2009年5月17日日曜日

【小沢一郎】 高橋昌之のみた小沢氏辞任の裏側

 11日の小沢氏の辞任に関し、産経新聞政治部・高橋昌之氏が記事を寄稿している。彼に関しては、いろいろな評価があるのだが、産経ファンにとっては「裏切り者」という方もおるし、産経にも珍しく「まともな記者」だという評価もある。立ち位置の見方でしかないのだが。

【政治部遊軍・高橋昌之のとっておき】(上)小沢氏辞任の裏側
2009.5.17 19:35

今回で2回目のブログとなります。2日に配信した前回の「毎日新聞北方領土報道の不可解さ」は、予想をはるかに上回る多数のアクセスをいただき、ありがとうございました。私の著書「外交の戦略と志-前外務事務次官 谷内正太郎は語る」もご紹介させていただきましたが、おかげさまで連休中は売り切れ店が相次ぐなど好調で、改めてお礼申し上げます。

 2回目は著書の内容をご紹介したいと思っていたのですが、11日に民主党の小沢一郎代表が突然、辞任を表明し、16日の代表選で鳩山由紀夫前幹事長が新代表に選出されるという大きな政治の出来事がありましたので、それをテーマに書きたいと思います。

 実は、私は平成4年の自民党竹下派(経世会)分裂から、5年の非自民連立による細川護煕政権まで、小沢氏の番記者をやった経験があります。その後も小沢氏をウオッチしてきているので、今回は小沢氏が「なぜこの時期に突然辞任したのか」について、私なりの取材に基づいた分析をしてみたいと思います。

小沢氏の辞任は突然のことと驚いた方も多いと思います。ただ、小沢氏は3月3日に、西松建設違法献金事件で公設第1秘書の大久保隆規被告が逮捕されて以来、次期衆院選前に辞任するというシナリオは、ずっと頭の中で描いていたようです。実際、私の取材でも、ある小沢氏周辺は4月中旬、「小沢氏は5月の連休明けに進退を判断する。進退は5分5分。辞めた場合の後継は鳩山幹事長だ」と、今回の出来事をずばり予言していたのです。

 しかし、小沢氏は秘書の逮捕、起訴の時点では辞任しませんでした。記者会見では「政治資金で何らやましい点はない」と潔白を主張、東京地検の捜査を「政治的にも法律的にも不公正だ」と批判し、続投して徹底して戦う姿勢を示しました。これは小沢氏がやましくなくても、仮にこの時点で辞任すれば、報道や国民の見方は「やましいところがあるから辞めたんだ」ということになって小沢バッシングが広がり、自身だけでなく民主党にも大きなダメージになると、小沢氏が判断したからだと思います。

一方で、小沢氏は進退については「選挙で勝てるかどうかを物差しに判断したい」と述べ続けました。党内では続投論と辞任論が入り乱れましたが、小沢氏を支持する幹部は「世論調査をみると逮捕、起訴から時間がたつにつれて小沢批判は、弱まってきている。一方で検察の捜査への批判は強まっている。小沢氏続投でも政権交代はできる、逆に小沢氏でなければ政権交代はできない」と、辞任論に傾いていた幹部や議員を説得して回りました。

 その結果、小沢氏の進退問題で揺れていたとされる菅直人代表代行や岡田克也副代表らも連休前には「続投支持に変わった」(幹部)とされ、「党内は一部を除いて大勢は続投支持で固まった」(幹部)ようです。小沢氏周辺によると、これこそが実は「小沢氏が辞任できる環境が整った」ということなのだそうです。

 この周辺は「党内の小沢降ろしの声に屈して辞めれば、小沢氏にとっては敗北になる。逆に党内の多くが続投を支持する中で、あえて自分から辞めれば求心力を保てる」と解説します。確かにこう考えると、11日の辞任記者会見で、小沢氏が見せた意気軒高ぶりもうなずけます。

 小沢氏は記者会見で「代表の地位や政権をとって総理うんぬんのたぐいには何の未練も執着もない」と述べてきました。そして、辞任記者会見では「政権交代ができれば政治家の本懐、男子の本懐だ」と語りました。これらの発言は小沢氏の本音なのでしょうか。私の取材経験からすると、小沢氏は本当にそう考えていると思います。

【政治部遊軍・高橋昌之のとっておき】(下)鳩山新代表選出の裏側
2009.5.17 20:00

小沢氏は私が番記者をやっていたころから、酒を酌み交わしたときも「オレはもうポストなんか興味はない。政治ではポストは手段であって目的ではない。オレにとって、後はこのお国がどうなるかだけしかない。政権交代可能な政治が実現できれば本望だ」と常々、語っていました。

 小沢氏は27歳で衆院議員になり、その後は田中角栄、竹下登、金丸信という政界の最高実力者に仕え、自らも海部俊樹政権下で自民党幹事長を務め、当時は最高実力者と言われました。若くして権力の頂点を極めた小沢氏からすれば、何が何でも首相になりたいという願望はなく、政権交代という歴史的偉業を果たすことしか興味はないのかもしれません。

 小沢氏に対しては、独特の強い個性から政界内でも親小沢か、反小沢に、国民の方々の間でも好きか、嫌いかでくっきり割れる傾向があります。私の今回の分析に対しても、賛否両論があると思います。ただ、私は小沢氏への取材や記事では、是々非々で臨んできたつもりです。今回のブログは、みなさまが次期衆院選に向けて、小沢氏や今後の日本の政治を議論をするうえで、材料にしていただければ幸いです。

 次に「なぜ新代表が鳩山氏になったのか」について分析したいと思いますので、もう少しお付き合いください。結論を簡単にいえば、今回の民主党代表選のキーワードは「挙党一致態勢を作れるか」で、鳩山代表の方が民主党がまとまれたからです。

党内には、小沢氏を支えてきた鳩山氏より、岡田氏の方がクリーンで新鮮なイメージがあるとして、岡田氏を支持する声が若手・中堅議員を中心にかなりありました。しかし、岡田氏を支持する勢力の中には、小沢氏と対立するグループがあり、岡田氏が代表になった場合は、またも民主党が親小沢、反小沢で分裂状態に陥る可能性がありました。

 現に、自民党からは「岡田氏の方がやりやすい。民主党内に混乱が起きるから」(甘利明行政改革担当相)などと、民主党の混乱を期待して岡田代表を望む声が出ていました。小沢氏本人や周辺は代表選前日の15日、一気に鳩山氏の票固めに動きましたが、その際には「岡田氏を代表にしてむざむざ自民党の手に乗っていいのか」と説得して回ったようです。

 もうひとつ、鳩山氏勝利を決定づけた要因を指摘すると、代表選を国会議員のみの投票にして、週末をまたがず16日に実施したことです。これは小沢氏が辞任した翌日の12日の党役員会で決まったことですが、この時点で鳩山氏勝利が固まったといえます。というのも、各報道機関の世論調査では「新代表にふさわしい人物」で、岡田氏が鳩山氏をリードしており、仮に国会議員以外の党員やサポーターも含めた代表選をやっていたら、また週末をまたいで議員が地元に帰って、支持者の意見を聞いたうえで代表選をやっていたら、間違いなく岡田氏が勝利していたでしょう。

12日の党役員会では、鳩山幹事長が16日に国会議員のみで代表選を行うことを提案しましたが、岡田氏を支持する幹部からは「党員やサポーターを含めて時間をかけて代表選をやるべきだ」との意見が出されました。しかし、この意見に強く反論したのが小沢氏でした。岡田氏を支持する幹部が本気で岡田氏を代表にしたかったのなら、ここで引くべきではなかったのです。しかし、最終的には鳩山幹事長の提案通り、代表選の段取りが了承されました。ここですでに「勝負あった」というわけです。

 したがって、今回の小沢氏辞任から鳩山新代表選出まで、ほぼ小沢氏のシナリオ通り進んだといえます。現在の政界で、小沢氏ほど修羅場をくぐってきた人物はいません。小沢氏はこれまでの経験から、政局での戦い方を熟知しているのです。その小沢氏を上回る戦略家は、残念ながら今の民主党内にはいないように思えます。

 今後も民主党については「小沢院政」という言葉がついて回るでしょう。ただ、衆院選対策という点でも、小沢氏は自民党幹部のころから20年以上にわたって選挙の指揮をとってきて選挙対策を熟知しており、この点でも民主党内で小沢氏を上回る人物はいません。仮に政権交代を果たしたとしても、民主党が掲げる大改革を断行し政権を運営していくには、小沢氏の力が必要でしょう。良かれ悪しかれ、これが民主党の現実です。

 民主党には「親小沢」か「反小沢」かという狭い度量ではなく、国家国民のため、政治信念や政治力で小沢氏を超える議員が現れることを期待します。それでこそ、政権交代は果たせるでしょうし、その後も日本をよりよい国にする政権政党になれるでしょう。

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