2009年6月5日金曜日

【経済事件メモ】 水谷建設と白川司郎

水谷建設と白川司郎

経済事件は5年乃至10年周期で、同じ人脈、同じ手口で繰り返されることが多い。そういう意味では、当局の捜査対象なったり、マスコミ報道された企業や人物以外の周辺人脈まで、チェックしておくと後の事件の全体像を把握する上で、役に立つことが多い。

 さて、今回取り上げる記事は、東京地検特捜部の捜査対象として注目されている水谷建設と周辺人脈について「潮流ジャーナル」で取り上げたものだ。今から10年ほど前、1995年の秋から半年以上かけて取材した内容を、1996年2月から数回連載されている。

 水谷建設について企業研究の対象としたのは同誌が最初だったと思う。プロ向けの専門記事として書いたので、事件関係に詳しい記者しか、この記事には関心をもたなかった。ただし現在関心を持たれている企業、人脈の原型となる構図はここに現れているはずだ。

 日付や役職、企業名などは執筆当時のままである。

★住専リスト『窪田』の背景に注目される、建設、政界人脈の広がり
 白川司郎、水谷建設など話題の人物、企業が登場

 『住専』とつけば、何でもマスコミは飛びつくご時勢である。住専がらみといえばそれだけで、悪の代名詞のように騒がれる風潮は疑問だが、先頃公表された、大口融資先リストに登場する企業およびその周辺グループの概要を調べると、なかなか興味深い会社が幾つも登場している。その中には本誌も過去に取り上げたものも数多くあるのだが、ここでは、京都の窪田グループを見てみたい。

 何故窪田グループなのか。

 大蔵省発表のリストでは、窪田グループは総合住金の融資先として5位にランクされている。もっともトップの末野興産からみると残高にして130億円であり、住専全体でみるとさらに下位になる。であるから、これまでの住専報道では目立つ存在ではなかった。しかし、民間調査会社の調査報告書によれば、他の金融機関からの負債も合わせると総額では1000億円以上ともいわれる。

 本誌では、これまでも別の記事で、太陽グループと日本リースの不良債権処理についてレポートしているが、これは『住専』の不良債権問題はさらに大きな銀行、ノンバンク全体の問題として評価すべきと考えるからだ。

 また、同社の登記簿謄本の役員欄を溯って見ると、政界、財界と太いパイプをもつといいわれる人物が登場する。

 また、その人物とのかかわりから、窪田グループが手掛けているゴルフ場の造成工事にここ数年の“急成長”ぶりが業界で注目されている建設会社も登場する。

 そういう意味で、この窪田グループのゴルフ場、住専問題以上に情報関係者の関心を呼んでいる。

 テレビタレントの北野誠氏が夕刊紙で、「財テクのつもりで買ったゴルフ会員権が値上がるどころか、完成できず、被害者の会の通知が送られてきた…」とネタ話にしていたゴルフ場がある。

 『ノース広島カントリークラブ』(広島県三次市)は平成4年に開発許可を得て、全体36ホールのうち平成7年秋には18ホールがオープンする予定だった。ところが、資金難で造成工事が遅れ、現在ストップ状態にある。昨年暮れに会社側と会員有志との間で話し合いがもたれるなど、会社側は事態の悪化を防ごうとしている。

 会員も会社側に協力して、完成を待とうというグループと、解約を要求するグループと2派あるようで、一本化はできていない。そういうところへ噴出したのがこの住専問題。オーナー会社の窪田グループが大口融資先リストに乗っているわけで、このゴルフ場の先行きは厳しいものになりそうだ。

 北野誠氏は同じタレント仲間のやしきたかじんから紹介されたという。夕刊紙記事では損したかのようにぼやいているが、実際は早々と解約したらしい。このゴルフ場、広島の山奥にあるにもかかわらず、外に上岡龍太郎、西城秀樹の関係者など芸能界関係者の会員も多いようだ。

 開発会社はノース広島開発(株)(広島県三次市秋町字梅ヶ原1111番地の1 代表取締役 窪田孝治氏 資本金1000万円)といい、一度同地で頓挫したゴルフ場物件の所有会社を買収したものだ。

 その新しいオーナーが窪田グループ。中心の(株)窪田(京都市中京区河原町2条下ル一之船入町366 代表取締役窪田孝治氏 資本金9500万円)は、京都に貸しビル数十棟、沖縄などでリゾートホテルを経営する不動産業者。創業者の窪田操氏は現在は代表取締役を退いているが、実質的実権はいまだに同氏が握っているという。 バブル時代に急成長し、その青年時代が劇画のモデルにもなったともいう。自伝を出版したりもし、いわゆる立志伝中の人物であるが、その反面、謎めいた部分も多いといわれる。

 民間調査会社の調査報告書によれば、グループでの負債総額は1000億円を超える。「住専」関係では前述したように総合住金からの融資約130億円が焦げ付いており、そのうち84億円が損失見込額とされている。
 大蔵省の査定では『既存の融資対象物件の事業計画が進展せず、多額の資金が固定化している先に対し、資金使途や融資額の妥当性把握のための資料等を徴求することなく、多額の資金に応需しているもの』とされている。実態がよくわからないまま貸し込んだ、ということである。

 ちなみに同社の本社ビルには平成6年8月30日付けで京都市の差押、さらに9月21日には京都府の差押登記が設定されている。

 現状は、ビルの家賃収入やホテルの収入でしのいでいるということなのだが、金利の支払いもままならない状況であるともいわれる。銀行、ノンバンクなども差押、競売などの回収を急ぐ様子もない。このあたり、マスコミでも話題になっている住専の大口貸付先と似たような状況である。一般個人あるいは小口の業者であれば、たちまち差押、競売と取り立てを急ぐにもかかわらず、窪田に対しては協調的ともいわれている。それゆえか、同社は単なる不動産会社以上の人脈、や力をもっていると、京都の同業者や金融関係者ではささやかれている。京都市郊外に広い土地を買収しはじめているという噂すらあるのである。今のところ、確証のある話ではない。やっかみもあるのかもしれないが、こうした話がまことしやかに流れるように、この窪田という会社の“実力”は通常の不動産会社とはやや異質なものとして見られていることは確かだ。

 グループ本体が登記簿謄本などをみる限りでは、差押などの設定がなされているにもかかわらず、「ゴルフ場を必ず完成させる」という根拠となる資金的背景がどこにあるのか興味深いものがある。中断している工事も新しい業者が決まったようで、再開するとしている。

◎日安保、水谷建設をつなぐ人脈 

 もともと、このゴルフ場について、建設工事発注先としては、日鉄商事が広島県には届けられていた。ところが、実際の工事は東海興業と水谷建設が受注している。

 バブル崩壊によって、日鉄商事側の状況が変わったのだという。ちなみにこのノース広島カントリーの土地には一切抵当権等がついていない。日鉄商事側もファイナンスがつけられなかったということである。
 窪田側としては、既に会員権を売り出していることから、どうしても着工しなければならなかった。そこで、ある人物が登場する。

 (株)窪田の登記簿謄本によれば、平成5年5月6日から同年9月21日まで、白川司郎という人物が代表取締役として就任している。

 「会長の人脈から日安保という会社の白川氏の紹介で、東海興業と水谷建設が工事を請け負うことになった」とノース広島開発では説明する。

 日安保とは日本安全保障警備(株)の略称であり、青森県6カ所村の原子力再処理施設を警備する会社である。この会社は元警視総監などいわゆるヤメ警組といわれる人脈の警備会社。しかし白川司郎氏は警察官僚出身ではない。同氏は三塚博氏の元秘書であり、平成3年頃吹き荒れた三塚博スキャンダルの中で、マスコミの情報源ともなった人物。三塚氏に限らず、政財界に太いパイプをもつといわれている。

 その白川司郎氏が、建設会社を紹介するだけでなく、日安保が保証することで、東海興業、水谷建設の工事受注が決定したのだという。その際に白川氏が窪田の代表取締役に就任する理由が発生したものと思われるが窪田ではそれについては明らかにしていない。

 ともあれ、東海興業が防水工事とゴルフクラブ、水谷建設がゴルフ場造成工事を受注して平成5年秋には着工したわけだ。

 ここで登場する、水谷建設という会社、なじみのない社名だが、注目しておきたい。

 同社は三重県桑名市に本社をおく建設会社。売上420億円は、いわゆる大手ゼネコンから比べるとさほどでもないが、同社は土木下請け工事を専門とするサブコンとして全国展開する数少ない会社の一つという。バブル末期に急成長し、バブル崩壊後も、その業績を維持しつづけるということで、ここ数年急激に力をつけてきたと、業界の注目を集めている建設会社なのである。 なぜ、注目されるかというと、大きなダムなどの工事で、業界関係者にいわせると「取れるはずがない工事を受注している」というのである。知っての通り、建設業界は長年談合で成り立ってきただけに、大きなプロジェクトになると、受注業者はだいたい読める仕組みになっている。それが、意外ところで、同社が工事を取るケースが多いというのである。

 たしかに、建設業界はゼネコン疑惑以後の、一般競走入札導入の動きで、情報漏れもおおくなり、入札が中止になるような混乱もある。それに加えて、同社が技術力、価格競争力といった、本来の建設会社としての地力をつけて来たということもあるのだろうが、それにしても同じ建設業界で噂になるだけの力の背景がどのあたりにあるのか、関心をもたれていたことも事実である。

 で、この窪田のノース広島カントリークラブ工事から、はからずもその人脈の一端が見えて来たのである。ノース広島カントリークラブ、窪田、水谷建設を結ぶ人脈を探ることで、単なる『住専』の不良再建問題を超えた人脈の構図が見えてきそうな気配である。

★住専リスト『窪田』の背景で注目される建設・政界人脈の広がり
 『涼仙ゴルフクラブ』にみる水谷建設成長の原点

 東の桃源社、西の末野興産という東西の“住専借金王”に捜査の手が入り住専問題もひとつの山場を迎えたが、こうした住専融資先リスト上位に登場する会社に集中した巨額資金の行方に加え、彼らに特権的な利益を与えた人脈、金脈の解明こそが、今後の課題である。渦中の2大借金王については、捜査当局の動きを注目するとして、本誌では興味深い人脈が浮上した「窪田」グループの周辺をその象徴的な開発プロジェクトから見て行く作業を続けよう。

◎もうひとつの「ゴルフ場」と水谷建設

 水谷建設(株)は三重県桑名市に本社を置く建設会社である。

 創業は昭和21年5月、法人設立は昭和35年12月である。資本金は4800万円。

 同社は総合建設業のゼネコンに対して、サブコンと呼ばれる専門工事業者である。公共工事などでも、元請けのゼネコンから発注をうけ、実際の工事を行う下請けの施工業者である。建設業界は元請け、下請けあわせて50数万社といわれ、受注高数千億円のスーパーゼネコンと呼ばれるところから、数千万円の零細業者まで、数多くの業者がひしめき合っているが、水谷建設は、一般的な下請けというイメージとは程遠く、大型機械を駆使した土木工事の分野で、トップクラスの業績を上げている。

 民間調査会社の調査報告書によれば、同社は創業社長の水谷一三氏の死亡後、長男の水谷正氏が昭和48年代表に就任した。 その後平成元年には水谷正氏も死亡したため、実弟の水谷勤氏が代表取締役に就任。残る2人の兄弟、紀夫、功の各氏らと協力して経営にあたってきたという。そして、ここ数年、業界でも注目を集める業績を残している。

 その一つが、地元での、自社関連ゴルフ場の開発、オープンである。

 その『涼仙ゴルフクラブ』(三重県員弁郡員弁町)は、平成4年7月の開業で、会員権の募集価格は4000万円といわれている。(実際の売り出し価格は3500万円前後)ともいわれているが、業界誌記者によれば、平成2年春が会員権相場のピークで、その後のバブル崩壊で相場は暴落している。『涼仙ゴルフクラブ』の開発はその丁度端境期にあたり、その価格は、当時としてみれば、業界関係者からすれば、異常な高値とはいえないものの、桑名周辺には『桑名国際』をはじめ、有名ゴルフコースが集中しており、かなり強気の展開だったとはいえそうだ。

 なにしろ「クラブハウスだけで40億円はかかっているらしい。どこからか琴の音が聞こえてくるような凝った作り」(地元住民)という評判になるほどであるから、相当資金を次ぎ込んだことは間違いないようだ。

 しかし、会員募集は、91年11月という微妙な時期からとはいえ、3500万円とも4000万円ともいわれるそれの縁故募集500名が「ほぼ完売した」(業界誌記者)という。「地元の有力銀行が協力して法人への『はめ込み』が行われることはよくあります」(同)ということもあるというが。

 ところで、この『涼仙ゴルフクラブ』実際の経営は大東開発(株)(三重県桑名市大字福島753-2)という会社が行っている。代表取締役は水谷紀夫氏。3兄弟の一人である。

 ゴルフ場の土地には大東開発(株)を債務者に平成3年8月31日付けで、東海銀行が極度額120億円、大垣共立銀行が同60億円、三重銀行が同60億円の根抵当権を設定している。極度額合計で240億円ということになる。民間調査会社の調査報告書によれば、長期の借入金は215億円に上っているという。

 それだけの資金調達をした上で、大東開発が建設会社に工事発注したわけだが、この場合、『ノース広島』の時と異なり水谷建設が“元請け”にはなっていない。工事はゼネコンの前田建設工業と鹿島のJVで受注しているが、実際の造成は水谷建設が「下請け」しているわけだ。

 わざわざ、建設コストを高くしてもゼネコンを入れるあたり、日ごろのお得意先へのサービスということもあるのかもしれないが、前田建設工業と鹿島とは、特に水谷建設との関係が深いといわれている。

 しかし、じっさいのコストは、建設会社が、自社の建物を建てるのと同じで、かなりコストダウン出来てもおかしくはない。そうなると、200億円以上の建設費用はバブル当時とはいえかなり余裕があったのではないかといわれる。さらに、会員権も「完売」したのであれば、このゴルフ場開発によって、それなりの資金を同社は確保できたのではないか、と見る向きもある。 実際、登記簿謄本によれば、『涼仙ゴルフクラブ』の土地に設定された根抵当権はまだ抹消されていない。(もっとも、根抵当権の極度額であるから、返済が終わっていないということにはならないが)

 業界関係者によれば、水谷建設の進撃が始まるのは、このゴルフ場の建設と前後してからだという。しかも、ノース広島カントリークラブで因縁の深いことを示した、白川司郎氏の存在もその成長を支えた一人であるという。同氏の存在というものが、一建設業者の成長とどのようにかかわっているのか。ゴルフ場開発でみられる資金的余裕(?)と白川司郎氏との接点は同社の業績にどのように結び付いてゆくのか。

 ちなみに民間調査会社の調査報告書によれば、平成6年10月末の手持ち受注残450億円のうち、8割以上がダム工事、電力関係となっている。情報通によれば同社の成長を見るうえで特に注目すべきは、東北地方の巨大プロジェクトだというのであるが…。