2009年8月8日土曜日

【原子力発電】 ウランからトリウム

ウランからトリウムへ―世界の核燃料戦略を読む
資源・環境ジャーナリスト=谷口 正次
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20090805/101975/?mail
原子力発電の燃料としてトリウムに注目する動きが静かに広がっている。トリウムは軍事転用が難しく、かつては原発など原子力の平和利用の本命と見なされていた元素なのだ。温暖化ガスを出さないエネルギーとして原発の増設機運が世界的に高まっている今日、トリウムをどう位置づけていくか。核拡散防止やエネルギー安全保障、資源を巡る地政学などの観点を絡めて、各国の原子力戦略が問われ始めている。

核拡散防止と放射性廃棄物削減

 トリウムはウランの従兄弟のようなもので、天然に産する放射性元素である。そのトリウムを原子力燃料としてウランの代わりに利用しようとする動きが世界で静かに広がり始めた。

 背景には地球温暖化対策として世界的に原子力発電増設の気運が高まっていることがある。その場合の大きな懸念は、核兵器の拡散と放射性廃棄物である。トリウムは核兵器の拡散防止に役立つうえに、プルトニウムを含む有害な放射性廃棄物がほとんど発生しない。

 そんな良いことずくめの技術なのに、なぜ今まで実用化されなかったのだろうか。一言でいえば、理由は第2次大戦後の冷戦構造と核兵器開発競争にある。原子力の民生利用としての原発も、軍事利用と無関係に展開されてきたわけではなかったのである。

 核兵器には原料としてウランを使うタイプと、天然にはほとんど存在しないプルトニウムを使うタイプがあるが、プルトニウム型の方が圧倒的につくりやすい。プルトニウムはウランが核分裂反応を起こして燃えるときに生成されるが、トリウムを燃やしてもプルトニウムはほとんど発生しない。したがって、トリウムを原発の燃料とすると、核兵器を効率的につくれなくなる。そのため、政治的に日の目を見ることはなかったわけだ。

 米国では1950年代から70年代にかけて、トリウム溶融塩炉と呼ばれる原子炉の技術開発を進めていた時期がある。1965年から69年までの4年間、無事故で運転した実績を持ち、基本技術は確立している。トリウムの燃料利用を想定していたこの原子炉は、核の平和利用の本命であった。

 トリウム溶融塩炉の利点は、小型化に適し、経済性が高いということだ。そして、軽水炉の使用済み燃料や解体核兵器に含まれるプルトニウムを、トリウムとともに燃やして処理ができるという点も都合がいい。トリウムそのものは核分裂しないので「火種」としてプルトニウムが使えるからだ。

 米国にはトリウム・パワー(Thorium Power Ltd)という核燃料企業もあり、日本など世界で広く使用されている軽水炉でのトリウム利用を推進している。各国では、溶融塩炉だけでなく、さまざまなタイプの原子炉でトリウムを使えるようにする研究開発が行われている。

 オバマ大統領はグリーン・ニューディ-ルを打ち出し、そして核廃絶を世界に訴えている。4月5日にはチェコ共和国の首都プラハでEU首脳との会談に先立ち、「米国は核廃絶に向けて行動する道義的責任を有する」と演説した(4月6日付け『産経新聞』)。そして、核なき世界を目指して、4年以内に兵器用核物質の拡散を防ぐ体制を構築する方針を表明した。

 そのチェコ共和国は「トリウム溶融塩炉の技術開発で世界をリードしている国の一つだ。 だとすると、オバマ大統領の演説との関係は偶然の符合とは考えにくい」と原子力工学が専門の京都大学助教、亀井敬史博士は言う。

オバマとトリウム

 すなわち、米国がトリウム原子力によって、地球温暖化対策と核廃絶のために世界のリーダシップをとるとともに、グリーン・ニューディ-ル政策の推進にも役立てようとしているのではないかと読みたくなるわけだ。ブッシュ前大統領の原子力回帰政策をオバマ大統領は踏襲しなかったが、トリウム原子力で大きな違いが出せるというものだ。亀井博士によると、今年6月には米下院で、7月には上院で通過した国防予算法案の中に、海軍においてトリウム溶融塩炉の研究を進めることが入っており、2011年2月1日までに国防委員会に報告せよとなっているそうだ。

 米国の三大ニュース誌の一つに「US.News&World Report」 という雑誌がある。 2009年4月号は、GREEN Economyの特集号だ。その中でトリウム原子力を紹介している。

 米国、チェコ共和国のほかに、トリウム溶融塩炉の技術開発に向けて動き出した国としてはカナダ、ノルウェー、オーストラリアながである。インドは60年にわたって独自に開発を進めてきた。そして、忘れてはいけないのが中国の台頭だ。

 残念ながら日本では封印された状態である。これまで、ごく少数の技術者が溶融塩炉の実用化の必要性を声高に訴えていたが、全く無視されている。何しろ、東芝、三菱重工、日立製作所といった大企業が軽水炉型の発電所ビジネスでフランスのアレバ社とともに世界にその存在感を示しているわけだから、大型タンカーのように簡単には国策の舵はきれないだろう。しかし、世界の空気を読めないでいると、日本は世界から取り残される恐れも否定できない。

 注目すべきは、中国、インドである。両国ともウラン資源が乏しいので埋蔵量世界一を誇るオーストラリア頼みである。中国は、2006年4月、温家宝首相がオーストラリアを訪問してハワード首相と会談を行った際、2010年からウランの中国向け輸出開始で合意した。

 オーストラリアはウランの輸出先に核拡散防止条約(NPT)加盟を義務づけている。中国はNPT加盟国ではあるが、軍事利用の心配があるとして、オーストラリアはそれまで中国への輸出には消極的であった。今回の輸出解禁に際し、中国はオーストラリアに対してウランを平和目的以外に利用しないという保証協定を結び、輸入したウランに関連して国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れて、オーストラリアに対して公開する義務を負った。

 原子力発電に積極的なインドもオーストラリアにウラン輸出を要請し続けていたが、NPT非加盟国であることからこれまで見送られてきた。しかし、2007年8月になって、インドへの輸出も容認することを決めた。中国と同じ条件で協定を結ぶことになった。これは、核拡散防止条約未加盟国にもかかわらず、インドが米国と原子力に関する二国間協定で合意したことを受けた例外措置だそうだ。

 米国やオーストラリアなどが原子力を軸にインドと中国に急速に接近している。ウラン資源は乏しいインドと中国だが、逆にある資源については両国とも豊富という共通点がある。モナズ石などのレアアース(希土類)を多く含む鉱物資源である。

日本に戦略はあるか

 レアアースはエレクトロニクス、IT機器、電気自動車など先端技術産業には欠かせないもので、いま、わが国の産業界でもレアメタルとともに関心が非常に高まっている重要な資源である。

 そのモナズ石の中にトリウムが含まれているのだ。とくにインドのモナズ石はトリウム含有量が約8%と非常に高い。一方、中国はレアアース(希土類)では世界の97%の生産量と31%の埋蔵量を誇る。

 現在、モナズ石などの鉱物からレアアースを抽出する際には、放射性物質であるトリウムは厄介な不純物として除去しなければならない。ただ、中国のモナズ石などの中に入っているトリウムの含有量は0.3%以下とインドに比べてはるかに少なく、レアアースを取り出すには邪魔ものが少なくて好都合と言える。

 とはいえ、なにしろレアアースの生産量世界一の国である。廃棄物としてトリウム資源が少なからず蓄積されている。これを、中国政府は将来の重要なエネルギー資源と見なしているはずだ。最近、清華大学が中心になってトリウム利用推進を訴え、IAEAと共催でトリウムに関する国際会議も開いている。

 中国では最近、国営企業2社がオーストラリアの有力なレアアース、レアメタルの探鉱・開発会社の支配権を握った。オーストラリアのモナズ石は、6%のトリウムを含んでいる。

世界の主なトリウム資源保有国の確認埋蔵量
単位:t(トリウム換算)
オ-ストラリア 300,000
インド 290,000
ノルウェー 170,000
USA 160,000
カナダ 100,000
南アフリカ 35,000
ブラジル 16,000
その他 90,000
(出所:US地質調査所 2007)

世界のウラン資源の確認埋蔵量
単位:t(ウラン換算)
オーストラリア 700,000
カザフスタン 510,000
カナダ 350,000
USA 350,000
南アフリカ 270,000
ナミビア 200,000
ニジェール 200,000
ブラジル 170,000
ロシア 130,000
その他 220,000
(出所:2006 IAEA Red Book)
 2007年12月20日。「立命館大学で、日・中・印の温暖化専門家会議が開かれ、その声明文の中で先進的な原子力としてトリウム利用を検討すべきだとの文言が盛り込まれた。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のパチャウリ議長も強く推奨した」(2008年2月28日付け『日経産業新聞』、亀井敬史博士寄稿文より)

 いまや世界の資源、エネルギー、環境政策は一連の環を形成している。その環をつなぐ両端にトリウムとレアアースがある。このことを、わが国の国家戦略を考え、政策を担う人たちがどのように受け止めているのか知りたいものだ。

 政局と内政に明け暮れ、世界の空気を読めないでいるとこの国の将来は危うい。

 唯一の核兵器使用国アメリカと唯一の核被爆国日本、いまこそ手を組んでトリウムによる核廃絶を目指す絶好のチャンスと言えないだろうか。



〈寄稿〉 飯沼和正 「核兵器 廃絶を目ざす 『トリウム原子力』の研究」(2009.05.16)
http://www.kyoto-up.org/archives/711
Filed under: 企画類
ウラン核燃料サイクルとは別

「トリウム原子力」とは現行の「ウラン核燃料」とは別系統の独立した原子力(発電)技術である。核爆弾の原料であるプルトニウムの産生とは無縁か、もしくはそれの減量に大きく役立つ技術である。だがそれは久しく政治的に〝埋め殺し〟にされてきた。それを今、京都の若手研究者(たち)は気づいて、叫び声を挙げ始めている。歴史的にも京都に深くつながる研究人脈のなかで早くに提唱された。大学の外と内との研究者たちによって独自に進められ、公認されぬまま、相当に高い完成度にまで到達されてきた技術である。

米オバマ新政権の側は独自にこの技術の重要性に気がついている。昨秋、上院にはすでに「トリウム原子力法案」が提出。その一方でこの4月には旧来のウラン原子力法にもとづく重要施策、「GNEP」計画の「断念」が明らかにされている。

研究の自由が公認されている大学で、今こそ、「トリウム原子力」への本格的な取り組みを始めるべきではないか。そのことを深く、切に望みたい。

現行の原発技術体制はウラン系核燃料によって立っている。しかし、このウラン系「核燃料サイクル」には必ずプルトニウム(核爆弾の原料物質)の産生が伴なう。というよりはプルトニウムの産生と利用とを大前提として成り立っているのが、外ならぬ現行の(軽水炉による)原発技術なのである。

この産生したプルトニウムを今は未だ完成していない仮定の「増殖炉」で、燃料として利用する。それを燃やして消化しさらに発電する。そのような仮定に立った理論(「核燃料サイクル」)でもって現行の原発体制は構築されている。

ところが、この理論が、今、崩れようとしている。この「核燃料サイクル」にとって最重要で、かつ不可欠な一環である「増殖炉」の実現が、世界でも、日本でも破たんしかかっているからだ。その開発はすでに頓挫している。それが事態の現況なのである。

にもかかわらず、思慮浅き、日本のリーダーたちや、そして最近までの米国のリーダーたちは(ウラン)原発こそが地球温暖化防止の〝決め手〟だなどと、巨費を注ぎ込んできた。

炭酸ガス・ゼロでもプルトニウムのヤマが

確かに、原発は炭酸ガスこそ放出はしない。しかし「増殖炉」ナキ現行のウラン系核燃料サイクルでは、今後、プルトニウムのヤマが世界各国に厳然として残るのである。日本だけでも、すでに今、70トン程度のプルトニウムを保有している。ちなみにヒロシマ・ナガサキ級の原爆が必要とした原料物質は、プルトニウムであれば、せいぜい8キログラム~10キログラムであった。

「トリウム原子力」の最終的な姿は「熔融塩・発電炉」方式だと目されている。この方式ならば、理論的にプルトニウムはまったく産生しない。しかし、この〝本命〟にたどりつくまでには、少なくとも10年の開発期間を要するであろう(古川和男博士)。

他方、そこに至るまでの〝ツナギ〟として、より実現容易な技術もすでに提示されている。トリウムとプルトニウムとの混合燃料(棒)を新たにつくり、それを現用の発電炉(軽水炉)に装入する。いわゆる「プルサーマル」方式の〝トリウム〟版である(豊田正敏・東京電力 元原子力本部長)。

米国・上院に「トリウム原子力法案」提出

オバマ新政権に変った米国では、すでにこの「トリウム原子力」への政策転換の兆しが見えかかっている。

08年10月、上院へは民主・共和両党の議員が共同提案として「Thorium Energy Independence and Security Act of 08」(「トリウム原子力法案」と略)を提出、行政当局との折衝に入っている(「Nuclear News」誌,、08年12月)。

その折衝の結果か?。米エネルギー省(DOE)はこれまで進めてきた「GNEP」計画の「断念」を、最近、明らかにしている(朝日新聞4月21日付朝刊1面トップ)。

「GNEP」計画とは、ウラン核燃料サイクルを完結すべく、ブッシュ前政権が推し進めていた要(かなめ)の計画であった。

前出の「トリウム原子力法案」は1954年に制定された現行法「Atomic Energy Act」を大きく改変するものだ。

というよりは「ウラン原子力」を対象にした現行法体制に対して、これとは独立的な(Independence)ものとして「トリウム原子力」を対象とする新しい法的枠組みを打ち出すもの―とみられる。

この法案には今後、5年間の予算として、250億円($ 250 million)が盛り込まれている。

何故「京都の大学で…」なのか?

もともと、世界でも数の少ない「トリウム」派ではあるが、何故か、そこには京都の大学の人脈が目立つのである。

主流の権威を〝何ぞ必ずしも〟と疑う、反骨・在野の気風のせいかもしれない。

まず最初に、日本でこの灯をともしたのが、京都・京大の出であった。故・西堀栄三郎博士だ。彼は最初の南極越冬から帰国して間もなく、(旧)日本原子力研究所理事の時期に、この「トリウム原子力構想」(「TMSR」)を打ち出している。1960年ごろだった。

〝世界最初の原爆被災国・日本こそ、これに取り組むべき。経済性・安全性も高い〟―と。

彼は京大理学部の助教授を経て、若くして民間に転出。敗戦後も、原研理事としてのごく短い期間を除けば、生涯、在野の技術者だった。在野の〝大御所〟であった。最後は京都の「名誉府民」にも選ばれている。

その西堀を継承したのが古川和男(現在82歳)。彼は当時、原研の主任研究員(のちに東海大教授)だった。ふしぎな縁だが、2人とも京大理学部の同門である。2人は原研にあって、孤立無援に近かった。

古川は、米国での「熔融塩炉」実験の成果を横目に踏まえながら、これをトリウム系燃料に特化。「発電炉」として理論的にほぼ完成(「FUJI構想」)する。これは海外からも将来の有望候補と目されている(02年には文春新書『原発革命』として公刊。佐藤栄作記念国連大学協賛財団から「最優秀賞」を受けている。「核拡散防止への実効ある提言」という理由であった)。

幸いなことに、このような知的命脈は今日の京都にも引き継がれている。実験系の常置講座こそ未整備であるが、大学の内外には、「トリウム」に心を寄せる若手研究者たちが〝トグロを巻いて〟、出番を待っている。

だからこそ、京都の大学で本格的な取り組みを―と望みたいのである。それは、広島・長崎の、核廃絶を待望する市民たちとも手を組んで。



いいぬま・かずまさ  1932年生まれ。大阪大学工学部(造船学科)を経て京都大学法学部58年卒。13年間、朝日新聞記者。原子力などを担当。90年以降、独立。『模倣から創造へ』(東洋経済新報社刊)など著書15冊。「原爆密造にご用心」(77年8月『中央公論』)、「トリウム・サイクルの検討を」(77年9月『金属』)―などを発表。日本記者クラブ・元会員。横浜在住。



ウランより利点の多いトリウム原発、移行への障害は?
2005年7月12日
http://wiredvision.jp/archives/200507/2005071201.html

Amit Asaravala 2005年07月12日
 原子炉で使用する燃料をウランからトリウムに切り替えることができれば、発生する放射性廃棄物の量は約半分になり、兵器へ転用可能なプルトニウムを取り出せる量も80%ほど減る可能性がある。しかし、原子力業界がこの転換を実現するには、後押しする材料がもっと必要だと専門家らは語る。
 科学者たちは以前から、原子炉の燃料としてトリウムを利用することを考えていた。トリウムの使用には十分な理由がある――自然界に存在するトリウムは、ウランと比較して埋蔵量が豊富で、使用する際の効率や安全面でも優れている。それに加え、使用した燃料から核兵器の開発に利用可能な物質を取り出しにくいという利点もある。
 しかし、設計が難しいうえ、使用済み核燃料を原子爆弾へ転用したいという冷戦期の思惑も働き、原子力業界は主要燃料としてウランを採用した。
 各国政府が核兵器の拡散防止に目を向け、環境保護論者が世界中に存在する膨大な放射性廃棄物の削減を求めている現在、トリウムが再び注目を集めている。
 ここ数年の米国とロシアの研究によって、以前研究者を悩ませた問題のいくつかに解決策がもたらされた。そして、1月にはインド――トリウム埋蔵量はオーストラリアに次いで世界第2位――が、独自設計のトリウム原子炉の安全性テストを行なうと発表した。
 需要の増加を見込んで、未採掘の資源も含めてトリウムを可能な限り買い入れようと動き出した採掘会社もある。
 米ノバスター・リソーシズ社(本社ニューヨーク)で戦略企画室の主任を務めるセス・ショー氏は、「米国をはじめとする世界各国――もちろんインドも含む――が将来、トリウムだけを使用するようになるのは避けられないことだと、われわれは考えている」と語る。
 だが、1つ問題がある。マサチューセッツ工科大学(MIT)『先端核エネルギーシステムセンター』(CANES)のムジド・カジミ所長によれば、原子力発電業界はすでにインフラをウラン燃料用に作り上げていて、これを転換するために投資する理由がほとんどないという。
 「市場経済のなかでのことだ。トリウムへの移行が有利に働くような経済的条件が必要になる」と、カジミ所長は語る。「トリウムが魅力的に見えるほどウランの価格が高値に達するまでには、あと50年はかかるかもしれない」
 暫定的な解決策として、カジミ所長は、米政府が発電所に課している放射性廃棄物に対する負担金の算出方法を変更することを提案している。
 現在、廃棄物を出す場合に課される金額は、核燃料から生み出した電力の料金に応じて計算されている。カジミ所長の提案は、これをプルトニウムの量に応じたものに変更し、生成を抑制するというものだ。
 「現状では、燃料の廃棄物の量は問題とされていない。しかし、政府が動いて、使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの量に応じて課金する方針を打ち出せば、トリウムを後押しすることになるだろう」とカジミ所長。
 核燃料開発を手がける米トリウム・パワー社(本社バージニア州)のセス・グレー社長は、原則的にはカジミ所長の考えを支持すると述べている。ただし、そうした変更によって課金が全体として増大するなら、それは公平ではないと釘を刺した。
 「発電所の経営者はコスト計算に基づいて原子炉を建設し、運営している。原子炉に関するルールをただ変更するというのは無理だ」と、グレー社長は語る。
 代わりにグレー社長は、官民が協力して新技術の開発に資金を投じ、トリウムの利点を具体的に示すことにより、よりよい代替手段を提供するという方法を提案する。
 たとえば、トリウム・パワー社はロシアの研究者と共同で、兵器に転用可能なプルトニウムをトリウム炉で燃焼させて処理する方法を探ってきた。米下院は3月、このプロジェクトに約500万ドルの資金を提供することを決めている。
 これだけではトリウムの採用を促進するのに十分でないとしても、電力を使う側の動向が変化を促すきっかけになり得ると、グレー社長は指摘する。規制緩和によって同じ地域で複数の電力会社が競争するようになり、利用者がどこから電力を買うかを選択できる状況が整いつつある。つまり、利用者は電気代をどこに払うかで、責任ある技術に投資した会社に投票できるというわけだ。
 この戦術には、効果をあげた前例がある。たとえば1980年代に、消費者が「イルカの安全に配慮しています」(dolphin safe)というラベルのないツナ缶の購入を拒否した結果、マグロ業界は、マグロ漁をイルカの犠牲が少なくてすむ方法に切り替えた。
 「利用者が電力供給者を選択するようになれば、非常に強大な力になる」と、グレー社長は語った。
[日本語版:緒方 亮/高森郁哉



Thorium Fuels Safer Reactor Hopes
Amit Asaravala 07.05.05

http://www.wired.com/science/discoveries/news/2005/07/68045

Fueling nuclear reactors with the element thorium instead of uranium could produce half as much radioactive waste and reduce the availability of weapons-grade plutonium by as much as 80 percent. But the nuclear power industry needs more incentives to make the switch, experts say.
Scientists have long considered using thorium as a reactor fuel -- and for good reason: The naturally occurring element is more abundant, more efficient and safer to use than uranium. Plus, thorium reactors leave behind very little plutonium, meaning that governments have access to less material for making nuclear weapons.
But design challenges and a Cold War-era interest in using nuclear waste byproducts in atomic bombs pushed the industry to use uranium as its primary fuel.
Now, as governments look to prevent the proliferation of nuclear arms and as environmentalists want to reduce the volume of nuclear waste building up around the world, thorium is again drawing attention.
Over the past several years, studies in the United States and Russia have yielded solutions to some of the issues that troubled earlier researchers. And in January, India -- which has the world's second largest reserve of thorium behind Australia --announced it would begin testing the safety of a design of its own.
The anticipated surge in demand for thorium has led at least one mining company to begin buying as many thorium deposits and stockpiles as it can.
"We feel that it's inevitable that the U.S. and other countries in the world -- India of course -- will exclusively use thorium in the future," said Novastar Director of Strategic Planning Seth Shaw.
But there's just one problem: The nuclear power industry has already built its infrastructure around uranium and has little reason to invest in changing it, according to Mujid Kazimi, director of MIT's Center for Advanced Nuclear Energy Systems.
"This is a market economy so the economics will have to be in favor for thorium to move that way," said Kazimi. "It could take another 50 years for us to reach the level where uranium prices are so high that thorium looks attractive."
As an interim solution, the United States could change the way it charges power plants for the nuclear waste that they produce, said Kazimi.
Currently, waste fees are calculated as a fraction of the cost of the electricity that is produced by the fuel. Kazimi proposes charging by the volume of plutonium instead, so as to discourage its creation.
"Right now, it doesn't matter how large the fuel waste is," said Kazimi. "But if the government comes in and says we're going to increase fees in terms of waste in proportion to plutonium content, that will push for thorium."
Seth Grae, president of nuclear fuel development firm Thorium Power, said he supported the idea in principle. But he cautioned that it wouldn't be fair if the change resulted in an overall fee increase.
"Power plant operators decided to build and run their reactors based on one cost, and you can't just change the rules on them," he said.
Grae suggested that public-private partnerships could provide a better alternative by funding the development of new technologies and showing the benefits of thorium in action.
For instance, Thorium Power has been working with Russian researchers to find ways to dispose of stockpiles of weapons-grade plutonium by burning it in thorium reactors. In March, the House voted to give $5 million to the project.
If such demonstrations aren't enough to encourage thorium use, Grae noted that the change could be driven by customers from the bottom up. As deregulation allows multiple electric providers to compete in a region, customers are increasingly getting to choose where to spend their money. This means customers can essentially use their money to vote for companies that invest in responsible technologies, said Grae.
The tactic has worked before. For instance, in the 1980s the tuna industry switched to fishing methods that killed fewer dolphins after consumers stopped buying cans missing the "dolphin safe" label.
"When customers choose who their electric provider is, that's a very powerful thing," said Grae.


Read More http://www.wired.com/science/discoveries/news/2005/07/68045#ixzz0iVlHD85V



トリウム原子力と福井県

 私が日本経済新聞記者時代に支局長として赴任していた福井県のメディア向けに一本記事を書いてくれと言われて書いた記事があります。残念ながら宙に浮いてしまい、もったいないのでここに載せます。検索エンジンに引っかかって読む人は読むでしょう。

 タクシーとは直接の関係はないのですが、電気自動車へのシフトやエネルギー問題は間接的に関係があるということで、ご勘弁を。

福井は立ち尽くすのか
「トリウム原子力」の風

 日本の歴史的な転換となるであろう第45回衆議院総選挙が終わった。民主党の大勝、自民党の惨敗を受けて永田町と霞が関の景色は様変わりした。「官僚と業界を基盤とした自民党政権は永遠に続く」と考えてきた人が呆然と立ち尽くす様子を、新聞やテレビが連日のように報じている。

 原子力の世界でも同様の大転換が起こる可能性が出てきた。日本一の原発数を誇る福井県は最悪の場合、「立ち尽くす側」に回る危険がある。永久政権と思われたウラン原子力を政権交替する力を秘めた技術体系に追い風が吹いている。それがトリウム原子力である。

ウランより安くて安全
 トリウムはウランより原子番号が2つ若い元素である。これをプルトニウムとの混合酸化物(MOX)燃料にして軽水炉などに入れると燃えてくれる。プルサーマルのウラン238をトリウム232に置き換える感じである。

 結論的な話をすると、トリウムはウランに比べて安く、安定に供給でき、かつ安全である。具体的には資源量はウランの3倍ある。しかも資源の分布が偏っていない。原子炉の中で燃料を徹底的に燃やせる。そして核兵器への転用が困難で核不拡散に役立つ。

 見逃せないのが、ウラン燃料が壁に突き当たっていることである。

 ウラン燃料を燃やすとプルトニウムが生まれる。プルトニウムは長崎型原爆の原料であり、取り扱いに高度の慎重さが要求される。日本の原子力委員会はプルトニウムを殖やして使う高速増殖炉計画を進めてきた。しかし6000億円を投じて福井県敦賀市に建設した原型炉「もんじゅ」は1995年12月のナトリウム漏れ事故以来動いていない。

 日本原子力研究開発機構は同炉を来春に再稼働させる予定だ。しかし「もんじゅ」は1次系2次系、そして3次系までの配管を持ち、かつ1次系と2次系は水や空気に触れただけで発火する液体ナトリウムを回す。軽水炉に比べて極端に複雑かつ神経を使うプラントである。来春の再起動を成功させ、運転実績を積み、さらに実証炉を経てこれを商業化できると考えるのは、むしろ夢想の世界に近くなってきている。

東電元副社長の“造反”
 高速炉を旗艦とするウラン原子力体系に対しては、主に左翼系の原発反対派からこれまで多くの批判がなされてきた。これに加え最近では、原子力の現場の現場から「ウラン原子力は限界だ」という批判が出ている。

 筆者が驚いたのは、東京電力で副社長、原子力本部長を務めた豊田正敏博士が、高速炉開発計画の断念とトリウム原子力への移行を主張していることだ。昨年秋に著書『原子力発電の歴史と展望』を出版した豊田氏を訪問し話を聞くと「遺言のつもりで発言した」とのことだった。主張している人が人だけに、重いものがある。

 高速炉開発路線に関して、政府の原子力委員会と電力業界の温度はかなり違っているようだ。税金で食べている原子力委員会がウラン・プルトニウム核燃料サイクルの夢(もしくは惰性、もしくは利権)に固執しているのに対し、損益の中で生きる電力業界が「コスト的に合わないので損切りするべきだ」と考え始めた。豊田博士の主張はその流れの中にある。

オバマ政権のシフト
 海外に目を転じると、オバマ政権はウラン・プルトニウム核燃料サイクル技術の開発を目指した「国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)」を縮小し始めた。具体的には今春、使用済み核燃料再処理施設と高速炉を米国内に建設しないことを決めた。ほぼ同時に、トリウム原子炉の研究を進めるための費用を海軍の予算案に盛り込み、同案は7月に議会を通過した。内容は、トリウム用原子炉の理想形と言われるトリウム熔融塩炉の研究である。

 オバマ大統領は4月、チェコ共和国のプラハで演説し、核廃絶への道をうたった。チェコはトリウム溶融塩炉の技術開発で世界をリードしている。オバマ政権のメッセージは明確だ。日本の鳩山新政権もその性格上、核不拡散につながるトリウム原子力に舵を切る蓋然性が極めて高い。

福井の選択は?
 日本でオバマ政権の誕生を最も喜んだのが福井県小浜市(Obama City)だった。同市を中心とする嶺南地域が擁する日本最大の原子力発電施設が平和的なトリウム原子力に転換したとすると、それは運命的な選択になる(既存の原子炉をそのまま使えるので見た目には何も変わらないのだが)。

 もちろん福井県は「もんじゅ」路線を継続して成功を勝ち取る可能性もある。失敗した場合は「立ち尽くす」危険性もある。福井の将来を見据え、ここはじっくりと比較検討して欲しい。

トリウム自身は燃料にはなりませんので、トリウム-232に中性子を吸収させてウラン-233を作って燃料とします。
これがトリウム・サイクル原子炉です。

これには幾つかの問題点が残されています。
まず、ウラン-233を作る必要がありますので、既存の原子炉中にトリウムを入れてウラン-233に変換し、これを取りだして生成する必要があります。これは天然ウラン中に存在するウラン-238をプルトニウム-239に変換して使用するのに比べて遙かに手間のかかる作業になります。

また、この核変換はTh232→Pa233→U233という経路を辿りますが、途中で生成するPa233は原子炉中でさらに中性子を吸収してU234にも変換されてしまいます。U234は核燃料にはならないので燃料生成効率はあまり良くないことになります

0 件のコメント:

コメントを投稿