2009年2月17日火曜日

【日米同盟】 グアム協定

第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定

 日本国政府及びアメリカ合衆国政府は、1960年1月19日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づく日米安全保障体制が共通の安全保障上の目標を達成するための基礎であることを確認し、2006年5月1日の日米安全保障協議委員会の会合において、関係閣僚が、安全保障協議委員会文書「再編の実施のための日米ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)に記載された再編案の実施が同盟関係における協力において新たな段階をもたらすものであり、かつ、沖縄県を含む地域社会の負担を軽減し、もって安全保障上の同盟関係に対する国民の支持を高める基礎を提供するものであると認識したことを想起し、グアムが合衆国海兵隊部隊の前方での駐留のために重要であって、その駐留がアジア太平洋地域における安全保障についての合衆国の約束に保証を与え、かつ、この地域における抑止力を強化するものであると両政府が認識していることを強調し、ロードマップにおいて、沖縄における再編との関係で兵力の削減及びグアムへの移転の重要性が強調され、並びに第三海兵機動展開部隊の要員約八千人及びその家族約九千人が部隊としての一体性を維持するような方法で二千十四年までに沖縄からグアムに移転することが記載されていることを再確認し、また、このような移転が嘉手納飛行場以南の施設及び区域の統合並びに土地の返還を実現するものであることを認識し、ロードマップにおいて、合衆国海兵隊CH-53Dヘリコプターは第三海兵機動展開部隊の要員が沖縄からグアムに移転する際に海兵隊岩国飛行場からグアムに移転し、KC-130飛行隊はその司令部、整備のための施設及び家族のための施設と共に海兵隊岩国飛行場を本拠とし、並びにその航空機は訓練又は運用のために海上自衛隊鹿屋基地及びグアムに交替で定期的に展開することが記載されていることを想起し、ロードマップにおいて、第三海兵機動展開部隊のグアムへの移転のための施設及び基盤の整備に係る費用の見積額102億7000万合衆国ドル(一〇、二七〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)のうち、日本国は、沖縄県の住民が同部隊の移転が速やかに実現されることを強く希望していることを認識して、同部隊の移転を可能とするようグアムにおける施設及び基盤を整備するため、合衆国の2008会計年度ドルで28億合衆国ドル(二、八〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)の直接的に提供する資金を含む60億9000万合衆国ドル(六、〇九〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)を提供することが記載されていることを再確認し、また、合衆国は、グアムへの移転のための施設及び基盤の整備に係る費用の残額、すなわち、合衆国の2008会計年度ドルで算定して31億8000万合衆国ドル(三、一八〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)の財政支出に道路の整備のための約10億合衆国ドル(一、〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)を加えた額を拠出することがロードマップに記載されていることを再確認し、ロードマップにおいて、その全体が一括の再編案となっている中で、沖縄に関連する再編案は、相互に関連していること、すなわち、嘉手納飛行場以南の施設及び区域の統合並びに土地の返還は、第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転を完了することにかかっており、並びに同部隊の沖縄からグアムへの移転は、普天間飛行場の代替施設の完成に向けての具体的な進展並びにグアムにおいて必要となる施設及び基盤の整備に対する日本国の資金面での貢献にかかっていることが記載されていることを想起して、次のとおり協定した。


第一条

 1 日本国政府は、第九条1の規定に従い、アメリカ合衆国政府に対し、第三海兵機動展開部隊の要員約八千人及びその家族約九千人の沖縄からグアムへの移転(以下「移転」という。)のための費用の一部として、合衆
国の2008会計年度ドルで28億合衆国ドル(二、八〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)の額を限度として資金の提供を行う。

 2 日本国の各会計年度において予算に計上されるべき日本国が提供する資金の額は、両政府間の協議を通じて日本国政府が決定し、及び日本国の各会計年度において両政府が締結する別途の取極(以下「別途の取極」という。)に記載する。


第二条

 アメリカ合衆国政府は、第九条2の規定に従い、グアムにおける施設及び基盤を整備する同政府の事業への資金の拠出を含む移転のために必要な措置をとる。


第三条

 移転は、ロードマップに記載された普天間飛行場の代替施設の完成に向けての日本国政府による具体的な進展にかかっている。日本国政府は、アメリカ合衆国政府との緊密な協力により、ロードマップに記載された普天間飛行場の代替施設を完成する意図を有する。


第四条
 アメリカ合衆国政府は、日本国が提供した資金及び当該資金から生じた利子を、グアムにおける施設及び基盤を整備する移転のための事業にのみ使用する。


第五条

 アメリカ合衆国政府は、日本国の提供する資金が拠出される移転のための事業に係る調達を行う過程に参加するすべての者が公正、公平かつ衡平に取り扱われることを確保する。


第六条

 日本国政府は日本国防衛省を実施当局に指定し、アメリカ合衆国政府はアメリカ合衆国国防省を実施当局に指定する。両政府は、実施当局が従うべき実施のための指針及び次条1(a) に規定する個別の事業について専門家間で協議を行う。そのような協議を通じて、アメリカ合衆国政府は、日本国政府が当該事業の実施に適切な方法で関与することを確保する。


第七条

 1(a) 日本国の各会計年度において日本国の提供する資金が拠出される個別の事業は、両政府間で合意し、及び別途の取極に記載する。

(b)アメリカ合衆国政府は、日本国政府が資金の提供を行う合衆国財務省勘定を維持する。アメリカ合衆
国政府は、当該勘定の下に日本国の各会計年度において日本国が提供する資金のための小勘定を開設し、及び維持する。

 2 日本国が提供した資金及び個別の事業に支払うことが契約上約束された当該資金から生じた利子は、前条に規定する実施当局の間で合意される指数を用いた計算方法に基づき、合衆国の2008会計年度ドルで28億合衆国ドル(二、八〇〇、〇〇〇、〇〇〇ドル)の額を限度として日本国が提供すべき資金の総額に繰り入れられる。

 3(a) (b) に規定する場合を除くほか、日本国の同一の会計年度において日本国の提供した資金が拠出され
たすべての個別の事業に係るすべての契約の終了後に日本国が提供した資金に未使用残額がある場合には、アメリカ合衆国政府は、日本国政府に対し、当該未使用残額を返還する。契約の終了は、更なる財政上及び契約上の責任からアメリカ合衆国政府を解除する文書の受領によって証明されるものとする。

  (b)アメリカ合衆国政府は、未使用残額を、日本国政府の実施当局の同意を得て、日本国の同一の会計年度において日本国の提供した資金が拠出された他の個別の事業のために使用することができる。

 4(a) (b)に規定する場合を除くほか、日本国の提供した資金が拠出された最後の個別の事業に係るすべての
契約の終了後、アメリカ合衆国政府は、日本国政府に対し、日本国が提供した資金から生じた利子を返還する。
契約の終了は、更なる財政上及び契約上の責任からアメリカ合衆国政府を解除する文書の受領によって証明されるものとする。

  (b)アメリカ合衆国政府は、日本国が提供した資金から生じた利子を、日本国政府の実施当局の同意を得て
、日本国の提供した資金が拠出された事業のために使用することができる。

 5 アメリカ合衆国政府は、日本国政府に対し、毎月、合衆国財務省勘定(日本国が提供した資金に関係する
すべての小勘定を含む。)における取引に関する報告書を提出する。


第八条

 アメリカ合衆国政府は、同政府が日本国の提供した資金が拠出された施設及び基盤に重大な影響を与えるおそれのある変更を検討する場合には、日本国政府と協議を行い、かつ、日本国の懸念を十分に考慮に入れて適切な措置をとる。


第九条

 1 第一条1に規定する日本国の資金の提供は、第二条に規定する措置においてアメリカ合衆国政府による資
金の拠出があることを条件とする。

 2 第二条に規定する合衆国の措置は、(1)移転のための資金が利用可能であること、(2)ロードマップに記載
された普天間飛行場の代替施設の完成に向けての日本国政府による具体的な進展があること及び(3)ロードマップに記載された日本国の資金面での貢献があることを条件とする。


第十条

 両政府は、この協定の実施に関して相互に協議する。

第十一条

 この協定は、日本国及びアメリカ合衆国によりそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならない。この協定は、その承認を通知する外交上の公文が交換された日に効力を生ずる。


 以上の証拠として、下名は、署名のために正当に委任を受けてこの協定に署名した。
 二千九年二月十七日に東京で、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
 
 日本国政府のために
  中曽根弘文
 
 アメリカ合衆国政府のために
  ヒラリー・ロダム・クリントン

2009年2月3日火曜日

【日米同盟】 海賊対策(特措法の制定?)

日本海新聞一刀両断 小林節

護衛艦を保安庁へ移籍すればよい

2009/02/03の紙面より

 アフリカ・ソマリア沖(インド洋)の海賊対策に海上自衛隊を派遣するかどうかが問題になっている。

 まず前提として言葉を整理しておくが、世界の基準に従えば、海上自衛隊は海軍つまり海の軍隊であるが、海上保安隊は海の警察、他国の沿岸警備隊である。また、海賊行為はいわば海の強盗つまり犯罪で、むしろ、警察、海上保安庁の管轄である。

 だから、わが国の領海に続く排他的経済水域に続く公海上で、わが国に籍のある船舶が海賊(強盗)に襲われた場合に、それに対処することは海上保安庁の仕事である。また、公海上の外国籍船でも、日本の会社がそれを運航している場合や日本人や日本人の財産がそこで襲われている場合には、日本国にも保護責任とその権利がある。

 だから今、世界の無法地帯になってしまった観のあるソマリア沖に、わが国は海上保安隊を派遣すべきである。また、それは、世界中の諸国との交易で繁栄してきたわが国の、国際社会に対する責任でもある。

 ところが、実際には、ソマリア沖の海賊は、その装備や行動様式がいわばけちな泥棒のそれではなく、むしろ、私的な海軍化しており、わが国の海上保安隊では対応できない(つまり負けてしまう)危険性がある。

 そこで、外国の海軍との戦闘を想定した装備と訓練を得ている海上自衛隊を派遣すべきだとの意見が出て来るが、それはまた別の問題を惹起してしまう。

 第二次世界大戦の敗戦国として再出発したわが国は、憲法九条の下で、間違っても再度「侵略」国にならないために、海外では武力行使をしない…という条件を自ら自衛隊に課して来た。

 もちろん、ソマリア沖の海賊は、外国の軍隊でも外国の反乱軍(つまり分裂した国家)でもない。だから、海上自衛隊がソマリア沖で海賊と交戦したとしても、それは、もとより、憲法解釈上禁じられている、他国侵略に発展しかねない海外における自衛隊の武力行使ではない。

 しかし、いずれにせよこのような懸念を回避・解消できる方法がある。それは、装備と訓練の十分な海上自衛隊の一個部隊を防衛省から海上保安庁へ移籍し(出向させ)それをソマリア沖へ派遣することである。シーレーン(海上輸送路)はわが国の生命線でありその確保は急務である。

(慶大教授・弁護士)
ソマリア沖の海賊と自衛隊  2008年12月8日

国連安保理は6月8日、国連憲章第7 章に基づいて海賊対策を可能にする決議を行っている(決議1816号)。10月9日も同様の決議を行った(決議1838号)。だが、これには重大な問題がある。海賊行為は組織犯罪であり、国家による侵略などとは異なる。それを「国際の平和及び安全の維持」を拡張解釈して、ソマリアの領海(12海里)内における各国艦艇の活動を認めた安保理決議は、「国際法の空洞化に一層寄与するもの」と批判される所以である(Claudia Haydt, Maritimes Säbelrasseln, in: junge Welt vom 5.12.2008)。海洋法条約105 条も海賊対処は公海上であり、当該国の主権に属する領海には及ばない。これを領海で認めた1816号決議は、国際法の歴史のなかでまったく新しい事実とされる(N.Peach教授 T.Pflüger, Gefährliche Gewässer, in: junge Welt vom 23.10)。この決議は米国とフランスの主導で安保理で採択されたもので、ソマリアの主権を領海12海里について無にする代物だった。

  実は、ソマリア沖の海賊問題は、この海域をめぐる国際政治的な利害対立の焦点ともいえる。そもそも艦艇をどんなに出しても、海賊をなくすことは困難である。現地の状況をよく知るフランス海軍G.Valin 中将によれば、通常型のフリゲート艦は時速30マイルだから、15分で8マイル程度しか進まない。ソマリア海賊は、軍艦が水平線に見えないときは、何でもできることを知っているという。軍艦が見えたときは、巧みな航行技術を駆使して高速で逃げてしまうわけである。中将によれば、軍艦はソマリア沖の2 %程度しか確保し得ていないという(Der Spigel, a.a.O.)。海域を通るタンカーや輸送船をすべて護衛することは不可能である。これは軍艦だけでなく、巡視船の場合も同じである。

  ドイツも日本も海上における軍艦のプレゼンスを、国際政治の道具として利用する傾きにある。ソマリア沖海賊対策への自衛艦の参加問題も、実際の海賊対策というよりも、こうした国際的な活動への参加に重点があるようである。

  「対テロ戦争」(OEF)との関係も曖昧である。ソマリア海賊は、アルカイーダとの関係は不明である。にもかかわらず、OEFに参加しているタスク・フォース150も海賊対策に参加するなど、海賊対策という目的との関係で疑問が多い。さらに、米軍では、海上での海賊対処のほかに、海賊の地上基地を攻撃するという主張も出ているようである。ここまでくると、もはや海賊対策に名を借りた「対テロ戦争」の戦線拡大にほかならない。オバマ政権がイラク撤退の一方で、「対テロ戦争」の強化をはかる可能性があるなか、この動きは軽視できない。

  そもそも、海上交通路を確保するため、海賊対策に日本も参加するという議論だけでことを進めるのは一面的ではないか。この海域でなぜ海賊が出てくるのか、もっと背景を考える必要がある。この点で、チュービンゲン軍事化情報センターのClaudia Haydt の議論は興味深い。彼女がいうように、ソマリアの海賊問題には、以下のような構造的問題があることに注意すべきである。以下、その議論をまとめてみよう(Claudia Haydt, a. a. O.)。


  1991年にソマリア中央政府が崩壊して以来、ソマリア沿岸警備隊は消滅した。ヨーロッパの漁獲船団は、沿岸警備隊なきソマリアの海で、乱獲を行ってきた。2006年、国際環境保護団体グリーンピースは、ソマリアや他の地域での違法操業により、世界で最も貧しい人々に、年間数十億ドル単位の喪失が生じている問題を注目させようとした。夜、ソマリアの海は、たくさんの漁船団の灯火によって「マンハッタンの夜景のように見える」とは、ソマリアの漁業専門家の言葉である。これらの船団の国旗は、EU諸国と米国、日本のものだ。こうした形で魚の略奪と環境破壊が行われたことを、グリーンピースは海賊行為と呼んだ。そして、EUに対して明確な経済的・法的措置をとるよう求めたが、今日までほとんど行われなかった。このような状況のもとでEUが海賊対処のための艦艇を派遣すれば、結果的に、違法な漁獲船団は利益を得ることになる。

  違法操業と並んで「アフリカの角」海域の安全を脅かすのは、違法な廃棄物処理である。国連のソマリア特別大使は、08年6 月に、化学物質や放射能廃棄物まで捨てられていると述べた。また、国連環境プログラム(UNEP)のスポークスマンは、違法な廃棄物処理の経済的意義について語り、ヨーロッパでの廃棄物処理には1 トンあたり1000ドルかかるのに対して、「アフリカの角」に海洋投棄すればトンあたり2.5 ドルですむので、欧州企業にとっては大変安上がりであるとしている。

  ソマリアの海賊は海のプロで、漁師もいれば、元沿岸警備隊員もいる。90年代からのこうした状況への怒りが、海賊という形であらわれた側面は無視できない。今も海賊の一部は、「ソマリア海軍」や「国民ボランティア沿岸警備隊」を名乗っている。乗っ取った舶の身代金の相場は上昇していて、2007年は船一隻あたり10万ユーロだったが、今年は100万ユーロの単位になっている。

  海賊は組織犯罪だが、国家的にアレンジされたものではなく、海賊は戦争をやっているわけではない。マフィア的な構造を破壊するためには、軍艦や哨戒機は役立たない。効果的な軍事的解決というものは存在しえない。短期的にも軍事介入は非常に金がかかる。「アフリカの角」海域を通る船をすべて効果的に保護しようとしたら、全世界のすべての軍隊を動員しても足りない。

  インド洋における平和プロセスは、政治的・経済的展望が海賊の危険を大規模に低下させうることを示している。ソマリアの政治的解決のためには、すべての政治勢力が関わらねばならない。先進国は、自国の船団の違法操業や海洋投棄を取り締まることで、海洋の安全に大いに貢献できる。武器輸出をストップすることも重要である。


  以上、Claudia Haydtの議論を言葉を補って紹介した。そこから見えてくるのは、ソマリア海賊の問題は、実は、「グローバル格差社会」の集中的表現ともいえる。海賊たちは、日本を含む先進国がそれまで乱獲してきた漁業資源の代金回収と、廃棄物投棄の迷惑料を暴力的な方法でやっているともいえる。海賊行為は犯罪である。ソマリアの海賊は取り締まられねばならない。しかし、それは各国が海軍艦艇を派遣してすむ問題ではない。この問題の解決のために、日本ができることはほかにある。

  すでに、ブラックウォーターなどの米国の民間軍事会社(PMC) がタンカーや輸送船などの警備を請け負いはじめた。海賊との見えざる「連携」で手を組めば、この海域で新しい「市場」が生まれる。この地域の構造的問題の広がりと奥行きはかなりのものである。

  というわけで、まずは「海賊対策に自衛艦派遣を」「そのための特措法の制定を」という議論に乗らないこと。まずここから、まともな思考は始まる。