2010年6月16日水曜日

【沖縄基地問題】 鳩山由紀夫・小沢一郎

 基本的に毎日新聞の記事を残す事は少ない。なぜにこの記事を残したのかは自分にはわからないが、記事の上にメモ書き同然の文字が増えていきそうな気がしたのが原因なのだろうか。


記者の目:菅新政権の「普天間」政策=上野央絵(政治部)
毎日新聞 2010年6月16日 0時04分
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20100616k0000m070123000c.html

 「沖縄に迷惑をかけ、社民党を政権離脱に追い込んだ責任を取る」。鳩山由紀夫前首相は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をこう総括して辞任した。後を引き継いだ菅直人首相は11日の所信表明演説で「私の最大の責務は歴史的な政権交代の原点に立ち返って、国民の信頼を回復することだ」と語った。そこで菅首相にお願いしたい。普天間問題においても「県外、国外」の原点に立ち返って、沖縄県民の信頼を回復してほしい。さもなければ自ら「外交の基軸」とうたった日米同盟を結果的に危うくすることになる。

 ◇辺野古84%反対 知事容認は困難
 鳩山氏が党代表として昨年の衆院選で訴えた「最低でも県外」が守れず、自民党政権下で日米が合意した「沖縄県名護市辺野古移設」をほぼ追認したことは、民主党政権に対する沖縄の不信感を決定的にした。毎日新聞と琉球新報が5月末、沖縄県民を対象に実施した合同世論調査では、辺野古移設に「反対」との回答が84%で、反対のうち、▽無条件撤去38%▽国外36%▽県外16%だった。

 民主党内でも「国外」がくすぶり続けている。

 「君、サイパンに行ったんだよなあ。今度ゆっくり話を聞かせてくれよ」。4日午後、衆院本会議場での首相指名選挙の最中。民主党の小沢一郎前幹事長が川内博史衆院議員の肩をたたき、ささやいた。川内氏は5月上旬に米自治領北マリアナ連邦のサイパン、テニアン両島を視察。地元首長から「米海兵隊の駐留を受け入れる余地がある」との言質を引き出していた。

 さらに川内氏が自分の席に戻りがてら、鳩山氏に「お疲れさまでした」と声をかけると、返ってきた言葉は「やっぱり、テニアンだよね」だった。「自らの思いを実現できなかった無念さ」を感じ取った川内氏は、新たな日米合意に盛り込まれた「グアムなど日本国外への訓練移転」を足掛かりに「訓練だけでなく代替施設も国外に移す働き掛けを今後も続ける」と話す。

 鳩山氏の「思い」とは、2日の辞任表明で訴えた「対米依存の安全保障からの脱却」だ。であれば最初からそう内閣の方針を決め、関係閣僚に号令をかければよかったと思うが、鳩山氏はそうしなかった。大きな要因は、社民党との連立だろう。「沖縄の米軍基地縮小と自衛力増強はセット」が鳩山氏の考え。安保観の異なる社民党と、いずれ衝突は避けられなかった。

 菅首相は党代表選に出馬表明した3日の記者会見で、普天間問題について「鳩山首相自ら辞めることで重荷を取り除いていただいた」と語った。菅政権発足を受けた毎日新聞の世論調査では「辺野古移設賛成」が過半数を占め、5月の調査と賛否の傾向が逆転した。しかし、社民党の連立離脱で「重荷が取り除かれた」とみるのは早計だ。むしろ、本土と沖縄の民意のギャップが広がった深刻な状況と受け止めた方がいい。

 仲井真弘多知事は15日、菅首相と初めて会談し、「県外、国外への県民の強い要求」を改めて指摘、「日米共同声明でまた辺野古という方向が出て、県民の期待は失望に変わった。声明の実現は難しい」と明言した。知事が4月25日の県民大会で語った「沖縄の過剰な基地負担は差別だ」との言葉は重い。

 普天間移設を巡る日米合意には代替施設の具体的な位置、配置、工法の検討を8月末までに完了するという期限が設けられた。政府は「環境配慮型埋め立て」工法を念頭に置いており、公有水面埋め立て許可権限を持つ知事の了解が必要だが、11月の知事選で再選を目指すとみられる仲井真知事が県民世論の大勢に反する「辺野古移設」を容認できる状況にはない。

 ◇安保のあり方 党内論争決着を
 菅首相が「日米合意を踏襲する」とする中で知事が了解できる状況を作り出すには、日米合意に盛り込まれた「米軍の訓練の県外・国外への移転」の具体化が最低条件。さらに、鳩山氏が言うように、自主防衛力を高めて沖縄の米軍基地縮小を目指すなら憲法や日米安保条約の問題に踏み込むべきだし、それに触れないのであれば国内で基地負担の平等化を目指すべきだ。

 菅首相は就任後、最初の街頭演説(12日、東京・新宿駅前)で「外交とは内政だ。国民が多少の代償を払っても、この国を守ろうとしているのか。それが外交の最も基本的な力だ」と訴えた。鳩山氏が身をていして問題提起した「日本の安全保障はいかにあるべきか」の論争に、民主党政権として決着をつけなければ、沖縄県民は納得しないと私は思う。「内政」なくして日米同盟の深化もあり得ない。

【小沢一郎】 帰去来辞

 昨年、西松事件が起きた時に産経新聞が江藤淳氏の「帰りなん、いざ」を持ち出したことがある。そのことに触れ今回も産経と岩手日報は記事にしているのだが、果たしてそれは正しい解釈なのだろうか。

過去の記録 【小沢一郎】 江藤 淳



岩手日報が「論説」で小沢氏引退勧告 「使命果たしたのでは」
2010.6.16 16:04
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100616/stt1006161619004-n1.htm

 民主党の小沢一郎前幹事長のおひざ元、岩手県で最大の約22万部を発行する「岩手日報」が16日、小沢氏に政界からの引退を促す「論説」を掲載し、注目を集めている。同紙は「読者からの反応は今のところない」としている。地元でも小沢氏の求心力に微妙な変化が起きているあらわれといえそうだ。

 タイトルは「『使命』果たしたのでは」。

 記事では、昨年の政権交代について「原動力を果たしたのは小沢氏」と評価した上で、「政治とカネ」問題への世論の「嫌悪感」や菅政権への期待を理由に、「どうだろう。この辺りで鳩山前首相と共に政界から身を引いてみては」と、小沢氏に引退を求めた。

 評論家の故江藤淳氏が生前、小沢氏に「帰りなん、いざ」と帰郷を勧めた産経新聞のコラムにも触れ、「すでに十分に『使命』を果たしたのではないか」と締めている。

 今月4日、盛岡市の民主党会合で映されたビデオレターで、小沢氏が参院選後に「先頭に立つ」と意欲を訴えたことにも言及。選挙後も「連立維持なら菅首相の続投が前提」という見方を示し、小沢氏の発言に「不可解だ」と疑問を投げかけた。

 さらに、「不意の『ハト鉄砲』を食らって冷静な判断ができなかったか」「『しばらく静かにして』と注文した菅首相の言葉に心を乱したのか」と小沢氏の心境を分析している。

 岩手日報によると、「論説」は社の意見を訴える各紙の「社説」(産経新聞は『主張』)と性格がやや異なり、5人の委員が署名入りで執筆している。毎週末に論説委員会を開き、次週のテーマを話し合う。掲載前に委員が回し読みし、切り口などを手直しするケースはあるものの、基本的に筆者の見解が尊重されるという。

 今回の筆者は、編集局長などを経て、3月末まで論説委員長を務めた宮沢徳雄委員。論説・制作担当の常務も兼ねている。

 宮沢氏は、産経新聞の取材に、「各種の世論調査で『政治とカネ』など古い自民党的な体質に国民が嫌気を感じているのは明らか。地元に『小沢首相』待望論があるのは承知しているが、菅首相就任で民主党支持がV字回復しているのが現実。小沢氏は身を引くチャンスだと思う」と執筆の意図を説明した。

 宮沢氏によると、今回の記事で、他委員から反論はなかったという。



小沢氏の去就 「使命」果たしたのでは
宮沢徳雄(2010.6.16)
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2010/m06/r0616.htm

 いつも政局の中枢にあり、影響力を発揮してきた小沢一郎民主党前幹事長が今「一兵卒」としての日々を過ごす。通常国会が16日閉幕。参院選に突入するが、「脱小沢」の布陣を敷いた菅直人新政権に国民の審判が下る。 

 鳩山由紀夫前首相と小沢氏の2トップが辞任した陰で激しい主導権争いが繰り広げられたことは想像に難くない。鳩山氏の後継に菅氏を選んだことも、前政権に見た既視感を覚えた。本来ならば野党時代に主張したように、政権内のたらい回しではなく解散・総選挙を実施し、国民に信を問うのが筋だった。

 民主政権の交代劇で主役を演じた3人は、4年前に小沢氏が偽メール問題で辞任した前原誠司代表の後任に就いた時に「トロイカ体制」を組んだ仲だ。その1人が首相に就き、ほかの2人が身をひく事態に時の流れを感じる。

 新政権への国民の期待度は世論調査にも表れているが、参院選の結果次第では与野党の再分裂や政界編成が視野に入ってくるだろう。だからこそ「豪腕」「壊し屋」と言われる小沢氏の次の行動に政界の注目が集まる。

 しかし、小沢氏は辞任時の会見などで「一兵卒」と言いながら、9月の代表選に向けて「先頭に立つ」と意欲を隠さない。最大の小沢グループも一連の党人事や閣僚人事で「脱小沢」を鮮明にした菅首相とは一定の距離を置く。

 先の代表選びで田中真紀子元外相や海江田万里氏らに出馬を促したとも伝えられる。表向きは「自主投票」だったが、グループの後押しを受けて善戦した樽床伸二氏が国対委員長に就いた。

 「小沢グループの協力なしに参院選は戦えない」-との声が聞かれる一方、小沢氏自身も樽床氏の得票数に「非常によかった。悲観する数字ではない」と語っている。

 9月の代表選は参院選の結果次第で大きく違ってくる。民主党にとって、最大の課題は参院選を勝ち抜くことだ。単独過半数でなくとも連立維持できる状況ならば、菅首相の続投が前提になるだろう。それなのに、参院選を前に小沢氏が9月の代表選に言及したことは不可解だ。

 不意の「ハト鉄砲」を食らって冷静な判断ができなかったか。「しばらくは静かにして」と注文した菅首相の言葉に心を乱したのか。
 昨年夏の衆院選で「政権交代」を果たした原動力が小沢氏であることは周知の事実。「参院選に勝ち、政権安定と改革実行が可能になる」-とは本人の言葉だが、世論は鳩山、小沢両氏につきまとった「政治とカネ」に嫌悪感を抱いているのが明らかだ。

 どうだろう。この辺で鳩山前首相と共に政界から身をひくことを考えてみては。

 かつて評論家江藤淳氏が陶淵明の詩「帰去来辞」を引用して小沢氏に「帰りなん、いざ。田園まさに蕪(あ)れんとす。なんぞ帰らざる」と帰郷を勧めたことがある。

 すでに十分に「使命」を果たしたのではないか。

【官僚支配】 内閣法制局 ②


昨年末から、内閣法制局長官に憲法解釈等の国会答弁をさせないとするいわゆる「官僚答弁の禁止」の中で何かと話題に上る内閣法制局であるが、先日、テレビ朝日の番組で内閣法制局長官の公邸が映し出されていた。あの画像をみられた方がどのような印象を持ちえたかは不明ではあるが、朝日新聞のGLOBEで、この内閣法制局に関しての記事が載せられている。この後に出てくる「長官の待遇はVIP級」のくだりは、その放送を元に書かれたものと推察できる。

鳩山政権から菅政権にかわり朝日新聞の「内閣法制局長官」の答弁禁止に関しても矛先が鈍ったように思えるのは、小沢氏が幹事長の座を退いたからであろうか。

内閣法制局長官に憲法解釈などの国会答弁をさせない方針を続けると菅政権の組閣発表の会見の場で官房長官・仙谷由人は述べている。





法制局の法律解釈は

法制局が法解釈をするにあたって重視するのが、他の法律や過去の解釈との「整合性」だ。ただ、法律にも複数の解釈があり得る。絵で例えると、図のように、花ビンと顔の両様に解釈できる場合だ。だが、ある時点で花ビンだと解釈されて花がかきこまれると、そうでない解釈は閉ざされ、当初から花ビンとして描かれた、ということになる。


横文字法律はNG?

「我が国は包容力ある漢字文化を有しているのだから、漢字で表記できないはずがない。その努力をすることなく、生煮えの外来語に飛びつくべきではない」

こんな理屈で、内閣法制局にけられた幻の法案名がある。リゾート開発がはやったバブル期の1980年代に提案された「リゾート法」は、結局、「総合保養地域整備法」に落ち着いた。旧建設省など「リゾート」を推した側は「保養地には、深夜まで酒におぼれるイメージがあり、心身共に健やかに自己を高める意味合いが包含できない」という理屈だったが、「総合保養地域……」の名称も趣旨が分かりやすいとは言い難い。「保守的で柔軟性がない」と法制局を批判する時に何かと引き合いに出される例になった。


長官の待遇はVIP級

内閣法制局長官は、特別職の公務員としては、官房副長官や宮内庁長官などと同格。月額給与は144万4000円で、国会議員の歳費(129万7000円)を上回る。これだけでも、政治家の中には「国会議員より高収入の公務員がいるなんて」などと問題視する声もある。

さらに権力を象徴するように言われてきたのが、五反田・池田山の高級住宅街にある旧長官公邸。延べ床面積1555平方メートルの白亜の御殿は、複数の会議室や、11台の地下駐車場を備え、建設費は11億円。公邸廃止の政府方針に伴って会議室として使われるようになったが、2002~05年には小泉元首相の仮公邸に。「総理大臣公邸より、官房長官公邸より、官僚の公邸の方が上なのかなあ」という小泉節のために、かえって「豪華すぎる官僚公邸」の代名詞になった。


「若しくは」「又は」の違いは?

「リンゴ若しくはミカンの皮をむく、又はスイカを切り分けるときに……」。日常会話で、こんな言葉遣いはしない。しかし、法律の世界では「若しくは」と「又は」は厳密に使い分けられている。それをチェックするのも内閣法制局の役割だ。局内の「法令整備会議」で日ごろから接続詞や句読点にいたるまで点検を重ね、統一を図っている。

「若しくは」と「又は」の場合、一番大きな段階での並列を表すのに「又は」を使い、それより下のレベルでの並列には、「若しくは」を使う。

ちなみに内閣法制局設置法施行令は、第三部の所管事務を「主として金融庁、総務省、外務省若しくは財務省又は会計検査院に属する事項」と書いている。


どの省出身なら幹部になれる?

内閣法制局は、各省庁の出向者の精鋭を集めているといわれるが、どの省庁からでも出向できるわけではない。とくに、部長などの幹部になるのは、原則として法務、財務、総務、経済産業、農林水産の5省出身者だけ。無言の「格付け」があるようだ。

さらに、部長より上に進むには、事実上の更なる線引きがある。ある長官経験者は「法制次長、長官は、部長になれる5省から農水を除いた4省の出身者という、これまた、不文律がある」と話す。法制局に詳しい明治大学政経学部の西川伸一教授によると、長官になるには第一部長になるのが必須。「第一部長→法制次長→長官というロイヤルロードは1952年以来破られていない」という。



内閣法制局(法令解釈担当は官房長官に)
http://globe.asahi.com/feature/100614/01_1.html

[Part1]

「内閣が責任を持った憲法解釈論を

 国民のみなさま方、あるいは国会に提示する」

8日、菅政権の組閣発表の会見。官房長官に決まった仙谷由人は、よどみない口調でこう述べた。

「憲法解釈は、政治性を帯びざるを得ない。その時点、その時点で内閣 が責任を持った憲法解釈論を国民のみなさま方、あるいは国会に提示するのが最も妥当な道であるというふうに考えている」

鳩山内閣と同じく、内閣法制局長官に憲法解釈などの国会答弁をさせない方針を続ける、その理由の説明だった。前行政刷新相の枝野幸男が兼ねていた「法令解釈担当」を自分が引き継ぐとも表明した。

自民党政権下では、憲法や法律についての内閣の統一解釈は、内閣法制局が示すとされてきた。国会の主な委員会では、首相の真後ろに内閣法制局長官が着席。首相や大臣が答弁に行き詰まると、すっくと立って法解釈をそらんじ、難局を乗り切る。そんな場面がよくあった。

だが、民主党は年明け後、長官の国会出席をやめさせ、2月には枝野に法令解釈担当を命じた。戦後初の役職だった。

国会でのデビューは3月3日。参院予算委員会で、自民党の脇雅史が「この法律の解釈につきまして、法制局、いかがでしょう」と質問すると、内閣法制局の法制次長を制し、議場のざわめきを抑え込むように「私から内閣法制局の上申を踏まえた内閣としての解釈を申し上げます」と切り出した。

脇が求めたのは、民主党が中止を目指す八ツ場ダム建設をめぐる水資源開発促進法などの解釈。法律に基づく基本計画にダム完成が盛り込まれていると指摘し、「政治的に中立であるべき法制局」(脇)に、その法律が「生きている」ことの確認を求めた。

枝野は、「法律には計画の変更や廃止の手続きがあり、それに向けて担当大臣が作業に入るのは法令上問題がない」と答弁。法制次長の山本庸幸が「大臣がおっしゃったとおりでございます」と続けた。

双方の関係者によると、枝野の担当就任後、法制局幹部が大臣室に枝野を訪ねた。安全保障関係を中心に主な法令解釈を20分ほど説明。資料を渡した。その後の国会答弁についても「大臣が使うかどうかは別として想定問答は用意していた」。枝野の在任中、従来の法制局解釈と異なるような答弁はなかったという。

それでも法令解釈の主役の交代に、法制局の関係者らには警戒感が広がった。あるOBは「枝野さんは一応弁護士だけど、昔勉強したというだけ」と話した。

民主党が内閣法制局の力をそごうとしている背景には、前幹事長の小沢一郎の意向があったとの指摘が多い。湾岸戦争時に、法制局の憲法解釈のために自衛隊の海外派遣ができなかったことを根に持っている、との見方だ。

だが、小沢と「遠い」とされる仙谷や枝野も、憲法解釈は政治家の責任と明言する。

新首相の菅直人は、副総理だった昨年11月、国会でこう発言している。

「私はこれまでの憲法解釈は間違っていると思っていますから」

菅が否定するのは、立法、行政、司法を横並びにとらえる「三権分立」の発想だ。「三権分立なんて憲法のどこにも書かれていない」と繰り返し述べている。

行政と立法を並列すると「内閣は国会から独立しており、官僚に任せればいい」という「官僚内閣制」の考え方に支配されてしまう。しかし本来は、国民の信託を受けた国会が名実ともに国権の最高機関としての役割を果たす「国会内閣制」が正しい。菅はそうした憲法観を、11日の所信表明演説でも改めて強調した。

1998年の著書『大臣』では次のようなことも書いていた。――多くの官僚は「行政権は、内閣に属する」という憲法65条を「行政権は官僚にある」と理解している。しかし官僚はあくまで補佐役だ。「内閣は国会に対し連帯して責任を負う」という憲法66条を根拠に「閣議は全会一致が原則」と解釈されているが、事務次官会議の存在とあいまって、すべての役所が拒否権を持つ「省益優先」の仕組みになっている――。

事務次官会議は鳩山政権下で廃止された。普天間基地問題などでの迷走を教訓に、菅が霞ヶ関と融和を図るとの見方もある。内閣法制局内からも「ようやく分かってきたか」との声がもれる。

だが、菅は所信表明でも「官僚内閣制」から脱するとの目標を掲げた。明治以来その要にあったともいえる内閣法制局は、どう扱われるのだろうか。




内閣法制局(戦前から続く絶大な権力)
http://globe.asahi.com/feature/100614/02_1.html

[Part1]

官庁のなかの官庁 「法は政権の意思を超える」

「法制局は官庁の官庁であって、その権限と法に忠実な番犬たること戦前戦後を問わず、いささかも変わったことはない。各省庁にとり大蔵省主計局と内閣法制局は最も手ごわい相手であり……」

内閣法制局が創設100年を記念して発行した文集に、こんなOBの手記がある。

内閣法制局の設立は1885(明治18)年。内閣制度の発足と同時で、明治憲法発布より4年早い。初代長官は長州出身で工部卿なども務めた山尾庸三、2代目は明治憲法や教育勅語の起案にあたった井上毅。戦前は勅令の審査・解釈も手がけ、他省庁とは別格の存在だった。

米占領下でいったん解体されたが、サンフランシスコ条約で日本が主権を回復すると、吉田茂の意向ですぐに復活。主計局との「二局支配」と称される地位は保たれた。法の制定や解釈にあたり法制局は各省庁に高いハードルを課すが、いったん「お墨付き」を得れば、あとは安心できる。――こう打ち明ける官僚はいまも多い。

パワーは官僚組織の外にも及ぶ。

「どちらが上司か、分からなかった」
こう回想するのは、橋本龍太郎の首相秘書官だった江田憲司だ。憲法解釈をめぐって首相に「総理、これは譲れません」「もう決まった話ですから」と言い放つ法制局長官の姿が記憶に残る。

国会でも、法制局の法解釈が、与野党の議論の土台になってきた。最高裁判所の長官経験者すら、「法制局が厳密に合憲性のチェックをしているので違憲訴訟が少なかった」と、その「重み」を認める。

内閣法制局の規定は、憲法にはない。法解釈を担う根拠は、内閣法制局設置法で「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること」を所管するとされる点に尽きる。

それでもときに首相に対しても強い態度でのぞむ理由は何か。法制局関係者は「積み上げてきた法解釈の整合性を守らなければ、法秩序の安定が保てないからだ」という。元長官の阪田雅裕は「政治判断で行政府の法令解釈がころころ変わるようなことでは法治国家ではなくなる。政権の意思を超えて存在するのが法だ」と話す。それを担保するのが法制局というわけだ。

2007年5月の衆院外務委員会。野党だった民主党の前原誠司は、「閣議決定は全会一致」との法制局解釈に、異論を唱えた。当時の法制局長官、宮崎礼壹は、解釈を説明した後、こう付け加えた。

「このことは、古く昭和21年7月の制憲議会での担当大臣の答弁以来、歴代の総理、官房長官が一致して述べてきておられますし、またそのように運用されてきているところでございます」

ただ、法律の解釈は、1+1=2のように答えが一つとは限らない。学界でもときに多数説と少数説が分かれる。最高裁でも少数意見が付されたり、後に解釈が変更されたりする。法制局の解釈も「決める時点」では、複数の選択肢から選んでいる面がある。

しかし、自民党は「選択」の責任を負うのを避け、野党からの攻撃の「防波堤」として法制局の解釈を使ってきた。その「政治の怠慢」こそが法制局の存在感を高めた――江田はそう指摘している。

[Part2]

小沢vs.法制局 湾岸戦争以来の確執

「おまえは政治家だ。現状を変えることが、すべてに優先する。法制局が文句を言ってきたら、おれが全部抑えてやる」

自民党の実力者だった小沢一郎から、こうハッパをかけられたのを、当時側近だった船田元は覚えている。1991年に自民党の「国際社会における日本の役割に関する特別調査会」の事務局長に就いたときのことだ。会長は小沢だった。

90年の湾岸戦争で、日本は130億ドルの財政支援をしたが、自衛隊を派遣しなかった。自民党幹事長だった小沢は「国家が行使する自衛権と国連の活動とは、まったく異質のもの。(自衛隊が参加する)国連の活動は、武力行使を含んでも憲法に抵触しない」というのが持論。小沢率いる党執行部は内閣に湾岸戦争への自衛隊派遣を迫ったが、首相の海部俊樹は態度を明らかにしない。当時の法制局長官、工藤敦夫は「国連の指揮下でも憲法の制約は及ぶ。正当防衛を除く武器使用はできない」と首を縦に振らなかった。

当時の内閣官房副長官、石原信雄は「海部首相自身が、自衛隊派遣に積極的ではなかった」と振り返る。だが、批判の矛先は法制局長官に向かった。小沢調査会が92年にまとめた答申は、「これまでの政府解釈は、もはや妥当性を失っている」と結論づけた。

その後小沢は自民党を離党。細川連立内閣などを経て、野党新進党の党首になる。97年10月の衆院予算委員会。小沢は首相の橋本龍太郎に海外での自衛隊活動についての憲法解釈を問いただした。橋本は、自分は他国の武力行使と一体化しない後方支援は可能だと考えていたと述べたうえで「だが、従来、政府は必ずしもそういう見解にならなかった」と発言。小沢は「憲法解釈を変えたのか」とたたみかけた。

すると、橋本をさえぎるように当時の法制局長官・大森政輔が答弁に立ち、湾岸戦争時も一体化がなければ違憲ではないと説明していたとして、当時と「何ら見解に相違はない」と強調。橋本も「当時論議の足りなかった部分を今回補強した」と修正した。水を差された小沢は「お役所としては、ちょっと僭越(せんえつ)だ」と不快感をあらわにした。(インタビュー参照)

小沢は自由党党首だった03年には「日本一新11基本法案」の一つとして「内閣法制局廃止法案」を議員立法で提出。08年には民主党代表として「内閣法制局はいらない。国会に法制局があればいい。なぜ行政府に法制局がなければいけないのか」と発言している。

今年5月、民主党などの議員が「国会法改正案」を提出した。官僚でも例外的に国会答弁を認める「政府特別補佐人」から内閣法制局長官をはずす内容だ。その提出者名の筆頭も「小沢一郎」だった。

[Part3]

ガラス細工の「戦力」解釈

内閣法制局は、集団的自衛権の行使は違憲であるとの見解を維持し、国連指揮下での自衛隊海外派遣は合憲とする小沢らの憲法解釈にも一貫して否定的だ。こうした姿勢を見て、最近では「護憲」を掲げる政党が法制局を「憲法の守り手」として持ち上げることが多い。

だが、法制局はかつて、ガラス細工のように無理な理屈を重ねる組織との批判も浴びてきた。憲法9条に則して「戦力」を持たないと言いながら、戦車や戦闘機、護衛艦を持てる。武装勢力の攻撃が頻発するイラクにも自衛隊を派遣できる――。それでも「憲法解釈は変わっていない」と主張してきたからだ。

法制局は解釈の基準に「3原則」を掲げる。①法律の文言や趣旨に則し、②立法者の意図や背景となる社会的情勢を考慮し、③議論の積み重ねのあるものは全体の整合性に留意する。これにより、法律的に解釈は「論理的に確定すべきものである」という。

1952年に復活した内閣法制局は、憲法9条は「自衛のための必要最小限度の実力を保持することまで禁止したものではない」とし、「戦力とは近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成をそなえるもの」と定義。54年に警察予備隊から改組された自衛隊は「戦力ではない」とした。

自衛隊に米国から最新鋭兵器が次々と導入されると「戦力という言葉にはおのずから幅がある。国土保全を任務とし、必要な限度において持つ自衛力を禁止していることは当然考えられない」と解釈。これを受け、政府が最新鋭戦闘機の航続距離を伸ばす空中給油装置を外して批判をかわしたこともあった。

イラクへの自衛隊派遣では「非戦闘地域」という概念を持ち込んだ。「現に戦闘が行われておらず、活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域への派遣ならば、国としての武力行使や、他国軍隊との武力行使の一体化も理屈上は起きない。万が一、そこで武器を使用するような事態が起きても、それは「自己保存のための自然権的な権利」であって、9条違反にはあたらないとした。ただし、当時の首相、小泉純一郎が「自衛隊の活動地域が非戦闘地域」と答弁。問題になった。

[Part4]

「法制局長官の答弁禁止で、

国会論議の粗悪化が進む」

大森政輔・元内閣法制局長官インタビュー

――小沢一郎氏が1997年の国会で当時の橋本首相に「憲法解釈の変更か」と迫った時、自ら手を挙げて答弁を補足し、後に「越権」との批判も浴びました。あの行動にためらいはなかったのですか。


「総理が憲法上問題の残る答弁をしたら、補正する努力をするのは法制局長官の職責。そのために首相の後ろに座っていたのですから。あのまま黙っていて、『湾岸危機の時と防衛協力指針の検討の時で、憲法解釈は変わった』と認めたままになっていたら、それこそ大変だ。まったくためらいはなかったし、むしろ義務の履行のつもりで答弁に立った」

――その小沢氏が主導した今の法制局長官の国会答弁禁止をどう見ますか。

「弊害ばかりで、いいところは一つもない。まず、法律解釈をめぐる国会論議が非常に低調になり、きめの粗い議論にとどまってしまう。国会中継を見る限り、非常にお粗末な場面を目にします。さらに、今まで国会論議などを通じて確立してきた見解が政治家の一存で変えられる可能性が生じる。現実には、社会的・政治的に大問題となるので簡単には実現しないでしょうが、『しようと思えばできる』すき間ができることは問題だ」

――鳩山内閣では枝野氏が、新内閣では仙谷氏が法令解釈を担当しています。

「甚だ疑問だ。政治家自らが省庁間の(法律面の)意見調整に当たるのでは、適切な対応は期待できない。法曹資格を持った人であっても同様だ。法律問題の適切な処理には、個別の問題だけでなく、周辺問題、さらには法律問題全般を熟知していることが必要だ。自分の在任中にそのような事態になれば、辞任していたかもしれない。もっとも辞めただけでは事態の解決にはならないが……」

――法制局の役割をどう考えますか。

「『創造と抑制』の二つの側面がある。内閣の直属の補佐機関として、法令案の審査を通じて、政府が展開しようとする施策のための法的枠組みを作るのは価値創造の作用。他方、政策の展開はすべて憲法の枠内で行わなければならず、抵触するおそれがある場合には、憎まれ役かもしれないが、内閣に対して躊躇(ちゅうちょ)なく意見を述べる職責があり、これは抑制的機能だ。その時々の社会情勢によっては抑制的な側面が目立つ時もある」

――最高裁判所に最終的な憲法解釈権があるなかで、法制局がなぜそこまで憲法判断にかかわる必要があるのですか。

「(憲法裁判所ではない)司法機関が憲法判断をする現行憲法制度の限界として、最高裁は憲法判断に消極的だ。仮に、最高裁の事後審査により違憲判断が下された場合には、事柄によっては著しい混乱と損害を生じさせることになる。このような事態を避けるために、事前の検討機関としての内閣法制局の職責があるのでしょう」

[Part5]

「間違った憲法解釈の是正はあり得る」

枝野幸男・前法令解釈担当相(現民主党幹事長)インタビュー

――内閣法制局のあり方を、これまでどう見てきましたか。

「中学生のころ、新内閣の発足時の新聞の閣僚名簿に政治家の面々と並んで法制局長官の名前や略歴が載っているのを見て強い違和感を持った。なぜ内閣法制局だけが霞が関の中で別格なんだろうと。だから、法制局のトップには国務大臣が必要だというのは、僕の長年の持論です。支持者の集まりで『政権取ったら何大臣になりたいか?』と聞かれると、『法律改正して法制局長官やりたい』って言っていたくらいだ」

――国会でも、政治家たちが法制局を別格に扱ってきたのでは?


「政治論としては、法制局側も政治家側も、お互いを都合良く利用してきたということでしょう。でも、憲法論的にいえば、憲法判断の最終決定権は司法にあるにしても、立法府は国権の最高機関で、立法という機能を通じて違憲審査している。行政府の憲法解釈に立法府が縛られるいわれは全くない。逆はあるかもしれないが。 それが、あべこべになってきたのは非常に不思議な話だ」

――大臣が法令解釈を担当すると、恣意(しい)的な変更の危険が生まれませんか。
「それは勘違いでしょう。もともと内閣法制局は広い意味での意見具申機関だから、長官が何を言っても、首相や官房長官が『あれは参考意見です』と言えばおしまい。それは各省の事務次官が色々な意見を言っても最終的には大臣の判断で決まるのと同じことです。担当大臣がおかれても変わらない」

――2月に担当相になってから菅内閣発足で交代するまでの間に、法令解釈の運用を変えたところはありましたか。

「具体的変化はない。法律案作成のプロセスで各省と内閣法制局との調整があり、必要があれば乗り出しますよと閣議で申し上げたが、そんなに頻繁にあったらおかしい」

――内閣法制局と小沢前幹事長が対立した憲法9条の解釈論への見解は。
「コメントを控えたい。ただ、9条に限らず、行政における憲法の解釈は、恣意的に変わってはいけないが、間違った解釈を是正することはありうる。従来の内閣における憲法9条の解釈は、誤解されて受け止められている面が多々あると思っている」

「それに、『集団的自衛権の行使に当たるので憲法を変えないとできない』と流布されてきた話の大部分は、従来の内閣の見解に基づいても集団的自衛権の行使に当たらないと思っている。この点では、私の考え方は法制局とも一致した」

――将来、法律的素養のない人が担当相になったときに問題は起きませんか。

 「そうした時の、バックアップこそが、法制局の役割だろう。けんかをする関係ではないし、非常に有能な法律家集団であることには違いない」

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【小沢一郎】 東京地検特捜部が抱える病巣

郷原氏に田原氏がインタビュー

田原 郷原さんは元東京地検の検事であり、また検察官時代は政治関係の事件に関わってきたプロです。一方で小沢一郎元民主党幹事長にかかわる事件の捜査については、検察の姿勢を厳しく批判しています。

 鳩山由紀夫さんが首相を辞めて、同時に小沢一郎さんが民主党幹事長を辞めた。それで菅直人内閣になったとたん、17%ぐらいだった内閣支持率がグッと上がって60%以上になった。これは、小沢さんを排除したことで支持率が上がっているんだと思うんです、極端に言えばね。


郷原 はい。

田原 それほど小沢さんは、国民に「悪者だ」と思われていた。小沢さんが悪者だと思われた、その原因は「政治とカネ」の問題です。

 去年の3月に西松建設の問題で、小沢さんの秘書・大久保(隆規)さんが逮捕された。そこで、そのとき小沢さんは民主党の代表でしたが、代表を辞めた。

それで幹事長として選挙にのぞみました。そうしたら今度は、世田谷の深沢の土地の問題が出てきた。

 郷原さんは、西松建設の問題が起きた去年の3月からこ、の問題について非常に関心をお持ちだという。どこに関心をお持ちになったんですか?

 郷原さんは言うまでもなく元検事です。まさにプロなんですが、プロとしてどういうところがおかしいとお思いになったんですか?


郷原 まず去年の3月、大久保氏が逮捕された時点で、みんなが思ったのは、最初の逮捕事実は、普通に考えると政治家や有力な政治家の秘書を捕まえる事件としてあまりに軽微だということですね。

田原 虚偽記載でした。

郷原 政治資金収支報告書の虚偽記載ですね。それも西松建設の寄附なのに、それを政治団体の寄附という名義で記載していたという、名義の問題だけです。

 それだけのことで、あの時期にあれほど大きな政治的な影響を及ぼすような事件の強制捜査をやるわけがない、と多くの人が思ったわけです。

田原 いつ選挙があってもおかしくない時期ですよね。

ライブドア事件も、村上ファンド事件も問題があった

郷原 だからその背後に、なにかもっと大きな事件があるはずだと。贈収賄とかあっせん利得とか、そういった事件の見通しが立っていて、その入り口としてあの事件に着手したんだろうという見方をする人が多かった。

田原 多くの人がそう思っていましたね。これは単なる入り口であって、小沢さんは東北地方の本当に実力者だから、贈収賄があるんじゃないかとか、そう見ていましたね。

郷原 ええ、前半部分については僕も基本的に同じ見立てでした。

 要するに、これだけでやるのはおかしい。常識では考えられない。これだけの事件で、こんな時期に小沢さんの秘書を捕まえたりしない――それが今までの検察の常識だった。

 そこまでは同じなんです。しかし「それじゃあ本当にその先に大きな事件があるのか」という部分に関しては、私は最初から「たぶんないだろう」と思っていたんです。

田原 そうですか。

郷原 ええ。

田原 小沢さんはあのとき民主党の代表ですよ。いつ選挙があってもおかしくない、野党の代表です。それに対して致命的なダメージを与えたわけですよね。こんな程度のことでダメージを与えるのはおかしいから、なんか奥にあるんじゃないかと、私もふくめてみんなそう思っていましたよ。

郷原 そこが、特捜検察、今の東京地検特捜部っていう組織の力をどのように評価するのかっていう問題だと思います。

 私は別にあの事件で突然検察のことを批判し始めたわけではないんです。ライブドア事件についても、村上ファンド事件についても、検察の捜査の問題はさんざん指摘してきていました。この2000年以降の特捜検察が手がけた事件って、はっきり言ってろくな事件がないんです。非常に捜査能力が低下している。

 ですから、最初は「大事件に発展するんじゃないか」と思わせながら、最後はろくな事件にならなかったというケースは、それまでにもたくさんあったんです。

 ライブドア事件だってそうじゃないですか。「大変な悪党の会社だったということが分かった。これから特捜部が闇のカネを曝いていく。マネーロンダリングだ、海外の不正送金だとかこれから出てくる」などと言われました。

 でも、結局、最終的に起訴された事実はたった54億円の粉飾決算、しかもほとんどそれが会計処理の問題なんです。

田原 だから堀江(貴文)さんに対する判決も、「態度が悪い」とか。

郷原 そうです、情緒的な判決でした。

田原 極めてね。

やはり公共工事絡みしか考えられない

郷原 私はそういう特捜検察の事件を一つひとつ、自分なりに見てました。そもそも、小沢さんのような・・・。

田原 超大物。

郷原 そう。それが簡単に、尻尾を捕まれるような政治家とは思えない。

 だから、今回、突然、特捜検察が大変な捜査能力を発揮して、そんな不正に、闇に斬り込む、なんていうシナリオのほうが可能性が低いだろう、とまず思ったわけです。

 それと同時に、それじゃあ本当に具体的に何か野党の政治家であった小沢さんに贈収賄の疑いをかけるようなことがあるんだろうか、あるいはあっせん利得が成立する可能性があるだろうかと考えてみると、やはり公共工事絡みしか考えられないんです。

田原 でも公共工事絡みでは小沢さんは野党だから、職務権限がないんですよね。

郷原 本当に「まかり間違って」ということがあれば、不正の請託だとかいって、あっせん収賄とか可能性はまったくないわけではないんですけど。

田原 あっせん収賄ね。あっせん利得じゃない。

郷原 ただ、いずれにしてもそれがあるとすれば、やはり談合構造が前提になっているはずなんです。

田原 あ、談合構造ね。

郷原 談合構造が前提になって、その談合構造の下で不正なカネのやりとりが行われるっていう構図だったんです。しかし、その談合構造自体が3年ぐらい前に終わっているわけですよ。

田原 終わっているんですか。

郷原 ええ、終わっているんです。基本的にゼネコン間の談合はほとんど終わっている。

田原 僕らが得ている情報では、鹿島をさんざん調べたという。それで鹿島からいろんな情報を取っているはずだと言われています。

郷原 それについても、私はこの4月に出した『検察が危ない』っていう本の中でも書きました。

田原 読みましたよ。検察の内部がよくわかりました。

構造にまで踏む込めなかったゼネコン談合事件の失敗

郷原 ゼネコン汚職事件の時に、私はあの事件の捜査に一部、関わったんですが、あの事件っていうのは一番最初に手を付けたのは、仙台の市長の事件だったんです。

田原 それから次は宮城県知事ですね。

郷原 そう。あそこで、東北地方のゼネコン談合の構図というのをもっともっときちんと解明すべきだったんです。

 ところが、あの本にも書いたように、特捜部は談合の構図、構造というところに目を向けなかった。石井(亨)市長がゼネコンから1億円もらった、本間(俊太郎)知事がおカネをもらった、竹内(藤男・茨城県)知事がもらった、といったゼネコンとの間のカネのやりとりを、結局、点と線でしか事件を捉えてこなかったんです。

 その背景にある談合構造というところまで、捜査を展開させようとしてなかったところに問題がある。

田原 そうなんですか。

郷原 ええ。ですから、そこをもっともっと、その構造を追っかけていけば、その構造を解明していけば、ひょっとすると何かあったかもしれない。

田原 でも、しなかった。

郷原 あのときは小沢さんの全盛期ですよ、平成5年といったら。岩手県だけじゃなく、東北地方全体の談合構造に大きな影響を与えていた可能性はありますよね、あの当時。

 ところが、あのときに少なくとも小沢さんなんていう名前はまったくどこにも出てこなかった。

田原 そう言えばそうだ。小沢さんの名前は出てこなかった。

郷原 マスコミにもそんな名前は出なかった。

田原 まったく出ていなかったですね。

郷原 捜査の現場でも私はまったく聞いたことがないです。あの当時、決して検察は小沢さんをターゲットにする気持ちなんて更々なかった。逆に言えば、大変な大物政治家でしたから、だからこそやることを最初から考えていなかったのかも知れないんですけど・・・。

 ですから、やるとしたらああいう時なんですよ。

田原 なるほどね。

郷原 本当に、もしおカネの流れに問題があるとしたら、その時なんです。

田原 構造的にやるとすればね。

郷原 はい。しかし、そういった談合構造というものが3年以上前に、ゼネコンの間ではだいたい崩れているんですね。

 それ以降に、小沢さんに結びつくような贈収賄とかあっせん利得の事件があるとはとうてい思えない。ですから普通の人が考えるような、検察の常識で考えるような大事件があるとは思えません。私が最初に思ったのはそういうことです。

特捜部が狙った「天の声」

田原 結局、西松事件はどうなったんですか?

郷原 結局、みんなが考えていたような大きな事件がないということがだんだん明らかになった。

 それで検察が何をやったかっていうと、具体的な事件として大きなものを追っかけるのは諦めた。

 その代わり、「天の声」を狙ったんです。ゼネコン間の談合構造の中で、小沢事務所が非常に影響力を行使して、その見返りとして政治資金をもらった、西松からの政治献金はその談合による受注の見返りだったという、そういう形で悪質性を裏付けようとしました。

田原 悪質性ね。

郷原 ええ、そっちに入っていこうとしたんですね。

 それでたくさんの応援検事を特捜部に集めて、ものすごい数で、当時のゼネコンの談合担当者とかをどんどんどんどん調べた。それが新聞でいろいろ報じられたわけです。

田原 でも結局出てこなかったんですよね。

郷原 ええ。ほとんど具体的なことは何一つ。

田原 何にもなかった。

郷原 結局、みんなが、「これだけでとても小沢さんの秘書なんか捕まえないだろう」と思った最初の逮捕事実、それとほとんど変わらない事実でしか起訴できなかった。

田原 それで今度は世田谷の深沢の土地問題ですね。

郷原 政権が変わってからですね、今度は。

田原 あれが出てきた。それで小沢さんは、自分のおカネ4億円を資金管理団体の陸山会に持ってきた。このカネがどっからきたカネだということになったわけですね。

郷原 そうですね。最初は不動産の取得時期が、実際に収支報告書に書かれている時期と違うと。それよりも2ヵ月ちょっと前だと。

田原 わずか2ヵ月。

郷原 その時期が違うということは、少し前に支払われていたということであり、陸山会が説明しているような銀行からの借り入れではなくて、別のところからおカネが入っているんじゃないか、ということで調べていった。そうしたら、石川(知裕)さんがですね、「いやそれは小沢さんから現金で受け取った」と。

田原 そう言ったわけですよね。

郷原 そのこと自体が政治資金規制法違反だというような話になっていった。収支報告書にそんなことが書かれていないとなっていったんです。

田原 そうですね。

「水谷建設からの5000万円」をすっぱ抜いた産経新聞

郷原 その最中に「水谷建設からの5000万円」という話が出てきたわけです。

田原 そこなんです。水谷建設の元会長ですね。

郷原 元会長です。

田原 その元会長が、石川さんに5000万円、それから大久保さんに5000万円、しかも全日空ホテルで渡したと、こう話したといいますね。新聞がそれをバンバン書き立てた。

郷原 最初に書いたのは、かなり早い時期に、確か産経新聞が書いたと思うんですよ。まだ検察の捜査が本格化するずっと前ですよ。

 水谷建設の元会長が小沢氏の側に5000万円、とかいう話を確か産経新聞が書いた。そのとき、他の新聞はほとんど追っかけなかった。なぜかというと、「あんな水谷の元会長なんて大嘘つきだから、元会長が言っているようなことは全然信用できない」と、まともに相手にしなかったんです。

田原 大嘘つきだと。

郷原 そう言っていた記者もいたんです、その当時。

田原 実は、私が水谷の元会長は信用できないと初めて聞いたのは郷原さんからだった。
『サンデープロジェクト』に郷原さんと(元東京地検特捜部長の)宗像(紀夫弁護士)さんに小沢問題で出ていただいたときにいろいろやった。そのときに、郷原さんは「あの元会長は嘘をついているんですよ」と言った。まったく知らなかったんだけれど、福島県の佐藤(栄佐久)さんという知事がいた。

 でその前知事の問題で、水谷建設の元会長がこの時はいくら出したって言ったんでしたっけ? いくらじゃなかったのかな?

郷原 あれは土地の問題なんです。土地を実際の時価よりも1億7000万円高く買ってやったと。それでその1億7000万円、差額分が佐藤前知事に対する賄賂なんだと、こういうストーリーなんですね。

田原 それであのときに、「嘘をついている」と郷原さんが指摘した。郷原さんの前には(小沢捜査に理解を示す)宗像さんがいたんです。で、郷原さんが「それを曝いたのは(佐藤前知事の弁護士だった)あなたじゃないか」と。そうしたら宗像さんが困っちゃって、「あれはあれ、これはこれだ」と。

郷原 そうです(笑)。

田原 あの元会長があやしいというのは、知っている新聞記者もいたわけですね。

郷原 やはりいろんなことに詳しい新聞記者もいます。あの水谷建設の元会長が、佐藤氏の公判で供述をひっくり返したということも、私はある新聞記者から聞いたのです。

 それは間接的な話だったので、直接、控訴審の法廷を傍聴していた福島の雑誌の編集長に電話をして、どういう話だったのか、水谷建設の元会長がどういう話をしたのか聞いたんです。そうしたら、要するに水谷建設の元会長の供述であの事件は組み立てられていた。先程も言ったように1億7000万円高く買ったと。

 それに基づいて一審は佐藤さんが有罪になっていた。

田原 罰金(刑)を貰った。

郷原 ええ、賄賂額は減りましたけれど、一応収賄で有罪と言うことになっていたんです。

田原 うん。

「ウソの証言」を告白した水谷建設元会長

郷原 ところが控訴審になってから水谷建設の元会長が弁護人の宗像さんの側に、「実は自分は嘘をついていた。嘘をついていたということを法廷で今度は話してもいい。ちゃんと真実を話してもいい」と、わざわざ連絡してきたというんです。

 そのことを宗像さんたち(佐藤氏の)弁護団が書面にまとめて、「こういうことを言ってきたから、是非それを再度、控訴審で水谷建設元会長を証人に呼んでくれ」と強く求めたらしいんです。

 ところが裁判所はそれを証人に呼ばなかった。

田原 それはおかしいね。

郷原 それで一審の証言をそのまま採用して、一応有罪判決は書いたわけです。ただ金額はさらに土地の価格についての認定が落ちてしまって、賄賂額はゼロになってしまった。

田原 賄賂額がゼロで有罪なんてあるんですか?

郷原 本当は水谷建設の元会長をもう一回証人に呼んで、本当のことを聞かなきゃいけなかったんです。すごく中途半端な判決になっているんです。いずれにしてもそういうことで、自分のほうから「嘘をついた」と言い出した。それを宗像さんは聞いているわけです。

田原 さてそこなんですが、検察は当然そのことを知っていますよね。東京地検特捜部は。

郷原 知っています。

田原 なのに、水谷建設の5000万円、5000万円がキーワードみたいになった。なんで嘘つきだと分かっていながらそこに・・・。

郷原 私も検事時代に経験があるんですけど、やっぱりそういう事件の関係者って嘘つきが結構いるんですよ。

田原 なるほど。

郷原 やはりいろんなことに詳しい新聞記者もいます。あの水谷建設の元会長が、佐藤氏の公判で供述をひっくり返したということも、私はある新聞記者から聞いたのです。

 それは間接的な話だったので、直接、控訴審の法廷を傍聴していた福島の雑誌の編集長に電話をして、どういう話だったのか、水谷建設の元会長がどういう話をしたのか聞いたんです。そうしたら、要するに水谷建設の元会長の供述であの事件は組み立てられていた。先程も言ったように1億7000万円高く買ったと。

 それに基づいて一審は佐藤さんが有罪になっていた。

田原 罰金(刑)を貰った。

郷原 ええ、賄賂額は減りましたけれど、一応収賄で有罪と言うことになっていたんです。

田原 うん。

「ウソの証言」を告白した水谷建設元会長

郷原 ところが控訴審になってから水谷建設の元会長が弁護人の宗像さんの側に、「実は自分は嘘をついていた。嘘をついていたということを法廷で今度は話してもいい。ちゃんと真実を話してもいい」と、わざわざ連絡してきたというんです。

 そのことを宗像さんたち(佐藤氏の)弁護団が書面にまとめて、「こういうことを言ってきたから、是非それを再度、控訴審で水谷建設元会長を証人に呼んでくれ」と強く求めたらしいんです。

 ところが裁判所はそれを証人に呼ばなかった。

田原 それはおかしいね。

郷原 それで一審の証言をそのまま採用して、一応有罪判決は書いたわけです。ただ金額はさらに土地の価格についての認定が落ちてしまって、賄賂額はゼロになってしまった。

田原 賄賂額がゼロで有罪なんてあるんですか?

郷原 本当は水谷建設の元会長をもう一回証人に呼んで、本当のことを聞かなきゃいけなかったんです。すごく中途半端な判決になっているんです。いずれにしてもそういうことで、自分のほうから「嘘をついた」と言い出した。それを宗像さんは聞いているわけです。

田原 さてそこなんですが、検察は当然そのことを知っていますよね。東京地検特捜部は。

郷原 知っています。

田原 なのに、水谷建設の5000万円、5000万円がキーワードみたいになった。なんで嘘つきだと分かっていながらそこに・・・。

郷原 私も検事時代に経験があるんですけど、やっぱりそういう事件の関係者って嘘つきが結構いるんですよ。

田原 なるほど。

郷原 で、嘘つきの証言だから一切使えないということではないんです。嘘つきが言っていることの中にも、中には本当のこともあるんですよ(笑)。

 しかしそういう嘘をしょっちゅう付いている人間の話は、その人間の話だけではとても信じてもらえないわけです。ですから何か支えがいるんです。

田原 別の証拠、あるいは証言ですね。

検察が「石川秘書逮捕」に踏み切った理由

郷原 ええ。今回の場合で、一番ハッキリするのは、水谷建設の元会長が5000万円を石川氏にやったと言っているのですから、石川のほうが「確かに貰いました」と言うことです。これでいくら嘘をあちこちでついたことのある人でも、その人の話が本当になっちゃう。だからなんとかして石川氏のほうから「5000万円を貰った」という供述を取ろうと考えた。

田原 だから逮捕したんですね。

郷原 その可能性は強いと思いますね。

田原 あのとき水谷建設の元会長が石川さんに渡したと言うときは、元会長は一人だったんですか。誰か付き添いはいないんですか。

郷原 その話もいろいろ断片的に出ていましたけど、何が本当か分からないですね、供述内容は。

田原 もっと酷かったのは、どこかのテレビ局が、それを目撃した人がいると報じました。

郷原 いや、これは酷かったですね。背の高い人っていうことになっていましたね。石川さんは全然背が高くないんですよ。

田原 高くないんですか。

郷原 そうです。全然高くないですよ。見上げるような長身じゃあ絶対にない。まったくデタラメのVTRです。どうしてそんな話がテレビで流せるのかって、信じられない話です。

田原 検察はそのテレビを見てどう思ったでしょうね。

郷原 検察はとにかく新たな供述が出てくることでしか、当初、目指していた捜査の結果を出す道はないと、言ってみれば一つの賭けに出たんだと思います。他にやりようがなかったんです。

田原 陸山会が世田谷に買った土地の購入資金4億円がどういうカネかを、もっとしつこく調べる手、も検察にはあったんじゃないかと思うんです。


郷原 しつこく調べると言っても、10年くらい前から現金にして自宅に保管していたという話を、ウラを取るのはなかなか難しいですよ。

田原 なるほど。それで結局、検察は小沢さん(一郎・前民主党幹事長)を不起訴にするわけですね。

郷原 それでも小沢氏の元私設秘書で会計事務担当だった石川知裕衆院議員を起訴しました。

田原 あれはどういう起訴なんですか。

郷原 小沢さんの自宅で保管していた現金4億円を、不動産代金に充てるために一回、陸山会に持ち込みそれで代金を払った。そこの点が収支報告書に記載されていない。それが一番主な事実です。

田原 2ヵ月でしょう、遅れたのは。

いつの間にか消えた水谷建設の5000万円

郷原 そこのところは、「4億円の収入があった」と検察は構成したわけです。4億円が陸山会の収入だと。

 そして「その収入が小沢さんの家から現金で入ってきたっていうところを表に出したくない。そこを隠そうとして、収支報告書に書かなかったんだ」と。

田原 そこですね。


郷原 実際におカネが入ってきた事実はある。でも、本当にそれが収支報告書に記載しないといけない事実であったかどうか。ここにもいろいろ問題があるんです。

 ところが検察はそれを、言ってみれば形式的は話だけで石川さんを起訴した。

 さらにその形式的な話だけで、小沢さんについても共犯で起訴ができるんじゃないか、そういう話になっていったわけです。

 最初は、水谷建設からの5000万円という話がなければ、こんな事件なんて影も形もないと誰もが思っていました。

 ところが5000万円の話がだんだん苦しくなってくると、その話はどこかに棚上げにされてしまった。

 「4億円が小沢さんの家から入ってきたということになったら具合が悪いから、それを隠そうとした、それだけでも立派な犯罪だ」と言い始めたわけです。

 それで「小沢氏、聴取」という話になって。あたかもその4億円の収入を隠そうとして自分が持ち込んだ現金を収支報告書に記載していなかった、という事実で小沢さんが起訴されるような話になっていったんですよね。

検察は小沢聴取で何を聞いたのか

田原 これはまさに元検事でプロだから郷原さんに聞きたいんだけれど、検察は小沢さんを事情聴取しましたね。何を聞いたんですかね。

郷原 さすがにそこの話は出てこないですね。

田原 一種の形式犯でしょう。

郷原 なんの供述もないわけですから、あのときはさすがに水谷建設の5000万円なんて聞いたってしょうがない。やはり4億円について、なんとか小沢さんの共謀が取れないかということでいろいろ聞いたんでしょうね。

田原 それにしても、最初の話に戻るんですが、共同通信の調査では国民の83・8%が「幹事長を辞めろ」と考えていた。小沢さんは悪いヤツだ、。悪い人間だと。でもいま郷原さんがおっしゃったことが事実だとすれば、これは大変な人権蹂躙ですよね。これはどう思います。

郷原 結局、国民がそういうふうに思った理由って何だったんだろうと考えると・・・。

田原 マスコミですよ。

郷原 具体的にはまず一つは、大久保氏が逮捕された事実が何なのかを、みんな全然正確に理解していないんです。

 やはり「政治家、あるいは政治家の秘書が捕まったのは贈収賄かなにかだろう」と思っているわけです。

田原 そこで問題は、僕らもそうだったんだだけれど、「贈収賄とか何かあるに違いない」と思っていたけど、実はそこがなかった。そのことを国民はほとんど知らない。

郷原 しかもその後、「天の声、天の声」という話が出ましたね。「天の声を出してもらって、その見返りに政治献金が」という話がさんざん言われ、3億円とかという話がしきりに出てきましたね。

 ですから国民の多くは、「3億円という大きなおカネを、談合で口利きをした見返りにもらったんだ」と思っていたわけです。

 その後今度、秋になって世田谷の不動産の話が出てきました。ここで3億何千万円出して不動産を買ったという話になった。

 だからある人は、「テレビをみている人たちの大部分は、『小沢さんは西松建設から4億円もらってそのおカネで世田谷の土地を買ったんだ』と思っている」と言っていました。それくらい物事がぜんぶ結びつけられ単純化されているわけです。

 私はずっと一つひとつの事実を追いかけてきましたから整理できますけど、多くの人は小沢さんの話は全部ごっちゃなんです。

 とにかく小沢さんは何か悪いことをしておカネを貰った、自分の政治家としての活動に関連しておカネを貰った、それも大変大きなおカネを貰った、それが自宅にあった――そういうイメージだけでみんな考えていますから、「こんな汚い人は早くいなくなってほしい」と。

メディアが持つ「小沢一郎アレルギー」

田原 なぜ多くの新聞はみんな検察寄りになったんですか。

郷原 少なくとも去年、大久保氏が逮捕された段階では、マスコミの報道が小沢さんをなんとかして辞めさせようという方向を向いていたとは思えないんです。

 変わったのは石川さんらが起訴されたところあたりからですよね。「小沢氏辞任すべきだ、説明責任を果たせ」っていう話がどんどんどんどん盛り上がっていった。

田原 そうですね。

郷原 私も政治の世界のことはよく分からないですけど、もともと小沢さんはいろいろマスコミに敵が多くて、新聞にしてもテレビにしても、小沢さんが力を持つことに対する大変なアレルギーを持っていたと思うんです。

 それが政権が変わって、小沢さんが300議席以上も持っている大変な力を持った与党・民主党の大幹事長になりました。そこで小沢さんの問題を追及することの意味が、かなり大きく変わったんだと思うんです。

 もともとは去年の3月の西松建設の事件の時点では、小沢さんは野党の党首でした。だからマスコミも検察に対して、「何とか小沢さんやっつけて欲しい」と思いながらも、「自民党の肩を持つようにして、野党の政治家をことさらにやっつけるたんじゃあ国策捜査じゃないか」という見方がずいぶんあった。必ずしも一枚岩にはならなかったです。

 ところが政権が変わって小沢さんが民主党の大幹事長になってからは、もうとにかく小沢さんに対して検察が攻撃を仕掛けるのは正義だ、という話になっちゃった。

田原 そうか、そっちになっちゃったんだ。

 しかも新聞は「小鳩内閣」なんて称して、「鳩山内閣は『小鳩』で、本当の実力者は小沢さんだ」と書き立てた。

郷原 そうですね。その最大の権力者に対して検察が攻撃を仕掛け、徹底的にやるというのは賞賛すべきことだ、という話になっていくんですよね。

 ただ私が勘違いしちゃいけないと思うのは、検察は小沢さんという政治家が政治権力を持った途端に「権力者には徹底的に自分たちは立ち向かうぞ」とやりはじめたわけじゃなくて、去年の3月から一貫して小沢さんを狙っているわけですよ。そのことを忘れちゃいけないと思うんです。

 結局、検察はいったん去年3月に小沢さん側に捜査の方向を向けた。その後、選挙があって政権交代をして、小沢さんは野党の立場から与党の立場に変わった。けれども、その前も後も、「とにかくいったん始めた以上は小沢さんをなんとかしよう」ということで、ずっと一貫して特定の政治家を捜査の対象にしてきた。そこなんです。

数の力で参考人招致を押し切った民主党

田原 ただ、民主党側にも問題があると思うのは、自民党の場合には中曽根さんにしても竹下さんにしても、参考人招致の時には、やっぱり国会に出しましたね。

 民主党が政権を取ってからは、参考人招致も、もちろん証人喚問も一切応じないと。なんか、数の力で押し切るというイメージがあった。ここはどうですか。

郷原 立場が同じと言えるかどうかですね。中曽根さんとか竹下さんが証人喚問っていう話の時には、具体的に検察の捜査の対象になっていたわけではないですよね。

 今回、小沢さんを「証人だ、参考人だ」っていう話になった時点は、陸山会の不動産の問題はもう告発もされているし、小沢さんは一応被疑者的な立場にあるわけですね。そういう立場に立たされて、一応捜査の対象になっている段階で証人っていうのはなかなか難しいんじゃないでしょうか。

田原 参考人招致とか、あるいは政倫審とか、いろいろ手はあると思うんだけど。

郷原 それはありえたでしょうね。

 ですからむしろ私は、小沢さん自身がもっと早く、しかるべきところに行っていろんなことを説明しなくちゃならなかったんじゃないかと、ずっと今年の1月から言ってきたんです。

田原 もっと早い時点で政倫審にでも出てねやりゃいいのに、なんで・・・。小沢さんのキャラクターかなぁ。

郷原 そこはいろんな見方がありますけど、結局、納得できるような説明をするっていうことはなかったですよね。

 確かに、いくら説明をしようと思っても、自宅にあった多額の現金っていうのがいったい元々どこからきたものなのか――まあ一応説明はしているんですけども、ウラの取れない事実ばっかりですね――それ以上の説明をしようと思ってもできないということかもしれないですね。

大阪郵便不正事件は検察のシナリオが間違っていた

田原 もう一つ、今度は私も前からおかしいと思っていた、厚生労働省の局長になった村木(厚子)さんの事件について聞きたい。

郷原 はい。

田原 あの人が逮捕され、ずいぶん勾留されていた。あれは凜の会という、まあインチキ団体でもあったんですが、障害者の団体があった。そこに対して、厚労省が判を押して、郵便が非常に安くなるっていう計らいをしたと。そういうことで当時の課長だった村木さんが逮捕された。

 これが逮捕した理由、あるいは検察の書いたシナリオが全然違うっていうことがどんどん分かってきた。あれはどういうことなんですか。

郷原 あれはあまりに捜査のやり方が杜撰だったというか。

田原 これは大阪地検ですね。

郷原 ええ、大阪地検の特捜部です。

 そうように皆が驚くような事実がどんどん出てきて。そもそも、村木さんが嘘の証明書を係長に作るよう指示したということ自体が全くの作り話じゃないかという疑いがどんどん強まっていったわけですね。

田原 いまや係長も「実は自分でやったんですよ。村木さんに言われたんじゃない」と言っていますよね。

郷原 それだけじゃなく、関係者のほとんどが捜査段階の供述調書をひっくり返して、「あれは全部検察に誘導された。嘘だ」と。

田原 もともとのきっかけは部長ですよね。

 村木さんが課長の時の部長が検察に呼ばれて、「実は自分が言ったんだ。それで村木がやったんだ」ということを言っているわけですね。結局、この証言もひっくり返したわけですが、部長や係長がなんで検察で嘘を言っちゃうんですか。

郷原 そこらへんは私も詳しく公判を傍聴しているわけじゃないので分からないんですが、私はそもそもあの事件は検察のストーリーの設定自体に重大な問題があった、まったく見誤っていたんじゃないかと思います。

事件の本質は「郵政民営化の歪み」

田原 これは慎重に言わなきゃいけないんだけれど、村木さんを逮捕して有罪にすることで、本当は国会議員を狙ったんですよね。

郷原 確かに名前がずいぶん取りざたされましたよね。

 私は、その一連のストーリーの組み立て方の前提になった"郵便不正"という事件そのものの見方が間違っていたんじゃないかと思うんです。私はそのことを去年の4月の終わりに『日経ビジネスオンライン』というインターネットのサイトに書いたんです。

 あの事件の本質は郵政民営化の歪みだと思うんです。郵政民営化をしたということは、郵便事業会社も民間会社としてマーケットで競争していかないといけないわけです。そのマーケットでの競争の一番中心部分は、大量のロットが捌ける、大量の郵便物を受諾して収益を上げられるダイレクトメール(DM)のようなもの、こういったところで郵便事業会社がしっかり稼いでいかないといけない。

 そのためには、価格についてある程度自由な設定ができないといけないじゃないですか。たくさん受け付けたときには、それなりにね。

田原 民営化しているんですからね。

郷原 ええ。ところが私が驚いたのは、郵便法という法律はほとんど変わっていない。まさに古色蒼然たる法律なんですよ。

田原 つまり身障者の団体だと安くなるみたいな制度しかなくて・・・。

郷原 そういった極端な安い料金以外は、かなり高い昔からの第三種郵便120円とか、そういうかなり硬直化した料金なんですよ。しかも郵便事業会社っていうのは収益構造が特殊で、一年中の利益を年賀状の時期に稼ぐ。それ以外はほとんどガラガラなんです。

 となれば、要するにタダみたいな値段ででも数を受けたいんですよ。

 そういう事情があったところと、安くDMを出したい大手の家電量販店とかその間に入る広告代理店の利害が一致し、言ってみれば一つの便法のような形で使われていたんじゃないかと。

 ですから実際に、事件のあと、このやり方はほとんどなくなっちゃったんです。だからもともとその程度だったとすると、不正自体はそんなに大げさなものじゃなかったんじゃないか。

大阪地検は東京地検に張り合ったのか

田原 素人考えだとね、東京地検特捜部は小沢さんを挙げる。すると大阪地検特捜部はこれに対抗しないといけない。そこで「小沢さんに似たような議員はいないか」と探し回ったところ民主党の関西の議員を見つけて、「これをやろう」と。つまり大阪が東京に対抗するためにでっち上げたんじゃないかという気がするんです。

郷原 でっち上げじゃなくてですね、むしろ見誤りだと思います。

 もしあの事件が検察が考えていたように、「何億円もの不正な利益を得て」という話であれば、そこに大物政治家が介在して口利きをして利益を得たという話も考えられないわけじゃない。

 だけどそうじゃなくて、「料金体系が固定化していたんで便法として使われていた」程度のものであったら、政治家がわざわざ口を利き、厚労省の現職の課長が口を出してむりやり部下にやらせるというような大げさなものじゃないんです。

田原 大げさなものじゃない。金額も大したことない。

郷原 もともとはね。しかも形式犯に近いようなものです。だから郵便事業会社側も捕まりましたよね。つまり、認めていた、容認していたわけです。

田原 僕はまだ、東京に対抗して大阪も何かやらなきゃいけないという思いがあったという見方にこだわっているんだけど、結果的には東京も大阪も失敗しちゃったんですよね。

郷原 そうですね(笑)。

自分たちは正しいという思いこみが捜査力の低下を招いた

田原 東京地検と大阪地検の特捜部が両方と失敗した。

郷原 だからそこに共通の問題があるわけです。

田原 どういうことですか。

郷原 特捜部というのは、世の中の中心部で起きていることの事実を解明して、世の中の中心部で活躍している人間を「犯罪者だ」と言って世の中から排除する――ということを目標にして捜査している機関なんです。ということは世の中の中心部で起きていることをしっかり見る目がないといけないです。その目がものすごく今は・・・。

田原 なんで、低下しちゃったんですか。

郷原 それはやっぱり一番大きな原因は組織が閉じているからです。

 あの組織は、外に対して情報の開示を求められないんですよ。説明も求められない。しかも組織の中だけで全てが決められる。つまり外からのチェックは基本的に働かないんです。今は検察審査会の問題はありますけれど・・・。

 そういう組織の中にいると、どうしても「自分たちが考えたことが正しい」と思いこんでしまったときに、誰も「そうじゃない」と指摘してくれないわけです。

田原 もう一つ、今多くの国民が思っていることは、小沢さんが大物すぎて圧力がかかって不起訴にしたんじゃないか、政治的不起訴じゃないかと。こういう考えもあると思うんです。

郷原 ありえないですね。

田原 ない?

郷原 検察としては、できるものならなんとしてでもやりたかったでしょう。小沢さんの捜査とか処分を消極的な方向に向ける力が政治的に働いたとはまったく思えない。

田原 多くのマスコミや新聞は、検察が不起訴にしたことが不愉快なんです。だから検察審査会が一回目は「起訴相当」の議決を出した。二度目も起訴相当と出せば強制的に起訴される。だから検察審査会に多くの新聞やマスコミはすごく期待してる。これ、どう思う?

郷原 検察審査会の「起訴相当」の議決で、起訴相当だとされた事実は先程来私が言っていた4億円の現金が小沢さんから提供され、それで土地を買ったという、その収入ですね、収入を記載しなかったという話ではないんです。そこの部分を一切含まないで・・・。

田原 あ、ちょっと。そうじゃないんですか? 

郷原 そうじゃないんです。収入は関係ないんです。

 検察審査会で問題にしているのは、さっき言った2ヵ月ちょっとのずれですよ。収支報告書に記載されていた不動産の取得時期が、実際よりも2ヵ月ほど後にずれていた。代金の支払いの時期より2ヵ月ちょっとずれていた。それだけなんでよ。

田原 多くの国民がその検察審査会の議決について思っているのは、「石川さんが『小沢さんは全く知らない』と言っているけども、本当は知っているんじゃないか。これへの疑問を検察審査会が提起したんだ」ということです。

郷原 じゃあ、何が問題になっているのか、そこで疑いがあるとされている被疑事実はなんなのかということをもう一回確かめたうえで議論しないといけないと思うんです。そこを国民も全然知らないですよね。

 検察審査会で問題になっているのは単に2ヵ月ちょっと時期がずれていましたというだけなんです。これは検察の人間、誰しも思うことだと思いますけど、それだけの事実であれば、仮に小沢さんの共謀がもしギリギリ認められたとしても、通常なら起訴猶予か、2~3万円の罰金です。そんな程度です。

田原 敢えてもう一つ聞きたいんですが、なんで2ヵ月ずらす必要があったんですか。

郷原 収入の問題であれば、その収入を隠すことが目的であったわけで、ということは、それなりに意図的な犯罪という疑いも出てくる。

 しかし単に2ヵ月ずれただけの話であれば、いろんな考え方がありうるわけですよ。例えば登記の時期が2005年の1月7日で、収支報告書に記載されている時期と同じなんですが、登記の時期に合わせてそういう記載をしたんだということも考えられる。

 あえてどっちで書くのが正しいのかという考え方の違いという、事務的な問題である可能性もある。だから単に時期がずれたというだけでは、少なくとも今までの検察の常識から考えて、重大な政治資金規正法違反だとはとうてい言えないと思うんです。

田原 だけど恐らく、検察審査会は起訴相当と出すと思いますよ。

郷原 その可能性はかなりあります。

田原 出したら、小沢さんは強制的に起訴されますね。これはどうなるんです?

郷原 その時に、起訴ということの意味をもう一回考え直してみないといけないと思うんです。いままで「推定無罪」と言われながらも、検察が起訴したらその途端に「責任を取れ」という声が強まる。なぜかというと、検察はやはり日本では正義だと考えられてきたし、実際に検察で起訴した99%以上有罪になるわけです。

 だから起訴というものはものすごく大きな意味を持っているわけです。

 しかし検察審査会というのはあくまでも素人の判断なんです。検察審査会が「起訴相当だ」と言った、あるいは「不起訴不当だ」と言った。それで検察が再捜査をして、その結果、言ってみれば民意を反映させる形で起訴したっていう事件は、そんなにたくさんじゃないけど、今までにもあるんです。

田原 明石の歩道橋事故の問題とか、あるいはJR西日本の福知山線の問題がまさにそれですね。

郷原 ええ。最近の問題だけじゃなくて、今までにもずっとそういう例はあるんです。けれども、その有罪率は非常に低いです。

田原 「起訴相当」の議決で起訴されても、有罪率は99%じゃない?

郷原 とてもそんなにはなりません。恐らくトータルで見て50%いかないんじゃないですか。

田原 50%いかない?

郷原 いったん検察が不起訴の判断しているわけですから、証拠的に非常に弱いんです。それでも検察審査会に言われて、「それじゃあ裁判で決着つけるか」ということで、五分五分くらいでも起訴するわけです。それがいままでの検察審査会の判断を受けて再捜査をした結果、起訴した事例の有罪率なんです。

 今回は、再度捜査したけれどやっぱり検察は不起訴だった。ということは、もし検察審査会が再度、「起訴相当」の議決を出して起訴されたとしても、有罪になる可能性はかなり低いと考えた方がいい。

 そうだとすると、検察審査会の起訴相当の議決というのは「公判でしっかり審議すべきだ、最終的には公判で決着を付けるべきだ」という民意だと受け取るべきであって、その段階で「起訴されたから、もうこれで責任を取って全てを終わりにすべきだ」と言ってしまったら、これは逆に検察審査会の議決というものの意味が違ってきちゃうと思うんですね。

田原 一般の国民の多くは、「起訴されたら小沢さんは議員を辞めるべきだ」と考えていると思う。そこはどうですか。

郷原 そこは、検察審査会の議決によって起訴されるということをどう受け止めるかについての考え方の違いだと思うんです。すぐ「辞めるべきだ」と受け取ってしまうのはおかしいと思うんです。検察審査会の議決は、あくまで「公判で決着を付けるべきだ」ということだと思うんです。

田原 もう一つ聞きたいんですがね、私は新聞社の記者たちをそんなに疑っていないし、それなりに信用しているんですが、なぜ多くの新聞記者が社説でもその検察審査会にあんなに期待を寄せるんですか。

郷原 それは先程からの小沢さんという政治家をどう見るかとか、小沢さんという政治家と新聞との関係、そのへんが理由なんじゃないですかね。

田原 ここで小沢論をやる気はないんだけれど、あの人は説明が下手ですね。

郷原 下手ですね。

田原 もっと早い段階で丁寧に説明すりゃあいいと思うんだけど、なんであんなに下手なんですか。

郷原 だからミステリアスな存在なんです。私もはっきり言って分からないですね、あの人は。で、やっぱり分からない人っていうのは何となく、あんまり好きになれないですよね(笑)。

 昔からそういうイメージを持ってきたし、私自身もやはり検事で現場でやっているときにはやっぱり是非狙いたいなという政治家ですよね。なんか汚いことがあるんじゃないかとみんなが思っているし、その方向で捜査をしようとなりがちですよね。

田原 それに小沢さんはそういう期待に添うような顔をするんです。"誠実"という顔じゃなく"傲慢"っていう顔をする。そして記者団に対して、「これが最後だ」とかね。下手ですね。

郷原 ただ、それじゃあ本当にそういうふうに思われている根拠は何なのかというと、意外とはっきりしたことはないんですね。例えばこの間も週刊誌にデカデカと出ていましたけど、小沢さんの元秘書の高橋嘉信さんの話。これはもういろんなところに出てきますよね。大変な大金を運んだとか。

田原 13億?

郷原 ええ。そういうような話と、検察の捜査に関してもいろんなことを言われる。何億のカネを不正に受け取ったっていうようなことを。これも話ばっかりなんですけどね。本当の小沢さんという政治家とおカネの関係がどうなのかっていうことは、全然分からないですよね。

田原 その高橋さんによれば、そのことを検察に話したのに調書にならなかったと。

郷原 それはやっぱり信用していですよ、誰も。

田原 信用していない。なるほど。

―― いくつか質問が来ています。「そもそも検察はどんな論理で動いているのでしょうか。外部から検察を動かす力っていうのは働くのでしょうか」。

郷原 検察を外から積極的に動かす力が働くことは、そんなに多くはないと思うんですね。ただ、最近の事例では元検事総長で公安調査庁長官も務めた緒方(重威)さん長が逮捕されましたね、朝鮮総連からおカネをだまし取ったということで。

 緒方さんの話によると、あれは安倍内閣時の官邸サイドの意向を強く忖度した検察側が、何としても緒方さんを捕まえようとして動いたんだ、まさに外からの力が働いたんだと言っていますけど、まあ忖度するくらいのことはあっても、強烈に外から指示をされて、検察がその通りに動くということはあんまりないと思うんです。

 ただ検察の中でいろんなことに配慮しながら、捜査の着手を考えていったりすることは、昔からよくあったと思うんですね。法務官僚が自民党との間の関係をいろいろ考えたりして、「この事件は止めておいたほうがいいんじゃないか」という口を出すことは、ある程度あったとは思いますね。広い意味での指揮権の一つですね。

田原 これは田中森一さんに――いま捕まっていますけど――僕がインタビューしたときに、やっぱり上から「止めとけ」という圧力はあったと言っていた。彼は大阪の府知事をやろうとしたのかな。

郷原 それも、必ずしも不当な圧力ばかりとは言えないんですよね。中には検察の現場が考えていることがムチャクチャで、「こんなことで政治的に大きな影響を与えるのは適切じゃない」ということで、法務省サイドがそれを宥めにかかるということもあると思いますし、そうじゃなくて純粋に政治的に自民党を怒らせると法案が通らなくなるとか、人事だとか、そういうことを考慮して口を出すと言うこともあるかも知れないですし、いろいろだと思いますね。

―― 先程郷原さんは、「もし検察官なら小沢氏は狙いたくなる政治家だ」とおっしゃいましたが、特捜部の場合、どの政治家にターゲットを絞るかという基準って何なんでしょうか。

郷原 そういう小沢さんのイメージも、小沢さんが権力者、権力の絶頂にあった自民党の幹事長だった頃にそうだったかと言ったら、少なくともさっき言ったように、ゼネコン汚職事件の頃には影も形もなかったし聞いたこともなかった。

 ただ、その後いろんな話が出てくる中で、なんかこう雰囲気として、おカネの問題があるんじゃないかというふうにみんなが思っているし、そういう方向で動いてみたら何か出てくるんじゃないかと思わせる、そういうイメージを持った政治家の一人かも知れませんね。

田原 それはあります。例えば民主党が政権を取った。それまでは政策調査会というのがあったのに、政権を取って小沢さんが幹事長になったら政策調査会を廃止された。こんなもの誰が見てもね、つまり政策調査会というのはいろんな情報を入手するところでしょう。その情報を幹事長が独占するために止めたんだと。

 あるいは逆に、小沢さんは、「党と政府は違うんだ。党は政府に口出ししない」と言いながら、「揮発油税の廃止は止めろ」とか、あるいは子ども手当について「所得制限を設けろ」と、ガーンと言ってくる。なんか独裁者っていうイメージがどうしてもあるんですよ。

郷原 それが実際には、われわれが刑事事件の捜査をやる過程で捜査の対象にするべきと考えるような、裏のカネとか不正なカネということに関連しているという証拠、根拠は全然ないわけです。

 ただそういうやり方が、なにか政治的な思惑で、強権を使って政治を私物化しているようなイメージで見られるとことにもなりますね。

田原 検察もそういうイメージで見ているのかな。あの野郎は独裁者だ、けしからんという・・・。

郷原 やっぱり検察には、民主党政権に対してちょっとしたアレルギーを持った人はいたでしょうね。

 その中で特に、小沢さんが民主党のリーダーになると徹底したことをやってくるんじゃないかという思いはあったと思いますね。

田原 怖いという思いか。検事総長を民間人にするとか言っていたしね。

郷原 まあそれも小沢さんが考えたことかどうか分からないですけどね。

―― 読者からの意見で、「これだけ東京も大阪も失敗しているのに、特捜部は必要なんでしょうか? 事業仕分けの対象にしたらどうでしょうか」という声が来ています。

郷原 その問題に関して、先日、大阪の村木公判で検察からの調書の証拠請求が大部分却下されましたよ。私はこれはものすごい大きな話だと思っているんです。

 鳩山さんと小沢さんが辞めちゃったことで少し世の中の関心が薄くなりましたけど、あの証拠請求の却下決定で、裁判所は二時間にわたって詳細に証拠として採用しない理由――検察官の取調の方法が信用できるという状況じゃないと判断する根拠――をいろいろ言っているんです。

 例えば、調書を取る時に、全部主任検事に上げて了承を取ってから調書を作成するということとか、「他の人間がこう言っているんだからそれで間違いないだろう」と言って、他の人間の供述で誘導するとか、いったん調書を取ると絶対訂正しないとか、それから取調のメモがあったはずなのに全部なくなっていると。

 こういうことが「信用できない」という事情として裁判所の判断の根拠にされたんです。

 ところが、これらの要素、こういう取調の方法というのは、今まで特捜検察が当たり前にやってきたことなんです。全てそういう調べのやり方こそが特捜部の調べそのものなんです。

 そういうやり方をすることによって、「関係者相互で供述が一致している」ことになる。それから、なぜメモがないかといったら、メモがあったら、「最初はこんな話をしていたけれど、それを無理矢理なんとかしてこの調書に署名させた」という経過が分かっちゃうじゃないですか。

 そういうことが分からないようにメモを残していないんです。ということ供述も「一貫している」ことになる。

 つまり、供述は関係者相互で符合し、かつ一貫していることになる。だから特捜の調書は必ずと言っていいほど「信用性あり」とされ、調書が認定の根拠にされてきたんですね。

 ところが今回の大阪地裁の決定というのは、まったく逆で、「こういうやり方をしているのは信用できない」と言ったわけです。これは非常に大きな話だと思うんです。ある意味じゃ当たり前のことなんですけど、当たり前のことを裁判所が言うようになった。

田原 すごい話ですよ。

郷原 これまで特捜の魔力みたいに思われていたものが、魔力でも何でもなくなり、普通の力すらなくなってきたんじゃないかと。

田原 僕はリクルート事件を克明に取材しました。その時に知ったのですが、江副(浩正)さん側の取り調べがいろいろありますが、その取調の調書を江副さんの弁護側が「出せ」と言ったのに裁判所が出さない例がいっぱいあったというんです。つまり、検察にとって具合が悪いから。

 つまり検察は変えるわけですね。それで出さないと。裁判所は本当に検察の見方だと。現に、江副さんが最近書いている本だとその通りなんですね。それが今まで当たり前だった。つまり裁判所は、検察を信用し弁護人を全く信用しない。

郷原 全部が全部、そうじゃないかも知れませんが、裁判官のかなりの部分が、「ちょっと待てよ、これ、違うんじゃないか」と思い始めたんじゃないかと思うんです。

田原 これはすごい話だ。

郷原 この前、PCI(パシフィックコンサルタントインターナショナル)の特別背任事件で無罪判決が出たんです。外国公務員への贈賄の事件で経営者が捕まった事件です。

 この事件で特別背任で起訴されていたPCIの社長が、一審無罪、二審も無罪。もう無罪が確定したんです、検察が上告を断念して。これも久しくなかったことですよ。こんなにあっさり、特捜部が起訴した事件がポンポンと一審も二審も無罪になってしまう。最近あんまりないと思うんですよ。

田原 さっきの特捜をなくしたほうがいいんじゃないかという意見はどうですか。

郷原 そういうふうになってくると、特捜部っていうものは何なのか、特捜部の価値っていうものは何なのかを根本的に考え直さないといけないと思うんです。

 で、さっきも言ったように、リアリティーがないストーリーをなぜ作っちゃうのか。閉じた世界の中で、周りもマスコミもみんな批判をしないわけです。彼らは「あなた達の言っている通りだ」と持ち上げてくれたり、あるいはネタを持ち込んでくる存在です。

 そういう世界にばかりいると、ものすごく世の中からずれてしまう。ずれてしまっていても、今まではそういう捜査手法で裁判所が全部認めてきて、実態とは違ったストーリーで判決を出してもらえたんです。

田原 ちょっといま大変なことをおっしゃった。マスコミが逆に検察にネタを持ち込むことがあるんですか?

郷原 ありますね。と言われています。私は「この事件はどこどこのマスコミが持ち込んだんだ」っていう話をいろいろ聞いたことあります。

田原 そうですか。

郷原 そのくらいじゃないと、週刊誌の記事かマスコミの持ち込みネタ以外はないんですよ、特捜の端緒というのは。

田原 そうなんですか!

郷原 そういったもんなんです、実は(笑)。他にはないです。

―― もう一つ読者からの質問です。検察審査会、あるいは裁判員制度が民意を反映しているっていうことをどう考えればいいのかと。

郷原 私は、民意を司法に反映させること自体は大事なことだと思うんです。要するに、今まで司法の世界は、独善というか隔絶された社会で、自分たちの論理でだけ動いてきた。そこに一般人の感覚、民意を取り入れていくということは本当に大事なんですが、悲しいかな民意というのは素人なんです。

 素人だから、本当は絶対に前提として考えないといけない重要なことを、知らないまま判断しちゃうことがあり得るのです。

 やっぱり政治資金の問題にしても、こういう刑事事件ってまずそこを押さえたうえで判断してもらわないといけないことは、民意を問うときに前提としてしっかり説明しないといけない。裁判官が説明したり検察審査会の補助弁護士が説明したり。

 で、どういう説明の元で、この点について民意がこう判断したんだということがちゃんと明らかにされていかないといけないのに、そこが検察審査会の今の制度では全然出来ていない。

田原 そこで、たぶんですよ、今度検察審査会で起訴相当と出すと思う。そうすると、小沢さんは強制的に起訴される。たぶん多くのマスコミは「それみたことか。やっぱりあいつは悪いヤツだ」と。

郷原 そうなると単なる魔女狩りの裁判ですね、ルールもなにもない検察審査会の議決というのは。