2013年3月1日金曜日

遺伝子組換え食品


松永和紀氏の記事を残しておこうと思う。



遺伝子組換え食品 海外での
“大事件”が報じられない日本
「遺伝子組換えトウモロコシに発がん性」?~消費者の『知る権利』だけでは語れない表示制度問題
20130121日(Mon2013年02月01日  松永和紀 (科学ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2498?page=1
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2505?page=4
遺伝子組換え食品について2012年、海外で大きな “事件”がいくつもありました。フランス人研究者によって書かれた「遺伝子組換えトウモロコシに発がん性がある」とする論文をめぐる大騒動、米国カリフォルニア州で行われた表示をめぐる州民投票、米国で遺伝子組換えサケの食品としての認可へ近づいたこと……。
 どれも、欧米のマスメディアは大々的に報道しています。今後の遺伝子組換え食品の動向、つまりは、世界の食料情勢を検討するにあたっての重要材料だと思いますが、日本ではほとんど報道されていません。これでは、日本人は井の中の蛙になりかねないではありませんか! 2回にわけてご紹介しましょう。
フランス発
「ついに遺伝子組換えの有害性が明らかに」?
 まずは、発がん性研究の顛末。フランスCaen大学の分子生物学教授Gilles-Eric Séralini (セラリーニ)らが昨年919日、「除草剤耐性トウモロコシNK6032年間にわたってラットに与えたところ、乳がんや脳下垂体異常、肝障害などになった」とする論文を学術誌で発表し、一般メディアでも大々的に報じられました。
 このトウモロコシは既に米国やEU、日本でも安全性評価が行われ、「問題がない」として認可されています。それが発がん性あり、というのですから、本当なら非常に深刻な問題です。2年というのはラットのほぼ寿命にあたる期間で、こうした長期試験はこれまでほとんど行われた例がなく、「ついに遺伝子組換えの有害性が明らかとなった」と、EU内のメディアの多くがおどろおどろしい写真と共に報じました。
実は問題山積の研究だった
 しかし、発表後、すぐさま多くの研究者から反論が上がりました。実験がさまざまな条件を満たしておらず、信用に値しない、というのです。「食べさせたら、がんができたのだから、証拠は明白ではないか」と思う人が多いでしょうが、そうとは言えません。じつは、この手の食品の安全性を評価する動物実験をきちんと実施するのは難しいのです。
 食品はそもそも、非常に多くの物質を含みます。栄養成分や未知の成分があるほか、土壌中にある重金属や化学物質等も吸収し、栽培中にカビがつくとカビ毒が多くなり、農薬が使われれば残留します。そして、品種や栽培方法や気象条件、貯蔵方法等で、それぞれの含有量は大きく変わります。
こうした試験では通常、安全性の評価対象となる食品を与えるグループと、そうではない食品を与えるグループとを同じ条件で飼って比較します。今回の場合、遺伝子組換え技術が導入されているかどうか以外はすべて同じトウモロコシを2種、揃えないと、遺伝子組換え技術の影響を見る比較試験はできません。
 しかし、「同じ条件に揃える」というのは極めて難しいので、この手の発表が行われた時には、科学者たちは真っ先に、どのようにしてエサを調製し、どんな実験系を組んだかを吟味します。
 ところが今回の場合、論文にそもそも、飼料の詳しい情報が掲載されていませんでした。成分組成や貯蔵方法、含まれる可能性のある有害物質の含有量など、なにも書かれておらず、各々のマウスがどれだけの量を食べたかも不明です。まともな研究者の論文ではありえないことです。
 しかも、比較に必要なグループ数を満たしていません。また、こうした発がん性を検討する試験においては、一つのグループにおけるラットの数は最低50匹必要というのが国際的なガイドラインなのに、各グループのラット数はわずか10匹でした。これでは、統計学的に妥当な解析をすることはできません。
 そのほかにも問題が山積している研究でした。科学者らが次々に欠陥を明らかにして、最初は騒いだマスメディアも急にトーンダウン。最終的に、EUで食品の安全性についてリスク評価を行う「欧州食品安全機関」(EFSA)が11月、「実験設計と方法論の深刻な欠陥があり、許容できる研究水準に達していない。したがって、これまでのNK603のリスク評価を見直す必要はない」という見解を明らかにしました。6つのEU加盟国も独自に評価して同じ結論に達し、これにより騒動は終息しました。
「第三者には取材しない」というとんでもない条件
 これだけなら、おかしな科学者のおかしな実験結果で済むところ。しかし、この問題は、欧米でより深刻にとらえられています。それは、発表したセラリーニ氏にマスメディアやフランス政府が当初、やすやすと手玉にとられてしまったからです。
 学術論文は通常、掲載の少し前に報道関係者には公開され、掲載日までエンバーゴ、つまり「報道してはいけませんよ」という縛りがかけられます。報道関係者はその間に執筆した科学者に取材し、第三者にその研究に対する評価などを聞き、論文がオープンになったその日に、一般市民にもわかりやすい記事やニュースにして報じます。ところが、セラリーニ氏は記者に事前に論文を見せる条件として、第三者には取材しないことを約束させたのです。
 実は、セラリーニ氏は、遺伝子組換えにこれまでもずっと反対して来た研究者で、しかも、「遺伝子組換えが危険」と主張する論文や報告書を何度も発表し、そのたびにEFSAなどに「ずさんな研究」と批判されて来た経緯があります。
 セラリーニ氏は、取材する記者が論文を吟味し批判する力がないことを見越して、「第三者には取材しない」というとんでもない条件と引き換えに、記者たちに論文を見せました。そして実際に、新聞等にはおどろおどろしい写真と共に「遺伝子組換えに発がん性」という見出しが大きく出ました。フランスの首相も「研究が確かなら、欧州全土での禁止措置を要請したい」と発言しました。
 センセーショナルに報じられたのはわずか数日の話。でも、その後に、いくら「批判する科学者が多い」という続報が出たところで、それが最初のニュースの爆発的な拡散力に比べて小さく、影響力を持ちにくいことは、本欄読者も思い当たるところが多々あるのではないでしょうか。つまり、セラリーニ氏は「遺伝子組換えは危険」という宣伝に大成功したのです。
 メディアの取材力の低さ、エンバーゴの悪用、学術誌による掲載審査の甘さ、EUの中でも強硬な遺伝子組換え反対国であるフランス政府の軽率さ等々、さまざまな問題が、今回のセラリーニ氏の騒動で露になりました。
 興味深いのは、アメリカの経済誌「Forbes」。同誌は、セラリーニ氏の研究を一貫して批判し、マスメディアの一部が手玉にとられた顛末を報道しました。つまり、これは、一部メディアの科学報道の稚拙さ、という問題に留まらず、社会的、経済的に影響がある重大事だ、というのが、この雑誌の見解です。遺伝子組換え作物を全世界に売ってゆきたいアメリカ農業界、経済界の思惑が当然、反映されているでしょう。
一連の議論を知らない日本の一般市民
 ところが、日本のメディアはこの騒動をほとんど報じませんでした。セラリーニ氏が発表した時と、それに対する批判を「時事通信」がごく短く伝え、AFP通信の配信ニュースを翻訳し掲載するAFPBBNewsも伝えた程度です。
 遺伝子組換え作物は日本に大量に輸入されています。ISAAA(国際アグリバイオ事業団)によれば、日本は年間1800万トンの遺伝子組換え作物を輸入し、主に食用油や異性化糖などの原料、飼料として消費しています。日本の米の消費量が年間約860万トン(農水省まとめ)なのですから、遺伝子組換え作物の動向を無視はできないはず。なのに、今回の問題を社会的な事件として報じたマスメディアは、日本にはなかったのです。
 日本の食品安全委員会は、今回の研究結果について見解を表明しています。また、市民団体「サイエンスメディアセンター」日本支部は、セラリーニ氏の発表の翌日には、批判する科学者のコメントを翻訳してメディア関係者に流しましたし、「食品安全情報ネットワーク」もウェブサイトで、一般財団法人残留農薬研究所毒性部長の青山博昭氏のコメントを掲載しました。国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部第三室長の畝山智香子氏も、ブログで解説しました。
 ちなみに、私が運営している消費者団体「Foocom」のウェブサイト「Foocom.net」でも、10月はじめには有料会員向けのメールマガジンで「疑わしい研究」と報じ、どなたでも読めるウェブサイトでも10月末、宗谷敏氏が詳細な解説をしています。
 しかし、一般市民はこの欧米で大騒ぎだった事件を知りません。メディアが取り上げなかったのはこの時期、政局がらみの報道や原発問題、アメリカの大統領選などニュースが多く、細かくややこしい、この手の科学にまつわる動きを伝える必要性などなかったからだろう、と推測します。
 「みんなが政局がらみの取材をしているわけではないだろうに」と思われるかもしれませんが、新聞、週刊誌にしてもテレビニュースにしても、掲載される記事量や放送時間は限られるので、ほかの話題が食い込む余地はそれほど大きくはないのです。
科学報道の受け止め方
経験なしには“免疫力”もつかない
 その結果、「遺伝子組換えに発がん性」という間違った情報が日本の市民には伝わらず、よかった、という意見も、食品メーカーや組換え作物関係者にはあります。でも、世界から取り残された感は否めません。こうした経験は、市民が科学報道の受け止め方を学ぶ機会でもあるのですが、経験なしには“免疫力”もつきません。
 それに、遺伝子組換えの反対運動を繰り広げる市民団体などは、やっぱり断片的にセラリーニ氏の研究結果を利用しています。市民団体だけならよいのですが、民主党所属の参議院議員が11月末、参議員会館内で開かれた「映画を観て遺伝子組み換えとTPPを考える院内集会」を自身のブログで紹介した際、文頭で「フランスでGMトウモロコシの発がん性に関する衝撃的な実験結果が公表されました。GM作物は安全性が確認されていない事と、雑草も害虫も耐性を持ち結局農薬の使用は増え農業が破綻してしまうという問題があります」などと記しています。
11月末の時点で、セラリーニ氏の研究を持ち出して「GM作物は安全性が確認されていない」とするのは、参議院議員としては不適切でしょう。それに、「雑草も害虫も耐性を持ち結局農薬の使用は増え農業は破綻してしまう」という内容も、誤解を招きます。前半の「雑草や害虫も耐性を持ち」の部分は、米国で実際にそうした現象が指摘され、同国ではたびたび報道されています。しかし、「農薬の使用は増え農業は破綻してしまう」という証拠はなく、同国の農業関係者は、問題点を踏まえ遺伝子組換え作物を上手に利用していくためのさまざまな対策を講じています。でも、日本ではどちらの動きも一般市民には伝わらないのです。
 遺伝子組換えはやっぱり革新的な技術ですから、人によって賛否が分かれるのは当然です。が、賛成するにせよ、反対するにせよ、科学的な根拠、妥当性がなければ建設的な議論とはなりません。ところが、科学的な議論どころか、その前段階の、新しい情報、世界が白熱して議論している情報が市民に届かない、という状況に、日本は陥っているのです。
 アメリカ合衆国では2012年、大統領選で熱い闘いが繰り広げられ、オバマ大統領が116日圧勝しました。実はこの時、カリフォルニア州では遺伝子組換えの表示義務化の是非を問う州民投票も行われました。
 合衆国政府は、遺伝子組換え作物は非組換え作物と食品として同等である、という理由で、表示を義務づけていません。そこで、カリフォルニア州で独自の表示制度の立法運動が起こり、州民投票にまで持ち込まれたのです。そして、「表示イエス派」と「表示ノー派」が激しい運動を繰り広げました。
 日本では、食品としては同等であっても消費者には区別して選ぶ権利があるとして、検査で組換えと非組換えを識別できる食品については、表示が義務づけられています。
 カリフォルニア州法案も、消費者の「知る権利」を尊重すれば当然と見えます。ところが、法案の中身や解説文書をよくよく読んでみると、じつはそれほど単純な話ではありません。
有機食品を優遇する表示制度案
 消費者の知る権利、と言いながら、制度案の細部は矛盾だらけで、消費者の知りたいことがわかる、という制度にはなっていませんでした。制度案の中で目立ったのは、有機(オーガニック)食品を優遇する項目。世界の遺伝子組換え生物(GMO)の動向について詳しい宗谷敏氏は、FOOCOM.NETのコラム「GMOワールドII」の中でこう解説しています。
 『要するに、この表示制度はGM嫌いでこの世からどうしても抹殺したい一部の消費者運動活動家と、訴訟頻発による収入目的の弁護士たちと、シェア拡大を目論む有機食品のグループに、もしかしたら有機農産物の拡販に熱心な州政府も荷担しての「消費者の知る権利」をお題目にしながら、実は市場での一人勝ちを画策する「有機食品の、有機食品による、有機食品のための表示制度」でしかないのだ。』
 (提案された制度の細部については、宗谷さんのコラムをお読みください。複雑怪奇なこの案が、4回にわたって詳細に解説されています)
 有機食品については、FAO(国連食糧農業機構)とWHO(世界保健機構)が設置した食品の国際規格を決める組織「コーデックス委員会」で、ガイドラインが定められています。その中で、遺伝子組換え技術と技術を利用して作られた生物は利用しない、と決められています。
 そのため、有機農業関係者と遺伝子組換え関係者は常に対立してきました。カリフォルニア州は、アメリカの中でももっとも有機農業が盛んな州であり、これまでも郡や地区単位で、遺伝子組換え作物の商業栽培禁止を求める市民運動が起こされてきた経緯があります。
 カリフォルニア州はさまざまな環境運動、市民運動が盛んで、ハリウッドなども抱えてとかく目立つ州。市民団体の中には、カリフォルニア州で運動を仕掛け映画人を巻き込んでPRに努め、全米への波及効果を狙うところもあります。遺伝子組換えの表示制度は、他州の中にも検討中のところがあり、カリフォルニア州の州民選挙でもし制度が成立すれば、影響は小さくありません。
州民投票の結果は……
表示義務化イエス派の1位は、Dr.Joseph Mercolaの企業。「天然」などをうたうサプリメント を販売し、FDAから違法な表示や宣伝を止めるように何度も警告されているシカゴの有名医師。2位は有機農業を推進する活動家。3位以下にも、有機関係の企業や団体等がずらりと並ぶ。一方、表示ノー派には、遺伝子組換えの開発メーカーのほか、大手食品メーカー等が寄付をした。州民投票が「知る権利」というよりも、利害をめぐる闘いという側面が大きかったことが伺える (出典:MapLight
http://votersedge.org/california/ballot-measures/2012/november/prop-37/funding
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 こうしたことから、この州民投票は全米の注目を集めることに。「表示イエス」運動は有機食品の生産や販売関係者が後押しし、「表示ノー」は遺伝子組換え開発メーカーや大手食品メーカーなどが中心となり主張を展開しました。それぞれ、920万ドルと4600万ドルの資金を投入してPRし、全米のマスメディアがたびたび報道しました。表示制度が義務化されると、消費者の金銭的な負担が増えるという研究結果も、コンサルタント企業から公表されました。また、学術誌「Science」を発行している学術団体The American Association for the Advancement of Science(AAAS)は、10月に反対意見を表明しています。
 さて、州民投票の結果は?
 ロサンゼルス・タイムズはじめ主要各紙が、こぞって反対への投票を勧める社説を掲げたこともあってか、「表示ノー」が僅差で勝利をおさめました。
 日本人にとっての注目ポイントは、一見「知る権利」論争に見えて、内実は自らの利害を冷徹に計算し尽くした壮絶な攻防戦がカリフォルニア州で繰り広げられた、という事実でしょう。他州でも、遺伝子組換えの表示制度や栽培禁止を模索する運動が出てきています。前述の宗谷さんは、日本の食品製造や価格に影響を与える可能性を指摘しています。
 日本でも、組換え反対派(そこには、多くの有機農業者が含まれます)が表示制度の変更を求めており、一部の評論家などはカリフォルニア州の州民投票の結果が出る前は、「アメリカでもうすぐ、すばらしい表示制度ができる。それに引き換え日本は…」などと発言していました。そうした際には必ず、消費者の「知る権利」が引き合いに出されました。
実態は、そのような“きれいごと”ではない。ところが、このカリフォルニア州の州民投票も、日本のマスメディアは簡単に結果を報じたのみで、その内実に踏み込む報道はありませんでした。
「フランケンフィッシュ」?
遺伝子組換えサケの行方
 最後に、遺伝子組換えサケについて。遺伝子組換え作物はこれまで、トウモロコシや大豆など、飼料や油の原料などとして主に使われてきました。どこの国でも、消費者が直接食べる食品、いわゆるテーブルミートに組換え技術を導入することへの抵抗感は強くあります。そのため、組換え小麦等の開発もアメリカやEUなどで行われながらも、まだ遅々とした歩みです。
 ところが、アメリカで年末も押し詰まった1221日、食品医薬品局(FDA)が環境アセスメントにおいて、組換えサケが環境に重要な影響をもたらさない、とする結果を発表したのです。FDAは、すでに食べても非組換えサケと同等に安全とする評価を公表しています。今後は、環境アセスのパブリックコメントを経て、食品として認可するかどうか、最終ステップに差し掛かる、ということになります。
同年齢の遺伝子組換えサケ(大きい個体)と、非組換えサケ。開発したAquaBounty 社は、1950年代から60年代にかけて農業が飛躍的に生産性を高めた「緑の革命」にならい、海洋資源を守るための「青の革命」と位置づけている
(出典: Aquabounty社)  http://www.aquabounty.com
 この組換えサケは、別種のサケが持つ成長ホルモンの遺伝子が導入されており、成長スピードが2倍程度早いとされています。よく、組換えされた大型のサケと、同年齢の小さい非組換えサケが並んだ写真が掲載されるため、組換えサケはばかでかい、と思っている人が多いようですが、成魚の大きさ自体は変わりません。
 少ない飼料で育ち、しかも海ではなく内陸のタンクで養殖します。こうすることで、環境、消耗が激しい海の資源も守ることができるというのが、開発した企業の主張。たしかに、魚は中国の人口増で消費量が増えているうえ、欧米でもDHA等体によい成分が含まれ肉に比べて健康と推奨され、人気を集めています。今後も消費量は増えるとみられ、養殖にも期待がかかります。
 FDAは、環境アセスを行った結果、内陸で養殖され、しかも不妊化されたメスを飼育するので、逃げ出して野生のサケと繁殖して自然に影響を及ぼすリスクはきわめて低い、と結論づけました。しかし、遺伝子組換えには比較的寛容なアメリカ人であっても、食卓の皿の上に乗る魚が……と考えると抵抗感を覚えるのか、「フランケンフィッシュ」などと表現するメディアもあり、2013年のアメリカはおそらくこの問題で、大揺れになるはずです。
 そもそも、FDAのこの環境アセス案は、201254日の日付。FDAはこの内容の公表を何カ月も“塩漬け”にしていたのです。この行動は、賛成派、反対派の双方に波紋を呼んでおり、「今年は大統領選の年だったからね」とコメントしている市民団体もあることを、Natureニュースも伝えています。食は身近な問題で関心が高く、なおかつ、だれでも一家言持っているもの。オバマ大統領が選挙前の論戦を避けた、というのは、あながち外れていないだろう、と思えます。
 この問題、日本では朝日新聞が20121222日、報じました。しかし、G-searchの新聞・雑誌記事横断検索で調べても1321日現在、ほかのメディアはこの環境アセス案をまったく取り上げていません。
アバウトな情報ばかりで
是非を論じることもできない日本
 主な“事件”を駆け足で追いかけてきました。2012年が遺伝子組換え技術を巡って世界が大きく揺れた年であったことを、わかっていただけたと思います。
 2013年も年明け早々、英国の英国環境・食料・農村地域省のOwen Paterson大臣が「オックスフォード農業会議」の席上で、遺伝子組換え技術は農薬やエネルギーの使用量を減らし、リスクとベネフィットのバランスを検討すると、ベネフィットが非常に大きい技術だとして、支持を明確にしました。英国はこれまでも、遺伝子組換え技術を食料増産の一方策と位置づけ、近年はリスクコミュニケーションに力を入れています。改めてその姿勢を明確にしたのです。また、これまで過激な反対運動を続けてきた活動家が同じ会議で「科学的に検討した結果、これまでの活動をお詫びする」と謝罪し、遺伝子組換え推進の姿勢を明確にしました。この“転向”は英国だけでなく米国や他のEU各国、アジア、アフリカ等でも、大きな話題となっています。
 では、日本は? 日本人も前篇で書いたように、遺伝子組換え作物を食用油や清涼飲料水などの糖分などとして大量に摂取し、家畜の飼料に用い、その家畜の肉や卵、乳などを食べています。なのに、世界の動きが一般市民には伝えられず、報道されるのは、「TPPに参加すると、アメリカの制度と同じになるに決まっている」というような、あまりにもアバウトな話ばかり。これでは、是非を論じることもできない。この危機をこそ、皆さんに気づいてほしいのです。
参考文献>
FOOCOM.NETGMOワールドII」バックナンバー
http://www.foocom.net/category/gmo2/
・コーデックス委員会の有機食品ガイドライン(農水省訳)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/standard_list/pdf/cac_gl32a.pdf
Los Angeles Times社説
http://www.latimes.com/news/opinion/endorsements/la-ed-end-prop37-20121004,0,2668604.story
ScienceInsider Scientists Spar Over Wisdom of California Ballot Effort to Require Labeling of Genetically Modified Foods
http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2012/11/s
FDAの遺伝子組換えサケにかんするページ
http://www.fda.gov/AnimalVeterinary/DevelopmentApprovalProcess/GeneticEngineering/GeneticallyEngineeredAnimals/ucm280853.htm
NaturenewsTransgenic fish wins US regulatory backing
http://www.nature.com/news/transgenic-fish-wins-us-regulatory-backing-1.12130
The GuardianGM food: British public 'should be persuaded of the benefits'
http://www.guardian.co.uk/environment/2013/jan/03/gm-food-british-public-persuaded-benefits?INTCMP=SRCH
FOOCOM.NET 編集長コラム「遺伝子組換えサケ、あなたはどう思う?」
http://www.foocom.net/column/editor/8459/
・英国オックスフォード農業会議
http://www.ofc.org.uk/