2009年12月19日土曜日

【西松事件】 初公判

小沢氏秘書 初公判
2009.12.18 14:13
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/091218/trl0912181415017-n1.htm

 《小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」などの政治資金規正法違反事件で、同法違反(虚偽記載など)罪に問われた陸山会の元会計責任者で小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告(48)の初公判が18日午後、東京地裁(登石郁朗裁判長)で始まった。西松建設からの企業献金を隠すため、ダミー団体を通して受け取っていたとして起訴された大久保被告。公判前から「やましいことをした覚えはない」などと主張しており、公判では検察側と弁護側が全面対決することになる》

 《大久保被告は今年3月、東京地検特捜部に逮捕・起訴された。当時同党代表だった小沢氏は代表辞任に追い込まれたが、当時野党だった民主党の政権交代の機運が高まっていた時期だったことなどから、同党側や一部マスコミが「国策捜査だ」などと猛反発。小沢氏も「一点のやましいところもない」などと述べている》

 《献金した西松側の公判は、すでに終わっており、国沢幹雄元社長に同法違反罪で禁固1年4月、執行猶予3年の有罪判決が出るなどし、全員の判決が確定。残る大久保被告の公判の行方が注目される》

 《午後1時28分。東京地裁104号法廷には、登石裁判長らと検察官、弁護人双方がそろっている。大久保被告が入廷してくる。濃いグレーのスーツに、ストライプのネクタイ。眼鏡をしている。固い表情で、まっすぐ証言台へ向かい、裁判長の方を見据えて立つ。それを確認して、登石裁判長が開廷を宣言する》

 裁判長「それでは開廷します。名前を確認しますので、名前を言ってください」
 被告「大久保隆規です」
 裁判長「職業はありますか」
 被告「国家公務員です」

《大久保被告ははっきりとした口調で答える。職業は「国家公務員」。衆院議員の公設秘書は国家公務員だ》

 裁判長「では検察官は起訴状を朗読してください」

 《検察官の1人が立ち上がる》

 検察官「被告人、大久保隆規は第1に…」

 《起訴状などでは、大久保被告は平成15~18年、陸山会と民主党岩手県第4区総支部(4区支部)などが、西松から受けた3500万円の献金を、ダミー政治団体から受けたと政治資金収支報告書に虚偽記載したとされる。このうち、平成18年10月ごろ、陸山会で受けた100万円は「政治家個人への企業献金受領」、4区支部で受けた200万円は「第三者名義寄付の受領」に当たるとされる》

 検察官「第2に…」

 《検察官は、第1と第2の2つに分けて起訴内容を朗読していく》

 《これまでの検察側の主張では、西松の不正献金は9年ごろから、岩手県と秋田県の公共工事受注で小沢事務所から「天の声」を得るため行われており、大久保被告は12年ごろから関与したとされる。このうち、虚偽記載罪の公訴時効5年にかからない平成15年以降の3500万円分が起訴された。「政治家個人への企業献金受領」「第三者名義寄付の受領」は公訴時効3年のため、18年10月分だけが起訴されている》

 《公判の争点は、(1)本当に献金を行ったのは西松建設で、「新政治問題研究会」(新政研)と未来産業研究会(未来研)という2つの団体はダミー団体だったのか(2)大久保被告は、それを認識していたのか(3)過去の政治資金規正法違反事件に比べて、悪質性が低いのに起訴している「公訴権の乱用」にあたらないのか-という3点》

 《検察官の起訴状の朗読が終わる》

 裁判官「いま読み上げられた起訴状の内容について、あなたとしてはどうですか」

 被告「事実の第1、第2についても…」

 《大久保被告はここで言葉を飲み込み、黙り込んだ。30秒近い長い沈黙。それからまた口を開いた》

 被告「新政治問題研究会についても、未来産業研究会についても、寄付を受けて、その通りに政治資金収支報告書に記載したものです。検察官は『西松建設から寄付を受けたと知っていた』といいますが、私は、政治団体の寄付で西松建設の寄付とは思っていませんでした。政治資金規正法に違反するとはまったく考えておりませんでした」

 《大久保被告は、はっきりと起訴内容を否認した》

 《大久保隆規被告(48)の罪状認否に続き、弁護人はあくまで政治団体「新政治問題研究会」(新政研)と「未来産業研究会」(未来研)は、西松建設とは別の団体だと主張。「大久保被告が意図的に虚偽記載を行った事実はなかった」という点を強調した》

 《裁判長に促され、大久保被告は被告人席に着席した。続いて検察側による冒頭陳述の朗読が始まった。大久保被告は体の前で軽く手を組み、検察官をにらみつけるようにじっと冒頭陳述の朗読を聞いている。検察官は目を合わせることなく、大久保被告の身上経歴に続き、2つの政治団体が、西松建設のダミーであるとする根拠を指摘していった》

 検察官「新政研と未来研はいずれも政治団体としての実体はなく、西松建設の意思に基づいていた」
 検察官「いずれの団体も平成7年の政治資金規正法の改正により、企業献金に関する規制が強化されるとともに公表基準が厳格化された後も、その名を伏せて政治献金を行うことが目的で設立されたものだ」

 《続いて、検察側は2団体による献金は、西松建設の資金から拠出でされたとの説明を始めた》

 検察官「西松建設は会員名を公表する必要のない会費名目で新政研・未来研名義の献金の原資を調達することとし、幹部従業員のうち口が堅く信用できる者を選んで会員とした」

 「西松建設は政治資金パーティーの対価支払いの名目でも資金を捻出していた。2団体の献金はすべて西松建設が決定し、金額などを指示して振り込み手続きをさせていた。当時、代表取締役であった国沢幹雄らの指示・了承の下で行われていた」

 《西松建設の国沢幹雄元社長(71)は政治資金規正法違反罪などで禁固1年4月、執行猶予3年のすでに有罪判決が確定している。検察側の冒頭陳述は、国沢元社長の初公判で行われた冒頭陳述の内容とほぼ重なっているようだ》

 《続いて検察側は民主党の小沢一郎幹事長側の献金受領の経緯に進んでいった》

 検察官「本件(起訴事実)を含め、平成7年以降に西松建設からの寄付を受けた小沢議員側の政治団体は5団体あった。衆議院議員会館の事務所や赤坂事務所、岩手県内の水沢事務所などの拠点を有していた」

 「赤坂事務所は(小沢氏の資金管理団体である)陸山会のほか、いずれも大久保被告が代表を務める政治団体の主たる事務所であった。赤坂事務所は、小沢事務所の政治献金受け入れ事務のほとんどを取り扱っていた。大久保被告が上司としてこれらの事務を統括していた」

 《大久保被告は、献金の受け皿となる陸山会の「金庫番」だけでなく、岩手県で地盤を守り選挙を取り仕切る「地元秘書」、複数の関連団体のトップという3つの“顔”を持っていたとされ、検察側は民主党の小沢一郎幹事長をめぐる「利権」のキーマンとみている。秘書仲間から「小沢秘書軍団の要」「お目付役」とも評されていた所以(ゆえん)でもある。続いて検察側は、西松が違法献金を始めるようになった過去の経緯を説明していく》

 検察官「小沢事務所は公共工事における決定的な影響力を背景に、ゼネコンに要求して選挙の際の支援や多額の献金をさせていた。岩手県内の公共工事では、昭和50年代終わりころから小沢事務所の意向が、(受注)業者選定に決定的な影響力を及ぼすようになった」

 「小沢事務所はゼネコン各社から陳情を受けて、特定のゼネコンに工事受注の了解を与え、ゼネコンがこれに従って談合をとりまとめるのが常となっていった」

 「ゼネコン業界では、小沢事務所の工事受注の了解が、本命業者を決定するいわゆる『天の声』とされていた」

 《こうした現実があったことから、西松建設は7年、小沢氏側への献金の増額を決定、新政研名義などで計1019万円の寄付を行った-。その結果、さらに岩手県発注のトンネル工事を受注できたため、8年には寄付の額を計2812万円に増やした-。淡々と説明していく検察側。国沢元社長の公判と同様に、献金が「賄賂」に近い性格だったと強調した》

 《続いて検察側は、「天の声」がどのようにして出されていたかの説明に移っていった。大久保被告はここまで、身じろぎ一つせず、検察官から目をそらすことはなかった》

 《検察側の冒頭陳述が続く。小沢(一郎民主党幹事長)事務所が影響力を使って公共工事の受注会社を決める『天の声』を出していたという過去の経緯を説明していく。被告席の大久保隆規被告(47)は、じっと聞いているが、時折、口をすぼめるようなしぐさを見せる》

 検察官「小沢事務所は西松建設側から多額の献金を受ける一方で『天の声』を与え、談合の仕切り役である大手ゼネコンA(公判では実名)に談合をまとめさせ、同社をスポンサーとするJVに工事を落札させていた」

 《検察側は実際に大久保被告が「天の声」を出すようになった経緯を説明していく》

 検察官「大久保被告は平成11年に小沢氏の私設秘書となったが、12年の衆院選で、ゼネコンに工事受注の了解を与える一方、選挙協力や多額の献金を要求する役割を担っていた○○(小沢氏の元秘書)が(衆院議員に)当選したことなどから、後任として役割を継いだ」

 「13年ごろ、大久保被告は年間2千万円程度の献金を小沢氏側に行っていた大手ゼネコンB(公判では実名)から、岩手県立病院工事の受注の了解を得たいと陳情を受けた際、『私が○○さんとチェンジすることになった』と了解を出す役割を継いだことを説明。同社を筆頭にしたJVが約56億円で工事を受注した」

《さらに、検察側は、大久保被告がどのように受注業者に影響力を発揮していたのか、説明していく》

 検察官「16年ごろ、小沢氏側への『献金額を大幅に減らしたい』と申し入れた同社担当者に、大久保被告は『何だと、急に手のひらを返すのか』と怒鳴りつけて拒否した」

 「14年ごろには小沢氏側に年間500万円程度の献金をしていた大手ゼネコンC(公判では実名)に、同社が施工した東京都内のビルの1フロアを『小沢事務所が購入したい』と申し入れたが断られたことから、同社に『この件ではもうだめです。奥座敷には入れさせません』と言った。同社に工事受注の了解を与えない旨を言い渡し、実際、同社は同年中の岩手県発注の工事を受注できなかった」

 「その後、15年に同社に『担当者が代わったわけだし、関係修復を図りたい』『年間2千万くらいお願いしたいのですが』『協力してくれれば、また土俵に上がっていただこうと思います』などと言って、献金額を年間2千万円に増額するよう要求した」

 「同社は、この要求を受け入れざるを得ないと判断して献金を増額。その後、(岩手)県発注のトンネル工事を受注希望した同社に了解を与えた」

 《検察側が立て続けに説明したゼネコンとの具体的なやり取り。しかし、2社だけの話に終わらず、この後もさらに他の業者への“圧力”も明かされた。その上で、西松建設が小沢事務所の「天の声」で工事を受注していく経緯が明かされる》

 検察官「大久保被告は西松建設から陳情を受け、(岩手)県発注のトンネル工事について了解を与えた。同社担当者は、談合の仕切り役だった大手ゼネコンAの元東北支店次長(公判では実名)にその旨を伝え、同社を本命業者とする談合を取りまとめ、同社をスポンサーとしたJVが工事を受注した」

 「その後、大久保被告は同社から(岩手)県発注の遠野第2ダム工事について、受注の了解を得たい旨の陳情を受け、17年ごろ、『よし分かった。西松にしてやる』と了解した」

 《さらに、虚偽記載を行った経緯も説明される》

 検察官「大久保被告が小沢氏の私設秘書となった11年当時、西松建設側からの献金窓口は別の私設秘書が務めていたが、遅くても14年ごろには大久保被告が窓口の役割を引き継いだ」

 「そのころから毎年、大久保被告は西松建設側に年間1500万円の寄付を依頼。どの(政治献金の)受け皿団体に、同社側から新政治問題研究会(新政研)や未来産業研究会(未来研)の名義などでどれだけの金額で寄付を受けるか、元総務部長兼経営企画部長(公判では実名)と打ち合わせていた。(そして)その結果通りに(ダミーの)請求書を作成し、寄付を受けていた」

 《新政研などが実際は、西松だということが、小沢事務所では周知の事実だったということも強調される》

 検察官「12年から13年冬ごろまで、大久保被告の統括のもと、新政研・未来研名義の寄付の受け入れなどの事務に従事していた私設秘書は、政治団体としての実態はなく、実際は西松建設による寄付であることを同僚の秘書に伝えていた」

 「これを聞いたこの秘書は、業務用ノートに『党本部経由寄付(1)西松1500』と記載するなどしていた」

 《検察官は、再度、要点を強調し、虚偽記載を行った動機を説明する》

 「大久保被告は西松建設を含むゼネコンに工事受注の了解を与える一方、影響力を背景に選挙協力や多額の献金を行わせていた。同社は企業利益を得るために新政研・未来研名義の寄付をし、大久保被告は寄付の主体が西松建設であることを認識していた」

 「しかし、収支報告書に真実の記載をして、小沢氏側が特定のゼネコンからの資金提供が問題とされた際、小沢氏や秘書は癒着(ゆちゃく)を強く否定してきた。大久保被告もその経緯を承知していた。新政研・未来研からの寄付として受け入れた上、(小沢氏の資金管理団体の)陸山会などの収支報告書上も、西松建設の名前を一切明らかにせず、虚偽の記載をするしかないと考えた」

 《抑揚のない声で淡々と冒頭陳述書を読み上げる検察官。西松建設が献金を減らし、やめていった経緯を説明する。大久保隆規被告(48)は固い表情のまま、身じろぎもせず検察官を見据えている》

 検察官「平成17年、被告は西松建設本社に西松建設の元総務部長兼経営企画部長(公判では実名)を訪ね、寄付を依頼したが、『うちも厳しいんで今までみたいな金額では対応できなくなりました。ついては金額を減らしてもらえませんか』などと、業績悪化を理由に、新政研・未来研(新政治問題研究会と未来産業研究会)名義による寄付を減額されて欲しい旨の申し入れを受けた」

 「これに対し、被告は『まあ、おたくが厳しいのはそうでしょう。でも急に言われても困ったな』などと難色を示したものの…」 

《検察側は、大久保被告が減額自体を了承したが、減額幅の“歩み寄り”を求めたと指摘する》

 検察官「(被告人は)『急にそこまで減らされるのは困るな。もう少し何とかなりませんか』などと言って譲歩を求め、結局、同年の寄付総額を1300万円とすることで決着し、陸山会、(岩手)第4区総支部及び県連において、西松建設から新政研・未来研名義で合計1300万円の寄付を受けた」

 《平成17年末にゼネコンが「脱談合宣言」をしたことをきっかけに、西松建設が18年で新政研・未来研名義での『献金スキーム』を終了することにしたと指摘。献金終了について大久保被告に連絡をとり、西松建設本社で話し合いが持たれた時のことを説明していく》

 検察官「被告は、元総務部長兼経営企画部長から『うちも金がなくて、いよいよ厳しくなったんでゼロってことでどうですか。申し訳ないんですが、本当にうちも金がなくて厳しいんですよ』などと業績悪化を理由に、新政研・未来研名義の寄付を打ち切らせて欲しい旨の申し入れを受けた」

 《さらに、大久保被告は「いきなり今年で止められるのは困るな」と難色を示し、「今年は500(万円)で」「これを最後ということでお願いします」などと頼み込んだという経緯も、検察側は明らかにしていく。大久保被告は、そのうえで最終的に献金中止を了承したという》

 検察官「このようにして、平成18年は陸山会、第4区総支部及び県連において、西松建設から新政研・未来研名義で合計500万円の寄付を受けた」

 《最後に、検察側は陸山会や民主党岩手県第4区総支部の収支報告書虚偽記入の状況などについて説明。大久保被告は厳しい表情を変えず、検察官をまっすぐ見据えてた》

 《検察側は、大久保被告が元総務部長兼経営企画部長と打ち合わせ、陸山会名義の銀行口座に、ダミー団体の新政研・未来研名義で寄付を振り込ませ、収支報告書にも虚偽記載をしたなどと指摘。第4区総支部でも、同様に収支報告書が作成され、虚偽記載が行われたとした》

 検察官「以上です」

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 《続いて、弁護側の冒頭陳述が始まる。弁護人はときおり傍聴席に目をやりながら、法廷によく通る声で読み上げを始めた》

 弁護人「弁護側が申し述べるのは全部で5点です」

 《弁護側は大久保被告への起訴が無効だと主張する「1番目の理由」として、新政研や未来研名義の献金額が、他の団体への寄付額と比較して、大きくないことを挙げる》

 弁護人「検察官は新政研および未来研が陸山会に対して行った寄付および岩手県連に対して行った寄付が金額という点で突出していると主張するが…」

 「起訴の対象である平成15年から18年までの4年間に新政研および未来研が陸山会などに対して行った寄付金額は合計3500万円であるところ、同じ期間に他の政治団体等が受け取った寄付等の合計金額は約7860万円であって、本件各寄付および岩手県連に対する寄付の金額が突出しているとは決していえない」

 《2番目の理由として、弁護側は、過去の同様事件と今回の事件を比較する》

 弁護人「従前、政治資金収支報告書虚偽の記入をしたとして虚偽記入で公訴提起された裏献金事案は、弁護人の知る限り、ほとんどが1億円を超える事案である」

 《それに対し、弁護側はこれまでの裏献金の事案とは性質がまったく違うなどと主張した》

弁護人「3番目の理由。検察官の本件取り扱いは著しく不平等であって、違法であることです」

 「被告人は本年3月3日の出頭直後に逮捕、勾留され、任意の事情聴取が行われることなく拘束され、捜査差し押さえという強制捜査によって早期に証拠保全が図られた」

 「一方で、新政研および未来研が寄付などを行った他の政治団体などはそもそも捜査対象とされず、不問に付されたままである…」

 《大久保被告の表情は硬いまま。椅子に深くこしかけ、まっすぐと前を見据えたまま身を固めている》

 弁護人「次に、4番目の理由です。検察官が主張する本件の『悪質性』なるものは一切存在しないこと」

 「(検察側は)東北地方には昭和50年代から談合組織が存在し、平成12年6月までは小沢議員の元秘書が、それ以降は被告が、岩手県や秋田県の公共工事に関して、談合組織における受注者の決定権限を有しており、被告はこれを秘匿するために新政研および未来研の名で本件各寄付を行わせた、とのことである」

 「しかしながら、後に述べるように、かかる事実は存在せず、検察官の主張は失当である」

 《弁護側の冒頭陳述が続く。弁護人は時折、左の腰に手を当てながら、廷内によく通る声で読み上げていく。検察官は手元の書類をじっと見つめている。大久保隆規被告(48)は背筋を伸ばし、まっすぐに前を見据えたまま。表情はほとんど変わらない》

 《弁護側は検察が主張する「事件の悪質性」を否定するための具体的な事実を列挙していく。まずは、週刊誌の報道などを挙げ、15年ほど前に検察がこれらの事件の捜査の端緒をつかみながらも、放置していたことを指摘する》

 弁護人「今から15年ほど前、一部週刊誌が検察側が本件の背景事情として主張するような談合への関与や建設会社との癒着(ゆちゃく)について述べる記事を掲載したことがあった」

 「小沢一郎(民主党現幹事長)の元秘書は、事実無根として出版社に抗議文を送付し、謝罪広告請求を求め、地検に告訴した」

 《ただその後、ほとんど捜査が行われた形跡がないことを指摘。弁護側は本件がすでに“終わった事件”との印象を強めていく狙いもあるようだ》

 「本件で検察官が最も重きを置く『悪質性』なるものの事情につき、遅くとも約15年前までに捜査の端緒を得ていたにもかかわらず、一切捜査を行わないか、途中で打ち切っていたものと考えられる」

 《傍聴席の方に顔を向ける弁護人。力をこめて訴えかける》

 弁護側「本件公訴提起が極めて恣意(しい)的であって、公正かつ公平な訴追裁量権の行使とは決して言えないことを端的に示している。平等や公平の理念に反し、また憲法14条1項の精神にも反するのであって、検察官に合理的に認められる範囲を著しく逸脱したものであり、極めて不当であって、検察官が訴追裁量権を逸脱し、乱用して行った起訴であり、無効である」

 《冒頭陳述は、西松建設が違法献金のために設立したダミーの政治団体「新政治問題研究会」(新政研)と「未来産業研究会」(未来研)の問題に移る》

 《新政研は平成7年11月、企業献金のダミーにするために設立。11年6月には未来研を総務省に届け出たとされる》

 《両団体の代表者には、退職した西松の元営業管理部長2人がそれぞれ就任しており、検察側は一貫して活動実体のないダミー団体と主張している。弁護側は、「活動実体のある政治団体だった」と真っ向から対立する主張を展開していく》

 弁護人「新政研と未来研は、西松建設の資金とは区別して管理されていた」

 《弁護側は、すべての出入金を示す銀行簿や経費の支出を示す詳細な帳簿が作られていたことを指摘。これらの帳簿は各団体の代表者が、団体の事務所で記録していたことを明らかにしていく。具体的な活動金額も触れられた》

 弁護人「新政研は平成7年から18年の12年間にわたり、合計7378万6559円。平均して1年当たり600万円以上の人件費、光熱水費、備品・消耗品費、事務所費からなる経費を支出し、この額は毎年の支出の約1割から2割に相当した。未来研も平均して1年当たり370万円以上の経常経費を支出しており、この額は毎年の未来研の支出の約3割から4割を占めていた」

 《弁護側はさらに、両団体が東京都内で政治資金パーティーを複数主催していたことを指摘。「7年~10年間にわたり、政治活動を継続して行っていた」と主張し、検察側の「ダミー団体」との主張を崩しにかかる》

 弁護人「以上の事実から、新政研および未来研は、(政治資金)規正法に従って設立され、運営されていた政治団体であり、これを政治団体としての実体がなかったとすることは明らかに事実に反する」

 《ここでいったん間をおいた弁護人。再び左手を腰にあてながら冒頭陳述を読み上げ始めた》

 《弁護側が次に明らかにするのは、新政研と未来研の資金の出所だ。西松建設の資金を移し替えたものではないことを主張していく》

 弁護人「新政研および未来研の会費については、西松建設が直接に支払ったことはなく、必ず個々の会員の会費支払い行為が介在した」

 「個々の会員による自己資金に基づく会費支払い行為があるのに、会員による会費支払いを西松建設への資金の『移動』と評価することはできない」

 《弁護側は、西松建設社員の新政研と未来研への加入が業務命令に基づくものではなく、任意の加入であることを述べていく。「業務命令ではないのだから、西松との関係はない」という理論を展開するようだ》

 弁護人「平成17年度の会費支払い状況を見ても、検察官が主張する(本来の)『会費』に満たない額しか払っていない者が存在する上、帳簿上1円の支払いも確認できない者、また、検察官主張の金額より多く支払っている者がいる」

 《「新政治問題研究会(新政研)」と「未来産業研究会(未来研)」はダミー団体だとする検察側主張に対し、弁護側の反論が続いている。西松建設が、両団体の会費を社員のボーナス(賞与)に上乗せして、補填(ほてん)していたとする検察側の主張を取り上げる。大久保隆規被告(48)は、背筋を伸ばして黙って座っている》

 弁護人「(両団体の会費は)いったん会員の個人資金に混入した上で支払われている以上、会員個人の資金の拠出で、西松建設の資金とはいえない。特に、上乗せ賞与額よりも支払った会費が多い会員がいたとすれば、その差が個人負担であることは明らかである」

 「(西松建設は)新政研および未来研の会費に比して倍にもなろうとする金額を上乗せ賞与とするなど、およそ営利を目的とする株式会社としては考えられない行為である」

 《弁護士は右手に資料を持ち、早口で読み上げていく。次に、両団体が開催したとされる「政治資金パーティー」に触れた》

 弁護人「新政研および未来研では、政治資金パーティーのために現実に費用を支出してホテルの会議室を借り、案内状を印刷業者に依頼し、表示札も依頼したうえ、関係者が時間を割いて集まり、会食をした」

 《ここで弁護士が、ちらりと法廷の後ろ側の時計に目をやった。時間配分が気になるのだろうか》

 弁護人「パーティー券の収入には、西松建設とは別の会社が支払ったものが含まれる。平成15年から18年の間において、西松建設とは別の会社が、その資金で、少なくとも新政研に対し390万円、未来研に450万円を支払った」

 「これらの会社は西松建設の子会社であって、資本関係があったとしても、西松建設とは別個の独立した法的存在である以上、西松建設と同視することができないことは、いうまでもない」

 《ここで、大久保被告がのどの具合を気にするように、口元を手でぬぐった》

 弁護人「以上、要するに、各研究会に投入された資金のほとんどすべてが個人の資金および西松建設以外の会社の資金であるというほかはなく、各研究会の資金が西松建設の資金そのものであるとの検察官の主張は、とうてい、認められない」

 《次に弁護人は、両団体が「独自の意思決定を行っていた」との主張を始めた。医師会に対する医師連など、業界団体には、それに対応する政治団体があることを、団体の名を一つひとつ挙げて説明した》

 弁護士「業界団体が、政治団体の決定に事実上の支配力を及ぼしていたとしても、あくまでも意思決定の主体は政治団体と考えられている。すなわち新政研および未来研が、寄付などを行うにあたり、会員や西松建設側の意向に従っていたとしても、それは当然であり、それによって、意思決定の主体であることが否定されることにはならないのである」

 《弁護人は次に、「大久保被告が東北の公共事業に対して影響力を及ぼしていた」とする検察側主張への反論を始める。まず、言葉の使い方に注文を付けた》

 弁護士「検察官は『天の声』という表現を用いるが、本来『天の声』とは、『公共工事の発注権者が受注者を決める』という文脈で使用される俗語であり、日本語の使用方法として間違っている」

 《さらに弁護人は、岩手県には、当時政権政党だった自民党の国会議員らが存在したことなどを挙げ、大久保被告側に公共工事の決定権などはなかったと主張。そして、大久保被告の秘書としての前任者だった、元衆院議員の元秘書についての陳述が始まった》

 弁護人「○○(元秘書の実名)氏は平成12年6月に衆院議員に選出されて以降、小沢議員とは一線を画すようになり、15年に議員を失職する際には完全に決別し、その後、自民党に所属した。このようなことから、被告が○○氏の地位をそのまま引き継ぐことは、結局のところなく、また○○氏の公共事業に関する行動については、被告にも小沢事務所にも分からない部分が多く、弁護人らにも不明です」

 「そもそも○○氏が受注者を決定していた事実は存在しないところ、さらに、被告がその役割を引き継ぐことは、およそなかった」

 《次いで弁護士は、元秘書が、どのように陳情を処理していたか、大久保被告の時代になり、どう変化していったかの説明を始めた。大久保被告は相変わらず、背筋を伸ばして聞いている。眼鏡の向こうの表情は伺えない》

 《弁護人は、大久保隆規被告(48)が公共工事で「天の声」を出す役割を、小沢一郎民主党幹事長の元秘書から引き継いだとする検察側の主張に対して、反論を展開。元秘書と大久保被告の“引き継ぎ”の実態について、弁護人が詳しく説明していく》

 「平成12年6月に行われた衆院選で○○氏(元秘書の実名)が当選したこともあり、被告は12年7月ごろ、小沢議員の公設第2秘書となり、陸山会の会計責任者に就任した。これにより、建設会社からの寄付を含め、寄付に関する小沢議員の窓口は、表向きは被告となった…」

 《平成12年6月に◯◯氏が衆院議員に当選後、◯◯氏から被告人が陸山会の会計責任者を引き継いだ経緯を説明する弁護人。しかし、引き継いだのは形式上で、実際は引き継ぎも行われていなかったことを明かした》

 「被告は、ようやくこのころ(平成15年6月)には小沢議員の公設第2秘書として建設会社などからの陳情の窓口と認識されるようになったものの、例えば公共工事受注への力添えなどを依頼されても、実際に何かすることができるわけではなかった」

 《大久保被告が受注業者決定を左右する権力はなかったと主張する弁護人》

 「一般的に政治家やその関係者に対して行われる多種多様な陳情の受付と同様に、『陳情は陳情として承った』という意味であって、検察官が主張するような『了解』を与えたことはない」

 《弁護人は、大久保被告が岩手県発注の遠野第2ダム建設などで『天の声』を出したとする、検察側の主張を強く否定する。西松建設関係者から、「これら工事の受注について力添えをして欲しい」という陳情を受けたことは認めたものの、「天の声」を出したという意味ではないと強調した》

 《次に、弁護人は、ダミー団体といわれる新政治問題研究会(新政研)と未来産業研究会(未来研)から小沢氏の資金管理団体「陸山会」に渡った献金が、受注決定の対価ではないことを強調する》

 「検察官の主張によれば、平成11年から13年の間、そして9年や16年も、西松建設は一度も岩手県や秋田県で公共工事を受注していない」

 《さらに、一連の寄付(企業献金)は西松建設による公共工事受注(の有無)に関わらず継続的に行われたと結論づけた》

 「新政研および未来研が設立され、寄付などを行っていた一方で、西松建設は並行して、4年間、平成11年まで、毎年、継続的に小沢議員に関連する政治団体に西松建設名義で寄付を行っていた」

 「西松建設と小沢事務所の間に、検察官が主張するような、毎年一定額を寄付する旨の取り決めなど存在しなかった」

 《さらに、弁護人は、「大久保被告が新政研と未来研の資金が西松建設から出されていたことを知らなかった」と強調していく》

 弁護人「政治活動に関する寄付(政治献金)は、何ら義務に基づかない任意や好意による行為だ。寄付をしてくれる団体がどのような活動を行っているか、資金集めの方法は通常、詮索(せんさく)しないし、相手方が説明する通りに収支報告書にも記載する」

 「被告人は、寄付者は西松建設とは別個の新政研、未来研であると理解し、収支報告書に記載した」

 《続いて弁護側は、一連の献金で、西松建設元総務部長兼経営企画部長が果たしていた役割について強調し始めた》

 弁護人「西松建設や関連する会社から受領するする寄付についての請求書は、すべて元部長に一括送付していた。また元部長は、西松建設の下請け企業からなる『松和会』に関しても会員会社をとりまとめていた」

 「元部長は、例えば名称や宛先が記載された名簿を作成して小沢一郎事務所に渡したり、変更があった場合に小沢事務所へ連絡していた。寄付が前年より減額になり、終了することを被告人に告げたのも元部長であり、会員会社が被告に連絡することもなかった」

 《弁護側は「献金の窓口となっていたのは元部長で、大久保被告はその説明を信じ込み、収支報告書に記載しただけだ」と訴えたいようだ。続いて、元部長との「共謀性」について言及を始めた》

 弁護人「被告は、新政研、未来研との関係で、元部長を通じて前年の実績に基づいて寄付を依頼、お願いしていた(だけな)のであり、判断はもっぱら新政研・未来研、西松建設関連会社の一存で行われていたのである」
 「本件の寄付金額や寄付者、受け入れ先などの最終決定に、被告がいかなる形であれ関与した事実はなく、その立場にもなかった」

 《さらに弁護人は西松建設側からの寄付・献金について、大久保被告があくまで新政研と未来研からのものと信じていたと強調した》

 弁護人「被告にとって、民主党岩手県第4区総支部などが、新政研、未来研から寄付を受領することは、法律に従って正規に届けられた『ちゃんとした』政治団体からの寄付の受領であり、寄付者が西松建設と評価されるような寄付であるとは全く考えていなかった」

 「寄付の原資が西松建設の資金であるとも全く認識しておらず、政治団体としての実体がないという認識も一切なかった」

 《弁護人は「政治家秘書」の役割についても言及した》

 弁護人「被告は衆院議員の秘書である以上、常日頃、いろいろな立場の会社や団体に所属する人物に会い、西松建設からの陳情を含め、様々な陳情を受けていた。陳情に対し、実際にはできないことでも誠意を持って対応する姿勢を示すことは当然の事であった」

 「寄付は基本的には政治家の政治姿勢や政策に対する応援といった意味を持ったものであり、被告も『寄付は小沢議員の政治姿勢に対する応援である』と確信していたのである。『適正な』公共工事の実施への期待であろうと認識していたのである」

 《西松建設による献金と公共工事受注の関連について、検察側は「賄賂」に近い性格だったことを指摘していた。弁護側は、これを真っ向から否定した形だ。しかし「適正な公共工事の実施への期待」が具体的に何を示しているのかは不明だ》

 《弁護側は最後に、大久保被告が検察側の取り調べに対し1度は、2団体からの献金について「実質的に西松側からと知っていた」と認める供述をした経緯を説明した。大久保被告は再度、否認に転じたていたといわれている。検察側は西松建設の国沢幹雄前社長の公判でも、大久保被告の「自白調書」を朗読。重要な証拠の1つとみているようだ》

 弁護人「被告が逮捕・勾留された20年3月は、政権交代が近づいている時期でもありました。被告は政治的影響を最小限にとどめたいと思った」

 「特捜部の考えに基づいて書類が作られ、強制力を持った検察と対(峙)すると、第3者が事情聴取の対象となる可能性もあり、マスメディアの報道も加熱する。そういうことはあってはならないと考えた結果でした」

 《明言こそしなかったものの、弁護側は大久保被告が一時的にせよ容疑を認めたことについて、自白の任意性を争う姿勢のようだ。ここで約11分間の休廷に入った》

 《約15分間の休廷をはさみ、公判が再開。検察側の証拠調べが始まった。「ダミーの政治団体を通じた違法献金だったことを認識していなかった」とする大久保隆規被告(47)側の言い分を否定するような関係者の供述調書が読み上げられた》

 《まずは献金をした側である西松建設の国沢幹雄元社長の調書が読み上げられる》

 検察官「新政治問題研究会(新政研)と未来産業研究会(未来研)は政治団体としての実体はなかった」

 《続いて読み上げられた新政研代表の調書では、「私は届け出上の代表者だったが、献金額の決定などには一切関与しなかった」とされている》

 《さらに、西松建設従業員の調書が読み上げられる》

 検察官「西松建設から指示を受け、献金として新政研などの口座に振り込んでいた。○○(西松建設元総務部長兼経営企画部長の実名)に手渡ししたこともあった。『献金した金は、賞与に上乗せする形で戻ってくる』と会社から説明を受けていた」

 《続いて小沢一郎民主党幹事長の関連団体が受けた献金額に関する報告書が読み上げられる》

 「民主党岩手県第4区総支部の平成15~19年の政治資金収支報告書を分析すると、多くは企業献金だったことが明らかになった。献金の多くは『小沢一郎政経塾』(という団体)に入っていた。それらの78%の額が寄付として陸山会に行っており、それらの金が陸山会の主な収入となっていた」

 《検察官は「小沢一郎政経塾」といっているが、実在する「小沢一郎政治塾」のことをいっているようだ。検察側は各ゼネコンの献金額を説明。どの社も年間数百万~2千万円前後であることが多いが、西松建設など数社は「12年に合計9000万~1億2000万円だった」とした》

 《ここで検察側は東北地方の談合の仕切り役だった大手ゼネコンAの元東北支店次長(公判では実名)の供述調書を読み始めた。10年以降の談合のキーマンであり、その内容に注目が集まる》

 検察官「岩手県では昭和50年代以降、小沢氏の『天の声』が機能し始め、逆らえなくなった。小沢事務所は東北地方の県知事選に自分の派閥の候補者を立て、当選させるなどして影響力の拡大を図り、公共工事を牛耳るようになった。本来、業者間だけで受注調整をしていたが、小沢事務所が関与するようになった」

 「業者が小沢事務所に公共工事の受注を陳情し、本命業者としての了解を得ると、その業者は談合の仕切り役であるうちの会社にアピールをしてくる。そして本当に小沢事務所が了解をしたのかどうかを事務所に私が確認した上で、その内容に従った」

 《東北地方における談合の構図で、どのように小沢事務所が影響力を持つようになったのか-。調書は、その姿を浮き彫りにしていく》

 検察官「平成15年の簗川ダム(岩手県)工事のときは、西松建設からアピールがあったので、大久保被告に『西松建設でよろしいですか』と聞いたら、『そういうことで結構です』と答えたので、西松建設を本命業者にした」

 《続いて読み上げられたゼネコン関係者の供述調書》

 検察官「当時、小沢事務所からの『天の声』を得るため、下請けを使って多額の献金を捻出(ねんしゅつ)した。選挙の時には(選挙運動に協力する)人出しや(集票のための)名簿出しをした」

 《ここで検察側は、再び国沢元社長の供述調書を読み上げる》

 検察官「かつて西松建設は談合受注は故金丸信元衆院議員にお願いしていた。しかし、汚職事件が発覚してそれができなくなると、工事を受注しにくくなった」

 「そのとき、東北支店長から『小沢事務所が強大な影響力を誇っている』と報告があった。実際に小沢事務所から『西松建設に仕事を回すな』といわれ、工事を受注できなくなったこともあった。東北支店長から『多額の献金をする必要がある』といわれた。小沢事務所からは名義を分けて1000万円の寄付をするよう求められた」

 《大久保被告は検察官を見つめたままだ》

 《検察側が読み上げる関係者の供述調書を、大久保隆規被告(48)は、うつむき気味で聞き入っている。大久保被告に政治献金の減額や中止を求めた西松建設の元総務部長兼経営企画部長の調書を、検察官が読み上げる》

 検察官「私は、西松建設の経営状況がいよいよ厳しくなって、悪化していることを伝えました。すると、大久保さんは『お宅が厳しいのはよく分かっている』といわれ、『申し訳ない』と何度も繰り返したのですが、なかなか納得してくれませんでした」

 《さらに、検察側は、大久保被告が、公共工事受注への影響力をちらつかせながら西松建設にたびたび献金の要求を繰り返したと主張。それを裏付けるものとして、西松建設関係者の証言を再びとりあげた》

 検察官「17年ごろ、(岩手県の遠野第2ダム建設工事の受注について)私がお願いすると、大久保さんは『よし、わかった。西松にしてやろう』と話していました…」

 《しかし、平成17年末にゼネコンが「脱談合宣言」を行ったことで、工事入札は厳しい「たたき合い」となり、西松建設は受注できなかった》

 検察官「その後、大久保さんから電話があって、『うちの(関連)業者に下請けさせてほしい』と話されました。しかし、私が西松が受注できなかったことを説明すると、大久保さんは『そうだったけ。間違った』と電話を切りました」

 《さらに、小沢氏と袂(たもと)を分かった元衆院議員の元秘書について、大久保被告が激しい怒りをあらわにしたことも明らかにされる。再び、西松建設の元東北支店長の証言が読み上げられる》

 検察官「平成16年の参議院選挙のときでした。○○さん(元秘書の実名)が、小沢先生の対立候補を応援したとき、大久保さんは『○○の野郎。(小沢)先生の恩を忘れやがって。絶対に許さねえ。お前は○○側につくようなことはないな』と言われました」

 《続いて、検察側は、小沢事務所の捜査で押収された書類の中身を説明し、事務所に勤務していた職員らの供述調書を読み上げる》

 検察官「政治団体とは名ばかりで、新政研(新政治問題研究会)にも、未来研(未来産業研究会)にも、実体はありませんでした。(西松からの直接的な)寄付そのものだと思い、(関係者に)『これは西松建設の献金です』と答えたこともあります」

 《新政研・未来研について、こんな風に語られた供述調書も読み上げられた》

 「小沢議員の財布のひとつに過ぎなかった」

 《大久保被告は、それをじっと聞きながら、肩を上下に揺らし、深呼吸した。検察官はさらに、別の事務所関係者の証言も読み上げていく》

 検察官「寄付について、大久保さんと○○(西松建設の元総務部長兼経営企画部長の実名)が、どこにいくら振り分けるか決めていました…」

 《検察側の証拠書類の読み上げが続いている。公判開始から2時間半。途中休憩を挟んだせいか、大久保隆規被告(48)に疲れた様子はまだ見えない。変わらず背筋を伸ばし、検察側の方をしっかり見据えている》

 《小沢一郎民主党幹事長の事務所関係者、政策秘書、不正献金のためのダミー団体とされる「新政治問題研究会」(新政研)と「未来産業研究会」(未来研)の「従業員」とされる人物の供述調書などが読み上げられていく。検察側は、さらに西松建設の献金先では小沢氏の資金管理団体「陸山会」が突出していたことも指摘。東京・赤坂の小沢事務所から押収した資料も多数証拠として提出したことを明らかにした》

 検察官「乙1号証から乙13号証は、被告人の供述調書です」

 《検察官は、大久保被告が逮捕され、保釈されるまでの間にとられた本人の供述調書を読み上げ始める。新政研など2団体からの献金は、実質的に西松建設からの企業献金で、2団体はダミーと認めた「自白調書」だ》

 検察官「新政研も未来研も、政治資金規正法にもとづいた政治団体を装っているが、真実は西松側からのものと認識していました」

 「西松建設がわざわざ自社からの代表を(2団体に)すえてやっていることが分かりました」

 《調書では、不正献金の理由として、企業献金規制が、政治資金規正法改正で強化されたことなどにも触れている。さらに「自白調書」の読み上げが続く》

 検察官「(新政研と未来研の2団体は)表面上は健全を装っていますが、トップかどうかは分からないですけれど、西松の意思に基づき、献金が行われていることは分かっていました。2団体の代表が出てこないこともあり、実体のない(団体)ことにはうすうす察しがついていました」

 「法律の網の目をくぐったダミー団体で、形式上あるだけ。政治活動の実体がない『トンネル(団体)』に過ぎないと思ったのです」

 「私は(新政研と未来研の)関係者にお礼を述べたことも、会ったこともありません。献金のための『トンネル(団体)』ですから、お礼やあいさつをする必要はないと思っていました」

 《さらに、大久保被告は調書の中で、政治資金収支報告書に虚偽記載した動機も語っている》

 検察官「西松建設からの献金は、金額が多く目立つので、あれこれせんさくされるのを避けたかった」

 「献金は、資料を用意して、西松建設の○○部長(公判では実名)に修正してもらい、最終的な割り振りを決めていた」

 《新政研などの献金が止まったことについても、調書では大久保被告の感想が述べられている》

 検察官「新政研、未来研の名義の献金が、実際には西松建設の献金であると知っていたので、西松の経営悪化で(献金)減額になったと分かり、やむを得ないと考えました」

 《大久保被告の「自白調書」読み上げが終わる。大久保被告は、この調書に署名した後、再び、容疑・起訴内容の否認に転じている》

 《続いて、弁護側の証拠書類が読み上げられた。事件を受けて、西松建設が行った内部調査報告書や、小沢氏の元秘書を誹謗(ひぼう)したとされる新聞記事のコピー、それに対する告訴状などだ。弁護人は淡々と内容を説明し、「以上です」と結んだ》

 裁判長「それでは、本日の予定は終了です。次回期日は…」

 《登石郁朗裁判長が閉廷を告げると、大久保被告は立ち上がって大きく一礼。少し緊張がゆるんだような表情で、弁護人と言葉を交わした。だが、報道陣や傍聴人の視線が自分に注がれているのを思いだしたように、再び口元を引き締め、堅い表情に。被告人席に腰掛けたまま、傍聴人が全員、退廷するまで、表情を崩さなかった》
 《次回期日は来年1月13日で証人尋問が行われる予定。献金の実務を取り仕切っていたとされる西松建設の元総務部長兼経営企画部長らが、証言台に立つ見通しだ》 =(完)