2010年5月17日月曜日

【司法】 最高裁の人事統制のカラクリ

ヒラメ裁判官を生む人事統制のカラクリ
2010 年 5 月 17 日 魚住 昭
http://uonome.jp/read/940

先日、拙宅に分厚い資料が届いた。元大阪高裁判事の生田暉雄弁護士(香川県弁護士会所属)から送られてきたもので、こんな手紙が添えられていた。

「最高裁の人事統制がおかしな裁判、不当判決の原因で、怨嗟の的になっています。最高裁はこの統制で浮いた金をウラ金にしています。この不正義を正していただきたく、失礼を省みず、書面をお送りする次第です」
 裁判と縁のない読者には何のことだかさっぱり分からない話かもしれない。だが、司法を取材してきた私にとってこんなに嬉しい便りはない。同じ問題を追及する元裁判官がいたんだと躍り上がりたい気分になった。

 経歴を調べると、生田さんは一九七〇年に裁判官になり、九二年に退官。各地の教科書裁判などに関わりながら、最高裁の人事統制のカラクリを解き明かそうと孤軍奮闘してきたのだという。

 なぜ最高裁の人事統制に生田さんがこだわるかというと、そこに日本の司法を歪める根本原因があるからだ。例えば刑事裁判の有罪率99・9パーセントという数字を見ていただきたい。これは検察庁に起訴されたら、奇跡でも起きない限り有罪になることを意味している。

 裁判所は被告に有罪の烙印を押すベルトコンベア装置に成り下がっている。足利事件の菅家利和さんのように冤罪で人生を台無しにされた人や、死刑になった人は数知れないだろう。

 それも裁判官が真実を見ようとせず検察や最高裁の鼻息ばかりうかがっているからだ。
 裁判官は良心に基づいて行動できるよう憲法で手厚く身分を保証されている。その彼らがなぜヒラメ(上ばかり見る)裁判官になってしまうのか。

 生田さんは自らの経験をもとに、その原因は「月給(報酬)」と「転勤」をエサにした人事統制にあると断言する。

「裁判官の報酬は、ある時期から急上昇する者と、停滞したままの者に分かれ、65歳の定年までに『億』単位の差ができます。また『陽の当たる場所』にばかり転勤する者と『ドサ回り』の者とに分かれます。この二つの操作によって正義とは無縁の裁判がまかり通るのです」

 もう少し詳しく言うと、判事の報酬には1~8号の区分がある。8号から4号までは誰もがほぼ平等に昇給する。問題はその先だ。任官後20年を経たころに3号以上に上がっていく者と、4号のまま据え置かれる者とがふるい分けられる。

 4号で地方都市勤務者の年収は1382万円。1号で大都市勤務者は2164万円。その差は800万円近くで、これが10年以上続くと1億円の開きになり、退職時の報酬をもとに算定される退職金や恩給も加えたら莫大な差ができる。

 裁判官にとっては転勤も重大事だ。東京勤務のまま最高裁事務総局・最高裁調査官・司法研修所教官を歴任(三冠王と言われる)して1号に駆け上る者があるかと思えば、地方支部を転々として、子供の進学等のため単身赴任を余儀なくされる者もある。それもすべて最高裁の胸三寸で決まるから、ゴマスリ判決が横行するようになる。

 問題は、こうした裁判官の昇給や転勤を誰がどのような基準で決めるのか、一切明らかにされていないことだ。そのため疑心暗鬼が生まれ、裁判官は余計に保身に走ることになる。

 そのうえで生田さんはさらに重大な指摘をする。

「裁判官を4号から3号に昇給させるための予算配布を受けながら、一部の昇給を遅らせると予算が余る。たぶんそれは年間数億円の裏金になり、学者連中が最高裁批判をしないようにするための工作費になっている」
 この推測は的を射ていると思う。最高裁は日本の伏魔殿である。生田さんの情報開示請求の成果で、その扉が少しずつ開かれようとしている。

 私も微力ながら生田さんのお手伝いがしたい。情報をお持ちの読者がおられたら、是非ご連絡を!(了)
(これは週刊現代5月22日号『ジャーナリストの目』の再録です。一部修正してあります) 

(追記)池田弁護士からの手紙
▼バックナンバー 一覧2010 年 6 月 25 日 魚の目編集部
初めてお目にかかります。弁護士の池田眞規(まさのり)です。
 
「ジャーナリストの目」第21回「日本の伏魔殿最高裁判所人事のカラクリ」を拝読し、早速ご連絡したいと思いながら、遅れてしまって申し訳ありません。

実は、同様な事実を知って、日本の司法の堕落と言いましょうか、後進性と言いましょうか、最高裁の人事権を利用した実に巧妙な全国の裁判官の思想的独裁支配体制に危惧している者として、賛同する趣旨でご連絡を致します。

私が担当した憲法9条関係の自衛隊違憲訴訟である百里基地訴訟、長沼ナイキ基地訴訟、90億ドル戦費支出違憲訴訟などの明らかな憲法違反事件において,長沼ナイキ訴訟の第一審札幌地裁での福島判決を除いて、すべて敗訴し続けた苦い経験を持っています。

この信じられない露骨な許し難い下級審裁判所裁判官の支配体制、つまり憲法9条の適用を拒否する政治的な判決を人事権を利用して強要する支配体制の根本原因を確認出たのは、1980年代にギリシャを訪問し、裁判官を紹介してもらった場所が裁判所内の「裁判官組合」の事務所だったのです。
 
日本の司法の実情からは想像も出来ない裁判官組合とは、私にとって衝撃的でした。私が「裁判官組合の目的は何か」と尋ねたところ、その返事は「司法の独立を守るためだ。

司法の独立は裁判官個人では守れないのだ」と平然と答えられたのには驚きました。彼らに日本の実情を紹介すると「信じられない」という返事。「日本の裁判官は基本的人権はないのか」と不思議そうに尋ねられる始末。

「自分の基本的人権も守れなくて、どうして国民の人権を守れるのか?」というのです。その後、私は、法律家の国際会議でフランス、ドイツ、オランダ、北欧三国の裁判官の実情を知る機会があり、そこで認識できたことは、これらのヨーロッパの主な国の裁判官は「裁判官組合」は常識なのでした。

フランスに至っては、左翼系、右翼系、中立系の3つの裁判官組合があるというのです。その左翼系裁判官組合の役員に最高裁の裁判官がいるのです。ギリシャでは、裁判官の9割は裁判官組合に属しており、「司法の独がを侵害された場合にはどうするか」という私の問いに「ストライキ以外の闘争手段がいろいろある。団体交渉や最近ではデモ行進などがある」というのです。

だから、最高裁が人事権を利用して、3年に一度の全国の裁判官の「人事異動を指示」する制度が固定化して、最高裁の意向に沿わない裁判官、典型的なケースは憲法9条違反の政府の行為に対し違憲判決を出すような裁判官(典型的な例は福島裁判官、伊達裁判官、安倍裁判官)は、容赦なく行政事件や刑事事件担当から外して「地方の家庭裁判所」(いわゆる「ドサ回り」)に配転するという懲罰人事を強行する。

他の裁判官への「見せしめ」なのです。裁判官にとっての最大の関心事は「自分の人事そのもの」です。話せば切りがありません。私は折にふれては在野の法曹に呼び掛けていますが、余り効果はありません。

現在の最高裁の強力な支配体制を崩すには国民的な支持がない限り、困難という現実があります。日本の司法の現状は後進国並みのレベルの低さであることに認識をどう克服するか、という問題であります。魚住さんの問題提起は非常に重要です。日本の司法の堕落は人権救済の貧困に直結しています。
 
 魚住さんの「ジャーナリストの目」でようやく、マスコミに登場してこれたことに感謝します。
私の自己紹介は、インターネットで検索してください。年齢81歳、憲法9条裁判を主に担当、反核法律家協会、国際法律家協会、民主法律家協会、原爆症認定集団訴訟弁護団など。実務はそろそろ引退です。

2010年5月14日金曜日

【沖縄基地問題】 普天間移設〜朝まで徹底生激論

http://www.qab.co.jp/asanama/

出演者 三上智恵 謝花尚(QABキャスター)パネリスト 阿部とも子(社民党政策審議会長) 伊波洋一(宜野湾市長) 大田昌秀(元沖縄県知事) 岡留安則(元噂の真相編集長) 川村晃司(テレビ朝日コメンテーター) 佐藤学(沖縄国際大学教授) 田岡俊次(軍事ジャーナリスト) 玉城デニー(県選出衆議院議員 民主党) 橋本晃和(桜美林大学大学院 客員教授) 森本敏(拓殖大学大学院教授) 山崎拓(自民党前衆議院議員)※(五十音順) 

番組開始より終了までを5〜6クリップに分割して配信いたします。順次番組の進行に合わせて部分ごとに掲載して参ります(番組の進行とはタイムラグがあります)。またアクセスが集中した場合ご覧頂けない場合もございます。あらかじめご了承下さい。

■ ダイジェスト版(05/17 ステーションQ)
□ 自己紹介 /「ズバリ!普天間問題をこう解決する」
□ テーマ1「抑止力とは,海兵隊とは…」
□ テーマ2「アメリカ軍再編・グアム移転の誤解」
□ テーマ3「沖縄この14年を振り返る」
□ テーマ4「鳩山総理語録を一気に!」
□ テーマ5「マスコミの役割とは… ヘリ墜落事故」
□ テーマ6「アメリカの世界戦略と日本の国防」
□ ギャラリー質問タイム
□ 普天間基地移設の解決は・・・


2010年5月6日木曜日

【地検特捜部】 陸山会(石川議員)

“粉飾捜査”

ホリエモンこと堀江貴文さん(元ライブドアCEO)は、特異な才能の持ち主である。複雑な事象の本質を的確に捉え、それを誰にも分かるよう噛み砕いて表現する力を持っている。

昨年春、六本木ヒルズでその堀江さんに会ったら、彼はいきなりこう言った。

「検察が捜査から起訴・裁判・刑の執行まですべての権限を持っている制度を変えなきゃいけない。そうして特捜部をなくすべきですよ。そう思いませんか?」

「ウーン。それは……」

私は答えに詰まった。特捜検察システムの解体なんて考えてみたこともなかったからだ。

しかし、言われてみれば、日本の検察ほど強大な権限を持つ国家機関は世界でも例がない。検察本来の役割は警察の捜査をチェックして裁判にかけることだが、日本の特捜部は独自捜査して、外部のチェックも受けずに起訴している。これではサッカーの審判がプレーヤーを兼ねるようなものだ。オフサイドもファウルも何でもありの一方的なゲームになってしまう。

その典型がライブドア事件だろう。堀江さんが証券取引法違反の罪に問われた粉飾決算は、仮に検察の主張通りとしても、会社の資産総額をごまかして株主を欺いたわけではない。儲けた金を「資本」でなく「売り上げ」の部に計上したという会計処理上の技術的な問題にすぎない。それをあたかも悪質な犯罪のように特捜部が“粉飾”したのである。

昨年三月の西松建設の献金事件もそうだった。従来の検察には政治資金規正法違反で強制捜査するのは「一億円以上の裏献金」に限るという暗黙のハードルがあった。ところが、小沢一郎・民主党代表(当時、現幹事長)の大久保隆規・公設秘書の逮捕容疑は政治資金収支報告書にちゃんと記載された「表献金」で、額も二千百万円にすぎなかった。

近年の特捜部は法律を拡大解釈して立件のハードルを下げる“粉飾捜査”を繰り返してきた。私はそれを捜査能力やモラルの低下が原因と考え、特捜の再建は可能だと見ていたのだが、甘かったようだ。

今年一月、特捜部は小沢幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入事件で小沢氏を被疑者として事情聴取しながら起訴できなかった。

=====================================================

大阪地検特捜部も郵便不正を巡る虚偽公文書作成事件で厚生労働省の村木厚子元局長を起訴したが、一月から始まった公判では呆れるほどズサンな捜査の実態が明るみに出た。

東でも西でも特捜部は醜態をさらした。これは尋常な事態ではない。私は自分の認識不足を恥じるようになった。堀江さんが言うように、特捜検察システムそのものを見直さなければ犠牲者は増えていくばかりだろう。

西松建設の裏金疑惑では〇八年二月、事情聴取を受けていた長野県知事側近が縊死した。ライブドア事件でも関連会社の副社長が自殺した。ここ二十年間、特捜事件絡みで自殺した人は二十数人に上る。

同じ悲劇を繰り返させぬためにも特捜検察システムをどう変えたらいいのか。その答えを見出すのがこのレポートの狙いである。まずは初めて公表される石川知裕衆院議員の「獄中日記」を手がかりに陸山会事件の深層を掘り起こしてみよう。それを足がかりに冤罪の構造を明らかにしていけば、自ずから答えは浮かび上がってくるだろう。

監視システム

私が、作家の佐藤優さんの紹介で石川議員に会ったのは昨年十一月。新聞が三重県のゼネコン・水谷建設から小沢氏側へのヤミ献金疑惑を報じた直後のことだった。

報道によれば、水谷建設の水谷功・元会長(脱税の罪で服役中)らが〇四年十月と〇五年四月の二回にわたり計一億円を小沢氏側に渡したと、特捜部に供述したという。石川議員は〇四年当時、小沢事務所で小沢氏の秘書として献金の事務処理を担当していたから疑惑のど真ん中にいた。私はこう訊いた。

―水谷元会長らは石川さんと大久保さんに五千万円ずつ渡したと供述しているそうです。心当たりはありますか。

石川 まったくありません。なぜ、あんな記事が出るのか驚きです。私はその水谷元会長と会ったことすらないんです。新聞記事を見て、念のため名刺入れを調べてみたんですが、水谷建設の別の元幹部の名刺がありました。でも、その元幹部とどこで会ったのか記憶がありません。懇親会や新年会で大勢の人と名刺交換しますから、そのうちの一人だったんでしょう。

―あなたがもらっていなくとも、大久保さんがもらった可能性はないですか?

石川 ないです。小沢事務所では献金の窓口になる秘書と、口座を管理する秘書が分けられ、悪いことをしないよう互いに監視し合うシステムになっている。当時、私が口座を管理していましたが、そんな入金はありませんでした。

佐藤優さんを交えての石川議員とのやりとりは計二回、約四時間に及んだ。私は彼のプライバシーにも踏み込んだ。不都合なことを隠す人間かどうかを見極めたかったからだ。しかし彼は率直に内情を語った。

やがて私は彼の人間性に信頼感を抱いた。彼がきっぱり否定するヤミ献金は幻だ、少なくも彼が五千万円を受け取った事実はないだろう。

とすれば、水谷元会長側の証言に問題があることになる。服役囚は仮出所の誘惑に駆られて検察に迎合しがちだが、彼には佐藤栄佐久・前福島県知事の汚職事件での“前科”もある。

前知事は親族会社の土地を水谷建設が時価より一億七千万円高く買ったのが賄賂にあたるとして起訴された。その有力根拠となったのが元会長の供述だったが、一審で賄賂額は七千万円に減らされ、二審では「ゼロ」と認定された。実質的な無罪判決である。二審では元会長が「自分の脱税事件で実刑を回避しようと検察の言うままに供述をした」と前知事の弁護人に告白していたことが明らかになった。

アトリウムラウンジ

水谷献金疑惑に関する私の心証は後に確信に変わる。石川議員が五千万円を受け取ったとされる場所が六本木の全日空ホテルの喫茶店アトリウムラウンジと分かったからだ。

アトリウムラウンジには東京中のマスコミや政界関係者が頻繁に出入りする。そのうえロビーやエスカレーターの上からも内部が見渡せる、広々としたオープンスペースだ。日本で最も人目につきやすい場所だと言っても過言ではない。わざわざそんなところで五千万円もの後ろ暗いカネを受け渡す馬鹿はいない。もし全日空ホテルでなければならぬ事情があったとしたら、個室で渡すのが人間の心理というものだろう。

だが、小沢立件を目指す特捜部に常識は通用しない。昨年末、特捜部は石川議員の聴取を始めた。容疑は、〇四年十月に陸山会が世田谷区の土地を約三億四千万円で購入したのに、その支出を〇四年分の政治資金収支報告書に記載しなかったという政治資金規正法違反だった。

この容疑はある種のトリックだ。〇五年分の収支報告書には土地購入の事実が記載されていて、しかも土地の登記は〇五年一月に行われている。登記をもって売買行為の完了とみなすなら、収支報告書の記載は間違っていないことになる。特捜部は単に代金支払いと登記の間の三ヵ月のズレに言いがかりをつけているだけだ。

特捜部の真の狙いは水谷建設からのヤミ献金を立件することだ。その入り口として土地購入と登記のズレが利用されたにすぎない。それを理解していただくため、捜査で判明した土地購入前後の経緯を簡単に説明しておこう。

〇四年九月、秘書寮を建設するための用地取得の話し合いが小沢氏と大久保秘書の間で進められた。大久保秘書から資金繰りの相談を受けた石川氏は「政治資金をかき集めれば何とかなりますが、運転資金が足りなくなるので小沢先生から借りましょう」と答えた。小沢氏に相談すると「ちゃんと返せよ」と言われ、石川氏は小沢氏の個人事務所で四億円を受け取った。

石川氏はそのカネを①陸山会などの関係口座に五千万円、三千万円などに分散して入金したうえで十月二十九日、土地代金として三億四千万円を一括して支払った。②同時期に石川氏は関連政治団体の口座から計四億円を集めて定期預金し、この預金を担保に四億円を借り出した。

巨額の資金が動いているので怪しげに見えるが、石川氏が分散入金した①のカネがすべて小沢氏の個人資産なら、単に陸山会の運転資金が不足せぬよう土地代金を小沢氏に立て替え払いしてもらったにすぎない(実際、四億円は〇七年に小沢氏に返済された)。②のように預金を担保に運転資金を借り出すのは企業では日常的に行われていることだ。何の不思議もない。

政治資金規正法は、政治活動の資金がどんな団体や企業・個人から集められ、どう使われたのかをオープンにする法律だ。一年間の収入と支出が収支報告書にきちんと記載されていればよく、政治家本人が一時的に立て替えたカネや口座の入出金を逐一報告する必要はない。

それでも特捜部が固執するのは・の分散入金された四億円に水谷建設のヤミ献金五千万円が含まれていると見立てているからだ。水谷建設は〇四年秋に胆沢ダム(岩手県)建設工事を下請受注している。五千万円はその謝礼(事実上の賄賂)だったことになり、小沢立件の大義名分を得られる。裏返せば、水谷献金がなければ、この事件の犯罪性は雲散霧消するということだ。

人権派とヤメ検

年明けの一月十三日、特捜部は陸山会事務所などを家宅捜索し、石川議員の二回目の聴取に踏み切った。検事は「明日の調べで故意に虚偽記載したことを認めないと、君が逮捕される可能性は五分五分だ」と石川議員に揺さぶりをかけ、翌日も八時間にわたって聴取した。石川議員は頭が朦朧として時間の感覚もなくなり、「もう政治家をやめてもいい」と口走ったという。

十五日夜から十六日にかけ、石川議員と大久保・池田光智の両秘書に対する逮捕状が執行された。この夜の模様は石川議員が拘置所で大学ノートに綴っているので、それを紹介しよう。以下、引用の( )内は筆者の補足とする。

pm7・00頃に南(裕史)弁護士(小沢事務所側の弁護士)と帝国ホテル3016で落ち合った際に、木村主任検事がどうしても連絡がほしいとのことであったので電話をしてみたところ、どうしても今日会って話を聞きたいとのことだったので逮捕かと考える。昨日まで南弁護士は、どうにかまとめる事が出来そうな話をしていたが、私としては13日の強制捜査の後なので、もう甘い考えは捨てなければと思っていたので覚悟を決めていた。

田代検事がホテルロビーまで迎えに来た。ワゴンに乗車して東京地検9Fへ。そこで受けた取り調べは、水谷建設からの5000万円の受け取りについてのみ確認された。その後、逮捕。弁解録取書にサインした後に、安田(好弘)弁護士と岩井(信)弁護士が接見に来たが、戸惑う。

ここに登場する安田、岩井両氏は佐藤優さんらの要請で石川議員についた人権派の弁護士である。小沢事務所からはヤメ検の木下貴司弁護士らがついた。同じ弁護士でも人権派とヤメ検は水と油の関係だ。これから石川議員は弁護方針の異なる弁護団の板挟みになりながら検事と渡り合うという希有な体験をすることになる。

逮捕翌日の一月十六日、石川議員は勾留尋問のため東京地裁に護送された。

前日の逮捕の時は手じょうをかけられたものの片方を長岡検察事務官、片方が自分にかけられたので両手にかけられた訳ではなかった。しかしこの時は両手にかけられ、腰ヒモまでまわされたので自分が本物の犯罪者なんだと自覚する。

小沢一郎の呪縛

田代検事の本格的な取り調べは逮捕三日目の一月十七日から始まった。石川議員のノートを見ると、彼が徹底抗戦論の安田弁護士らと、特捜部との妥協点を探る小沢事務所側弁護団の間で揺れ動いているのが分かる。

(十九日)午後は野口先生(小沢事務所側)13:00、岩井先生が16:00からそれぞれ接見であった。野口先生からは小沢先生サイドの意向として木下、野口、高木(勉)で弁護団を組みたいとの意向があったので岩井先生に伝えるが承諾得られず。安田先生や岩井先生は頼りになるが小沢先生サイドの意向は尊重しなければならない。(検事が)ゼネコン・サブコンからの裏金をしきりにほのめかしている。しかし全く身に覚えがない、何なのか?

(二十日)水谷建設の件。田代検事とかなり水谷のことで言い合う。アリバイを証明してこの件については断固戦うことを宣言する。

一月二十三日午後二時から小沢幹事長が都内のホテルで特捜部の事情聴取に応じた。聴取の焦点は四億円の原資と、収支報告書の虚偽記載への関与の有無だった。その日のノートに石川議員はこう記している。

(人権派の)安田先生の接見。小沢先生聴取の件について話す。最悪の事を考えて行動すべきとのこと。14:00からの説明が無事に終わる事を願う。

仮にここを出たらどんなことになるのかと思うと不安で一杯だ。政治家を続けられるのか?続けていくのはもう厳しいと承知しているが、その場合には何をしていくべきなのか?しかし応援をしてくれている十勝の有権者の期待を裏切ることになりはしないのか?様々な事が自分の胸に去来する。先日の木下先生の接見の際にはもう自由にして下さいと言った。現実逃避でしかないとわかっていてもそう願わざるを得ない。昼も夜も弁当であった。

疲れた
疲れた
疲れたなあ~~

(二十四日)午前中は取り調べがなかった。いつも刑務官の「チャリ、チャリ」という鍵の音がする度にまた来たのかとうんざりするが、来なければ来ないでなにかあったのかと心配になるものである。まあいつもは「ほれ出番だぞ」と言われて舞台へ上げられる猿回しの猿のような心境だが……夜の取り調べの冒頭に4億のことについて検事から小沢先生の対応について聞かされる。全くわからないとのことだという。検事から佐久間(達哉・特捜)部長から石川への伝言だということで伝言を聞く。

特捜部長からのメッセージは「小沢一郎はあなたを守ってくれない」だった。小沢氏との紐帯を切り離し、石川議員から供述を引き出そうという作戦である。

(二十五日)ここのところの取り調べは、小沢一郎からの呪縛から逃れるべきだという田代検事の説得が一番きつい。自分の人生のうちの大半を小沢一郎とともに過ごしてきた。自分が小沢一郎と縁を絶つというのは自分の半生を否定するのに等しい。私は、小沢一郎に気に入られているとは、決して思っていないし、これからもそうだろう。小沢先生は非情な人だということもよくわかっているので、小沢一郎に切られたとか、捨てられたと言われても何にも思わない。ただし、十勝の有権者は、小沢一郎にではなく石川知裕に期待して投票したといわれるのがつらい。検事も痛いところをついてくるものだ。佐藤優さんからのFAXで田代さんの人間性にひきこまれるなというメッセージを安田先生から見せられたがその通りだと感じる。

夜の調べはきつかった。水谷での再逮捕もほのめかされる。特捜部長と副部長が来たそうだ。正念場だ。

逮捕から十日、特捜部側にも焦りの色が目立ち始める。小沢氏を立件するには最低限二つのポイントをクリアしなければならない。土地代金・約四億円のなかに水谷建設からのヤミ献金五千万円が含まれていたことと、収支報告書への虚偽記載が小沢氏の指示で行われたということだ。だが、石川議員は二つとも認めない。

特捜部は石川議員の周囲に圧力をかけた。標的になったのは石川事務所の女性秘書だ。彼女は三歳と五歳の子供を保育園に預けて働いているのだが、二十六日午後一時から東京地検に呼ばれ、延々十時間にわたり“監禁”された。「必ず戻ってくるから、保育園のお迎えだけは行かせてほしい」という懇願も無視された。

副部長の暗示

(二十六日)U(女性秘書)が呼ばれたと高木勉弁護士から告げられた。彼女に申し訳ない。急に疲れが出てきた。いったいどこまでやれば気がすむのだろう。
昨日から再逮捕が頭をよぎる。やはり検察としては徹底的にやってくる腹なのだろうか。
しかし、もらっていない水谷まで認めさせようというのは納得できない。
安田弁護士の接見。政治の道を続けることを強く言われる。しかしもうこの苦しみから逃れたい。

(二十七日)午後の呼び出しは早く、13:20だった。今日の午後はやけに早いなと思ったら(特捜部の)吉田(正喜)副部長が取り調べに来ていた。現場は混乱の極みだと、世論が納得する説明をしてもらいたいと言われた。水谷についても立証できると言われた。本当にとんでもないことだ。検察は事件を作ると言われているが本当だ。
夜も吉田副部長が18:40~20:20まで取調べ。コストをかけて行った政権交代をつぶしてもいいのかと言われる。帰り際には関西弁で凄まれた。

これ以後、取り調べの主役は吉田副部長に替わり、五千万円受領を認めるよう石川議員を執拗に責め立てた。「証拠は揺るがない。あなたは水谷建設から五千万円を預かったことを、忘れているだけだ。それを思い出せばいいんだ」。

特捜部の拠り所は〇四年十月十五日にアトリウムラウンジで五千万円を渡したという水谷建設側の怪しげな供述と、その直後に陸山会の口座に同額が入金されたという事実だけだ。この前後に石川議員は小沢幹事長から受け取った四億円を五千万円や三千万円などに分けて何回も入金しているから、特定の五千万円だけをヤミ献金だと決めつける証拠にはならない。

見込み捜査の失敗

しかし、身に覚えがないことでも否認を貫くのは容易ではない。石川議員の疲労は極限に達したらしく、ノートにも空白が目立つ。

(一月二十九日)何も書く気がおきない。

(一月三十一日)もう疲れた。副部長はなぜ信じ込んでいるのかわからない。

(二月一日)今日も吉田副部長の登場だ。とにかくせっかくコストをかけて作った政権をつぶしてもいいのかと。小沢事務所が何千万円もゼネコンからもらったと思い込んでいる。何を言っても無理だ。

最後の一週間の苛烈な調べに石川議員が耐えられたのは、毎朝の接見で安田弁護士が見せてくれた十勝の有権者や鈴木宗男衆院議員、佐藤優さんからのファックスに励まされたからだったという。

(二月四日)地獄の20日間がようやく今日で終わる。しかしこれからはもっと地獄なのかもしれない。長い長い20日間であった。昨年の中川(昭一)先生のローマでの会見、西松事件、中川先生の死、そして今回の事件と本当に何が起きるかわからない一年であった。大きな流れの中で生かされているのか。殺されているのか。

二月四日、特捜部は石川議員と大久保秘書を政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で起訴、小沢氏は嫌疑不十分で不起訴とした。小沢氏不起訴の理由を「収支報告書の虚偽記載を具体的に指示した証拠が得られなかった」と説明したが、真の理由は水谷建設のヤミ献金を立証できなかったからだ。

典型的な見込み捜査の失敗である。証拠をきちんと検証し、石川議員の釈明に耳を傾けていれば、幻のヤミ献金話に振り回されずに済んだはずだ。だが、特捜部は証拠不足を石川議員の自白で埋めようとした。なぜ、彼らはそうまでして小沢立件に拘ったのだろうか。その理由を知るには法務省・検察庁の歴史を振り返らなければならない。

2010年4月28日水曜日

【米軍基地】 日米地位協定第三条

 日米間での密約に鈍感になりだしたように思えてしまう。核再持込はじめとし過去の密約を「現在は生きていない」とする外務省の根拠しのものを疑ってみる必要があるのなら、一度すべてを公にして其処から再構築をするしか方法はないだろう。


基地管理権で密約 米軍権限弱めた60年地位協定
2010年4月28日

 【東京】日米地位協定3条の米軍基地の管理権をめぐり、1960年に旧協定(行政協定)から現協定に変わった際、基地運用のあり方について「(米側が)権利、権力、権能を有する」とした文言を「すべての措置を執ることができる」にあらため、米側の権限を弱めるように表現を緩和したが、実際は旧協定で定めた権限を変えずに引き継ぐことで日米が秘密裏に合意していたことが27日、分かった。

 60年1月6日に藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使が署名した秘密了解文書に記されていた。文書は、日米関係研究者の新原昭治氏が2008年に米国立公文書館で入手した。新原氏は「米軍特権の中身を変えずに継承され、基地運用に日本が及ばない根源的なよりどころとなっている」と指摘。嘉手納基地の深夜・早朝の米軍機飛行など「米側が思い通りに使える背景にある」とした。

 旧協定は、米側の権限の例示として(1)施設・区域を浚渫(しゅんせつ)や埋め立てする(2)必要な港湾、水路、道路、橋などを造る(3)施設・区域内や近くの水上、空間、地上で軍事上必要とされる船舶、航空機、車両の離着陸・操作を管理する―などとされた。

 1960年6月、米国務省が米議会に説明した資料では「米国の権利は、現協定の文言のもとで旧協定(の内容)と変わることなく続く」と明記。新原氏は「例示された以外にも管理権の範囲は無限に広がる。米軍の自由使用を秘密合意は保障している」と指摘した。


しんぶん赤旗から
米軍基地権でも密約

新原氏暴露 旧安保の特権温存

 1952年発効の旧日米安保条約下で米軍に基地の使用や運営などのために必要なあらゆる「権利、権力、権能」が与えられていた問題で、現行の安保条約のもとでもそうした米軍の基地特権が引き続き堅持されることを日米両政府が秘密了解覚書を結び、確認していたことが、初めて分かりました。国際問題研究者の新原昭治氏が27日、日本平和委員会主催のシンポジウムで明らかにしました。

 旧安保条約に基づく行政協定3条1項は、米軍が基地内で「設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又は適当な権利、権力及び権能を有する」と規定していました。しかし、行政協定は60年の安保改定に伴って日米地位協定に代わり、同条も基地内で米軍は「設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる」という規定になり、「権利、権力、権能」という文言が消えました。

 ところが、新原氏が入手した米政府解禁文書によると、「日本政府は、(地位協定)3条1項の新しい文言のもとで施設及び区域内の米国の権利を変更しないままにすることを文書で確認」することで合意。60年1月6日に当時の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使が、「米軍の施設・区域内での米国の権利は、地位協定3条1項の改定された文言のもとで、行政協定のもとでと変わらなく続く」とする秘密了解覚書に頭文字署名をしました。

 当時、日本政府は行政協定の改定などをもって日本の自主的権限があたかも強まったかのように説明しました。しかし、協定の文言の手直しが行われたにもかかわらず、米軍基地の治外法権的な実態は旧安保条約下とまったく変わりませんでした。

 新原氏が明らかにした密約は、その根本原因を明らかにし、米軍基地問題での日本政府のアメリカ言いなりの実態を示すものです。


=====================================================

日米地位協定

前文
日本国及びアメリカ合衆国は、千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条の規定に従い、次に掲げる条項によりこの協定を締結した。


第三条
1 合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なす
べての措置を執ることができる。日本国政府は、施設及び区域の支持、警護及び管理のための合
衆国軍隊の施設及び区域への出入の便を図るため、合衆国軍隊の要請があつたときは、合同委員
会を通ずる両政府間の協議の上で、それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地、領
水及び空間において、関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。合衆国も、また、合同
委員会を通ずる両政府間の協議の上で前記の目的のため必要な措置を執ることができる。

2 合衆国は、1に定める措置を、日本国の領域への、領域からの又は領域内の航海、航空、通
信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によつては執らないことに同意する。合衆国が使用
する電波放射の装置が用いる周波数、電力及びこれらに類する事項に関するすべての問題は、両
政府の当局間の取極により解決しなければならない。日本国政府は、合衆国軍隊が必要とする電
気通信用電子装置に対する妨害を防止し又は除去するためのすべての合理的な措置を関係法令の
範囲内で執るものとする。

3 合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払つて
行なわなければならない。

第三条に関する合意議事録

=====================================================

【給油活動】 The Voice of Russia(ジブチ基地)

 このニュースが流れた時に、自民党の佐藤正久議員の問うてみた。氏からは、すぐに返事がきて、多少ニュアンスは違うのだが、おおむね事実と相違ないという話である。

このことは、国会でも取り上げられ、審議をされていたのであるが、見逃していた懸案であった。

=====================================================

ジブチに建設される海上自衛隊基地をめぐって
2010, 04, 28.19:41
http://japanese.ruvr.ru/2010/04/28/7048749.html

 ソマリア沖の海賊問題を受け、紅海沿岸のジブチ共和国で、日本の海上自衛隊基地建設が近日中に着工される。日本国外に建設される初の日本の、また史上初のアフリカ大陸の日本基地となる。

 北川敬三海上自衛官は現地で、今年の初夏には基地建設が開始し、その約半年後に終了すると述べた。APF通信が伝えた。日本にとって、このような海上自衛隊基地建設は前代未聞。日本は第二次世界大戦後に憲法を採択してから、国際問題解決の手段として武力を行使することを永遠に放棄すると宣言している。これに関連して2009年、日本政府は、日本の駆逐艦2隻をソマリア沖での海賊対策に参加させるため、新たな法律を採択した。その後1年が経過したが、その間ソマリア沖での事態は悪化する一方だ。日本の船舶の所有者は警鐘を鳴らしている。日本は危険地域からほぼすべての原油を入手しており、日本向け輸出に最重要な航路のひとつがこの地域を通っているため、航路の変更は不可能である。結論として、日本は自国の船舶を護衛するため、第二次世界大戦後初の海外での海上自衛隊基地を創設するという、少し前には考えもつかなかった行動に出る用意を進めている。問題となっているのは日本の軍事ドクトリン全体の見直しだが、なぜソマリア沖の海賊が、日本という遠い国の法律を変えてしまうほど影響力をもつのだろうか。

 モスクワ東洋学研究基金のセルゲイ・ルジャニン教授は、海賊による脅威は実際に深刻なものだが、実際より誇張として、次のように語った―

「肝心なのは、西側主要先進国が当初、報道も軍の諜報機関も、海賊行為とは、貧困にあえぐ人々が生活の糧を手にするため犯罪に及んだものだとする、間違った解釈をしていたことにある。しかし実際はそうではない。この海賊行為が、自前の教育・訓練養成システム、諜報機関や最新の通信機器、巨大な資本を有した、強力な国際機構であることに、いまや疑いの余地はない。またこの国際機構は、過去にいずれかの国で諜報機関に関係していた専門家を利用していると考えるに十分な根拠がある。これは新たな形の国際テロリズムであり、政治に大きな影響を与える。また海賊の正体を正しく評価できないこと等により、戦いは非常に困難なものとなる」

  実際、この西側諸国の基地が密集する地域の目と鼻の先で、いかにしてソマリア沖の海賊がすばやく略奪を成功させているのか、理解に苦しむところだ。ジブチには最大規模のフランス在外海軍基地があり、また2003年にはそれを上回る規模のアメリカ海軍基地が建設された。日本はこの地で第3の海上自衛隊基地を建設することになる。すでに明らかなように、この地のアメリカやフランスの基地には海賊への抑止力はない。アメリカやNATO軍のなしえなかったことに日本が成功し、この地域の海賊行為に決定的な打撃を与えることができればいいが、その望みは薄いだろう。実際のところ、西側諸国の基地や強力な装備にもかかわらず、海賊は常に活動を続けている。今のところ、海賊らは一歩先を行っている。そしてこの問題は、この海域全体が西側列強のまさに軍事的利益ゾーンと今にも宣言されるような規模に発展しそうな雰囲気だ。

 ちなみにこの地域の歴史には、そうしたことがかつてあった。面白いことに当時も、まさに海賊対策がその口実とされたのである。

======================================================

海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律
平成二十一年六月二十四日法律第五十五号

本則

(目的)
第一条
この法律は、海に囲まれ、かつ、主要な資源の大部分を輸入に依存するなど外国貿易の重要度が高い我が国の経済社会及び国民生活にとって、海上輸送の用に供する船舶その他の海上を航行する船舶の航行の安全の確保が極めて重要であること、並びに海洋法に関する国際連合条約においてすべての国が最大限に可能な範囲で公海等における海賊行為の抑止に協力するとされていることにかんがみ、海賊行為の処罰について規定するとともに、我が国が海賊行為に適切かつ効果的に対処するために必要な事項を定め、もって海上における公共の安全と秩序の維持を図ることを目的とする。
(定義)
第二条
この法律において「海賊行為」とは、船舶(軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶を除く。)に乗り組み又は乗船した者が、私的目的で、公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)又は我が国の領海若しくは内水において行う次の各号のいずれかの行為をいう。
一  暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の他の船舶を強取し、又はほしいままにその運航を支配する行為
二  暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、航行中の他の船舶内にある財物を強取し、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させる行為
三  第三者に対して財物の交付その他義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求するための人質にする目的で、航行中の他の船舶内にある者を略取する行為
四  強取され若しくはほしいままにその運航が支配された航行中の他の船舶内にある者又は航行中の他の船舶内において略取された者を人質にして、第三者に対し、財物の交付その他義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求する行為
五  前各号のいずれかに係る海賊行為をする目的で、航行中の他の船舶に侵入し、又はこれを損壊する行為
六  第一号から第四号までのいずれかに係る海賊行為をする目的で、船舶を航行させて、航行中の他の船舶に著しく接近し、若しくはつきまとい、又はその進行を妨げる行為
七  第一号から第四号までのいずれかに係る海賊行為をする目的で、凶器を準備して船舶を航行させる行為
(海賊行為に関する罪)
第三条
前条第一号から第四号までのいずれかに係る海賊行為をした者は、無期又は五年以上の懲役に処する。
前項の罪(前条第四号に係る海賊行為に係るものを除く。)の未遂は、罰する。
前条第五号又は第六号に係る海賊行為をした者は、五年以下の懲役に処する。
前条第七号に係る海賊行為をした者は、三年以下の懲役に処する。ただし、第一項又は前項の罪の実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
第四条
前条第一項又は第二項の罪を犯した者が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
前項の罪の未遂は、罰する。
(海上保安庁による海賊行為への対処)
第五条
海賊行為への対処は、この法律、海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)その他の法令の定めるところにより、海上保安庁がこれに必要な措置を実施するものとする。
前項の規定は、海上保安庁法第五条第十七号に規定する警察行政庁が関係法令の規定により海賊行為への対処に必要な措置を実施する権限を妨げるものと解してはならない。
第六条
海上保安官又は海上保安官補は、海上保安庁法第二十条第一項において準用する警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第七条の規定により武器を使用する場合のほか、現に行われている第三条第三項の罪に当たる海賊行為(第二条第六号に係るものに限る。)の制止に当たり、当該海賊行為を行っている者が、他の制止の措置に従わず、なお船舶を航行させて当該海賊行為を継続しようとする場合において、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。
(海賊対処行動)
第七条
防衛大臣は、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において海賊行為に対処するため必要な行動をとることを命ずることができる。この場合においては、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十二条の規定は、適用しない。
防衛大臣は、前項の承認を受けようとするときは、関係行政機関の長と協議して、次に掲げる事項について定めた対処要項を作成し、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、現に行われている海賊行為に対処するために急を要するときは、必要となる行動の概要を内閣総理大臣に通知すれば足りる。
一  前項の行動(以下「海賊対処行動」という。)の必要性
二  海賊対処行動を行う海上の区域
三  海賊対処行動を命ずる自衛隊の部隊の規模及び構成並びに装備並びに期間
四  その他海賊対処行動に関する重要事項
内閣総理大臣は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項を、遅滞なく、国会に報告しなければならない。
一  第一項の承認をしたとき その旨及び前項各号に掲げる事項
二  海賊対処行動が終了したとき その結果
(海賊対処行動時の自衛隊の権限)
第八条
海上保安庁法第十六条、第十七条第一項及び第十八条の規定は、海賊対処行動を命ぜられた海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について準用する。
警察官職務執行法第七条の規定及び第六条の規定は、海賊対処行動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同条中「海上保安庁法第二十条第一項」とあるのは、「第八条第二項」と読み替えるものとする。
自衛隊法第八十九条第二項の規定は、前項において準用する警察官職務執行法第七条及び同項において準用する第六条の規定により自衛官が武器を使用する場合について準用する。
(我が国の法令の適用)
第九条
第五条から前条までに定めるところによる海賊行為への対処に関する日本国外における我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為については、我が国の法令(罰則を含む。)を適用する。
(関係行政機関の協力)
第十条
関係行政機関の長は、第一条の目的を達成するため、海賊行為への対処に関し、海上保安庁長官及び防衛大臣に協力するものとする。
(国等の責務)
第十一条
国は、海賊行為による被害の防止を図るために必要となる情報の収集、整理、分析及び提供に努めなければならない。
海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二十三条の三第二項に規定する船舶運航事業者その他船舶の運航に関係する者は、海賊行為による被害の防止に自ら努めるとともに、海賊行為に係る情報を国に適切に提供するよう努めなければならない。
(国際約束の誠実な履行等)
第十二条
この法律の施行に当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束の誠実な履行を妨げることがないよう留意するとともに、確立された国際法規を遵守しなければならない。
(政令への委任)
第十三条
この法律に定めがあるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
[編集]附則

附則 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して三十日を経過した日から施行する。ただし、附則第六条の規定は、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成二十一年法律第   号)の施行の日又はこの法律の施行の日のいずれか遅い日から施行する。
(経過措置)
第二条
犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律の施行の日がこの法律の施行の日後である場合におけるこの法律の施行の日から犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律の施行の日の前日までの間における組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の規定の適用については、第三条第一項及び第四条の罪(第二条第四号に係る海賊行為に係るものに限る。)は同法第十三条第二項に規定する罪と、第三条第一項から第三項まで及び第四条の罪は同法別表に掲げる罪とみなす。
第三条
第三条第四項ただし書の規定は、この法律の施行後に自首した者がその施行前にした行為についても、適用する。
第四条
この法律の施行の際現に自衛隊法第八十二条の規定により行動を命ぜられている自衛隊の部隊の当該行動については、第七条第一項後段の規定は、適用しない。

2010年4月27日火曜日

【政治資金規正法】 起訴相当議決文書

 4月27日に出された小沢一郎氏に対する検察審査会の議決文であるが、感情を非常に強く出した議決文と思える。検察審査会の審査員は一般から選ばれるが、議決書の作成は一般の人間が作るわけではなく、審査補助員弁護士が作成をする。

審査補助員の弁護士米澤敏雄氏は、元刑事裁判官で東京弁護士会所属で最近弁護士に登録した模様。【弁護士登録番号 37337】


平成22年東京第五検察審査会審査事件(申立)第10号

申立書記載罪名 政治資金規正法違反
検察官裁定罪名 政治資金規正法違反
議 決 年‐月 日 平成22年4月27日
議決書作成年月日 平成22年4月27日
議決の要旨
審査申立人   (氏名) 甲
被疑者 (氏名)  小沢一郎こと 小 澤 ― 郎
不起訴処分をした検察官 東京地方検窯庁 検察官検事 木 村匡 良
議決書の作成を補助した審査補助員 弁 護 士 米 澤 敏 雄
上記被疑者に対する政治資金規正法違反被疑事件(東京地検平成22年検第1443号)につき,平成22年2月4日上記検察官がした不起訴処分(嫌疑不十分)の当否に関し,当検察審査会は,上記申立人の申立てにより審査を行い,検察官の意見も聴取した上次のとおり議決する。

議決の趣旨
本件不起訴処分は不当であり,起訴を相当とする。

議決の理由
第1 被疑事実の要旨
被疑者は,資金管理団体である陸山会の代表者であるが,真実は陸山会において平成16年10月に代金合計8億4264万円を支払い,東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに
1 陸山会会計責任者A(以下Aという。)及びその職務を補佐するB(以下Bといぅ。)と共謀の上、平成17年3月ころ,平成16年分の陸山会の収支報告書に,本件土地代金の支払いを支出として,本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま,総務大臣に提出した
2 A及びその職務を補佐するC(以下「C」という。)と共謀の上,平成1
8年3月ころ,平成17年分の陸山会の収支報告書に,本件土地代金分過大の4億1525万4243円を事務所費として支出した旨,資産として本件土地を平成17年1月7日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上総務大臣に提出した
ものである。
第2 検察審査会の判断
l 直接的証拠
(1)Bの平成16年分の収支報告書を提出する前に,被疑者に報告・相談等した旨の供述
(2)Cの平成17年分の収支報告書を提出する前に,被疑者に説明し,被疑者の了承を得ている旨の供述
2 被疑者は,いずれの年の収支報告書においても,その提出前に確認することなく:担当者において収入も支出も全て真実ありのまま記載していると信じて,了承していた旨の供述をしているが,きわめて不合理で不自然で信用できない。
3 本件事案について,被疑者が否認していても以下の情況証拠が認められる。
(1)被疑者からの4億円を原資として本件土地を購入した事実を隠蔽するため,銀行への融資申込書や約束手形に被疑者自らが署名,押印をし,陸山会の定期預金を担保に金利(年額約450万円)を支払つてまで銀行融資を受けている等の執拗な偽装工作をしている。
(2)土地代金を金額支払つているのに,本件土地の売主との間で不動薄引渡し完了確認書(平成16年10月29日完了)や平成17年度分の固定資産税を買主陸山会で負担するとの合意書を取り交わしてまで本基記を翌年にずらしている。
(3)上記の諸工作は,被疑者が多額の資金を有しておると周囲に疑われ,マスコミ等に騒がれないための手段と推測される。
(4)絶対権力者である被疑者に無断でA・B・Cらが本件のような資金の流れの隠蔽工作等をする必要も理由もない。
これらを総合すれば,被疑者とA・B・Cらとの共謀を認定することは可能である。
4 更に,共謀に関する諸判例に照らしても、絶大な指揮命令権限を有する被疑者の地位とA・B・Cらの立場や上記の情況証拠を総合考慮すれば,被疑者に共謀共同正犯が成立するとの認定が可能である。
5 政治資金規工法の趣旨・目的は,政治資金の流れを広く国民に公開し,その是非についての判断を国民に任せ,これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。
(1)「秘書に任せていた」と言えば,政治家本人の責任は問われなくて良いのか。
(2)近時,「政治とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり,市民目線からは許し難い。
6 上記1ないし5のような直接的証拠と情況証拠があつて,被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され,上記5の政治資金規政法の趣旨・目的・世情等に照らして,本件事案については被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。
よって,上記趣旨のとおり議決する。
             東京第五検察審査会

2010年4月17日土曜日

【月刊日本】 鈴木宗男

 北方4島返還のために、今何をしなければならないのか。鈴木氏に対する批判は昨年も行われていて、櫻井よしこ女史が無謀にもイチャモンをつけている。(参考

ムネオバッシングが行われた当時の北海道新聞のまとめ→(こちら

鈴木宗男氏を救う方法はないものなのか・・・・・。ここにも、また一人の被害者が間違いなくいる。


【月刊日本特別講演会 1鈴木宗男氏の到着まで「北方領土は時間との闘い】
【月刊日本特別講演会 2鈴木宗男 故小渕元総理と野中官房長官のやりとり】
【月刊日本特別講演会 3鈴木宗男 対ソ連と対ロシアでは対応法は変わる】
【月刊日本特別講演会 4鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 5鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 6鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 7鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 8鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 9鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 10鈴木宗男】
【月刊日本特別講演会 11/11鈴木宗男】


【単刀直言】鈴木宗男衆院外務委員長(新党大地代表) 「北方領土交渉で鳩山首相支える」
2009.9.23 17:56

 外務省による税金の無駄遣い、対露外交、核持ち込みや沖縄返還に関する日米密約問題を中心に、私はこれまで政府に対し1900本近くの質問主意書を出しました。外交官が「ちょうネクタイにフォークとナイフ」の世界に閉じこもり、国民の理解を得ようとしなければ、国益を背負った外交は成功しないとの思いからです。衆院外務委員長として、今後も立法府の立場から政府に説明責任を求めていくつもりです。

 自民、公明両党は18日、私が受託収賄罪などで公判中であることを理由に、委員長就任に反対したそうですが、私は無罪を主張し最高裁で争っているのだから、無罪推定の原則が働くはずです。しかも、2回も国民の審判を受けて衆院議員になっているので、私を選んでくださった国民の信任にこたえるためにも、委員長の職責をしっかり果たそうと思います。
 
領土交渉を動かす
 鳩山由紀夫首相からは「北方領土問題を動かしたいので協力してほしい」と言われています。外交は政府の専管事項ですから、立法府の側から、鳩山首相、岡田克也外相のラインをしっかりと支えていきたい。

 私の役割は環境整備です。まずは国会議員に領土問題をよく理解してもらわなければいけない。「四島一括返還」ということを平気でいう人がいるのですから驚きます。

 私が考える返還の道筋と、産経新聞の社説とは少し違うところがあるかもしれませんが、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の四島の日本への返還という原理原則は一致しています。ただ、「四島一括返還」は旧ソ連時代に使っていた表現で、この切り口からでは、ロシアは交渉に乗ってきません。

 旧ソ連崩壊後の1993(平成5)年、細川護煕(もりひろ)首相とエリツィン露大統領との間で「四島の帰属問題を解決する」ことで合意した東京宣言以来、森喜朗政権までは間違いなく交渉は進んでいました。しかし小泉純一郎首相から麻生太郎首相までの政権が過度な対米追従外交を行い、北方領土問題への勉強不足と相まって交渉は後退しました。外務委員会で専門家に意見を述べてもらうなどして、世論喚起や啓発に努めたいですね。
 
現実的返還論
 交渉を進めるには、2001(平成13)年に当時の森首相とプーチン露大統領が日ソ共同宣言の有効性を公式文書で確認した「イルクーツク声明」まで時計の針を戻す必要があります。歯舞、色丹返還を明記した1956年の日ソ共同宣言、東京宣言、イルクーツク声明の3つを担保に交渉すれば必ず解決できます。

 日本政府にとって大事なことは「四島」の旗を降ろさないことです。麻生政権下で「面積2等分論」「3.5島返還論」などという、足して2で割るような話が出てきましたが、バナナのたたき売りじゃないんだから、そんなのは駄目です。この点で産経新聞は実によく闘ったと思います。産経新聞が声を上げなければ、北方四島が日本から遠ざかってしまったかもしれません。

 日本に返ってくるにはどうしたらいいか考えつつ、外交交渉上は現実的なアプローチをとるべきです。日本側から四島返還の旗を降ろすから混乱が起きました。

 四島の帰属が未解決であることは東京宣言で日露両国首脳が確認しているのだから、まず2島を返してもらい、残り2島で日露両国が経済協力や共同統治をして交渉を続けるなど、いろいろなやり方ができます。「現実的返還論」でいくべきです。政府も「四島の帰属が確認されれば、実際の返還の時期、態様および条件は柔軟に対応する」としているのですから。

 私はかつて「二元外交」をしていると誤解を受けましたが、政府の方針通りやってきたんです。「二島返還だけでいい」なんて考えたことも言ったことも一度もありませんよ。

 鳩山首相は「領土問題は鈴木先生の考えでいい」と言ってくれています。身命を賭(と)して日ソ共同宣言に調印した鳩山一郎元首相の孫として、自分の手で領土問題を解決したいという首相の思いを実現するため、一生懸命に支援したいと考えています。(加納宏幸)
====================================================

【Russia Watch】領土交渉 水面下で「2島先行」論
2010.5.28 10:41
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100528/erp1005281043001-n1.htm

 かつて対ロシア「二元外交」を批判された新党大地の鈴木宗男代表(62)が5月10~13日、衆院外務委員長として訪露し、政界関係者らと北方領土問題などを協議した。一連のスキャンダルで逮捕・起訴されて以降、8年ぶりに対露外交の封印を解いた形だ。そこには以前の鈴木氏が主導した、いわゆる「2島先行返還」論がちらつく。

 ■「露の名誉が大切」
 「ソ連が日ソ中立条約を侵犯して日本を攻撃したという点だけを取り上げ、激しく非難する人々がいる」
 鈴木氏は露外交アカデミーで講演し、こうした立場を批判したうえで、「政治家の使命は現実的な交渉をし、結果を出すことだ」「領土交渉ではロシアの名誉と尊厳が守られることが大切だ」と強調した。

 さらに、鳩山政権が領土交渉の基礎と考える文書として、(1)平和条約締結後の歯舞(ほぼまい)、色丹(しこたん)両島の引き渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)、(2)択捉(えとろふ)、国後(くなしり)を含めた4島が係争地域であることを認め、「法と正義」の原則で交渉するとした東京宣言(93年)、(3)両宣言を明示的に確認したイルクーツク声明(2001年)-を挙げた。

 鈴木氏の戦術は、(3)のイルクーツク声明を含んだことに見てとれる。声明は「色丹、歯舞両島の返還にはロシアも同意している。焦点は残る2島だ」という日本側の意図を反映して策定されたからだ。これは「歯舞、色丹両島の返還時期や態様」と「残る2島の帰属問題」を合わせて協議する「2島先行返還」や「同時並行協議」論者が拠(よ)って立つ文書といえる。

 ■根強い平和条約不要論
 鈴木氏は自民党時代の2000年前後、外務省に強い影響力を持って「2島先行返還」路線を主導したものの、外務省内の反発や対露外交の混乱を招いた。その後、あっせん収賄罪などに問われ、1、2審で懲役2年の実刑判決を受けている。

 日露関係筋は「最高裁に上告中の鈴木氏には、対露外交で存在感を見せて実刑確定を避けたいとの焦りがある」と指摘する。鈴木氏は自らが失脚して以降の対露外交を「空白の10年」と批判しており、かつての持論をテコにして民主党政権の領土交渉に突破口を開きたい思惑があるとみられる。

 鈴木氏は滞在中、コンスタンチン・コサチョフ下院国際問題委員長(47)やアルカージー・ドボルコビッチ大統領補佐官(38)らと会談。ロシアの望む先端技術分野での経済協力にも積極的に取り組む考えを伝え、歓迎された。

 ロシアでは、鈴木氏にまつわる一連の事件が「大政治弾圧」(アレクサンドル・パノフ元駐日大使)とみられている。「4島返還」派に比べ、鈴木氏がロシアにとって組みやすい相手であるのは間違いない。

 ただ、ロシア側がやすやすと「2島先行返還」論に乗ることは考えにくく、鈴木氏の戦術が「2島返還」で終わる危うさをはらむのも事実だ。今のロシアには択捉、国後両島の帰属を議論するつもりが毛頭なく、エリート層には「平和条約がなくとも日本との経済関係は発展する」との考えが根強いからだ。

 ■「4島返還の放棄を」
 「日ソ共同宣言は平和条約の締結と2島の引き渡しで問題を終わらせると明記した文書であり、東京宣言とは全く両立しない」。露科学アカデミー日本研究センターのビクトル・パブリチェンコ上級研究員は「両国が批准し、外交条約の手続きを経た日ソ共同宣言と、意思表明のプロトコールにすぎない東京宣言やイルクーツク声明では重みが違う」とも語り、「2島先行返還論は失敗を運命づけられている」と断じる

 さらに、「議論に足る解決策は、日本が完全に『4島』の主張を放棄し、日ソ共同宣言に立ち返ることだけだ」と政権の立場を代弁する。

 日露間では年内に3度の首脳会談が予定され、日本外交筋は「領土交渉の活発化」を期待する。だが、セルゲイ・ラブロフ外相(60)が最近、「北方領土問題に関するいかなる対話も日本が第二次大戦の結果を認めることから始まる」と述べたように、ロシア側の態度はむしろ硬化しているのが現実だ。

 鈴木氏は滞在中、「鳩山首相に4島の旗を降ろす気持ちはない」と言明する一方、「現実的な外交」の必要性を訴えた。その目指す着地点は、まだ見えない。(モスクワ支局 遠藤良介/SANKEI EXPRESS)