2011年12月11日(日曜日)18時36分 低線量被曝リスク軽視派にヒロシマの被ばく医療界のドン、広島赤十字・原爆病院長が宣戦布告 http://kyumei.me/?p=441 kyumei /カテゴリ:コラム / 放射線影響研究所(放影研)といえば、前身のABCCが被爆者をモルモット扱いしたという逸話やチェルノブイリ原発事故の影響を過小評価してきた重松逸造、長瀧重信両氏が歴代の理事長を務めてきた歴史があるためか、原発事故が撒いた放射能による被曝の被害を食い止めようとする市民からはすこぶる評判が悪い。しかし、最近、大久保利晃理事長が放影研を現在の日米共同運営の機関ではなく、日本の独立した研究機関にすべきではないかと地元テレビの取材に答え、前身のABCC以来放置されていた「黒い雨」のデータの公開を検討し始めるなど、状況が大きく変化している。その放影研が広島では原発事故後初めて「低線量被曝リスク」等をテーマに市民公開講座(12月10日・広島原爆資料館地下メモリアルホール)を開催するというので、出かけてみた。 原発維持派にも反原発派にも見られない多元主義的な解説の新鮮さ 今回の市民公開講座では、放影研・中村典主席研究員による「低線量被曝のリスクをどう考えるか」、野田朝男放影研遺伝学部副部長による「線量評価の方法」というふたつの講演と質疑応答がメインのプログラムだった。内部被曝問題では両者とも楽観的な見解を一方的に取り上げる場面もあったが、低線量被曝問題では、放影研が妥当と考えている説以外の見解も紹介する多元主義的な解説に徹していた。 低線量被曝について放影研では現在、理事長、主席研究員以下、放射線被曝はどんなに低線量でもリスクを有すると仮定するLNT(しきい値なし直線)仮説を妥当としているが、講演では、これ以外のホルメシス説や100ミリシーベルト(以下、mSvで表記)までの被曝については健康への影響はない(閾値が存在する)」という「しきい値仮説」も紹介した上で、それぞれの科学的な根拠の希薄さや低線量被曝を無視する社会的・政治的背景を指摘し、否定に至っている。原発事故後、USTREAM等も含めて多くの低線量被曝問題の専門家やジャーナリストらの講演を聞いたが、この解説方法のものが少なかったため、新鮮に感じた。原発維持派、低線量被曝リスク軽視派の講演となると、一方的な洗脳、集団催眠術の手法が基本であり、このような手法をとった講演は皆無だ。するとしても、放射線被曝はどんなに低線量でもリスクを有すると仮定するLNT(しきい値なし直線)仮説への一方的で徹底的な「こきおろし」が目立つ。 多元主義的な解説は、放射線被曝影響の市民に対する社会教育では不可欠な方法といえるだろう。 LNT(しきい値なし直線)仮説を支持する医師、研究者を応援する必要性 低線量でもリスクを有すると仮定するLNT(しきい値なし直線)仮説を妥当とする放影研の主張に対して、脱原発派の講演会でも活躍する高木学校の崎山比早子・元放射線医学総合研究所主任研究員も、是とする立場だ。 崎山元主任研究員は、インタビューや講演でも放影研のデータにもとづくLNT(しきい値なし直線)仮説を紹介してきたが、「崎山さんは放影研支持者」だとの誤解を受けることもあったことだろう。この記事を書く前に予備的な情報をTwitterに流していたら、LNT(しきい値なし直線)仮説は放影研がアメリカから押し付けられたもので、世界の常識でもあるので放影研がLNT(しきい値なし直線)仮説をことさらに強調してもなんら評価の対象ではないとの趣旨の反応があった。 確かに、アメリカ放射線防護委員会(NCRP)は、LNT(しきい値なし直線)仮説を支持している。核兵器開発を推進し、原発を世界に広めたアメリカの放射線防護組織が支持しているLNT(しきい値なし直線)仮説には有り難みはないという考え方もあるだろう。 しかし、放射線被曝のリスクを重視し、被曝を避けたい市民にとって、どんなに低線量でもリスクを有すると仮定するLNT(しきい値なし直線)仮説は重要な根拠となるものだ。しかも、最近、大久保利晃理事長が放影研を現在の日米共同運営の機関ではなく、日本の独立した研究機関にすべきではないかと地元テレビの取材に答えた経緯もある。 また、「低線量被曝リスク」に関する放影研・中村典主席研究員の講演と質疑応答のなかで、「原爆症認定訴訟の政府側の根拠となっているしきい値仮説は間違っている。電力会社系の学者が支持するしきい値仮説を支持すると利益相反になるので好まない」との言明もあった。 低線量被曝リスクを重視しようとする学者や医師がいても、「それは世界の常識だから当たり前。評価しない」と醒めた顔で、応援しないという人が脱原発派の中にいて驚いた。低線量被曝のリスクを重視する市民の応援を抜きにして、低線量被曝リスクを語る医師や学者たちが診療や研究で頑張れるはずがない。 被曝リスクを過小評価した診断を「寝ぼけるな」と一喝した広島赤十字・原爆病院長 この公開講座のメインイベントは、広島赤十字・原爆病院の土肥博雄院長の「特別発言」だったといってよいだろう。土肥院長は、「放影研の立場ではいいにくいこと」と前置きした上で、福島第一原発事故での政府の被曝線量基準の設定の甘さにも触れた。 土肥院長は、福島県内等の高線量地域の住民に思いを馳せ、さらに原発事故の収束のために被曝労働に従事する作業員の中に被曝線量が高い人がいることを指摘した。なかでも最も高い680mSvの線量を受けた作業員に対する現地医療の「特に異常がなく大丈夫」とした診断結果を取り上げ、「寝ぼけたことをいっちゃあいかん」と厳しく批判した。 土肥院長は「広島・長崎でもチェルノブイリでも数年たって白血病等様々な障害が起こった。福島でも長期的に健康診断を行い、経過を観察していく必要がある」と、楽観視しないで事態の深刻さを直視する必要性を強調した。 土肥院長は、白血病臨床の権威。250mSv以上の被爆の数年後に白血病に至る症状がでてくる可能性を熟知している専門医だ。 土肥院長の「特別発言」の中での批判は、内閣官房が設置した、放射性物質汚染対策顧問会議の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の長瀧重信元放影研所長や福島県立医科大学・山下俊一副学長らの低線量被曝リスク軽視派の人々や、福島第1原発の吉田昌郎・前所長の病状について「病気と被ばくとの因果関係は考えにくい」と東電に伝えた放射線医学総合研究所の明石真言理事らに向けられたものと考えても特段の支障はないと思う。 この土肥院長の「特別発言」について、司会を担当した放影研・寺本隆信業務執行理事(元厚労省官僚)が「感激しました」と支持の意を露にしたのも、驚きの一つだった。 ちなみに、3月21日の山下俊一の福島テルサでの発言、「もう広島と長崎は負けた。福島の名前の方が世界に冠たる響きを持ちます」は、広島・長崎の犠牲を自らの立身種世の踏み台にし、さらに福島の人々を踏み台にして、世界的な有名人になろうとする山下の狂気を表している。広島・長崎に研究拠点を持つ放影研の人々や、広島・長崎に赤十字原爆病院を有する日赤病院関係者たち、そして何よりも広島・長崎の被爆者と犠牲者の遺族の人々はこの発言をどう思っただろうか。 放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE)と国際原子力機関(IAEA) 土肥院長は放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE=ハイケア)の会長でもある。HICAREは、広島赤十字・原爆病院、広島大学医学部、広島大学病院、放射線影響研究所、広島原爆障害対策協議会、広島原爆被爆者援護事業団が協力し、広島市、広島県、広島県医師会、広島市医師会が協力して世界の被災地で直接治療にあたる医療従事者等に対する指導、技術支援と医療情報の提供を効果的に行うため、地元広島における総合調整窓口としての機能を果たそうというもの。 チェルノブイリ原発事故の過小評価に絡んだ組織かと私も疑いの目で見ていたが、実際にはチェルノブイリの被害をかなり深刻に受け止めている記述がホームページのQ&Aにも掲載されている。 原爆被爆者治療の実績等を活用して、セミパラチンスク、チェルノブイリ等の現地被曝者のどのようなことがわかるのですか? 広島での原爆被爆者の治療経験から、セミパラチンスク、チェルノブイリの被曝者に血液の異常やリンパ球の染色体異常、甲状腺の機能異常等が、放射線を被曝した早期から起こっている可能性が考えられます。チェルノブイリ原発事故当日の労働者や、事故処理に入った人達には白血病発生も心配されましたし、周辺住民には、甲状腺癌の発生が心配されました。事実、チェルノブイリでは放射線感受性の高い小児に、事故後4年という早期から甲状腺癌が発生することが分かってきました。 HICAREは、近年、ベラルーシやカザフスタンから研修を希望する医師や技師を受け入れている。11月23日・24日ののHICARE国際シンポでも低線量被曝のリスク問題に注目が集まり、地元の医師らからも、軽視できないとの認識が高まってきている。 HICAREとIAEA=国際原子力機関(IAEA)との接近の評価 ところで、土肥院長の「特別発言」のなかでも国際原子力機関(IAEA)との協力関係強化についてふれられていた。国際原子力機関(IAEA)は、原発の推進機関だといわれている。そのIAEAとHICAREが接近しているということはどういうことなのか。少なくない人が疑念を抱くことだろう。確かに、国際原子力機関(IAEA)は、基本的には原発推進の組織で、放射線防護の際も国際的な原発利益共同体の「既得権益」保護のために動いているはずだ。けれども、今回の福島第一原発で、国際原子力機関(IAEA)は、住民の被曝の加害者だったのかどうか。 報道によれば、国際原子力機関(IAEA)は、原発事故後の3月30日、福島県飯舘村についても、独自の基準では避難が必要だとして日本側に避難勧告を出すよう促したという。今回の原発事故で、国際原子力機関(IAEA)が果たそうとした役割を率直に評価する脱原発派の人が少なくないのはこのためだ。 HICAREのような人道的な機関の場合、原発をつくったのは原発を許した国民の責任だから、万が一事故が起き、多くの人々が被曝しても救援しないということはできない。原発事故の人的被害を軽減することが、結果的に賠償金額の圧縮に繋がり、原発共同体の利益になったとしても、人命と人々の健康を守ることを最優先するべきだ。 神谷研二・広大原医研所長は低線量被曝リスク軽視派か? HICAREの役割と立場が理解できても、その役員の中に「御用学者」がいれば、脱原発派、低線量被曝リスク重視派の市民たちは、この組織を信用しないだろう。私も、実は、HICAREの役員のなかに、非常勤の福島県立医科大学副学長の神谷研二・広大原医研所長がいることを見つけて、HICAREを要注意のリサーチ対象にしてきた。 しかし、神谷研二・広大原医研所長が山下俊一と同じ「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」に選ばれた経緯は、広大原医研としていち早く福島県に医療チームを出したことに端を発するのであって、「100mSv以下なら大丈夫」論などをふりまいて福島県知事に取り入った低線量被曝リスク軽視派のリーダーともいうべき山下俊一とは全く違うものであることは、原発事故後に「御用学者情報」を集めていた脱原発派、低線量被曝リスク重視派の人々の間ではあまり知られていなかった。 神谷・広大原医研所長は、実はもともと低線量被曝リスク重視派なのだ。中国新聞の記事でも「低線量被曝が健康に及ぼす長期的な影響については十分に解明されておらず、少しでもリスクを減らすことが放射線防護の基本である。足元を見つめ、科学的な調査に基づいて住民の健康を守る」との意思が明確に表明されている。 神谷・広大原医研所長の低線量被曝についてのあまりに慎重な説明の仕方がマスメディアの歪曲報道のなかで、歪められて「心配ない」「安心」といった発言だけが切り取られ、いつの間にか山下と同じ低線量被曝リスク軽視派のリーダーのひとりにされてしまっただけだ。 福島県民健康管理調査のゆくえ 広島赤十字・原爆病院の土肥院長も、福島県民の長期的な検診等の医療支援が必要だと強調していた。土肥院長は、IAEAのチェルノブイリ調査プロジェクトに同行し、かつてのABCCと同様、「調査すれども治療なし」だと現地住民から反発を受けたという。 土肥院長は、「被爆者が治療してほしいと思うのは当然だ」といい、放射線被曝事故の緊急被曝医療への体制確立の必要性を強調している。 福島県民健康管理調査には、HICAREに参加する放影研も広島大学も協力しており、広島大学からは神谷原医研所長、放影研からは児玉和紀主席研究員が「県民健康管理調査」検討委員会の委員として選ばれている。 放医研にも広大医学部にも疫学調査の際には、倫理審査を行う委員会が存在しており、個別に調査事業を受託した場合も倫理審査は受けている。ところが福島県民健康管理調査には、独立したチェック機関や「倫理審査委員会」はなく、問診票の調査と回収、分析に関してのみ、福島県立医科大学で倫理審査を済ませただけという杜撰な取り組みになっている。県民からも信頼されていないためか、6月下旬から先行実施している、高線量地域の飯舘村、浪江町、川俣町山木屋地区の約2万9千人からの回収率でさえ50%に達していないという。 報道によれば、福島県浪江、川俣、飯舘の住民約1730人が受けた外部被ばく線量は推計で平均1mSv強、最高約37ミリmSvだったことがこの県民健康管理調査の結果として福島県から発表されている。 放影研の児玉和紀主席研究員は、国際放射線防護委員会(ICRP)の「緊急時は20~100ミリシーベルト、緊急事故後の復旧時は1~20ミリシーベルト、平常時は1ミリシーベルト以下」という段階的な許容量引き下げの指針を紹介しており、「チェルノブイリでは、汚染地域に戻って暮らす人がいた。福島でも同じことが想定される。累積線量をしっかり測って、健康管理をしてあげないといけない」とも語っている。山下俊一の100mSv以下ならどんなに長い間被曝しても大丈夫とする楽観論には組みしていない。 「福島県民健康管理調査」は、そもそも低線量被曝リスク軽視の立場からスタートし、福島でずっと暮らしても安全であることを証明するために行われているものだ。 「福島県民健康管理調査」の迷走に、広島赤十字・原爆病院の土肥院長ら、原爆被爆者の疫学調査の難しさや目的の明確化、個人情報の管理やデータの医学者どうしでの共有化と活用の難しさを知る医学関係者の苛立ちも、尋常なものではないと思う。 低線量被曝リスク重視をステップに、内部被曝リスクの研究へ 放影研の広島での原発事故後初めての市民公開講座は210名の参加、研究員ひとりあたり30枚にも及ぶ質問用紙の回収という、かつてない盛り上がりのうちに終了した。 低線量被曝のリスクを軽視しないでほしいという市民の願いと放影研の研究者、運営側、地元医師会、HICARE等の関係者の低線量被曝リスク重視のスタンスがひとつになり、熱気に溢れた集まりでもあった。 放影研の大久保理事長は、研究員と市民との質疑応答の際に、特別に発言の機会を求め、「内部被曝リスクはないといったことはない。内部被曝リスクも視野に入れて研 究を続ける」と明言した。放影研やHICAREが国民が望む研究や被曝緊急医療活動をすすめるように、日常的に活動内容をチエックし、意見交換していくことがとても重要な時期になっている。 放影研・中村典主任研究員はレジュメでも口頭でも放射線被曝のリスクについて心配なことがあれば、「放影研に電話でして下さい。科学者にはそういう質問に答える社会的責務があると思うので、遠慮はいりません」と明記、明言していた。 低線量被曝のリスクを軽視しない医学者や医師を応援する気持ちがある市民は、率直に放影研やHICARE等にその意思を伝えよう。 激励先 広島赤十字・原爆病院の土肥院長が会長を務める・放射線被曝者医療国際協力推進協議会(HICARE) hicare1991@hicare.jp 放射線影響研究所 事務局 広報出版室 research-info@rerf.or.jp. なお、この記事で書けなかった逸話を14日配信のメールマガジンでお伝えします。お楽しみに。
「論」も愉しとは、故筑紫哲也氏の言葉である。 近ごろ「論」が浅くなっていると思いませんか。 その良し悪し、是非、正しいか違っているかを問う前に。 そうやってひとつの「論」の専制が起きる時、 失なわれるのは自由の気風。 そうならないために、もっと「論」を愉しみませんか。 ・・・・「論」を愉しむためには、いろいろな事を知っていた方が良いと自分は考える。沢山引き出しを持っていた方が、人生を愉しめるような気がする。
2011年12月12日月曜日
低線量被曝リスク軽視派にヒロシマの被ばく医療界のドン、広島赤十字・原爆病院長が宣戦布告
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