2009年5月29日金曜日

【自民党政権】 党首討論

 この日の党首討論を、自分は国会のビデオライブラリーで、帰宅後見て驚いた。それから翌日に郷原氏が下記の記事をアップをしていたのであるが、一国の総理としてはいかがなものなのか、流石に考えてしまった。

西松事件が、もし無罪という形で終わったなら、日本の憲政史上もっとも憲法を考えないで発言をした総理という事になるであろう。


 首相が「罪を犯す意思がない行為でも逮捕される」と公言する国
名城大学教授・弁護士 郷原信郎

 5月27日の党首討論の中で、麻生首相の口から、耳を疑うような言葉が発せられた。

「本人が正しいと思ったことであっても、少なくともは間違った場合は逮捕される」

鳩山民主党代表が、企業団体献金の廃止の問題に言及したのに対して、麻生首相は、小沢前代表の秘書の事件とそれに関する説明責任の問題を持ち出した。そして、鳩山代表が、「小沢前代表は第三者委員会の場で説明責任を果たした」と述べた上で、企業団体献金を廃止すべきとする理由について、「正しいことをやっていた、全部オープンにしていた。

でもそのことによっても逮捕されてしまった。ならばその元を絶たなければいけない」と述べたことに対して、麻生首相は、次のように発言した。

麻生
いろいろご意見があるようですけども、まず最初に、先ほどのお話をうかがって、一つだけどうしても気になったことがありますんで、ここだけ再確認させていただきたいのですが、正しいことをやったのに秘書が逮捕されたといわれたんですか

鳩山
本人としては、政治資金規正法にのっとってすべて行ったにもかかわらずと。これは本人が昨日、保釈をされました。そのときの弁であります。

麻生
基本的にご本人の話であって、正しいと思ってやったけれども、法を違反していたという話はよくある話ですから。少なくとも、それをもって国策捜査のごとき話にすり替えられるのは、本人が正しいと思ったというお話ですけれども、本人が正しいと思ったことであっても、少なくとも間違った場合は逮捕されるということは、十分にある。それは国策捜査ということには当たらないのではないかと私どもは基本的にそう思っております。


麻生首相は、政治資金の処理に関して、本人は正しいと思っていても間違っていた場合、つまり、「正当だと思って行った処理が結果的に虚偽だったことが判明した場合」には逮捕される、と述べた。
今回の小沢氏の秘書の事件に関して「本人が正しいと思ったこと」というのは、「政治資金収支報告書の記載が正しいと思っていた」ということであり、要するに「虚偽だとは認識していなかった」ということである。その場合でも、間違った記載をした場合は逮捕されると言い放ったのだ。

一国の総理が、国会の党首討論の場で、「罪を犯す意思がない行為」でも、結果的に間違った記載をしたら逮捕されると堂々と公言したというのは、信じられないことだ。

刑法38条1項に「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と規定され、犯意が存在することが刑事処罰の大原則であることは、刑法の基本中の基本である。検察庁を含む行政組織全体のトップである麻生首相が、その基本原則に反する発言をしたのだ。

西松建設関連の政治団体から小沢氏の資金管理団体「陸山会」に対して行われた寄附が政治資金収支報告書の虚偽記入に当たるとされて秘書が逮捕・起訴された事件については、そもそも、寄附者を政治団体と記載したことが虚偽記入に該当するのかどうかに重大な疑問がある。

つまり、資金の拠出者の記載を求めていない現行の政治資金規正法の下では、実質的な資金の拠出者が西松建設であっても、寄附者として記載すべきは、自らの名義で寄附という行為を行った政治団体ではないか、という点、つまり収支報告書の記載が客観的に虚偽と言えるかどうかが問題となる。そして、仮に、客観的に虚偽だと認められた場合でも、逮捕された会計責任者の側が、収支報告書作成の段階で虚偽だと認識していなければ犯罪は成立しない。

そして、重要なことは、小沢氏側にだけに犯罪が成立し、同じ政治団体から寄附を受け取っていた自民党議員側には成立しないとすれば、その理由は、「客観的には虚偽であるが、虚偽だとの認識、つまり犯意がない」ということしかあり得ない。鳩山代表が、小沢氏の側だけが逮捕され、自民党議員側は何もおとがめなしだということを問題にし、その際、漆間官房副長官の「自民党議員には捜査は及ばない」という発言を取り上げているが、この漆間氏の発言を正当化する余地があるとすれば、その唯一の理屈は「自民党議員側は犯意が立証できない」ということのはずだ。

ところが、そこで、鳩山代表に対する反論として麻生首相が持ち出したのが、「犯意がなくても逮捕される」という話なのである。これは、自民党議員に捜査が及ばないことを正当化する理屈をすべてぶち壊す発言でもある。この考え方に基づいて、検察が捜査をするとすれば、西松建設の関連団体から政治献金を受けていた自民党議員側もすべて逮捕しなければいけないことになる。ところが、ここで、麻生首相は「国策捜査」という言葉を自ら持ち出しているが、虚偽の認識がなくても収支報告書の記載が誤っていただけで逮捕できるというのであれば、自民党議員側に捜査が及ばない理屈をすべてぶち壊しているに等しい。

このような討論が、国会の党首討論の場で、真面目な顔で行われているという現実には到底ついていけない。こういうことは、麻生首相がお好きな、マンガかギャグの世界でしかありえないはずだ。しかし、現実に国会で首相がそういう発言をしたのであり、しかも、信じられないことに、党首討論について報じる新聞に、この「犯意がなくても客観的に誤っていたら逮捕される」という麻生発言を問題にする論調は見あたらない。法治国家においては絶対に容認できない国会の場での首相の発言が、何事もなかったように見過ごされているのである。

これは、単なる「間違い」とか「無知」というレベルで片付けられることではない。犯意がなくても逮捕できる、首相が公言し、それが許容される。戦前の治安維持法の世界を思わせるような恐ろしいことがこの国に起きている、という現実に、我々は向き合わなければならない。

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