高速道路無料化は2つのステップでできます。ステップ1は、国が旧道路4公団の借金を肩代わりします。
国が高速道路建設のコストを負担するわけですから、高速道路も普通の国道と同じになります。
この時点で、高速道路の通行料金を取る根拠がなくなりますから、無料化が実現できるわけです。
次のステップとして、肩代わりした借金を国が返済します。国は、国債などを通じて独立行政法人よりも
低い金利で借金できます。
高速道路無料化を実現するための手法を財務用語で言えば、デットアサンプション(債務承継)です。
不良子会社の高金利の借金をなくして親会社の低金利の借金に置き換える時などに、欧米では一般的な
手法です。
国の借金が増えても独立行政法人の借金は減りますから、連結会計で見れば借金額は変わりません。
むしろ、国の方が、金利が安くまた返済期間も短くできますから、全体としてはコスト削減ができるのです。
現在の試算では、期間が様々な長さの国債を市場実勢に応じて発行すれば、30年間で年間2兆円の
財源があれば、肩代わりした旧道路4公団の40兆円余りの借金はすべて返してしまうことができます。
つまり、年間2兆円あれば、高速道路無料化は実現できるのです。
小泉さんは日本の道路財源は余っていると言いました。福田さんは、年間2兆5000億円に上る暫定
税率上乗せ分の自動車ユーザーから取り立てている税金は、自動車ユーザーに還元したいと言いました。
それならば、その中から年間2兆円を高速道路無料化の実現に充てればいいのです。自動車
ユーザーにとっては、税金の上乗せ分は残りますが、毎年約2兆6000億円も払っている高速料金が
なくなりますから、その分の負担が減ります。
もちろん、高速道路の借金返済に充てる分新しい道路建設に回す財源は減りますが、小泉さんも
安倍さんも道路財源が余っていると言ったわけですから、やりくりすれば大丈夫でしょう。
それより、全国の高速道路がタダになれば大きな経済効果が生まれますから、新しい一般道路を
作るよりも地域経済にもプラスでしょう。
(中略)
このように、財源だけ見れば全国すべての高速道路の無料化が可能です。しかし、首都高速や
阪神高速を無料にすれば、渋滞がひどくなるでしょう。そこでオプションもあります。
欧米の一部で実施されているように、混雑緩和のために大都市部だけは料金を取ったり、時間や
混雑に応じた料金の徴収をするロードプライシングを行ったりすることです。もちろん、料金は
財政収入になります。
首都高速と阪神高速の料金収入は年間4300億円程度ですから、日本全国の高速道路における
年間管理費5900億円の8割強をこれだけで賄えます。もちろん、今検討されている阪神高速での
料金の大幅な値上げは必要ありません。
(後略)
高速道路は無料にできる
地方が豊かになり日本は新たな発展ステージへ
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071009/137073/
新政権下の国会で、高速道路の無料化が論点になりました。
まず、自民党の伊吹文明幹事長が、民主党のマニフェストにある高速道路の無料化は財源のメドがなく無責任と批判しました。総理への代表質問のはずが野党の政策を批判したわけです。
これに対して民主党はまだ明確に答えていません。
結論から言いましょう。高速道路はタダにできます。その財源は十分にあります。歴代政府の政策や方針そのものが、それを証明しているのです。
受益者負担の約束をホゴにすべきではない
来年度予算で最大の問題になりそうなのが、道路財源の取り扱いです。少し解説しましょう。
小泉純一郎元首相が、道路はもう十分ある、だから、道路財源を他の予算にも回せるようにしよう、と言い出しました。これが、道路財源の一般財源化です。この方針を安倍晋三前政権も引き継ぎましたが、実行する前に政権が終わってしまいました。福田康夫政権はこの問題に決着をつけなければいけない運命にあります。
というのは、自動車ユーザーが負担している税金のうち、約2兆5000億円にも上る部分が、何もしなければ来年からなくなるのです。これが道路財源の暫定税率の上乗せ分です。
日本の自動車ユーザーは、消費税も含めて現在10種類、総額9兆円を上回る税金を払っています。このうち、揮発油税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税、地方道路税については法律で決めた本来の税率のほぼ倍の税金を取っています。その上乗せ分だけで2兆5000億円余りに達します。
税金の上乗せが始まったのは1974年、田中角栄政権の時代でした。
日本は高度成長の真っ只中、石油ショックを跳ね返すためにも全国に道路を作るんだ、それには財源が足りないということで、税金を上乗せすることが暫定的に決まったのでした。
それが道路財源の暫定税率でした。受益者負担が大義名分でした。
道路が整備されれば自動車ユーザーはメリットがあるのだから、高い税金を負担するのは当然だ、ということでした。それから今に至るまで、道路整備5カ年計画が作られるたびに、暫定税率が維持されてきました。そして、今年度でその期限が切れるのです。
歴代自民党政権の大前提は、この暫定税率は維持し、自動車ユーザーから上乗せ分の税金を取り続けるというものです。
そのうえで、当時の小泉純一郎首相は一般財源化、すなわち社会保険庁の不始末の穴埋めでも銀行の不良債権処理の損の後始末にでも何でも、自動車ユーザーから道路整備のためにといって徴収した税金を充てる、と言ったわけです。
受益者負担の約束はホゴにされます。税の専門家でなくても、そんなことは筋が通らないことは分かります。もし一般の財政目的に充てるのであれば、消費税を自動車やガソリンにかければ終わりです。
デットアサンプションで借金は小さくできる
そこで行き詰まった福田首相は、暫定税率による上乗せ分はやはり道路関連に使うという方針を打ち出したのです。その中には環境関連なども含まれますが、何のことはない、今まで通りの新しい道路作りに巨大な予算を使おうという本音が透けて見えています。結局何も変わらないわけです。
そんなムダを続けるよりも、自動車ユーザーから取り上げている道路財源を高速道路の無料化に使えばいいのです。
旧道路4公団の借金は40兆円余り。これがあるから通行料金を取っています。民営化による借金返済計画は45年です。その間、世界一高い通行料金を取るのです。
借金を肩代わりした独立行政法人は国債よりも高い金利で借金しています。今後金利が上がればコストは上昇し、借金返済は遅れます。
高速道路無料化は2つのステップでできます。ステップ1は、国が旧道路4公団の借金を肩代わりします。国が高速道路建設のコストを負担するわけですから、高速道路も普通の国道と同じになります。
この時点で、高速道路の通行料金を取る根拠がなくなりますから、無料化が実現できるわけです。次のステップとして、肩代わりした借金を国が返済します。国は、国債などを通じて独立行政法人よりも低い金利で借金できます。
高速道路無料化を実現するための手法を財務用語で言えば、デットアサンプション(債務承継)です。不良子会社の高金利の借金をなくして親会社の低金利の借金に置き換える時などに、欧米では一般的な手法です。
国の借金が増えても独立行政法人の借金は減りますから、連結会計で見れば借金額は変わりません。むしろ、国の方が、金利が安くまた返済期間も短くできますから、全体としてはコスト削減ができるのです。
タダになった道路の経済効果は極めて大きい
現在の試算では、期間が様々な長さの国債を市場実勢に応じて発行すれば、30年間で年間2兆円の財源があれば、肩代わりした旧道路4公団の40兆円余りの借金はすべて返してしまうことができます。つまり、年間2兆円あれば、高速道路無料化は実現できるのです。
小泉さんは日本の道路財源は余っていると言いました。福田さんは、年間2兆5000億円に上る暫定税率上乗せ分の自動車ユーザーから取り立てている税金は、自動車ユーザーに還元したいと言いました。
それならば、その中から年間2兆円を高速道路無料化の実現に充てればいいのです。自動車ユーザーにとっては、税金の上乗せ分は残りますが、毎年約2兆6000億円も払っている高速料金がなくなりますから、その分の負担が減ります。
もちろん、高速道路の借金返済に充てる分新しい道路建設に回す財源は減りますが、小泉さんも安倍さんも道路財源が余っていると言ったわけですから、やりくりすれば大丈夫でしょう。
それより、全国の高速道路がタダになれば大きな経済効果が生まれますから、新しい一般道路を作るよりも地域経済にもプラスでしょう。
国土面積当たりの道路密度は先進国の中で日本が一番多い
高速道路の借金返済に充てた残りは、環境技術の開発などに使ったらどうでしょうか。日本の自動車は、ハイブリッド車などエコ技術では世界一です。
また、自動運転や衝突回避などの安全技術も世界最先端です。しかし、社会システムの整備は遅れています。ガソリン消費が少なく排ガスがない車や交通事故を起こさない車が日本社会に普及するために予算を使えば、21世紀も日本は世界一の自動車大国の地位を保てるでしょう。
このように、財源だけ見れば全国すべての高速道路の無料化が可能です。しかし、首都高速や阪神高速を無料にすれば、渋滞がひどくなるでしょう。そこでオプションもあります。
欧米の一部で実施されているように、混雑緩和のために大都市部だけは料金を取ったり、時間や混雑に応じた料金の徴収をするロードプライシングを行ったりすることです。もちろん、料金は財政収入になります。
首都高速と阪神高速の料金収入は年間4300億円程度ですから、日本全国の高速道路における年間管理費5900億円の8割強をこれだけで賄えます。もちろん、今検討されている阪神高速での料金の大幅な値上げは必要ありません。
高速道路無料化は道路だけでなく、交通のあり方、さらには、どこで仕事をし、どこに住むか、という国土のあり方を変えていきます。小泉さんが言う通り、日本の道路は、過疎地域や首都圏環状道路などを除けば、全体としてはもう十分あります。
日本は、国土面積当たりの道路密度はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でナンバーワンです。日本に道路が足りない、というのは国際的には唖然とする主張です。
それなのに、日本の年間道路予算はドイツ、英国、フランス、イタリア4カ国の道路予算の合計の2倍です。ドイツ、英国では、その予算の中から高速道路の建設もメンテナンスも行っていますから料金は無料です。特に英国の道路予算は年間8000億円程度に過ぎません。
問題は、日本の道路が有効に使われていないことです。大都市の渋滞で車は排ガスをまき散らし、ガソリンと時間が空費されます。一方、地方の道路はやたら空いています。
そして、ムダの最たるものが高速道路です。バカ高い通行料金を取るから東京湾アクアラインも本四架橋もガラガラです。おかげで、料金が安いフェリーが四国と関西の間で復活しています。
何のために本四架橋を作ったのか分からなくなりました。北海道や東北の高速道路も使う人は稀です。住民は無料の一般道路を使います。観光客も、例えば往復5000円も出して盛岡から十和田湖まで高速道路を使おうという人はあまりいません。
かくして日本の道路は、国土の3%に過ぎない大都市ではドロドロ、残りの97%の国土ではスカスカというきわめて不健康な姿になっているのです。
羽田から20分の木更津市の土地は銀座の2000分の1
例えば秋田県では、いくら新幹線が通っていても、交通の95%以上が自動車です。ところが、高速で長距離を移動する手段である高速道路を、地元の住民はほとんど使えません。通行料金が高いからです。
一方、東京には、あらゆる交通手段があります。JR、私鉄、地下鉄やバス路線が網の目のように張り巡らされ、そのうえ、新幹線や内外の航空網も東京が中心です。ついに、羽田と上海の間に航空路線すら開設されました。これでは地方を捨てて東京に出てくる人が絶えないはずです。
ところが、羽田から高速とアクアラインでわずか20分で着く木更津は寂れたままです。木更津金田のインターチェンジを降りた辺りは、田んぼと未利用の造成地が広がります。1坪9万円、銀座のティファニーの土地の2000分の1です。
羽田から20分のところに上海よりも安い土地があるのに放置して、日本企業は中国に出ていきます。片道4000円、値下げの求めに応じても3000円(ETC車は2320円)もする料金では使う人がいないのです。東京一極集中を象徴する格差です。
でも、東京一極集中を前提とした国土は、中国やインドなど圧倒的に安いコストと巨大な国土や人口を武器とした国が世界経済に参加する21世紀には適応不能になりつつあります。
かといって、日本が人件費を中国並みに下げるのは不可能です。そうなれば、大きく下げられるコストは、土地の値段です。しかし、東京の地価を暴落させるわけではありません。
地価が安い日本の地方に、中国やインドと競合しない、むしろ、そうした国をお客にするくらいの新しい産業を興すことです。それが、田園からの産業革命です。興味がある方は私のホームページの論文を読んでください。
高速道路が無料になると東京一極集中が加速するというのはウソ
高速道路がタダになったら東京にますます人とお金が流れるという不安の声を聞きます。そうしたケースもあるでしょうが、圧倒的に大都市から新しいチャンスを求めて地方に移る人が増えるでしょう。
木更津と銀座がいい例です。もし100億円持っていて、銀座にホテルを建てようとしても、100坪も買えないでしょう。建物や従業員に回すお金は残りません。でも、木更津なら、1万坪の土地でも9億円で91億円余ります。
素敵な建物を作り、腕利きのシェフとベテランのサービスマンたちを揃えてもお金が余ります。だから、低価格で料金を設定できます。羽田に今後国際線の乗り入れが増えれば、中国をはじめ海外からの顧客の獲得ができるでしょう。
もちろん、ホテルでなくても住宅、ショッピングセンター、アウトレット、アミューズメント施設、病院、介護施設などもコストの安さと東京、横浜、川崎からの近さからいって、圧倒的な価格競争力が出てくるでしょう。同じものやサービスが圧倒的に安い値段になれば、東京から木更津やその近くに来る人や住む人が増えるでしょう。
地方が活性化し日本にシリコンバレーが生まれる可能性も
アクアラインが無料になったらこうしたビジネスの流れができるでしょう。土地の値段は、東京と同じレベルにまで上がるはずです。現実に首都高速の範囲で行けるディズニーランドの浦安では似たような現象が起きました。
木更津市は浦安市の8倍の面積がありますから経済効果は大きいと思います。同様のことは神戸の対岸の淡路島や徳島県にも言えます。盛岡や群馬県の藤岡や佐賀県の鳥栖などのように高速道路の交差点にあるところも交通の要衝として発展するでしょう。日本全体のコストの低下が始まります。
人と土地を多く必要とする産業は、地価の安い地方にかなり移るはずです。高速道路無料化によって交通アクセスが改善すれば、ビジネスの可能な立地が大きく広がるからです。
農家や網元はもっと簡単においしいものを届けることができるようになります。宅急便の値段も下がるでしょう。地方に住む人が増えれば、航空会社や鉄道のローカル線の収支も改善するでしょう。
その分、羽田や東京駅の混雑は減ります。海外からの観光客も地方を訪れることが増え、東京以外の日本の国土の美しさや食べ物や温泉や人情の素晴らしさに触れれば、地方から海外への直接のIT(情報技術)を駆使したマーケティングも当たり前になるでしょう。
フランスやイタリアの農家がやっていることを日本でもできるようになるわけです。スター農家や網元が各地で生まれるはずです。大学やベンチャーキャピタルと組んで地方でITそのものが発達すれば、ワインカントリーでもあるシリコンバレーに似てきます。
そんなチャンスを求めて田舎に住む若者も増えるでしょう。その中から新しい起業家が生まれるかもしれません。
ドイツ型にするか米国型にするかで街が変わり国が変わる
高速道路無料化が実現した時に、各地域が選ばなくてはいけないのが、街づくりのあり方です。特に、高速道路無料化の先進国である米国型とドイツ型のどちらの街作りを志向するかが分かれ目になります。
米国は高速道路のインターを中心に新しい街を作りました。国土が広く新しい街を一から作ることが効率的なことが多かったのです。
これに対して、ドイツは高速道路のインター付近にはショッピングセンターなどは作らせないのがほとんどです。高速道路から近くの町までは一般道路で誘導されます。高速道路の沿線にも歩道や自転車道が多く作られます。
そして、伝統ある町の多くでは中心地は自動車禁止です。車は駐車場に止めて歩いたり、バスや電車に乗るのです。歩いてゆっくり回れる落ち着いた町並みには観光客が絶えません。古い商店やレストランもにぎわっています。
高速道路無料化を実現すれば、日本もようやく戦後型のビジネスモデルから脱皮を始めることができます。
戦後日本を焼け跡から世界第2の経済大国に押し上げた原動力が、太平洋ベルト地帯であり、その中心が東京でした。世界中から最も安い原料を買ってきて、太平洋ベルト地帯で加工して優れた製品を作り米国に輸出してドルを稼ぐ。稼いだドルを円に換える。
その金を、国土の均衡ある発展という方針に基づき、全国で橋や道路の建設、農地整備、福祉や医療、教育に充て、国民の生活水準を上げ、消費を活発にする。それがまた企業の売り上げを伸ばす。成長と中流社会が両立したのでした。
太平洋ベルト地帯を結んだ新幹線と名神・東名の高速道路は米国の資金援助でできました。冷戦時代のアジアで日本は米国の同盟国として大きな支援を受けたのでした。
国にお金がなく、やむを得なかった有料化
日本に高速道路を作ることを強く要請したのはアイゼンハワー大統領でした。日本道路公団が1956年にでき、時を同じくして米国でもインターステートの建設が始まりました。技術はブルッキングス研究所が提供し、4573億円の建設費の3分の1を世界銀行が貸しました。
この年、アイゼンハワーは、米国でも無料の高速道路網であるインターステートの建設を始めました。ガソリン税を財源に充て、最初から無料でした。
名神・東名が有料になったのは、当時の道路予算が年間200億円しかなく、世銀を通じた米国からの借金や郵便貯金・簡易保険などからの借金(財政投融資)なしには建設ができなかったためでした。
だから、通行料金でその路線の借金を返済した後は、名神・東名もほかの高速道路も無料になるはずでした。当たり前のプロジェクトファイナンスだったわけです。
名神・東名の借金は1990年に返済されています。本来であれば、その年には無料になっているはずでした。ところが今に至るまで8兆円に上る通行料金を取り続けています。なぜでしょうか。
田中角栄首相が誕生した時に、名神・東名などの通行料金を借金の返済ではなく、新しい路線の建設に流用していい、というルールを作ったからでした。
借金返済に回していればとっくにタダになっているはずの通行料金をいつまでも取り続けるからこそ、日本のドライバーは世界一高い通行料金を払い続けているのです。
「田中角栄が生きていたら無料にしていただろう」
田中角栄氏が首相であった高度成長時代は、それでもよかったのです。一刻も早く道路を全国に張り巡らせることで、企業も国民も豊かになったのです。そして、政官業の利権を配分することで田中角栄氏は権力の頂点に立ったのでした。
問題は、明らかに東京一極集中から新しい国土と経済のあり方が必要な21世紀の現在まで、田中角栄氏の遺産が続いていることです。今彼が生きていたらどうするでしょうか。
5年前の2002年の秋、高速道路無料化を中央公論に初めて発表し、さらに『日本列島快走論』という本を出した時に、下河辺淳さんの求めに応じてお目にかかりました。
この方は、田中角栄氏の日本列島改造論の主な書き手の1人であり、2代目の国土次官として戦後の国土作りに辣腕を振るった方でした。私も一度お目にかかりたかった方でした。
下河辺さんはこう言われました。
「角栄さんが生きていれば、君の言う通りに高速道路をタダにするよ」
「あの頃はとにかく早く道路を作らなければいけなかったんだ。税金も通行料金もつぎ込んで作るのが合理的だった。でも、今は、作った道路を人が使えるようにしないといけない」
それから、縄文時代からの日本の道、交通、国土、風土、さらには宗教観までお話しになり、活発な議論になりました。別れ際に下河辺さんは「君の本は私の80歳の誕生日に出たのだね。縁を感じるよ」とおっしゃってくださいました。思いがけない心豊かな経験でした。
今こそ豊かな国を目指した国土作りを
間違いなく、田中角栄氏は戦後日本の国土作りの第一人者でした。国土関係の議員立法だけでも50本に及びました。立法者の義務を果たしました。
しかも、開発だけでなく、古都や飛鳥の保存のあり方などを決めたのも田中角栄氏です。農業の株式会社化と農地の保全などの先駆的な提案もしています。
一方で彼は、自分が作り上げた戦後日本の国土の限界にも気づいていました。
「都会の過密、地方の過疎は限界に達した」
「日本のすべての地方を大都会と同じように便利にして、一方で都市の過密を解消し、もっと住みよい国を作る」
このように日本列島改造論の冒頭で述べています。工場や大学を地方に強制的に移転させました。
しかし、時代が合いませんでした。太平洋ベルト地帯と東京への集中こそがその後80年代末までのジャパン・アズ・ナンバーワンを作りました。
さらに、世界一高い高速料金を温存したことに代表されるように、地方に金や物を配っても自立は与えない中央集権のあり方が、地方の衰弱を招いたのでした。
そして、饅頭5個と言われる道路財源からの様々な利権こそが田中角栄氏の権力の源泉でした。利権があるから政策の変更ができなくなりました。時代は変わりました。お金も利権もないことを売り物にした小泉首相が生まれました。
しかし、東京も地方も平等だと訴えた田中角栄氏の功績は消えるものではありません。そして、今の時代ほど、東京以外から日本が元気になることが必要な時代はないのです。
「角栄さんが生きていれば高速道路をタダにする」。その言葉を改めてかみしめます。
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