2000年1月8日土曜日

【日米安保】 岸信介(「極東」の範囲)

  昭和35(1960)年6月23日、旧日米安保条約を改定した新条約。正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」と言い、一般的には「新安保条約」・「改定安保条約」、あるいは単に「日米安保条約」等と呼ばれている。

昭和27(1952)年4月28日に発効した日米安保条約(旧安保条約)であったが、更に米ソ両国を機軸とする東西両陣営の対立(冷戦)は激化。加えて、先の「敗戦国」日本が経済的に復興、再び「大国化」する事から、日本が経済力に見合った国際的な政治発言力・軍事力を標榜し、且つ、米国の軍事的隷属下から離脱する事を恐れた米国が、「同盟国」日本を、永遠に「米国の属国」としての地位に固定する目的で、旧安保条約を改定したとする意見もある。

これに伴い米国は日本に対して、名目的には「同盟国軍」と言いながら、実質的には「占領軍」として日本に駐留する米軍の「後方支援」を要求。所謂「思いやり予算」の拠出や『周辺事態法』の整備を通して、日本の隷属強化を図ったとする過激な意見も聞かれた。


日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

(Treaty of mutual cooperation and security between Japan and the United States of America)
1960(昭和35)年1月19日 ワシントンで署名
1960年6月19日 国会承認
1960年6月23日 批准書交換・効力発生
1960(昭和35)年6月23日 条約第6号

 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的な安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が(注、1)国際連合憲章に定める個別的または集団的自衛の固有の権利を有しているを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よって、次のとおり協定する。

     第一条(平和の維持のための努力)
締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武器の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
締約国は、他の平和愛好国と共同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

     第二条(経済的協力の促進)
締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

     第三条(自衛力の維持発展)
締約国は、個別的に及び相互に協力して、持続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

     第四条(臨時協議)
締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

     第五条(共同防衛)
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

前記の武力攻撃及びその結果として執った全ての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
     第六条(基地の許与)

日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持の寄与するため、アメリカ合州国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合州国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

     第七条(国連憲章との関係)
この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響を及ぼすものではなく、また、及ぼすものとして解釈してはならない。

     第八条(批准)
この条約は、日本国及びアメリカ合州国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

     第九条(旧条約の失効)
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合州国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生のときに効力を失う。

     第十条(条約の終了)
この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合州国政府が認めるときまで効力を有する。
もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意志を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行われた後一年で終了する。
以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。
千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

(両国全権委員氏名省略)
千九百五十一年九月八日にサンフランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二通を作成した。
日本国のために        

岸 信介 
藤山愛一郎
石井光次郎
足立 正 
朝海浩一郎

アメリカ合衆国のために    

クリスチャン.A.ハーター
ダグラス=マッカーサー2世
J.グレイアム=バーンズ

条約第6条の実施に関する交換公文

(岸・ハーター交換公文)
1960(昭和35)年1月19日 ワシントンで署名

   (日本側往簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に言及し、次のことが同条約第六条の実施に関する日本国政府の了解であることを閣下に通報する光栄を有します。

 合衆国軍隊の日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動(前記の条約第五条の規定に基づいて行なわれるものを除く。)のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする。

 本大臣は、閣下が、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
    千九百六十年一月十九日にワシントンで
岸 信介

 アメリカ合衆国国務長官 クリスチャン.A.ハーター閣下


   (合衆国側返簡)
 書簡をもつて啓上いたします。本長官は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。
   <日本側書簡省略>
 本長官は、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを本国政府に代わつて確認する光栄を有します。
 本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
    千九百六十年一月十九日
アメリカ合衆国国務長官 クリスチャン.A.ハーター

 日本国総理大臣 岸信介閣下


「極東」の範囲

昭和35(1960)年2月26日 政府統一見解

 一般的な用語として使われる「極東」は、別に地理学上正確に固定されたものでは無い。しかし、日米両国が、条約に言う通り共通の関心を持っているのは、極東における国際の平和及び安全の維持と言う事である。この意味で実際問題として両国共通の関心の的となる極東の区域は、この条約に関する限り、在日米軍が日本の施設及び区域を使用して武力攻撃に対する防衛に寄与しうる区域である。かかる区域は、大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている。(「中華民国の支配下にある地域」は「台湾地域」と読み替えている。)

 新(安保)条約の基本的な考え方は、右の通りであるが、この区域に対して武力攻撃が行われ、あるいは、この区域の安全が周辺地域に起こった事情の為、脅威されるような場合、米国がこれに対処する為、執る事のある行動の範囲は、その攻撃又は脅威の性質如何にかかるのであって、必ずしも前記の区域に局限される訳では無い。
 しかしながら米国の行動には、基本的な制約がある。すなわち米国の行動は常に国際連合憲章の認める個別的又は集団的自衛権の行使として、侵略に抵抗する為にのみ執られる事になっているからである。


事前協議の主題

昭和43(1968)年4月25日 衆議院外務委員会提出の政府答弁

 日本政府は、以下の様な場合に日米安保条約上の事前協議が行われるものと了解している。
1、「配置における重要な変更」の場合

陸上部隊の場合は1個師団程度、空軍の場合はこれに相当するもの、海軍の場合は1機動部隊程度の配置
2、「装備における重要な変更」の場合
核弾頭及び中・長距離ミサイルの持込み並びにそれらの基地の建設
3、我が国から行われる戦闘作戦行動(条約第5条に基づいて行われるものを除く。)の為の基地としての日本国内の施設・区域の使用


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注、1

国際連合憲章

(和訳現代文)
1945年6月26日署名 
10月24日発効 
(日本は56年12月加盟)
 われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によつて確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いること、を決意して、これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。

 よつて、われらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に会合し、全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、この国際連合憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機構を設ける。

     第一章 目的及び原則
   第一条
国際連合の目的は、次のとおりである。
国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によつて且つ正義及び国際法の原則に従つて実現すること。
人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
これらの共通の目的の達成に当つて諸国の行動を調和するための中心となること。

   第二条
 この機構及びその加盟国は、第一条に掲げる目的を達成するに当つては、次の原則に従つて行動しなければならない。
この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従つて負つている義務を誠実に履行しなければならない。
すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

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