資の候補として、アレバと包括提携を結ぶ三菱重工業の名も挙がっている。さらにアレバは、営業利益率11%を誇る成長中の“虎の子”送配電事業の放出まで思い切る。

 一連の改革の背景には、「2つの理由がある」と関係者は指摘する。

 第一に、アレバが03年に32億ユーロで受注したフィンランド・オルキルオト3号機の建設遅延によるコストの増大だ。最新鋭大型炉として開発したEPR(欧州型加圧水型軽水炉)初号基の建設だけに、アレバの意気込みは大きかった。だが品質や工程管理のトラブルが続き、約3年遅延して追加コストが発生。発注元の電力会社から、逸失利益も含め20億ユーロ以上の賠償請求を起こされたのである。

 第二に、原子炉部門に34%出資していた独シーメンスが資本関係解消を決めたため、その持ち株分を買い取る資金が必要となった。

 一方でアレバは、ウラン鉱山開発、濃縮工場建設、原子炉建設などを進めるため、12年までに100億ユーロ規模の投資を計画している。資本金や手元資金を厚くする必要に迫られているのだ。

 この欧州の雄、アレバの苦境は、日系原子炉メーカーにとって、決して対岸の火事ではない。国内原発需要が頭打ちで、東芝、日立製作所、三菱重工は海外展開を迫られており、同様のリスクにさらされかねないからだ。

 各社は海外展開を視野に、世界的メーカーとの連携を加速させてきた。06年の東芝による米ウエスチングハウス(WEC)買収をはじめ、日立は米ゼネラル・エレクトリック(GE)と戦略提携を締結、三菱重工はアレバと中型炉開発や燃料分野で包括提携した。

皆、強気の売上高目標を掲げる。東芝‐WEC連合が20年度に今より倍増の1兆円、日立が15年度にやはり1.5倍の3000億円、三菱重工が19年度に倍増の6000億円としている。

これら3陣営を軸に、世界中で受注競争は熱を帯びているが、市場の成長性に見込み違いも生じ始めた。また、仮に受注にこぎ着けても、一基の工程管理の失敗で収益を悪化させるリスクの大きさは、アレバの事例が証明している。日系メーカーは果実を手にできるか。

手痛い米国市場の立ち遅れ
ターゲットは原発新興国

 30年までの原発需要は「現在の発電量に占める原発比率15%が変わらず、廃炉がないと仮定すれば、100万キロワット級で約180基の増設が期待される」(服部拓也・日本原子力産業協会理事長)との見方が平均的である。

特に成長性が高いのは、米国、ロシア、中国、インド、スウェーデンなど欧州の一部、中東・アジアの一部である。日系メーカーの照準は、国産炉導入を狙うロシアと中国などを除き、短期的には米国、将来的には中東・アジアといった原発新興国に絞られよう。

 だがここへきて、大きく2つの懸念が顕在化してきた。

第一に、建設リスクの大きさである。これは、フルタンキーではないが、EPC(設計、調達、建設)契約を結んだ米サウステキサス・プロジェクトに乗り出す東芝が抱える問題だ。東芝にとって、初めての海外大型原発案件である。

 原発建設に不慣れな建設国で、異なる品質基準、労働者の募集・管理の慣習に応じて工程を進められなければ、たちまち工期が遅れて追加コストが発生する。電力会社が音頭を取る日本国内での建設とは勝手が違う。かつて日立も、米国の火力発電建設で、数百億円もの赤字を出した。

 また、建設だけでも最低四年、計画時から考えれば10年ほどを要する足の長い商売だけに、資材の確保やそのコスト管理も難しい。

 もっとも、サウステキサス・プロジェクトで採用される炉型はABWR(改良型沸騰水型軽水炉)で、国内や台湾で建設実績がある。この点は冒頭のアレバとは異なる。東芝は製品の信頼性が高い日本のサプライヤーに機器納入を呼びかけ、できるだけ日本と同条件での建設を目指している。

 また「資材の一部などを除き、3年後の建設直前に納入価格を決める契約にして、単価の変動リスクを回避する」(五十嵐安治・東芝上席常務)と柔軟な対応を強調する。だが、日立の二の舞いにならないとは言い切れない。

 東芝もアレバの“一気通貫”モデル──燃料供給からプラント建設、再処理など上流から下流まで──と似た道を模索している。アレバの場合は幸い、原子炉以外の燃料製造、再処理、送配電の三部門の収益性が営業利益率11~15%と高く、連結での赤字は免れた。東芝も燃料・保全サービスの充実を目指しているが、まずは新規建設による売り上げ増が先行する。プラント建設以外の部門も、収益の増大が急がれる。


 第二に、海外市場開拓に対する意欲後退がある。原因は、海外での苦戦と、国内の瞬間的需要によるリソース不足である。この点は特に、日立と三菱重工が際立つ。

 両社は、早期の立ち上がりが期待された米国市場で出遅れた。共に、米国の新設計画において、最初の数基のみが得られる融資保証の候補からはずれたのだ。

 依然正式決定ではないし「今後、新エネルギーとして新たに融資枠が設けられる可能性もある」(三菱重工)。だが政府保証がない場合、一基6000億円と、3年前より倍増した巨資を投じる必要がある。資金が集まりにくい金融情勢が続くなか、建設計画を延期・中止する電力会社も出てきた。また米国の実績は将来の受注競争で有利に働くため、逃した魚は大きい。

 さらにGE‐日立連合の場合、米ドミニオンなど複数の電力会社で、新型炉ESBWR(次世代型沸騰水型軽水炉)の採用中止が相次いだ。建設実績があり米国でも認められた炉型ABWRの売り込みに切り替えると見られるが、決断の遅れは否めない。そもそも世界的に、GE‐日立の推すBWR(沸騰水型軽水炉)系は、アレバや三菱重工のPWR(加圧水型軽水炉)系より劣勢にある。

 ただ日立の場合は、国内需要が瞬間的にわき、人手も設備もフル稼働の状況だ。もともと海外はGE主体という役割分担で「海外開拓への切実感は薄い」(日立幹部)。

 三菱重工も元来、「国内市場が基軸」と言い切っている。だが海外市場開拓の必要性に変わりはない。
 両社にとって米国や中国は機器供給が中心となろう。一括契約を狙うなら、建築実績が重視される、原発回帰国・新興国だろう。英国など欧州の一部や、成長性の高いアラブ首長国連邦など中東、次いで将来的には、ベトナム、インドネシアといったアジアである。

 特にアジアは政情不安などで計画が見通しにくいのが難点だが成長性は大きい。フランス、韓国に対抗し、官民連合で売り込むため、メーカー同士や各提携先、電力会社などとの利害調整がカギを握る。

GEは日立から三菱へ!?
三菱はアレバに出資か

 現在の原子炉メーカーの提携関係も、依然流動的だ。
 日立と原発分野で提携するGEは、火力発電部門で三菱重工と手を組んだ。この提携が、原発分野にも及ぶとの見方は根強い。

「GE側が事故の続いた日立の技術力を不安視して、新たな機器調達先として三菱重工に目をつけた」(商社関係者)というのだ。

 両社の炉型は異なるため連携するメリットを疑問視する向きもあるが、逆に電力会社のニーズに合わせ補完もできる。三菱重工としても、日米のほか中東やインドに根を張るGEの営業力は魅力だろう。三菱重工にとってアレバへの出資は考えどころである。