2010年3月26日金曜日

【足利事件】 録音テープ&判決趣旨

 菅家利和氏に対する森川大司・元検事の取調べ時の録音テープが公開され、2010.3.26の再審判決が出て「無罪」が確定した。

怒るというより呆れる思いなのだが、この備忘録の別の日付けにも書き記したのであるが、事件の報道の酷さにはあきれ返る。

===================================================

足利事件取り調べ録音テープ1 

 宇都宮地裁で21日開かれた足利事件再審公判で、再生された取り調べ時の録音テープの内容は次の通り。

 ▽1992年1月28日

 (ドアが開閉する音)

 森川検事 元気かい。テープをとるけど、いいかい? 嫌ならいいんだけど。

 菅家さん はい。

 森川 まあ、気にしないでやってくれ。今までずっと君に聞いてきた事件ていうのは、最初は、あの(松田)真実ちゃんの事件でしょう。

 菅家 はい。

 森川 それから、これまではずっと(長谷部)有美ちゃん、いや、じゃなかった。ごめん。(福島)万弥ちゃんの事件を聞いてきたんだよね。

 菅家 はい。

 森川 それで警察の方からは。

 菅家 はい。

 森川 まあ有美ちゃんの事件もね。

 菅家 はい。

 森川 事情を聴かれているところと思うけど。

 菅家 はい。

 森川 僕からはまだ聞いてなかったよね。

 菅家 はい。

 森川 今日は、ちょっとね。

 菅家 はい。

 森川 あのう有美ちゃんの事件ね。

 菅家 はい。

 森川 まあ、僕からはまだ聞いていない。

 菅家 はい。

 森川 初めて聞くんだけども。有美ちゃんの事件についてね。

 菅家 はい。

 森川 えーどんな事件なのか聞かせてもらおうかなと。

 菅家 はい。

 森川 思っているわけなんだよな。

 菅家 はい。

 森川 まあ、そんなことで来たんだけど。

 菅家 はい。

 森川 どうだい、体調は?

 菅家 そんなによくないです。体が痛みます。

 森川 どの辺が?

 菅家 全体ですね。肩とか。足も疲れます。

 森川 風呂は?

 菅家 今日入りました。

 森川 風呂入ったような顔してるからさ。体はだんだん痛くなるの?

 菅家 じっとしてるせいもありますけど、何というんでしょう。毎日動いていた方がいいと思うんですけど。

 森川 正座したりしてるの。

 菅家 正座したり。

 森川 風邪は。今寒くない。

 菅家 そんなに寒くないですね。

 森川 ストーブ入れたからね。そのうち暖まるでしょう。風邪ってわけじゃないの。鼻がムズムズするとかせきとか。

 菅家 せきは出ません。

 森川 まあ最初にね。

 菅家 はい。

 森川 聞いたようにあの有美ちゃんの事件のことね。

 菅家 はい。

 森川 あのちょっと聞いときたい。

 菅家 はい。

 森川 それを聞きたいと思っているの。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃんの事件って、大体分かる。

 菅家 ええ、大体。

 森川 どんな事件か?

 菅家 やはり…。

 森川 うん。

 菅家 この間、警察にも話したんですけど、パチンコ屋さんから。

 森川 うん。

 菅家 自転車ですね。

 森川 うん。

 菅家 それをあのー自転車で。

 森川 うん。

 菅家 連れて行って。

 森川 うん。

 菅家 それで、乗せたっていいますか。

 森川 うん。

 菅家 それで、あの走って。

 森川 走ったって、あの自転車の?

 菅家 はい。自転車の後ろですか。

 森川 後ろに? うん。

 菅家 乗せて行って。

 森川 うん。

 菅家 それから、毛野団地ですよね。団地の北側ですか。

 森川 うん。

 菅家 それを真っすぐ行きまして。

 森川 うん。

 菅家 それで真っすぐ行って突き当たったら右へ回りまして。

 森川 うん。

 菅家 右から、右に回りまして、その後。

 森川 うん。

 菅家 真っすぐ南へ行きまして。

 森川 うん。

 菅家 その後、旧50号ですね。

 森川 うん。

 菅家 そこを東に向かって。

 森川 うん。

 菅家 それで、その東に向かったら、すぐ左ですか。

 森川 うん。

 菅家 信号のあるそばを。左に曲がったと。

 森川 うん。

 菅家 まあ話したんですよね。

 森川 あっそう。

(沈黙・7秒)

 森川 有美ちゃんの事件も間違いないか。

 菅家 (沈黙・10秒)それで、この間は、やはり自分が、えー自転車へ乗せて。

 森川 うん。

 菅家 何て言うんですか、自転車から降りて。

 森川 うん。

 菅家 それで、手を引いて。

 森川 うん。

 菅家 それで、あの、田んぼですか。田んぼを、田んぼの中ですか。

 森川 うん。

 菅家 中へ、あの、連れて行って。

 森川 うん。

 菅家 そこ、そこで、まあ寝たとかあるいは言ったんですけど。

 森川 うん。

 菅家 それで、少しして。

 森川 うん。

 菅家 今度は、何て言うんですか、その埋めてあった場所が。

 森川 うん。

 菅家 もう、ちょっと上なんですよね。

 森川 ああ、そうか。うん。埋めてあった場所って、死体が見つかった場所っていうの?

 菅家 場所ですね、はい。

 森川 ふーん。なるほど。それと場所を教えてもらったわけ?

 菅家 はい。

 森川 ふーん。それで、どうだったの。

 菅家 ちょっと、首をかしげたといいますか。

 森川 首をかしげた? どういうところで首をかしげたんだ?

 菅家 自分が思っていた場所じゃなくて。

 森川 思ってた場所じゃない?

 菅家 はい。

 森川 思ってた場所じゃないっていうのは? じゃあ、君はね、どういう風に思ったわけ?

 菅家 (沈黙・7秒)

 森川 思った通りには説明したわけかい?

 菅家 そうですね。

 森川 うーん。(沈黙・15秒)あのねえ、えーっと。(沈黙・15秒)まずこのね。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃんの事件についてね。

 菅家 はい。

 森川 警察でね。

 菅家 はい。

 森川 君がどんな調べを受けたのか、それからひとつ聞いていこうか。

 菅家 はい。

森川 一番最初にね。

 菅家 はい。

 森川 この有美ちゃんの事件について。

 菅家 はい。

 森川 警察で話した。

 菅家 はい。

 森川 まあ、簡単にでもいいからね。

 菅家 はい。

 森川 話をしたのはいつのころだろうか?

 菅家 えー。

 森川 一番最初は?

 菅家 一番初めにしたのは…、たしか12月の20日ころだと思います。

 森川 去年のね。

 菅家 はい。

(沈黙・5秒)

 森川 どんなふうに話した?

 菅家 真実ちゃんですか?

 森川 うん。

 菅家 真実ちゃんの事件が、終わりまして。

 森川 それは、あの調べが終わった?

 菅家 はい。調べが終わった。

 森川 起訴される前?

 菅家 前だと思いますけど。

(沈黙・5秒)

 森川 最初の事件の調べが終わってから?

 菅家 はい。

 森川 どんな状況だったの?

 菅家 うーん、やはり、その、有美ちゃんを。

 森川 うん。

 菅家 パチンコ屋さんですか?

 森川 うん。

 菅家 パチンコ屋さんから乗せまして、それで、やはりあの毛野小学校の裏から。

 森川 うん。

 菅家 北側ですね、それから毛野団地ですか。団地の北側を真っすぐ行きまして、それで、やはりあのー真っすぐ行ったとこに丁字路ですね。

 森川 うん。

 菅家 丁字路に当たって、右に回りまして。

 森川 うん。

 菅家 それでずっと行って旧50号ですね。50号を少し、東側ですか。

 森川 うん。

 菅家 東に出て、それで、細い道ですね。

 森川 うん。

 菅家 細い道をずーっと、やはり北側と思いますけど。その道を行きまして。

 森川 うん。

 菅家 それで自転車でそこで降りて。

 森川 うん。

 菅家 それで、まあ、手を引いて、あの歩いて行ったということをまあ話しはしたんですけど。

 森川 うーん。じゃあ、そういうような話をした理由なんだけど。

 菅家 はい。

 森川 真実ちゃんの調べが終わった後ね。

 菅家 はい。

 森川 どういうきっかけでそういうふうな話をね。するようになったんだろう?

 菅家 やはり、まあ足利の事件ですか?

 森川 うん。

 菅家 あの三つありましたね。

 森川 うん。

 菅家 一つは真実ちゃんでした、ですけども、その。

 森川 うん。

 菅家 真実ちゃんの。

 森川 うん。

 菅家 真実ちゃんのことが終わりまして。

 森川 うん。

 菅家 その後。

 森川 うん。

 菅家 そのほかに二つありましたよね。

 森川 うん。

 菅家 その、話がきっかけっていいますか。

(沈黙・8秒)

 森川 それがきっかけっていうのは、どういうことなの? 警察の方からなんか聞かれたわけ?

 菅家 はい。

 森川 どういうふうに聞かれた?

 菅家 やはり、その二つのー。

 森川 うん。

 菅家 菅家じゃないかとかと。

 森川 うん。

 菅家 そういうふうに言われまして。

 森川 あーそう。

 菅家 はい。

 森川 うーん。

 菅家 でも自分は。

 森川 うん。

 菅家 違うと話したんですよね。

 森川 そう。うん。

 菅家 はい。

 森川 それで。

 菅家 それで、まあ、あの、何ですか警察は怖いですしね。

 森川 何が?

 菅家 やはり何て言うんでしょうか、自分でもよく分からないんですけど。

 森川 うん。

(沈黙・7秒)

 森川 あのー、調べを受けた、その時ね。

 菅家 はい。

 森川 うーん。調べを受けて。

 菅家 はい。

 森川 どれくらいしてから話した? この有美ちゃんの事件。

 菅家 朝、朝言われたんですけど。

(沈黙・4秒)

 森川 うん。

(沈黙・8秒)

 菅家 前、前の日まで確か、真実ちゃんの事件の話をしてたと思うんですけども。

 森川 うん。

 菅家 それで、翌、翌日ですね。

 森川 うん。

 菅家 翌日に、あ、あの…万弥ちゃんとか有美ちゃんですよね。

 森川 うん。

 菅家 その話があの出たんですよね。

 森川 うん。うん。だからさ。

 菅家 はい。

 森川 これ話したのが朝なんでしょう?

 菅家 はい。

 森川 あのー、調べ始まってから。

 菅家 はい。

 森川 どれくらいたってから、有美ちゃんの事件について君が話したのかなと思うんだけども。

 菅家 (沈黙・10秒)ちょっと分からないんですけど、(沈黙・5秒)20~30分じゃないかなとは思うんですけど。

 森川 20~30分ね。ふーん。

 菅家 そのくらいのもんですけど。

 森川 うん。

 菅家 はっきり覚えてないんですけど。

 森川 ああ、そう。うん。最初は、やってないって言ったの?

 菅家 はい。

 森川 だけど話したんだね?

 菅家 はい。

 森川 うん。(沈黙・5秒)えー、何て話したの? その時は。

 菅家 (沈黙・13秒)

 森川 つまりね。

 菅家 はい。

 森川 あのう、最初やってないと、いうふうに言ったんでしょ。

 菅家 はい。

 森川 言ったのが、うーん、こうだったっていうふうに話したわけでしょ? 後でね。

 菅家 はい。

 森川 だから、そのー最初は否定したのに。

 菅家 はい。

 森川 うーん。話したきっかけね。どういうところで。あるいは、どんなことを考えてね、話したのかなって。

 菅家 (沈黙・15秒)やはり(沈黙・12秒)自分で何だかもう訳が分からないんですけども。

 森川 うーん。訳が分からない?

 菅家 はい。訳が分かんなく、まあ…。やったとか何とか話したと思うんですけど。

 森川 うん。訳が分かんなくて何で?

 菅家 (沈黙・50秒)

 森川 つまりさあ。

 菅家 はい。

 森川 君がどんなことを考えてたかなと思うんだけどね、どんな気分になって話したのかなと思うんだけどね。どうだったのかな?

 菅家 (沈黙・45秒)うーん、うーん。

 森川 うーん。うん。表現できないか?

 菅家 はい。ちょっと、ですね。

 森川 何かやっぱりこう、きっかけがあって、気持ちが変わるわけよ。

 菅家 何か強引な感じがしたので。

 森川 強引って? 以前にね、有美ちゃんの事件だけじゃなくて万弥ちゃんの事件も話をして。どっち先に話をしたの。

 菅家 その二つですよね。一緒に言われた。

 森川 君はどっちから話したの?

 菅家 万弥ちゃんの方を先に…。

 森川 あぁ、そう。

(沈黙・30秒)

 森川 じゃあね。この有美ちゃんの事件でね。

(沈黙・12秒)

 森川 目を伏せないでね。

 菅家 (沈黙・12秒)(はなをすするような音)

 森川 実際には、君がやった事件なの?

 菅家 (沈黙・10秒)

 森川 本当のところは?

 菅家 本当のところはやってないです。

 森川 やってない? (沈黙・5秒)やってないならやってないで別に考えなくてもいいんじゃない? やってないのに、やったって話した? そういうことなんだね。なぜ? (沈黙約30秒)なぜそんな話をしたんだろう? やってないのにやったって言ったんだろうか?

 菅家 (沈黙)やはり(沈黙)警察の方で。

 森川 うん。

 菅家 分かっているんだとか。話しちゃえよとか。そういうふうに言われまして。

 森川 話しちゃえと言われて…。だけどさあ。最初真実ちゃんの事件。一番最初に捕まったでしょう。一番最初に捕まった真実ちゃんの事件は、その通りなのかな?

 菅家 (沈黙・15秒)

 森川 これは、その通りなの? はっきり言って。

 菅家 (沈黙)

 森川 どうした?

 菅家 (沈黙)

 森川 どうしたんだよ。うん?

 森川 一番最初のね、最初に捕まった真実ちゃんの事件はその通りなの? 今からだともうおととしになるかな?

 森川 間違いないの?

 菅家 (沈黙)

 森川 間違いない? それは。

 菅家 (沈黙・5秒)

 森川 どうしたの?

 菅家 (沈黙・8秒)

 森川 どうしたの。それ間違いないの?

 菅家 (沈黙・15秒)

 森川 あのね、正直に話してもらって(聴き取れず)

 森川 有美ちゃん事件は違うのか?

 森川 今工事中でね。雑音が入って。

 森川 僕はどっちでもいい。本当のことを知りたいと、思っているわけ。君からどんな答えが出てこようが驚きもしない。君はやってないの? 僕の言ってる意味、分かるね? 本当のことを知りたいと言ってるだけであって、今まで話したことが正しいんだというのなら、その通り話してもらえればいいし。正直に話してもらいたい。

 森川 有美ちゃん事件っていうのは君がやったの? やってないの?

 菅家 やってません。

 森川 やってない…。で、真実ちゃん事件は?

 森川 有美ちゃんの事件でやってないのに、やったと言ったのはなぜだろう?

 森川 うん。

 菅家 ごめんなさい。

 森川 どうしたんだ?

 森川 本当は、やったのか君。うん? うん?

 菅家 うー(泣き声のよう)。

 森川 本当は君がやったのか? 有美ちゃんの事件も。

 菅家 (聞き取れず)(泣き声)(沈黙・55秒)

 森川 やっぱりそう。有美ちゃんの事件やったの? そうだね。

 菅家 (聞き取れず)(すすり泣き)

 森川 僕が言い方が悪かったのかな。さっきね、やってないと言ったよね。何で? 助かるんじゃないかと思ったの?

 菅家 (沈黙・4秒)

 森川 なんか君をね。違うことを言うようにね、仕向けたのかもしれないしね、僕の言葉に乗っかっちゃったのかもしれないからさあ。え。あえてうそをつかしたんだったら僕の方が悪いんだけども、僕にも悪い所があるんだけども。

 菅家 (沈黙・8秒)

 森川 なに、さっきの僕の言葉で助かるんじゃないかという気持ちがあったわけ。違うの?

 菅家 (すすり泣く)

 森川 どうしたの?

 菅家 (すすり泣き)

 森川 思い出すのも嫌だった?

 菅家 はーっ。(息を大きく吐いた後、すすり泣く)

 森川 前にも一度こんなことがあったね。覚えてる? 警察の留置場にいる時ね

 菅家 はい。(沈黙15秒)

 森川 罪が重なると重くなるから、助かるもんなら助かりたいなんて気持ちになったかな? いや、なってもいいんだよ。それは誰だって、そういう気持ちになるしね。それとも別の理由があったのかな、どっちなの?

 菅家 (沈黙・10秒)

 森川 率直に言って。

 菅家 (沈黙・65秒)

 森川 ん。

 菅家 口下手で、よく分からないんですけど。

 森川 うん、うん。どうしたんだよ。

 菅家 (すすり泣きながら)えーと。

 森川 うん。

 菅家 (沈黙・35秒)

 森川 じゃあさあ、ねえ。逆に聞くけども。

 菅家 はい。

 森川 いったんね、自分が、自分がやってないというふうに話したのにね。何でまたごめんなさいなんて言ってさあ、認める気になったの。

 菅家 (沈黙・5秒)

 森川 うーん。僕はね。そんときは、そのーまあ、間違いないじゃあないかとかね。

 菅家 はい。

 森川 認めない、とかいう言い方は、全然してなくて。

 菅家 はい。

 森川 警察が怖かったのかとか。

 菅家 はい。

 森川 ふっふ、そんなことを話をねえ。

 菅家 はい。

 森川 なんか聞いたつもりなんだけど。

 菅家 はい。はい。

 森川 何で、さっき、また認めよう、認めようって気になったの?

 菅家 えーと警察の方でですね、その通りだと話してて。

 森川 うん。(沈黙・3秒)やっぱりうそつけない?

 菅家 はい。

(沈黙・5秒)

 森川 有美ちゃんの事件のずっと前の万弥ちゃんの事件のことだけど。

 菅家 はい。

 森川 前にも聞いたことあるように思うけど。

 菅家 はい。

 森川 何年前の事件か忘れたって。

 菅家 はい。

 森川 えー、君が僕に話してくれただろう。

 菅家 はい。

 森川 調べの刑事さんからね、それでやっと勇気が出て僕に話してくれたわけだ。

 菅家 はい。

 森川 そういうことだったの?

 菅家 はい。

 森川 もう一つ聞くけど。あのー万弥ちゃんの事件ね。神社のところでえーと誘って。墓地へ連れて行ったやつ。

 菅家 はい。

 森川 あれも間違いない?

 菅家 自分でそういうふうに話しましたけど。

 森川 ん。話しましたけどって何、間違いないの? ついでに聞いとくよ、うん、この際だから。

 菅家 …。

 森川 ん。何、うなずいているのは、間違いないの?

 菅家 はい。そうです。

 森川 うん。いやこれもね、今までどんなこと話したか。こだわりなくね。率直に聞きたいと思ってね。

 菅家 はい。

 森川 今まで話したこと、警察で話したことでも、僕に話したことでもいいよ。

 菅家 はい。

 森川 事実と違うことを話しているんだったらね。違うと言ってもらえばいいわけだし。事実の通りだったらその通りだと言えばいいし。僕も正直な、って言うか、本当のことを知りたい。

 菅家 (沈黙・10秒)

 森川 本当のことを、知りたい、ねえ。

 菅家 (沈黙・20秒)

 森川 どうだい。この万弥ちゃんの話、もう一回聞こうか?ね。

 菅家 (沈黙・7秒)

 森川 正直な所で答えてもらいたい。ね。

 菅家 (沈黙・45秒)

 森川 なかなか返事が出てこないのは、返事がないわけか。

 菅家 (沈黙・50秒)

 森川 どうした?

 菅家 (沈黙・2秒)

 森川 どうした?

 菅家 自分です。

 森川 やった?

 菅家 はい。

 森川 そういうふうに言うのに勇気がいるか。

 菅家 (沈黙・4秒)

 森川 うん?(沈黙・4秒)うーん、ていうのはね。

 菅家 はい。

 森川 君の口からね。

 菅家 はい。

 森川 すぐには返事が出てこない。

 菅家 はい。

 森川 今まで、万弥ちゃん事件のことについて僕もいろいろ聞いているでしょう。

 菅家 はい。

 森川 君からも調書を取ってるし。

 菅家 はい。

 森川 警察でも何通も調書とってもらって。

 菅家 はい。

 森川 僕も君から調書を取って。いや、その通りですと、ほら、すぐに答えが返ってもいいように思うんだけどね。そうですと、今答えるのに、だいぶ間があるわけで。

 菅家 (沈黙・3秒)

 森川 やっぱり迷うね。(沈黙・4秒)勇気がいるかな。こうやって話すの。どうだい。

 菅家 はい。

 森川 そうなんだね。

 菅家 ええ。

 森川 ほかには?

 菅家 (沈黙)

 森川 あるいは自分がどんな白い目で見られるかという…。

 菅家 それもありますけど、何と言うんですか。初め白い目で見られるとか思ったんですね。

 森川 うん。じゃあついでに、ついでじゃないか。警察の調べ官は?

 菅家 橋本さん。

 森川 それと。

 菅家 茂串刑事もいたんですかね。

 森川 ほかにもいなかった?

 菅家 うーん。

 森川 芳村さんていなかった?

 菅家 あっ、いました。

 森川 ほかには?

 菅家 (沈黙)

 森川 橋本さんと芳村さんと茂串さん、3人一緒ってのは?

 菅家 なかったです。

 森川 ほとんど橋本さんと茂串さんだった。いろいろ質問するでしょ? 橋本さんがやってた? 茂串さんがやってた?

 菅家 ほとんど橋本さんですね。

 森川 茂串さんがやることは?

 菅家 ほとんどなかったですね。

 森川 橋本さんの印象は?

 菅家 自分は好きですよ。

 森川 え? 遠慮なく。

 菅家 遠慮とかじゃなくて、自分の権利とか分かってる感じで。

 森川 顔は、ぎょろ目でいかつい感じだろう?

 菅家 でも、違うんですよね。みんなも好きなんですよね。

 森川 みんなって誰? 看守?

 菅家 はい。

 森川 橋本さんに怖いって言うかと思ったんだけど。

 菅家 初めは怖かったですね。声も大きいし、太いですから。でも、橋本さんの気持ちが分かってくるんですよね。

 森川 ほー。優しいなって?

 菅家 はい。

 森川 いつごろから?

 菅家 12月ですかね。

 森川 君が捕まったころから言えばね、あの時はどうだった?

 菅家 怖かったですね。

 森川 真実ちゃんの事件でね、運動公園とか現場行って説明してくれたよね。あの時はどう?

 菅家 ガンと言われたとしても、橋本さんの気持ちは何となく自分で分かるんですよね。何て言うんですか。優しい気持ちですか。

 森川 あったかみがな。

 菅家 あったかみがありますね。感じたんですよね。

 森川 茂串さん、それと芳村さんているよね。どうだい、比べるのはあれだけど。

 菅家 やはり橋本さんが一番いいですね。その次が茂串さんですかね。

 森川 おれと比較して、どっちがどうって言えるかい? ちょっと言いにくいかな。

 菅家 いや、怖いというイメージはないですけど。

 森川 しないかい?

 菅家 はい。優しい感じがします。

 森川 橋本さんと違うだろ?

 菅家 違いますけど、そういう感じがあります。

 森川 そういうって分かんねぇな。おれにごますらなくたっていいんだぞ。調べ官が何回も聞いてるよね。『こうだろ』とか、押し付けてくることは…。

 菅家 なかったですね。やったとか、やらないとか、そういう部分では言われました。

 森川 その部分ではね。それは逮捕される前だろ? 認めた時はどうだった?

 菅家 たばこ勧めてくれたりとか。

 森川 おれは勧めないけどな。いずれ留置場から拘置所に移さないといけないから、そういうことになるんだよね。拘置所ではたばこ吸えないことになってるんだよね。警察も留置場では吸えないわけだよね。調べ官の裁量でやっているわけで。へっへっへ。真実ちゃんの事件について聞くつもりだったんだけど、話が脱線しちゃって…。やってませんていう気持ちと、やりましたっていう気持ちって違うでしょ?

 菅家 はい。

 森川 ね。(沈黙10秒)やってないと話すときはどこか心にわだかまりない?

 菅家 (小さな声で)はい…。

 森川 (大きな声で)あぁ、ある! ふっふっふ。あのね、真実ちゃんの事件で聞くけどね、警察で話したのが12月20日ごろでしょ。その後ね、真実ちゃんの事件で12月に何回も聴かれた?

 菅家 えーと、1、2回聴かれたと思いますけど。

 森川 ふーん(沈黙10秒)。調書とったのかな?

 菅家 忘れました。

 森川 自分で何か書いた?

 菅家 地図書いたと思います。

 森川 どんな地図? 経路?

 菅家 だと思います。

 森川 あの地図は自分で書いたの? いや、書いたのは分かるんだけど、自分の記憶で書いたの?

 菅家 はい。

 森川 12月、有美ちゃんの事件では調書はどのくらいとられてるかな? 覚えてない?

 菅家 ちょっと覚えてないですけど。

 森川 1月になってから、真実ちゃんのこと聴かれたのはいつが最初だろう?

 菅家 (沈黙20秒)10…(再び沈黙)

 森川 あのね、万弥ちゃんの事件でね、勾留されてたでしょ? これでね、万弥ちゃんの事件での拘置が切れるということで釈放しますって伝えられたでしょ?

 菅家 はい。

 森川 これが15日だと思うんだよ。成人の日なんだけどね。

 森川 拘置所にいると休日の感覚がなくなって、思い出すのは難しいかもしれないけど。

 菅家 はあ。

 森川 釈放が伝えられる前に、有美ちゃんの事件で事情を聴かれたことは?

 菅家 えーっと…。

 森川 はっきりしないかな。僕が調書を取ったのは1月11日。真実ちゃんの事件。それが終わってから12日も警察で。調書は12日が最後じゃなかったっけ。これは真実ちゃんの事件で。

 菅家 …。

 森川 まあ、いいや。僕が調書を取る前に、有美ちゃんの事件で警察を案内したところがあったでしょ。あれがいつだったか覚えている?

 菅家 たしか20日だと思うですけど。

 森川 20日ごろ…。ふん、よし。そうするとね、現場へ案内する前に有美ちゃん事件に関して、警察から地図とか写真とか見せられた? たとえばここから死体があがったとか、有美ちゃんがいなくなったのはこのパチンコ屋とか。

 菅家 ここにあったぐらいは教わったんですけど。

 森川 いつ?

 菅家 20日。

 森川 現場へ行く前にもいろいろ見せられて聴かれるでしょ。

 菅家 はい。…見てないような気もする。

 森川 見てない? あ、そう。地図を見せてもらってない?

 菅家 はい。見せてもらってないです。

 森川 現場へ行く前に君が地図を書いたりして説明しているでしょ。

 菅家 はい。

 森川 穴を掘って埋めたって、警察から聞いたの?

 菅家 はい。

 森川 穴の深さ、大きさを説明したでしょ。

 菅家 はい。

 森川 記憶だけで説明した?

 菅家 はい。

 森川 穴掘って埋めたけど足が入りきらなかったって説明したよね。

 菅家 はい。

 森川 これは記憶?

 菅家 はい。

 森川 それから有美ちゃんの服がどんなだったか、警察から見せられたでしょ。

 菅家 はい。

 森川 いつごろ見せられたか分かる?

 菅家 現場へ行く前ですね。

 森川 確認の調書を取られた?

 菅家 はい。

 森川 見せてもらったことが、調書に書かれていないことはない?

 菅家 それはないと思います。

 森川 見せられる前に、どんな服だったか説明した?

 菅家 してないと思います。あ、したかな。セーターとスカート、それから…長い、足先からずっと、こういう…。

 森川 タイツ?

 菅家 タイツって言うんですかね。名前は分からないですけど。

 森川 それも説明した?

 菅家 はい、しました。

 森川 見せられる前に?

 菅家 はい。

 森川 見せられる前の説明で、警察からヒントは?

 菅家 ないです。

 森川 自分の記憶だけ?

 菅家 はい。

 森川 自分の記憶で説明した後に、これは有美ちゃんの服だよと言って見せられた?

 菅家 そうですね。

 森川 ふーん。真実ちゃんの事件でも同じように説明したよね。

 菅家 はい。

 森川 自分の記憶で? 説明を求められて?

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃんの事件で、前に新聞で見たことある?

 菅家 見たと思います。

 森川 いつごろ? 何新聞?

 菅家 読売だと思います。

 森川 いつごろ?

 菅家 見つかった後だと思いますけど。

 森川 いなくなった時の新聞は?

 菅家 見たと思います。

 森川 それは自宅で?

 菅家 家だったと思います。

 森川 警察でね、有美ちゃん事件の聴取で、自分ではっきりしないのに言っちゃったみたいな、当てずっぽうで言ってしまったとか。

 菅家 うーん…。

 森川 本当に自分はやっていないのにこういうふうに説明したことはある? 言わないと怒られそうだからとか。

 菅家 それはないと思いますけど。

 森川 ない、ふーん。警察では調書はどう書いてた? 正面に座って?

 菅家 はい。右側で書いていました。

 森川 じゃあ僕と同じやり方か。君がいないところで調書を書かれたことはあるかな?

 菅家 それはないと思います。

 森川 書き終わった後は読んで聞かされた?

 菅家 はい。

 森川 読み聞かされてから名前を書いたわけ?

 菅家 はい。

 森川 調書で違うと思い当たることはないかな? 有美ちゃん事件で。引っかかりがあるかな?

 菅家 そうじゃないですけど。ないと思います。

 森川 (調書は)君が話したことが文書になっている?

 菅家 と、思います。

 森川 気が重いか。何でかな、忘れているから? 嫌な事件だから? 思い出すのが嫌か。いろんな理由があるからな。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃん事件を起こしたのは、記憶では何年ぐらい前かな? 7、8年前か。

 菅家 はい。

 森川 季節はいつごろかな? 秋から冬といえば、寒くなって着る物も夏の物ではなくなる? 雪のシーズンとは違う。

 菅家 はい。

 森川 足利は雪はないけどね。暖かいから。この事件の日、仕事か、休みの日か記憶はある?

 菅家 行ったと思います。

 森川 仕事にね。

 菅家 はい。

 森川 何時から何時まで?

 菅家 月曜から金曜までは5時まで。

 森川 土曜の運行は?

 菅家 終わると1時、大体1時。

 森川 そのころは1人で運行していた?

 菅家 はい。

 森川 仕事の日というけど、月曜から金曜? 土曜日なのかな?

 菅家 土曜日だと思います。

 森川 1時くらいに仕事を終わって。

 菅家 帰りました。その後、外に出た。

 森川 当時のパチンコ店の名前、忘れたけどね。そこに行くつもりだったの?

 菅家 もうちょっと東へ行けば、何かパチンコ屋があるかなと思って。

 森川 目的のパチンコ屋があって、目指して行ったら、パチンコ屋に。

 菅家 そうなんですけど。

 森川 どこに行くつもりだったの。

 菅家 どこの…。

 森川 君が遊んだことのあるパチンコ屋というと…。(有美ちゃんに)駐車場のどの辺で会った?

 菅家 西側ですね。

 森川 君は西側から走っていくわけでしょ。

 森川 駐車場で何してた。

 菅家 (聞き取れず)

 森川 どこで。

 菅家 どこと言いますか。

(沈黙・約7秒)

 森川 そのとき使った自転車ね…色は?

 菅家 青。

 森川 青。今もあるやつ。真実ちゃんの事件で使ったのと同じ?

 菅家 違います。

 森川 真実ちゃんだよ。万弥ちゃんじゃないよ。頭、混乱してるかな。これね。有美ちゃん事件とか、大体何時ごろ…。

 菅家 5時ごろ…。運んで…。

 森川 5時ごろは何で。

 菅家 時計は持ってなかったんですけど、そろそろ夕方ですから。マルノウチで粘っていたんですけど。

 森川 ふーん、あぁ、そう。スカートは? ズボン?

 菅家 スカートだと思います。

 森川 何色のスカートだ。色が分からなければ、暗い色? 明るい色? タイツの色は分かる?

 菅家 肌色だと思いますけど。

 森川 はいているように見える感じだね。

 菅家 (聞き取れず)

 森川 肌色というよりもっと…。

 菅家 (聞き取れず)

 森川 上、何着ていたか分かる? セーターとかさ。

 菅家 (聞き取れず)

 森川 分かんなかった。ただセーター着たみたいな感じ。

 森川 有美ちゃんの履物はどんなものか分かるかい? サンダルとか。

 菅家 (聞き取れず)

 森川 色分かる? 何か、物を持ってたよね。例えばお人形さんで遊んでいるとか。おもちゃ持っていたとか。

 菅家 記憶にない。

 森川 記憶にない。

 森川 4月20日以降、これこうだった、ああだったとか思い出したことある?

(沈黙・約6秒)

 森川 ない?
 ▽1992年2月7日

 森川 今日はね、あのー万弥ちゃんの事件と、有美ちゃんの事件を聞きに来たんだけど、いいかい?

 菅家 はい

 森川 それから、言いたくなかったら言わなくてもいいっていう。

 菅家 はい。

 森川 権利があるのは分かってるよね。

 菅家 はい。

 森川 やっぱりね、これだけの重大な事件だからね。一つ一つ、重大な事件だから。

 菅家 はい。

 森川 やっぱり自分で、あのー、反省するんだと。自分の意思で償うんだという覚悟で話してもらいたい。

 菅家 はい。

 森川 真実ちゃん事件ね、何が怖かった?

 菅家 そのー、警察の人が来まして。ぞーっとした感じがしますし。

 森川 どういう風にぞっとしたの?

 菅家 その時は、自分(聞き取れず)警察に来まして、怖くて。

 森川 怖かった?

 菅家 はい。

 森川 でも痛めつけたとか。

 菅家 そういうのはないです。

 森川 自分が将来出られなくなるとか。

 菅家 半分半分というか。

 森川 死刑になるとかは。

 菅家 あんまり考えてなかったけど、少しは考えました。

 森川 真実ちゃんのこと話さなかったでしょ?

 菅家 初め、警察に行った時に。いろいろ証拠があるって言われて。

 森川 つまりね、認めようって気持ちになった時ね。

 菅家 警察は(聞き取れず)強いですから、勢いに負けたというか。

 森川 勢いに負けた(笑う)。怒られたの?

 菅家 怒られたというわけじゃ。

 森川 かなり怒られたの?

 菅家 怒られたとかじゃないです。

 森川 有美ちゃんや万弥ちゃんの事件のことを話していたよね? 真人間になるという気持ちになれとか、同じようなこと言われたの?

 菅家 言われたと思います。

 森川 なんで話そうと思ったの? かわいそうな気持ちになったとか。

 菅家 かわいそうというのと…。

 (沈黙20秒)

 森川 3日前かな、僕がいろいろ話して、怖かったかな? 夜眠れなかったとかはない?

 菅家 3人のことですか、考えました。それから両親ですか、手を合わせながら。

 森川 なるほどね。自分を(聞き取れず)という気持ちになってもらいたい。これだけのことをしたんだから。そしてこれまでのことを思い出して、その子たちが浮かばれるようにしてもらいたい。やってるなら、やってる。やってないなら、やってないと。やってるのにやってないとか、あるいはやってないのにやってると言うとか、いずれにしても浮かばれない。真実を話してくれるのが一番(聞き取れず)。

 (はなをすする音)

 森川 僕の言っていること分かる? 分からないなら、言ってもらえばいいんだけど、分かった?

 (はなをすする音。沈黙20秒)

 森川 あの、起訴されて、真実ちゃんの事件でも構わないし、万弥ちゃんの事件でも有美ちゃんの事件でもいいんだけど、今まで説明した中で、前言ったことと違う訂正しておきたいこととかある? 本当はこれが違うとか。

 菅家 自分としては(聞き取れず)。

 森川 そうかい。えーと、君のね衣類の中でね、緑色のトレーナーだったかな、白い線の入った。

 菅家 はい。

 森川 あれはいつごろ買ったものかな?

 菅家 日にちは…。

 森川 日にちまではっきりしなくていいけど、何年とか、どこで買ったとか。自分で買ったの?

 菅家 あれは自分で買ったと思います。

 森川 いつごろ買ったの?

 菅家 10年か11年と思いますけど。

 森川 保育園に勤める前? 後?

 菅家 前だと思いますけど。

 森川 万弥ちゃんの事件あるでしょ? あの前に買ったかな? 後に買ったかな?

 菅家 前だと思いますけど。

 森川 万弥ちゃん事件の前? そうするとね…。

(沈黙10秒)

 菅家 万弥ちゃんの事件の後のような気がしますね。

 森川 あ、そう。君はトレーナーは何着くらい持ってる?

 菅家 えーと。

 森川 だいたいでいいからさ。

 菅家 5着くらいだと思いますけど。

 森川 あ、そう。ふーん。処分したのは何着くらい?

 菅家 一つか、二つくらい。

(沈黙30秒)

 森川 うーん、前にも話したと思うけれども。

 菅家 はい。

 森川 君がその、女の子をね、見つけるとき、どの事件もね、みんな女の子しゃがんでるんだよね。

 菅家 やはり…。

 森川 ちょっと違うんじゃない? 違うのはないかい?

(沈黙・8秒)

 菅家 しゃがんでたような気がするんですよね、みんな。

 森川 じゃあね、有美ちゃんのことね、ちょっと思い出してもらいたい。

 森川 分かるかな? 有美ちゃんの事件って言って、分かるかな? どの子だったかね。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃんね、連れ出す前のことなんだけど、誰かと遊んでいたでしょう? これだけ。もうそれ以上のことは僕はもう言わない。誰かと遊んでいたでしょう? 君がどうしても思い出せないんじゃないかなという気がするからね、うん、それ以上のことは僕もう言わない。(沈黙・6秒)それだけ言っとく。

 (沈黙・4秒)

 森川 よく思い出してもらいたい。それが誰であるか、どういう人であるか、ね。僕の口からはね、言わないでおくけど。

 (沈黙・5秒)

 森川 そしてね。

 菅家 はい。

 森川 まあ、その次だからすぐ分かるだろうけど、遊んでいるところを連れ出した、という状況はないだろうか? 誰かと遊んでいたところを。

(沈黙・4秒)

 菅家 もしかしたら、駐車場で、女の人がなんか、まあ、いたような気もするんですけども。

 森川 それからね。

 菅家 はい。

 森川 考え、もう一回考えてもらいたいのは、声かけたね、かけ方が、またあの声のかけ方がね、今まで君が説明したのとね、したとおりだったのかどうかね。もうちょっと別のことがなかったのか、君がいきなりこう駐車、自転車でね、そば行って、声かけたんだって言うけど、もうちょっと別のいきさつがなかったかどうか?

 菅家 別の。

 森川 うん、そこを思い出してもらいたい。

 菅家 はー(ため息)(沈黙5秒)そのことは分かんないです。

 森川 うん、だからね、だからね、これと関係してくるから、いいかい。

 菅家 はい。

 森川 誰かと遊んでいなかったかなと聞いている。誰かというのが大人か子どもかね、あるいは男か女かね、どんなことをしていたかね、それは僕は一切言わない。

(沈黙7秒)

 菅家 遊んでいたとすれば、女の、女の子だと思うんですけど。

 森川 女の子だと思う。

 菅家 はい。

 森川 うん、どんな子が、君、少し、その遊んでいた情景っていうかねえ、それが少し記憶に残ってるかな?

 (沈黙1分37秒)

 森川 あのね。

 菅家 はい。

 森川 その女の人っていうのね、遊んでいたとしたら女の人っていうようなことね、いうんだけども、その女の人っていうのは少し、そういうイメージが残っているわけなのかな?

 菅家 はー(ため息)(沈黙25秒)その人が駐車場の方へいた、駐車場ですか?

 森川 うーん…女の人が1人? 2人?

 菅家 1人のような気がしたんですけど。

 森川 駐車場?

 菅家 はい。

 森川 駐車場っていうのは、あのー、あれ? 駐車場の方っていうのは、あのー、パチンコ店の建物の、この西側の方でしょう?

 菅家 はい。そうです。

 森川 うん。西側の方っていうのは、有美ちゃんがいたところ? 違うの?

 菅家 えっと有美ちゃんがいた、いたところだと思うんですけど。

 森川 有美ちゃんがいた側か。

 菅家 はい。

 森川 ふーん、1人?

 菅家 確か、1人だと思ったんですけど。

 森川 うーん、女の人っていうのは、子ども? 大人?

 菅家 うーん、大人のような感じ。

 森川 大人?

 菅家 だと思うんですけど。

 森川 うん、何か遊んでたという感じはしなかった?

 (沈黙7秒)

 森川 どうだろうか?

 菅家 (沈黙36秒)うーん、駄目だなあ。

 森川 うん、思い出さないっていうのはね、あのー、有美ちゃんをね、見つけたときのことなんだけども、有美ちゃんがここにいたとかね、こういうふうにしてたってことで君が今まで話してくれてるでしょう?

 菅家 はい。

 森川 あれは記憶にあるんだろうかな? そのような情景が、ね、頭に焼きついているんだろうかな。それともね、まあこうだったんじゃないかっていうようなね、ある程度想像が入ってるんだろうか?

 菅家 (沈黙4秒)なんか自分としては。

 森川 うん。

 菅家 初めに有美ちゃんが1人でいたような気がしたんですよね。

 森川 うーん。ただね、声はそうなんだけどね、あのー、1人でいたかどうか、あるいはしゃがんでいたのかどうかね。 菅家 はい。

 森川 細かく聞くと、君からそういう話は出ないけど、北側の道を東へ走って国道50号へ出て、さらに東へ走って(聞き取れず)、左のほうへ曲がっていって(聞き取れず)、そういったところで抱き締めて、騒いだから手で絞めたと。その後、いたずらして、それから穴掘って埋めたと。そしたら足がつかえたので掘り増しした。こういう話なんだね。

 菅家 はい。

 森川 連れて行った情景は、君はよく話してくれる。

 菅家 はい。

 森川 連れて行った時のことを聴くと「駐車場」と。

 菅家 はい。

 森川 しかし有美ちゃんが駐車場に1人でしゃがんでいたのは本当かなと。有美ちゃんが遊んでいたのをこっちは知っているの。遊んでいるんだったら分かる。

 (沈黙)

 森川 君の説明は「しゃがんでいた」となるもんだから、本当に有美ちゃんがしゃがんでいた光景が君の頭にあるのか、そこまではないのか、想像の部分もあるのか。

 菅家 自分が通り掛かった時は、女の子がしゃがんでいた感じがして。

 森川 感じってのがよく分からないんだけど、記憶なのかな、どうなのかな。

 菅家 やはり、その時の…。

 森川 しゃがんで、じっとしていたわけ?

 菅家 しゃがんで、何をやっていたかは、そういうのはちょっと分かんないですけど。

 森川 さっき言った、誘おうとしたら女の人が一緒にいたと。女の人は記憶にあるの?

 菅家 女の人は分かんないですけど、西の方へ歩いて行った気がする。

 森川 少し離れたところ?

 菅家 少し離れたところだと思います。

 森川 どのくらい? 何メートル? 10メートルぐらい?

 菅家 10メートルぐらいあったと思いますけど。

 森川 一緒に遊んでいる感じだった?

 菅家 その時は分かんなかったですけど。

 森川 一緒に遊んでいた?

 菅家 遊んでいたというのは、自分は見なかったですけど。

 森川 一緒に遊んでいたら、人が一緒に、というのは、そばという意味じゃないよ。走り回っていても構わないし。

 菅家 分かんなかったです。

 森川 じゃあね、有美ちゃんがしゃがんだ場面と、そこで声をかけた場面は一致するの?

 菅家 ああ、これは、はい。

 森川 有美ちゃんに声を掛けた場所なんだけどね。

 菅家 (沈黙)

 森川 声を掛けた時に誰かいなかった?

 菅家 んー。(沈黙)

 森川 あのね、前から言っているけど、想像したりしないでね。何年もたって記憶は薄くなって、ところどころしか覚えていないこともよくあるからね。話の筋道が違うとかね。そういうこともあるからね。

 菅家 はい。

 森川 自転車に乗った場面と声を掛けた場所を勘違いしていないかな。

 菅家 同じだと思います。

 森川 同じ…。あのね。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃんはほかの子と比べると人懐こさは?

 菅家 よく分からないですけど。ちょっと分からないですけど。活発というか、そういうのはないと思いますけど。

 森川 どっちかというとほかの子は活発?

 菅家 大体同じような感じだと思います。

 森川 同じような感じ(笑う)。

 菅家 はい。

 森川 あのね。

 菅家 はい。

 森川 ちょっとね、誘いに乗りやすいことはあった? いや大体ね、ほかの事件でも子どもを連れ去るときは道具を使ったり、誘いに乗りやすい言葉を掛けたりするわけ。普通に考えてみても、自転車で回ろうというだけでついていくとは考えにくいんだよね。

 菅家 (沈黙)

 森川 君がね。そばに自転車を止めて、ぐらいじゃついていかないんじゃないかと。子どもがどういう性格かと考えてみるんだけど。

 菅家 (沈黙)かわいい子だとは思うんですけど。

 森川 それはそうなんだよ。君をね。

 菅家 はい。

 森川 どっかで買い物してない?

 菅家 買い物ですか?してません。向こうへ行って帰ったときは買ったと思うんですが。

 森川 事件の終わった後だね。その前。

 菅家 買ってないです。

 森川 はっきり否定しているのかな。

 菅家 自分は買ってないと思います。

 森川 買っていない(念を押す感じ)。

 菅家 はい。

 森川 (せき払いをする)

 菅家 (沈黙)

 森川 あのね。

 菅家 はい。

 森川 誰かに見られたという意識はないの?

 菅家 えーっと、話し掛けて、その時はなかったような気がするんですけど。

 森川 思い出してほしいんだけど、有美ちゃんを連れ出す場所、自転車に乗せる場所、それが全部同じなのか。

 菅家 自分は、やはり(聞き取れず)。

 森川 ん?誰かに見られてるっていう意識はない?

 菅家 意識はなかったですね。

 森川 じゃあね、有美ちゃんの事件で一番覚えているところは?

 菅家 パチンコ屋の駐車場で、自分が西から来たときですかね。

 森川 ほかには?

 菅家 (聞き取れず)

 森川 さっきから、全体の中で一番はどういう場面を覚えているのかを…。声を掛けた状況、言葉を掛けた状況がぼんやりしているんだ。自転車にね、有美ちゃんが乗ってたって記憶はあるの?

 菅家 はい。スーパーの脇をずーっと行きました。

 森川 その記憶ははっきりしているわけね。

 菅家 自分はそうだと思ってますけど。

 (ノックの音。長い沈黙)

 森川 状況は覚えているのか? はっきりしているか?

 (約45秒沈黙)

 森川 駐車場でも道路でも構わないけど、有美ちゃん以外に声掛けてない?

 菅家 掛けてません。西の方から真っすぐ来まして、それまでは声は掛けていません。

 森川 掛けてない…。それからね、君ね、何で埋めちゃったの? 分かんないの、それ? 万弥ちゃんの事件だって一緒なんだけどね。

 菅家 車とかが多いですから。

 森川 そうじゃなくて、放り投げればいいんじゃないの? 埋めないで。なぜ?

 菅家 (沈黙20秒)ちょっと分かんない…。

 森川 分かんないって、やってしまったなら言うしかない。やった本人しか分からないんだから。そこは君しか説明できないんだよな。

 菅家 あれが分かんないんじゃないかなと思いまして。

 森川 とにかく人に見つからないようにって感じ?

 菅家 はい。

 森川 確かに埋めちゃったわけだよね? 1年以上見つからなかったわけだよ。(沈黙50秒)どうしてだろうね? ふっふっふ。

 森川 あのね、穴に入れるよね。そのときは靴履いてた? 履いてなかった?

 菅家 うーん

 森川 足引っ掛けたんでしょ? その時は履いてたの?

 菅家 覚えてないです。

 森川 覚えてない? 記憶にない? 穴に放ったっていう記憶はあるんだろ?

 菅家 はい。

 森川 (沈黙10秒)それからね。

 菅家 はい。

 森川 有美ちゃん、何で服を脱がせなかった? いたずらしたって言うけど、何でだい? そこを聞きたいんだな。

 菅家 自分はそんな感情がなくなってしまったというか。

 森川 何でなくなった?

 菅家 寒かったというか…

 森川 寒くても関係ないんじゃないか?何かほかにね、やろうとしてたのか、気分を損ねる何かがあったんじゃないかと思って。まだ思い出せないかい? ちょっと考えといてもらえないか。万弥ちゃんとか真実ちゃんの方が着ているものが薄かったというのもあるかもしれないけど、それだけじゃ説明しきれないんだよな。

 菅家 途中までそういう気持ちだったんですけど…。

 森川 あのね、この現場から帰る時、どのぐらい時間がかかった?

 菅家 40分ぐらいだったと思いますけど。

 森川 あのね、有美ちゃんの時、穴掘っている時、人が来ないかと思わなかった?

 菅家 そういう気はしたんですけど、いなかったんで。

 森川 人が見なかったからいいんだよ。見たら大変なんだよ。そんなの人に見られたら大変だ。すぐ捕まっちゃうよね。心配しなかった?

 菅家 心配はしました。

 森川 はっは。穴掘った時、すぐそばに有美ちゃんの死体があったわけ?

 菅家 はい。

 森川 あ、そう、あともう一つ。どんな服を着ていたの?

 菅家 トレーナーだと思います。グレーと言いましたけど、警察にはグリーンと話しましたけど。考えてみますと。

 森川 ブルー。どんな感じ? 紺? 紺までは行かない? 明るい感じ?

 菅家 (聞き取れず)

 森川 水色ってほどではない?

 菅家 はい。

 森川 紺に近い?

 菅家 紺ではないです。

 森川 トレーナーはどうした?

 菅家 (聞き取れず)。汚れまして、要らないと思いまして、焼却炉に持って行きまして、燃やして。

 菅家 それよりも捨てた方が良いと思いまして。

 森川 そっか。上は?

 菅家 上は捨てたと思うんですけど。

 森川 何色?

 菅家 上は…。

 森川 カーディガンではなくて?

 菅家 カーディガンを着ていたと思います。

 森川 カーディガンが上か?

 菅家 上です。

 森川 下は?

 菅家 セーターを着ていたと思います。

 森川 セーター。何色?

 菅家 ブルーだと思います。

 森川 まだある?

 菅家 多分もうないと思います。

 森川 何を着ていたとかイメージは思い出せる? これは違うとか、これはそうかもしれないとか。

 (沈黙)

 森川 サングラスは持っているかい?

 菅家 一つだけ持ってます。

 森川 どこで買った?

 菅家 館林で。

 森川 館林。いつごろ?

 菅家 5年前ぐらいだと思います。

 森川 どこに勤務していた?

 菅家 保育園だと思います。

 森川 何で買った?

 菅家 色が茶で、中に度が入っていて、夏でも着けられ、人と同じように着けられると思いまして。

 森川 使っていた。勤務の時は?

 菅家 バスの時は使っていました。

 森川 パチンコの時は?

 菅家 これの方が多いですね。

 森川 有美ちゃんの事件の時は?

 菅家 今のこれですね。

 森川 サングラスは?

 菅家 使ってません。

 森川 サングラスはどんなのかな?

 菅家 色は茶色です。

 森川 (せき払い)じゃあ今日はこれぐらいで帰しちゃおうかな。君も食事だろうし。まだいた方がいいのかい?

 菅家 まだいた方が。

 森川 (笑い)おれだって忙しいんだよ。また来るからさ。な? このことを言ってくれたら思い出すってことをいろいろ調べとくから。じゃあ、また日を改めて。体大事にして。ちょっと待っててね。

(帰り支度のような物音)

 森川 はい、よし行くぞ。体気を付けてね。

 ▽1992年12月7日

 (ドアが開き、閉じる音)

 森川 こんにちは。しばらく。

 菅家 (笑う)

 森川 今日これからね、事情を聴こうかなと思って来たんだけどね。ちょっと太ったか?

 菅家 太りました。

 森川 今日、この通りね、録音テープ回しているんだけど、いいかい?

 (聞き取れず)

 森川 構わない?

 (沈黙)

 森川 あのね、えー、万弥ちゃんとか、有美ちゃんの事件ね、うーん、言われると分かるかな?

 菅家 はい。

 森川 うんと、分かるね。今裁判になっているのは真実ちゃんの事件ね。えー、一昨年の5月の事件ね。で、その前に万弥ちゃんの事件と有美ちゃんの事件があったわけだよね。えー、万弥ちゃんの事件はもう13年くらい前に、うん、もう13年経ったんだよね。でー、有美ちゃんの事件っていうのはもう8年前になるわけ。で、今日、あのー、僕がここへ来たのはね。

 菅家 はい。

 森川 あのー、君の捜査がね、今までね、「私がやりました」というね、調書とっているでしょ。そのことについてね、もう一回くらい聞こうかなと思ってね。本当に君がやったのかどうか、そこを聞きたいわけね。ね、僕は本当のことが知りたいわけね。本当に君がやったのか、もう一回確かめたくてね、来たわけ。だから、今までね、こういうこと言っていた、ああいうこと言っていたということにこだわらないで、今日はもう自由な気持ちで、楽な気持ちで話してもらいたいと、こう思っているわけ。ね。

 森川 本当にやったのなら、本当にやったということで構わない。やっていないんだったら、やっていないということで構わない。どちらでもいいんだけども。

 菅家 (沈黙19秒)本当言うと。

 森川 うん。

 菅家 いいですか。

 森川 いいよ。

 菅家 やってません。

 森川 やっていないの? どちらも? それとも片方だけ?

 菅家 どちらもです。

 森川 どっちもやっていない。

 菅家 はい。

 菅家 自分が…。

 森川 うん。

 菅家 警察ですか、昨年ですけども、確か、12月でした。12月の確か日曜日でした。その時、警察の人が来まして。自分は福居の和泉町ですか、そこにいました。

 森川 え? 福居の?

 菅家 福居の和泉町ですか、福居の和泉町に日曜日の朝いまして、それで自分が、寝間着姿ですか、寝間着姿でいまして、で、あの、玄関から入ってきまして、警察の人が、それで自分は寝間着姿でいました。

 森川 うん、それで、うん。

 菅家 警察の人が来て「今日何しに来たか分かっているな」と言われたんです。

 森川 うん。

 菅家 それで自分…、分かんなかったんです。(震えるような声・沈黙6秒)。

 森川 うん。それで?

 菅家 うーん、自分も何が何だか分かんなくて。

 森川 うん。

 菅家 首を…かしげたんですよね。

 森川 うん。

 菅家 何が何だか分からなくて、何だろうかなと思ったんです。

 森川 はい。

 菅家 「何しに来たか分かっているな」と言われましたから、で、自分は分かんなかったんです。

 森川 うん、それで?

 菅家 で、写真を。真実ちゃんですか、真実ちゃんの写真を見せられまして。なんていうんですか、パチンコ屋さんですか、パチンコ屋さんの前に看板が置いてあるんです。

 森川 看板?

 菅家 はい。あのー、真実ちゃんのですか。

 森川 真実ちゃんの。

 菅家 写真ですか。

 森川 看板というのは、なに、この人を見かけなかったかという?

 菅家 そうです。

 森川 ふーん。

 菅家 看板が、看板に真実ちゃんの写真ですか、張ってあった…張ってあったのと同じだったんですよね。

 森川 それで?

 菅家 この子、パチンコ屋さんの前に張ってあった写真と同じだなと思いました。

 菅家 それで、その日は夜中まで自分はやっていない、やっていないと言いました。それで、もう…、何て言うんですか、あのー、夜中までやっていないって自分は言ってましたから、自分自身、これ以上、10日でも、20日でもやっていない、やっていないと言ってますと、なんか、もしかして殴られたり、けられたりするんじゃないかと思いました。それで自分がやったと話したんです。(涙声)

 森川 夜中になって?

 菅家 はい?

 森川 夜中に。

 菅家 そうです。それが(12月)1日すぎだと思いました…。

 森川 それで?

 菅家 それでその日に、逮捕っていうんですか…、されました。

 森川 逮捕されたのは、夜中?

 菅家 そうです。(涙声)

 森川 それでどうなったわけ?

 菅家 それで…、次の日から、そのー、自分、調べられたんですけど。(沈黙・12秒)

 森川 うん、それで? それで調べられたよね。それからどうなった?

 菅家 それから…、渡良瀬川ですね…。

 森川 うん?

 菅家 渡良瀬川ですか。あそこへ行って。河川敷ですか、あそこへ行ったり、それから…、その下の渡良瀬の河川敷から降りて行きまして、あの、真実ちゃんが、ここへいたんだということを教わりました。

 森川 うん、説明したね。

 菅家 (沈黙・4秒)

 森川 それで?

 菅家 それで…、あのー、なんだか自分でもよく分からなくて、河川敷ずっと歩いてきまして、下へ、下へ降りてきまして、草場ですか、あそこ行って、警察の人とみんなで行ったんです。去年のあの時は草とかなかったと思うんですよね。それなのに、もう、その真実ちゃんですか、その子がいた場所といいますか、分からなかったんです。(沈黙・5秒)

 森川 うん、それで?

 菅家 (沈黙・10秒)で、自分はその子がどこに、あのー、いたか分からなくて、それで警察からここにいたんだということを教わったわけです。(沈黙・6秒)

 森川 それで?

 菅家 でも、お線香をあげまして…(沈黙・15秒)それで…、お線香をあげてから警察へ、あのー、帰って行ったわけなんですけど、その前に、なんですか、あの、確か、山清ですか。

 森川 ヤマセ?

 菅家 はい、あのー、食料品の山清ですか、そこへ車で行きまして、ここで自分が品物を買ったり、コーヒーを買ったり、おにぎり買ったり、そこで買って、和泉町ですか、和泉町の家に行ったわけです。(沈黙・5秒)

 森川 和泉町?

 菅家 福居です。福居和泉町といいます。

 森川 うん、それで?

 菅家 んで、そこから、あの…、車の中から指出して、それで、あそこですということで…。

 森川 教えたねー。はい。

 菅家 それで戻りまして。(沈黙・18秒)

 森川 うん、それで?

 菅家 戻って、で、警察行きまして、それで、また調べですか。(沈黙・5秒)

 森川 また調べがあったんだね。

 菅家 はい。

 森川 要するに、こう現場をね、河川敷を案内したり、また、そのー、君が立ち寄ったというところね、案内して連れて行ったりして、その後また警察の調べが始まったということね。それで?

 菅家 それで…。(沈黙・7秒)それから、やはりなんて言うんですか、地図ですか、渡良瀬川の河川敷ですとか、それから、その真実ちゃんがいました場所ですね、そこまでの地図ですか、書いたりしました。

 森川 われわれ分かってるんだけどもね。

 菅家 調書ですか、それ…にも書いていたと思うんですけども。(沈黙・30秒)

 森川 うん、あのね。うーん、君がね。去年の12月、うーん捕まってからずっとこれまでの取り調べのいきさつというのは僕は全部、うーん分かってる。で、えー、現場へ案内した時も、僕、そばにいたかどうか覚えている? 去年の12月。

 菅家 12月ですか。

 森川 うーん。

 菅家 あの…、真実ちゃんの時、いたと思うんですけど。

 森川 うん、覚えている?

 菅家 はい、覚えてました。

 森川 うん、だから君の当時の説明は僕は分かっているんだ…。うーん。それは分かっているんだ、ね。それで、僕がね、今聞いているのはね、本当はどうだったのかっていうことでね、聞いているんだ。

 菅家 (沈黙・7秒)

 森川 ね、本当はどうだったというのはね、あのー、警察でね、どういう調べを受けたかっていうこと…じゃなくてね、実際に事件はどうだったのかということなんだよ。いいかい。

 菅家 はあ…。

 森川 いいかい。警察の調べでどんな調べを受けたかということじゃなくてね、実際は、事件は、実際の事件は、どうだったのか。君がどうかかわっているのかね、かかわっていないのかね、ね、そこを聞いているんだよ。分かる?

 菅家 はい。

 森川 ね、分かるね。

 菅家 分かります。あの実はですね、5月の12日にですよね、平成2(1990)年ですかね、その日、旭幼稚園ですか、終わったのが1時半、えーっと11時に出まして、それで終わったのが1時です。それから10…1時ごろ終わりまして、1時半ごろ、うちに帰ってきました。うちで即席ラーメンですか、それを食べました。それから…(沈黙・7秒)確か、2時半ごろでした。自分は確か2時半ごろ出たと思います。

 森川 自宅をね。

 菅家 2時半ごろ出まして、それであの、パチンコ屋さんですか、あそこへ寄っていくつもりでいたんです。こないだ警察ではやりましたと話しました。だけど、やっていないんです(涙声)。あの時間。

 森川 それで?

 菅家 それで自分は2時半ごろうちを出まして、それで真っすぐ田中橋を渡りまして、それから、山清食料品ですか…、あそこへ寄っていきました。

 森川 あっそうなの、ふーん。それから?

 菅家 それから、うち福居ですけども、福居の和泉町ですけども、あそこへ3時ちょっとすぎだったと思います。あそこへ行きまして、それで、窓開けましてそれで、掃除したわけです。ほこりがたまっていましたから、ほうきでテレビの周りとか、あのー、じゅうたんですとか。ベッドですか、ベッドの後ろとか掃いたんです。

 森川 あっそう。

 菅家 それで、あのー、5時すぎで、すぎだと思うんですけども、自分で明かりをつけまして、そうしますと大家さんの確か奥さんだと思うんですけども、あの人が毎日あそこ通るわけです。自分の借りている家の横ですか、あそこ、5時すぎになると、年中通ってます。朝も通ってました。5時すぎには明かりをつけておいて、テレビをつけとって、それでずっと見てました。

 森川 あー、それで?

 菅家 それで、あの夜遅く…ですか、11時ごろですけども、寝たのは11時ちょっとすぎです。

 森川 うん。あ、そうなの。

 菅家 それから次の日ですか、次の日にも、何時ころですか、10時ころですけども、うちを、あのー、福居の和泉町から出ました。それから、やはり田中橋を渡って行きました。そうしますと、右側ですか、東側なんですけども、あそこに人がいっぱいいました。それから中継車ですか、確か日本テレビの中継車だと思いました。その車が土手の上にありました。それで自分は何があったんだろうと思いまして。それで、こうやって、東側の方をこうやって見ながら、何か人がいっぱいいるけどもどうしたんだろうと思いました。でも自分は、そのまま、やはり、家富町の方へ帰って行ったんです。それでうちへ帰りまして、何か渡良瀬川であったのかいと聞いたんですけども、でも事情分かりません。

 森川 ふーん。ああそう? ふーん。

 菅家 これ本当です。

 森川 ふーん。

 菅家 本当今までうそをついていてすみませんでした。(泣きながら)(沈黙・8秒)

 森川 あのさー。

 菅家 はい。(泣きながら)

 森川 あのー、あれはどうなの? えー、万弥ちゃん事件の13年前のね。

 菅家 あれも全然関係ありません。

 森川 うーん、あれは関係ないの?

 菅家 はい、絶対にうそを言ってません。

 森川 ふーん。あのね、じゃあ、13年前のあの事件の時はどうだったか分かるかな? 8月の暑いころだと思うんだけど。ヤクモ神社というのは分かるかな?

 菅家 分かります。

 森川 その事件の時は、あちこち事件の案内したよね?

 菅家 はい。しました。

 森川 あの時はどうだったんだろうか?

 菅家 あの時は、50…

 森川 (昭和)54年。

 菅家 54年ですと、ホンジョウ保育園入りまして次の年なんですけど、マイクロバスを運転してただけですので、うち帰ったりしてました。54年はマイクロバスとお墓掃除してみたり。お昼になりますと、うちに食べに行ったりしてました。自分は食べに行ってた時ですか。12時50分ごろですけど、50分ごろ出まして、保育園の方では掃除をしてみたり、お墓の周りですか。あと門のとこですとか、あと園庭ですね。あそこで掃除したり、水をまいたりしてました。

 森川 ふーん。それで? 事件当時、どんなことしてたのか分かるかな?

 菅家 自分は早く起きるの好きなんですね。マラソンしてみたり、自転車で渡良瀬川の方に行ってみたり。自転車で回ってみたり、走ったりしてました。

 森川 それで?

 菅家 それで、それが終わりますと、朝ご飯食べまして、保育園に出たのは7時15分ごろでした。

 森川 それで?

 菅家 車が汚れてますと、タイヤをふいてみたりしてました。

 森川 それで?

 菅家 それで8時に出まして、終わったのが9時40分ごろです。それから作業着に着替えて、お墓の方に出てみたり、先生を手伝ったりしてました。子どもが使う引き出しが壊れてますと、くぎで修理してました。

 森川 それで?

 菅家 その仕事が終わりますと、一段落しますと、また違う仕事にかかるわけです。それを毎日のように繰り返してました。

 森川 あのね、事件当時のこと聞いているの分かるね?

 菅家 分かります。

 森川 覚えてないならいいんだけど。

 菅家 全部じゃないんですけど、8時に…

 森川 それはいいとして、その後のこと聞いてるんだよ。

 菅家 お墓の方に行って、葉っぱとか落ちてるんです。草も出てるんですよ。5月ごろになりますと、それを何ですか。のこぎりって言うんですか。かまで切ったり、先生が用事があったら呼びに来るんです。子どもが使っている机ですか。机の引き出しとかくぎ打ってくれませんかと言われたものですから。

 森川 午前中のこと?

 菅家 午前中ですね。

 森川 それから?

====================================================

2009年4月20日 再鑑定の結果、DNA型一致せず
2009年6月24日 再審決定、菅谷さん無罪確定へ
2009年9月21日 菅家さんが真相解明訴える
2009年10月5日 検事正が菅家さんに謝罪
2009年11月24日 取り調べテープ4本の証拠採用を決定
2009年12月24日 旧DNA型鑑定の「誤鑑定」をめぐって激しい攻防
2010年1月21日 取り調べ録音テープを法廷で再生 足利事件取り調べ録音テープ
録音テープ1、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012201000565.html
録音テープ2、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101000855.html
録音テープ3、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012201000712.html
録音テープ4、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001029.html
録音テープ5、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001034.html
録音テープ6、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001024.html
録音テープ7、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001069.html
録音テープ8、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001074.html
録音テープ9、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001084.html
録音テープ10、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001089.html
録音テープ11、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001114.html
録音テープ12、http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010012101001119.html
2010年1月22日 捜査段階で取り調べを担当した森川大司・元検事が出廷
2010年3月26日 菅家さんに無罪判決


【足利再審】判決要旨
2010.3.26 16:12


 「足利事件」の再審判決公判で、宇都宮地裁が26日言い渡した判決の要旨は以下の通り。
 主文 被告人は無罪。
 理由 第1 本件再審公判に至る経緯等
1 本件確定審が認定した事実は概要以下のとおりである。
 被告人は、(1)平成2年5月12日午後7時ころ、栃木県足利市伊勢南町9番地3所在のパチンコ店「ロッキー」の南側駐車場において、松田真実(当時4歳)が一人で遊んでいるのを認め、同児にわいせつな行為をする目的で同児を誘拐しようと企て、同児に対し、「自転車に乗るかい。」などと声をかけて自己が運転する自転車の後部荷台に乗車させ、自転車を運転して同所南側にある渡良瀬運動公園に入り、同公園内の道路を走行して、同公園内サッカー場西側角付近の三差路に自転車を止めて同児を降ろし、同所から30メートル余り南西にあり同公園からは見えにくい位置にある、同市岩井町字大柳下225番地付近の渡良瀬川河川敷内低水路護岸上まで、役600メートルにわたり同児を連行し、もって同児をわいせつの目的で誘拐した。
 (2)前記日時ころ、同児にわいせつ行為をすると騒がれて人に気づかれるおそれがあるからわいせつ行為をする前に同児を殺害しようと考え、同所において、同児の全面にしゃがみこむようにした上、殺意をもって、やにわにその頸部(けいぶ)を両手で強く絞めつけ、その場で同児を窒息死させて殺害した。
 (3)同児の死体を付近の草むらまで運んで全裸にし、同日午後7児30ころ、その死体を、前記殺害場所から直線距離にして南西役94メートル離れた渡良瀬川河川敷内の草むらに運んで捨て、もって死体を遺棄した。

2 確定審判決に至る経緯
 (1)確定審記録によると、本件の概要は以下のとおりである。
 ア 半袖下着の発見とDNA型鑑定の実施
 平成2年5月12日土曜日、本件被害者である松田真実(以下「被害者」という。)が、栃木県足利市伊勢南町9番地3所在のパチンコ店「ロッキー」付近で行方不明となり、翌13日午前10児20分ころ、ロッキーから約400メートル南方の渡良瀬川河川敷の草むらの中で、全裸の遺体となって発見された。付近の川底から、被害者が着用していた半袖下着(以下「本件半袖下着」という。)やパンツが発見された。

 警察庁科学警察研究所は、平成3年8月27日から同年11月25日まで、本件半袖下着に付着していた体液と、菅家氏がごみ集積所に息したポリ袋内にあったティッシュペーパーに付着していた体液について血液型鑑定およびいわゆるMCT118法によるDNA型の鑑定(以下「本件DNA型鑑定」という。)を行った。

 イ 本件DNA型鑑定の経過および結果
 DNA型鑑定は、細胞の核の中にある染色体内にある二重らせん構造をした遺伝子(DNA)のアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)という4つの塩基の配列が個人によって異なり、終生変わらないことを利用し、その塩基配列によって異同識別を行うものであり、MCT118法は、ヒトの第1染色体に位置し、ACGTの4つの塩基が16個を一単位として繰り返しているMCT118という部位を対象としてDNA鑑定を行うものである。

 具体的には、本件半袖下着の後部(背中側)表面の2カ所および菅家氏が遺留したティッシュペーパー2枚について、精子を確認し、蛋白(たんぱく)除去等の処理を行った後、MCT118プライマーでPCR増幅を行い、それをDNAラダーマーカー(123bpマーカー)とともにポリアクリルアミドゲルで電気泳動をかけて分離を行い染色処理をする方法で鑑定を行った。判定は、DNA解析装置を使って泳動写真のネガフィルムをコンピューターで画像解析し、それぞれの泳動距離から塩基配列の反復回数を算出するという方法で行った。
 その結果、各体液のDNA型はいずれも、MCT118型が16-26型で同型であった。また、血液型検査については、いずれもB型のLe(a-b+)型:分泌型となった。そして、このような血液型およびDNA型を持つ者の出現頻度は、鑑定時までに明らかになっていた出現頻度を基に計算すると、16型の出現頻度が4・7%、26型の出現頻度が8・9%で、16-26型の出現頻度は、0・83%と算出され、血液型の出現頻度も併せると、結局、日本人の中で0・1244%、つまり1000人中1・2人程度であると算出された。

 ウ 菅家氏の供述経過
 平成3年12月1日、警察官が菅家氏を任意同行して取り調べを行ったところ、菅家氏は当初本件への犯行を否認したものの、同日夜に至って、本件犯行を認めたため、翌2日未明、被害者に対する殺人、死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された。その後も、菅家氏は、本件各犯行をいずれも認め続け、同月21日、被害者に対するわいせつ誘拐、殺人、死体遺棄の各公訴事実について宇都宮地方裁判所に起訴された。

 菅家氏は、平成4年2月13日第1回公判期日において、本件各公訴事実をすべて認めたが、同年12月22日に行われた第6回公判期日の被告人質問中、本件各公訴事実について否認するに至った。しかし、平成5年1月28日に行われた第7回公判期日において、再び本件各公訴事実を認める旨が記載された上申書などが取り調べられた上、同期日における被告人質問において再び本件各公訴事実を認めるに至り、その後本件を認めたまま一度は結審した。しかし、その後菅家氏は、同年5月31日付の弁護人あての手紙で本件各公訴事実を否認するに至り、同年6月24日に行われた弁論再開後の第10回公判期日において、菅家氏は再び本件各公訴事実を全面的に否認する供述をし、最終陳述においても本件各公訴事実を否認して結審した。

 (2)平成5年7月7日に宣告された第一審判決は、(1)本件DNA型鑑定、(2)菅家氏の自白の2つを主な証拠とし、その他、遺留されていたパンツに付着していた陰毛と菅家氏の陰毛の形態が類似していたこと、菅家氏の性向、土地勘などの諸事情から、菅家氏が犯人であると認定した。そのうち、本件DNA型鑑定および菅家氏の自白について判決が述べるところは概要以下のとおりである。

 ア 本件DNA型鑑定について
 まず本件DNA型鑑定の証拠能力および信用性について、MCT118型による鑑定方法は歴史が浅く、その信頼性が社会一般により完全に承認されているとまではいまだ評価できないが、その鑑定方法は科学的な根拠に基づいており、警察庁科学警察研究所の専門的な知識と技術および経験を持った技官が適切な方法により行ったと認められ、その証拠能力は認められる。また、鑑定結果の信用性に疑問を差し挟むべき事情もうかがわれず、本件DNA型鑑定の結果は信用することができる。出現頻度に関する数値については、今後より多くのサンプルを分析することで多少の変動が生じる可能性はあるとしても、おおむね信用できる。

 イ 菅家氏の自白について
 菅家氏が、本件で取り調べを受けた当日に自白し、それ以降捜査段階において一貫して自白を維持していたこと、公判廷において、被害者を誘い出した目的などについて、捜査段階と一部異なる内容の供述をすることもありながら公判の最終段階に至るまで自白自体は維持していたこと、捜査官の強制や誘導などが行われたことをうかがわせる事情はないこと、弁護人に対してもほぼ一貫して事実を認めていたこと、自白内容自体についても自然で信用性に疑問を差し挟む事情が認められないことなどの事情から、菅家氏の自白は信用できる。

 (3)菅家氏は、1審判決を不服として、平成5年7月8日、東京高等裁判所に控訴の申し立てをしたが、平成8年5月9日に宣告された控訴審判決についても、1審判決とほど同様の認定がなされた。すなわち、まず、本件DNA型鑑定の証拠能力については、本件DNA型鑑定は、科学理論的、経験的な根拠を持っており、より優れたものが今後開発される余地はあるにしても、その手段、方法は、確立された、一定の信頼性のある、妥当なものと認められ、専門的知識と経験ある練達の技官によって行われたものであるから、証拠能力は認められる。また、本件DNA型鑑定の信用性については、123マーカーの型判定用指標としての適格性に問題が生じているとの主張に対し、後にMCT118法でDNA型鑑定を行う際、123マーカーではなくアレリック・マーカーが使用されることになったが、両者は相互対応が可能であり、123マーカーで判定された型番号自体がそのままMCT118部位の塩基配列の反復回数を示すものではないとしても、型判定作業が同一条件下で行われる限りなお異同識別に十分有効であるなどとして、その信用性は認められるとした。

 また、菅家氏の自白については、取り調べの当初、菅家氏が主張するような、菅家氏を小突くなどの言動が警察官にあったとしても、菅家氏の自白前後の様子や自白内容などに照らして任意性に影響する事情ではないとした上で、菅家氏自身、1審および控訴審の各公判廷において、捜査官の取り調べの際に誘導されたり、供述を押しつけられたりしたことはない旨述べていることなどを総合的に考慮し、取り調べに際し、捜査官が菅家氏に対して殊更誘導、強制を加えた事実は認められず、菅家氏の自白に任意性は認められるとした。また、信用性の点についても、内容の合理性や客観的事実との整合性、自白内容の変遷などに詳細な検討を加えた上で、菅家氏の自白は信用できるとした。

 (4)菅家氏は、平成8年5月9日、控訴審判決を不服として上告申し立てをしたが、最高裁判所は、平成12年7月17日、弁護人らの上告趣意はいずれも上告理由に当たらないとした上で、職権で、菅家氏が犯人であるとした原判決に、事実誤認、法令違反があるとは認められないとし、なお書において、要旨次のとおりの判断を示して、上告を棄却する決定をした。

 「本件で証拠の一つとして採用されたいわゆるMCT118DNA型鑑定は、その科学的原理が理論的正確性を有し、具体的な実施の方法も、その技術を習得した者により、科学的に信頼される方法で行われたと認められる。したがって、右鑑定の証拠価値ついては、その後の科学技術の発展により新たに解明された事項なども加味して慎重に検討されるべきであるが、なお、これを証拠として用いることが許されるとした原判断は相当である。」

 その後同決定に対する異議申し立ても棄却され、菅家氏を無期懲役とした1審判決が確定した。

3 再審開始決定の経緯
 (1)菅家氏は、平成14年12月25日、新たに行った菅家氏の毛髪のDNA型鑑定の結果と本件DNA型鑑定の結果とが異なる旨の検査報告書や、菅家氏の自白内容が客観的な被害者の死体所見と矛盾する旨の鑑定書など、菅家氏に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとして、宇都宮地方裁判所に対して再審請求を行った。しかし、同裁判所は、平成20年2月13日、これらの証拠はいずれも菅家氏に対して無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠には該当しないとして、前記再審請求を棄却する旨の決定をした。

 (2)菅家氏は、平成20年2月18日、この決定を不服として、東京高等裁判所に即時抗告の申し立てをした。同裁判所は、同年12月24日、前記検査報告書などの新証拠の内容、本件の証拠構造における本件DNA鑑定の重要性およびDNA型鑑定に関する著しい理論と技術の進展の状況などにかんがみ、菅家氏および本件半袖下着についてDNA型の再鑑定を行う旨の決定をした。具体的には、大阪医科大学教授鈴木廣一および筑波大学教授本田克也を鑑定人に命じ、本件半袖下着に付着していた体液と菅家氏から採取した血液などの各DNA型を明らかにして、それらが同一人に由来するか否かを判定させた。その結果、菅家氏のDNAの型と、本件半袖下着から検出された男性のDNAの型が一致しないことが判明した。そして、東京高等裁判所は、確定審の1審判決および控訴審判決が菅家氏を本件の犯人であると認定した根拠は、(1)前記各DNA型が一致したことと、(2)菅家氏の1審公判廷および捜査段階における自白供述が信用できることに集約でき、確定審判決が挙げるそれ以外の根拠は、菅家氏が本件の犯人であることと矛盾しないという証明力を持つに過ぎないとした上、鑑定により新たに判明した、DNA型が一致しないという前記事実からして、菅家氏が本件犯人ではない可能性が高いばかりか、菅家氏が有罪とされた根拠の一つである菅家氏の自白の信用性にも疑問を抱かせるに十分であり、結局、菅家氏が犯人であると認めるには合理的な疑いが生じているとして、平成21年6月23日、原決定を取り消した上、本件について再審を開始する旨の決定をした。

 以上のとおり、本件では、(1)DNA型鑑定、(2)菅家氏の自白の2つの証拠を重要な証拠として、菅家氏が犯人であると認定されたものであるから、以下、これらの証拠との関係で新証拠を踏まえて順に検討する。
第2DNA型鑑定について
1鈴木鑑定
 (1)鑑定の経過および結果
 前記のとおり、再審請求抗告審において、東京高等裁判所から鑑定人に命じられた鈴木教授は、平成21年1月23日から同年5月6日まで、本件半袖下着のうち、当時のDNA型鑑定の際に切り取られている数カ所の中心点をつないで左右に切り分けた形でこれを二分したものの一片について、これに付着する体液と菅家氏から採取した血液などの各DNA型の鑑定を行った。

 鈴木教授は、(1)多型性の程度、(2)検査の精度、(3)検査するDNA型の数、(4)総合的識別精度、(5)検査技術の水準、(6)検査時間、(7)検査コストなどを総合的に考えて作られた検査試薬と解析装置が、「商品」として世界中でほぼ独占的に販売され、「標準化」されていることを理由に、本件における鑑定の目的を達するのに現時点で最適な検査方法として、DNA型のうち、4個の塩基が単位となって反復しており、MCT118部位に比べ、その反復単位である塩基個数が短い、STRの検査を行った。具体的には、鑑定試料から抽出したDNAを市販の検査キット(Identifiler,MiniFiler,Yfiler,PowerPlexSE33)を使用してPCR増幅し、これをキャピラリー電気泳動法を用い、複数のSTRを自動化された解析装置で検査して型解析を行う方法で進められた。

 その結果、常染色体上の16個のSTRで14個の型が異なり、Y染色体上の16個のSTRで12個の型が異なっており、両試料はともに男性のものであるが、同一の男性には由来しないと判断された。