【西松事件公判(1)】「間違いありません」…検察側、裏金捻出の実態指摘(9:59~10:15)
2009.6.19 11:14
《民主党の小沢一郎代表代行側への違法献金事件で、政治資金規正法違反と外為法違反の罪に問われている準大手ゼネコン「西松建設」(東京)前社長、国沢幹雄被告(70)に対する初公判が19日午前9時59分、東京地裁102号法廷で開廷した。国沢被告が起訴事実を認め、夕方までに結審する見通しで、公判手続き上の争点は量刑に絞られている。公判は、外為法違反罪に問われた元副社長、藤巻恵次被告(68)と併合して行われる》
《最大の注目点は、小沢氏の公設第1秘書で資金管理団体「陸山会」の会計責任者、大久保隆規被告(48)=政治資金規正法違反罪で起訴=が起訴事実をおおむね認めていたとされる取り調べ段階の供述が、どこまで明らかになるかだ。大久保被告は総選挙後に開かれる見通しの初公判で、起訴事実を否認する方針とみられている。また、検察側は小沢氏側の関与については今回、立証に必要な最小限しか言及しないとみられるが、特捜部では小沢氏側への違法献金の動機が東北地方の公共工事受注にあったと判断しているとみられ、建設業界と小沢氏側との具体的なやり取りがどの程度明らかになるか注目される》
《開廷直前、5月1日に保釈されている国沢被告は傍聴席から向かって左、藤巻被告は向かって右のとびらから別々に入ってきた。2人とも紺系のスーツにネクタイ姿で、入廷直後に深々とおじぎをした藤巻被告に対し、国沢被告は弁護人の前の被告人席まで来てから軽く頭を下げた》
山口雅高裁判長「ちょっと前に立っていただけますか」
《両被告が中央の証言台に移動する。裁判長は2人の名前や住所などを確認。職業を問われると藤巻被告は「今は無職でございます」、国沢被告は「(無職で)けっこうです」とそれぞれ述べた》
裁判長「それでは検察官に起訴状を読んでもらいますので、よく聞いていてください」
《スーツを着た大柄の男性検察官が立ち上がり、起訴状を読み始めると、両被告は立ったまま検察官のほうに体を傾けた。起訴状によると、国沢被告は平成18年10月ごろ、新政治問題研究会など2つのダミー団体名義で陸山会などに計500万円を企業献金した(政治資金規正法違反罪)。また、藤巻被告らと共謀し、18年2月~19年8月、税関に無届けのまま海外から計7000万円の裏金を持ち込んだ(外為法違反罪)とされる》
裁判長「まずは被告人藤巻ですが、今読み上げられたことで、どこか間違っていることはありますか」
藤巻被告「ございません」
裁判長「弁護人のご意見は?」
藤巻被告の弁護人「被告と同意見です」
裁判長「被告人国沢は?」
国沢被告「間違いありません」
裁判長「弁護人は?」
国沢被告の弁護人「被告と同意見です」
《両被告は起訴状の内容を全面的に認めた。予想された展開だ》
《続いて、起訴状朗読のときとは違う男性検察官が冒頭陳述の読み上げを始めた。最近の公判では裁判員制度を意識し、法廷に設置された大型モニターを使って説明するケースが多いが、今回の法廷にはモニター自体がない》
検察官「西松建設では、かねてより海外で捻出(ねんしゅつ)した資金を無届けで輸入し、本社における公表できない営業活動資金にあてるなどしていたところ…」
《まずは西松建設の海外業務を利用した裏金づくりや、裏金の「輸入」に両被告がかかわっていたとする、外為法違反事件の背景の説明を始めた。海外で高額の裏金が必要になる局面がしばらくないと見込まれたため、藤巻被告から相談を受けた国沢被告が「公表できない国内での営業活動資金に充てようと考えた」のだという。西松建設では5月に公表した内部調査で、使途秘匿金が20年度までの5年間で約26億円にのぼっていたと指摘。国沢被告が単独で支出を決めていたとして、ワンマンぶりが違法行為の背景にあったと指摘していた》
【西松事件公判(2)】「ゼネコン、小沢事務所の『天の声』で談合取りまとめ」と検察側(10:15~10:30)
2009.6.19 12:16
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191216009-n1.htm
《検察官は、一連の西松建設事件が発覚した経緯について、冒頭陳述書を読み始める。国沢幹雄被告も藤巻恵次被告も、じっと検察官の冒頭陳述を聞いている。表情に変化は見られない》
検察官「(裏金持ち込みの実行役だった)高原(和彦被告)は会社のために犯罪まで犯している自分が十分な評価を受けていないなどとして、藤巻被告に不信感を持つようになり、東京地検に事実を申告するに及んで事実が発覚した」
「両被告は同人(高原被告)が内部告発する恐れがあると考え、露見しないように貸し金庫内の残金6000万円を公表経理に繰り入れ…」
《検察官は国沢被告らが裏金の存在を隠そうと、証拠隠滅を図ったことを指摘した。いよいよ冒頭陳述の内容は、ダミー団体を通じて民主党の小沢一郎代表代行の事務所などに献金した違法献金事件に移っていく。検察官はまず、平成7年の政治資金規正法改正で企業献金の規制が強化されたことを、事件の背景として説明した》
「ゼネコンである西松建設が特定の政治家に多額の献金していることが公になれば、癒着していると非難される可能性があり、政治家サイドとしても西松サイドとしてもこれを避けなければいけなかった」
「当時、総務部長、事務本部長をしていた国沢被告が当時の社長・会長を務めていた柴田平から対処法を指示された」
「国沢被告はA(西松建設子会社の松栄不動産元社長)から提案を受けて、これを了承し、ダミーの団体を設立、仮装することとし、Aに実行を指示した」
《検察官は、国沢被告が会社幹部を退職させ、政治団体の代表に据え、東京都千代田区のマンションの一室を事務所にするなどして、ダミー団体「新政治問題研究会(新政研)」を設立した経緯を説明した》
「その後、Aは新政研の献金額がほかの団体より多かったことから、西松のダミーであることが露見しかねないと考え、国沢被告の了承の下、ダミーをもう1つ用意して献金を分散することを考えた」
《これがもう1つのダミー団体「未来産業研究会」の設立の経緯だ。検察官は、両団体とも活動実体はなく、完全な西松建設のダミーであったことを強調し、政治献金資金の出所について、説明を始める》
「(団体の)会費収入については、会員名を公表する必要がないことから、国沢被告は西松建設の資金を移動して原資とすることとし、社員の参事以上の者から、口が堅く信用できる者を選んで本人と家族の名前を借りることを了承させた」
「賞与に一定額を上乗せして支給。いったん社員に支給した相当額を会費名目で西松建設に戻させることにより裏金とし、献金の原資としたのである」
《これまで明らかになった、献金システムについて説明する検察官。国沢被告は、ときおり、下を向いたり、検察官の顔をのぞき込んだりしながら、じっと聞いている》
「会費名目で支払わせる金額は理事が24万円、参事1級18万円、参事2級は12万円…」
「架空政治資金パーティーで、資金を振り込んで裏金とし、献金の原資とする方法が併用されるようになった」
「献金はすべて西松建設が決定し、実行させていたのであり、西松による献金であった」
「平成13年までは当時の総務部長から指示を受けたAが、13年のA退職後は総務部長に加えて、Aの後任の経営企画部長○○(元総務部長兼経営企画部長、処分保留で釈放)が振り込みを指示して、プールした資金から寄付を行っていた」
「原資を保管していた銀行口座については、キャッシュカードの発行を受けず、届出印についても本社で管理しており、ダミー団体の代表自身はこれを出金できず、西松の指示で振り込みをしており、小沢一郎衆院議員側の政治団体に対する寄付もこの内容で行われた」
《検察官は、西松建設の献金実態を詳しく冒頭陳述で述べていった。さらに、ダミー団体解散の経緯にも触れる。そのきっかけはまさに「脱談合宣言」だった》
「17年ごろ、業績悪化により賞与が減るのに従い、会員とされた社員から不平不満が聞かれるようになり、○○は献金スキームを終了したいと国沢被告に相談した。国沢被告も、当時、脱談合宣言に向けた業界の動きがあり、『談合がなくなれば献金の必要がなくなる』と考えた。17年末に脱談合宣言がなされ、談合と決別する流れが確実になったので、了承した」
《解散の理由が談合なら、献金システムができた理由も、談合だった。検察官は、談合システムの中で小沢事務所が果たした“重大な役割”を、検察官が説明していく》
「東北地方では昭和50年鹿島が中心となって公共工事の受注業者を決めていた」
「そんな中、岩手県では50年代終わりごろから小沢事務所が影響力を強め、小沢事務所の意向が『天の声』とされるようになった。平成9年ごろから、秋田県の公共工事に対しても影響力を強め、一部では小沢事務所の意向が『天の声』となった」
「岩手県と一部秋田県で受注を希望するゼネコンは、小沢事務所に対して『天の声』を出してほしいと陳情し、了承を得られれば談合の仕切り役に連絡し、仕切り役が直接、事務所に確認の上、本命業者とする談合がとりまとめられていた。西松を含むゼネコンは、天の声を得るために、小沢議員側に献金を行わせるなどした」
【西松事件公判(3)】西松経営難で蜜月崩壊…「献金減額」に渋い顔の大久保被告(10:30~10:45)
2009.6.19 12:18
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191220010-n1.htm
《検察側の冒頭陳述が続く。国沢幹雄被告は姿勢をピンと伸ばし、まっすぐに検察官を見据えている》
検察官「国沢被告は平成7年、○○(元総務部長兼経営企画部長、処分保留で釈放)らから東北地方、特に岩手県下の公共事業については、小沢事務所の意向で、受注業者が決定されることや、小沢事務所と西松建設は必ずしも関係良好ではなく、思うように公共事業を受注できない状況にあったと説明を受けた。さらに多額の献金をして便宜を図ってもらう必要があるとの説明も受けた」
《検察官は、東北地方で小沢事務所が強い影響力を持っていたことを強調した》
「国沢被告は、同年中に小沢事務所からの要求に応じ、複数の名義を用いて1000万円を超える献金をすることについて、○○らから了承を求められた。そこで、新政研名義なども合わせて計1319万5000円を寄付した」
《これが小沢氏側への初めての献金となった。「事務所からの要求」の部分は検察官の声が少し大きくなったように聞こえた》
「そのうえで、西松建設は、平成8年の岩手県内の国道283号トンネル発注工事を受注したいことを小沢事務所に陳情して、その了解を得て、談合における本命業者となった。そして実際に西松建設側が25億3000万円で落札した。このことから8年は西松建設名義で1112万円、新政治問題研究会(新政研)名義で1700万円の計2812万円の寄付を行った」
《小沢事務所の天の声が奏功し、献金は膨らんでいった。国沢被告は目を閉じて聞き入っている。検察官は年ごとの寄付金の推移を説明していく》
「(西松建設は)9年、小沢事務所と交渉し、年間2500万円を継続的に支払っていくことを申し合わせを行った。1500万円は西松建設から支払うが、残りは西松建設から要請を受けた下請け企業群から寄付するという枠組みを取ることにした」
《検察官は小さくせき払いをした》
「(1500万円は)9年から11年は西松建設と新政研の2つの名義から支払った。12年には、小沢事務所から『多額の献金として社会の耳目を引かないように分散してほしい』と依頼を受け、12年から14年分については、未来産業研究会(未来研)名義の献金を加えるほか、関連会社にも負担させることにした」
《「多額献金」の批判をかわすための分散工作も、小沢事務所からの要請だったと断定した》
「小沢事務所についてはそのころから、大久保隆規秘書が東京における秘書の取りまとめ役として、献金を巡る企業との交渉や談合における天の声に携わるようになった」
《ここで初めて、小沢氏の公設第1秘書の大久保被告=政治資金規正法違反の罪で起訴=の名前が読み上げられた。いきなり“談合の仕切り役”としての登場だ》
「○○は、どの名義でどの受け皿にいくら寄付を受けるか割り振り案を示した一覧表を大久保被告から示され、打ち合わせを行うようになった。15年以降は小沢事務所側の意向で、小沢議員側の受け皿は陸山会など3団体となった」
《そんな蜜月関係も西松建設の経営状態により、変化が生じるようになる》
「17年、国沢被告は○○から、業績が悪化していることなどから、1500万円の寄付を減額したいとの相談を受けた。○○が大久保被告のもとに相談に行った。大久保は『急に減額といわれても困る』と難色を示したが、最終的には200万円の減額を受け入れた。この年は1300万円の寄付を行った」
《しかし業績の悪化には歯止めが掛からない》
「国沢被告は、平成18年に入ると、○○から『献金を終了させたい』という相談を受けた。国沢被告は、不快感を持たれない形で終了させるよう○○に指示した。同年10月、○○は大久保被告のもとへ相談に行ったが、大久保被告は、業績悪化については理解を示しつつも、ただちに寄付をやめられることには難色を示した」
《大久保被告が献金カットを嫌がり、食い下がる様子を指摘する》
「最終的には譲歩し、18年には500万円を寄付するがこれを最後にするということを申し向けて、(大久保被告から)了承を得た」
《検察官はここで一息ついた。国沢被告はじっと検察官を見つめたままだ》
「こうして西松建設は7年から18年まで、小沢議員に対し、多額の寄付を行う一方、東北支店長や盛岡営業所長らが、東京の小沢事務所を訪れて工事受注に関して陳情し、天の声を得た。天の声を背景に談合が成立し、西松建設が落札したその落札額は合計122億7000万円。落札率は94・5~99・2%だった」
《最後に献金のうまみを強調し、検察官は冒頭陳述を終えた。国沢被告は一瞬天を仰いだが、またすぐに顔を正面にむき直した。表情からはどんな感情が浮かんでいるか読み取れなかった》
【西松事件公判(4)】西松の献金「ゼロ回答」に「そういう訳にはいきません」(10:45~11:05)
2009.6.19 12:57
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191259011-n1.htm
《検察側の冒頭陳述が終了した。検察側は公判に提出した関係者の供述書類など証拠書類についての説明を始めた。検察官は立ち上がり、左手に持った水色のファイルにとじた書類一覧を読み上げる》
《国沢幹雄、藤巻恵次両被告とも、冒頭陳述中は検察官を見据えていたが、手元の書類に目を落とし、めくりながら聞き入っている。国沢被告は時折、検察官に視線を向ける。藤巻被告は一息つくように、それまでかけていた眼鏡を外した》
《検察側が読み上げる証拠書類は、西松建設元経営企画部長の供述調書、「新政治問題研究会」(新政研)と「未来産業研究会」(未来研)の収支報告書、西松建設の献金スキームの構築状況などだ。説明は新政研代表者の供述調書に移った》
検察官「(代表は)献金は西松の決定で行われ、(送金は)機械的に行ったと供述している」
《西松建設の東北支店長や事務担当者の供述調書も提出されたと説明が続く。国沢被告は出入りする傍聴人の音が気になるのか傍聴席に顔を向ける。藤巻被告は手元の資料に目を落としたままだ》
《続いて検察官は、東北地方のゼネコンに勤め、談合の指示役を担ったとする別の関係者の供述調書を読み上げる。落札業者の決定方法についてこう供述したという》
「『(関係者は)小沢事務所の影響があった』などと供述している」
《国沢被告は下を向いたり、左に首を傾けたりしながら、表情を変えずに聞き入っている。読み上げは続く》
「『岩手県、秋田県では小沢事務所に逆らって本命を決めることができなかった。意向に沿って決めざる得ませんでした』と供述している」
「小沢事務所の天の声を利用し、受注していたのは、力を持っていた鹿島建設でさえ行っていたことである」
《さらに検察官は、東北地方の別の建設業者も「小沢事務所に真意を確かめる必要があった。業界としては小沢事務所の意向には逆らえなかった」と供述しているとして、東北地方の工事の受注で小沢事務所の威光が強かったことを繰り返し強調した》
《西松建設が落札した岩手県の簗川ダム建設工事について、ゼネコン関係者が大久保隆規被告に「西松でよろしいか」と聞くと、大久保被告が「そういうことで結構です」と答えたとする具体的なやり取りも、読み上げられた》
《検察官は西松建設の元総務部長兼経営企画部長の○○(処分保留で釈放)の供述調書の説明に移った。検察官は、○○が国沢被告から指示されて大量に献金したこと、毎年の寄付の割り振り、小沢事務所側からの請求書に基づき献金したことなどについて記載されていると説明した》
《さらに検察官は、○○が大久保被告と平成18年分の寄付の打ち合わせをした場面の供述内容について、長めに抜粋して説明を始めた。冒頭陳述によると、この場面では、西松側が業績悪化を理由に、献金をやめたいと持ちかけたとされている》
「いつもより早い時期に大久保被告に来てもらい、1階応接室で対応した」
「(西松建設の)業績の悪化から献金の値下げを申し出た。大久保被告はゼロ提示に『厳しいのは分かっていますが、そういう訳にはいきません』」
「『厳しいんですよ』(○○)。『そう言わずにお願いします』(大久保被告)と繰り返し、『今年は500(万円)ということで』と予定の額を提示すると、ようやく(大久保被告が)『分かりました』と納得しました」
《証拠書類の読み上げは続く。弁護人はほおづえを付いたり、所々、何か手元に書き留めている様子だ。国沢、藤巻被告は表情を変えず、前を向いて聞き入った》
【西松事件公判(5)】“力添え”を頼まれた大久保被告「よし、わかった。西松にしてやる」(11:05~11:15)
2009.6.19 13:30
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191331012-n1.htm
《男性検察官が証拠の説明を続ける。手に持った分厚いファイルには、関係者の調書などがおさめられているようだ》
検察官「甲88から90号証は、松栄不動産の歴代総務部長、グリーン開発の代表取締役の調書です。平成12~16年に松栄不動産、グリーン開発の名義で行った寄付について、いずれも西松建設の指示だったことを供述しています」
《冒頭陳述によると「松栄不動産」は西松建設の子会社で、元社長は西松建設の経営企画部長を務めたこともある。国沢幹雄被告と親交が深く、元社長はダミーの政治団体を使った献金方法を提案するなど、トンネル献金に深く関わっていたという。また、「グリーン開発」は宮城県丸森町にあるゴルフ場運営会社で、西松建設の実質的子会社にあたる》
「甲92号証は平成8年以降の秋田県、岩手県発注工事のうち、落札額10億円以上の案件の落札率を捜査した結果です。落札率は94・5%から99・2%。落札額の合計は122億7000万円になります」
《検察側は冒頭陳述で、東北地方では昭和50年代から、ゼネコン各社で作る「東北建設業協議会」を中心に、談合が行われていたと指摘。同協議会は平成3年に解散したが、その後も談合が続けられていたことを裏付ける一環として、落札率の高さを示したようだ》
「甲93から101号証は西松建設の東北支店長以下、談合を担当した社員の調書です。内容は、岩手県と秋田県の一部で受注業者選定にあたり、小沢事務所の意向が『天の声』と呼ばれていたことなどです」
《検察官は、平成15年に西松建設が落札した岩手県発注の簗川(やながわ)ダムに関連するトンネル工事をめぐり、生々しいやり取りの証言を紹介した》
「西松建設は5件について『天の声』を得て、このうち4件を受注しました。簗川については、東北支店長が何度も東京の小沢事務所を訪ね、大久保(隆規・小沢氏の公設第1)秘書に『簗川トンネルの件はよろしくお願いします』と述べ、西松建設が受注することができました」
《政治資金規正法違反の罪で起訴された大久保被告について、検察側は冒頭陳述で「献金をめぐる企業との交渉や談合における『天の声』の発出などを行っていた」と指摘している。「天の声」は岩手県が発注し、18年に入札が行われた遠野第2ダム建設工事にも及んだようだ。当時の支店長の証言を、検察官が述べる》
「何度も大久保秘書を訪ね『どうぞお力添えをお願いします』と頼みました。大久保秘書は『他のところも来ている』と色よい返事はしてくれませんでしたが、再度1人で訪ねたところ、『よし、わかった。西松にしてやる』と言ってくれました。しかし、脱談合宣言もあり、結局受注はできませんでした」
《ゼネコン業界は17年末に、談合との決別を宣言している》
《続いて検察官が読み上げたのは、大久保被告の調書だ。献金事件のキーマンだけに、法廷が静まり返った》
「私は○○さん(西松建設の元総務部長兼経営企画部長、処分保留で釈放)から『今まで小沢先生をお支えしてきましたが、もう限界です』と平成18年を最後に献金を打ち切る旨を伝えられました」
《検察側の冒頭陳述によると、国沢被告は脱談合に向けた動きが業界内で広がる中、政治家への多額の献金を続ける必要もなくなると考え、献金の終了を決めたという》
「私は新政治問題研究会、未来産業研究会からの献金が、実質的に西松建設側からの献金だと知っていました」
《献金の核心に触れる証言に、法廷に緊張が走った。大久保被告は、脱談合の流れなどで西松建設の受注が減り、懐が苦しいことを知っていたため、打ち切りの申し出を了解したという》
「私(大久保被告)は『はい、分かりました。これまでのご支援、心から感謝します。今後、業績等改善されたら、小沢へのご支援をお願いします』と言いました。その後、赤坂の事務所に、西松の献金が計500万円で、今年を最後に打ち切られることを伝えました」
《「赤坂の事務所」とは、小沢氏の東京事務所を指すようだ》
《検察官はこの後、自民党の岩手県連関係者の調書などを読み上げ、西松建設の元副社長、藤巻恵次被告の調書に進んだ》
《調書は、外為法違反と業務上横領の罪で起訴された元海外事業部副事業部長、高原和彦被告が、裏金の管理について藤巻被告の判断を仰いだ場面についても触れている》
「高原から『コープリーに金がたまってきたからどうしましょう』と言われ、国沢社長に『日本に持ってこさせようと思うが、どうか』と聞いたところ、国沢社長に『持ってこさせればいいだろう』と言われたため、私は『はい、分かりました』と答えました」
《「コープリー」とは、タイやベトナムの工事に絡めた架空契約への支払いなどを装うために作った香港のペーパーカンパニーのことだ。国沢被告らはコープリー社の口座を使い、裏金の送金などを行っていた。続いて検察官は、国沢被告の調書も読み上げた》
「岩手、秋田の工事については、小沢事務所がいわゆる『天の声』を出しており、小沢先生の歓心を買い、業績を上げるために違法な献金を行っていました」
《午前11時15分、裁判長が約2時間の休憩を挟むことを伝えた》
【西松事件公判(6)】「会社のためとはいえ…悔悟の念で一杯」藤巻被告が吐露(13:15~13:35)
2009.6.19 15:15
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191520017-n1.htm
《午後1時15分、公判は再開。国沢幹雄被告と藤巻恵次被告は、午前の入廷時と同様に、左右の扉から別々に入廷。裁判長らに2人同時に一礼して腰を下ろした。裁判長の指示のもと、弁護人が証拠請求をした陳述書などについて検察側が同意。まずは、藤巻被告に対する弁護人の質問が始まった》
弁護人「この度、外為法違反で裁判となったが、現在の心境は」
藤巻被告「はい…。会社のためとはいえ、法に抵触し、違法な金を持ち込んだ。罪を犯して、悔悟の念で一杯です。多くの方々にご迷惑をおかけして、ただただ反省し、後悔しております」
《この後、弁護人が藤巻被告の西松入社以降の経歴について確認。藤巻被告が昭和46年以降たびたび海外で勤務し、香港や台湾、シンガポールなどアジア各地で、ターミナル基地やトンネル工事にかかわってきた経歴について質問した》
弁護人「香港、シンガポール、台湾などでは、西松のためと思い、それぞれのインフラ整備に使命感を持っていたんですか?」
藤巻被告「そういうことでございます」
弁護人「そこで記憶に残ったことは」
藤巻被告「私たちが完成させ、竣工(しゅんこう)させると地元の人たちが喜んでくれました。もう1つは、インフラが地元社会をどのように変えるか目の当たりにして満足しました」
《その後、弁護士は特捜部の聴取を受けた期間、調べの時間などについて質問。藤巻被告が誠実に調べに応じてきたことを強調した。藤巻被告は低い声で、ゆっくりと質問に応じた》
弁護人「証拠には奥様の診断書もあるが、どういう状況ですか」
藤巻被告「心臓が悪く、いつも朝には、夕べの(心臓の)状況がどうだったか確認しています。寝ているときに心拍数が上がったり、心臓の変化が出ている。私がこういう状況というのもあると思いますが…。できる限り世話をしたいと思います」
弁護人「介護が必要ということですが、あなたがするのか」
藤巻被告「そうでございます」
《ここで再び弁護人に促され、藤巻被告が改めて現在の心境について問いただす。再び違法行為についてわびた後、声を落とし、こう続けた》
藤巻被告「私も西松に45年勤め、もう自分としては手伝うこともできないが、会社が再開することを、影から心から祈っているところです」
《ここで、弁護側の質問は終了。検察官が立ち上がった》
検察官「あなたに関しては、裏金とかその他いろいろあり、金額も相当なものだった。その辺については取り調べで話しましたか」
藤巻被告「金額は●(聞き取れず)についてではありません」
検察官「あなたは『6000万円ですべて』と事実と違うことをおっしゃっていたようだが、調べでは違うことを主張していたのですか」
藤巻被告「はい」
《検察官の質問はごく短時間で終了。最後に裁判長が質問を始めた》
裁判長「継続的にこのような金をつくった目的はなんですか」
藤巻被告「まあ、海外で、国によっても違いますが、地元で工事を円滑に進めるために、協力をえるために金が必要になる。JVから拠出を求められるので…」
裁判長「高原和彦被告(元海外事業部副事業部長、外為法違反罪などで起訴)が言ってる内容についてはご存じですか。何か、(自分の主張に)反することがあれば言ってください」
藤巻被告「フィリピンで金をつくった経緯ですが、私に報告したと言っているが、全部報告があったとは思っておりません。その後、横領などもあったので、報告していないのも調書を見るとありました」
裁判長「あなたの指示していないことを『指示された』とした供述はあったか」
藤巻被告「微妙な言い方だが、彼は外国で金がたまると国内に持ってきます。その際に『持ってこい』と指示してはいないが『持ってくる』と言ったから了解しました。基本的には間違えていないが…」
《裁判長の質問に、落ち着いた口調で答え、藤巻被告の被告人質問が終わった》
【西松事件公判(7)】談合「あったほうが楽? なかったほうが楽?」裁判長の問いに国沢被告は…(13:35~13:55)
2009.6.19 15:44
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191546018-n1.htm
《国沢幹雄被告の被告人質問が始まる。被告席を立ち、証言席に座った国沢被告。あまり表情はなく、低い張りのない声で訥々(とつとつ)と語る》
弁護人「本件についてのあなたの認識は、供述調書の通りでいいですか」
国沢被告「そうです」
弁護人「この陳述書はあなたのものですか」
国沢被告「間違いありません。私のいまの考え、心境を書かせて頂いたものです」
弁護人「政治献金は誰のために行ったものですか」
国沢被告「会社のためになると思ってやったことです」
弁護人「外為法違反は誰のためにやったことですか」
国沢被告「会社のためになると思ってやったことです」
《弁護人は、裁判官に情状を酌量してもらうため、個人の利益のためではなく、会社のためにやった犯罪であることを国沢被告に強調させているようだ》
弁護人「西松建設に入社したのはいつですか」
国沢被告「昭和36年6月です」
弁護人「あなたは平成元年に取締役になり…」
《弁護人は国沢被告の経歴を確認した後で、さらに質問を続けた》
弁護人「建設業界で役員を務めたことはありますか」
国沢被告「土工協、日建連の役員をやらせて頂いたと思います」
弁護人「土工協というのは日本土木工業協会、日建連というのは日本建設業団体連合会ですね」
国沢被告「そうです」
弁護人「社会奉仕はやったことはありませんか」
国沢被告「地震災害の救援活動です」
弁護人「具体的には?」
国沢被告「新潟県中越地震の際には寄付を募り、人も出しました。感謝状を頂いたと記憶しています」
弁護人「あなたは会社に貢献したと思いますか」
国沢被告「会社のために働いてきましたし、管理本部長の時は会社の業績を向上させたと思います。(兵庫県)尼崎市の開発、浜松市の開発…。総額1500億円の事業で売り上げに貢献したと思います。失敗したことはなかったと思います。会社のために一生懸命やってきました」
弁護人「会社のためとはいえ、法を犯してはよくないのではないですか」
国沢被告「いま考えると、おっしゃる通りです」
弁護人「ではなぜ、法を犯したのですか」
国沢被告「規範意識が希薄だったと思います。法を犯してまでやるべきではありませんでした。深く反省しています」
弁護人「初めに外為法違反で逮捕されたのは?」
国沢被告「(今年)1月20日です」
弁護人「(その後、身柄拘束が続き)政治資金規正法違反で起訴された後、いつまで拘束されていましたか」
国沢被告「保釈される本年5月1日までです」
弁護人「身柄を拘束されたのは初めてですか」
国沢被告「初めてです」
弁護人「いまも社長ですか」
国沢被告「本年の1月20日に辞任しました」
《1月20日、国沢被告は逮捕直前に辞任したことが明らかになっている》
弁護人「なぜですか」
国沢被告「『会社が捜索を受けている』と聞き、これは辞任すべきだと考えました」
《西松建設は昨年6月と11月の2回にわたって、東京地検特捜部の家宅捜索を受けたことが明らかになっている》
弁護人「今後はどう生活していくつもりですか」
国沢被告「年金生活だと思います」
弁護人「この診断書通り、いまも(病気の)治療しているのですか」
国沢被告「お医者さんに薬を出していただき、治療しています」
弁護人「いまはどなたと暮らしていますか」
国沢被告「妻と暮らしています」
弁護人「今後はどうしたいですか」
国沢被告「出身地の愛媛に帰って、妻とともに反省して暮らしていきたいと思います」
弁護人「最後に何か、言っておきたいことはありませんか」
国沢被告「大変ご迷惑をかけました。他のゼネコンが大なり小なり行っているから競争に勝つための必要悪と思っていましたが…。今回起訴されて、なぜ談合をなくすために何かしようとしなかったのか、何かできることはないか、そういう観点でできなかったのか、私の経営者として不徳の致すところです」
《ここで弁護人の質問が終わる。次に検察官が立ち上がり、短い質問をする》
検察官「あなたの供述調書に間違いはありませんか」
国沢被告「はい」
検察官「では結構です」
《山口雅高裁判長は、藤巻恵次被告に関係する質問がないことを弁護人に確認したうえで、自ら質問をする》
裁判長「小沢氏(一郎・民主党代表代行)側への献金の出所を知っていましたか」
国沢被告「知っています」
裁判長「どういう金ですか」
国沢被告「平成7年ごろ、他社が政治団体をもっており…」
裁判長「それは分かっています。簿外資金だということは知っていましたか」
国沢被告「簿外資金からは出してないと思います」
弁護人「談合があったときと、談合がなくなったとき。どっちが楽でしたか」
国沢被告「談合がない方が楽だったと思いますが、談合がなくなると、競争が激しくなって実績はそう上がりませんでした」
《「ない方が楽」といいつつも、言葉の端に複雑な心境をのぞかせた被告。裁判長もこれで質問をやめた。被告人席に戻った国沢被告は、後ろを向いて弁護人と何かしゃべり、また、向き直った。被告人質問も大きな争点は浮かび上がらないまま終わった。今度は検察官が立ち上がり、論告求刑を始める》
検察官「本件公訴事実は、当公判廷で取り調べられた関係各証拠により証明十分です…」
「外国為替及び外国貿易法(外為法)違反事件について。本件は簿外資金、いわゆる裏金を日本国内での工事受注のための資金など表だって支出できない使途にあてるため、輸入したものであって、動機に酌量の余地はない…」
「西松建設は昭和60年代から長年にわたり裏金を隠匿輸入することが恒常化していたところ、両被告も本件を引き継いで犯行に至った…」
「両被告はいずれも西松建設の社長と副社長という重責にあり、両被告が共謀の上、(外為法違反罪などで起訴された)高原(和彦被告)に命じて実行させたものであり、まさに両被告が犯行の首謀者であり、責任は重い…」
《検察官は、両被告を厳しく指弾しながら、論告を読み上げ続ける》
【西松事件公判(8)】「規正法を踏みにじる犯行」「周到かつ巧妙な偽装工作」(13:55~14:15)
2009.6.19 16:07
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191609020-n1.htm
《国沢幹雄被告は椅子(いす)に腰掛けたまま、目を閉じている。男性検察官が国沢被告への論告を続ける》
検察官「本件は、西松建設が岩手県下などの公共工事の受注に掛かる談合について、小沢一郎衆院議員の事務所から天の声を得るために多額の寄付を行う中、平成7年から18年までの間、西松建設の献金であることを目的として新政治問題研究会(新政研)と未来産業研究会(未来研)の名義を使って総額1億2900万円の寄付を行った事案である」
《早口でここまで語った検察官は一息ついた》
「これは、建設業者と特定政治家との癒着を国民の目から覆い隠した犯行である」
《検察官は語気を強めた》
「そもそも、政治資金規正法は、政治活動の公正を確保することを目的とした議会制民主主義の根幹をなす法律である。政治腐敗を防止するため、収支報告書提出を義務づけ、これを公開することで、資金をガラス張りにすることを目的に昭和23年に制定された。その当時から、虚偽記入については禁固5年を上限とする重い罰が定められていた」
《ここから検察官は、政治資金規正法の歴史を振り返り始めた》
「その後も事件の発生をふまえ、改正が重ねられた。第三者名義による寄付の禁止は、昭和50年に追加された。平成11年には資金管理団体に対する企業献金も禁止するなど抜本的改革が図られた。このように一貫して、政治腐敗防止のため、改正が続けられた。それを軽視することは、法の本来の重要性や改正の努力を顧みないものである」
《その力強い語り口は、規正法を武器に政治家と対峙(たいじ)した先輩検事たちが乗り移ったかのようだ》
「特に本件の寄付は、天の声を得ることを目的としたものであり、西松建設は多額の寄付をしながら、新政研、未来研の名義を使用して、寄付の主体を偽った。これは業者間の談合により、公共工事を受注してきたという談合の構造や実態を隠蔽(いんぺい)したものである。西松建設と小沢議員との関係を国民の目から覆い隠したという意味で、ヤミ献金と何ら異ならない」
「西松建設はこうして4件の公共工事を122億円で落札し、納税者である国民に負担を強いた。まさに政治資金規正法の目的を踏みにじる悪質な犯行である」
《再度、規正法の趣旨を強調した検察官。国沢被告は目を閉じたままだ》
「なにより違法献金の形が巧妙で悪質だった。現役の社員を退職させて、新政研の代表者として届け出るとともに、新政研名義の献金規模が増えると、2つ目のダミー団体未来研を設立した。政治資金パーティーの開催を偽装し、関連会社からパーティー券購入名目で資金を移動させもした。きわめて周到かつ巧妙な偽装工作がなされていた」
《さらに犯行の継続性を鋭く指摘する》
「小沢議員側政治団体への献金は平成7年からの12年間で1億2900万円に上る。またその間、収支報告書に表れる現金額が高額となって社会の注目を集めないよう、西松建設側の献金名義、小沢議員側の受け皿のいずれについても複数に分割して、1口当たりの寄付金額を極力抑えるなどの工作も行われていた」
《そして、国沢被告が主導的に関与していたことに言及した。検察官は、国沢被告を一瞥(いちべつ)した》
「事務部門のトップである事務本部長当時、献金スキームを構築し、その後も社長という立場から一貫して関与していた。その責任は重い」
《ここで息もつかず、検察官は求刑に入った》
「以上諸般の事情を考慮し、相当法条適用のうえ、国沢被告に禁固1年6月、藤巻被告に懲役6月を求刑する」
《求刑の瞬間、2人の被告は眉一つ動かさなかった。検察官は着席した。裁判長はここで弁護側に「休憩を入れますか」と持ちかける。弁護人が国沢被告と相談したが、国沢被告は手を振って断った。国沢被告は顔色が優れないようにも見えた》
《続いて、弁護側の最終弁論が始まった。まずは藤巻恵次被告の外為法違反罪についての弁論だ。藤巻被告の行為は、事前に届け出をせずに現金を持ち込んだという形式犯にすぎないことを強調。国外からの現金持ち込みが、前任から引き継がれていたことを指摘し、「会社組織が責任を負うべきだ」と主張した》
【西松事件公判(9)】「トンネルの神様」の話で政治団体誕生(14:15~14:35)
2009.6.19 16:20
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191624022-n1.htm
《藤巻恵次被告の弁護人による最終弁論が続き、情状のくだりにさしかかる》
弁護人「被告人は長年に渡り会社に貢献してきた。社会にも貢献し、前科前歴もない」
「高齢であり、余生を静かに過ごすしかない。夫婦とも病弱である」
「(今回の外為法違反事件は)届け出義務違反であり、長期の勾留(こうりゅう)の必要がなかった。必要以上の拘束は刑を科せられたのと同じである」
《弁護人は現金の無届け輸入を「形式犯」と主張した上で、報道各社が「実質犯」のように報道したと批難し、最終弁論を結んだ》
「社会への影響が小さいとはいえないが、実質犯の憶測報道と峻別(しゅんべつ)する必要がある。以上のことから、執行猶予判決を下されたく、よろしくお願いします」
《前を向いて座っていた藤巻被告だったが、自身の最終弁論が終わると、わずかに下を向いた》
裁判長「それでは被告人、国沢の関係を」
《弁護人が国沢幹雄被告の担当に代わった》
弁護人「被告人は本件公訴事実を争いませんので、以下、情状について述べます」
《被告席に少し足を開き気味にして座って国沢被告はうつむき、つま先を数回、上げ下げした。まず、弁護人は外為法違反事件について述べ始める。藤巻被告と同じく無届けの現金輸入が「形式犯」であると主張し、マスコミ批判を展開した》
弁護人「西松建設が犯罪で取得した現金を輸入したというのは誤りであり、マスコミの報道などにより、根拠のない疑惑が持ち上がりました」
「政治資金規正法違反は本件(外為法違反事件)と関係は全くなく、(事件捜査の)端緒になったにすぎない」
《最終弁論は建設業界の「裏金」体質にも言及する》
弁護人「(海外の)現地企業と工事を円滑に進めるための資金を求められることはあり、表の金で処理するのは難しい。帳簿に載せないことは望ましくないにせよ必要不可欠」
《さらに、「裏金」作りは西松建設内部で受け継がれてきたものだとした。個人犯罪ではなく、会社の体質が犯罪の温床になっていたことを印象付ける狙いのようだ》
「一企業人である被告が正義を貫くのは著しく困難だった」
「どれくらいの金がいつ、どのように持ち込まれるのか全く知らなかった」
《最終弁論は核心の政治資金規正法違反事件の部分に移る。弁護人は同法の立法精神から説き起こし、違法性の認識に焦点が移る》
弁護人「政治資金のあり方について定めたもので、一種の行政法規であり、実質犯と異なり形式犯である」
「あたかも贈収賄ととられるような適切な報道であったとはいえない。罪刑を越える非難を加えることはできない」
「実質は西松建設からであり、公明公正を害したと言えるが、違法性には留意しなければいけない」
《弁護人は政治資金規正法が寄付者を記すべきだという説と、資金の拠出者を示すべきだという説があると主張する》
「仮に(寄付者を記すべきだという)形式説が正しいとしたら、法の趣旨は収支の公開であって、違法性はさらに低いものになるのではないか」
《続いて、新政研と未来研を設立した経緯に話は及ぶ。弁護側は2つの政治団体を国松被告が「主導して設立したのは間違いない」と認めた。新政研の設立は同社OBにすすめられてのものだという》
「『西松もそのような政治団体を作ってはどうか』という話だった」
《OBは『他のゼネコンも政治家に献金するための政治団体を作っている』と話したという》
「OBは『トンネルの神様』と呼ばれる技術者だった。被告人は、その話を信じ、(政治団体を)作ることにしたのである」
「その際、他のゼネコンの仕組みを詳しく聞いたわけではない」
「(資金を)西松建設から拠出する仕組みを考えたが、脱法的で違法性の認識がなかったとはいえない。『他(のゼネコン)もそうだろう』」と、違法性の認識はあいまいだった」
《弁護人はあくまで違法性を認識しての違反ではなかったと強調し続ける。国沢被告は下を向いたままだ》
【西松事件公判(10)完】「競争に勝つため献金は不可欠 西松だけしないのは不可能」(14:35~14:45)
2009.6.19 16:37
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090619/trl0906191641023-n1.htm
《国沢幹雄被告の男性弁護人が、最終弁論を続ける。国沢被告はまっすぐ前を見つめたままだ》
弁護人「ゼネコン各社は、西松建設と方向は違うにせよ、小沢氏側に多額の献金をしています。西松建設以外に政治団体を持っているところがない、という確証はありません」
《さらに、西松建設が献金をした背景にも触れた》
「公共工事の受注業者を決める際に影響を及ぼす政治家に、少なくとも嫌われたくないから多額の献金をするんです。ゼネコン各社にとって、競争に勝つためには献金は不可欠だと考えられてきました」
《弁護人は声の調子を強めて言い切った》
「西松建設だけが献金をしないことは不可能です。西松建設が政治団体を使って献金をしたのも、無理からぬことです」
《ダミー団体をつくってまで献金を行ったことについては、こう説明した》
「平成11年までは、新進党ないし自由党の政治資金団体『改革国民会議』のみに献金をしていました。政党への献金は本来、西松建設名義ですることも可能です。それを政治団体名義でしたのは、それが違法であるという意識よりも、西松建設が献金していることを(世の中に)知られたくなかったからです」
《加えて、小沢一郎氏側からも働きかけがあったことを明らかにした》
「小沢氏側から『献金先を分散させるために陸山会以外にも寄付をするように』と要請があったため、これに応じました」
《続いて、情状について説明した》
「被告人は深く反省しています。入社以来、会社を愛し、懸命に働き、業績にも貢献してきました。地震被害の際には、会社をあげて救援するなどし、業界の発展にも貢献してきました」
《しかし、裏金作りや献金をめぐって検察から聴取を受けることになる。今年1月には、責任を取って西松建設の代表取締役を辞任している。弁護人は体調面にも言及した》
「平成18年に心筋梗塞(こうそく)を起こしました。このほかに高血圧、糖尿病、逆流性食道炎など複数の疾患を抱えています。被告人は本件犯行により、今後、会社とは縁を切るしかないと考えています。70歳という高齢でもあり、今後は妻と2人、年金生活を送ることにしています」
《さらに、捜査方法にも疑問を呈した》
「被告人は102日間という長期に渡り、身柄を拘束されました。実質上、取り調べが終了した後も保釈が認められず、罪刑に比べてあまりにも長期に渡り、拘束されました」
《社会的影響についてはこう述べた》
「確かに、民主と自民の支持率など社会的な影響はありました。しかし、(逮捕された)時期や政治状況、過熱したマスコミ報道によるところも大きい」
《弁護人が「執行猶予付きの判決をお願いいたします」と締めくくると、裁判長が国沢被告らに証言台へ進むよう促した》
山口雅高裁判長「これで審理を終わりますが、最後に何か言っておきたいことはありますか」
《裁判長が尋ねると、まず右側に立った藤巻恵次被告が一礼し、はっきりとした口調で謝罪の言葉を述べた》
藤巻被告「(言いたいことは)特別ございません。大変申し訳ございませんでした」
《続いて、国沢被告も口を開いた》
国沢被告「誠に申し訳なかったと思っています」
《2人が深々と頭を下げると、裁判長は午後2時45分、閉廷を宣言した。国沢被告と藤巻被告は、いずれも特に疲れた様子は見せずに法廷を後にした。判決公判は7月14日午前10時から開かれる》
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追記(6月24日)
「天の声」とは、いったい何を意味するのか
西松建設「無条件降伏」公判での検察側「立証」への疑問
日経ビジネスオンライン 2009年6月24日
郷原 信郎
6月19日に東京地裁で行われた、西松建設前社長らに対する外国為替及び外国貿易法違反及び政治資金規正法違反の事件の第1回公判で、検察側は、西松建 設が、社員らを会員にして作っていた政治団体の名義で小沢一郎前民主党代表の資金管理団体「陸山会」への寄附が行われた背景などに関して、詳細な冒頭陳述 を行った。
「欠席裁判」に近い西松建設公判での検察側冒頭陳述
この事件では、小沢氏の公設秘書で「陸山会」の会計責任者の大久保隆規氏も逮捕・起訴され、弁護人のコメントなどによれば、政治資金規正法違反の 事実を全面的に争う方針とされているが、西松建設側は、株主総会までに事件を早期に収束させて企業として受けるダメージを最小限に抑えたいとの方針から、 第1回公判で事実を全面的に認め、即日結審するというスピード審理となった。
いわば「無条件降伏」の状態にあり、検察側の主張について争う意思が全くない西松建設側の公判での検察の主張は、相手方当事者の反論、反対尋問を 全く受けない一方的なもので「立証」などと言えるレベルではない。事実を全面的に争う姿勢の大久保氏側、そして当該資金管理団体の代表で当事者的立場にあ る小沢氏にとって、この公判で検察側が主張したことがそのまま報道され世の中にすべて真実のように受け取られるとすれば「欠席裁判」そのものだ。
裁判員制度が開始されようとしている状況において、同一事件または関連事件について、共犯者の一部が自白し、一部が否認している場合に、このよう な一方的な欠席裁判のような公判立証を行い、それをマスコミに報道させることは、一般市民の裁判員に不当な予断を与えるもので絶対に許されないはずだ。
しかも、冒頭陳述などによる検察側の主張の内容は、私が、かねて本コラム(「小沢代表秘書刑事処分、注目すべき検察の説明」など)で指摘し、政治資金問題第三者委員会報告書でも指摘した、検察の捜査・起訴に対する疑問に答えるものにはなっていない。
それどころか、検察が、この事件の事実関係を歪曲し、それをそのまま報道させることで世論を誘導しようとする意図が窺われる。それが端的に表れているのが「天の声」という言葉の使い方だ。
「天の声」が冒頭陳述で多用された意味
このような西松建設の公判での主張の中で、検察側が冒頭陳述などで繰り返し用いたのが、「天の声」という言葉である。
以下は、関連する冒頭陳述の一節である。
東北地方では、昭和50年代初め、E社が中心となって、東北建設業協会連合会と称するゼネコン各社による談合組織を立ち上げ、以後、E社社員を仕 切り役として、談合によって公共工事の受注業者を決めていた。東北建設業協会は平成3年頃表向き解散したが、その後もE社を中心とする談合組織・体制は存 続し、談合が続けられた。
そのような中、岩手県下の公共工事については、遅くとも昭和50年代終わり頃から、小沢議員の事務所(以下「小沢事務所」という)が影響力を強 め、前記談合において、小沢事務所の意向がいわゆる「天の声」とされ、本命業者の選定に決定的な影響を及ぼすようになった。また、平成9年頃から、小沢事 務所は、秋田県下の公共工事に対する影響力も強め、以後、一部同県下の公共工事に係る談合においても、小沢事務所の意向が「天の声」となった。
すなわち、岩手県下または一部秋田県下の公共工事の受注を希望するゼネコンは、小沢事務所に対し、自社を談合の本命業者とする「天の声」を出して ほしい旨陳情し、同事務所からその了承が得られた場合には、その旨を談合の仕切り役に連絡し、仕切り役において、当該ゼネコンが真実「天の声」を得ている ことを直接同事務所に確認のうえ、当該ゼネコンを当該工事の本命業者とする旨の談合が取りまとめられていた。
この「天の声」という言葉が、新聞、テレビなどでそのまま報じられ、小沢氏側が西松建設関連の政治団体から受け取っていた政治献金は、小沢事務所側 が「天の声」を出して西松建設に工事を談合で受注させた見返りであったことが、あたかも確定的な事実であるかのように扱われている。しかし、ここでの「天 の声」という言葉の使い方自体が、従来の業界内での用語とは異なるだけでなく、冒頭陳述の内容にも重大な疑問がある。
かつてのゼネコン業界の談合の世界における「天の声」というのは、一般的には「発注者側のトップつまり、知事、市町村長など地方自治体の首長の意向」を示すものであり、その意向に従って受注予定者が決まるという談合ルールを「天の声」談合と呼ぶことがあった。
「天の声」談合の由来
「天の声」という言葉が公共工事を巡る談合に関して初めて具体的に使われるようになったのは、ゼネコン汚職事件の皮切りとなった1993年6月末 から7月にかけてのゼネコン汚職事件仙台市長ルートの捜査の頃であった。ゼネコン4社から2500万円ずつ合計1億円が石井仙台市長側に提供されたという 贈収賄事件であったが、この事件で、仙台市発注の公共工事は、すべて発注者側の意向に従って受注予定者を決めるルールで談合が行われ、大規模工事について は市長自身の意向で受注者を決定している談合の実態が明らかになった。
それが、「『天の声』談合」という言葉を世の中に知らしめることになった。そして、その後、宮城県知事や茨城県知事などが収賄罪で摘発されたが、これらの事件の背景にも、このような「天の声」談合の存在があると報じられた。
このようにして、発注者側のトップの意向に従って談合による公共工事の受注予定者が決定される「天の声」型談合の構図が出来上がった背景には、次のような背景があった。
日本の公共工事を巡る談合は、昭和30年代頃からは、非公式のシステムとして建設業界で定着していたが、かつては、入札の前に受注者を話し合いで 決めること自体は、形式上は違法な行為であっても社会的には悪ではないと思われてきた。受注調整は、工事現場の所在地、周辺での受注実績や過去の同種工事 の受注実績、特殊技術に関する技術力を考慮することで、その工事を受注するのに最も相応しい業者を話し合いで決めるものだったが、その決定に当たっては、 発注者側や政治家などの有力者の意向が考慮されることもあった。このような調整は、業界団体や業界の親睦団体の会合の場で「民主的」に「半ば公然」と行わ れていた。
その状況を大きく変えたのが、1990年頃からの日米構造協議における米国からの独禁法の運用強化の圧力だった。刑事告発の動きが現実化した埼玉 土曜会事件を機に、大手ゼネコンは、表面上は談合排除を宣言し、受注調整のための親睦団体は次々と解散した。しかし、業界調整という非公式のシステムの中 で話し合いによって受注者が決定されていた実態には基本的に変わらなかった。
談合システムは非公然化し、社内でもごくわずかな特定の者にしか調整の実態は知らされず、業者間の会合に一堂に会して決定する方式ではなく、受注を 希望する業者同士の個別の話し合いや情報交換によって受注希望を調整して、受注予定者を1社に絞り込むという形態に変化していった。
しかし、会合による「民主的」な受注者の決定と異なり、個別の話し合いで受注希望を調整することは容易ではなかった。多数の業者が受注を希望する 工事については、個別に話し合っているだけではなかなか、受注希望を調整して1社に絞り込むことができない。それが、業界内の受注調整において、それまで 以上に自治体の首長などの意向が尊重されることにつながった。それが、多くの地方自治体発注の工事について、首長など発注者側の意向によって受注者が決定 される「天の声」型談合が定着することにつながった。
談合構造の「進化」
ゼネコン汚職事件で複数の首長が逮捕され、「天の声」型談合の実態が明らかになったのを機に、談合の構造は再び変化することになった。発注者側の 意向は、談合による受注者決定において「客先意向」として尊重されることに変わりはなかったが、そのような意向がストレートに受注業界側に出されることは 少なくなった。刑事事件で摘発されることを恐れ、首長自身は受注業者側と接触しなくなり、首長と何らかの形で意思疎通ができる人物に、その自治体の発注工 事に関する「首長の意向」が間接的に伝えられるという形態に「進化」した。
その工事を受注するのに最も相応しい業者を選定するという業界内の受注調整の構図は基本的に変わらなかったが、そこに、間接的に伝えられる首長の 意向や、発注自治体に予算や補助金の配分などで影響を与え得る立場の政治家や、地域の有力者の意向なども、受注者の決定に強い影響力を持った。これらの要 因が複雑に交錯して、業界内での情報交換や話し合いを通じて受注予定者が絞り込まれていくという構図が出来上がっていった。
このような談合構造の下での受注予定者となるために重要だったのは、その工事を受注することについての地域内での有力者のコンセンサスを得ること であった。それは、受注した場合の工事施工を円滑に行うための条件であり、逆にその条件を満たしていないと、受注予定者になる資格がないと見なされる恐れ があった。
そのような構造の下で、発注自治体の首長の側や発注者に影響力がある政治家などに対して金銭の提供が行われることもあった。「意向」を出しても らって受注したことの対価そのものである首長側への金銭等の提供は、通常、「意向の伝達役」に対して行われ、首長自身には刑事事件の捜査などが波及しない ようにするという方法がとられた。
公共工事受注業者から政治家に対して行われる政治献金には、2通りあった。1つは、発注者側の意向、つまり「客先意向」に強い影響力を与える立場 の政治家に対するもの、例えば、当該工事の事業に関して補助金を交付する官庁に関係している政治家や、その官庁から予算の割り当てなど、工事の発注予定に 関する情報を提供してくれる族議員に対する政治献金だ。これらは、その献金の事実が明らかになると、その政治家に対する社会的非難や、あっせん利得罪、収 賄罪での摘発につながりかねない性格の政治献金であり、裏金による献金か、下請会社名義などで、絶対に他者には分からないような形態で行われた。
もう1つは、地域において強い影響力を及ぼす有力な政治家や政党に対する献金である。例えば、その自治体の議会の与党の幹部などに対して行われる政 治献金は、工事受注との直接的な対価関係を持つものではない。業界内の談合で受注予定者となることを希望している業者にとっては、工事を円滑に受注し施工 するために地域の有力者の間で受注予定者になるためのコンセンサスを得ておくことが重要であり、有力者からの横やりで、そのコンセンサスが破られることを 強く警戒する。そこで、地域における有力な政治家や政党に対しては、特定の工事の受注とは関係なく、恒常的に相当な金額の政治献金が行われることになる。 この場合の政治献金は、受注を妨害されないための保険料的な性格が強かった。
県発注工事について、県議会で圧倒的な多数を有する与党の地方組織に対してこのような趣旨の政治献金が行われていた実態を明らかにしたのが、自民党長崎県連違法献金事件であった。
筆者は、日米構造協議における米国側からの圧力で談合など独禁法違反に対する制裁強化が図られていた90年から93年にかけて公正取引委員会に出 向し、埼玉土曜会談合事件の摘発に関わったほか、ゼネコン汚職事件でも、上記の仙台市長ルートの仙台現地捜査班に加わって「天の声」談合の構造を解明し、 長崎地検次席検事時代には、上記の自民党長崎県連事件の捜査を指揮、多くの談合事件や贈収賄、違法献金事件の摘発に関わった。そして、これらの経験に基づ き、この分野に関する唯一の捜査実務書(『入札関連犯罪の理論と実務』)を著している。
上記のようなゼネコン談合と「天の声」、政治資金に関する実態は、筆者が、この問題に関する一般的な認識として、著書などでも述べているところだ。
小沢氏への政治献金と公共工事との関係
小沢氏がゼネコンから長年にわたって政治献金を受けていた背景に何があったのか、筆者は直接知り得る立場ではない。しかし、上記のようなゼネコン談合と 政治献金の関係に関する私の一般的な認識からすると、業界用語として「発注者のトップの意向」を意味する「天の声」という言葉が、検察の冒頭陳述におい て、何の理由も示されず「国政レベルの政治家側の意向」として使われていることには大きな違和感がある。
しかも、冒頭陳述の中で、ゼネコン側が「自社を談合の本命業者とする『天の声』を出してほしい旨陳情し、事務所からその了承が得られた場合には、その旨を談合の仕切り役に連絡し」と書かれている部分は、業界調整の常識からは考えられない。
政治家の意向が「天の声」に影響を及ぼすとしても、それは、発注者側に対して影響力を行使し、その意向が発注者側から業界側に伝わるということであって、政治家側から業界側に直接伝わることは、通常は考えられない。
小沢氏が自民党幹事長として、与党内で絶対的な権力を握っていた時代においては、岩手県など東北地方の一部において、公共工事の発注自体に大きな 影響力を有していたと考えられるので、小沢事務所の意向が、発注者の地方自治体首長の「天の声」をしのぐ絶対的な力があった、ということも十分に考えられ る。しかし、小沢氏の国会議員としての立場は、その後、細川政権側の有力政治家という政権与党側の立場から、新進党、自由党などの野党の立場に大きく変 わっている。そのような政治的立場の変化によって、小沢事務所の公共工事の発注に対する影響力は異なったものになったと考えられる。
今回の西松建設関連の政治団体の名義での政治献金が行われた時期のほとんどは、小沢氏が野党の国会議員の立場にあった時期だ。その時期に、小沢氏の 側に、公共工事に関連してゼネコンから多額の政治献金を受ける理由があるとすれば、発注自治体への影響力というより、地元の政治家としての、地元の公共工 事関連業者や、公共工事と利害関係を持つ有力者などに対する影響力が背景になっていたと考えるのが合理的であろう。
ゼネコン側にとって、小沢氏側に恒常的に多額の政治献金をする理由として考えられるのは、地域の住民や有力者、業者などと密接な関係があり、地元 建設業者や建設資材供給業者などとも関係が深い小沢事務所や秘書と良好な関係を維持することが、ゼネコンがその地域で工事を受注して円滑に施工するために 重要と考えられていたことによるものであろう。小沢事務所との良好な関係を維持することは、その地域の有力者のコンセンサスを得て、業界内の談合で受注予 定者になることについての保険料的な性格が強かったものと思われる(今年の5月16日に公表された西松建設の内部調査報告書では、「献金を行う趣旨に関し ては、工事の発注を得たいという積極的な動機よりも、受注活動を妨害しないでほしいという消極的な理由もあったと供述する者もいた」とだけ述べられてい る)。
検察冒頭陳述を裏づける供述の「質」
「天の声」に関する検察の冒頭陳述の内容は、談合構造の歴史的経過から考えると、極めて不自然であり、西松建設の関連団体から小沢氏側への政治献金の原因・動機に関して真実を述べているとは到底思えない。
西松建設側にとっては、政治献金の事実を積極的に隠したいと考えたのは、むしろ、その献金の事実が明らかになると、その政治家に対する社会的非難 や刑事事件での摘発につながりかねない与党議員側への献金の方だと考えるのが合理的であろう。「新政治問題研究会」という西松関連団体と同一名称の故橋本 龍太郎氏の政治団体が同じ千代田区に存在していることで、自民党議員に対する献金が特定できないようにすることが、政治団体設立の主たる目的ではないかと の政治資金問題第三者委員会報告書(10頁)の指摘を、改めて注目すべきであろう。
このような検察の冒頭陳述の内容を裏づけるゼネコン関係者の供述調書が存在していて、ゼネコン関係者が署名しているとしても、それを額面通り受け取るこ とはできない。既にゼネコン間の談合構造が3年以上も前に崩壊し、談合が過去のものとなってしまった現在、過去の談合の事実に関してどのような供述を行お うと処罰や処分を受けることはないのであるから、ゼネコンの談合担当者にとっては「どうでも良い話」である。検察側の誘導によって、そのような内容の調書 に署名している可能性が高い。
重要なことは、これらの点は、事実を争っている大久保被告人の公判において、反論・反対尋問に耐え得る立証によって明らかにされるべきだということだ。
「無条件降伏」公判でも認定されなかった
「天の声」
検察は検察審査会の民意を本当に反映させたのか
日経ビジネスオンライン 2009年7月24日
郷原 信郎
7月17日、東京地裁で、西松建設の国沢幹雄元社長の政治資金規正法違反などの事件に対する判決が言い渡された。
この事件では、西松建設側が検察側の主張立証を全面的に受け入れる「無条件降伏」状態であったことに乗じて冒頭陳述で、「天の声」などの言葉を多用して小沢前代表秘書の有罪と行為の悪質性を世の中に印象づけようとする検察の「欠席裁判」的なやり方が問題になった(「天の声」とは、いったい何を意味するのか)
もう一つの問題は、検察審査会での議決と公判審理との関係だった。検察は、「他の事件で起訴済みで求刑にも量刑にも影響しない」との理由で一旦は起訴猶 予にしていた二階俊博経済産業大臣の派閥の政治資金パーティー券の購入の余罪を、検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて論告求刑後に起訴した。判決期日 が取り消されて弁論が再開され、追起訴に伴って求刑が変更されるかが注目されたが、検察は、求刑を従前どおりに維持し、立証も最小限のものにとどめた。検 察審査会の議決を受けて追起訴を行っても、追起訴事実についての公判での立証が十分に行われなければ、民意が実質的に反映されたとは言えない。
判決は政治献金の談合受注との対価性を否定
今回の判決は、政治団体名義での寄附を西松建設による「第三者名義の寄附」と認め、政治資金規正法違反が成立するとしたが、寄附の動機について は、「公共工事の受注業者の決定に強い影響力を持っていた岩手県選出の衆議院議員の秘書らと良好な関係を築こうとして平成9年ころから行ってきた寄附の一 環であり」と認定するにとどめた。
また、検察が受注工事一覧表まで示して寄附が公共工事の談合受注の対価であったことを主張したにもかかわらず、判決は、量刑面で被告人に有利な事 情として、寄附は「特定の公共工事を受注できたことの見返りとして行われたものではない」と認定し、検察の主張を正面から否定した。判決の認定の前提は、 検察側の冒頭陳述より、むしろ、筆者が前記拙稿で述べたゼネコン談合の実態に近いと思われる。
検察側は、寄附が談合受注の対価であることを具体的に認める西松建設などゼネコン関係者の供述調書などを証拠請求したものと思われるが、裁判所 は、「工事の受注を得たいという積極的な動機より受注活動を妨害しないでほしいという消極的な理由」を指摘する西松建設の内部調査報告書の方が実態に近い と判断したのであろう。
「無条件降伏」状態での西松建設側の公判ですら、このような状況なのであるから、被告・弁護側との全面対決となる小沢氏秘書公判での審理において、検察側の主張立証が一層困難になるのは必至だ。
宙に浮いた検察側冒頭陳述
今回の西松側公判では、検察側が冒頭陳述で9ページにもわたって詳述した小沢氏側への寄附の背景については判断を示さず、冒頭陳述は宙に浮いた形 になってしまった。それは、検察側が行った詳細な主張立証が、国沢被告人に対する起訴事実の立証に必要な範囲を大幅に逸脱していることが根本的な原因と見 るべきであろう。検察側は、本件の小沢氏秘書に対する捜査で重大な政治的影響を生じさせ説明責任を問われたことを意識し、その「説明」の意味も含めて詳細 な主張立証を行ったものと思われるが、それは起訴事実の範囲とは余りにバランスを失している。
このことは、今後開始される小沢氏秘書の大久保隆規被告人に対する公判にも共通する問題である。そこでの審理の対象になるのは、大久保秘書個人の 犯罪事実と情状に関する事実であるが、同秘書に対する起訴事実は、2003年以降の寄附に関する収支報告書の虚偽記入の事実で、しかも、同秘書が政治資金 の寄附の受け入れにかかわるようになったのは、検察側冒頭陳述によれば2000年ころからである。検察側の冒頭陳述のうちの寄附の経緯や背景、そして公共 工事をめぐる談合と小沢事務所との関係に関するかなりの部分は、仮にそれが事実だとしても、大久保秘書の前任の秘書に関するものであり、大久保秘書個人の 刑事責任とは直接関係ない。
大久保秘書の公判で、検察側が今回の公判と同様に詳細な冒頭陳述を行ったとしても、それを裏付ける供述調書などの証拠請求に対しては弁護側が不同意 とするであろうし、検察側が調書の内容を証人尋問で立証しようとしても、大久保秘書個人の起訴事実と関連性が希薄な事実について裁判所が証人尋問を採用す る可能性は低いであろう。結局、検察が、詳細な主張立証を行おうとしても、公判審理の対象にすらならず、今回と同様に冒頭陳述が浮いた形になるものと考え られる。
刑事事件の公判は、あくまで当該被告人の刑事責任の有無と量刑を決する場であって、検察の捜査・起訴の社会的、政治的影響についての説明責任を果 たすことを目的とするものではない。検察は、公判での立証は、刑事事件の立証として許される範囲内にとどめるべきであり、それで不十分であれば、公判への 影響に配慮しつつ、別の場で説明責任を果たすべきであろう。
要するにいくら検察が重大性・悪質性を強調しようとしても、今回の事件で、検察が実際に起訴した事実は、政治資金規正法としては極めて小規模で軽 微なものであり、その起訴事実と情状に関する立証の範囲を超えて過大な主張立証を行うことは、本来、刑事裁判として許容されないものだ。
今回の判決では、刑事事件の公判を、マスコミを通じて世の中に事件を過大に評価させようとするパフォーマンスの場にしようとする検察と、刑事事件の公判として必要な範囲で事実認定を行おうとする裁判所との立場の違いが極端な形で表れたものと言うべきであろう。
判決についての報道は正しく行われたか
このような判決の内容は、正しく報道され論評されたのであろうか。
第1回公判の段階では、「欠席裁判」のような検察の主張立証が不当であることを指摘する論調はまったくなく、多くの新聞、テレビが、小沢事務所の意向が公共工事の談合受注での「天の声」になっていたとの検察の冒頭陳述での主張を、あたかも確定的な事実のように報道した。
そのような報道が行われた背景には、西松建設側が全面的に事実を認め「無条件降伏」している裁判だから、判決でも、「天の声」などの検察の主張が そのまま全面的に認定されるだろうとの予想があったのかもしれない。いずれにしても、小沢事務所の「天の声」を大々的に報道したマスコミにとって、裁判所 が工事受注と政治献金との対価関係を明確に否定し「天の声」に関する検察の冒頭陳述が完全に宙に浮いてしまったことは予想外だったはずだ。
しかし、この判決についてのマスコミの報道には、小沢事務所側の「天の声」を強調する検察の冒頭陳述での一方的な主張を、確定的な事実のように報じたことに対する反省は感じられない。
新聞の社説の中には、「有罪とされた事実の一部は、分離公判となった小沢氏の公設第1秘書の起訴事実と重なっている。今回の判決で、間接的に認め られたという見方もできる」などと、国沢被告人に対する判決で政治資金規正法違反の事実が認められたことをもって、違反を全面的に争っている小沢氏の秘書 についても違反事実が認定されたかのように述べているものがある(7月19日読売新聞社説)。
被告・弁護人が公判で公訴事実を全面的に認めていても、裁判所の独自の判断で無罪判決を出すというのは、理論上はあり得ないことではない。しか し、検察官が公訴権を独占し、訴追裁量権を持っている現行法制の下では、検察の起訴は「有罪の確信」に基づいて行われることが事実上前提となっている。被 告人が事実関係を全面的に認め、まったく争っていない事件で裁判所が独自の判断で無罪判決を出すことは、起訴を行った検察の判断そのものを正面から否定す ることになるのであり、実際にはほとんど考えられない。被告・弁護人側が全面的に事実を認めている場合には、有罪判決を出すのは当然のことであり、事実を 争っている公判で、「弁護人の主張」に対する判断を示して有罪判決を出すのとはまったく意味が異なる。
また、判決が、小沢氏秘書の談合受注への影響力について言及していることに関して、「小沢氏は判決をどう受け止めるのか。これまでの説明は根拠を 失った」などと述べている社説もある(同日付産経新聞「主張」)。しかし、判決は、西松建設側の寄附の動機という同社側の認識について前記のように判示し ただけで、寄附受領者側の行為は一切認定していない。それどころか、寄附と公共工事の談合受注の対価関係について明確に否定している。これで「小沢氏側の 説明」が根拠を失った、と述べているのは、判決の趣旨を正しく理解しているとは言い難い。
裁判員制度の下では、共犯者間で、捜査段階で自白していて公判でも事実を認める予定の被告人と、事実を否認していて公判でも争う予定の被告人とが いる場合、自白している被告人の公判の経過や結果が報道されることが、否認公判における裁判員の心証に不当な与えることのないよう、十分な配慮が必要とな る。
刑事事件の報道においてそのような配慮を行うに当たっては、まず、裁判における当事者の主張立証のルールと、一部共犯者の判決の事実認定が他の共 犯者の公判にどういう意味を持つのかについて十分な理解が必要であろう。今回の西松建設側の公判の報道を見る限り、その点についての基本的理解が欠けてい るのではないかと疑問に思われるものが少なくない。
裁判員制度施行後の刑事公判の立証の在り方の問題も含めて、十分な検討が必要であろう。
検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて行われた追起訴
この判決に至るまでの経過には、もう一つ大きな問題があった。
国沢元社長の当初の起訴は、3月24日に、小沢氏の大久保秘書の起訴と同時に行われた小沢氏側への資金提供500万円についての「第三者名義の寄附」の事実と、7000万円の現金の海外からの無届持ち込みの外国為替貿易法違反だけであった。
しかし、その後、同一の政治団体名義で行われた、二階俊博経済産業大臣の派閥の政治団体「新しい波」の政治資金パーティー券340万円分の第三者 名義での購入という同種の犯罪事実について、大阪市の市民団体によって告発が行われた。検察は、「起訴しても、求刑上も、量刑上も変わらない」という理由 で不起訴(起訴猶予)にしていたが、6月19日の第1回公判の直前の6月16日、東京第3検察審査会が、この不起訴処分について「起訴相当」の議決を行っ た。
今年5月に施行された検察審査会法の改正によって、「起訴相当」の議決が2回行われると起訴が強制され、しかも、起訴の手続きや公判立会は裁判所 が指定する弁護士が行うことになる。検察審査会の「起訴相当」の議決は重要な意味を持つものになっていた。6月19日の第1回公判の時点では、この検察審 査会の「起訴相当」の議決が行われており、検察は、この事件について、不起訴処分を維持するのか、それを覆して起訴するのかの判断を迫られていた。
第1回公判が、当初の起訴事実の審理だけで結審し、次回の第2回公判で判決予定とされたのは、この時点では、検察としては追起訴を予定しておら ず、検察審査会での「起訴相当」の議決が出された二階派の政治資金パーティー券購入の事実についても、不起訴処分を覆して起訴を行うことは予定されていな かったからであろう。
ところが、それから1週間後の6月26日、検察は、この政治資金パーティー券の購入の事実について不起訴処分を覆し、国沢元社長を追起訴した。これによって、7月14日の判決期日は取り消され、この日にこの追起訴事実についての審理が行われることになった。
2回目の「起訴相当」の議決が行われて、裁判所の指定する弁護士が起訴手続きや公判立会を行うことになれば、その指定弁護士に事件に関する資料をす べて提供しなければならなくなる。提供する資料に情状立証に関連する資料も含むということになると、西松関連団体から二階氏側への起訴されていない資金提 供に関する事実も提供せざるを得なくなることも考えられるが、その結果、検察のそれまでの捜査・処分の妥当性が問われることになりかねない。検察は、その ような事態になることのないように、1回目の「起訴相当」の議決にしたがって追起訴を行ったのであろう。
注目された追起訴分についての求刑
検察が検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて追起訴したことで、当初1年6月の禁錮としていた求刑をどうするのか、追起訴後も求刑を維持するの か引き上げるのかが注目された。求刑を引き上げると、検察が当初の不起訴処分の理由としていた「追起訴しても求刑も量刑も変わらない」という考え方が誤っ ていたことを認めることになる。
しかし、同種の340万円の違反が加わっても求刑が変わらないということになると、500万円の「第三者名義での寄附」の事実と外国為替貿易法違 反についての禁錮1年6月の求刑との(外国為替貿易法違反は懲役6月以下なので政治資金規正法違反を少なくとも禁錮1年相当としたことになる)バランスが とれないことになり、当初の本起訴分で禁錮1年6月という求刑が不当だったことになる。
7月14日の第2回公判で、検察は、追起訴分についての立証を行った後に行った論告求刑で、「政治家側との癒着の実態や献金規模等から見て今回追 起訴分よりはるかに悪質な政治資金規正法違反の事実につき・・・相当と考える求刑を行っており、今回追起訴分に対する刑事責任もその中で十分に評価し得 る」として、求刑を従前どおり「禁錮1年6月」のまま維持した。
しかし、求刑を維持した理由として検察が示した、本起訴分の「第三者名義による寄附」の事実が、追起訴分の同種の「第三者名義によるパーティー券購入」の事実より「はるかに悪質」という見方には重大な疑問がある。
「献金規模」という面では、本起訴事実が合計500万円の第三者名義による寄附であるのに対して、追起訴事実は第三者名義での政治資金パーティー 券340万円の購入であり、起訴にかかる金額は遜色のないものだ。時効完成済みのものなど起訴されていない事実も含めて「献金規模」を比較するのであれ ば、西松建設関連団体が平成7年に設立されて以降、その名義で行われた政治資金の提供の総額を比較しなければならないはずであるが、総額が概ね示されてい るのは小沢氏側への資金提供だけで、二階氏側については起訴された事実以外はまったく明らかにされていない。
また、「癒着の実態」についての指摘は、政治資金規正法の趣旨を取り違えているように思われる。政治資金規正法は、収支報告書の記載の真実性につ いて基本的には会計責任者に義務と責任を集中させ、一方で、寄附者側にも「本人以外名義の寄附」を禁止し、(会計責任者より軽い法定刑で)処罰の対象とし ている。それは、本人以外の名義で寄附が行われた場合、会計責任者がその事情を知らない場合には、収支報告書に寄附者を誤って記載する恐れがあり、それ が、政治資金の収支にかかる真実を公開するという政治資金規正法の趣旨に反するという理由によると考えられる。このような「第三者名義の寄附」の処罰の趣 旨は、贈賄者と収賄者の結託を本質とする贈収賄とは決定的に異なる。
つまり、「政治家側との癒着の実態」があったからと言って、「第三者名義の寄附」という政治資金規正法違反の悪質性が高まるわけではないし、逆に、 「癒着の実態」があって、寄附を受領した会計責任者側が、「本人以外の名義の寄附」であることを認識した上で、敢えて寄附者として収支報告書に記載したの であれば、会計責任者側が収支報告書の虚偽記入の責任を厳しく問われることはあっても、寄附者側の「第三者名義の寄附」についての責任が重くなるわけでは ない。
本起訴分の政治資金規正法違反が追起訴分より「はるかに悪質」だという検察の主張の妥当性には問題があり、追起訴分も含めて「禁錮1年6月」の求刑を維持したことが妥当だとは思われない。
二階氏側への資金提供についての検察立証は不十分
今回の判決は、国沢被告人に対して禁錮1年4月執行猶予付の量刑を行った。そして、判決理由の中で、同追起訴事実については「証拠から西松建設か らの支払であることを公表されないようにする以上の背景をうかがうことはできず。(本起訴分)とともに処罰するのであれば、これを量刑上有意に評価するこ とはできない」と判示した。この指摘は、検察側が「起訴しても、求刑上も、量刑上も変わらない」との理由で起訴猶予にし、追起訴分が加わっても禁錮1年6 月の求刑を維持したことを正当と認めたようにも思える。
しかし、重要なのは、この判示の「証拠から」という文言である。要するに、検察が、二階派のパーティー券購入については、「西松建設からの支払で あることを公表されないようにする」という目的しか追加冒頭陳述でも述べていないし、証拠も提出していないので、その程度の犯行動機しか認定しようがな い、だから、悪質性を認めることができないという趣旨と理解すべきであろう。
西松建設の関連団体名義の二階派の政治資金パーティー券購入の購入額は、平成16年以降、総額で844万円に上るのであり、常識的に考えれば、そ れが公共工事の受注と無関係だとは思えない。二階派への資金提供の悪質性については、小沢氏側への資金提供と同様に捜査をしなければ明らかにできないはず だ。検察が一度起訴猶予にしているこの事件については、その点についての捜査は尽くされていない。
追起訴分の事実に関しては、判決が指摘している「寄附の背景」以外にも、過去からの二階氏側への寄附の総額など、小沢氏側への資金提供の事実と比 較して立証が不十分な点が多々ある。本件のように、検察が起訴猶予処分にした事案について検察審査会が「起訴相当」の議決を行った場合、議決で示された 「民意」を尊重するというのであれば、議決にしたがって起訴をするだけでは足りない。
起訴した事実について公判で十分な立証を行うことで初めて議決で示された「民意」を尊重したことになるのである。今回の件での検察の姿勢は、形式 的には検察審査会の議決にしたがったものの、公判で十分な立証を行わないことで、実質的には議決に示された民意を軽視したものと言わざるを得ないであろ う。
大久保被告弁護人の所感
西松建設前社長、国沢幹雄被告(70)の初公判を受け、政治資金規正法違反の罪で起訴された小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告(48)の弁護人は、大久保被告に関係する部分の所感として、コメントを発表した。コメント全文は次のとおり。
本日の国沢氏の公判に関し、特に大久保隆規氏に関係すると思われる部分について、弁護団としての所感を申し上げます。
西松関係の2つの政治団体による政治献金やパーティー券購入の相当部分は、他の団体へのものも相当あるにもかかわらず、国沢氏の起訴事実は、陸山会と民主党岩手県第4区総支部に対する献金だけに限られています。
政治資金規正法上、献金を行うことの違法性は、献金を受ける側が違法と思っていたかどうかとは全く関係ありません。検察官が、ダミーによる、西松建設株式会社自身の献金と断じる多くの部分を不問に付し、特定の団体分のみを起訴したことに正当な理由があるのか、先日報道された東京検察審査会のご指摘にもありますが、疑問と言わざるを得ません。
また、献金を受けた側から見ても、本日の公判における検察官の冒頭陳述については、検察審査会が自民党関係の政治団体の事件に関し指摘した事項がそのまま当てはまります。
すなわち、係る団体ほか自民党関係の団体が西松関係の政治団体から献金を受けた事実については、検察官は、証拠が十分にあるにもかかわらず、その実態を明らかにしておりません。
結局、大久保氏のみを狙い撃ちしたものであることは誰の目から見ても明らかです。このような冒頭陳述は、大久保氏にとって欠席裁判に等しいだけでなく、著しくバランスを欠くものであり、到底容認できるものではありません。
検察官は「特に岩手県下の公共工事については小沢事務所の意向に基づいて受注業者が決定され」ていたなどと主張しました。一部の者の一方的供述に基づくものであり、その主張内容もそれ自体が極めて抽象的です。
大久保氏が、具体的な工事について、検察官の言う、小沢事務所の「決定的な影響力」なるものをいつ、いかに行使したのか、そもそも公共工事における「決定的な影響力」とは何であったのか、全く具体性を欠いています。
検察官主張のように、大久保氏が公共工事の受注者を決めていたなどという事実は一切なく、大久保氏がこの点に関する取調べを受けたこともありません。現に、本日の証拠の要旨告知においても、大久保氏の調書に関する限り、この重要な点について、何も触れられていません。
結局、検察官の主張は、ゼネコン関係者の一方的な供述に基づくものに過ぎません。しかも、受注業者の選定に決定的な影響力、などという、極めて抽象的な内容に終始しています。それを具体的に裏付ける証拠も何一つ出されていません。
大久保氏の裁判に関する当方の主張は、また公判廷において明確にして参ります。
以上
2009年6月19日
大久保隆規氏弁護人
弁護士 伊佐次啓二
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産経新聞
検察審査会の不起訴不当に河村長官「議決踏まえ適切な処理を」
2009.6.17 12:34
自民党・二階派の政治団体「新しい波」が西松建設のダミーとされる政治団体にパーティー券を購入させていた問題に関し、東京地検が当時の会計責任者らを不起訴とした処分を東京検察審査会が不当と議決したことについて、「個別の事件なのでコメントは差し控える。検察当局は議決を踏まえ適切に処理されるものと思う」と述べた。
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