2009年6月9日火曜日

【北朝鮮】 北朝鮮の核と朝鮮戦争再発の可能性

 不思議なことに、日本国内で何かが起きると北朝鮮でも事件が起きる。まるで北朝鮮が誰かに操られているような気がしてならない。もしかしたら、日本が別の外圧の影響を受けるように北朝鮮も足並みをそろえて問題が起きるのであろうか。

田中宇氏の記事は、参考として残しておこうと思う。

北朝鮮は核武装、日本は?朝鮮戦争再発の可能性

2009年6月2日 & 9日    田中 宇
 5月25日、北朝鮮が地下核実験を行った。5月27日には、韓国がこれまで控えていた米国主導のPSI(米軍などが公海上で、疑わしい北朝鮮などの船を臨検する事業)に参加すると決めたことへの報復として、北朝鮮は1953年に米国と締結した朝鮮戦争の停戦協定を破棄すると表明した。

 朝鮮半島の緊張感は高まったが、米国は平静を装っている。米大統領府の報道官は「北朝鮮は、これまでに何度も停戦協定を破棄すると脅したことがあるが、実際には停戦協定はずっと持続している」と、北の停戦破棄を軽視した。 (White House downplays North Korea's threats)

 また北朝鮮は事前に、核実験の実施予定を米国に伝えていたと、韓国政府筋が言っている。北朝鮮が米国に実験予定を伝えたということは、中国やロシアにも事前に伝えていた可能性が高い。北朝鮮は、中国からの経済援助なしには立ちゆかないので、中国を怒らせたくないはずだ。国連安保理で日米が北朝鮮制裁を求めるたびに、中国とロシアが北を擁護して制裁案を骨抜きにしてくれているので、北はロシアにも恩義がある。 (South Korea: US Notified of Nuke Test by North Korea in Advance)

 北朝鮮は4月5日に核弾頭も搭載しうるミサイル(ロケット)を試射した後、4月末から、核実験や追加のミサイル試射をする予定があると、繰り返し表明していた。そのため、今回の北の核実験に対しても、米国などの政界やマスコミは驚いていない。オバマ政権は「冷静な対応」をしていると報じられ、米議会も大した反応をしていない。 (US weighs options to tackle N Korea)

▼政権移譲策か、対米戦略か

 北朝鮮の今の時期に核実験を行った理由については、複数の説がいわれている。一つは「昨秋倒れた67歳の金正日は、後継者(三男もしくは娘婿など)への政権移譲を考えており、政権移譲が行われる期間、国内の結束を維持しておくために、米国や韓国との対立を煽り、北朝鮮国内の戦時体制を強化しているという説だ。 (US Believes North Korea Plans Kim Succession)

 二つ目の説は、北朝鮮は米国と不可侵条約を結んで経済援助を受けることで国体を護持したいが、米国の政権が強硬姿勢のブッシュから対話姿勢のオバマに代わり、いずれまた米国との交渉が再開されるだろうから、その前にブッシュ政権時代に北朝鮮が行った譲歩(寧辺原子炉の停止など)を全部破棄し、核実験もやって、交渉に使えるカードをたくさん用意したという見方である。これらの2つの説に基づけば、北の核実験は、核兵器の保有自体が主目的ではなく、政権移譲や対米交渉の方が主眼だから、米国や日韓などは、特に北の核実験を恐れる必要はなく、冷静に対応すればよいという話になる。

 しかし私から見ると、一つ目の説は十分あり得るが、二つ目の説には疑問がある。北朝鮮は4月末に、もう6カ国協議には2度と戻らないと表明した。米国との合意に基づいて核開発を廃棄する手続きに入ったのは間違いだったとも表明し、その上で今回の核実験の実施があった。米政府も、北朝鮮は6カ国協議の場に戻ってきそうもないと認めているが、その一方で米朝直接交渉をやる方針でもなさそうで、米政界では「北朝鮮の問題は中国に任せてしまえ」という共和党主導の意見が強い。 (Why Pyongyang clings to its weapons) (US Plans No Concessions to Lure North Korea Back to Talks) (Clinton: North Korean Return to Talks Implausible)

 そこで三つ目の説が出てくる。「北朝鮮は、ブッシュ政権時代に米国と交渉して核開発を破棄する方向に進んだが、米国は北朝鮮との不可侵条約を結んでくれず、北に対する敵視もやめなかった。米政権が対話重視を掲げるオバマになって、北朝鮮は米国が出方を変えて北に不可侵を約束する姿勢を見せることを期待したが、100日たっても米国の態度は何も変わらない。そこで北朝鮮は、米国と和解して自国を安全にするのではなく、実際に核兵器を開発して軍事的に抑止力をつけることで自国を守る戦略に転換し、核実験を行った」という説である。北は、米朝関係の和解を求める「Aプラン」から、独力で核軍事力を獲得して自衛する「Bプラン」に転換したと、在日北朝鮮関係者がアジアタイムスに書いている。 (Kim Jong-il shifts to plan B)

 ブッシュ政権で北朝鮮担当の高官だったビクトル・チャも、北の核実験の直前に、これに近いことを書いている。チャは「北が米国から支援をとりつけるために騒いでいたのは過去の戦略だ。今や北は米国に、不可侵の公約や経済援助だけでなく、北の政権を守護してくれる恒久的な方針を採ることを求めている。この要求が通るまで、北は核兵器開発やミサイル開発をやめない」「北は、米国から核保有国として認めてもらい、米朝が対等な立場で核軍縮を行う展開を望んでいる」という趣旨のことを書いている。 (What do the North Koreans really want? By VICTOR CHA)

▼米国が北朝鮮を核武装させた?

 ブッシュ政権以来の米政府は、北朝鮮の問題を本気で解決しようとしているのかどうか疑問がある。共和党は、前政権時代から「北朝鮮のことは中国に任せてしまえ」という気運が強い。現与党の民主党は、米朝直接交渉を手がけた先々代のクリントン政権からの流れで、北朝鮮と直接交渉して核問題を解決しようとする気運があり、オバマが北朝鮮担当の全権代理に任命したスティーブン・ボズワースは、北と直接交渉することもあり得ると示唆していた。 (N.K. puts ball in Obama's court)

 しかしボズワースは、ワシントンから700キロも離れたボストン郊外のタフツ大学の国際関係大学院長と兼務の「パートタイム全権代理」だ。中東和平担当のミッチェルや、アフガン・パキスタン担当のホルブルックといった、他の地域担当の全権代理がフルタイムであるのと比べると、オバマは北朝鮮と本気で交渉する気があるかどうか疑問だ。 (A Part-Time Envoy for a Full-Time Task)

 オバマ政権に、北朝鮮の核問題を解決しようとする意志があったとしても、有効策はもう残っていないという指摘もある。北朝鮮は110万人という世界第5位の兵力の陸軍と、18万人という世界最大の特殊部隊(韓国に潜入するための部隊)を持つ。北朝鮮軍は兵器が古く、燃料も不足だが、米軍が北朝鮮に侵攻した場合に受ける抗戦は、イラクやアフガンで受けた抗戦より、ずっと激しいものになる。米軍はイラクとアフガンで占領の泥沼に陥り、軍事費もどこを削るかという話になっており、米国には新たな戦争をやる余裕がない。

 北朝鮮に対する米国主導の経済制裁もやり尽くした感があり、意味のある追加制裁はできない。北朝鮮を制裁したいなら、米国は、中国に頼むしかない。米国の政権は民主党だが、対北朝鮮戦略では「中国に任せてしまえ」という共和党と同じ立場にしか立てない。しかも中国は、自国の傘下のマカオのデルタ銀行に対して米国財務省が「北朝鮮が使っている銀行を制裁する」として05年に行った金融制裁(対米取引禁止)で中国政府自身が困難に巻き込まれ、怒っている。中国は、米国などが北朝鮮の船舶を公海上で検査しようとするPSIも、北朝鮮を刺激しすぎるとして支持していない。4月に北がロケット発射(ミサイル試射)をしたとき、日本は国連で中国に対し、強い制裁策に乗れと迫ったが、中国は拒否した。中国は、米国主導の北朝鮮制裁には乗らない姿勢だ。 (World powerless to stop North Korea)

 そもそも北朝鮮に核兵器の技術を与えたのは米国だ、という説まである。北の核技術は、パキスタンの核兵器開発を主導して「核の父」と呼ばれるAQ・カーン博士に教えてもらった(見返りに北はパキスタンにミサイル技術を教えた)とされているが、カーンは米国CIAの要員ではないかと疑われている(オランダ当局がカーンを裁こうとしたが、何者かに裁判記録を盗まれた。CIAの仕業と言われている)。米国は、カーン経由で北朝鮮に核技術を流して核開発させ、途中まで進んだところで「先制攻撃」するつもりだったのではないかと考える分析者もいる(カーンは、北朝鮮以上に米国から先制攻撃の対象とされていたイランにも遠心分離器を売っている)。 (Ruling Party Official: Japan Should Attack North Korea)

 米政府が正気なら、クリントン政権が米朝直接交渉によって途中まで手がけた「北に軽水炉を与える代わりに核兵器を作らせない」というやり方を続けたはずだ(米国は朝鮮半島全体を覇権下におさめられた)。しかしブッシュは前任者のやり方を潰し、北の核兵器開発を誘発するかのような「悪の枢軸」「先制攻撃」の威嚇を展開する一方で、解決策を中国に任せた。そして、オバマは「対話」と言いつつ無策のままだ。米政府は、正気ではない状態が続いている。

▼中国とロシアの対応

 米オバマ政権は、イラクとアフガンの戦争、イランとの微妙な関係、西岸入植地撤退をめぐるイスラエルとの対立顕在化など、外交では中東の諸問題に忙殺されている。金融経済でもGMの倒産、失業増、米国債の下落、財政赤字急増など危機が拡大し、北朝鮮の問題は手つかずのまま、中国に任せる度合いが増しそうだ。米国は、増刷し続ける米国債を中国に買い続けてもらう必要があり、今週はガイトナー財務長官が中国を訪問してお願いしている。ブッシュ時代の米政府は、中国に対し「先制攻撃されたくなかったら北朝鮮をおとなしくさせろ」と脅す感じだったが、今では逆に米国の方が下手に出なければならない。そして、北朝鮮と国境を接するがゆえに北の崩壊による悪影響が大きい中国は、北朝鮮問題に関し、米国よりずっと穏健なやり方を好んでいる。 (Chinese students laugh at Geithner's assurances)

 中国政府は、北の核実験に「断固として反対する」との表明を発表した。しかし中国当局はその一方で、北の政府が核実験を示唆したのと同時期の4月末、中朝国境の中国側の丹東から、北朝鮮側の新義州への、中国人の日帰り観光ツアーを3年ぶりに再開することを許可した。中国が北の核実験に断固反対なら、北朝鮮が外貨(人民元)を稼げる国境の観光旅行の再開など認めないはずだ。 (China Reopens Border With North Korea to Tourists)

 北朝鮮が核武装したがるのは、米国が前政権時代、北朝鮮を先制攻撃や政権転覆の対象として名指しし、北が対抗して核兵器開発したくなる方向に追い込んだためである。この経緯があるので、中国は北の核武装をやむを得ない動きと見ているのではないか。中国は経済面で北の生殺与奪を握っているので、北が核武装しても、中国を核攻撃する恐れはない。金正日はもともと「修正主義」の中国が嫌いで、父である金日成の死後、90年代後半には中朝関係が悪化したが、その後、中国なしには自国が立ちゆかないと自覚したらしく、今では中国に対する「礼節」を欠かさない。 (北朝鮮を中国式に考え直す)

 ロシアも、北の核実験に対して、中国と似た容認の態度である。ロシアのラブロフ外相は北の核実験を非難したが、ラブロフは4月末に北朝鮮を訪問し、この時には、北を制裁すると脅すのは逆効果だと、米国を批判して北朝鮮を擁護する表明を放っている。ラブロフは、北の問題は6カ国協議で解決するしかないとも言ったが、北はラブロフの訪問前に「6カ国協議には2度と出ない」と宣言している。 (Russia opens efforts to get N Korea back into talks) (Why Pyongyang clings to its weapons)

 中露にとっては、北の核兵器開発より、自国の隣で起きる米朝戦争の方がずっと怖い。北朝鮮が戦場になると、米露・米中の戦争の危険が増すからだ。中露の周辺には、言うことを聞かない小国がいくつかあり、中露は小国の反逆には慣れている。北朝鮮の核武装は、中露にとって迷惑ではあるが、北が精度の低い核兵器を何発か持ったところで、中露にとって大した脅威ではない。中国とロシアは、西方の中央アジアや中東の問題ではロシアが主導して中国が賛同し、東方の北朝鮮の問題では逆に中国が主導してロシアが賛同するかたちで、協調した外交姿勢をとっている。

 米国の立場は悪化しているが、単に悪化しているのではなく、米国は事実上、地政学的な立場を転換させつつある。海洋勢力(シーパワー)と大陸勢力(ランドパワー)との対峙で国際政治をモデル化する地政学で見ると、クリントン政権までは「米国が日韓を率いて北朝鮮と交渉し、必要なら制裁する」という、米日韓という海洋勢力が結束し、大陸勢力たる北朝鮮と対峙する構図だった(中・露・北という大陸勢力間の関係は分裂気味だった)。

 しかし今、北朝鮮は冷戦後しばらく冷えていた中露との関係を再強化して、中露関係も良くなって大陸勢力は結束を強めた。米国は北を制御する方策を失って、中国に頼っている。米国は、表向きの戦略構図は依然として大陸勢力を敵視しているが、実際には大陸勢力の台頭を助長し、困窮する日本や韓国をなだめるという「隠れ大陸勢力」的な存在になってきている。アヘン戦争(1840年)以来150年ぶりに、ユーラシアにおける地政学的な力関係が、海洋側優勢から大陸側優勢に逆転しつつある。その主因は、海洋側(米英中心主義)を加勢する行為を過剰にやって大陸側(多極主義)を優勢にしてしまった、米国の隠れ多極主義である。

▼日本の核武装は対米従属の終わり

 この地政学的な大転換は、日本や韓国にも大きな影響を与えている。日本では、このところ自民党内から「北朝鮮に対抗して日本も核武装すべきだ」「日本が核武装すべきかどうかという議論(日本が核武装しうることを世界に見せること)ぐらいは必要だ」といった議論が湧き出てきている。日本の核武装議論は「広島・長崎」「平和憲法」との関係で語られることが多いが、より大事なのは「日本が核武装すると、米国は日本を核の傘から外し、日米安保体制は終わる」という点である。 (Doubts grow in Japan over US nuclear umbrella)

 自民党は、朝鮮戦争停戦から2年後の1955年に保守合同で作られた。その目的は、朝鮮戦争で確定した東アジアの冷戦体制を維持すること、つまり対米従属一本槍で、中国、ロシア、北朝鮮を恒久的に敵視する日本の国是を恒久化することである。自民党は、米国の軍産英複合体の傘下に作られた。その後、1970年代に米国中枢で多極主義が台頭し、軍産側との暗闘になりつつも、米中関係の改善や米ソ冷戦の終結があり、この米国の転換を受けて日本は、中国との関係を改善したものの、ロシアとの北方領土問題は不解決の態度(非現実的な4島返還にこだわる)で、日本はいまだに対米従属の永続が国是となっている。

 対米従属党の伝統を持つ自民党の上層部が「日本の核武装」イコール「対米従属の終わり」であると気づかないはずがない。自民党内から出てくる核武装論は、米国の覇権衰退が近いことを認識した上で、日本は「アメリカ以後」に備えねばならないという意識の発露であると私には見える。自民党内から「核武装」の議論が出てくるのは、地政学的な転換を意味している。

 自民党内で核武装を主張するのは「防衛族」が中心だが、日本の官庁の中で、外務省はまるごと「対米従属省」である半面、新設の防衛省は「対米従属以後」を見据えている部分があり、日中の軍事交流に積極的である。日本では、外務省が軍産英複合体の傘下にあり、防衛省が非軍産系であり「軍」をめぐるねじれの関係にある。日本の核武装を議論するほど、防衛省が前面に出てくる。当然、外務省とその傘下にある国際政治学者らは「平和主義」を装い、日本の核武装に反対する。

 とはいえ、日本が核武装することは、対米従属とは別のところで自滅的な危険をはらんでいる。今後、世界の覇権構造が多極化によって国際社会では中露が強くなる傾向が続くだろうが、中露は、米国やEU(英仏)とともに核保有を許された5大国であり、自分たち以外の国が核を保有することに強く反対している。日本の核兵器は、北朝鮮の核よりずっと精度が高いだろうから、中露は日本の核武装には、特に反対だ。そして貿易立国、資源輸入国である日本は、国際社会による経済制裁に対して非常に弱い。イスラエルのように秘密に核開発しても、日本人はユダヤ人より謀略や詭弁がずっと下手なので、すぐにばれる(満州事変を思い出すべき)。

 日本が核武装するとしたら、米国の覇権崩壊が顕在化してから、中露などの台頭が確定的になって世界の政治構造が多極化するまでの混乱期に、どさくさ紛れにやってしまうことは、あり得る。その場合に「北朝鮮の核脅威に対抗するため、日本も核武装せざるを得なくなった」という弁解が使われるかもしれない。今後、自民党が弱くなって日本政界の混乱がひどくなると、核武装や「反朝鮮・反露・反中国」を煽るポピュリスト政治家が増え、核武装への気運が高まるかもしれない。

▼韓国も核武装?

 北朝鮮の核実験を受け、日本だけでなく韓国も核武装する可能性がある。米英軍産複合体としては、北朝鮮と韓国の両方を核武装させると、朝鮮半島の南北対立を恒久化でき、地政学的な失地拡大に歯止めをかけられる。韓国では、冷戦末期の1980年代に、秘密裏に核兵器開発が行われ、米国のレーガン政権(隠れ多極主義)に発見されて阻止された経緯がある。

 同時期には、インドとパキスタンも核兵器開発技術をどこからか注入されて相互に核武装し、これによって印パの分断は固定化され、印パが和解して経済発展し、南アジアが自立して安定強化する可能性が失われた。もともと印パの分断を扇動したのは、印パを一つの植民地として支配していた英国であり、第2次大戦直後、米国の多極主義(拡大均衡策)の影響でインド植民地を独立させざるを得なくなったとき、英国はイスラムとヒンドゥの宗教対立を扇動して印パを分裂させた。印パの核武装は、その延長にある。

 印パや韓国北朝鮮をめぐる核武装の話の裏には、南インドや朝鮮半島の分断を固定化したい軍産英複合体の思惑があり、彼らがパキスタンのカーン博士や、その他のエージェントを通じて、敵味方双方に核技術を流し込んだ疑いがある。影響力を失いつつある軍産英複合体が、朝鮮半島の分断固定化を目指し、韓国の核兵器開発をもう一度扇動する可能性がある。

 韓国では最近、左翼(対北朝鮮融和派)だった盧武鉉前大統領が汚職捜査の末に自殺に追い込まれた。自殺は「盧武鉉は汚職をした」という見方よりも、右派(対米従属派)の李明博現大統領が、左派のシンボルだった盧武鉉を「追い詰めて死なせた」という見方を、より強く誘発し、韓国では左右両派の政治対立が激化している。こうした動きも、米英中心主義と多極主義の地政学的な対立と、関係があるように見える。

 私はここ数日、ひょっとして朝鮮半島でもうすぐ戦争が始まるのではないかという懸念を抱くようになった。1953年の朝鮮戦争の停戦以来、韓国と北朝鮮は何度も小規模な戦闘になったことがあるが、米軍が参加する大規模な本格戦争には発展していない。北朝鮮が騒ぐのは米韓などからの経済支援がほしいからであって大戦争など望んでいないし、米国も韓国や中国の経済発展に投資しており極東の大戦争は望まないというのが、従来の構図だった。

 だから今回も、北の核実験後、海上の南北分界線の周辺で南北が相互に侵犯して緊張が高まっても、本格戦争にはならないという見方もできる。しかし、もっと巨視的な、世界の覇権構造をめぐる米英中枢の暗闘との関係で見ると、今の状況は、朝鮮半島で戦争が起こっても不思議ではない感じがする。

 朝鮮戦争は1950年に北朝鮮が韓国に侵攻して武力による南北統一を試みたために発生したが、あの戦争は東アジアをめぐる政治の構図を大きく変えた。当時は49年に中国の内戦で共産党が国民党を台湾に追い出して中華人民共和国を創設したばかりで、米国では、それまで加勢していた国民党を見捨て、勝った共産党政権を承認する新姿勢に転換しようとする動きが起きた。当時、中国はすでに新生国際連合の安保理常任理事国に選ばれ、世界の5大国の一つとして米国から認知されていた。

 当時の米国では、中ソを5大国の中に迎えて多極的な覇権構造を作ろうとする動き(多極主義)と、英国の発案に乗って米欧とソ連などとの永続的な対立構造(冷戦)を作ろうとする動き(米英中心主義)があり、米国が共産中国と国交を結ぶ方向は多極主義的だった。しかしこの動きは、50年の北朝鮮軍の韓国侵攻によって潰えた。3年間の朝鮮戦争の中で、米軍が反撃北進して中国国境に迫ったため、中国は北朝鮮側に立って参戦せざるを得なくなり、米中は決定的に敵対した。冷戦が東アジアに波及し、米国では多極主義的な戦略が影を潜めた。

 日本敗戦後の朝鮮では、南北とも、めぼしい政治活動家は左翼だった。北朝鮮側は、韓国への軍事侵攻などしなくても、時間をかけて韓国の左翼と結託して韓国を反米左翼化させ、北朝鮮に有利な南北統一への動きを政治的に進めることができたはずだ。それなのに北朝鮮は、拙速な軍事侵攻による南北統一を試みてしまった。これは単に、金日成の愚かさが原因なのかもしれないが、北の南侵によって、冷戦を欧州からアジアに拡大したかった英米中心主義(軍産英複合体)の野望が劇的に成功しているところから考えて、むしろ金日成による南侵を誘発する策略が米英側から行われた結果であると考えられる。

 具体的には、米国は開戦5カ月前の50年1月、米国が守るべき極東の一線として対馬海峡を通る防衛線(アチソンライン)を発表し、米軍が韓国を防衛圏と考えていないかのような姿勢を見せ、北朝鮮側の冒険主義を煽ったふしがある。1990年のイラクのクウェート侵攻前、米国側がサダム・フセインに対して「米国はイラクとクウェートの国境紛争には介入しない」と示唆して侵攻を誘発したのと同種の策略である。米国側は、北朝鮮が韓国などでの諜報活動から得る情報の中に「今韓国を侵攻すればうまくいく」と北に思わせるような偽情報を紛れ込ませることもできたはずだ。

 真珠湾攻撃やナチスのポーランド侵攻など、相手から先に手を出させる誘発作戦を成功させ、正当性を確保してから100倍返しをするのがアングロサクソンの戦争方法である(大義なしに侵攻した03年の米イラク戦争は自滅的な例外であり、あの戦争で米国は覇権を喪失している)。

▼朝鮮再戦争を喜ぶ日本

 1950年の朝鮮戦争前には、米国の対中国政策として親中国的な多極主義が優勢で、軍産英複合体の反中国的な戦略は弱かったが、朝鮮戦争によって一気に形勢が逆転した。今また、米国では、中国の急速な台頭を誘発・容認する多極主義が優勢だ。そして、イラクとアフガンの泥沼化、英イスラエルの窮地など、軍産英複合体は世界的に窮地に追い込まれている。

 今後、ドルが崩壊して北米のみの共通通貨「アメロ」と交代し、東アジアの中心通貨が人民元になったりしたら、世界の多極化は不可逆的となり、米英中心主義は死んでしまう。この米英中心主義の窮地を一発逆転するために、朝鮮戦争の再発が誘発されるおそれがあると、私は懸念している。 (U.S. Weighs Intercepting North Korean Shipments )

 北朝鮮の核実験を受けて、米国は、日韓などを誘って、公海上で北朝鮮の船を臨時検査する「拡散安全保障イニシアチブ(PSI)」を実施しようとしている。PSIの検査対象は、大量破壊兵器の原材料を運んでいそうな怪しい船だが、どの船が怪しいかというのは主観的な問題であり、米軍は北朝鮮の通常の貿易船を臨検していくかもしれない。北朝鮮はこれを宣戦布告とみなし、直接遠くの米国には反撃できないので、韓国との軍事衝突を起こす可能性がある。今は北も、一触即発の雰囲気を作っているだけかもしれないが、米国が一線を越えれば、北も一線を越え、戦争になりうる。すでにロシアは、戦争になるかもしれないとの懸念を表明している。

 PSIに基づく北朝鮮船に対する臨検は、まだ実際には一度も実施されたことがない。PSIは国連決議に基づくものではなく、米国が単独覇権主義を採っていたときに米国務省にいたネオコンのジョン・ボルトンが作ったものだ。国際法では、武力行使が許されているのは、国連安保理で武力による問題解決が不可避だと決議された場合のみだ。PSIについては、一部の国々の軍隊が怪しいと主観的に思った公海上の商船を強制査察することが合法なのか、違法な武力行使にあたらないのかという点が、精査されていない。中国は、PSIの合法性が疑問だとして、参加していない。

 米国がPSIを強硬に実施し、北朝鮮と米韓日が戦闘状態に入った場合、中国は中立を保ったまま仲裁しようとするだろうが、戦火が拡大すると、しだいに中立が保ちにくくなる。60年前の朝鮮戦争と同様、米韓軍が北朝鮮の対中国国境に迫ったりしたら、前回と同様、中国は北朝鮮側に立って参戦せざるを得なくなる。こうなると、米国の多極主義者が企図していた、中国を台頭させて米中協調で世界を支配するといった多極化戦略はつぶれ、代わりに冷戦型の米中対立が復活する。

 冷戦前と異なり、米国の資本家は韓国や中国に巨額の投資をしているので、もはや米国は朝鮮半島で中国と戦争するなどという馬鹿なことはしないだろうとは言い切れない。米英中心主義は昔から、潰されるよりは世界戦争を起こして逆転した方が良いと思っている(だから2度も大戦が起きた)。投資の儲けは、一度戦争をやって焼け野原にした後、復興していけば回収できる。前の記事に書いたが、米国には、パキスタンの核技術が北朝鮮に流れるようにして北朝鮮を核武装させたのは米国自身だとする分析もある。世界の支配構造全体を賭けた戦いなのだから、米英中枢の両派は必死で、何でもやりうる。金日成・金正日親子やサダム・フセイン、ヒットラー、旧日本軍部などは、このアングロサクソン内部の長期暗闘のチェスの駒にすぎない。 (Is North Korea About to Blow Up the World? by Justin Raimondo)

 しかし、駒は駒としての勝ち負けがある。米国が本当に北朝鮮と戦争してくれるかもしれない状況になったので、韓国の右派政権や日本といった、恒久対米従属を希求する人々は、にわかに活気づき、喜々として(うれしさをこらえて厳しい顔をして)「戦争を覚悟せねばならない」と国民に呼びかけ、北朝鮮非難の声を高めている。

 朝鮮戦争を再発できれば、米国にとって東アジアで最重要の国は中国から日本に戻る。日本にとっては「中国ざまみろ」である。在韓・在日米軍の駐留も続く。朝鮮は焼け野原になっても、日本には戦争特需が再来するかもしれない。テポドンが飛んできても当たらないので大したことはない。冷戦党だった自民党は、存在意義を再び国民に認めてもらえる。昨年の福田首相辞任後に起きそうだった自民解党の政界大再編を何とか先延ばししておいてよかったという話になる。

▼朝鮮再戦争なら中国はドルを潰す

 しかし、米国と中国が戦争に近づくとしたら、経済の面から違う展開が起こりうる。中国は今、米国債を世界で最も多く買っている。ガイトナー財務長官が中国を訪問して「米国債は安全ですから、これからも買ってください」と説いて回ったばかりである。金融対策の失敗と財政赤字の急増、ドルの刷りすぎで、米国債の世界的な信用は潜在的に落下し続けている。すでに中国国内では、米国債は危ないという見方が強まっている。(China airs fears on US debt, dollar--lawmaker)

 そんな中で、米国が北朝鮮に強硬姿勢をとって開戦し、中国を戦争に巻き込もうと迫ってきたら、中国はどうするか。軍隊を中朝国境に差し向ける前に、まず米国債を売って米国の長期金利を高騰させ、ドルに対する信頼性を下落させようとするはずだ。中国は、ロシアなどと組んで進めている、ドルを使わない貿易決済体制の実現を急ぐだろう。すでにドルと米国債は張り子の虎で、米英のマスコミやアナリストの客観性を装ったプロパガンダで何とか支えられているにすぎないことを、中国側は知っているはずだ。ドルを支え続けるのも壊すのも、中国の方針しだいである。

 米中対立になって中国がドルを破壊するのなら、日本は、中国ざまみろとか対米従属万歳と喜んでいる場合ではない。日本が対米従属を続けたいのは、米国が最強の覇権国だからである。ドルや米国の覇権が崩壊しては元も子もない。

 戦争になったら、国連安保理でも、中国はこれまでの慎重さをかなぐり捨て、常任理事国としてPSIの違法性を突くだろう。PSIの基本はブッシュの単独覇権主義なので、イスラム世界は中国の側につく。原油高騰が煽られる。ロシアは、以前に欧露協調で米国の強硬姿勢をなだめようとしたイラン問題の関係でPSIに参加しているが、北朝鮮問題で中国が反米的になってPSIを非難し始めたら、ロシアも同調するだろう。国連では、創設以来の60年間の米英による国連支配を打破しようとする動きが強まる。 (The path with North Korea)

 中国にドルを壊されるのなら、米国は北朝鮮と戦争するはずがないと考えるのが常識論だ。しかし私が見るところ、ブッシュ前政権以来の米国は、中国やロシアやイスラム世界をわざと怒らせて反米で結束させ、世界を多極化しようとしてきた観がある。中国は米国からの挑発に乗らず、米国から嫌がらせを受けても黙って受け流してきた。その分、ブッシュの多極化戦略は効果が出なかった。ところが今、オバマ政権になって、もしかすると北朝鮮と本当に戦争し、今度こそ中国を怒らせる(反米の側に追いやる)ことができるかもしれないという場面になっている。

 オバマは、イスラエルや英国に対する冷淡さを見ると、どうもブッシュの戦略を継承する隠れ多極主義である。しかもオバマは、イスラエルの入植地建設を強硬に禁じるなど、大胆なところがある(彼は選挙時から大胆さを売り物にしてきた)。そう考えると、オバマが一線を越えて北朝鮮と戦争になり、中国を怒らせてドル崩壊を早めるという展開があり得る。

 こうした私の予測は、確定的なものではない。米英中心主義と多極主義の暗闘の構図が間違っていないとしても、両派の今の力関係を測ることは難しい。力関係によっては、一発逆転の戦争勃発まで至らないかもしれない。しかし半面、6カ国協議が再開されて北朝鮮問題が外交で解決する見通しがないのも事実である。北朝鮮は、核実験した以上、核武装まで一気に進みたいと思っているだろうし、国際社会における米国の力も落ちているので、たとえ米国が北との直接交渉に応じたとしても、米国主導の問題解決は困難だ。宙ぶらりんのまま、一触即発の危険な状態が続くことは間違いない。

【与太話】 intelligenceとinformation

重要度を増すinformationとintelligenceの違いに関して

個人的には、この備忘録にはinformationは残したくはない。本来であれば新聞記事は、たいして資料にはなりえないように思うしなによりもintelligenceの欠片も見てとれないからである。生の加工をしていない情報がinformationであるならば、まだintelligenceに変えることも可能であるが、日本の新聞はintelligenceの欠片もないばかりか、propagandaと化しているようにしか思えない報道である。

しかし、あえて某新聞社の記事は、あまりにも偏向記事が多いので残しておいて後に「喧嘩」のために残しておこうと思う。


日本語の辞書を引くと、informationとintelligenceは、どちらにも「情報」という訳語が与えられています。実際に日本語の「情報」には、informationの意味も、intelligenceの意味も含まれていますから、この訳は間違いであるとは言えません。しかしinformationとintelligenceという言葉の意味は大きく異なり、その違いを正しく意識することは、近年ますます重要になってきていると思います。

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アメリカ人の上司に市場調査(market analysis)を命じられて、結果のレポートを提出したところ、

「こんなのは、informationに過ぎない。intelligenceを持って来い!」

なんて言われることも、いつかあるかもしれません。その上司に「今どき、コイツはinformationとintelligenceの違いもわからないのか・・・」と思われないようにしておくことは、色々な意味で無駄にはならないと思うのです。

さて、intelligence。普段、英語に接する機会の多い方であれば、このintelligenceはざっくり言って「知能(的)」というポジティブな意味があり、現実には「諜報」というニュアンスで軍事関係の用語として用いられることが多く、米CIAや英MI6の真ん中のIが、このintelligenceを現している(CIA = Central Intelligence Agency / MI6 = Military Intelligence 6)ということはご存知かもしれません。

では、intelligenceという単語は、それ単独で軍事的な情報のことだけを指すのかというと、必ずしもそうではありません。実際に欧米のビジネスの現場では「market intelligence」とか「business intelligence」、「competitive intelligence」という言葉が頻出しますが、それらの中身は、政府機関によるスパイ活動(military intelligence)とは仮に似ているところがあったとしても、根本的にその目的とするところが異なります。

言葉ですからもちろん曖昧な部分もあるのですが、簡単に言ってしまえば、informationというのは加工されていない生データか、それに近いものです。これに対してintelligenceとは、数あるinformationを必要性や信頼性に応じて取捨選択し、その内容を分析し、さらには分析をする人間の解釈まで加えられているような、informationからは何歩もプロセスが進んだ結果として得られるもののことを指しています。残念ながら、このintelligenceに正しく対応するような日本語の語彙は存在しないので、日本でintelligenceに関する議論をするときは、そのままインテリジェンスというカタカナ語を利用するしかないでしょう。

もう一歩だけ話を突っ込んでおきます。自然にどこからか生まれてくるinformationとは違って、intelligenceは「何らかの決断を助ける」ためにアナリストによって能動的に生み出されます。informationはそこらへんを漂っているものですが、intelligenceにはdecision makerを助けるという明確な存在の目的があるのです。そんなintelligenceには、良いintelligenceと悪いintelligenceを分けるための4つの評価軸が存在すると考えられています(注1)。

評価軸1.timely
良いintelligenceは、何らかの決断のためにこそ求められるのですから、決断にとって常にタイミングが重要である以上、そうしたintelligenceの創出もタイミングが命となります。より多くのinformationを集めることに集中してしまって、タイミングを犠牲にしてしまうのは、intelligenceの創出においては時に「collectionの罠」とも呼ばれ、気をつけて避けねばならないこととされています。informationを完全に収集することは不可能であるとして、あるところでcollectionはスパッと止めて、分析に移らないとならないのです。

評価軸2.tailored
良いintelligenceは、ある決断にとって必要となる深さと幅を持っていることが重要で、冗長だったり、または足りなかったりすることはintelligenceの質に問題があるとされます。逆にいうなら、informationのcollectionをはじめる前に、そもそもどういったintelligenceが求められているのかを明確にしないとならないということです。テーラー・メードの服を作るのに、まず身体の寸法を測らずに、サイズの異なる布を探しに行くことはナンセンスなのです。

評価軸3.digestible (easy to digest)
良いintelligenceは、簡単に理解できるフォーマットになっていないとなりません。社長と偶然同じエレベータに乗り合わせたとき、エレベータ内にいる1分間の間に、新事業の提案をするようなことを、特に「エレベータ・ピッチ(elevator pitch)」と言うことがありますが、まさにこれが最高のintelligenceの形態です。ストーリーが「何をするべきか」という提案に関して明確であることが、intelligenceをdigestibleにするための秘訣です。

評価軸4.clear regarding the know and the unknown
intelligenceは限られた時間内に創出されます。無限の時間がかけられない以上、intelligenceのベースとなるinformationのcollectionが不完全なものであることは不可避なのです。よって、優れたintelligenceは必ず探したけれど、見つからなかったinformationに関する言及があります。何を知っているかではなく、何を知らないのかを理解することは容易ではありません。だからこそこれが、intelligenceの質を分けるけるポイントになるのです。

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ネット環境が今ほど整備される以前の社会においては、informationを多く持っているものが競争を優位に戦うことができました。そんな時代には、informationを得ることができるソース(情報源)をどれぐらいたくさん持っているかが勝敗を分ける鍵となりました。

ところが、ネットで検索さえすれば、読みきれないほどのinformationが入手できる現代社会においては、ソースを多く持つことではなくて、まず検索にヒットするinformationを上手に「捨てる」技術を身につけることが求められます。そして手元に残ったinformationを分析し、自分なりの解釈を加えることで自らの中にintelligenceを蓄積して行くことが重要ではないでしょうか。