2010年7月9日金曜日

【安全保障】 日米安全保障条約と日米同盟

 外務省が、公文書の公開を7日(2010年7月)から行われ、産経が下記のような記事を書いている。基本的に、この備忘録では個人的な意見は書きたくはないのだが、どうもこの安保での対象範囲が同盟では広げられている事実に気がついていない方が多いように見うけられることから、一部意見も混じってしまうと思う。

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「朝鮮、台湾の巻き添え困る」安保改定時に対象範囲拡大を拒否 岸元首相
2010.7.8 18:06
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100708/plc1007081807007-n1.htm

 昭和35年に改定された日米安全保障条約をめぐる日米交渉で、米側が適用範囲を「太平洋地域」とする案を示したのに対し、当時の岸信介首相が賛同しなかったことが、外務省が公開した外交文書で明らかになった。この結果、現行の安保条約の対象範囲は改定前と同じ「極東」となった。

 文書は「覚」と記された手書き資料で、安保改定の文書ファイルに含まれていた。

 それによると、米側は33年10月4日に東京で始まった改定交渉で、適用範囲を「太平洋地域」とする草案を提示。また、外務省は「極東及び太平洋」とする試案をまとめた。山田久就外務事務次官(当時)が18日に岸首相を訪ね、これらの報告を行った。

 この際、岸首相は「沖縄、小笠原について米国とともに渦中に投ぜられることは覚悟しなければならないが、朝鮮、台湾の巻き添えになることは困る」と語った。

 34年5月には藤山愛一郎外相(当時)がマッカーサー駐日米大使(同)に「『太平洋地域』の問題は議会関係では極めて重要」と削除を求め、米側も応じた。

 当時は社会党などが激しい安保改定反対闘争を繰り広げており、対象範囲を拡大すれば国会承認がより困難になると判断したとみられる。

 政府は35年に極東の範囲について「韓国、台湾地域を含む」とする見解を出している。
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日米安保交渉で米側が適用範囲を「太平洋地域」とする案を示したという。しかし、岸総理が拒否をし、範囲を「極東」とし、「韓国、台湾地域を含む」という形で落ち着いたということである。

しかし、昨年(2009)春に、元駐イラン大使であり現防衛大学校教授の孫崎享氏が、「日米同盟の正体~迷走する安全保障 」を上梓してから、この日米安保の正体が見えてきた。

孫崎享氏の著書『日米同盟の正体』には、この日米安保の範囲が広げられていることが書かれている。
安保条約は1年ごとの自動延長なのだが、(いつでも、双方とも1年後に解消可能)、2005年10月29日に日本の町村外務大臣・大野防衛庁長官と米国のライス国務長官・ラムズフェルド国防長官がサインした文書「日米同盟 未来のための変革と再編」で内容ががらりと変わってしまったというもの。

外務省の文書では、相変わらず(仮訳)と書かれ、細部の微妙な言い回しをわざと隠しているのでは無いかとさえ思えてしまう。(英文は→こちら

「日米同盟 未来のための変革と再編」のポイントは下記の部分であると思われる。

========(日米同盟 未来のための変革と再編)==================

 日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎である。同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に効果的に対処する上で重要な役割を果たしており、安全保障環境の変化に応じて発展しなければならない。

日本及び米国は、日米同盟の方向性を検証し、地域及び世界の安全保障環境の変化に同盟を適応させるための選択肢を作成するため、日米それぞれの安全保障及び防衛政策について精力的に協議した。
(中略)

安全保障環境に関する共通の見解を再確認した。また、閣僚は、アジア太平洋地域において不透明性や不確実性を生み出す課題が引き続き存在していることを改めて強調し、地域における軍事力の近代化に注意を払う必要があることを強調した。この文脈で、双方は、2005年2月19日の共同発表において確認された地域及び世界における共通の戦略目標を追求するために緊密に協力するとのコミットメントを改めて強調した。
(中略)

自衛隊要員及び部隊のグアム、アラスカ、ハワイ及び米本土における訓練も拡大される。

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この中で、2005年2月19日の共同発表において確認された地域が問題となる。

2005年2月19日にワシントンで共同発表された「日米安全保障協議委員会」の記事にこの地域(範囲)が書かれているのであるが、地域(範囲)は「アフガニスタン、イラク及び中東全体」「アジア太平洋地域において」という文言の後に地域が書かれている。

地域における共通の戦略目標には、以下が含まれる。
*日本の安全を確保し、アジア太平洋地域における平和と安定を強化するとともに、日米両国に影響を与える事態に対処するための能力を維持する。
*朝鮮半島の平和的な統一を支持する。
*核計画、弾道ミサイルに係る活動、不法活動、北朝鮮による日本人拉致といった人道問題を含む、*北朝鮮に関連する諸懸案の平和的解決を追求する。
中国が地域及び世界において責任ある建設的な役割を果たすことを歓迎し、中国との協力関係を発展させる 。
*台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す。
*中国が軍事分野における透明性を高めるよう促す。
アジア太平洋地域におけるロシアの建設的な関与を促す。
*北方領土問題の解決を通じて日露関係を完全に正常化する。
*平和で、安定し、活力のある東南アジアを支援する。
*地域メカニズムの開放性、包含性及び透明性の重要さを強調しつつ、様々な形態の地域協力の発展を歓迎する。
*不安定を招くような武器及び軍事技術の売却及び移転をしないように促す。
*海上交通の安全を維持する。

ここ会見に出てくる、アジア太平洋地域とは、APECの範囲(地域)とも読み取れる。つまり、非常に広い範囲をこの会見では示唆をしている事になる。

APECのメンバーマップ

つまり、このAPECにアフガニスタン、イラク及び中東全体を含む範囲が日米同盟の守備範囲とも取れるのある。日米安保の範囲であった「韓国、台湾地域を含む」極東地域であったものが、2005年から一気にアメリカによりアジア太平洋地域&中東まで引きずり出されてしまったという事になる。もう少し懐疑的に共同会見の範囲を考えると、「海上交通の安全を維持する。」と書かれていることから、範囲(地域)は広がる可能性さえ見えてくる。

この点を孫崎享氏は、指摘をしているのである。

昨年(2009年)4月東京新聞が孫崎氏のこの本について社説を書いている。
 
筆洗  2009年4月20日

日米安保条約にとって代わった文書が存在する。こんな話をされたら「いつの間に」と不思議がる人もいよう。外交上の秘密文書ではない。二〇〇五年十月二十九日、日米の外務・防衛担当閣僚が署名した文書である▼正式な題は「日米同盟・未来のための変革と再編」という。今春、防衛大学校の教授を退いた孫崎享(うける)さんが著書『日米同盟の正体』で指摘している。外務省の国際情報局長や駐イラン大使を歴任した情報分析の専門家である▼肝心なのは冒頭部分の<緊密かつ協力的な関係は、世界における課題に効果的に対処する上で重要な役割を果たしており…>というくだり。国民の側に意識がなくとも、これで<日米の安全保障協力の対象が極東から世界に拡大された>とある▼アフリカ東部ソマリア沖の海賊対策で、海上自衛隊の哨戒機P3Cに派遣準備命令が出された。周辺に展開される自衛隊は、やがて陸海空合わせて千人規模になる。世界の課題に日米で対処する一つの事例に見える▼自衛隊の海外派遣が際限なく拡大していくのではないか。こんな危惧(きぐ)を持つ。日本から米国に対し、新たな日米安保共同宣言の策定に向けた協議を提案していたとの報道があるから、なおさらである▼自衛隊の海外派遣を、いつでも可能にする恒久法制定の布石とも分析できる。「いつの間に」とならぬよう、心していよう。

国会審議など記憶にない。こんな事でいいのか。航空自衛隊総体の司令部がこともあろうに外国軍基地である横田基地内に移るのだから常人から見れば、この世のことともおもえないことも小泉時代にはおおありなのだろう。著者孫崎氏は外務省の出身。国際情報局長の後防衛大学教授の経歴をもつ。外務省には、91年ごろまで日本の国益を第一に考える真っ当な空気があったが、その後、巧妙で執拗な米国の間接的な人事介入で米国におもねる気風が一般的になったようだ。「影響力の代理人」は日本の各界にいる。孫崎氏もその毒牙にかかったのか。私などあまり米国大使館の工作が小泉時代うまくいきすぎて、シャー時代の駐イラン米大使館とおなじユーフォリアに浸っていると警告しているのだが、はたして効くものか。日米関係への著者の懸念は本書147ページに要約されているが、第8章の核武装に関する見解も参考になる。講談社現代新書 本体価格760円
この書籍内容紹介は次のように書かれている。

アメリカの戦略が大きく変わったことをどれくらいの日本人が知っているのか?
「核の傘」は本当にあるのか?
ミサイル防衛は本当に有効なのか?
なぜ日本はいつも北朝鮮外交でアメリカに振り回されるのか?
専門家による衝撃の書!!


構成

第一章 戦略思考に弱い日本
日本に戦略思考がないと明言するキッシンジャー/シーレーン構想の真の目的/
統幕議長ですらシーレーン構想の意図を理解できなかった/上兵は謀を伐つ

第二章 二一世紀の真珠湾攻撃
ブッシュ政権はテロ予告情報になぜ反応しなかったのか/
陰謀は悪ではない/北方領土の利用価値

第三章 米国の新戦略と変わる日米関係
ソ連の脅威が消滅するショック/ソ連崩壊後の最大の脅威は日本/
米国が警戒した樋口レポート/新たな日米安全保障関係の構築

第四章 日本外交の変質
日本外交はいつから変質したか/「同盟の非対称性」をどう見るか/
日本はなぜ「日米共通の戦略」の道を邁進するか/日米関係を変える中国という要因

第五章 イラク戦争はなぜ継続されたか
米国の各種戦略とイラク戦争/駐留長期化は治安維持に寄与しない/
戦争が継続された二つの要因

第六章 米国の新たな戦い
オサマ・ビン・ラディンの戦いの目的/コーランの教えは過激か/
ハマス・ヒズボラへの対応が中東和平への道/

第七章 二一世紀の核戦略
核兵器の限定的使用を模索したブッシュ政権/ジョセフ・ナイの論理/
戦争に勝利する手段としての核兵器/一九六〇年代の核戦略に学ぶ

第八章 日本の進むべき道
核兵器保有は日本の安全保障拡大に利さない/米国の北朝鮮政策を読み違える日本/
ミサイル防衛は有効か/グローバリズムと抑止効果/国際的に高い評価を得る日本

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この東京新聞の記事にすぐに反応をしたのが、天木直人氏であった。氏のブログには次のように書かれている。氏の個人的な考えもあろうと思われることから、あえて一部を引用せず全文を転載しておこうと思う。http://www.amakiblog.com/archives/2009/04/21/

ついに東京新聞が「日米同盟の正体」を取り上げた


 ついに大手新聞が取り上げた。4月20日の東京新聞は一面の社説「筆洗」で孫崎享氏の著書「日米同盟の正体」(講談社新書)について書いた。しかもその著書の核心部分である「日米安保条約は外務官僚の手で国民の知らない間に書き換えられていた」という事を正面から指摘した。

 東京新聞の社説はこういう書き出しで始まっている。

 「日米安保条約にとって代わった文書が存在する。こんな話をされたら『いつの間に』と不思議がる人もいよう。外交上の秘密文書ではない。2005年10月29日、日米の外務・防衛担当閣僚が署名した文書である。正式な題は『日米同盟・未来のための変革と再編』という・・・」

 問題はこの社説の意味をどこまで読者が、国民が、理解できるかということである。

 そのためにも、この社説がきっかけとなって他の大手新聞、メディアがこの問題を次々と取り上げられていかなければならない。
 
 外交・安保問題を専門とする学者や評論家が「日米同盟の正体」の著書の内容の是非について正面から論ずるようにならなければならない。

 その事によって、結果として何も知らなかった国民の頭の中に問題意識が芽生えるようにならなければならない。

 果たしてそうなるだろうか。残念ながらそうはならないだろう。政府・外務省、防衛省は孫崎氏の「日米同盟の正体」が論議されるようになって困るのだ。だから必死に押さえ込むだろう。朝日新聞などは決して孫崎氏の著書を持ち上げはしないだろう。

 孫崎氏の著書「日米同盟の正体」が正しく評価される日本にならなくてはならない。すべては国民の覚醒にかかっている。

 
 朝日新聞の劣化は目を覆うばかりだ

 たとえば4月19日の新聞各紙を読み比べでみて、今更ながら朝日新聞の劣化を痛感した。

 東京新聞は、今年の7月末に、韓国が(北朝鮮ではない。念のため)、人工衛星搭載のロケット打ち上げを計画していること、それが日本の領海上空を通過することで日韓両国が最終調整していることがわかった、とスクープしている。政府は、北朝鮮のミサイル発射で大騒ぎする一方で、韓国のミサイルが領海上空を飛ぶ事については口をふさいで国民に隠していた、ということだ。

 産経新聞は、北朝鮮がミサイル発射前の3月に、米政府がカーター前大統領を極秘裏に訪朝させて北朝鮮に発射実施を思いとどまらせようとしていた事を教えてくれている。 やはり米国は米朝協議を重視していた。これからも米朝協議を模索するだろう。ますます日本は蚊帳の外に置かれることになる。

 日経新聞は、訪米中の安倍元首相が、ワシントンでの講演会で、同行した民主党の前原誠司副代表の名前を出して、「前原さんが民主党政権で首相になれば、自民党とほとんどかわらない」、などという発言をしたことを報じていた。その発言の内容もさることながら、政権を投げ出した安倍元首相はどの面をさげて訪米できるのか。

 毎日新聞は、東京で開かれているパキスタン支援会議に出席中の米国特別代表ホルブルック氏が、東京の外国特派員協会で会見し、「アフガニスタンとパキスタンのテロリストたちが東京など世界主要都市への攻撃を計画しているのは間違いない」と発言したと報じている。 とんでもないウソの脅迫発言だ。他の主要都市はいざ知らず、日本が反米、反イスラエルのテロに狙われるはずはない。狙われるとしたら米国に加担させられたからだ。

 これらの記事の一つ一つは重要な問題を含んでいる意味のある記事だ。

 それにくらべ朝日新聞には興味ある記事がまったくない。それどころか一面トップで報じられている記事といえば、家電販売大手「ベスト電器」の郵政不正事件であり、舟橋洋一主筆とガイトナー米財務長官とのインタビュー記事である。

 前者は西松事件と同じ構図の民主党叩きであり、後者は舟橋主筆の宣伝インタビューでしかない。内容はまるでない。そもそもガイトナー米財務長官で米国の金融危機が乗り切れるのか。

 朝日新聞はもはや購読に値しない新聞になりさがりつつある。毎日熱心に大手新聞を読み比べている私がそう思うのだから間違いない。


 朝日新聞の経営陣は読者の声に謙虚に耳を傾けるべきだ


 朝日新聞の劣化について書いたところ複数の読者から、自分もそう思っていた、ながらく愛読してきたがついに購読を止めることにした、などなどの意見が寄せられた。

 朝日の愛読者だからこその意見であろう。朝日新聞の経営者はそのような貴重な読者の声に謙虚に耳を傾けるべきだと思う。

 われわれが新聞に期待するのは、迅速で正確な事実の提供である。しかしそれだけであれば新聞は一つでいい。

 われわれが新聞に期待するのは、同時にその事実の背後にある解説であり、論評である。そしてその解説、論評記事の中にこそ、各新聞社の存立意義があるのだ。その拠って立つ主義、主張が失われればどうなるか。

 かつての朝日新聞は、権力を監視し、平和、人権を尊重するリベラル紙を標榜していた。その考えに共感するからこそ読者は朝日新聞を購読していたのだ。その基本的な軸が、いつの間にぼやけ、ついに権力側に与するようになってしまった。

 読者が離れるのも無理はない。朝日新聞を購読する意味はなくなったと多く読者が思うゆえんである。
 それにしても、朝日新聞は変わった。変わっただけでなく紙面がおどろくほどに劣化した。朝日に一体何が起こったのであろうか。

 
 政治の軸にならない貧困問題

 東京新聞に時々掲載されるロナルド・ドーア氏の「時代を読む」という論評がある。彼の肩書きは英国ロンドン大学政治経済学院名誉客員である。その論評に私は共感を覚える事が多い。4月19日の「政治の軸にならない貧困」という見出しの論評もそうであった。

 彼は、先日発表された麻生首相の緊急経済対策について、小泉・竹中路線から転向し、供給面の規制撤廃より、総需要刺激策のほうが景気対策にとって必要だ、やっと麻生首相はそれに気づいたか、めでたい、めでたい、と皮肉交じりに一応は歓迎してみせる。

 私が注目したのは、その後に続く次のくだりだ。

 彼は56.8兆円のうち、雇用対策費は4.4兆円、金融対策費はその十倍の44.8兆円である、と指摘した上で、『麻生政権の関心の優先順位はそんなもんか』と失業者は怒らなければならないと言う。

 他の先進国、特にアングロサクソンの国でも、新自由主義に基づく「制度改革」による不平等化は見られるが、日本で不思議な事は、この不平等の問題が政党政治の重要な軸にならないことだ、と言う。

 貧困関係の本が書店にあふれ、メディアの関心も外国に比べ強いにもかかわらず、日本では貧困・再配分の問題が政治論争の主要軸にならないという。

 ドーア氏はその理由については何も書いていない。それどころか、この論評を、「なぜだろう」という問いかけで終えている。

 なぜだろうか。その答えは勿論私にもない。しかしいくつかの問題提起はできる。

 労働組合をバックに持つ社民党や共産党は、湯浅誠を自らの政党の候補者としてなぜ取り込もうとしないのか。彼を政治家にさせ、この国の雇用問題、所得格差問題について政治の場で活躍させれば間違いなく雇用、失業問題は政治の中心課題となるだろう。

 もし湯浅誠がそのような誘いを受けているのならば、みずからのライフワークを完成させるためにも、彼の支持者と一緒に政治の場で活躍すべきだ。もし湯浅が社民党や共産党のような既存政党に飽き足らないのであれば、湯浅新党を立ち上げて政治に風穴をあけるべきである。

 もし社民党や共産党が湯浅誠とその背後にいる派遣労働者を政治の中に取り込もうとしないのなら、社民党や共産党の雇用対策、失業対策は口先だけと言うことだ。政治を、貧困問題の真の解決よりも、自分たちの組織存続、拡大を優先しているということだ。

 そしてもし湯浅誠が、あくまで政治から距離を置き、貧困問題の解決は政治家の仕事だ、と突き放しているのなら、政治の力を過小評価しているということだ。自らが政治家になったときに及ぼしうる影響力に気づいていないということだ。

 貧困問題が政治の軸にならないようでは、その真の解決はおぼつかない。これだけははっきりしている。

  政治の軸にならない平和問題と国民新党の役割


 私は、ロナルド・ドーア氏の論評を引用して、この国では貧困問題が政治の軸にならない、政治家は誰も本気になって貧困問題を政治の場で解決しようとしない、国民もまたそれを政治に要求しない、と書いた。

 同様のテーマはもう一つある。それは平和の問題である。平和もまた政治の対立軸になっていない。

 政治家は憲法9条を踏みにじる政府・官僚を本気になって追及できない。国民は平和の問題を政治の主要テーマにしない。

 これは由々しい事だ。我々の生活の基本である憲法9条(平和)と25条(生存権)が、政治の軸にならないのである。

 ここ数ヶ月間、与野党は解散・総選挙絡みの駆け引きばかりに終始し、国会において、平和の問題もまた放置してきた。

 米海兵隊のグアム移転協定しかり。海賊対策法しかり。いずれも重大な憲法9条違反の法案であるにもかかわらず、まともな審議が行なわれないまま急いで成立させられようとしている。

 しかも政府は国民に嘘をついてまで成立を急いでいる事が明るみになったと言うのに、である。

 たとえば沖縄からの米海兵隊削減計画である。我々は8000人削減されると繰り返し聞かされてきた。そのように報道されてきた。しかし4月3日の衆院外務委員会で、外務省の梅本和義北米局長は、社民党辻元清美氏の質問に対し、それが嘘である事を認めた(4月9日朝日新聞)。07年9月時点での在沖縄海兵隊の実数は1万3200人という。その数が1万人になるだけなのだ。わずか3200人の削減に過ぎない。その見返りに膨大なグアム移転費を負担させられようとしている。国民に十分な説明がないままに国民の税金が使われようとしている。

 海賊対策法の嘘もまた明らかになった。4月19日の東京新聞は、ソマリア沖に派遣されている海上自衛隊がこれまでに警護した日本関係船舶は、政府が説明していた数の3割程度しかなかったことをスクープしている。不景気によって航行する日本関係船舶が急減しているのだ。

 本来ならば派遣そのものを見直さなければならないのに、現実は逆だ。政府は海賊対処法の成立を強行しようとしている。

 政治は何をしているのか。護憲政治家は何をしているのか。共産党や社民党の政治家が怠慢だとは言わない。圧倒的に少数なのだ。非力なのだ。そして雇用問題と同様に、野党第一党の民主党が動かないのだ。

 そのような中で、私は国民新党の動きに注目している。4月21日の新聞各紙は、国民新党の亀井久興幹事長が横浜市で記者会見し、一旦受け入れた民主党の海賊対処法修正案にもとづく与党との修正協議から、国民新党は離脱する方針を決めた、と報じた。海上自衛隊の海外派遣に反対する社民党との連携を重視して方針転換したという。

 国民新党は平和の政党になったのか。そういえば国民新党の亀井静香代表代行の最近の発言を聞いていると、平和外交の重要性を言い出し始めた。国民新党は平和の政党に脱皮しようとしているのだろうか。そうだとすれば私はそれを歓迎する。

 やがて国会で海賊対策法案をめぐる審議が始まる。私は国民新党が民主党より憲法9条に忠実な立場を取ろうとしている事に注目している。

 保守的な国民新党が平和を標榜する政党になれば、より幅広く国民に訴える事が出来るのではないか。護憲・平和問題が左翼イデオロギー政党の独占物でなくなった時こそ、護憲・平和問題が政治の軸になる時かもしれない。国民新党の活躍に期待したい。


先日も、朝日新聞や産経が日米同盟を50年と書いていたのだが、新聞社自体が「日米安保」と「日米同盟」をごちゃ混ぜにしているのであろうか。日米安保では極東アジアが範疇であったものが同列で日米同盟という言葉を用い「錯覚のうちに」世界中に自衛隊が派遣できるとした「日米同盟」を根本から見直さなければならないように思えてならない。

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