本来ならば、北方領土が一括で4島返還となるのであれば問題はない。この北方領土が返還をされなかった理由には、日米安保も絡み複雑な問題となる。
そこで、まずは原点に返り2島返還から再度交渉を始めようというのが佐藤優氏や鈴木宗男氏の考えである。この考えは、沖縄の基地返還にもつながる現実的な考え方のようにも自分は思える。
そんな中、谷内正太郎氏のインタビュー(毎日新聞)が波紋をよんでいる。
【政治部遊軍・高橋昌之のとっておき】毎日新聞北方領土報道の不可解さ
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090502/plc0905021300002-n1.htm
2009.5.2 13:00
このニュースのトピックス:領土問題
「外交の戦略と志」(産経新聞出版)
初めまして。政治部遊軍キャップの高橋昌之です。政治部は首相官邸、与党、野党、外務省、防衛省などと担当が分かれていますが、「遊軍」はそうした枠を超えて取材し、記事を書くのが仕事です。その中で得た「とっておき」の情報を、MSN産経でお届けしたいと思います。
第1回目は宣伝で恐縮ですが、私にとって初の著書「外交の戦略と志-前外務事務次官谷内正太郎は語る」(産経新聞出版、1260円)が4月20日に発売されました。おかげさまで売れ行きは好調で、発売から4日後の24日に増刷が決まりました。書店に置かれていない場合もあるかと思いますが、各種インターネットの書籍通販でもご購入いただけますので、よろしくお願いします。すでにご購入いただいた方には感謝申し上げます。
谷内氏をめぐっては、毎日新聞が16日朝刊1面で、谷内氏がインタビューで北方領土返還問題について「『3・5島返還でもいいと考えている』と述べ、日本が領土交渉で4島すべての返還に固執すべきではないとの考えを明らかにした」と報道したことから、騒動になっています。産経新聞を含め、他紙は谷内氏らに取材しましたが、谷内氏は「そうした発言はしていない」と否定しました。
毎日新聞によると、インタビュー時間は約40分間だったそうですが、私はこの本をまとめるにあたって、昨年8月から長期間にわたってインタビューを行っています。その私からすると、谷内氏が「北方領土返還を3・5島で済ませよう」と考えているはずはないと思います。
実際、同書の中でも谷内氏は「領土について安易に妥協することは、外国から軽蔑されることになる」などと述べ、あくまで4島返還を求めていく考えを示しています。また、産経新聞4月28日朝刊のインタビューでも、谷内氏は北方領土問題の解決について「『北方四島の日本への帰属が確認されれば、実際の返還の時期、態様については柔軟に対処する』という基本方針が大前提」と述べ、4島の返還を求める考えに変わりはないことを明らかにしています。
では、なぜ毎日新聞があのような内容の報道をしたのでしょうか。不可解な点がいくつかあります。まず、毎日新聞によると、谷内氏のインタビューは4月9日に行われたそうですが、報道されたのは16日で1週間の時間差(タイムラグ)があります。もし、毎日新聞が「谷内氏の発言は政府方針を変更するものだ」ととらえたのであれば、インタビュー翌日の10日に報道したはずです。私ならそれだけの重大発言を引き出したら、そうするでしょう。
また、谷内氏の関係者によると、毎日新聞はインタビューの際に「今の発言は4島返還にこだわらないということですか」「政府方針を変えるということですか」などの追加質問はしておらず、掲載まで1週間あったにもかかわらず、谷内氏に対して再度確認する取材は全くしていないそうです。これも私なら、記事の正確さを期すため、確認取材をすると思います。
私は平成3年から1年間、13年から1年間はキャップとして外務省を担当し、現在も取材を続けています。新聞記事は正確さがまず第一に求められますが、外交に関する記事は国益を左右するので、なおさらそうです。
実際、今回の毎日新聞の記事はロシア国内でも報道されました。誤ったメッセージをロシアに与え、北方領土交渉を難しくさせてしまう可能性があるのです。
毎日新聞のインタビュー記事は世間の目を北方領土に再び向けさせた点は「評価」できますが、外交記事はより綿密な取材や、「ウラ取り」といわれる確認取材が必要だと思います。偉そうに書きましたが、私も自らを戒めて正確な報道に努めたいと思っています。
北方3.5島返還論 官房長官「政府代表の個人見解」
2009年4月17日11時33分
http://www.asahi.com/politics/update/0417/TKY200904170146.html
河村官房長官は17日の記者会見で、谷内正太郎政府代表が北方領土問題をめぐり、「個人的には(四島返還ではなく)3.5島返還でもいいのではないかと考えている」と毎日新聞のインタビューに述べたとの同紙の報道について、「政府はインタビュー記事のような考え方をとったことはない」と語り、四島の日本への帰属を確認するという政府方針に変更はないとの考えを示した。谷内氏は前外務事務次官で、今年1月、重要な外交交渉を担当する政府代表に起用された。2月に麻生首相がメドベージェフ・ロシア大統領とサハリンで行った日ロ首脳会談にも同席している。首相は首脳会談の際、記者団に「向こうが2島、こっちは4島では進展しない」と述べており、谷内氏の発言が首相の意向を踏まえたものではないかとの憶測を呼びそうだ。外務省首脳は谷内氏の発言について「全く、そういうことはない。そういう立場の人が言うことでもない」と不快感を示した。毎日新聞によると、谷内氏は「(歯舞、色丹の)2島では全体の7%にすぎない。択捉島の面積がすごく大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20~25%ぐらいになる」と指摘し、「折半すると、実質は四島返還になるんですよ」と語ったという。
河村長官「帰属に触れず誤解生まれた」 谷内氏の北方領土発言
2009.4.21 10:50
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090421/plc0904211050004-n1.htm
河村建夫官房長官は21日午前の記者会見で、谷内正太郎政府代表が毎日新聞の取材に対し北方領土に関して「個人的には3・5島返還でもいい」と語ったとされる問題について「北方4島の帰属を明確にするという大前提に触れていなかったため誤解が生まれた」と述べ、谷内氏の説明が不十分だったとの認識を示した。その上で「政府が3・5島返還の方向で考えているのではないか、という誤解を与えたのであれば問題だ。極めて遺憾だ」と強調した。同時に「政府は、4島の帰属問題を解決しロシアと平和条約を結び、4島の返還について具体的な実現方法を考えるという方針に変わりはない」と語った。
中曽根外相「谷内氏は誤解与えた」 3・5島返還発言で
2009.4.21 11:38
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090421/plc0904211139009-n1.htm
中曽根弘文外相は21日午前の記者会見で、谷内正太郎政府代表(前外務事務次官)が北方領土問題に関する毎日新聞のインタビューで「3・5島返還でもいいと思っている」と発言したとされる問題について「谷内氏は誤解を与えうる点があったかもしれないとしており、結果として誤解を与えた」と述べ、谷内氏を厳重注意したとあらためて説明した。ただ中曽根氏は「谷内氏はそうした発言はしていないということだ」とも述べ、3・5島返還を容認するとの意図はなかったと重ねて強調した。その上で「本人も反省している。今後も仕事をしてもらう」と進退問題には波及しないとの認識を表明。同時に、谷内氏からあらためて事情聴取することはせず、毎日新聞に対しても抗議する考えはないと述べた。
【佐藤優の眼光紙背】谷内正太郎政府代表に対する非難は正しい情報に基づいているのだろうか?
2009年04月28日11時00分
佐藤優の眼光紙背:第49回
5月12日にロシアのプーチン首相(前大統領)が訪日する。このときには、北方領土問題に関する交渉も行われる予定だ。この関係で、日本政府が北方四島は日本領であるという原理原則を崩しているのではないかという憶測が流れている。
4月17日毎日新聞朝刊に掲載された、谷内正太郎政府代表(前外務事務次官)の発言をめぐる次の記事が憶測を呼ぶことになった。
北方領土問題 返還「三島と択捉島の一部でも」 谷内・前次官、交渉打開案に言及
日露間の懸案となっている北方領土問題の解決を巡り、前外務事務次官の谷内正太郎政府代表は16日までに毎日新聞のインタビューに応じ、「個人的には(四島返還ではなく)3・5島返還でもいいのではないかと考えている。北方四島を日露両国のつまずきの石にはしたくない」と述べ、日本が領土交渉で四島すべての返還に固執するべきではないとの考えを明らかにした。
北方領土に関しては、2月18日にロシア極東のサハリンで行われた日露首脳会談の際、麻生太郎首相とメドベージェフ大統領は「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」で協議を加速させることで一致している。谷内氏は、外務次官時代から麻生首相のブレーン役を務めてきており、2月の首脳会談にも同行している。谷内氏の発言は、前大統領で現ロシア政権に強い影響力を残すプーチン首相の5月来日を前に注目を呼びそうだ。
谷内氏は「(歯舞、色丹の)2島では全体の7%にすぎない。択捉島の面積がすごく大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20~25%ぐらいになる」と指摘した。政府は歯舞、色丹、択捉、国後の四島の帰属をロシア側に求める立場を崩していないが、麻生首相は先の日露首脳会談の際、記者団に「向こう(ロシア)が2島、こっち(日本)が4島では進展がない。政治家が決断する以外、方法がない」と強調。谷内氏の発言は麻生首相の意向を反映したものとみられる。>
この記事に対して、谷内氏が「国賊」であるというような批判が展開されている。袴田茂樹青山学院大学教授、丹波實元駐露大使らが谷内氏を弾劾するための意見広告を新聞に掲載するために募金をしているという。
しかし、ここで一歩立ち止まって、冷静に考えてみる必要がある。まず、谷内氏自身は、「3・5島の返還で、平和条約を締結する」と述べたことはない。日本政府の原則は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の日本に対する主権を確認して平和条約をつくるというものだ。これは原則であり、譲ることはできない。
他方、外交には相手がある。「まず北方四島返還を約束せよ。それから話をする」というのでは、ロシアは絶対に交渉に乗ってこない。ロシアの乗せるために柔軟な姿勢を示すことは、交渉術として「あり」だ。
不良債権処理を考えてみよう。4億円の不良債権がある。相手が「とりあえず3億5千万円払います」というとき、まずそれを受け取って、残り5千万円を取り戻すべく交渉することのどこがおかしいのだろうか。
北方領土に関しても、現段階では2島、次の段階で3島など段階的に問題を解決する可能性を当初から排除するべきではない。米国との戦後処理も、まず奄美、次ぎに小笠原、そして最後に沖縄の施政権が返還された。
現時点で毎日新聞は谷内氏とのインタビューテープを公表していない。谷内氏が何を発言したか、ほんとうに3・5島返還で平和条約を締結すると考えているという認識を表明したというには、情報が決定的に欠けている。谷内正太郎政府代表に対する非難は正しい情報に基づいているのだろうかと筆者は首をかしげている。
柔軟性を欠いたナショナリズムを煽り立てる発言をはき続けても、北方領土は日本に近づいてこない。(2009年4月26日脱稿)
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