2009年8月5日水曜日

【安全保障】 安全保障と防衛力に関する懇談会

「安全保障と防衛力に関する懇談会」報告書の概要
 
第一章 新しい日本の安全保障戦略
第1節 安全保障戦略の理念と目標―日本がめざす世界
(1)日本の安全と繁栄の維持:日本の安全及び海外で活動する日本人の安全確保が必要。また、開かれた国際システムの下での経済活動や移動の自由を保障されることが必要。
(2)地域と世界の安定と繁栄の維持:日本の安全及び生活基盤を守るためにも、地域と世界の安定が必要。また、市場アクセス及び海上輸送路(シーレーン)の安全確保が必要。貿易相手国の安定も不可欠。
(3)自由で開かれた国際システムの維持:自由で民主的な価値が増進され、基本的人権が守られることも重要。日本も国際機関の機能強化や規範作りに積極的役割を果たしていく必要あり。また、武力による紛争解決を否定するという了解が世界に広まることが、日本人のめざす世界。

第2節 日本をとりまく安全保障環境
(1)基本趨勢
 経済、社会のグローバル化が進展した結果、主要国間の関係は安定し、大規模戦争の蓋然性は低下。その一方で、グローバル化は脅威の拡散の原因にもなっており、国際テロ、大量破壊兵器の拡散、海賊など安全保障上の脅威を含め、国境をまたぐ(トランスナショナルな)問題が増加。新興国の台頭などにより世界のパワーバランスに変化。
(2)グローバルな課題
①破綻国家・国際テロ・国際犯罪:冷戦後に増加した内戦型紛争が破綻国家を生み、その脆弱な統治が国際テロや国際犯罪などに「聖域」を与えている。
②大量破壊兵器・弾道ミサイル拡散の脅威:大量破壊兵器、中でも核の拡散は、国際安全保障を脅かす重大な要素。核兵器の拡散が核の連鎖を引き起こすおそれや、核兵器がテロ組織に渡ることも危惧される。
③米国の影響力の変化と国際公共財の不足:米国の絶対的な優位は今後も変わらないが、軍事的負担の増大や経済危機の影響で、米国の関与が縮小するおそれ。これまで米国が主導的に提供してきた国際公共財について、米国に加えて、EU諸国や日本など主要国が共同で提供する必要。
(3)日本周辺の安全保障環境
①北朝鮮:北朝鮮は核・ミサイル開発を継続しており、世界の平和と安全に対する脅威。日本にとっては、核・ミサイルに加え、特殊部隊による破壊工作も大きな脅威。北朝鮮の体制は先行き不透明であり、体制の崩壊の可能性。
②中国:日中間では経済協力にとどまらず、「戦略的互恵関係」を確立する努力が継続。一方、中国の軍事力の急速な増強は、その意図と規模が不透明なため、地域と日本にとっての懸念材料。
③ロシア:ロシアはG8のメンバーで、アジア太平洋地域の安全保障に影響を与え得るプレーヤー。その軍事力は、冷戦時代に比べ活動水準は大幅に下がっているが、その潜在能力は高い。
④アジア太平洋地域:アジア太平洋地域では、米国を軸にした2国間同盟の束が域内の安全と秩序を担保してきたが、地域安全保障枠組は依然として弱体。

第3節 多層協力的安全保障戦略
 日本の安全保障を確保するため、①日本自身の努力、②同盟国との協力、③地域における協力、④国際社会との協力という4つのアプローチを「多層的」に用いて、重層的に問題の解決にあたり、①日本の安全の確保、②脅威の発現の防止、③国際システムの維持・構築という3つの目標を実現する「多層協力的安全保障戦略」が必要。
(1)日本の安全―日本に対する直接的な脅威・問題への対応
種類も質も異なる様々な脅威・問題が存在。平時と有事の区別がつきにくく、事態の進展が早いという特色を踏まえ、事態にシームレスに対応することが必要。
・多機能弾力的防衛力の整備
・北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威に対する抑止力の維持
・米国との安全保障・防衛協力の強化
・北朝鮮の核・ミサイル開発の放棄を外交的に達成するための重層的な働きかけ
・国際犯罪・国際テロを制するための取締り活動
・離島・島嶼及び領海への侵入、大規模災害等に対する統合的なアプローチ
・情報機能の強化
・文民統制の強化
(2)脅威の発現の防止
 脅威の「種」に働きかけることにより、現実の脅威になるのを防ぐことが重要。
・アジア太平洋地域における米軍再編計画の着実な実施
・アジア太平洋地域における韓国や豪州等との協調・協力
・国際平和協力活動への積極的参加
・軍備管理レジームの強化及び核不拡散体制への積極的な貢献
・防衛交流等による周辺諸国との信頼醸成
・防衛力の実効性を高めつつ、外交力、経済力、文化の魅力など、日本のさまざまなパワーを組み合わせた「総合安全保障」
(3)国際システムの維持・構築
 国際システムを支え牽引してきた米国の影響力に変化が見られる現在、日本が健全な国際システムの維持・構築に努力することが重要。
・さまざまなアプローチを重層的に進めること
・国連安保理改革を含む国連機構改革等
・アジア太平洋地域における地域安全保障枠組の構築
・米国及び意思決定の核となる数カ国(コアグループ)との協力

第二章 日本の防衛力のあり方
第1節 防衛力の役割
①日本及び日本周辺における事態の抑止・実効的対処
 今後は、防衛力の「存在による抑止」(静的抑止)に加え、平素からの活動を通じた「運用による抑止」(動的抑止)を重視。自衛隊は事態の進展にシームレスに対応せねばならず、想定し得る以下の事態に実効的に対処可能な防衛力を着実に整備する必要。
ア 弾道ミサイルへの対応:抑止が最も重要。核抑止については米国に依存。その他の打撃力による抑止は主として米国に期待しつつ日本も作戦上の協働・協力を行う必要。ミサイル防衛による対処や被害局限も抑止の一環。重層的に構成される抑止を実効的に機能させるためには、日米の連携が重要。現在計画中のミサイル防衛システムの整備を着実に進めつつ、新型迎撃ミサイルの日米共同開発を促進すべき。敵基地攻撃能力を含む抑止力の向上については日米の役割分担を踏まえ、日本として適切な装備体系、運用方法、費用対効果を検討する必要。情報収集手段については、日米で相互補完できるような機能を構築すべき。
イ 特殊部隊、テロ等への対処:北朝鮮の特殊部隊や国際テロ組織による工作活動に対しては、警察機関と協力して兆候の察知と重要施設の防護、制圧などの対処が必要。
ウ 周辺海・空域及び離島・島嶼の安全確保:常続的警戒監視の実施と作戦能力の質的優位保持が必要。島嶼部への部隊の新たな配置を検討するとともに、緊急展開能力の向上を図るべき。
エ 大規模災害への対処等を通じた国民の安全・安心の基盤の確保
オ 本格的武力攻撃への備え
②地域的な環境・秩序のいっそうの安定化
ア 平素からの情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動により情報優越を確立。
イ アジア太平洋地域における防衛交流・協力の充実
ウ 地域安全保障枠組みの構築につながる多国間共同訓練等を適切に支援。
③グローバルな安全保障環境の改善
ア インド洋における海上阻止活動への支援を含む国際テロに対する取り組み  
イ 破綻国家への支援・国連平和維持活動への参加等
ウ 大量破壊兵器等の拡散を防ぐための取り組みに自衛隊を積極的に活用
エ NATOや欧州諸国などとの交流・協力を積極的に推進

第2節 新たな防衛力の機能と体制
(1)防衛体制構築の指針
 今日の防衛力は、多種多様な任務に従事可能な「多機能」性を持ち、突発的な危機にも迅速・的確に対処し得る「柔軟な」運用が可能なものへと発展すべき。自衛隊の体制改革に際しては、優先順位を明確にし、効率的な経費使用を行いつつ、防衛力の役割の拡大や即応性を考慮し、必要な水準と充足率を維持すべき。
(2)防衛力の機能発揮のための共通の要請
量よりも質に配意するとともに、ソフトウェアを重視し、より費用対効果の高い防衛力を構築していくべき。
(3)統合運用の強化と更なる統合の拡大
統合運用能力をいっそう高める必要。また、統合運用に資する教育訓練や部隊編成の手法を確立すべき。さらに、統合幕僚監部が作戦面からの優先順位を判断し、防衛力整備について意見具申する権限を持つことが必要。
(4)日米同盟の強化に資する防衛力整備
日本の防衛力を構築する際、米国との役割・任務の分担や日米間の相互運用性の向上の観点から常に確認することが重要。
(5)国際平和協力活動の強化のための体制整備
大規模かつ多様化したミッションに常時複数箇所、自衛隊の部隊を派遣することが可能な態勢を確保すべき。

第3節 防衛力を支える基盤
(1)人的基盤(少子化への対応など)
 少子化への対応として、女性自衛官の積極的な採用・登用、長期安定的な雇用形態への移行が必要。自衛官の階級・年齢構成の是正のため、曹クラスから幹部への部内登用の抑制的見直しや早期退職制度の導入、曹クラスの新たな俸給体系や階級の創設を検討。
(2)物的基盤(防衛生産・技術基盤)
維持・育成すべき防衛生産・技術基盤の明確化のため、個別戦闘の勝敗を決するような要素、秘匿を要する要素及び自国に基盤を保持しなければ戦力を発揮し得ない要素に着目した国産化の基準を設定。また、国際共同開発に積極的に踏み込むことが必要。
(3)社会的基盤(国民の支持と地域との協力)
 日本の安全保障政策の様々な側面に関して、広く国民の間で議論がなされるべきであり、そのための正確な情報提供が重要。自衛隊に対する国民の理解や支持、地域住民の協力は、防衛力を構成する重要な要素であることを踏まえ、バランスの取れた部隊配置が必要。

第三章 安全保障に関する基本方針の見直し
第1節 安全保障政策に関する指針について
「国防の基本方針」は策定から50年以上修正されず。また、「防衛政策の基本」とされてきた(ア)専守防衛、(イ)他国に脅威を与えるような軍事大国にならない、(ウ)文民統制を確保する、(エ)非核三原則、の4つの方針には「歯止め」としての意義はあったものの、「日本は何をするのか」についての説明としては不十分。「文民統制」や「軍事大国にならない」との方針は、引き続き重要だが、安全保障環境の変化により、世界の現状は、従来、「専守防衛」で想定していたものではなくなっている。
「安全保障政策の基本方針」を定め、内外に示すとともに、専守防衛など、日本の基本姿勢を表す概念についても今日の視点から検証すべき。

第2節 国際平和協力活動に関する方針・制度について
(1)国連PKO参加の現状
 国連PKOは、国家間紛争に対応する伝統的なものから、大規模・多機能型のものに変化し、参加5原則に該当しないケースが増加。このため、近年の日本の参加は低調だが、他のG8諸国並みの努力が必要。
(2)参加基準の見直し
 参加5原則と現国際平和協力法を改正すべき。政策的基準としては、正統性、安全確保、日本に相応しい能力発揮について評価し、日本の国益に合致するか否かを判断。
(3)国際平和協力活動に関する恒久法の制定
 国際平和協力により積極的に取り組むため、恒久法の早期制定が必要。
(4)国際平和協力に関する法的基盤の確立
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書の結論を強く支持。今後の法制度の中で活かされるよう期待。

第3節 弾道ミサイル攻撃への対応に関する方針について
(1)日米協力の重要性
 弾道ミサイル攻撃からの防衛には、報復的抑止力について米国に依存する一方、ミサイル迎撃や被害局限など、自らの役割を果たすべき。
(2)法的基盤の確立
①米国に向かうミサイルの迎撃:北朝鮮の弾道ミサイルは日米共通の脅威であり、米国に向かうミサイルの迎撃を可能とするため、集団的自衛権に関する解釈を見直すべき。
②米艦船の防護:弾道ミサイルへの対処に際し、自衛隊艦船が米艦船を防護できるよう、集団的自衛権に関する解釈の見直しも含めた適切な法制度の整備が必要。

第4節 武器輸出三原則等について
(1)武器輸出に関する今日の課題
 欧米諸国は、国際的な分業により先進的な技術や装備品を取得しようとしており、日本がこのような枠組に参加できない場合、国際的な技術の発展から取り残されるリスクが高まっている。また、米国からライセンスを受けて国内で生産する装備品等の米国への輸出を可能とすることは、日米協力の深化にもつながる。さらに、テロ対策に資する装備などの輸出は、日本の安全のためにも必要。
(2)武器輸出三原則等の修正
 武器輸出を律するための新たな政策方針を定めることが適切。方針策定までの間、個別の課題については、従来から行われてきた一部例外化により、早急に手当てすべき。
(3)武器輸出三原則等の例外化の範囲
 以下の案件は、厳格な管理が確保できることを前提に、武器輸出三原則等によらないこととすることが適当。
・国際的な共同研究開発・生産への参画
・民間レベルの先行的な共同技術開発や民間企業による他国の装備品開発・生産プログラムへの参画
・他国との共同研究開発・生産の成果の相手国から第三国への移転
・米国から受けたライセンス生産装備品等の米国への輸出、米国から第三国への移転
・弾道ミサイル防衛以外の米国との2国間共同研究開発・生産、テロ・海賊対策等への支援に係る案件

第5節 新たな安全保障戦略の基盤について
(1)官邸機能の強化
 現行制度の範囲で実施可能な官邸の司令塔機能強化に関する施策は早期に実施。安全保障に関する閣僚級会議体を支える恒常的な事務局創設についても引き続き検討すべき。
(2)情報機能と情報保全体制の強化
 各種情報収集基盤の強化・充実と強固な情報保全枠組の速やかな整備に努めるべき。
(3)国会による文民統制の強化
 国会の論議を通じた積極的な文民統制が必要であり、国会における秘密会のあり方や秘密保護のルール化についても検討すべき。