2009年6月17日水曜日

【東京地検特捜部】 朝鮮総連本部ビルの売却問題

 この緒方氏の朝鮮総連本部ビルの売却問題も少々異様な事件であった。2009年6月17日に最終弁論が行われている。いろいろな噂が流れ、何が真実なのか見えてはこないのであるが、官邸の力や時の総理を忖度したのと言われた事件であった。


07年6月、安倍晋三政権下で社会的耳目を集めた「朝鮮総連本部ビル売却問題」。この事件は当初、東京地検特捜部が電磁的公正証書元本不実記録などの疑いで関係先を家宅捜索したことから、朝鮮総連およびその代理人弁護士らを含む「競売妨害」事件として立件されるのではないか、と見られた。ところが、ご存じのように、事件はいつの間にか朝鮮総連を被害者とする詐欺容疑に切り替えられ、元公安調査庁長官の緒方重威(しげたけ)、元不動産会社社長の満井忠男被告ら3人が逮捕・起訴された。

こうして詐欺罪に問われた緒方、満井両被告の公判は37回を重ね、今月17日に結審した。その中で緒方被告は「(中央本部を差しおさえられそうだった)朝鮮総連の窮状を見かねて取引を行った。利得目的ではない」と無罪を主張。弁護側も「大声で脅迫するなど異常な取り調べを行い、検察側が思い描いたストーリーに沿うように供述を作り上げた」と批判したという。一方、検察側は「公安調査庁長官などの経歴を利用した巧妙かつ悪質な犯行」として両被告にそれぞれ懲役5年を求刑した。

ここで改めて、検察側が描く「事件の構図」を簡単に振り返っておきたい。緒方被告らは総連側から、購入代金35億円を提供する投資家がいるかのように装い、所有権移転登記をして総連中央本部の土地・建物をだまし取り、実体のない事業の違約金名目で総額4憶8400万円を詐取した、というものだ。

ところが最近になって、この取引のスキームをつくったとされる元銀行員の河江浩司氏(=有罪確定)が上申書(=左写真)を出していたことが分かった。その中で河江氏は、総連本部ビル買収の資金調達先として「富士薬品」(さいたま市)に話を持ち込み、同社役員らと複数回にわたる具体的な交渉を続け、「富士薬品でも『非常に面白い』と取引に強い関心を示し」た、との驚くべき証言をしている。

ところが、総連本部ビル事件が発生したため、社会的信用の失墜を極端に畏れた富士薬品側は態度を豹変させ、「その話は確かにあったが、すぐにお断りした。従って交渉ごとなどは一切無かった」の一点張りで検察の事情聴取に対応したという。河江氏は上申書の最後を次のように締めくくっている。

<正直私は呆然としました。今にも取引を成立させるといった勢い、意気込みを見せていたのは他ならぬ富士薬品だったからです。それをひた隠しにして「何もなかった」と検事の前で言を繰り返したことで、私は裏切りそのものだと実感を持つと同時に、無実の証が潰えたと落胆しました。私は交渉が間違いなくあったことを何度も繰り返し申し述べたのですが、取調べ検事に受け入れられなかったことが今でも悔しくてなりません。> 

もっとも、この上申書が公判で証拠として採用されたかどうかは今のところ不明だ。MSN産経ニュース(=左写真)を見る限り、緒方被告の弁護人最終弁論でも、「自己の虚偽供述により、被告人や満井を陥れてでも、巧みに立ち回り最小限の責任しか取らずに逃げ切るべき強烈な動機も存在したことも見逃されるべきものではありません」と、二転三転した河江氏の供述、証言は「任意性がない」と断じている。しかし、この上申書は河江氏の有罪が確定した後に作成されたもので、すでに「逃げ切るべき強烈な動機」も存在しない。したがって、真実が含まれている可能性は非常に高いのではないか。仮に河江氏の言うことが本当なら、具体的な資金調達の交渉は存在し、総連本部ビルなどを詐取する目的だったという検察側の構図は大きく崩れることになる。

しかも、「富士薬品」という会社は資金量も豊富で、調達先として非常に有力だった。同社は未上場ながら、従業員4082人(=09年3月末現在)を抱える配置薬販売の最大手で、民間調査会社の資料などによると、08年3月期の売上高は1367億円に達する。同社は高柳一族が支配しているが、現在は2代目の高柳昌幸氏が社長に就任している。
「先代の貞夫氏は昨年、体調を崩し、経営の一線から身を引いた。実は、この貞夫氏は仕手筋の金主として有名な人物で、不動産投資にも相当のめり込んでいた。河江の総連本部ビル売却話に飛び付く素地は十分にあったと思う。貞夫氏が抱え込んでしまった不良債権は200億円を超えるとさえ言われている。その中にはいわゆる事件物も少なくない」(関係者)

この間、本誌は、河江氏の上申書の内容を「富士薬品」社長室に伝え、事実確認などを求めてきたが、現在に至るまで回答は一切ない。しかし、朝鮮総連本部ビルの他にも、同社の不動産投資案件は反社会勢力と思われるフロント企業、事件屋などが数多く関わっている。すでに本誌は、その個別案件を複数把握しており、詳細が分かり次第お伝えしたい。
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朝鮮総連ビル売却、緒方重威元公安調査庁長官問題メモ

 気乗りのしない話題だし私なんかに真相に迫れるはずもないが、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部のビルと敷地が、緒方重威元公安調査庁長官(七三)を代表取締役とする投資顧問会社に売却されそうになった件について、自分なりのメモを記しておこう。
 まずシンプルに何が問題なのか。一般向けに書かれた十五日付朝日新聞社説”総連本部売却―取引にも捜査にも驚いた”(参照)を借りる。

 公安調査庁といえば、暴力的な活動をする恐れのある団体の調査が主な仕事だ。朝鮮総連も対象とされる。監視する側の元トップが、監視される側と土地取引をしていたわけだ。
 さらに驚いたことに、東京地検特捜部がすかさず元長官の自宅などを捜索した。所有権移転の登記に偽装の疑いがあるというのだ。

 ここでの朝日新聞的な問題点をまとめると、(一)危険性のある団体を監視する機関の元トップがその団体と金銭取引をしていた、(二)取引に偽装の疑いがある、の二点ということになる。
 一点目の問題については朝日新聞の説明だけ聞いていると違法性があるとも言えないように思える。では二点が問題かというと常識的に考えてもそういう話でもあるまい。この先、朝日新聞社説は、朝鮮総連ビルが競売されることを避けるためだろうという話を説明している。ただ、そこが私などにはわかりづらい。
 この点は朝日新聞より一日早く論じた十四日付け読売新聞社説”元公安庁長官 朝鮮総連との取引は論外だ”(参照)がわかりやすい。

 しかし、今の時点で朝鮮総連が保有資産を売却すること自体、極めて問題のある行為と言わざるを得ない。
 在日朝鮮人系の計16の朝銀信用組合が1990年代後半以降、相次いで破綻(はたん)した。各信組が架空名義などを使って朝鮮総連に融資し、焦げ付いた額は約628億円に上り、整理回収機構が返還を求めて総連を提訴していた。
 その判決が来週18日に東京地裁で言い渡されることになっている。
 同機構は旧経営陣などに対する刑事告訴・告発や損害賠償請求の訴えを起こしてきた。そうした裁判の中で、朝鮮総連が朝銀信組を長年にわたって私物化していた実態がわかっている。朝銀信組の破綻は、朝鮮総連に対する乱脈融資が大きな要因だった。
 しかも、朝銀信組には、預金者保護などの名目で総額1兆円以上の公的資金が投入された。朝鮮総連からの債権の回収に全力を挙げるのは当然である。
 判決を前に、敗訴に備えた取引だったとすれば悪質だ。本部の明け渡しや将来の競売を逃れる意図はなかったのか。同機構の活動を妨害することにもなる。

 つまり、朝鮮総連が保有資産を売却すること自体が問題なのだ、と。
 明日十八日の東京地裁判決で、朝鮮総連から債権が回収される公算は大きい。その時、朝鮮総連ビルの競売を避けるために。話のわかるスジに売却したのではないか。
 そうなのだろう。つまり、緒方重威元公安調査庁長官は、朝鮮総連の拠点を守りたかったというのが、この事件のある意味でマクロ的な意味なのだろうし、同社説では次のように、緒方の言葉を伝えている。

元長官は、「在日朝鮮人が中央本部で活動している現実を踏まえ、在日朝鮮人の権利擁護のために行った。北朝鮮を利するつもりはない」と説明している。

 弁明は十三日付け朝日新聞記事”資金調達難航、断念の可能性も”(参照)が詳しい。

引き受けた理由については「総連は違法行為をし、日本に迷惑をかけている。だが中央本部は実質的に北朝鮮の大使館の機能を持ち、在日朝鮮人の権利保護の機能も果たしている。大使館を分解して追い出せば在日のよりどころはなくなり、棄民になってしまう」「満州(現中国東北部)から必死に引き揚げ、祖国を強く感じたことを思い出し、自分の琴線に触れた」などと語った。

 十五日付け産経新聞産経抄では次の一言を伝えている。

緒方氏は会見で、「いずれ歴史が私のしたことを分かってくれる」と言うばかり。小欄が歴史からくみ取るのは、北朝鮮が繰り出す謀略に、日本の対応が甘すぎたという反省ばかりなのだが。

 緒方重威元公安調査庁長官は今回の行動になぜだか信念をもっていたと見ていいだろうし、率直に言って、私の印象だが老人惚けの一種なのではないか。
 だが、巨額なカネのからむ件でもあり、緒方の信条とか惚けとかで済む話ではない。この点は先の朝日新聞社説の(二)の問題点の補足が詳しい。

 元長官に売ったのは、競売されることを避けようとしたからだ。それ自体に違法性はないが、問題は本当に売買が成立していたか疑わしいことだ。移転登記がされたのに、実際の支払いは済んでいなかった。外から見れば、売買を装ったと言われても仕方があるまい。
 こんな方法を取ったのは、実際に資金を出す人の強い意向だった。判決前に受け取るめどが立っていた。判決前に調達できなければ登記は元に戻す。これが、元長官に取得を頼んだ総連側代理人の土屋公献・元日弁連会長の説明だ。
 しかし、土屋氏も認めるように、金を受け取る前に移転登記をするのは異例のことだ。
 土屋氏は出資者とは面識もないという。出資者とどこまで具体的な合意ができていたのかもはっきりしない。

 ポイントは二つある。(一)緒方重威元公安調査庁長官を表向きたてて実際のカネを出す人が誰なのか現時点で不明。(二)このスキームを実際上実行したのは土屋公献・元日弁連会長(八四)であること。

 言い方が卑近すぎるが、黒幕は誰なのか? 候補は三人。

 一人目。緒方重威元公安調査庁長官か。信条的には関わっているが黒幕ではなさそうだ。というか惚け臭い。なお、このご老体の親族にその後問題が出てはいるが。

 一人目。土屋公献・元日弁連会長か、黒幕の可能性は高いが、オモテに出てくるだけ強い関係者の一人という書き割りかもしれない。というかさらに惚け臭い。

 三人目は謎の出資者だ。単純に考えてこれが黒幕なのだろうし、当然朝鮮総連の関係者であろう。しかし、先の朝日新聞記事にもあったように、資金調達は転けている。大惚けなのか、この黒幕。

 私の印象では、日本国家の中枢が北朝鮮やその日本国内組織的な朝鮮総連に籠絡されているというより、偉すぎるけど惚け老人たちのスラップスティックのように見える。というか、元からそんなカネ出せるはずだったのか? 

 いや、出せると目論んだスキーマだったら、そのカネはどういう絵のなかにあったのだろうか。

 ところで、今回のこの件、どういう経緯で浮上したのだろうか。そのあたりがよくわからない。政権側だろうか。あるいは、北朝鮮やその日本国内組織的な朝鮮総連側の内紛だろうか。一三日付け統一日報”朝鮮総連 中央本部を売却  揺れる在日朝鮮人社会”(参照)を見る限り、「朝鮮総連の内部関係者もほとんど事実を知らされてはいない」ようだ。そうなんじゃないだろうか。すごい組織だなというかすごいリーダーシップ。これが絵の通りだったらもっとすごかったのだけど。
 余談だけど、公安調査庁は、略すと、「公安庁」「公調」「PSIA」。法務省の外局(参照)。調査活動をする組織であって逮捕権はない。これに対して、いわゆる「公安」は公安警察を指すことが多い。こちらはウィキペディアによると。

公安警察(こうあんけいさつ、英:security police)とは、公共の安全と秩序、すなわち「公安」を維持することを目的とする警察の捜査部門の総称。

 両者の違いの詳しい説明もある。

 法務省外局である公安調査庁(公安庁、公調)とは、捜査対象が重複するためにライバル関係にあると言われる。その一方、内閣情報調査室や防衛省情報本部(特に電波部)などの幹部の多くは、警察(キャリア職員)からの出向者である。

 公安警察は、事件解決や対象の継続的な監視を目的としており、収集した情報を首相官邸や関係省庁等に提供することはほとんどない。一方公安調査庁は、政策の判断材料となるように情報を分析・評価し、首相官邸や関係省庁等に提供する点で違いがある。例えば、同じ北朝鮮情報を扱うにしても、公安警察が日本国内の工作員の存在という違法行為の把握を第一目標とするのに対し、公安調査庁は北朝鮮本国の政治・経済情勢の把握を優先する。公安警察には逮捕権等が付与され、公安調査庁に与えられていないのはこのためである。

 一見、同様の活動をしているかに見える両機関であるが、収集した後の情報の扱い方によって、公安警察は捜査機関、公安調査庁は情報機関に分類される。

 今回の件の浮上についてはよくわかんないが、安倍政権側からの公安調査庁へのお灸だったのではないか。お灸とか言っても、現代語じゃないけど。







【朝鮮総連事件】「犯罪にあたらないと確信」 緒方被告の弁護人証言
2009/01/19 22:22

ドナルド・ラムズフェルド国防長官は自らの主張を胸の内に留めておくようなことを滅多にしない人物である。敵に対しても妥協するようなことはない。そして、彼は北朝鮮の共産主義政権について明確に軽蔑している。そういうわけで、合衆国政府が北朝鮮に対して、核兵器開発計画の断念と引き換えに2基の軽水炉建設計画に同意し論議を呼んだ1994年の取り決めについて、国防長官の見解に関する公的記録が全く存在しない事実には非常に驚かされる。さらに驚くべきことは、その北朝鮮の軽水炉建設の設計と基本部位を提供する2億ドルの事業を受注した企業の役員に就いていた事実について、ラムズフェルド氏が沈黙していることである。

その会社は、スイス・チューリッヒを本拠とする巨大企業ABB社で、北朝鮮との契約は2000年に締結されており、ラムズフェルド氏が役員職を辞任してブッシュ政権に入閣するずっと前のことであった。ラムズフェルド氏は、1990年から2001年初頭まで、唯一のアメリカ人役員としてABB社取締役会に名を連ねていたが、当時その会社が北朝鮮の軽水炉開発事業契約受注競争に加わったことを公的には口にしていなかった。フォーチュン誌の調査でも、彼が同事業についてどういう考えをもっていたかについて示した公的記録は一切発見できていない。今年2月、北朝鮮の軽水炉開発について国防長官が果たした役割についてニューズウィーク誌に問われた際、国防長官の広報担当者ビクトリア・クラークは「(役員として)決済が問われた事項ではなく、」彼女の上司であるラムズフェルド長官は「そうした事業がいかなる時点で役員会に提示されたのか思い出せない」と回答した。

ラムズフェルド氏が果たした役割についてフォーチュン誌は詳細な説明を求めたが、同氏は回答を拒否している。しかし、ABB社広報担当者ビョルン・エドランド氏は、フォーチュン誌の取材に対して「役員達は当該事業について説明を受けていた。」と語った。さらに、他のABB社職員の話によれば、そのような巨額の重要な事業の場合は、複雑な法的責任問題も絡むために、取締役会の監査を通さないことはありえないという。「おそらく契約締結前に、事業概要を記した書類が役員会で提示されているはずです。」ABB社米国支社核開発事業部の前社長で、当該事業を指揮したロバート・ニューマン氏は言う。「役員なら当然知っていたはずですよ。」

平壌の開発事業に入札していた頃にABB社の役員を務めていた15人に本誌が問い合わせたところ、1人を除いて全員がコメントを拒否した。匿名を条件に回答したその役員は、当時のABB社会長パーシー・バーネヴィク氏が、1990年代中盤に役員会で北朝鮮の軽水炉開発事業について説明したという。「ABB社にとっては大きな出来事でした」前役員は言う。「それで、大規模な政界ロビー活動が行われたんです。」

前役員は、1990年代半ばにライバルのアメリカ企業が“外資系企業が政府の仕事を受注しようとしている”と不満を表明した件で、ラムズフェルド氏が「ワシントンでABB社のためにロビー活動を行うように依頼された」という話を憶えていた。前役員は詳しく説明できなかったが、1995年までABB社の発電設備事業を指揮していたゴラン・ランドベルグ氏は、「一時期ドン(ラムズフェルド)が関わっていたのは確実ですよ」と語った。ゴラン氏によれば、「合衆国政府との契約が必要な際は」役員の助けを借りて事業を受注することは珍しいことではなかったという。他の幹部経験者達はラムズフェルド氏の関わりについて憶えていなかった。

現在のラムズフェルド氏は、イラク戦争以来戦勝気分のせいか、北朝鮮の「体制変革」計画について検討していると伝えられている。しかし、原子炉開発をめぐるラムズフェルド氏の沈黙は、彼がABB社役員時代に何をしたのか-あるいは、しなかったのか-について重大な問題を提起している。ABB社の核開発事業に鋭敏な関心を示し、ほとんどの取締役会に出席してきたラムズフェルド氏が、他の役員を相手に自身の見解について示した証拠はない。確かに彼は当該事情を公にしたことがないが、ラムズフェルドを知る多くの人々は、軽水炉から核兵器使用可能な核物質を抽出可能として同氏に批判的な見方をしている。ラムズフェルドの同僚であるポール・ウォルフォウィッツ、ジェイムズ・リレイ、リチャード・アーミテージらは、北朝鮮との軽水炉開発取引に反対していた事実が記録に残っている。かつてラムズフェルドが選挙責任者兼国防アドバイザーを務めた大統領候補ボブ・ドール氏も反対だった。さらに、ラムズフェルド氏が役員に就任した基金から資金提供を受けたシンクタンク『核不拡散政策教育センター』所長のヘンリー・ソコルスキ氏は、1994年の取引に関して反対する急先鋒の1人だった。

ラムズフェルド氏の意図を知るひとつの手がかりとなるのは、1998年にヘリテージ財団で行ったスピーチである。その際、彼は軽水炉開発については触れなかったが、1994年の北朝鮮との枠組み合意は「核の脅威を終結させるものではなく、ただ単に罰を先延ばしするだけのもので、北朝鮮がどれだけの爆弾材料を入手するかについては確約がないままである。」複数の記事データベースを検索して当時の記事を調べた結果、1990年代を通じて、ラムズフェルド氏が北朝鮮の軽水炉を開発した企業の役員であった事実を伝える報道は見当たらなかった。そして、ラムズフェルド氏もそれを表明することはなかったのである。

すでに韓国で8基の原子炉を建設しているABB社は、合衆国政府がスポンサーとなった40億ドルの北朝鮮軽水炉開発事業計画に関して有利な立場にあった。同社は「事業受注は間違いなし」と伝えられていたと、同事業計画の責任者を務めたフランク・マレイ氏は言う。(同氏は、現在ウェイスティングハウス社で同じ役職に就いている。ウェイスティングハウス社は1999年に英国BNFL社に買収された。英国BNFL社はその1年前にABB社核開発部門を買収している。)北朝鮮の原子炉は、もともと韓国と日本の輸出入銀行から資金提供を受け、ニューヨークのKEDO(Korean Peninsula Energy Development Organization、朝鮮半島エネルギー開発機構)によって監査されることになっていた。「えこひいきではありませんよ」1997年から2001年までKEDOの事務局長を務めたデザイク・アンダーソン氏は言う。「単に実務的理由からでした。」

それでもなお、ABB社は同事業への関与を内密にしようと試みている。フォーチュン誌が入手済みの、ABB社からエネルギー省に送られた1995年の或る手紙によれば、同社は北朝鮮への技術供与に対し承認を申請すると共に、その当たり障りのない手紙を機密扱いにするよう求めている。「内密にされる理由は様々です。」ABB社の米国広報担当者ロナルド・カーツ氏は言う。「この巨額の事業は典型的ですが、契約というものはそんなに人目に触れるものではないのです。」

ABB社は事業にあたって目立たぬようにしているが、カーツや他の職員の話では、役員達は事業内容について知っていたはずだと言っている。前ABB社幹部のニューマン氏によると、リスク評価の概要を記した書類がバーネヴィク氏(前会長)宛てに渡っているという。バーネヴィク氏はフォーチュン誌の電話取材に回答しなかったが、チューリッヒ本社勤務でニューマン氏の上司ハワード・ピアース氏は、ラムズフェルド氏についてこう言った。「役員会に居たから、知っていて当然だと思うがね。」

関係者の話によれば、ラムズフェルド氏は実践的な役員だったようだ。かつてABB社世界核開発事業を率いたディック・スレマー氏によれば、ラムズフェルド氏は時々電話で核拡散問題について語ることがあり、その際「正しい方向性を理解させるのに苦労した」という。ピアース氏は、ラムズフェルド氏がABB社の核開発事業受注のために中国を訪問した事を思い出し、「一端思いついたら、考えを変えさせるのが困難な人物だった。彼の意見を変えるには猛烈にやらないといけない。」ABB社米国核開発事業部の前部長シェルビー・ブルワー氏は、コネチカット本社の会議でラムズフェルド氏と会ったことを思い出し、「素晴らしく才気ある人物だと思った。ヨーロッパ連中を相手に熱いナイフでバターを切るみたいにやりあったもんだ。」

関係者の誰も、北朝鮮の事業について話すラムズフェルド氏については記憶にないという。しかし、仮に彼が意見を隠しているとしたら、他の人たちは隠していない。共和党は最初から北朝鮮核開発事業に反対を表明しており、特に1994年に両院を制してからは顕著だった。「枠組み合意は署名して2週間後には政策上の孤児になっていた。」KEDOの初代事務局長で前駐韓国米大使のスティーブン・ボスワースは言う。枠組み合意がなぜ問題なのか理解するのは易しい。北朝鮮はテロ支援国家リストに含まれており、核拡散防止条約にたびたび違反している。1994年の枠組み合意の指揮を執った国務次官ロバート・ガルッチは批判に同意せず、言った。「もし合意がなかったら、北朝鮮は戦争するか核兵器を作るかのどちらかしかなかった。」

複数の専門家が指摘する問題は、軽水炉から兵器への転用可能な核物質を抽出するのは困難だが可能という部分である。「再処理はそれほど大変じゃありません」原子力委員会と原子力規制委員会の上級委員ビクター・ジリンスキー氏は言う。「特別な機材は要りませんよ。KEDOの連中はそこがわかっていない。未だにヘマを続けている。」

軽水炉開発に対する共和党勢の抗議の声を考えると、ラムズフェルド氏の沈黙はほとんど防音装置のようだ。「共和党員のほとんどは文句を言ってましたね」クリントン政権の東アジア・太平洋問題担当国務次官ウィンストン・ロード氏は言う。ロード氏はラムズフェルド氏の主張について憶えていないという。反KEDOを熱烈に唱える国防政策センターのフランク・ギャフニー・ジュニアもまた同じだ。ギャフニー氏によると、ラムズフェルド氏はABB社役員としての立場が議論を巻き起こすことを避けているという。

1998年には、ワシントンで議論が沸騰し、軽水炉開発の遅れは北朝鮮を苛立たせた。兵器査察官はもはや北朝鮮の核物質の在庫を確認できなくなった。それでもマレイ氏によれば、1998年のある時点で、ABB社は公式な「入札の招待」を受けたという。その時ラムズフェルド氏は何処に?その年、彼は下院主催の研究会議で大陸弾道ミサイル危機に関する機密情報を検証していた。その会議では、北朝鮮が合衆国本土を5年以内に攻撃可能になると結論が出た。(報告書が出されて数週間後、北朝鮮は日本に向けて3段ロケットを発射した。)さらにそのラムズフェルド氏の会議では、北朝鮮が核兵器開発プログラムを継続していると結論づけたが、そのようなプログラムを阻止するはずの軽水炉事業の件については巧妙に省かれていた。同会議の報告書に記されたラムズフェルド氏の経歴には、彼がABB社役員であるとの記述もなかった。

ホワイトハウスを去る直前、クリントン大統領は北朝鮮がミサイル開発と核開発を諦める代わりに支援再開と関係正常化を図る大胆な取引を持ちかけるつもりでいた。しかしブッシュ大統領は北朝鮮側の意図に懐疑的で、2001年3月に政策再考を呼びかけた。その2ヵ月後にエネルギー省は、ラムズフェルド指揮下の国防総省と相談した結果、北朝鮮への核開発技術供与の再承認を行った。ウェスティングハウスと北朝鮮高官が出席する起工式は2001年9月14日に開催された-米国本土に対する史上最悪のテロ攻撃が発生してから3日後である。

ブッシュ政権は未だに北朝鮮核開発事業計画を破棄していない。エドワード・マーキーと他の議員達は、ブッシュとラムズフェルドに対し、彼等が「核爆弾製造工場」と呼ぶ軽水炉事業への支援を取りやめるよう手紙で要請した。それにもかかわらず、コンクリート注入セレモニーが昨年8月に開催され、ウェスティングハウスは北朝鮮に対し10月まで技術訓練プログラムへの支援を行った。その直後に北朝鮮側は極秘ウラン再処理計画を認めて、武器査察官を追い出し、プルトニウム抽出を行うと発表した。ブッシュ政権は核開発技術供与の延長を停止したが、1月に北朝鮮の事業計画に対し350万ドルの予算を承認している。

遅かれ早かれ、率直な物言いで知られる国防長官は自身の沈黙理由について説明してくれるはずだ。


【総連事件 最終弁論(1)】「足利事件と何ら変わらない」弁護側が無罪主張(13:17~13:35)
2009.6.17 15:02
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171503011-n1.htm

《在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の不動産や資金をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた元公安調査庁長官、緒方重威(しげたけ)被告(75)と元不動産会社社長、満井忠男被告(75)に対する第37回公判が17日午後1時17分、東京地裁104号法廷で開廷した。前回公判で検察側は両被告に懲役5年を求刑。今回は弁護側が求刑を受け、最後の主張となる最終弁論を行う》
 《今回も、緒方被告、満井被告ともにスーツにネクタイ姿。満井被告のネクタイは、明るいピンク色でひときわ目立っている》
 林正彦裁判長「満井被告と○○(共犯とされる元銀行員の男性、有罪確定)間の判決の写しの請求がありました。検察側のご意見は?」
 《公判での新たな証拠として、満井被告が当事者となっていた民事訴訟の判決を採用するよう、弁護側が裁判所に求めた、という意味だ》
 検察官「この判決は確定しておらず、本件の争点に関連性はありません」
 満井被告の弁護人「満井被告が、(朝鮮総連への)弁済に努力しているという趣旨です」
 裁判長「それでは証拠決定します。内容を説明してください」
 満井被告の弁護人「満井被告に対し、○○には8000万円の債務があり、○○の預かり証が存在することを認めている、という内容です」
 裁判長「それでは続いて、各弁護人のご意見をうかがいます」
 《最終弁論が始まる。緒方被告の主任弁護人の男性が立ち上がった》
 《両被告が問われている罪は、朝鮮総連側から現金計4億8400万円をだまし取ったとされる「現金詐欺」と、代金支払いの意思がないのに、朝鮮総連中央本部の登記を移転させて土地・建物をだまし取ったとされる「不動産詐欺」の2つだ》

《論告によると、重要な争点は、(1)現金詐欺をしようとして両被告が共謀したか(2)朝鮮総連側に対し、満井被告または満井被告が支配する投資家グループが運用している資金を引き揚げる際の違約金などの名目で、立て替え払いを要求したか(3)満井被告から緒方被告にわたった1億円は詐欺の報酬だったか(4)事件当時、両被告が東京・六本木の通称「TSKビル」の地上げに関与し、資金調達の必要に迫られていたか(5)朝鮮総連中央本部の土地・建物の所有権移転登記が完了後、両被告はすぐに35億円を支払う投資家がいると信じていたか-の5点に絞られている》
 《論告で検察側は、両被告が当時、最大で数百億円の利益が見込めるとされた「TSKビル」の地上げに関与し、金を必要としていた背景を説明。満井被告が「自分の支配するファンドから資金を調達するために必要な違約金」名目で、朝鮮総連側から金をだまし取ったと主張し、2人が共謀して、2つの詐欺を行ったと結論づけた。(3)の争点についても、報酬だったと断定した。弁護側は全面的にこうした内容を否定することが想定される》
 緒方被告の弁護人「被告は2つの詐欺事案で起訴されたものですが、いずれの事案についても無実であり、無罪です」
 《法廷の左右の壁に設置されている大型モニターには、「第1 はじめに」という文字から、「第2」に変わる。「被害者側の被害申告がないまま捜査が強行され、起訴に至っているという著しい特殊性は、捜査機関の思惑により無理やり事件が作り上げられたことを強く推認させる」といったことが書かれている》

 《緒方被告の弁護人は、朝鮮総連が整理回収機構(RCC)との民事訴訟に敗訴することにより、拠点となっていた中央本部の土地・建物を失う可能性が強まっていたことを説明していく。RCCとの間で、分割払いによる和解ができなかった背景としては、北朝鮮に厳しい姿勢を取っていた安倍晋三首相(当時)ら「官邸の意向」があったと説明した》
 「土屋(公献)弁護士(総連側の代理人)や趙氏(孝済・朝鮮総連の財務担当幹部)は債務減免などを金融庁に働きかけるなど奔走しましたが、日本政府、特に当時の安倍首相の強硬な態度により頓挫しました」
 「こうした中、協力を申し出たのが満井であり、緒方被告でした」
 《緒方被告の弁護人は続いて、朝鮮総連側の被害感情の薄さについても指摘する。検察側は被害感情が強いとしており、見方がまったく違う》
 「(朝鮮総連側は)捜査機関に被害届を出すなどした事実はなく、被害意識を感じた事実も一切ありません」
 《さらに捜査への批判を始めた》
 「通常は取り調べを行うことなどない特捜部副部長が、突如、東京拘置所に現れ、大声で怒鳴り机をたたき上げ脅迫するなど、極めて異例かつ異常な取り調べを行って無理やり自白させるなど、捜査は異例、異常ずくめの経過をたどっているのです」
 《そして“時事性”を交え、このように痛烈に総括した》
 「思い描いたストーリーに沿うように、供述をつくりあげていく過程は、過去の鑑定の誤りが明らかになり、確定判決がありながら受刑者を釈放せざるを得なくなった、冤罪(えんざい)であることが明らかな幼女誘拐・殺人事件と何ら変わることはありません」

《事件の固有名詞は出さなかったが、「足利事件」を指しているのは明白だ。続いて緒方被告の弁護人は、「いい加減に目を覚ませ。狂っているとしか思えない」「一生刑務所から出さない」「否認すれば刑が2割り増しだということを知っているだろう」「刑務所から生きて帰れると思ったら大間違いだ」などと、19年7、8月の取り調べで検察官から緒方被告がいわれたとされる言葉を列挙しながら、手法の不当性や、当時の緒方被告の「自白」が虚偽だったことを強調していった》
 「執拗(しつよう)な脅迫、恫喝(どうかつ)により絶望、動揺し、供述の自由を完全に失ったまま、緒方被告は『認めます』と口にしてしまいました」

【総連事件 最終弁論(2)】「獄中日誌」「取引」「証言迷走」…勢いづく弁護人(13:35~13:55)
2009.6.17 15:33
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171537013-n1.htm

《緒方重威被告の弁護人は引き続き、緒方被告が拘留中につづっていたメモ類の信憑(しんぴよう)性を主張する。その一方で、検察側が立件に向け、“ストーリー”に沿うように証言をゆがめるなどしたとして、その取り調べ過程に強い疑念を呈した》
 《弁護人はまず、緒方被告が拘留中につけていた「獄中日誌」の信用性を強調する》
 緒方被告の弁護人「検察官は証拠調べで、獄中日誌の中で、インクの色やペンの大きさが異なる部分があることから、後日、加筆したなどとしています」
 「しかし、インクやペンの太さについては、東京拘置所内で複数のボールペンを使用し、同所の規則により夜間になるとボールペンの芯のみが手元に残された状況で獄中日誌への記入を行うなど、筆記状況が一定ではありませんでした。インクの色やペンの太さが一定していないから恣意的、作為的であるなどとは到底言えません」
 「また、特に獄中日誌は、筆跡も乱れ、被告人の動揺したり迷ったりしていた心理状況が反映されています。そういう中で理路整然とした記載ではないから信用できない、などとも到底言えません」
 《弁護人が最終弁論書を読み上げる間、緒方被告は同じ文書をめくりながら、目で追っていた。一方、満井忠男被告は、自らのパートではないため、前方を向いて聞き流しているように見える》
 《このあと弁護人は、これまでの法廷で幾度となく主張してきた検察官の取り調べの不当性を改めて訴えた。そして、再び「足利事件」についても言及し、裁判所に訴えかけた》

「市井の無名な一私人であっても、重々しい経歴を有する元検事長の弁護士であっても、『お前がやったことは鑑定で明らかなんだ、お前が有罪であることは共犯者の自白から明らかなんだ』などと連日連夜、責め立てられれば、自暴自棄に陥り、絶望的な気持ちになり、虚偽の自白に追い込まれてしまうというのが、現在の日本の刑事司法における実態であるということに、裁判所はぜひ目を向けていただきたい」
 《弁護人は満井被告の調書についても、任意性が欠如していることを強調したが、詳細は省略した。続いて、朝鮮総連中央本部の土地・建物の購入資金の調達役とされる○○=元銀行員、有罪判決が確定=の証言について、弁護人の考えを述べ始める》
 「○○の検察官面前調書や当公判廷での証言にも問題が多々存在し、○○の調書と法廷での証言のみを特に信用すべき理由は見あたりません」
 《こう結論から述べた弁護人は、まず、○○が検察官から取引をもちかけられたような場面から切り出す》
 「1人だけ逮捕されていなかった○○が、検事から『現金詐欺では逮捕されていないんだから、ここは協力してもらうぞ』と言われ、自らの逮捕の可能性を認識しなかったとは到底考えられないのであり、むしろ、その可能性を強く認識、危惧(きぐ)して虚偽調書の作成に応じざる得なかったと認めるのが合理的です」
 「検察官は、起訴後の○○が検察官の取り調べそのものを拒否できたはずであるなどと強弁していますが、○○の置かれた状況を考えれば、単なる絵空事でしかありません。逮捕の可能性を強く認識していたとみとめられる○○が、取り調べの拒否などできたはずがありません」

《ここでも、弁護人は検察官の取り調べ手法を指弾し、元銀行員の証言に任意性がなかったと強調したいようだ。さらに、厳しい口調で検察側の捜査に疑問点を突き付けていく》
 「○○の供述は、捜査段階で取り調べに抵抗を示しつつも、結局は屈服し、あるいは迎合して検察のストーリーに沿った検察官面前調書の作成に応じました」
 「起訴後、○○は自らの公判を迎えるに当たり、おそらくは真実を述べる必要性を感じ、従前の検察官面前調書の内容を大幅に否定しました」
 「それにもかかわらず、検察官申請の証人として法廷に出廷するや、一度は否定した調書内容を再び肯定する証言をしたり、また、別の調書内容を否定するなど支離滅裂な状態にありました」
 「検察官も、○○の証言の一部を信用できるとしつつ、一部を信用できないとしています」
 《○○の“迷走ぶり”を強調した弁護人は、こう結論づけた》
 「○○には、自己の虚偽供述により、被告人や満井を陥れてでも、巧みに立ち回り最小限の責任しか取らずに逃げ切るべき強烈な動機も存在したことも見逃されるべきものではありません」
 《緒方被告は相変わらず、最終弁論書のページを表情を変えずに目で追っていた》

【総連事件 最終弁論(3)】「拉致問題にも悪影響」“義憤”にかられた?緒方被告(13:55~14:15)
2009.6.17 15:46
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171552014-n1.htm

《最終弁論を読み上げてきた緒方重威(しげたけ)被告の弁護人は、ここで女性に交代。緒方被告が朝鮮総連の窮状に共感し、資金確保に奔走した経緯を説明していく。口調は「です、ます調」ではなく、時折早口になりながらも、はっきりと書面を読み上げていく》
 緒方被告の弁護人「被告は満井(忠男被告)から、朝鮮総連がRCC(整理回収機構)から627億円の支払いを求める民事訴訟を起こされ、敗訴が見込まれていることを聞いた。『総連が中央本部としての土地・建物を確保し、引き続き使用するため、将来の買い戻しを条件としつつ、売却することを目指しているので協力してほしい』といわれた」
 《当初は元公安調査庁長官という立場もあり、断ろうと緒方被告が考えたことに触れた後、その“心意気”に触れた》
 「被告は検察庁内において、おもに公安畑を歩み、公安調査庁長官の地位にもあった経緯から、朝鮮総連を見守っていくうえで、拠点が固定されていた方が大局的に見れば、むしろ日本の国益に沿うと考えた」
 《検察官としての経歴から、緒方被告はきわめてマクロな視点で総連を見ていたという》
 「5年以内に日本と北朝鮮の国交樹立があると認識し、在日朝鮮人の権利保護に関して、被告が理解を示していることは有益に作用するであろうと考えた。また、現時点で在日朝鮮人を圧迫した場合、拉致問題のみならず、日本とアメリカによる北朝鮮との交渉にも悪影響を及ぼすと考えた」
 《国際ジャーナリストさながらの見立てで、民間人ながら日朝の架け橋になろうとした緒方被告の“志”を強調した。さらに、詐欺をしてまで利益をもくろむ理由がないことを語る》
 「(朝鮮総連中央本部の)土地・建物は、朝鮮総連が日本における大使館機能を有する中央本部として使用し続けてきた。しかも、多数の朝鮮総連関係者が日常的に使用している土地・建物なので、現実問題として、転売など利益の取得は到底不可能である。被告や満井(被告)はそれほど非常識で愚かな人間ではない」

 《ここで弁護士は語気を強めた》
 「被告は満井から送金された1億円が報酬であるとは一切考えなかった。満井が総連から受領した資金に由来することが分かるや、自己資金の5000万円を加えて、総連に返還している。このような行動自体が検察が指摘する(現金をだまし取るという)動機にはなりえない」
 《ここで男性弁護人に交代する。「風邪気味なので飲み物を飲むかもしれません」と断り、裁判長も了解した。緒方被告が終始、土地・建物が永続的に朝鮮総連本部として使えるようになることを目指していたと主張する》
 「土地・建物を30億円で売却するという話が進んでいたが、鑑定評価額が34億円だったことから、代金を35億円に増やすよう提案した。検察官はこの提案が現金追加詐取の一環として行われたとするが、売却が困難になるというリスクをあえて犯しつつ、35億円に引き上げるのは不合理であります」
 《そして、弁護士は力を込めて、緒方被告の無実を主張する》
 「資金調達が困難になったことを知った後も、投資家確保の努力を続けています。刑事事件の弁護を通じて知り合った不動産業界に精通した人物から『20億円なら提供できそうだ』という申し出を受けている。これらのことが、なにより被告人の無実を示しています」
 《さらに緒方被告が共犯として起訴され、1審で有罪判決を受けた元銀行員=有罪が確定=の○○に対して資金調達を厳しく催促したことに触れる》
 「滞在中の中国からも○○に催促の電話を繰り返したうえ、帰国した翌日も自身の法律事務所に呼び出して、資金の準備状況を確認しています。(総連の土地・建物の)所有権移転が完了してからは、『きょう35億円を持ってきてくれ』と強い口調で詰問しています。これに対し○○は、『まだ司法書士から登記簿を受け取っていない』『送金が遅れている』などと返答しました」
 《あくまで朝鮮総連のためを考えた行動を取っていたことを、弁護側は繰り返し強調していく》

【総連事件 最終弁論(4)】「検察官が事件捏造」“トホホメール”で反論(14:15~14:35)
2009.6.17 16:10
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171612015-n1.htm

 《緒方重威(しげたけ)被告の男性弁護人が、手元の資料を見ながら最終弁論を続ける。弁護人は、「(朝鮮総連に出資者として紹介した)航空ベンチャー会社社長のAさんが『明日でもあさってでも(資金が用意できる)』と話していた」という共犯の元銀行員の○○証人=有罪判決が確定=の言葉を緒方被告が信じ込み、自身も最後まで資金調達に奔走していたと主張。「Aさんに資金調達を断られたにもかかわらず、○○と共謀の上、朝鮮総連側にはすぐにでも調達が可能であるかのような説明をし、中央本部の土地・建物の売買契約を結んだ」とする検察側の筋書きに反論した》
 緒方被告の弁護人「送金日時などを確認する緒方被告の詰問に対する○○の返答は、ごまかしを述べながら時間を引き延ばそうとしている様子がありありと見て取れ、○○独自の打算に基づく行動であることがあらわになっています。Aさんが資金調達を断ったのが事実であるとすれば、緒方被告が○○に何度も資金調達結果を問い合わせたり、督促することはあり得ません」
 《○○証人の独断である証明として、○○証人がAさんへ送った携帯メールを持ち出した。その内容は、「案の定、緒方、土屋(公献・元日弁連会長)弁護士からお呼びがかかってしまいました。トホホ。」というものだ》

 「○○は予定通りの資金調達ができないため、追及を受けざるをえない哀れな心境にあったということです。緒方被告が○○と共謀して土地・建物を詐取しようとしていたのなら、○○が緒方被告から詰問を受けたりすることはありません。緒方被告は○○とAさんの言を信じてぎりぎりまで資金調達を期待し、その一方、○○は資金調達ができないことを知りながら、言い訳をしていた構図が浮かび上がってきます。それを、この“トホホメール”が物語っています!」
 《緒方被告の弁護人は強い口調で、緒方被告と○○証人の共謀を否定した。また、所有権移転登記の完了後も資金調達ができなかったことから、直後に緒方被告が登記を抹消したことを挙げ、緒方被告には土地・建物を詐取する意図がなかったことを説明。検察側の主張を批判した》
 「緒方被告は資金調達ができず、『総連側に迷惑をかけてしまう』と考え、直ちに対応しました。この姿は『緒方被告と満井忠男被告に、朝鮮総連からの返還要求をごねて拒み続けながら高値で転売する企図があった』とする検察官の論告要旨が、いかに真実とかけ離れたものであるかを明らかにしています」
 《検察側は、緒方被告が満井被告から受け取った1億円について「詐欺行為に対しての報酬であり、これを隠蔽(いんぺい)するため弁護人に借用書の作成を依頼した」と主張していたが、これについても弁護人は「検事の作文だ」と反論した》
 「弁護人2人を交えた検討の結果、(中央本部の)不動産取得税を納付するために、満井被告から預かっていた1億円を借用しようという結論に達し、借用書を作成しました。検察官側は、2人の弁護人が罪証隠滅工作に加担したとでも言いたいのでしょうか。そもそも、犯罪行為の報酬を隠蔽(いんぺい)するつもりだったら、弁護人に相談などしないはずです」
 《そして、最後にこう締めくくった》

「論告要旨は、借用書の作成経緯などについて根拠のない客観的裏付けを欠く暴論を振り回しています。このことは、本件が到底、犯罪とはならないものであるのに、検察官によって刑事事件として捏造(ねつぞう)された事件であることを示しているものであります。緒方被告は朝鮮総連の希望を実現するため、時には自ら関係者と会うなどの行動をしていました。検察官が思い描くような、当初から金目当ての計画的な詐欺であれば、わざわざ自ら動く必要もなく、適当な投資家をでっち上げ、現金や土地・建物を詐取すれば足りることです」
 《ここで、別の男性弁護人に交代した。休憩時間を意識したのか、弁護人が「私の読み上げは45分ぐらいかかりますが…」と言うと、裁判長が「(休憩は)それが終わってからにしましょう」と促した。法廷内の大型モニターには「第8 被告人が朝鮮総連からの現金詐取を行った事実がなく、被告人満井と共謀した事実もなく、(平成19年)6月11日ころに至るまで満井が現金を受け取った事実すらなかったこと」と表示されている》

【総連事件 最終弁論(5)】「検察官はでっち上げのストーリーを押しつけた」(14:35~14:55)
2009.6.17 17:10
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171712017-n1.htm

《緒方重威(しげたけ)被告の弁護人は、満井忠男被告が朝鮮総連から受け取った4億8400万円のうち、緒方被告へ渡った1億円が、詐欺の報酬ではなかったことを主張する》
 緒方被告の弁護人「緒方被告が報酬を要求したり、満井被告が朝鮮総連から受け取る金の中から、1億円を緒方被告の報酬として支払う約束をした事実はなく、満井被告も公判の中で『朝鮮総連から受け取った金から1億円を支払う約束した事実はない』と話しています」
 《さらにあくまでも朝鮮総連中央本部の土地・建物の売買交渉とは無関係の金であることをアピールする》
 「満井被告が『緒方被告に朝鮮総連から受け取った金の中から1億円を支払う』と告げたという検察官がでっち上げたうそのストーリーを、脅しと利益誘導を手段に満井被告に押しつけ、事実に反する供述調書に署名させていった。そのような調書は到底信用し得ません」
 《公判を通じて検察官の取り調べ手法を批判していた弁護側。続いて、緒方被告に詐欺報酬1億円が支払われたとする検察側の主張に具体的に切り込んだ》
 「緒方被告は18年5月ごろ、満井被告から『○(韓国の投資家)から(満井被告が実質支配する)医療電子科学研究所に対する事業資金として新たに60万ドル(約7000万円)が振り込まれる。その中に緒方被告への報酬も含まれている』と聞きました。また、○からも医療電子に対する事業資金に報酬を含めて60万ドルを送金する旨書かれたファクスが届きました」
 《弁護側は、緒方被告への報酬とされる1億円のうちの60万ドルについては、満井被告の依頼により、緒方被告が○氏に返金するために預けられたもので、報酬ではないと主張しているのだ》
 「満井被告は平成19年2月から3月ごろ、緒方被告に『○から18年3月10日に送ってきた60万ドルについては○に返さなくてはならない』と告げました。一方、満井被告は3月から4月ごろ、満井被告の通訳に対しても『医療電子の決算があるから、60万ドルを○に返さなくちゃいけない』と話した上、後日、来日した○に対し、60万ドルを返す方向で話をしていました」

《満井被告も、60万ドルは報酬でなく、○に返さなくてはならない金という認識だったことを強調する》
 「緒方被告もそのような満井被告の考えを了解していたところ、満井被告から電話で『前に話した○に返す金を医療電子から緒方被告の口座に送金するので、ドルに換えて○の口座に振り込んでほしい』と告げられたため、未返済のままになっている資金のうち、緒方被告の口座に振り込まれた60万ドルが、口座を経由して返済されることになったことを知りました」
 「そこで満井被告は、通訳を通して○に送金先の口座番号を聞きましたが、○は満井被告と進めていた航路ビジネスに関して満井被告が出資予定だった70万ドルの話と取り違えました。自分の口座番号と70万の送金を依頼するファクスを送信。満井被告は通訳を介して『今度送金するのは70万ドルでなく、緒方被告に関する60万ドルだ』と伝え、○の口座番号が書かれた紙片を緒方被告に渡しました」
 《弁護側は満井被告の通訳だった韓国人女性の証言内容を述べた。通訳によると、緒方被告と満井被告との間でなされていた60万ドルの返還手続きについて、具体的なやり取りがあったことから信用性が高いことを主張した》
 「通訳は偽証の危険を冒してまで特に有利な虚偽証言をする理由がなく、客観的事実を話している。ファクスを送信した経緯についても合理的に説明しています」
 「検察官は、満井被告が『19年4月末までに返金しなくてよいと緒方被告に告げた』とする供述などを根拠に、満井被告が緒方被告に60万ドルを○に返金して欲しいと依頼するはずがないと断じているが、それは通訳の証言を完全に無視したもので、極めて不当です」

【総連事件 最終弁論(6)】力こもる検察批判 総連側の証言も巧みに引用(14:55~15:10)
2009.6.17 17:23
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171725018-n1.htm

《緒方重威(しげたけ)被告が、満井忠男被告から受け取った1億円についてどのように認識していたのか、緒方被告の弁護人が、改めて主張する。緒方被告は「1億円が朝鮮総連の資金であったとは知らず、韓国人の知人に返済するため、振り込まれた資金だと信じ込んでいた」という主張だ》
 緒方被告の弁護人「満井の供述のうち、『平成19年4月25日に(緒方)被告の口座に振り込まれた7000万円について、もっぱら医療電子の決算対策であったという点は信用できないが…」
 《緒方被告の弁護人は、共犯者とされる満井被告の供述に疑問を呈しながら、緒方被告の弁護を展開していく》
 「(1億円のうち)平成19年4月25日に振り込まれた7000万円は、詐欺の報酬でなかったことは明確であります。被告の顧問税理士が、送金された60万ドルについて(満井被告が実質経営する)医療電子(科学)からの返済と誤認し…」
 《弁護人は、検察が緒方被告の税理士の経理処理ミスを鵜呑みにし、誤った見立てに基づいて、取り調べを行ったと主張する》
 「(検察は)7000万円は返済のための送金などではなく、本件詐欺の報酬であると決めつけた取り調べを行ったのです」
 「税理士の誤りは、極めて容易に発見できたにもかかわらず、検察官が作り上げた筋書きに沿うものであったために、誤りととらえられることなく簡単に見落とされました。被告を厳しく追及する手段として利用されたのであって、かような検察官の態度は極めて不当であり、厳しく指弾されるべきなのです」
 《弁護人は、東京地検特捜部の捜査や取り調べ手法を厳しく批判した。さらに、満井被告の供述調書についても批判を続け、「不自然」な点を次々に指摘していく》

「満井の検察官面前調書は、(緒方)被告が1億円の報酬を得たという検察ストーリーに照らして座りのよい調書にするため、圧力によって押しつけられたものです」
 「1億円の入金を7000万円と3000万円の2回に分けた理由として『1回で1億円を入金するという目立つことをしないため』と供述したことになっているが、2回に分けたところで、それぞれが高額であることには変わりなく、平成19年4月25日、と5月1日という近接した日時に行われているのです。目立たなくなるはずもなく、極めて不自然、不合理…」
 「(1億円のうち)3000万円は、被告の医療電子に対する貸付金の一部返済であって、詐欺の報酬ではあり得ないことは明白なのです》
 《弁護人は、準備された最終弁論を読み上げているようだが、検察側の捜査批判や要点は、力を込めて主張している。緒方被告と満井被告は、じっと聴いている。弁護人は、1億円の意味について、弁論のまとめに入る》
 「よって1億円は、7000万円が○(韓国人の投資家)に返済する資金、3000万円が被告の医療電子に対する返済であり、詐欺に関する被告への報酬ではあり得ません。そもそも、満井が朝鮮総連から現金を受け取っていることを(緒方)被告が初めて知ったのは6月11日ころです。満井との間で現金詐欺を共謀したことはなく、6月11日ごろ、現金交付の事実を総連側から聞かされ、驚愕したことも明らかなのであります」
 「許(宗萬・総連責任副議長)氏らは満井被告に渡した現金が4億数千万円にのぼることを打ち明け、驚愕した被告は手帳の6月11日の欄に『許さん 満井に4億 緒方先生用1000万円渡してある』と記述しました」

「満井の検察官面前調書は、(緒方)被告が1億円の報酬を得たという検察ストーリーに照らして座りのよい調書にするため、圧力によって押しつけられたものです」
 「1億円の入金を7000万円と3000万円の2回に分けた理由として『1回で1億円を入金するという目立つことをしないため』と供述したことになっているが、2回に分けたところで、それぞれが高額であることには変わりなく、平成19年4月25日、と5月1日という近接した日時に行われているのです。目立たなくなるはずもなく、極めて不自然、不合理…」
 「(1億円のうち)3000万円は、被告の医療電子に対する貸付金の一部返済であって、詐欺の報酬ではあり得ないことは明白なのです》
 《弁護人は、準備された最終弁論を読み上げているようだが、検察側の捜査批判や要点は、力を込めて主張している。緒方被告と満井被告は、じっと聴いている。弁護人は、1億円の意味について、弁論のまとめに入る》
 「よって1億円は、7000万円が○(韓国人の投資家)に返済する資金、3000万円が被告の医療電子に対する返済であり、詐欺に関する被告への報酬ではあり得ません。そもそも、満井が朝鮮総連から現金を受け取っていることを(緒方)被告が初めて知ったのは6月11日ころです。満井との間で現金詐欺を共謀したことはなく、6月11日ごろ、現金交付の事実を総連側から聞かされ、驚愕したことも明らかなのであります」
 「許(宗萬・総連責任副議長)氏らは満井被告に渡した現金が4億数千万円にのぼることを打ち明け、驚愕した被告は手帳の6月11日の欄に『許さん 満井に4億 緒方先生用1000万円渡してある』と記述しました」


【総連事件 最終弁論(7)】被告は「“無理筋”捜査の同情すべき被害者」(15:30~15:50)
2009.6.17 17:35
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171738019-n1.htm

《緒方重威被告の弁護人は続いて、緒方被告が朝鮮総連からの土地・建物を詐取しようと満井忠男被告や資金調達役とされた元銀行員=有罪判決が確定=と共謀した事実はないことを述べ始める。弁護人の狙いはあくまでも緒方被告を事件の“被害者”として位置づけることのようだ》
 緒方被告の弁護人「検察官は登記先履行により、朝鮮総連の土地・建物を支配下に置くことができ、被告人らが、その優位な状態を利用して巨利を得ようとたくらんでいたという構図を描いています」
 「しかし、土地・建物は、そもそも朝鮮総連の中央本部として利用中であり、今後もその利用を続けたいからこそ、(朝鮮総連側代理人の)土屋(公献)弁護士らが苦心してその確保のため動いてきたという経緯があり、登記移転を受けたからといって、被告人らが巨利を得るような現実的な方法は皆無でした」
 《検察側の事件の見立ての“強引さ”を主張したあと、こう厳しい口調で批判した》
 「検察ストーリーに沿って無理やり作成された被告人の検察官調書中の、資金調達の見込みがないまま土屋弁護士らをだまして売買契約を締結したという記載は、そもそもあり得ないことをあったとしているもので、荒唐無稽(むけい)であり、信用できません」
 《検察側の捜査の“不当性”を語気を強めて訴える被告人。一方、緒方被告については事件の構図の中で、“被害者”として位置づけようとしている》

 「高等検察庁検事長まで務めた法律家であるとはいえ、弁護士経験に乏しく、○○(元銀行員)やA(航空ベンチャー会社社長)のような合法と違法の境目でうごめくような人間の思惑を見抜く目がありませんでした」
 「○○らが被告人らを巧みに口車に乗せたというのが実態と認められます」
 《弁護人は元銀行員が犯行で中心的な役割を果たしたと強調したいようだ。さらにその矛先は元銀行員に向けられる》
 「○○がAに対しては資金調達を必至に依頼しつつ、被告人や満井に対しては資金調達が確実であると強調しました。被告人や満井は○○の言葉を信用し、(朝鮮総連側との)契約に至ったものと思われます」
 「○○は起訴後、『Aによる資金調達が可能であった』と供述を変遷させました。当公判廷での証言は変遷した末でのものであるこは見逃すべきではありません」
 「被告人および満井は、○○およびAにだまされ、資金調達が確実であると信じ込まされたものであって、詐欺の共犯ではなく、むしろ被害者なのです」
 《事件の“被害者”とされた緒方、満井両被告は、表情を変えることもなく最終弁論に目を通す。一方、弁護人はたたみ込むように読み上げを続ける》
 「生の経済活動に対する知識、経験の乏しさから、被告人が○○やAを安易に信用してしまったという側面が多分に認められます」
 「しかし、そういった『安易さ』『うかつさ』と、検察官が主張するような『詐欺の犯意を持って欺くこと』とは、全くの別物であって、同一視することはできないし、同一視してはならないのです」

 《ここで弁護人が交代し、ついに緒方被告弁護の総括に入る》
 「弁護団としては、裁判所が約1年余にわたり37回に及ぶ集中的な審理を重ね、真実解明のために多大な労力と時間を惜しまれなかったことに心から敬意を表します」
 《弁護人が裁判長の方を向きながらこう述べたが、裁判長は最終弁論書を読むため下を向いたままだった。弁護人はそれをやりすごして再び弁論書を読み上げ始めた》
 「本件は被告人が元公安調査庁長官・元検事長であり、また、被害者が国交のない国の在日組織であったことから、捜査、公判を通じ、社会の関心を集めた特異な事件であります」
 「本件の発覚後、当時北朝鮮に対する対立感情を強めていた安倍(晋三)内閣総理大臣(当時)が早々に不快感を表明したことから、法務・検察は内閣の意を体し、東京地検特捜部による独自捜査を指示し、間髪を入れずに捜査に乗り出している点がすこぶる特徴的であります」
 《弁護人は事件捜査の不当性を、当時の政治状況と重ね合わせながら早口で読み上げた》
 「本件捜査は、法務・検察の元身内に甘いという批判の高まりを避けたいという強い意向が反映されました」
 「そのため、被告人をしゃにむに断罪するべきであるという結論が先行し、組織防衛的な色彩を帯びた捜査となり、証拠を冷静、かつ細密に分析、検討したとは思われません」
 「朝鮮総連側も捜査機関に進んで被害届を出したり、被害を申告したりした事実はないし、終始被害にあったという認識がないのです。このような事実は、詐欺罪の成否を考える場合には、決定的ともいえます」

「そうした事実があるのに、検察官はその事実に目をつぶり、朝鮮総連をその被害者に位置づけ、強引に起訴に踏み切りました」
 「本件は、当初から予断と偏見による、いわゆる“無理筋”の事件として仕立て上げられたと批判されてもやむを得ません」
 《弁護人のリズム感のある検察批判は止まることはない》
 「被告人の法廷での供述は、誠実な性格と真剣な生き方を反映して、冷静沈着かつ理路整然としていました。客観的事実と符合する真実を一貫して供述しており、その内容は十分に信用するに値するものであって、公判審理が進むにつれ、起訴当時の検察官の構図は徐々に崩れ、今や起訴状記載の公訴事実は到底証明されたとは言い難い状況にあります」
 「本件起訴により、法務・検察に人生の大半をささげ、営々として築きあげた社会的地位と名誉を失った被告人こそ同情すべき被害者であり、その心情たるや察するにあまりあります」
 《最期に弁護人は、裁判長に無罪を訴えかけた》 
 「願わくば、裁判所におかれては、曇りない眼をもって虚心に証拠について検討、吟味されるならば、公訴事実について被告人が無罪であることは明白であると信じます」
 《最終弁論書を読み終えた弁護人は、安堵(あんど)した表情をみせた。緒方被告も弁論書から顔をあげ、前方の検察官をみすえた》

【総連事件 最終弁論(8)】「満井は裃(かみしも)を着る心」弁護人が決意表明(15:50~16:10)
2009.6.17 17:46
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171749020-n1.htm

《緒方重威被告側の最終弁論が終わった。法廷の空気が一瞬緩むが、満井忠男被告の弁護人が立ち上がると、スーツに派手なピンクのネクタイを締めた満井被告は、うつむいていた顔を上げた。弁護人はまっすぐ満井被告を見据える》
 満井被告の弁護人「被告人・満井は本日、裃(かみしも)を着る心。相当の覚悟で来ました」
 《正装をして“お白洲”に出てきた武士の心境ということだろうか。満井被告はまんじりともしなかった》
 「だまして金を奪ったということで起訴されているが、それは心外というものです」
 《弁護人は手元の書面に目を落とした》
 「そもそもは朝鮮総連がRCC(整理回収機構)から民事訴訟を起こされたということが発端です。RCCという会社は、国によってできた国策会社です。RCCの取り立ては大変厳しいものでした。朝鮮総連は(中央本部の)土地・建物を売却することで、お金を捻出しようとしました。大使館代わりに使っていた土地・建物ですから、売却できても、確実に(再び)買い取ってまた使わなくてはならない。そして買い主を探しましたが、難航しました。趙さん(孝済・朝鮮総連の財務担当幹部)らが、債務減免などを金融庁に働きかけましたが、うまくいきませんでした」
 《ここで弁護人は傍聴席を向き、訴えかけるように話し出した》

「RCCは国策会社です。RCCと朝鮮総連が、分割払いによる和解などができなかったのは、(北朝鮮に厳しい姿勢を取っていた)安倍晋三首相(当時)らの意向があったのです。記者たちの前で安倍首相は『(朝鮮総連中央本部の土地が)更地になったら見に行きます』などと言ったということです」
 《憤りを露わにする弁護人は、朝鮮総連側の代理人である土屋公献弁護士のメモを紹介しながら、一連の売却問題が「安倍マター」であったことを強調した》
 「当初、同胞の間でも売却の相手を探しましたが難しく、日本人の売却相手を探すことにしました。この売却相手を探すことの難しさについては…」
 《ここで大きく対面に位置する検察官の方向へ手を差し出した》
 「ここにいる検察官も論告公判で指摘した通りです。(買い手が)3社にまで絞り込まれたこともあったが、うまくいかなかったといいます」
 「こうした中、満井被告は平成19年3月、紹介者を介して、朝鮮総連側と引き合わされました。『(RCCとの訴訟で敗訴することを見越して)相当価格で売り、これを5年後に買い戻すことで対処したい。この売買話は公表できない』という依頼でした」
 《ここで弁護人は一息ついた》
 「満井被告とすれば、とことん身を投げ打って、(売却できる)相手を探したということです。真剣に支援していた。;詐欺に問われるのは心外と言えます」
 《“裃を着た心境”の満井被告はじっと前を見つめたままで、弁護人の声を聞き入っていた》

【総連事件 最終弁論(9)】傍聴人置き去り…「満井は無罪です。そういうわけです」(16:10~16:40)
2009.6.17 18:06
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171808021-n1.htm

 《満井忠男被告の男性弁護人は、満井被告が朝鮮総連中央本部の土地・建物売買にかかわることになった当時の状況について、説明を続ける》
 満井被告の弁護人「満井は政界情報を収集するために動きました。元外務大臣に相談し、マスコミの人にもこの件について聞きました。いずれも『これは安倍マターだ』ということでした。現総理大臣の麻生(太郎)さんも、そのようなことを言ったという経緯もあります」
 《これまでの公判によると、「安倍マター」とは、安倍晋三元総理の関わる案件、という意味であり、「元外務大臣」とは武藤嘉文氏を指している》
 《次に弁護人は、平成19年3月10日ごろ、都内のホテルで満井被告が朝鮮総連の許宗萬責任副議長と面会した場面について言及。この話し合いの結果、中央本部について売り渡し価格が30億円、使用損害金が年間3億円、5年後の買い戻し価格が35億円といった条件が決まったという》
 「満井としてはどういう立場だったかというと、金主を探すということで基本的にやっていました。満井が中央本部の土地・建物を買うつもりだったという話が検察官の主張の中でありましたが、これはありえません。満井が物件を買えば、名義が満井になる。どういう効果があるかは、みなさんもお分かりだと思います」
 《満井被告の弁護人は傍聴席の方を向いて訴えかけた。満井被告にとっては、中央本部を自分のものにしてもうま味がない、ということを言いたいようだ》

「安倍マターでもあるこの件で、お金を借りて所有権を移すのは大変な話です。(投資話を持ちかけた相手は)みんな『難しいよ』と言っていました。満井としては、そんな中で何とかしないといけないと考えていたのです。朝鮮総連側の人と、新宿のあるビルに受け皿会社を探しに行ったこともあります」
 《資金調達のために満井被告が奔走していたことを説明したところで、別の男性弁護人に交代した》
 「この事件そのものは、緒方(重威)さんが脚光を浴びてきていますが、実務は不動産の専門家である満井が担当していました。結果的にだまされましたが、○○(共犯で有罪が確定した元銀行員)を連れて来たのも満井です。そういう意味では満井の責任は重い。しかし、刑事ではなく、民事の交渉責任です。そういう意味では朝鮮総連、朝鮮民主主義人民共和国、在日同胞の方々に非常に迷惑をかけたことについて、満井は非常に真摯に思っています」
 《弁護人は満井被告に代わり、重々しく、関係者への謝罪とも取れる言葉を述べた。しかし、続いて「ですが、時間がないので省略をさせてください」と断ると、淡々とした様子で最終弁論の書面の内容について説明を始めた》
 「はじめに目次の1。満井は無罪です。そういうわけです。2は交渉経過ですね。申し訳ないんですが、傍聴の方々には分からないと思いますが、書面提出で代えさせてください」
 《手元の資料をめくりながら、弁護人はどんどん説明を進めていく》
 「9ページです。(19年)4月13日ごろの話です。ここも飛ばしながら読ませていただきます」

《満井被告はこの日、都内で○○証人と会う。○○証人は自ら投資家探しをしたいと申し出、候補として薬品販売会社の名前を挙げたという》
 「4月14、15、16日とこういう風に時間が経過します。時間がないので読み飛ばします。11ページが4月下旬の経過。そしてこっちが、4月下旬以降の経過。4月24日に(投資家候補として)都内の弁護士グループに会います。ここまで読んだことにしてください」
 《資料を持っていない傍聴人にはさっぱり内容が分からないが、弁護人はかまわず説明を続けた》
 《一連の経過を説明した後、弁護人は朝鮮総連側の代理人を務めた元日弁連会長、土屋公献弁護士の証言について触れた。土屋弁護士については体調などを考慮して、昨年3月、非公開で保全尋問が行われている》
 「土屋弁護士は当時、84歳という高齢でした。(元)日弁連会長ですが、記憶が正しいとは限りません。大弁護士ですが、年齢に伴う記憶の減退は別問題です。裁判所には予断なく判断をしていただきたいと思います」
 《土屋弁護士の証言の信憑性について、容赦なく疑問を呈する弁護人。また、弁護人は2件の冤罪事件を引き合いに出し、こうも話した》
 「氷見事件もそうだし、足利事件もそうですが、立証責任は検察官にあります。『完全にシロです』と証明するのは、DNA鑑定じゃないから無理です。土屋先生の記憶は大丈夫なのかということです」

【総連事件 最終弁論(10)】「西のナントカ、東の満井」 法廷に“真犯人”問う弁護人(16:40~17:10)
2009.6.17 19:11
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171912022-n1.htm

《満井忠男被告の弁護人は、平成19年4月23日、緒方重威被告が朝鮮総連中央会館の売買価格を30億円から35億円に上げるよう提案した経緯について、改めて説明している。価格を上げる交渉は、総連代理人だった土屋公献弁護士の事務所で行われたとされる。弁護人は準備した弁論書を読み進めているが、ときどき“脱線”気味に、自分の言葉で熱く語る》
 満井被告の弁護人「検察官の主張では、緒方被告が売買価格を従来の30億円から35億円に上げるよう提案したのは、(総連本部に毎年支払わせる)使用料を年間3億円から3億5000万円につり上げるためだとしていました」
 「しかし、実際には、この35億円というのは、『鑑定価格に合わせましょう』ということから出てきた話。RCC(整理回収機構)の判決が近かった手前、(鑑定)価格に合わせた方が、(財産隠しなどの批判を受けにくいため)安全ということになったんです」
 《弁護人は、売買価格を上げたのは利益目的ではないと強調しているようだ。23日の夜、満井被告と総連の許宗萬責任副議長が35億円という価格について、細かな取り決めがされた場面を、弁護人は改めて再現する》
 「ホテルで落ち合った2人は、改めて細かな取り決めを行いました。許さんは、年間の使用損害金が3億円から3億5000万円になることに難色を示していました。そこで、満井被告は自分に支払われた手数料1億1500万円から毎年2000万円、5年で計1億円を払うことを提案し、許さんはそれで承諾したんです。誰が詐欺をするのに2000万円出しますか」

 「その代わりに、朝鮮総連としても満井被告に配慮しようということになりました。『年間固定資産税の日割り負担分(1400万円)を満井被告にお持ちしよう』と許さんは言いました。それについて、許さんは翌日、総連の趙(孝済財務担当幹部)さんに説明しています」
 「法廷で趙さんは『(許さんから)あなたはそこまで出なくていい、と言われた』『取り調べでも重要だと思わなかったから、きちんと説明せずに流していた』と証言していました。誰が決めていたんですか。許さんじゃないのですか」
 《総連側で、主に満井被告らとの交渉に当たったのは趙氏だとする検察側のストーリーも改めて否定した。弁護人は、満井被告が「総連本部の売買代金が出資される」と信じていたと強調するため、共犯として有罪判決が確定した元銀行員の言動を“引用”する》
 「(19年5月下旬、元銀行員は)『カネは間もなく来る』と言っているんですよ。その日の夜に(満井被告が)『間違いないのか』と○○(元銀行員)に聞いているんです。土屋先生も聞いているんです。それで、『(総連本部の)登記(移転)が終わったら、カネが来ます』ということになったんです。それは詐欺でもなんでもないですよ」
 《弁護人はこう言って、改めて総連本部の登記移転が詐欺でないと強調した。そのうえで、元銀行員や、売買代金出資を約束したといわれている東京都内の航空ベンチャー会社社長のAさんの言動にも、疑問を呈してみせる》

「○○はAに、5月下旬から6月十何日まで、カネを頼むメールをしているんです。誰が真犯人でしょうか。本当に○○はAにカネを頼むつもりだったのか。Aは初めから、カネを出すつもりだったのか、なかったのか。(Aさんには金銭トラブルをめぐる)民事訴訟で敗訴したり、そういう話があります。しかし、弁護人には疑惑を指摘することしかできません。真相を明らかにすることはできません。なぜなら、権力がないからです。できるとしたら検察でしょうが、検察がするわけがない。…まだまだいいたいことがあるんですが、もう(午後)5時ですし、時間がないので、そろそろまとめに入ります」
 《「次に本件預かり金(総連から引き出した4億8400万円)の返済についてですが…」。弁護人は再び、弁論書を読み上げ始めたが、すぐに自分の言葉で話し始めた》
 「満井被告は○○に1億5000万円を(総連本部の)登記費用として交付しています。しかし、(売買)契約の不成就になりましたから、○○に返済を求めるべきですが、○○は2000万円戻したので、残額は1億3000万円になります。そういうことで(返済のために)民事訴訟を起こしています」
 《弁護人は、満井被告が総連から引き出した資金を返済しようとしていることを強調する》
 「満井被告は『保釈後、30日で返す』と言いました。『西のナントカ、東の満井』と言われましたが、満井は大変な業者です。しかし、全額は払っていません。一部の金額しか返していません。起訴されて、スポンサーでもいないかぎり、払えないのです。…(弁論書に)書いていることについては、朗読を省略しますが、読んだことにしておいて下さい」

《こう言って、満井被告の弁護人は弁論のまとめに入る》
 「検察のストーリーは架空のストーリーです。本件案件(総連本部売買)は非常に困難な案件で、それは検察側も認めています。(満井被告らが)『35億円で買ったもの(総連本部)を60億円で売れば、大きな差益が期待できるではないか』と考えたといいますが、総連の中枢機関が入っているんですよ」
 《満井、緒方両被告らが「総連本部の登記さえ移転させれば転売が可能になるから、後から売買代金も調達したうえで大きな利益を得られる」と考えたとする検察側のストーリーを、根底から否定しようとしている》
 「私の知人が担当している朝鮮学校も、占有権が問題になり、固定資産税をかけられたりしていますが、でも立ち退いていますか? 総連の合意がなければ立ち退かせることなんかできないのです。そうすると、目的がない。これは詐欺ではないんです。満井被告は無罪ですし、緒方被告は金銭(詐欺)にまったく関係ない。こう申し上げて弁論を終わります」
 《最終弁論が終わった。林正彦裁判長は、緒方、満井被告を証言席に立つように促し、「最後に言いたいことがあれば、言って下さい」。すると、緒方被告の弁護人が立ち上がって「緒方被告は書面で準備しています」と告げた。裁判長の許可を得て、緒方被告はゆっくりと準備した書面を読み上げ始めた》
 「公訴事実に関する私の主張は弁護人の弁論に尽きており、特に捕捉して多く述べることはありませんが、最後の機会でもあり…」

【総連事件 最終弁論(11)完】緒方被告「冤罪に泣く人つくらないで」 満井被告は涙を流して…
2009.6.17 19:28
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090617/trl0906171929024-n1.htm

《緒方重威被告は、林正彦裁判長の前の証言台に立った。陳述書を手に持ち、ゆっくりとはっきりとした声で最後の意見を述べ始めた》
 「まず、私はもっぱら朝鮮総連の窮状を見かねて本件取引に及んだものであり、検察がいうような利得目的で行ったものでは断じてありません」
 《冒頭から罪を否認する》
 「昨今、緊張の度を増している日朝関係の政治情勢下において、北朝鮮の対応には非難されるべきものがあることは確かです。そのことを決して否定するものではありません。しかし、だからといって朝鮮総連会館は、在日朝鮮の方々の権益擁護や故郷に残している家族、知人との大事な拠点であり、長らく大使館的機能を果たしてきたのであり、これが失われると、在日朝鮮の方々をいわゆる『棄民』の立場に追いやることになりかねません。従いまして、会館の問題はこのまま放置されてよいとは思われず、これがまさに私が本件取引にかかわった動機にほかなりません」
 《あくまでも人道上の観点から、土地・建物の取引にかかわったと強調した。初公判とほぼ同じ主張だ》
 「今回の事件で注目されるべき点は、検察が当時の安倍(晋三)政権の意向を鋭敏に察知するとともに、元身内の私に厳しく対処することによって、組織に対する批判をかわし、組織の防衛を図る必要があると考え、最初から極端に予断をもった捜査・処理を行い、『逮捕即起訴』という結論を先行させて、捜査段階における私の弁解には一切耳を貸さなかったことです」
 《元検事ならではの検察批判を展開し始めた。気持ちが乗っているのか、読み上げる速度が上がってきた》

「私は長年検察に奉職しましたが、検察には厳正公平、不偏不党という輝かしい伝統があり、多くの先輩から被疑者の取り調べに当たっては、一切の予断・偏見を排し、被疑者の弁解には虚心に耳を傾け、証拠によりその真偽を綿密に検証し、真実を確定していくということこそが、冤罪(えんざい)を生まないための鉄則であると教えられ、及ばずながらこの伝統に従い、自らを律し実践してきました」
 「しかし、今回の事件では、検察は『国益』と法務・検察の『省益』ないしは『庁益』を守るためには、初めから『緒方の起訴ありき』との結論を強引に決めて、真実をゆがめたストーリーを作り上げ、関係者の供述を不自然に操作して私を訴追したものです。もはや、その捜査手段は、目的のためには手段を選ばないという、なりふり構わぬ行き過ぎたものであり、およそ社会正義の実現というにはほど遠く、到底容認できるものではありません」
 《緒方被告の厳しい言葉を、検察官は身動きせずに黙って聞き続ける》
 「私は無実であり、無罪であります。そのような私にいわれなき嫌疑をかけ、全人生を奈落の底に陥れて恥じない検察に対し、憤りを禁じ得ません。これからの検察は、今回のような無理筋の事件処理を繰り返し、冤罪に泣く人をつくらないでほしい。国民の信頼を得る検察の存在意義を回復してほしいと願います」
 《「古巣」を批判した緒方被告は、ここで自らの反省点も語り始めた》
 「一方、私は自分にも反省すべき点がまったくなかったとまで思ってはいません。刑事責任に結びつくようなものではないにせよ、私の判断に甘さがあったことは率直に認めます」

「端的にいって、私は満井(忠男)被告らの話をひたすら信じて行動してきました。私はどちらかといえば、生来人を疑うことを快しとしない人間です。その意味で他人は私を『お人よし』と評するでしょう。そのような性格の持ち主だけに他人を疑わず、たやすく信用したために、結果として総連関係者に多大のご迷惑をお掛けするようなことになりました。誠に申し訳なかったと深く反省しております」
 《反省の弁を述べつつ、満井被告らに乗せられたということをアピールした》
 「今回の事件で逮捕、起訴されたことにより、私はこれまで築いてきた信用や地位のすべてを失いました。そして不本意ながら妻子をはじめ家族に苦労をかけ、さらに先輩、友人の信頼を裏切るような結果となりました」
 《緒方被告は陳述を始める前、陳述時間を5分程度と話していたが、すでに10分近くになっている》
 「有罪判決が確定するまでは、無罪の推定がはたらくという原則は、法律の教科書には書かれておりますが、現実の社会では逮捕、起訴という厳然たる事実によって、人はたやすく社会的生命を絶たれるということを身をもって体験しました。特に捜査段階における検察あるいはその関係者を情報源とするしか考えられない一連の事件報道は、あたかも私を早々に有罪と決めつけるかのように意図的に過大に歪曲(わいきょく)され、私や家族を嘆き悲しませるものでした」

《批判の矛先はマスコミにも及んだ。あくまでも自分は被害者と主張する》
 「しかし、そうした責め苦を負った私でも家族や先輩、友人が私を信じてくれたことで、それを支えに無罪判決を信じ、多数回の公判審理に耐えて今日に至りました。75歳を迎えた私にとって、今後どのような人生が待ち構えているかは知るよしもありませんが、かなうならば社会的弱者のための支援活動に微力を尽くしたいと考えております。どうか裁判所におかれましては、証拠を適正公平にご評価いただき、無罪の判決をたまわりますようお願い申し上げ、最終の意見陳述といたします」
 《最後に改めて無罪を主張。続いて隣に立っていた満井被告が意見陳述を始めた》
 「1年余りの裁判も今日で結審を迎えましたが、最後に一言いいたいことがあります。私は絶対に事件となるような行いをしていません。このたびの事件に関し、私は突如、予告なしに302日間も身柄拘束を受け、さらに1年以上も裁判をするという生活をしてきました。どう振り返って考えてみても、総連をだますつもりは毛頭ありませんでした。朝鮮総連側とは誠意を持って相談して事を進めてきましたが、迷惑をかける結果になったことはおわび申し上げます」
 《満井被告も冒頭から無罪を訴えた。陳述書は手に持っていない》
 「私は幼いときから、この日本が大好きでした。取り調べもそういう思いを持ちながら、取り調べに応じたこともありました。その私を検察は完全にだましました。どこに持っていったらいいか、この思いを1人でかみしめながら耐えた2年数カ月でした」

 「どうかこの事件を通してこの日本がよくなることを願いながら、自分をここまで励まし支えてきました。本当に長い時間を裁判長からいただきました。3月に判決にならずによかったと思うほど、時間が足りなかったように思います」
 《ところどころ意味が判然としないながらも、時折涙を流しながら自分の意見を述べた》
 「今はただ、本法廷で真心を持って訴えたことを固くお誓いし、本陳述とさせていただきます」
 《30回以上に上った公判もついに判決を残すばかりとなった。緒方被告がはっきりと意見陳述をしていたのに対し、満井被告はいすにつかまりながら終始疲れた様子だったのが印象的だった。判決公判は7月16日午前10時から開かれる》











極東ブログサンが、詳しく記事にしている。

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